小城なれど見事に組み上げられた城の天守閣にて、あるご当地怪人が城下を眺めている。
「串が逝ったか……。惜しい怪人を亡くしたな……」
怪人の名前は名古屋どて煮怪人。煮込まれた深みある知性と七味の刺激を併せ持つ男だ。先日灼滅された名古屋味噌串怪人の友人でもある。
「誠にもって……。しかし、尾張にはまだ貴方様がおります。彼の無念を果たすためにも、どうか我等が殿にご助力を……」
下げられるペナント怪人達の頭部に記された図柄は、今にも濃厚な香りが漂ってきそうなどて煮の小鉢。どて煮怪人の頭部に瓜二つだ。
「分かった、この話引き受けよう。俺にも俺の野望って奴があるしな……」
茶色い料理といえば地味、黒い料理といえば飯マズヒロインの失敗作……。特に若者間で広まるこの風潮を塗り替え、老若男女全てに茶や黒の料理の美味しさを伝えた上でどて煮をその中の頂点に据える……。
名古屋どて煮怪人の壮大なる野望は、この城から始まるのだ。
小牧長久手の戦い以降、かつて自分の活躍した東海や近畿での地盤を固める安土城怪人。今回も城が建った名古屋は、地元中の地元とも言える場所だ。
「城を与えられた名古屋めし系怪人の予知がまた出たよ!」
須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)の差し出す名古屋行新幹線の切符を見た時点で、そうじゃないかと思った灼滅者達の予想は当たったようだ。
「名前は名古屋どて煮怪人。茶色や黒い料理でも美味しいってのを広めたいみたいだね」
そしてご当地怪人という時点で、その過程で人様に迷惑どころか死人すら出かねないのは想像に難くない。安土城怪人の戦力減という意味でも灼滅が必要だ。
「今回の『旗』についてだけど……。護衛の仕方がミもフタも無いんだよね」
城には城主であるご当地怪人の旗が翻っており、旗を下ろすと怪人が弱体化するのだが、今回の怪人は旗のある最上階の部屋で寝起きをしているのだ。
「もし旗を狙うなら……。2手に別れての陽動ならいけるかも」
陽動班が外から城壁などを攻撃し怪人達を外に誘き出し、その隙に潜入班が旗を下ろしに向かうのだ。派手なほど数多くの敵を誘き出せるが、護衛の配下が最低1体は部屋に残る。戦力配分のバランスが問われるだろう。
なお、旗を下ろせば最上階からのダイブですぐに合流可能だ。
「正面から入れば不意打ちもせずに最上階で待っていてくれるし、安全策ならこっちだね。弱体化させなくても十分に勝ち目はあるよ」
リスクとリターンのバランスも、灼滅者達に委ねられている。
「次は怪人達の戦い方についてだね」
どて煮怪人は、投げる度に精度を増す牛すじの串、振るう度に力の増すこんにゃくの塊、近場に回復を阻害する七味唐辛子を振り撒く、煮込まれた思考で采配しエンチャント強化と4つの技を使いこなす。ポジションはジャマーだ。
「ペナント怪人達は、BS耐性のパンチと怒りのビーム、キュア付き回復と変わらずだね。ポジションはクラッシャーとディフェンダーが2体ずつだよ」
人払いや戦闘音などは気にせず戦えるため、特に陽動を行う際は質重視で防具を選ぶのがお勧めだ。
「増やして減らしてのいたちごっこだけど、減らさないと増える方だけ残っちゃうからね。今回もバッチリ落としてきてね!」
親指を立てウインクするまりんに見送られ、灼滅者達は今日も名古屋へ向かうのだった。
参加者 | |
---|---|
遠藤・彩花(純情可憐な元風紀委員・d00221) |
愛良・向日葵(元気200%・d01061) |
橘・清十郎(不鳴蛍・d04169) |
天雲・戒(紅の守護者・d04253) |
高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857) |
アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・d22426) |
雨摘・天明(空魔法・d29865) |
八月一日・梅子(薤露蒿里・d32363) |
●君達は完全に包囲されている!
