
その寺の墓地には、こういう噂がある。
「この場所で肝試しをしていると、目の前に写真の貼られたお墓が見えてくる。不思議に思って近づいてみると、写真には自分が写っている。そして墓に自分の名前と命日が刻まれているのを見た瞬間――」
●
「現れた死神に殺される、っていうオチらしいな」
神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)がそう結んだ。
なぜ日本の墓地に死神なのかはさておき、この噂が都市伝説となってしまったということが問題である。
「この都市伝説の対処をしてほしい。敵の正体は死神かと思いきや、覆面忍者だ」
たしかに暗殺者イコール死神っぽいけどな、とヤマト。
「都市伝説は墓地で訪れたお前たちの人数分、現れるぞ。分割した分、一体一体は弱くなる。戦闘力も、お前たちなら問題はないはずだ」
その代わり、都市伝説が出現するには肝試しをやる必要がある。
「脅かしたり脅かされたり……そうやって遊んでいれば、都市伝説の領域に招待されるって寸法だ」
敵は忍者っぽい集団。手裏剣甲や日本刀を装備している。
「お前たちが行く日、一般人が肝試しにやって来ている」
男女四人の学生グループらしい。まずは彼らをどうにかする必要がある。
「せっかくの怪談日和だ。敵への対処以外の部分は、楽しんで来るといいぜ?」
ただ、とヤマトは疑問顔。
「ゾンビやダークネスと戦っていて、それ以上こわいお化けとかっているのか?」
| 参加者 | |
|---|---|
![]() 二夕月・海月(くらげ娘・d01805) |
![]() 新堂・辰人(夜闇の魔法戦士・d07100) |
![]() 霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884) |
![]() 七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504) |
![]() 檮木・櫂(緋蝶・d10945) |
![]() 真咲・りね(花簪・d14861) |
![]() 天倉・瑠璃(野菜炒め・d18032) |
![]() 蒼羽・シアン(クイーンオブブルー・d23346) |
●
「いやぁ、ニンジャが心霊現象とは驚きですネ」
霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884)はクハハと笑った。帽子を傾け見た月は、ちょうど良い具合に雲がかかっている。
光と闇が混在する、良い怪談日和だ。
「やっぱり肝試しをするなら墓場だな」
二夕月・海月(くらげ娘・d01805)の見据える闇の中には、ぼんやりと墓石が照らされている。直方体と卒塔婆(そとば)の紡ぐ夜の荘厳。この雰囲気、作り物ではなかなかでない。
「怪談って、ちょっぴりどきどきしますね」
真咲・りね(花簪・d14861)がくすりと、笑顔を咲かせた。
「普段から常に怪談に囲まれてる気がしなくもないんですけど」
時々変な都市伝説さんもいるし、というりねに、新堂・辰人(夜闇の魔法戦士・d07100)が苦笑をもらした。
「都市伝説がいるってわかると、肝試しって成立しないからね」
実在しそうだから怖い。本当はいないと思いつつ、でもあるかもしれないという不安を刺激するともいえる。しかし実在して、実際に対処できる立場だとわかっていたら?
それは山の中で、野犬や熊に襲われる脅威といったものに変わってしまう。
「そういう意味で、僕らは一つ楽しさが減ってるのかもしれないね」
「いや、楽しみならある。むしろ増えた」
天倉・瑠璃(野菜炒め・d18032)が静かな、確信のある口調で言った。
お化け屋敷や怪談ものは好きな彼女だが、実を言うと怖さはよく分からない。
怖さとは何か。そんな風に感じる彼女にも、今回は明確な楽しみがあった。
「こんな墓場にデートするようなリア充高校生。仲を引き裂――おどかせるのは、わたしたちしかいない」
どうしたんだ天倉さん。
いや通常運転か。
瑠璃の無表情は判断しづらい。ただ身体から、どことなく使命感を漂わせていた。
都市伝説の出現には肝試しが必要――その前に訪れる一般人たちを驚かし追い払うのが、灼滅者たちの方針であった。
「お化けだか死神だか覆面忍者だか何だっていいわ。肝試し楽しんでくわよっ☆」
