学園祭2015~一枚いっとく?

    作者:呉羽もみじ


     2015年7月20日の夕方。今年も盛り上がりを見せた学園祭が終わろうとしている。
    「楽しい時間は、すぐに終わっちゃうよねー。寂しいなー」
     お行儀悪く、テーブルの上に顎を乗せた黄朽葉・エン(ぱっつんエクスブレイン・dn0118)は口を尖らせながらぶーぶーと文句を垂れている。
    「時間が過ぎちゃうのは、灼滅者やエクスブレインでもどうにもできないからね。どうしようもないよ」
     後片付けの手を休めると、水上・オージュ(実直進のシャドウハンター・dn0079)はエンの肩をぽんぽんと叩きながらたしなめた。服が汚れないように、割烹着を着て掃除をする姿は母親の風格すら感じられる。
    「お母さん、俺まだ終わりたくないよ」
    「誰がお母さんだよ」
    「俺明日から頑張るから、もう少しだけ遊ばせてよお母さん」
    「だから、母さんじゃないってば」

    「――とゆーワケでぇー」
     勿体付けるように一度口を閉じる。指を頬に当て、首を傾げ可愛らしく微笑んでみる。
    「今年もピザパーティやらない?」
    「ちょ、オージュ! 俺言おうと思ってたのに!」
     エンの勿体付け大作戦、大失敗である。
    「実は去年と一昨年も粛々と厳かに整然とやってたんだけど、今年もピザパーティ、やっちゃおうと思うんだ。
     具材は学園祭の売れ残りや、材料の切れ端とか。もちろん、ピザパーティの為に用意したものでも問題ないよ」
     ピザは非常に慈悲深く、寛大だ。個人で楽しむものならば、多少カオスなものでも温かく迎え入れてくれるだろう。
     生地とチーズはエンとオージュが用意している為、皆は材料と空腹だけ持参すればピザパーティに参加可能だ。
    「ピザを焼きたいって人もいるかな? 火傷に注意してくれればピザ焼き体験もありかもしれないね。
     今年の学園祭はピザで絞め! って人はぜひぜひ遊びに来てね!」
     エンはそう言い終えると、胸に手を当て仰々しくお辞儀をすると、ピザ窯の方へと走って行った。
     ピザ窯も、エンもオージュも準備は万端なようだ。


    ■リプレイ


     【漣波峠】の面々はそれぞれのピザを作り始めていた。
    「僕、ピザ作りってはじめて! 保おにいちゃん、わくわくしちゃうねっ」
    「ほんま、わくわくするね、詠さん」
     はしゃぐ月夜野・詠を微笑ましく思い、八千草・保は作業の手を一旦止めて相槌を打った。
     手作りのバジルソースを生地に塗り、タマネギにシーフード。後はチーズを……と、月夜野・噤と目が合った。彼女はチーズをとにかくたっぷり乗せたいらしく、自分のピザのみならず、他の人のピザにもチーズを乗せようと機会をうかがっていたようだ。
    「ボクのピザもチーズお願いしよかな?」
    「! のせます、です……」
     保に頼まれ噤はぱっと目を輝かせる。詠と共にぱらぱらとチーズを乗せ始めた。
     その隣では割烹着を着た五十鈴・乙彦がたまごたっぷりピザを作成していた。
     スクランブルエッグに温泉卵。これなら肉が苦手なあいつも食べられるだろうと、当の本人である遠野・潮に視線を送れば、「ありがとう」と照れ臭そうに笑顔を見せる潮の姿があった。
    「サラミ、ハム、ベーコン、ペパロニ! あと生ハム!!」
     楽しげに材料を読み上げながら生地に乗せるのは風峰・静。トマトソースで赤く染め、赤茶色になったピザを見て思わず……。
    「風峰、よだれが出ているぞ」
    「焼きあがるまで我慢するよ……」
     乙彦の突っ込みに慌てて口元を拭うと、ピザ焼き上げ班の潮にピザを差し出す。焦がさないように微調整を繰り返しながら潮はピザを焼く。
    「どうかなぁ?」
     小首を傾げる保に「問題ねえ!」と親指ぐっ。
     皆守・幸太郎の作ったカレーソースの焦げる香ばしい香りが辺りに漂う。
     しかし、ただ食べるだけでは面白くない。これからが【漣波峠】の真骨頂だ。
    「……こんな感じ?」
    「あぁ、それだとバランスが悪い」
    「ええちーむわーくです、ふぁいとー」
    「情熱のピザピラミッドです……です」
     幸太郎の指示の元、ピザを積み上げ、彼らはピザピラミッドを作るという壮大な計画を立てていたのだ!
    「にしても本当にピザミッドを造ったら約115億枚。25兆円もかかるが……」
    「……億……兆……」
     国家予算的金額に噤が目を丸くするひとこまもあったが、完成したピザピラミッドは圧巻の一言。しばらく皆はピラミッドを眺めていたが、
    「目の前に美味そうなピザがあるんだ。細かい計算抜きに食って楽しむしかないだろ」
     幸太郎の言葉を合図にしたかのようにピザの交換会が始まった。
    「いただきますっ」
    「詠ちゃん、私もチーズいっぱいだよ、おいしそう」
    「北海道ポテトウマそうだ。ベーコン少ない所貰って良いか?」
    「ボクのもお召し上がりくださいなぁ」
    「ねーねー、ちょっと交換しない?」
    「俺のピザとも交換しないか?」
     ピラミッドはまだなくなる様子はない。しかし、焦ることはない。後夜祭は始まったばかりなのだから。

