学園祭2015~お残し禁止! 作って食べ切れ屋台裏

    作者:六堂ぱるな

     7月19日、そして20日。
     生徒たちの心と力をこめたクラブ企画に水着コンテスト、2日間にわたる愛と青春と若干のカオスで盛りあがった学園祭も、遂に終わりを迎える。
     けれど学園祭の夜は始まったばかりだ。
     いざ、打ち上げに参陣すべし!

    ●なんとしても食べ尽くせ
     校舎の傍に作られた特設屋台通りでは、まだ残る熱気の中を生徒が駆け回っている。屋台の撤去は明日だが、今日のうちに後片づけを済ませなくてはならないのだ。
    「屋台やるのもたいへんなんだな」
     ファイルを抱えた埜楼・玄乃(中学生エクスブレイン・dn0167)に連れられ、宮之内・ラズヴァン(高校生ストリートファイター・dn0164)がきょろきょろ見回した。
    「この暑さだ。食品の傷みも怖いから、食材は使い切らねばならん」
     残った売り物はともかく、材料をそのまま明日には持ち越したくない。今日のうちに皆で食べてしまうのがミッションだ。
     食材が片付けばいいので、ピザでもお好み焼きでもリゾットでも雑炊でもパスタでもうどんでもなんでも結構。とにかく何かの『料理』にして食べてしまえばいい。
    「日本には闇鍋っていうクレイジーな料理があるんだってな……」
    「それはフリか、先輩?」
    「目が笑ってねーぞ玄乃!」

