7月19日と20日の2日間にわたって開催された、今年の学園祭。
たくさんのクラブ企画や水着コンテストなどのイベントで盛り上がった祭りも、いよいよ幕を閉じるときが来た。
いや、学園祭の夜はまだまだ終わらない。最後にやるべき事が残っているのだから。
後夜祭……そう、打ち上げだ!
ここは、特設屋台通り。
「この風景も、明日までか……」
様々な料理の残り香を感じながら、初雪崎・杏(高校生エクスブレイン・dn0225)がしんみりしていると。
「かんぱーい!」
向こうから、歓声が聞こえてくる。
残った料理や飲み物を持ち寄った生徒たちが、打ち上げを始めたのだ。
他にもおしゃべりに花を咲かせる生徒や、空いた屋台を借りて料理をふるまう者もいる。
杏もつられてお腹を鳴らしていると、1人の生徒が紙皿を差し出した。
「さあ、食べて!」
皿の上には、湯気を立てる焼きそば。
「余った食材で作ったから、味は保証しないけどね!」
「そこは保証してくれないか!?」
何はともあれ、最後まで学園祭を楽しもう!
●
手をつなぎ、屋台通りを歩くのは、桃琴とさちこ。
「ももちゃん、わたあめ屋さんだって!」
「一緒に食べよっ。くーださいなっ」
可愛いイラスト入りの袋を開けて、半分こ。2人で食べれば、幸せも倍にふくらむ。
「あれ? あそこで焼きそば作れるんだー」
「ももちゃん、わたしたちにもできるかな!」
お兄さんやお姉さんに見守られつつ、挑戦だ。
料理はちょっとニガテだし、火も怖い。でも、2人一緒なら、大丈夫。
桃琴が麺と具材を炒めたら、さちこが盛り付ける。一生懸命作った焼きそばには、学園祭の楽しい思い出が詰まっているみたい。
「とっても!」
「おいしいね!」
お互いの笑顔が一番のスパイスだ。
空きの屋台で料理の腕を振るうのは、九条ネギ餃子怪人……の姿をしたヘイズ。
「お、いい匂いだな?」
「これは初雪崎先輩。これは九条ネギ入りの和風野菜炒め。こちらは、九条ネギペーストを練り込んだ皮で包んだ餃子であります」
香ばしい匂いに足を止める生徒達へ、ヘイズが皿を差し出す。
「さあ皆さんも、どうぞ、であります」
にぎわうヘイズの屋台のそばには、【桃源郷朧屋敷】の面々。
「わぁ、これ学園祭の残り?」
お茶菓子や料理を前に、葉月が身を乗り出す。
「料理の方は、屋台を借りて僕が作った奴だよ」
「悠夜くんの手料理! 美味しそう」
凛花も、ワクワクが止まらない。道具や食材の惨劇には、目をつぶろう。
「こんなに残っちゃって……僕が食滅してあげる!」
「食滅って葉月、食べ過ぎじゃ……ああっ!」
「……は、葉月さんが食欲の化身に変貌したっ!?」
料理が、ブラックホールのごとく葉月の胃袋に収納されていく。凛花もガクガクが止まらない。
「美味しいから大丈夫大丈夫!」
「す、すごい食欲だね……」
「これ、料理足りるかな……?」
これぞ人体の神秘?