ある者にとっては初めての、ある者にとっては何度目かの城攻めを前にした灼滅者達は、旗を狙うため予知に従い2手に別れる。
「潜入班も多少進んだ頃だろうし、そろそろ始めましょうか」
旗攻略を目指す潜入班と分かれた陽動班は、城の反対側に回り込みカードを起動すると、遠藤・彩花(純情可憐な元風紀委員・d00221)の標識が城壁に叩き付けられたのを皮切りに破壊工作を開始する。
「こっちもいくよ! 構えて~っ……、撃てぇーーーっ!」
「くらえっ、横浜シウマイビームっ!」
これに続き、雨摘・天明(空魔法・d29865)の砲撃や橘・清十郎(不鳴蛍・d04169)のご当地ビーム、ウィングキャットの塩鯖の魔法など、光のハレーションが最上階付近を薙ぎ払っていく。
「この城の城主に告げる! 安土城怪人に与するならば我々が相手になる! 出てこないのならばこの城を落とさせてもらうぞ!」
初撃を放った後、アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・d22426)が最上階に向けて声を張り上げると、崩れた城壁の向こうからペナントではない頭部が顔を覗かせる。
「おーおー威勢のいいこった……。恐らく陽動だな。俺は挨拶に行ってくるから2人残れ。旗は任せたぞ」
「御意に。お戻りになるまで死守致します」
名古屋どて煮怪人は部下を2人伴い飛び降りると、灼滅者達の前に立ちはだかる。
「お初にお目に掛かります、学園の方より参りました灼滅者でございます」
「噂には聞いている。あちこちで城を潰してるそうじゃないか」
挨拶するとともに八月一日・梅子(薤露蒿里・d32363)が砲口を向けると、どて煮怪人も抜いた串の先を灼滅者達へと突き付ける。
城下で2人が啖呵を切り合っていた頃、潜入班は最上階へ向け城内を駆け上がっていた。
「おっきな音がしたし、あたし達も急がないと……。たぶん、次が最上階だよ!」
階段の下から愛良・向日葵(元気200%・d01061)が指差す先に見えるのは、一際華美に彩られた襖。
「あれが天守閣への襖だな……。突っ込むぞ竜神丸っ!」
叫ぶ天雲・戒(紅の守護者・d04253)が呼び出したライドキャリバーの竜神丸に跨ると、スロットル全開で天守閣に突撃する。
「来たな曲者めっ!」
「我等の屍を乗り越えぬ限り、この旗は降ろせぬと心得よ!」
「カッコいいこと言ってくれるけど……。こっちだって早く合流したいし、一気に倒させてもらうよっ!」
腕を異形化させる高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)に対し、ペナント怪人達は旗を背に守りを固め出す。
城下と天守閣……。それぞれの戦いが、今始まる……。
●深き思考に挑む
城下の戦いで先手を取ったどて煮怪人は、突き付けていた串を投げ飛ばす。
「手を分けて俺に勝とうとは、考えが甘いんじゃないか?」
「貴方達なんて、私達だけでも十分です……!」
突き刺さった串を抜き取りながらシールドを展開する彩花だが、旗に強化された攻撃力で中々のダメージを受けている。
「そいうつはどうかな? 煮込みが進むほど味が染みるように俺は強くなるぜ?」
どて煮怪人が串を振って指示を出すと、ペナント怪人達が拳にビームにと追撃に迫るが、これを前に出た清十郎が受け止める。
「本物ならともかく、お前を煮込ませる時間は与えないさ」
「ああ、何でも思い通りにいくとは思わないことだ」
塩鯖の回復で傷を塞ぐ清十郎がペナント怪人の耐性を斬り裂くと、続くアルディマの放つ矢がどて煮怪人の強化を打ち消していく。
「そもそも食べたことがありませんので、例えられても分かりませんわ。肉はいつもA5の赤身肉ですし」
「そりゃもったい無い。1度でも食べる機会があったなら、値段と味はイコールじゃないと勉強できたろうに」
ペナント怪人を殴り付ける梅子の食生活の真偽は定かではないが、挑発に心乱す相手ではないようだ。
「それじゃあ、あなたを倒した帰りに勉強していくよ!」
「そういうセリフは、こいつらを倒してから言うもんだ」
同じペナント怪人へと巨腕を振るい攻撃を集中させる天明に対し、どて煮怪人は部下達を回復し指示を出す。
「さあ、世の中の厳しさを教えてやりな」
戦術を授けられ態勢を整えたペナント怪人達の技が、再び陽動班に迫る……。
その頃、天守閣を攻める潜入班は守勢に入ったペナント怪人達に苦戦していた。
「回復ばっかしやがって……。攻めて来いってんだよ!」
「我等の使命は時を稼ぐこと」
「耐えれば必ずや城主様がこちらへ駆け付けよう」
戒は機銃を乱れ撃つ竜神丸から飛び上がり護衛の片方を蹴り飛ばすが、ペナント怪人達はすぐに回復技で傷を癒す。
「なんの! その前に俺達が灼滅してやる!」
麦が傷の深い方へ乱打を打ち付けようとするも、他方のペナント怪人がこれを庇う。
「うぅ……急いでるのにぃ~っ!」
攻撃が来ないため向日葵も攻めに加わるが、結界も張っては打ち消されと中々敵の動きを止められないでいる。
どちらの戦いも時間との勝負。先に崩れるのは灼滅者達か、またはダークネス達か……?
