忌まわしき隠れ鬼

    作者:六堂ぱるな

    ●もういいかい
     こちらへ手を振る女の足元で長い影が伸びる。
     窓から日暮れの近い通りを見下ろし、男は低く笑った。
    「また夜がくるねェ。今日は誰になるのかな?」
     日本人離れした浅黒い肌に彫の深い顔。けれど口をついて出るのは流暢な日本語だ。目にかかる黒髪を掻きあげて彼は振り返った。
     ホールに集められた人々がびくっと身体を震わせる。ちょっと吹き出した男はひらひらと手を振った。
    「そんな顔すんなよォ。今夜も公平にかくれんぼして決めるし、同じとこに二人いても死ぬのは一人だから心配すんなってェ」
     松戸市の東端にある市民センター。
     本館には今や恐怖と苦痛に怯える生者が、別館にはひどく傷つけられた死者だけがいた。
     
    ●まあだだよ
     埜楼・玄乃(中学生エクスブレイン・dn0167)はファイルを開くと、集まった灼滅者に会釈した。
    「最近『密室』の発見とその解決が相次いでいることは、諸兄らも周知のことと思う」
     ハレルヤ・シオンの警戒態勢の裏をかくことで、既にいくつかの『密室』は撃破された。とはいえ、六六六人衆が駆けつけてくる警備体制は相変わらず厄介だ。
    「今回は天方先輩の調査から『密室』を発見するに至った。先輩、感謝する」
     教室の隅で天方・矜人(疾走する魂・d01499)が肩をすくめる。
    「大したことじゃない。で、今回の敵はどんな奴だ」
     促された玄乃はその説明に入る前に、またしても一つ前置きをした。
    「その前に。今回もハレルヤ・シオンによる警戒態勢は敷かれている。『密室』事件を解決する以上、周辺哨戒をしている六六六人衆には見つからないよう留意して貰いたい」
     配下に見つかったら素早い撃破と離脱が肝要だ。増援を呼ばれれば撤退できなくなる。そこを念を押し、玄乃は『密室』の主について語り出した。

     今回の『密室』は市民センターの本館と、連絡通路で繋がった別館だ。中には会議で集まった40人程度の職員が囚われている。
     六六六人衆の名はバハドゥル。見た目はTシャツにジーパンと軽装だ。
     彼は陽が落ちるころに職員たちとかくれんぼをする。本館・別館のどこかに全員が隠れて、最初にバハドゥルに見つかった者がその日の犠牲者となるらしい。
     職員たちは朝から夕方まで本館2階のホールに、夜はホールに隣接する調理室や和室に押し込まれている。死者は別館の保健室へ運び込まれているようだ。
    「実に不愉快なことに、深夜までバハドゥルはホールで犠牲者を少しずつ切り刻んで殺す――不意をつくなら、この時だ。だが襲撃タイミングは諸兄らの現場での判断に任せる」
     夕方からのかくれんぼが始まれば10分ほど職員たちの位置はバラバラだ。一般人の保護を考えるなら襲撃タイミングは重要になる。
    「使うサイキックは殺人鬼とリングスラッシャーのサイキックだ。ポジションはすまない、よくわからない」
     『密室』の周辺哨戒をしているのは、まるでアラビアン・ナイトの踊り子のような衣装の女だ。名も、武器も、戦い方も不明。バハドゥルの知己らしいが、本館の2階ホールの窓から見える路上で視線を合わせる時がある。侵入するならその時、建物の反対側からだろう。
    「彼女に発見された場合、場所が住宅街の真ん中だ。一般人が巻き込まれないよう留意して貰いたい」
     重要事項の伝え残しがないか確認した玄乃は、ファイルを閉じてため息をついた。
     目下のところハレルヤのMAD六六六での評価は下がっていることだろう。彼女の動きが気になるところだが、現状予測できない。
    「全員無事での帰還と、無事の解決を待っている」
    「ま、任せときな」
     矜人はコートを翻すと、教室を後にした。