「さて、それじゃ悠夜くん、私達は……はい、あーん」
「え、えっ?」
凛花の不意打ちに、思わず目が泳ぐ悠夜。
「もー、そんなに照れなくっていいって!」
「そりゃ恥ずかしいって……あぁもう!」
もぐっ。
(「見てない、見てない」)
食べるのに夢中、という事にしておく葉月だった。
「……お待たせしました」
世紀末モードで料理を終えた三成が、朱毘の隣に座る。
箸で唐揚げを1つつまむと、
「はい、『あーん』して下さい」
「ふふ、あーん」
朱毘の口に広がる、少し濃い目の味付け。
「私の好み、覚えててくれてたんですね。では、私からも……はい、あーん♪」
朱毘の返礼は、おにぎりとサンドイッチ。具は、米やパンに合うよう味を調整したトンカツや焼きそばだ。
「そう言えば、所属クラブの入賞、おめでとうございます」
朱毘をそっと抱き寄せ、口づける三成。
「も、モノ食べた直後の唇でっていうのはちょっとっ! う、うがいか何かしてから、その……も、もっかい」
「喜んで♪」
三成の笑顔が、朱毘の体温をますます高める。
●
みことと歩くとこよの顔は、始終にやにや。
(「みことの水着姿……ふふ、幸せだなぁ……」)
(「大方わらわの水着でも思い出してるのじゃろう」)
見透かされていた。
みことが視界に入れた食べ物を、とこよが片っ端から買っていく。
「ほら、あーんして」
「ちょ、姉上……しょうがないのぅ」
次々食べ物を運ぶとこよ。それはもう、雛に餌を運ぶ親鳥のよう。
「で、どれが一番好きだ?」
「どれも美味しかったのじゃよ。なにしろ……」
姉上と一緒に楽しめた祭りじゃからの……。
そんな言葉を、みことは飲み込む。
「ん? お姉ちゃんが一番好き? そうかそうか!」
勝手に自己完結するとこよに呆れつつ、こっそり手を繋ぐみこと。
また姉上を調子づかせてしまうのぅ、と思いつつ。
仲良し姉妹とすれ違うのは、のんびりムードの桜音と朱羽。
桜音のリクエストで、ほかほかのたこ焼きをひと箱購入。
「朱君、どうぞ♪」
「ん? え、ああ……じゃあ頂こうかな」
「はい。あーん♪」
桜音から差し出されたたこ焼きを、頬張る朱羽。
改めてやると恥ずかしいけれど、桜音の嬉しそうな顔を前にすると、顔の火照りもむしろ心地いい。
「このたこ焼き、すっごく美味しいよね……♪ ん、朱君どうしたの……?」
「お礼。ほら、あーん」
朱羽が差し出したりんご飴を、躊躇なく口に運ぶ桜音。
「美味しいか?」
「えへへ、うん♪」
互いの笑顔が、互いの幸せ。
「来年の学園祭も楽しみだな」
「こうやってまた回ろうねっ♪」
通りにはびこるリア充達に、注がれるまなざし。
「さあ、けーち、どのかっぽーから倒して……」
クロエの横で、刑一がサバト服を脱ぐ。
「すまん相棒。腹が減ったので飯優先したいです」
「むう。ならばここは秘術『直列ダッシュ法』です」
クロエの提案で、2人は手と手でドッキング。屋台通りの中心へダッシュ。そして散開。
「さあ、余った焼きそばやらクレープを持って来ましたよ」
「ボクも色々と買ってきましたから一緒に……あっ」
クロエの手から、あんず飴がぽろり。
「ボ、ボクの分がー……あ、飴は半分こにしましょう。先にけーちが食べていいですから」
「相棒がいいなら遠慮なく……ほい、どうぞっと」
「は、はい」
2人はRB団。リア充をデストロイする者である。……多分。
●
屋台の群れが、仁奈とちゆを翻弄する。