●危機を打ち破る雄叫び
一方城下では、陽動班が粘りの戦術で潜入班の旗落としを待ち耐え忍んでいた。
「……庇っては回復の流れ、そろそろ断ち切らせてもらおうか」
どて煮怪人は懐から唐辛子の瓶を取り出すと、周りを囲む前衛陣へと中身を振り撒いた。
「ここはあたしが……って染みるぅぅぅっ!」
「ぐあっ……。き、傷口に塩ならぬ唐辛子ってか……」
仲間を庇って痛みに悶絶する天明や清十郎だが、聖なる風を呼び起こすと何とか唐辛子を吹き飛ばし、塩鯖の放つ光で傷を癒す。
「ここは凌いだが、回復に追われている感は否めんな」
「こちらも向こうも、そろそろ1人目となりそうでございますが……」
アルディマの帯と梅子の砲弾に傷を深めながらも、ペナント怪人はまだ倒れない。火力の高いダークネスの布陣に後手に回らされている状況だ。
「例え刺し違えようとも!」
「本当に見た目と強さが合わない種族ね……!」
殴りかかるペナント怪人を引き受けた彩花のスイングがようやく1体目を灼滅させるも、陽動班の消耗も大きい。
「そろそろこちらも1人目を……ぐっ、これは……」
「いかがなされた城主殿っ!?」
攻撃に出ようと身構えるどて煮怪人の動きが止まったその時、城の天守閣から3つの影が飛び降りて来る。
「皆っ、待たせたなっ!」
「雷サマァァァッ……キーーークッ!」
再び騎乗して飛び降りた戒がペナント怪人を竜神丸でひき潰して剣を突き立てると、次に麦のご当地キックがどて煮怪人に炸裂した。
「この城の旗は頂いたぜ!」
「ここからはあたし達も相手になるよ!」
戒が持ち出した旗を掲げる横で、着地した向日葵が彩花に癒しの光を浴びせかける。
「も、もう一息のところで……」
歯噛みするどて煮怪人に対し、ほぼ無傷の潜入班が合流した灼滅者達……。形勢は一気に灼滅者達へと傾いた。
●言われなくてもその予定さ!
全員揃った灼滅者達は、体勢を整えると残ったペナント怪人を集中攻撃で灼滅し、続いてどて煮怪人も攻め立てる。
「今日も勝ってどて煮を食べに……じゃなくて、平和を守るんだ!」
「平和万歳、今日も腹ペコどて煮が美味そう! ってね」
一応は本音を隠した天明の砲撃と、新たな名古屋めしへの興味全開の麦が振るうロッドがどて煮怪人のモツというか内臓を抉る。
「そうそう。地味な色合いを気にされるなら、絹さやなど乗せてみてはいかがでしょう? あ、でも灼滅されますし助言も意味がありませんでしたね」
「悪い考えじゃないが根本の色味は同じだ。それだけでは足りないのさ……。後、俺はまだ消える気は無いぜ?」
そう言って梅子の砲撃を受けきると、どて煮怪人は巨大こんにゃくを振り被り反撃する。
(「そ、想像したらますます食べたくなってきちゃったなー」)
すぐさま回復を飛ばす向日葵も食欲の徒となったようだが、灼滅者達にそれだけの余裕が出て来ているということでもあった。
「できれば他の怪人の情報を……と思いましたが、聞いても無駄そうですね」
「ぐっ……。俺1人となっても身内を売れんさ。その辺りは自分で考えてみることだ」
彩花の雷を纏わせた拳が、どて煮怪人が防御に構えた串をへし折って鳩尾にめり込むと、後ろに回り込んだ戒が頭を蹴り飛ばす。
「1人、か……。不意の援軍とか気にしなくていいだけで十分収穫だぜ」
「口が滑るとは俺らしくも無い……。が、煮込んだ味噌の深み、食欲をそそる濃厚な香り、頬張る度に広がる幸福感……。どて煮を広める使命ある限り、俺は百人の兵に勝る!」
竜神丸の銃撃をこんにゃくを盾にし弾きながら間合いを取ると、どて煮怪人は新しく串を取り出し身構える。
「どの怪人もそうだが……。普通にしていれば応援も出来るだろうに残念な者ばかりだ」
「ぐふっ……。ふ、普通にしての現状が今だ……。言っただろう。それでは足りないのさ」
支援射撃を背にアルディマが槍を突き出すと、どて煮怪人の方が串刺しにされる。
「……お前のどて煮への愛、痛いほど伝わってくるぜ。だからこそここで止めてやるよ!」
塩鯖の魔法で完全に動きの止まったどて煮怪人を持ち上げると、清十郎はご当地パワーを全開にして地面に叩き付けた。
「すまないな安土城怪人……。俺はここまでのようだ。後はお前達……。ちゃんとどて煮を食って帰れよぉぉぉぉぉぉっ!」
安土城怪人への謝罪と、例え自分を倒した相手でも……いや、もしかしたら自分を倒した相手だからこそ、どて煮を知ってほしいとの叫びを残し、どて煮怪人は爆散した。
こうして今回も城と怪人を見事攻略した灼滅者達は、どて煮の店を探し出し味わった後、東京への帰路に就くのだった……。
作者:チョコミント |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年8月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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