    参加者
    星祭・祭莉(彷徨える眠り姫・d00322)
    江良手・八重華(コープスラダーメイカー・d00337)
    十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    若菱・弾(ガソリンの揺れ方・d02792)
    逆神・冥(復讐者は何を語る・d10857)
    災禍・瑠璃(トロイテロル・d23453)
    日野原・スミ花(墨染桜・d33245)

    ■リプレイ

    ●鬼の見ぬまに
     暑さも一段落した逢魔ヶ時。夕陽に赤く染まる市民センターを眺めて、天方・矜人(疾走する魂・d01499)は静かに拳を握りしめた。
    「調査の甲斐はあったって事か……これ以上、犠牲は出させねえ」
     物音に注意しながら本館の陰を回りこむ。周辺を回る哨戒役の女と、密室の主が視線を合わせる一瞬の隙を追って。中で行われる命がけのかくれんぼを想い、日野原・スミ花(墨染桜・d33245)は思わず呟いた。
    「……悪趣味な」
    「六六六人衆ってのは何でこうも悪趣味な奴が多いんすかねー。ホント理解に苦しむ……と云うか理解する心算もないけれど」
     ポケットの中の大切な銀の懐中時計を握りしめて、十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)も賛同する。
    「かくれんぼは好きだけど、見つかった人の命を無碍に奪うのは大嫌いなんだよ。だからボクは六六六とは相いれないんだよ」
     星祭・祭莉(彷徨える眠り姫・d00322)も憤慨の声をあげた。足元に伸びる影が女の目にとまらぬよう、姿を見咎められないよう注意を重ねて。
    「遊びなら一緒に遊ぶ人全員楽しくないとね。そうだよね? ガンマちゃん」
     足元で霊犬・ガンマちゃんが同意の印に茶色い尻尾を振った。ガンマちゃんの後から静かに続いて、災禍・瑠璃(トロイテロル・d23453)が時計を確認する。
    「日の入り10分前。そろそろです」
     風に翻る紫色の薄絹には美しい金糸の縁取り。豪奢な金のアクセサリーを鳴らして歩く、美しい女の放つ禍々しさに気付く者は道にはいない。彼女の歩調と予測を元に弾き出した決行時間だ。
     女が足を止め、市民ホールの二階を見上げた瞬間。江良手・八重華(コープスラダーメイカー・d00337)が素早く本館裏口へ近づいた。数十秒後にこの前を通る女に気付かれないよう、ガラス扉の鍵を圧し切って侵入する。消音性の高い靴で後に続いた若菱・弾(ガソリンの揺れ方・d02792)が警戒しながら階段を上っていった。仲間も素早く続いて侵入を果たし、しんがりの逆神・冥(復讐者は何を語る・d10857)は元通り扉を閉めた。
     侵入は気付かれずに済んだようだ。市民センター自体の出入口は四方にあるが、女はいちいちそれらを確認している様子がない。あとはこの中にいる敵の灼滅だけだ。
    「私のやるべきことは六六六人衆を殺すこと……それだけだ」
     仲間を追って、冥も階段を上がった。