     打ち上げを兼ねた食材使い切りパーティ。
     新レシピのお披露目に、あるいは小腹がすいたのでちょっとつまみに。
     ご来訪をお待ちしています。


    ■リプレイ

    ●作れ! そして食べろ!!
     雄々しく一番乗りは【BB団】であった。
    「せっかくの食材が余って処分だなんて、ご当地怪人が激怒するような話はナシだ。さあ、いくぞみんな! 一人残らず食い倒れるまでついてこい! 名付けてオペレーション・ボーダー!」
     高らかな理央の宣言とともに状況開始である。
    「いざ行かん、最後の戦いへ……!」
    「行きます……!」
    「作戦なんて知らないけれど、一杯食べるぞーっ」
    「まぁ食材を無駄にしないのはよいことですね」
     名月が、椿が、くしなが、そしてアレクセイと仲間が続く。
    「初めての学際楽しかった! だからもうちっとみんなで余韻を楽しむぜ!」
     実はたくさん食べられない稀星も名乗りをあげると、くしながうんうん頷いた。
    「楽しかったですねぇ。あんまり回れなかったのでここで遊びましょうっ」
     さて、材料を見回してみるとこれがずいぶん多岐にわたる。
    「いっそ合わせてカレー鍋にしようか。カレーの味でぬりつぶせば味の不協和音はかなり抑制できるもんな」
    「カレーなら色々いれてもおかしな味にはなりにくいね」
    「あ、うんいい考えだと思うよ。カレーおいしいもんね」
     理央のカレー万能説に名月も了承、桃も同意した。明らかにカレーに向かない材料をよけた桃がサラダを作り始める。
    「じゃあオレサイドメニューにしよーっと。なんでもかんでもたこ焼きのタコの代わりにしちまうか。そうだ、たこ焼きにカレー入れるか!」
     稀星のチャレンジャーな発言にくしなが即座についてくる。
    「たこ焼きならば任せろーっ! 色々入れて、一杯食べましょっ♪」
    「他の粉物も作れるんじゃないだろうか……よし、ならば私はカレーたこ焼きに対抗してカレーお好み焼きだ!」
     名月までもがそう言いだし、なんだか状況は混戦模様になってきた。
    「ところでこーいう場所で材料が危険を犯さないチキンはノー! 冒険してなんぼでしょーっ!」
     稀星がカレーを入れたたこ焼きを量産し、くしながたこ焼きの中に『冒険した材料』をぽいぽい投入する。サラダを作り終えた桃がくしなの調理に気がついて仰天した。
    「あ、たこ焼きも作ったんだ……ってたこ焼きもカレーに入れるの、くしなさん!?」
    「わたくし、知っているわ。お鍋のコツはね、火の通りにくい物から順番に入れていくのよ。火の通りにくいものっていうのが、わかんないけど」
     オルゴールもお手伝い。さまざまな誤解からたこ焼きやお好み焼きの一部がカレーに投入された。料理に手を出すと危険なので、無言の椿がくるくると食器を並べたりお冷を置いたりお手伝いに精を出す。
    「よーしみんなー! できたぞー!」
    「……いいにおい……カレー……」
     理央がテーブルに鍋を持ってくると、香ばしい匂いにつられて椿が着席した。
    「いただきます……」
     手を合わせて呟いた椿が食べ始める。ひょっこり出てきたたこ焼きを、暑さと熱さと戦いながら食べ進め続けた。しかもえらい勢いで。
    「このちっちゃい鶏肉は焼き鳥かしら? 唐揚げとかフライドポテトとか入ってるけど結構合うの」
     オルゴールが冷静に出てきた具材を分析すると、名月も首を捻った。
    「普段は入れないような食材も入ってて面白いな。ん、これは……餃子かな?」
    「すくえばすくうほど怪しいものが……。たこ焼きやらお好み焼きが入ってるカレーなんて初めてですよ……」
    「今川焼? よく知らないけどわたくしが食べるから大丈夫よ」
     動揺激しいアレクセイの言葉には、オルゴールが平然と答える。
    「いやだからって今川焼きを入れるのはやめましょうよ……。ものっすごい適当に鍋にいれましたね、理央君! 甘い物は別枠にするくらいしてください!!」
    「いや甘いモンなんか入れてねーよ! ちゃんと『ヤバいものにならないよう留意しながら』って書いたもん! ね、そうだろ?!」
     糾弾された理央が、誰に訴えているのか謎なことを叫ぶ。うんなんか坂道を転がるように色々入っちゃったけど理央のせいじゃない多分。
     カレーに入っていなかった方のたこ焼きやお好み焼きも中からカレーがとろり、くしなの作ったたこ焼きからは牛スジとかしらたきがはみ出て、オルゴールはもちろん無言で食べ続ける椿も気にしていない。
    「キショーのたこ焼き? もおいしそうなの。外がかりっと中がカレー……カレーにソースかけて食べるのって初めて。ナツキのお好み焼きはソースのいらない味。おいしいの」
    「ほらほらあーん」
     くしながトマトはみ出るたこ焼きを仲間に勧めて回る。
    「口直し用にかき氷頂いてきました。口の中辛くなったりしたらどうぞー」
     気遣いのアレクセイが人数分のかき氷を持ってくる。
     その後ろでこっそり、桃と稀星がじゃがバターを持ち寄っていた。
    「え、稀星くんもじゃがばた作ってたの?」
    「なんだ、同じこと考えてたのな!」
     チーズの乗ったじゃがバターと塩辛の乗ったじゃがバター、二人だけのはんぶんこ。笑顔を見合わせる。
    「写真撮らなくちゃっ! 両手に華は貰うぞーっ!」
    「……用意……出来まし……ひあっ?!」
     くしなが椿とオルゴールに抱きついた。メイド服を脱いで、水着にパーカー羽織ったとこだった椿の顔が赤くなってわたわた。桃はバンドゥとショートパンツにパーカーを羽織り、黒いパレオのついた水着でオルゴールも微笑んだ。
    「学園祭、初めてだったけど最後まで楽しいのね」
     楽しいひとときをカメラにおさめて、後夜祭の笑顔を焼きつける。