「わたあめ食べたい……」
侑二郎も雰囲気に浸っていると、
「もちろん、森村さんの奢りですよね?」
「漢気溢れる素敵な人なんだね。女の子にはお財布出させないなんて!」
「え、えっ」
数分後。
通りの端に、ぐったりした侑二郎の姿があった。
「森村くんっ」
「ひっ」
仁奈から差し出されたのは、謎の赤い物体。
「たこ焼きだよ。屋台借りて作っちゃった」
「その赤いの、お昼のじゃがバターで残ったハバネロですよね……」
気づいてしまうちゆ。
「もはや食べ物の色をしていないんですけど……あっ、これいじめですね??」
「違うよ、感謝の気持ち」
ハバネロたこやきを、あーんしてあげる仁奈とちゆ。
「まさか食べれないとか言わないですよね? お兄ちゃん?」
「こんなときだけ妹のふりしないでください、ちゆさん」
「奢ってくれた森村くんにいっぱい食べてほしいな」
「仁奈さんも、可愛く言ってもダメですからね」
だが侑二郎は、食べた。
そして、倒れた。
健闘を称え(?)、わたあめが贈られた。
【八幡町キャンパス1-4】の面々も、食べ歩きを満喫中。
サラダスティックを食べる倉子の横では、千尋がフライドポテトの余りをぎっしり詰めている。
「咬山さん、お腹壊さないで下さいね」
「大丈夫大丈夫、あ、そっちの焼きそばも!」
倉子の心配もどこ吹く風。
「見て見て、このやきそば具がないよ……って、飴宮さん大丈夫?」
神秘が笑っていると、お腹を抱えた凛子の姿が。
「少し食べただけよ。焼きそば、フランクフルト、わたあめ、りんごあめに……」
「それが食べ過ぎってことだよ!」
ひとしきり食欲を満足させたら、休憩スペースで一休み。
「それでは改めて、学園祭お疲れ様でしたー!」
神秘の声に合わせて、皆のコップが音を響かせる。
神秘の持ってきたたこ焼きやじゃがバターが、皆のおしゃべりのお伴。
「うふふ、皆と食べると楽しい」
「だね。かーっ、ウーロン茶も最高!」
「今年の学園祭は、水着コンテストに出れて楽しかったです。皆さんは?」
「あたしは体育館でライブ見てたなぁ」
たこ焼きを冷ます倉子に、千尋は楽器を弾く仕草で、
「最近ギター買って練習してるんだ。バンド組みたいな」
「わぁ、バンド出るのですか?」
「面白そうね、聴いてみたいわ」
凛子がじゃがバターを(控えめに)頬張る。
楽しそうに話す友人達を見て、神秘はにこにこ嬉しそうだ。
「ああ、学園祭楽しかったなあ……」
凛子のつぶやきこそ、4人の想いそのもの。
●
日々音が料理を広げると、【刹那】の皆が集まって来る。
「2日目寝て過ごした無念、ここで晴らすで!」
「俺ももらってきたぜー。食えー」
律のベビーカステラへ、さっそく焔の手が伸びる。
「屋台の定番って感じ! おっ、ゆま、なんかいい匂い?」
「ラーメンもらってきました! 味も各種取り揃えております!」
「そしたら塩ラーメンもらおかなぁ」
「私も今は塩味な気分です」
「はいっ。ぺーにゃんさんは?」
リクエストを聞いて回るゆまだったが、
「こらっ、りっちゃんは全部持って行こうとしないっ!」
「ちえー……」
「相変わらずようさん食べるなぁ……これもあるで?」
「おっ、さんきゅー」
日々音のたこ焼きも、すぐに律の胃袋へ。
「おや、これは」
ペーニャの前に、黄色が広がる。
「クラブの出し物の余りですよ」
薫が用意したのは、トウモロコシ料理のオンパレード!