    ●禁忌の遊戯
     敷地の状況だけでなく、市民センター本館と別館の間取りも頭に入れてきた矜人と、潜入準備を整えてきた弾の先導で、一行は難なく本館二階の階段アプローチに到着した。
     廊下から笑いを含んだ大きな声が聞こえてくる。
    「二日続けて男を見つけちゃったから、次は女がいいんだけどなァ。どこだろうなァ」
     かくれんぼは始まっているらしい。わざと声をあげて探し回り、一般人を怯えさせて楽しんでいるようだ。
     響く靴音。しばらく歩きまわり、階段を下りて行くようだ。
     一行は音を殺して廊下へ入った。バハドゥルは階下へ行ったようで、下から声が聞こえてくる。恐らくは一般人が声を殺して隠れている茶室や和室の前を抜け、ホールの中になだれこんだ。
     かくれんぼのスタートがホールということもあり一般人の姿はない。しかし身を隠せる物陰もない。部屋の床には今までの殺戮の証か、乾いた血だまりがこびりついていた。
     思い思いの場所に陣取り、バハドゥルが今夜の獲物を連れて戻るのを待つ。
     祭莉はカーテンの陰から外を覗いた。哨戒役の女は、バハドゥルがかくれんぼをしている間はいつもそうなのか、足を止めずにセンターの入口正面前を通り過ぎる。豊かな黒い髪は腰ほどまであり、エキゾチックな顔立ちだ。翻るあの薄絹が、彼女の武器であるような気がした。
     かたや、密室殺人鬼の対応が二度目になるスミ花は『密室』の成り立ちに興味があった。
    (「無差別さよりも身内の周到さを感じるけれど、密室でも何か変化があったのかな」)
     まあどのような意図があったところで、やることは変わらないが。
     と、外からけたたましい喚き声が聞こえてきた。
    「た、助けて下さい! 家で家族が待ってるんです! なんでもします、お願いします!」
    「家族がいるのはキミだけじゃないよねェ。キミをやめる理由にはならないなァ」
     引き摺られているらしい物音がする。声を裏返らせて命乞いする男性に、バハドゥルが無慈悲な答えを返した。
     弾が愛機・デスセンテスを顕現させ、冥の傍らに霊犬の鬼茂が姿を現す。
     灼滅者の存在など微塵も疑わないバハドゥルが扉を開けて入ってきた。
    「キミはどこから始めようかなァ」
     男性職員を腕一本で引き摺り起こし、扉を閉めて振り返った瞬間。
     八重華が狙いすまして放ったオーラキャノンが、職員をかすめてバハドゥルの右肩を正確に撃ち抜いた。勢いで身体が半回転し、万力のように職員の腕を絞めつけていた力が緩む。飛び散る血を目にして、職員が度を失った。
    「ひ、ひいいい!」
     同時に飛びこんだ狭霧が力任せに職員をもぎとる。完全に不意を討たれたバハドゥルに阻むことはできなかった。祭莉の振り上げた標識が黄色い色を宿し、前衛を務める仲間たちに加護を与える。
    「さあ、ヒーロータイムだ!」
     矜人の宣言と共に、戦場であるホールの物音は完全に遮断された。

    ●鬼さんこちら
     バハドゥルはやっと事態を把握したようだった。血を拭ってにまりと笑う。掲げた右手でチャクラムが回り始め、傷を癒す一方で彼を守るように光の輪がひとつ分離した。
    「やだなァ、横取りかい? キミたちの侵入を許すなんて、ニザムにお説教しなくちゃ」
     ニザム。それが外の女の名前なのだろう。祭莉は胸に刻みこみ、別のことを聞いた。
    「おじさん何て言う名前なの?」
    「バハドゥルって言うんだよォ。カッコイイだろ?」
     バハドゥルは気軽に応じた。しかし彼の声を聞いている男性はぶるぶる震えている。
     黒い狐面をかぶった和装に変じた狭霧は、緊張をほぐすように笑いかけた。
    「……ごめんなさい、怖かったでしょ。もう少しだけじっとしてて、ね?」
    「運がよかったな……アンタらは助かった。俺たちが来たからな」
     振り向きもせず声をかけた弾は、次にバハドゥルに問いかけた。
    「てめぇらもハレルヤの配下か……奴は今どこにいやがる?」
    「どこだろうねェ? やあ嬉しいなァ、今日は女の子が殺したい気分だったんだよォ」
     減らず口を叩くバハドゥルをタイヤを鳴らして走りだしたデスセンテスが機銃で追い立て、弾が挟み撃ちに駆け出した。助走から勢いをつけてこめかみを狙った蹴撃を放つ。扉の近くから追い立てようと、素早く距離を詰めたスミ花もハイキックも叩き込んだ。
    「叩き潰して、解放して、ハレルヤに辿り着かせて貰おう」
     バハドゥルが見えないよう、白衣を翻した血の色をした瑠璃が震える職員を庇って立つ。
    「へんなかっこでごめんね、助けるから、信じて」
     どれほど翼が出ないよう堪えようとしても、瑠璃の瞳が紅い色を帯びるのは止められない。けれど言葉が少なくとも、彼女の気持ちが届いた職員は頷いた。
    「おじさん、あっちいこ!」
     扉を開いた祭莉に手を引かれ、男性が不安そうに一行を振り返る。
    「大丈夫だ、必ず助ける」
     矜人の言葉に背を押されるように、彼は祭莉と共に駆けだした。祭莉の声が廊下に響く。
    「みんな、お部屋から出てきちゃだめだよ! 危ないからね!」