     【赤松式地下リング】では今まさに、闘争が始まろうとしていた。
    「よーっし、コロナ! 料理で勝負だぜ!!」
    「ふ、このボクに勝負を挑むだなんて良い度胸だ」
     火花を散らす悠とコロナ。
     鶉は手際よく、よいダシの取れた〆のうどんを作っている。キャベツとあまった食材を混ぜ煮て簡単に美味しくできあがり!
     悠のピザはトマトソースを塗ってハムや卵等を乗せて、缶詰や果物も乗せ、手が滑ってインスタントコーヒーや胡椒が零れたが、チーズが何とかしてくれるとそのまま焼く!
     コロナはヘラを使って豪快に肉野菜炒めを鉄板で焼いていく。炒めものはスピードと火力が命! パパっと味付けして野菜が萎びる前に皿に移して完了。
    「ルチルは料理審査役……いっぱい食べる、ね」
     ルチルはてきぱきとお皿や全員分の飲み物などの準備を済ませた。
     コロナの肉野菜炒めに次いで、悠のピザと一緒に来たのは、辛党の鶉仕様、真っ赤になった特製うどん。
    「鶉の作ったの、すっげー辛い気がするのは気のせいか? ていうか赤っ!」
    「お好みに応じ唐辛子をたっぷり……と」
     悠の悲鳴をよそに、ルチルには一番美味しいところをプレゼントする鶉。
    「はい、あーん♪」
     素直にモグモグすると、ルチルもお返しにアーンで悠のピザを返した。
    「……この行為の意味は?」
     返してから首を傾げるルチルである。ホワイトボードを取り出し『オプションが紅い、他の薬味も欲しい。キャベツ美味しい69点』。
    「うん、これは来年は厨房デビューあるな」
     奇蹟的にセーフな部分のピザを食べる悠の言葉を真に受け、一切れ取って口にしたコロナは速攻で飲み物で流し込んだ。ルチルがホワイトボードを掲げる。
    『不味い0点。生地がビチャビチャになってる不味い』
    「来年も悠君は接客役決定だね」
     ルチルから貰えるならどんなものでも美味しく頂ける鶉、スゲェ。不味いを二度言われた悠が肉野菜炒めに手を出す。
    「コロナのは……、むっ、割と食える……だと!?」
    『普通の家庭の味。野菜シャキシャキなのは好評価。65点』
     ルチルからも高評価。頷いたコロナが、うっかり鶉の真っ赤なうどんに口をつけた。
     そのまま昏倒。
    「って、コロナ大丈夫かー!? メディッーク!」
     悠が絶叫したが、メディックがいない! 鶉がてへって感じで微笑んだ。
    「間違えて私用の皿を配ってしまいましたね!」
     倒れたコロナの看病をしながら、鶉がルチルにそっと問いかける。
    「楽しかったですか、学園祭は」
    「鶉や皆と一緒、楽しい」
    「私は今が一番ですかね。……ルチルさんと温かいひと時を過ごせておりますので♪」
     こうして後夜祭は和やかに過ぎて行った。
     後にコロナは「食べた後の事はよく憶えてない」と語ったという。

     十織と千慶、ミッション参加を前に一言。
    「最初に言っておこう。俺は料理ができない」
    「そうそう最初に……ってお前も料理できねぇのかよ!」
    「え、十織もできねぇの? マジかよ」
     初っ端からイヤな予感しかしない。
     とはいえ材料はここにあるだけ。よっぽどな組み合わせにしなければ大丈夫なはず!
    「煮るだけ料理の代名詞鍋にしてみた」
     千慶の出した見た目美味しそうな料理を、口に入れた十織が吹き出しかけた。
    「ちょ、何入れたらこんな味になる?!」
    「何って……や、焼きそば。締めのうどんっぽくなるかと期待したけど」
     むしろ遠のいた。
     素材の自己主張が激しい鍋+ソース味の焼きそば。結果は御想像のナナメ上をいく。
    「薄まったソースがかなりマズ……って八槻さん顔怖い!」
     千慶が悲鳴をあげた。
     十織が笑顔である。時に笑顔はどんな顔よりコワい。
    「ファミレスの全混ぜドリンクを制覇した俺たちならやれるはずだ」
    「あぁ確かに、あのドリンクに比べりゃマシ……か……?」
     気が遠くなった顔で千慶が半分ぐらい同意した。ていうか全混ぜドリンクって夏休みの自由研究によさそうですね。
    「食うよな? ホラ、口あけろお前の分だぞ」
    「ごめん。ごめんてほんと。自分で食えるんで勘弁してください……」
     ガッツリ二人分ある鍋を前に、千慶が弱々しく呟いたという。
     合掌。