     互いに好物を持ち寄れば、相乗効果でより美味しくなるのではないか。
     夕霧・千影がそう言えば、自分も同じようなことを考えていたと柳井・遼平は笑う。
     千影の好きなモッツァレラチーズ。遼平の好物のシーフード。バランス良く配置しながらピザ作りは進行していく。
    「学園祭どうだった?」
    「今年はあんまり回ったりしなかったな」
     遼平の質問に、千影は肩をすくめて返事を返す。
    「それなら学園祭を満喫できなかった分、今からはしゃいでしまおうか」
    「後夜祭はまだ終わってないしね?」
     二人当時にくすりと笑う。そうと決まれば話は早い。美味しいビザでお腹を満たしたら、二人連れだって後夜祭を回りに行こう。
     今年は高校最後の文化祭だ。もっと思い出を作らなくては。
     文化祭をもっと満喫したいと思っている二人がここにいるのだ。相乗効果で楽しさは倍以上に増え、今からでも素敵な思い出をたくさん作ることができるだろう。

     マルゲリータにジャーマンポテトピザ、それに黄瀬川・花月が作ったヨーグルトの酸味が珍しいドイツ風ピザを【赤月館】の面々が囲む。
    「学園祭お疲れー」
    「おつー」
     蒼間・舜と蒼間・夜那の音頭と共にピザパーティは始まった。
    「セレはもしかしてこういうのは初めてか」
    「食べるのは、初めてじゃないけど、作るのは初めて……」
     花月の質問に、セレティア・アシュタルテが返答する。
     しかし、そんな差し障りのない話をする為にピザパーティを開催した訳ではないのだ!
     ちらちらと機会を窺いつつ、やがてその時はやってきた。
    「ほづみん、あの占いの結果どうすんのー?」
    「まぁ、アレだよね。ガタイのいい男と薄幸系美少女が同じ寮の同室って時点で犯罪臭しかしないよね」
    「ブフォァ!? な、なんで俺とお嬢の関係の話になるんすかっ」
     舜と夜那のからかい交じりの問いかけに、八月一日・旭は盛大にむせた。しかし、こんな程度で攻撃の手を休める二人ではない。
    「ほら。責任取らないとさ?」
    「清いお付き合いしてやればいいじゃん?」
    「それじゃまるで俺とお嬢の関係が清くないみたいじゃないっすか!!」
    「……諦めが肝心とはよく言ったモンだ。腹は括ったのか」
    「括れって何をすか!」
     花月の追撃に、さらに旭は動揺する。
    「……占いの結果……あさひ、次第?」
     しばらく黙っていたセレティアがおもむろに口を開く。口を噤む一同。
    「わたしは、すきだから……今までと同じように、一緒に居られるなら、それでいいのだけど、な」
     じっと旭を見つめ。
    「それは、だめな、こと?」
    「いや、あの、その。お、俺は、その……。おれも、スキ、デス、ケド……」
     色めき立つ一同。首を傾げるセレティア。真っ赤な旭。
    「すいません、逃走させて下さい!!」
    「舜、オレのピザ確保しとけよ!」
     脱兎のごとく逃げ出した旭を、槍を持った夜那がダッシュで追いかける。
    「吹っ切れちゃえば幸せが待ってるのに。ね、花月?」
    「舜も私の食うか、玉葱苦手じゃなかったよな?」
    「はむはむ」
     リア充オーラを充満させる舜と花月。マイペースにピザを食べるセレティア。ちょっとしたカオス空間である。
     さて、旭を確保した夜那がセレティアの前に旭を座らせる。
    「お、お嬢、あの……」
    「あさひ……わたしに、ついてきなさい」
    「!!」
    「……ダメ?」
     旭、撃沈。完全に沈黙しました。
    「セレは思いの外男前なんだな……」
     呆れたように呟く花月の声ははやし立てる舜と夜那の声にかき消され、当人たちに聞こえることはなかった。