蒼羽・シアン(クイーンオブブルー・d23346)が箒に乗って空へと向かった。上空から驚かす予定だ。
「お化け役って一度やってみたかったのよね」
檮木・櫂(緋蝶・d10945)もいそいそと衣装に着替えていく。そこへ七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504)がぽつぽつ言葉を紡いだ。
「肝試し……したことありません」
「そうなの? じゃあ、おどかしてあげよっか?」
と言う櫂に、鞠音は小首を傾げる。
「驚けば、良いのですか? どうやって驚けば……」
「複雑に考えなくていいんじゃない? 例えば私の格好を見て、どう思う?」
櫂は長い髪をすべて前に下ろし、服は病的なほど白い丈長のワンピースだった。裾には血をイメージして、赤いシミがある。
イメージは映画などで流行った、テレビから出てくる幽霊だ。
鞠音はしばし彼女の全身を見つめた後、言った。
「綺麗な方だなって思います」
「謝謝。でもこの姿で言われると複雑ね」
櫂は苦笑い。おどかすとなると、一般人より仲間の方が難敵のようだ。
「さて、しっかり驚かせないとな」
海月は自らに包帯を巻きつつ、熱意のこもった声で言った。
「敵よりずっと上手にやってやる」
●
墓場に懐中電灯の光が瞬く。男子高校生たちだった。「すっげ、雰囲気あるな」などと言い、奥へと移動していく。シアンが笑みを浮かべ、空からその後を追った。
しばらくして、入り口に再び光が瞬く。女子の二人組だ。
「わあ、出そう~。こわーい」
「暗いよねー。ねー、もしどさくさに紛れて、えっちなことされたらどうする?」
「えー、どうしよっかなー?」
全員死刑。瑠璃がそう判決した。懐中電灯が彼女の顔を照らす。
「あ、猫ちゃんだ。目が光ってるー」
「あれ、誰か泣いてる?」
猫変身した瑠璃から光がさまよう。光円は、やがて地面にうずくまって泣く女の子を捉えた。
りねだった。りねは振り向きざまに鬼神変を発動――という過激な選択肢を却下(卒倒しかねない)し、泣いてるふりをして二人を見上げた。
「マリネお姉ちゃん?」
打ち合わせでは、りねと鞠音は姉妹。一緒に来たがはぐれてしまい、怖くなって泣いたことになっている。
「うそ、迷子?」
「ガチヤバくない?」
りねの涙に、そんな設定はすんなり信じてもらえた。
ターゲットとの同行に成功し、両手をつないでもらって嬉しそうな仕掛け人・りね。笑顔はその実、これから起こる惨劇への抑えきれぬ期待である。
りねったら、恐ろしい子……!
「あ、猫さんが!」
りねの言葉に、女子たちは歩く猫を注視した。
――そろそろか。
墓石の間を抜け、瑠璃は変身を解いて現れる。
呆然とする女子たち。猫が突如、白い肌の少女になれば当然の反応だ。
動けぬターゲットに、更に瑠璃が影を纏った。宙を揺らめく、長い猫の尻尾が二本。額には第三の目をリアルに作り上げる。
「滅びろ……リア充」
本音ダダ漏れな怨嗟の声。それに悲鳴が重なった。逃げる二人を、りねが巧みに歩幅を調整し、誘導する。背後を気にして逃げていた女子たちは息を荒くし……そこで前を見て呼吸を止めた。
誰かが、倒れている。
それが普通の人間に見えたのなら、まだ良かっただろう。
身体に巻かれた包帯――それが赤くにじんでおり、地面にもシミを作っていた。懐中電灯の光の中、ゆらりと立ち上がったその人物の前面は血まみれで、目の部分からは包帯を突き破り、眼球らしきものが飛び出ている。
「きゃあああああ!」
女子高生たちが悲鳴を上げる。
――よし。
ゾンビに扮した海月は反応に手ごたえを感じながら、次の行動に移った。「タ、タスケ……テ」と低い呻き声を発し、片足を引きずりながら緩慢な動作で近づいていく。
武蔵坂生徒が見れば「あ、似てる!」と絶賛だったに違いない。
しかしその後の展開は、普通のお化け屋敷のものとは違っていた。
「嫌あああ!」
パニックをおこした女子の一人が、手近に落ちていた棒をつかんで、振りかぶってきたのだ。
――おい。
思い切りの良い攻撃に呆れつつ、海月はESPを発動。闇を纏い棒を回避した。忽然と消えたゾンビと、吹いた一陣の風に、女子たちの声が震えを帯びる。
「き、消えた……」
「ねえあんたたちなんでしょ、そうなんだよね!? やりすぎだって!」