     【保健室】のメンバーは学祭お疲れさまでした&夏己の新歓こみ。
    「俺もなんか手伝った方がいい? チキラーしか作れねぇけど」
    「葉は座ってヴィッツやきしめんと遊んどいて」
    「よろしくねぇ」
     小次郎きっぱり。夏己はにこり。
     期待に目を輝かせるきしめんとヴィッツを前に葉は思った。どちらももこもこして可愛いのだが、夏はやっぱり暑そうだ。
    「どーだ? ちょっとは涼しいかー?」
     団扇でぱたぱた二匹を扇ぐ、気遣いの葉である。
     作り始めると、カレーを作る小次郎の手際がすごい。びっくりしたが、ここは夏己も女子力を見せねばなるまい。
    「ボクは肉じゃが。女子力って言ったらコレっしょ!」
     あんま得意そうに見えねーんだけどとか思った小次郎だが、いやいやコイツ女子力高そうだしと思い直す。女子力の定義について想うところある葉も、とりあえず夏なので隅っこに置いておくことにした。
    「カレーってすごいよな、何入れても美味いじゃん」
     大好きなカレーを語る小次郎であるが、カレーが魔物になっているブースもあるのでコメントは控えさせて頂きたい。
    「よっし完成! 残さず食えよ!」
    「はい。こじろーちゃんと葉くん、どうぞー」
     出てきたのは美味しそうなカレーと若干ぼろぼろの肉じゃが。
    「ほいほい、おつかれー。そういや、星倉とこうして話すのはじめてか。改めて、ニノマエですよっしくよっしく」
    「突然ひょこっとしちゃったけど、保健室でたのしーくやらせて貰いたいなぁって。よろしくなのだ!」
     改めてご挨拶を終えて皆でごはん。きしめんとヴィッツは犬と猫なので、小次郎からはカレーに入れ忘れたリンゴ、夏己からはちょっと歪なわんにゃん用クッキーが貰えた。
    「こじろーちゃんのカレー美味しいねえ」
    「祭りの後ってどこか切ないけど、また祭りの日は来るだろう。また皆で遊ぼうぜ!」
    「終わったら夏休みだろ、さみしいなんて言ってるヒマねぇよ。どっか遊びに行こうぜー」
     元気いっぱいの夏己にちょっと感傷的な小次郎、葉が夜空を見上げる。
     まだまだ夏は終わらない。

     千巻と樹は屋台用の鉄板を確保して焼きそばを作ることにしたようだ。
    「この前のスイーツ食べ放題には行けなかったから、その分ここで楽しみたいわ」
    「スイーツ食べれなかった分、いっぱい食べるよーっ! 焼きそばいいね! お祭りって感じ!」
     気合いの入る樹に頷いて、千巻も準備開始。材料に手を伸ばす。
    「キャベツとかもやしは定番だけど、千巻ちゃんは何か入れたいものってある?」
    「かまぼことか入れるの好きだよぉ」
    「わたしは目玉焼きとじゃがいも」
     びっくりの千巻は樹の手元に興味津々。出先で食べてハマったという樹の話を聞きながら、気になるのは手際のよさ。
    「手馴れてるねぇー。やっぱり、お料理担当は樹ちゃんなの?」
    「だいたいはわたしが作るけど、作ってもらうこともあるわよ」
     分けっ子するなら別の味のほうが楽しいから、千巻は塩やきそばにした。
     できあがった焼きそばを二人ではんぶんこ。
    「じゃがいものほくほく感と、目玉焼きでスペシャルな感じするっ」
     初めての味に千巻が歓声をあげると、樹もさっぱりした塩焼きそばが美味しかったようで笑みを浮かべる。
    「シーフードとレモンって夏っぽい組み合わせでいいわね。わたしも作ってみようかしら」
    「賑やかに食べる料理って、めっちゃおいしいねぇ」
     二人で顔を見合わせて、満面の笑顔。遠くで花火の音が鳴る。

     グルメストリートから離れてしまった夜野がとぼとぼと歩いてきた。
    「おなかすいた。……にく……たりない」
     そんな彼の眼に飛び込んできたのは、屋台裏で料理にされるのを待つ材料の数々。そしてため息をつく流希だった。
    「いやはや、凄い量になっておりますねぇ……。しかし、これだけあれば色々作れますので……」
    「たべものいっぱいある! とにかく、たべればいいの?」
     尻尾を振りながら突撃した夜野が喜びの声をあげた。ポケットにはお土産のカレー粉。ここには肉も野菜も色々あって。
    「そうですよ。ここは一つ、クレープをっと……」
     そこで流希は気がついた。どう見てもお腹をすかせた夜野。
    「甘い物はちょっと……? と言う方には、こちらのフランクフルトのあまりと、広島焼きの具材のキャベツで作ったオカズクレープなんてどうですか……?」
     熱烈に頷く夜野に、オカズクレープから作り始める流希。夜野も隣で甘口、辛口、中辛の3種同時にカレーを作り始める。口調のわりに手早くクレープを作った流希が夜野に食べさせ始めた。
    「リクエストがあれば何でも作りますよ……」
     うまうまと食べ続ける夜野、自分で作ったカレーも同時進行で食べる。
     結果として残念な料理になった人たちには、ここはカレーとクレープの救済ステージとなったのだった。

     こうしてお残しの許されない戦いにも幕が下ろされた。
     余った材料は見事に使い尽くされ、どんな形であれ皆のお腹に収まったのである。
     後夜祭、お疲れさまでした!

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月4日
    難度:簡単
    参加:21人
    結果:成功!
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