    「このピザ作りも今年でついに3年目か……」
    「これがないと学園祭って感じがしないレベルですよ」
     感慨深げに遠い目をする東谷・円とミカ・ルポネン。一昨年はありあわせ。去年は彩りに拘った。結果――惨敗。
    「今回こそ超絶ウマイのが出来るはずだぜ!!」
     三度目の正直とは俺達の為にある言葉だ! とでも言いたげな様子で二人は猛々しく食材を取り出した。
     材料は、円は餅に溶けるチーズ。ミカはボーロとなめこ。
    「マッシュルームがありなら、なめこもきっといけますよね!」
    「案外ふつーに美味しそうだが……なめこ……色んな意味でドキドキじゃねーか」
     期待に目をきらきらさせるミカと、きらきらと眩しい額の汗を拭う円。
    「だが安心と信頼のチーズ神が何とかしてくれると俺はそう信じているぜ……!」
     なめこを覆い隠すようにチーズと餅を乗せる。さあ、準備は整った!
    「じゃあオージュ、あとはシクヨロー☆」
    「また今年もすっごいのを――あれ?」
     ピザを受け取った水上・オージュがピザを二度見する。
    「美味しそうかも……」
     焼けたら一口味見させて貰おうかな。オージュはそんなことを思いながら釜にピザを放り込んだ。

     寄り添うように調理しているのは、クリス・レクターと渡来・桃夜。
    「僕がタケノコ、トーヤがキノコね」
     材料を分担して担当するのは、今年のクラブ企画になぞらえた為。クラブではキノコvsタケノコで熾烈な争いが繰り広げられたとか。
    「やっぱタケノコだよねー」
    「確かにきのこ負けたけど! 負けたけど! ……いいんだもん。どうせ負けたもん」
    「ごめんごめん! タケノコピザあげるから!」
     拗ね始めた桃夜の頭をクリスは慌てて撫で、機嫌を取る。
    「止めて、僕の為に争わないで! ……なんちゃって」
     仲の良さそうな二人を見て、通りかかったオージュが茶化す。
    「企画に来てくれてありがとう」
    「すごく楽しかった。こちらこそありがとう」
     笑顔のクリスに笑顔を返す。
     さて、キノコ、タケノコに桃夜の好物のエビ、クリスのリクエストの枝豆を乗せピザは完成した。
    「エンもよかったら食べてみてよ」
    「やった、ありがとー!」
     桃夜が黄朽葉・エンを呼びパーティが始まった。お味は当然百点満点。
    「うむ。花丸をあげましょう」
     威張り腐った様子でエンは二人に拍手を贈った。