     扉を閉じて矜人はため息をついた。
    「隠れ鬼はもう終わりにしようぜ」
     背後に回りこんだ冥の攻撃を紙一重で躱し、バハドゥルが唇を尖らせる。
    「楽しいのに、しないのかい?」
    「こそこそ隠れるのは性に合わねえんでな。今からは派手に暴れさせて貰うぜ?」
    「隠れ鬼とは古風だけれど、見つかった鬼がどうなるか、考えたことがあるのかな」
     矜人とのやりとりを聞き流し、スミ花が扉との間に立ち塞がりながら呟く。決して祭莉と一般人は追わせない。
    「死が間近に有るという恐怖、折角だから思い出させてあげますよ」
     狭霧の足元からは影がゆらり、狐の姿をとって浮かびあがる。分かたれた影が狭霧を抱えるように髑髏を揺らした。
    「あは、鬼が鬼退治するってのも中々乙なもんでしょ? さぁて……じゃ、精々楽しませてくださいな」
    「俺も楽しませてもらうよォ?」
    「俺が今度はお前を痛めつける。とんでもなく酷くな」
     表情ひとつ変えずに宣告する八重華に、バハドゥルが楽しげに芝居がかった仕草で両手を広げた。湧き出す黒い闇のような殺気がホールを満たす。