「じゃ、コーンスープをもらおかな?」
「コロッケもらってもエエ?」
「コーンポタージュでー」
「ええ、どうぞ」
ゆまや日々音、乃麻達に振舞う薫。
「神堂さんも、沢山ありますよ」
「じゃあ、焼きモロコシ5、6本」
「そ、そんなにですか?」
そうは言うものの、作りすぎたのでむしろ沢山食べて欲しい。
そんな本音は、心の中に秘めておく薫である。
「わたしはタイ焼きもろてきたでー」
乃麻が手品のように次々取り出すたい焼きに、日々音が目を丸くする。
「これが都会のたい焼き……ハイカラやなぁ……」
「あ、俺小倉」
手を挙げる焔に、乃麻がたい焼きを渡していると、
「私、抹茶餡が食べたいなぁ……」
「あ、そしたら半分こなー。好きな方とってやー」
たい焼きを頭と尻尾で割って、ゆまに差し出す乃麻。
(「そーゆーのはカレシとやったらええのんになぁ」)
そう思いつつも、律、なんだかほのぼの。
「皆で分け合ってお疲れさまを言えるって、幸せだなぁ……」
「ホンマやー……あ、ゆまさんのラーメンももろてええかな?」
「はいっ、何味がいいです?」
尻尾をぱたぱたさせながら、選ぶ乃麻。
焔も、ごちそうになってばかりではない。
「ほら、じゃがバターだ。めんたいこ付けて食うとうまいんだぜ?」
てんこ盛りバターのイイ匂いに、ふらふら~っと律の手が出る。
薫が、皆とじゃがバターを頬張るなか、ペーニャの顔が暗いっぽい。
「気合を入れてイカ焼きを沢山購入したのですが……すっ転んで、全部ぶちまけてしまいました」
「なにィーッ!?」
「こういうのを『空回り』と言います。なお、英語圏でのイカの呼び名は『カラマァリィー』」
「いや、ぺーにゃん! ぜってぇわざとだろ!」
「ダジャレ言いたいだけだろ!」
「失礼な!」
律と焔のツッコミに、ペーニャがぷんすか。
「『如何に』私がおふざけキャラだとしても食べ物を粗末になんてしませんよ! ちゃんと『イカ』ロスウイングで『すくいっど』して『もう明太(無問題)』!」
吹き荒れるダジャレの嵐。次々撃沈していく面々。
イカ焼きのダジャレ添え……お腹いっぱいです。
「皆まだまだ元気だねぇ」
賑やかな通りの光景を、写真におさめるクロノ。
「でも、私達は私達のペースで、ね?」
アリスはクロノに腕を絡め、身体を預ける。
「あの屋台、魚のフライが売り物ね。なら……ちょっと待ってて」
「じゃあ、俺は飲み物と座る場所探しておくよ」
空きのベンチをクロノが見つけた頃、アリスが戻ってくる。
「あり合わせだけど、フィッシュ&チップスよ。ロンドンでは新聞紙にくるむものだけど、ここじゃ手づかみで食べるしかないか」
「ま、お祭りって雰囲気もあるし……ん?」
アリスがポテトをくわえ、顔を近づけてくる。
もちろん、その意味がわからないクロノではない。
「……アリスは結構試練を与えてくるよね」
受けて立ちます。
「学祭お疲れさん」
「オツカレ」
「お疲れ様です!」
ジュースで乾杯する、【露草庵】の3人。
音雪が次々すすめる料理に、嵐もどんどん箸を伸ばす。御伽、けらりと笑い、
「おっと、嵐に全部食われる前に俺ももらっとこ」
「ちゃんと御伽のも残すって。ほら、音も食べよう」
すすめるばかりの音雪に、嵐が皿を近づける。
「もぐもぐ……今年も大成功でしたねっ」
「だな」
音雪が見せるのは、青のグラデーションとひまわりの葉書。
嵐もにんじん色の葉書を見つめ、やわらかく微笑む。
「音も嵐も良いもん作ったな」
目を細める御伽の手にも、白地に露草をあしらったシンプルな葉書がある。
どれも、作り手の『らしさ』がにじんでいる。
そうこうするうちに、今年の学園祭ももうすぐ終幕。
「1年後も変わらずお前らと居れればいい……なんて、らしくねぇか」
「ま、一緒なら退屈しねーんだろうな」
苦笑する御伽に、嵐が肩をすくめる。そんなやりとりに、音雪も笑う。
「来年も露草庵で参加するなら、私お手伝いするから! 絶対!」
皆と共にいられる未来を思い、微笑み合う3人だった。
後夜祭。
それは、次の学園祭の前夜祭でもある、のかもしれない。
作者:七尾マサムネ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年8月4日
難度:簡単
参加:33人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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