薄ら寒い心地に、男子の仕業だと望みをかける女子たち。せわしなく周囲を見回す二人が、りねが姿を消していることに気づいてさらに焦り出すまで、そう時間はかからない。
「(ここで出番、でしょうか)」
仕掛け人二番手、鞠音。彼女は隠れていた墓石から出て、女子たちの背に声をかける。
「あの」
『――――!』
たっぷり五秒は絶叫し、へたり込む一般人たちを、鞠音は不思議そうに見つめた。
「……どうかしましたか?」
肝試し女子編は、次の段階へと進んだ。
●
一方、男子生徒たちの方にも灼滅者の魔の手が忍び寄っていた。
「なんだ、さっきの声」
「仕掛ける前にビビってんのか。こりゃあ楽勝だな」
狼男の変装やら小道具を用意するやらしている男子たち。その上空でシアンが釣竿を構えた。
「エレル、もう温まった?」
聞いた先は、隣で飛ぶウイングキャットだ。ボロのようなシーツを被ったエレルはフラフラとしながら、お腹で抱えていたそれをシアンに渡す。
猫肌で温めたこんにゃくである。
「それじゃあ、反応を見ましょうか」
冷めないうちにと糸を垂らせば「んはああ!?」とよんどころない声が聞こえてきた。
「なんだよ、声キモイぞ」
「い、今得体のしれない何かが俺の顔を!」
そんな眼下の会話に、シアンは今度は冷やしておいたこんにゃくを、もう一方に投下する。
「ぅひゃああ!?」
成功。
次の作戦に向けて、シアンは降下した。
――頃合いだね。
騒いで周囲を見だした二人に、辰人は近くの木々を揺らした。大きく揺れる音に一般人はギクリとそちらを見るが、影業を纏って移動する辰人を目に捉え、今度こそ狼狽えた。
「なんだよ今の黒いやつ……」
「本当に何かいるのかよ!?」
まだまだここから。
辰人はダイダロスベルトを解き放つと、二人に見えるよう宙を泳がせた。生き物のように動くそれは、現代の一反木綿か。辰人が帯をしまってからも、男子二人は動けずにいた。
「おい、やべえって」
女子たちより早く及び腰になった彼らは、逃げ出そうとする。
「キミたちも肝試しー?」
そこに、地面に降りたシアンがボーイズハントを開始した。現れた彼女にビビりつつもうなずく男子に、シアンは自らのスタイルを武器に近づく。
「連れの人が怖がっちゃって、帰れないんだー。男の人と一緒がいいんだって。だから、ね?」
一方の男子にくっついて、甘く囁く。ごくり、と男子がのどを鳴らした。もう一人は悔しそうな顔。
シアン>幽霊>>女子の図式が簡単に成立した。
「つ、連れの人ってやっぱ……美人?」
「もっちろん。ほらあそこ」
シアンに指さされ、彼らが見たのは枯れ井戸だった。その縁に手がかけられ、中から尋常ならざる女性が出てくる。
長い髪に、血の付いた白い服――櫂だ。櫂は身体をワキワキと動かし、人体ではありえない摩訶不思議な動きで男子たちに這い寄る!
『サダコオオ!?』
絶叫が連鎖した。逃げ惑う彼らを、つかずはなれずのペースで櫂は追いかけていく。相手は本当に怖がっていて、櫂は笑った。サービス心全開で追い詰めていく。
――ほーら追いついちゃうわよ!
そして地面につまずいた。
「はうっ」
びたーん、と突っ伏す彼女。そこに「お、おい止まったぞ」と様子をうかがう声が聞こえてくる。
馬鹿め、逃げればいいものを……。
「我姓活発貞子!」
気合一発、木に飛び移ってダイナミックに飛びかかる彼女に、再び絶叫があがった。
●
「ではあなた方も、噂を聞いて?」
「そ、そうだけど……それより妹さんが!」
平静な鞠音の声音に、女子たちは落ち着かない声を返す。その目が時折、鞠音の豊満な箇所に嫉妬の視線を投げる。鞠音は髪をポニーテールにし、涼しげな浴衣姿だった。スタイルが想像しやすいのだろう。
「では、ご一緒してもいいでしょうか。三人ならりねさんも探しやすいので」
帰りたそうな顔で、しかしりねを見失った罪悪感でうなずく二人。歩き出してしばらくすると、前方に灯りが見えてきた。
「おや、珍しいですネ。お嬢さんがたがこんな夜更けに」
古めかしいイスに、奇術師の格好をした人物――ラルフが座っていた。手にしたランプの淡い光が、彼の笑顔を照らしあげる。
「なんでこんなところに……」
怪しさ最大級の彼を、うさんくさそうに見る女子たち。ラルフがクハハと笑った。
「今日は良い怪談日和。ひとつお話をしましょう。