    ●鬼さんさらば
     一般人を避難させて戻った祭莉は仲間の回復に専念した。かき鳴らすギターを場違いなほどに美しく響かせ、傍らの茶色い毛皮の小さな相棒に呼びかける。
    「ガンマちゃん、弾さんにお願いするんだよ!」
     わんと元気よく応じたガンマちゃんの浄霊眼で、弾の傷が更にいくらか塞がった。
     跳び退くバハドゥルへ、八重華がぴたりと狙いをつけながら問いかける。
    「お前らと俺の決定的な差が解るか」
    「さァね?」
    「化け物と人間の違いだ。そして、化け物は天国に行けないのさ」
     八重華の手元を飛び出した高純度の魔力が輝きを放って宙を奔り、したたかバハドゥルの額を撃つ。もんどりうった勢いでバック転し、獰猛な笑みを浮かべた六六六人衆から七つのチャクラムが唸りをあげて飛んだ。
    「よっ、と」
     冥を狙った火線に飛び込み、狭霧が笑みすら浮かべて傷を引き受ける。苛烈な攻撃力の前に既にデスセンテスは消滅していたが、弾も狭霧もまだ立っていた。
     冥の手にした妖刀村正『氷血』から放たれる瘴気が包み、刀身を包んで巨大な刀のように凝る。振りかぶった重い一薙ぎを避けきれず、バハドゥルの腹部が裂けて血がしぶいた。
     もはやバハドゥルも癒しきれない傷から血を滴らせ、炎にまかれていた。かすかに足も引き摺っている。
     前衛の仲間の向こう、瑠璃は荒い息をついてバハドゥルの動きを見据えていた。たった一度命中した攻撃で深手を負っている。あともう少し。なんでもないような顔を貫いて、足の腱を狙ってダイダロスベルトを迸らせた。狙い過たず加えられた斬撃に、六六六人衆の浅黒い顔が歪んだ。
    「暴力で命を支配し弄んでいた奴が、さらに強い暴力の前に屈服する……。なあ、今どんな気分だ?」
     踏み込んだ弾が拳を固め、体重をのせて肝臓まで貫くようなボディブローを叩きこむ。骨のきしむ音と共にたたらを踏んで、バハドゥルが血を吐きだした。
    「っ、月並みだけどむかつく、ってあたりかなァ!」
    「あは、そりゃあすいませんね」
     深手の傷から血を滴らせ、狭霧が軽いステップで懐に飛び込んだ。閃くは『星葬』、ベツレヘムの星輝く刃が葬送の炎をまとってバハドゥルを引き裂き、焼く。苦鳴をあげてよろけた死角に回りこんだ八重華が呟いた。
    「地獄の淵で続きをやりな。今度はお前が捌かれるんだ」
     己に宿るのは敵を切り裂き息の根を止める業と技。目の前の敵と近しいものがある――けれど決定的な違いもある。そうあれかしと己が望む差。
     灼滅の意志をこめた光輪がバハドゥルの防御を穿ち、深い斬撃を刻みつけた。がくんと膝が落ちると同時、矜人が踏み込む。
    「スカル・ブランディング!」
     背骨のごとき意匠のタクティカル・スパインがしなって風をきり、バハドゥルの鳩尾にめりこんだ。踏みとどまる力はなく、身体が建物を揺るがす響きをあげてホールの壁に打ちつけられる。一拍の間をおいて、流し込まれた魔力が六六六人衆を内側から完膚無きまでに破壊した。
    「ハハ……アハハ……」
     ずるり。めりこんだ壁に血の痕をひいて、バハドゥルの身体が床に滑り落ちた。
     乾いた笑いが部屋に響く。
     身体を震わせ血を吐いて笑い続けた六六六人衆の身体は、次の瞬間四散した。血肉ではなく砂粒と化し、床にざらっと音をたててばらまかれる。
     この『密室』の主の最期だった。

    ●もういいよ
     狭霧と弾の治療に少々の時間がかかったが、一行は一般人の保護にうつった。幸い祭莉の言葉に従って、全員和室でひと固まりになっていたようだ。しかし生存者の中にはひどいパニックを起こしているものも数名いた。スミ花がラブフェロモンで落ちつかせたが、その理由を灼滅者たちは別館の保健室で知ることになる。
     六人の犠牲者たちは手の施しようがないほど切り刻まれていた。毎日の生存を賭けた緊張だけでなく、犠牲者が死に至る悲鳴を聞かされ続けたせいもあるだろう。
     言葉もなく、矜人は可能な限り丁重に死者を安置し直した。ホールにこびりついていた血の跡も可能な限りこそぎ取る。
     避難の先頭に立ったのは八重華と冥だった。そっと外の様子を窺う。しかしいつの間にか女は姿を消していた。『密室』が解かれたことを知ったのか、それとも連絡でも来たのかはわからない。だがこれで安全に職員を解放できる。
    「今のうちに急いで撤収しよう」
     八重華に促され、祭莉も職員たちに明るい声をかける。
    「みんな、もう大丈夫だから外出よう!」
    「此処迄が俺達の仕事、と」
    「狭霧先輩もお疲れさまでした」
     吐息をつく狭霧を労って、スミ花が職員たちの誘導を始めた。
     闇の帳が落ちつつある道の彼方を眺め、弾と冥が言葉もなく立ちつくす。弾はハレルヤの行方を睨み、冥は薄絹を揺らして歩み去った妖艶な美しい女を想って。
    (「……いずれまた、相見えるだろうな」)
     冥は唇を噛みしめた。

     松戸市の東端、市民センターを『密室』とした事件は終わった。
     死を待つばかりだった一般人たちを解放できたことは大きな成果だ。
     この一手が「アツシ」に、そしてハレルヤ・シオンに至る積み重ねの一つであると信じ、灼滅者たちは松戸市を後にしたのだった。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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