墓場は西洋であれ東洋であれ、その静かでどこか異界染みた雰囲気は変わらないものデス。この世でありながら、死の気配が多いからでしょうネ」
ラルフが殺界を発動。女子たちが殺気に触れ恐怖を浮かべた。
「な、何この人……こわい」
「ねえ、もう行こうよこんなところ」
ラルフが続ける。
「もし、墓場で人に会うことがあったら……気をつけた方がいい。たまーにネ、いるんですヨ。誰かが墓の前で祈っているなァ、と思ったら……それが死んだその人自身だったり。死んだ人間がそこでボーッと佇んでいたり、ネ。
それがこの世で無惨な死を遂げた人間だったら要注意デス。ソレとは目を合わせないほうがいいでショウ」
一拍おいて、ラルフは不気味な笑顔を見せた。
「必死な人間は、自分が相手を『向こう』に引きずりこむ存在だったとしても、何にでも縋りますからネェ……」
悲鳴がとどろいた。男子たちのモノだ。駆け抜けていく彼らを、櫂が追いかけていく。
同時にゾンビ海月が、化け猫瑠璃が再び現れた。闇を纏ったままの辰人が墓石を縫って近づいてくる。女子たちもそこで限界が来たようだった。姿を見ただけで悲鳴を上げる。鞠音がラルフに言った。
「死んだ後の自分、見てみたいです。向こう、どんな場所なのでしょうか」
「言ってる場合じゃないよ、早く逃げよう!」
彼女を引っ張る女子。その前を白布が塞いだ。
「ど、どうせトリックなんでしょ!」
白布がはがされると、そこには飛び猫エレルが飛んでいて。
「お姉ちゃんたち、気を付けて帰ってね」
「お疲れ様でした」
きわめつけは、現れたりねが鞠音と旅人の外套で消えたことだった。男子のあとを追って、女子らも何事かわめきながら逃げ出す。
「頭から喰われたいかぁ」
「嫌なら別れろ……別れろ」
海月の脅しに、瑠璃が暗示のような言葉を投げ放つ。
「クハハッ、良い逃げ足ですネ」
ラルフが虚空に声を投げる。
「とりあえずアイサツすればいいんでショウか、ニンジャさん?」
直後、周囲の光景が変わった。灼滅者たちの前に彼らの墓石が現れる。同時に刺客の気配が闇の中で蠢き、大量のくないが空を舞った。りねの神薙刃がそれを払い、連動する鬼の腕が忍者を打ち砕く。
「ダークネス死すべし、慈悲はありません……と言えばいいのでしょうか」
鞠音の縛霊撃が忍び寄る敵を捉え、消滅させる。
「雪風が、敵だと言っている」
「これなら冷えてイイ感じよね!」
シアンの氷の魔術が忍者たちの動きを鈍らせた。櫂と辰人の刃が光る。
「その程度のワザマエじゃあね」
「切り裂くまでだ」
刀と解体ナイフが忍びを両断した時には、翅に目と牙のついたラルフの影蝶たちが残る敵に殺到していく。海月がクラゲの影を生み出した。
「影使いとしては負けられないな。クー、行こう」
「……食べていいよ」
終焉に、瑠璃も影を解放した。膨張した影の巨大な牙が忍者へ襲いかかる。
戦いはあっけなく、気付けば元の場所に戻っていた。
もしかしたら、一般人との時間の方が長かったかもしれない。
「あー楽しかった。今度は驚かされる方でもいいな」
海月が微笑むが、まだゾンビ姿なのでちょっと不気味だ。
「ほっとして、お腹すいてきちゃいました」
皆でアイスでも買って帰りませんか、というりねに、辰人がうなずく。
「その前に、後片付けだね」
「やりすぎたかしらねー。あの子たちのもあるわ」
シアンの声に櫂が苦笑した。
「その分楽しかったけどね。このままで帰ると怒られちゃう、かな!」
と、そこで突然がばっと襲うふり。標的は鞠音だ。
「……きゃあ」
たっぱり三拍置いてから首を傾げる鞠音。櫂が肩を落とした。
「やはり怖くない。怖いとは一体……」
怖いとは何? と呟く瑠璃。ラルフが笑みを浮かべた。
「幽霊がいたら、聞いてみマスか?」
「もし自分が幽霊なら、人前に現れるよりゆっくり寝ていたいけど」
瑠璃の言う通り、ここは故人の安息所だった。後始末を終えた灼滅者が歩き出すと、夏虫の声が聞こえてくる。
墓地は静かな音色に包まれていった。
| 作者:叶エイジャ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2015年7月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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