    「あとは私に出来ることはー……ひとまずイスに座ってみましょうかね。いやァ休憩ですよ、休憩!」
     うそぶくようにそう言うのは【渦巻】の夏目・真。高見の見物としゃれこんで、渦紋・ザジの手捌きを見守った。彼の手は魔法のように手早く材料をカットしていく。
    「俺は生地伸ばしでもしとこうかな」
     菅井・陽向が呟き、生地を棒でのばしてのばしてのばし、て……。
    「あっ、形が……なんだか、いびつに」
    「生地の形はきっと具材で目立たなくなるので大丈夫です、よ」
     すかさず真がフォローをし、出来あがった生地に材料を乗せるのを手伝い始めた。
    「もっと辛くしようぜ」
     ザジは生地の1/4にチリソースをたっぷり塗ってご満悦。チリソースの部分を不安そうに見つめていた陽向に何かが閃く。
    「最近はハイブリットが流行らしいよ。料理もハイブリットの時代だよね。ってことでピザにわさびも入れとこう!」
    「これは新境地です。なんだかドキドキしますね」
    「ハイブリットってなんかちがくねぇ?」
     とにもかくにも出来あがったピザを皿に乗せ、通りかかったエンにピザ焼きを依頼する。
    「ハイブリットピザ作ってみたんだ。上手く焼き上がったらあげるね」
    「この緑色は……バジル? 後で分けてくれるって件、忘れちゃヤダよー」
     バジルとわさびの間違いを食べる前に指摘してあげたかどうかは謎のままである。

    「ピッツァおいし!」
     限界まで肉を乗せた肉ピザを尾守・夜野はいたく気に入り、今度はもっと肉を乗せようと張り切っている。
    「ピッツァピッツァ! 肉、肉! ピッツァ!」
     拍子をつけながら肉をごりごりと乗せていく。
     その隣では、自他共に認めるピザの申し子、アイスバーン・サマータイムは今日も今日とてピザ作りに勤しんでいた。
     ピザを食べるに友はいらぬ。独り孤高に食べるが至福。……と思っていたのかは不明だが、今年もひとりピザ作りを満喫していた。
     つつがなくピザを作り終えカットしようとした時、彼女に天啓が降りた。
    (「ピザさんの丸い形は、仲良く分けれるようにできてるからじゃないかな?」)
     さらにその隣では、ヘイズ・レイヴァースがせっせと京野菜ピザを作成していた。
     九条ネギを練り込んだ生地の上に水菜や京トマト、豚小間にネギを散りばめる。白味噌ソースにチーズをたっぷり振りかけて。香ばしい香りに生唾ごくり。溶けたチーズがピザカッターに絡むのに苦労しながらも、何とか切り分けまずは一口。
    「……!」
     出来栄えに思わずにんまり。せっかくだからお裾分けとエンとオージュにもピザを振る舞った。
    「これはなんて格調高い味……」
     白味噌の上品な甘みにエンも舌鼓。
    「皆さんもどうぞであります」
     近くにいたアイスバーン、夜野にも声をかける。
    「えっと、よろしければ食べますか?」
    「おいし、おいし!」
     アイスバーンはアイスクリームやフルーツを乗せたデザートピザ、夜野は憎々しいほどに肉肉した肉の塔ピザを振る舞う。
    「さすがピザさんです。どんな食べ物さんでも美味しくしちゃうなんてとってもすごいですよね?」
    「え? あ、うん」
     アイスバーンがピザに対する並々ならぬ思いを隣に座っていたオージュにぶつける。当のオージュはピザの申し子の熱意にちょっぴり押され気味な様子。
    「えと、その……ごめんなさいです。よろしければ食べてください」
     正気に返った彼女は照れたように顔を赤くして、ピザを置いてどこかに逃げてしまった。
    「オージュ、女の子泣かしちゃダメだよー」
    「もう、誤解させるようなこと言わないで欲しいな。でも、なんか申し訳ないし、アイスバーンさんを追いかけてくるよ。あ、ピザは残しておいてね!」
     慌てた様子でオージュが席を立つ。二人を見送り試食会は再開された。

     乾杯の音頭の前に毒見を……と手を伸ばしていたが、村雨・嘉市のひと睨みで白・理一はさっと手を引っ込め愛想笑いを浮かべる。
    「学祭お疲れ様! 皆のおかげで楽しい2日間になったぜ! そんじゃあ乾杯!」
    「かんぱーい!」
     【蝉時雨】の打ち上げパーティが賑やかに始まった。
    「それ何が乗ってるの?」
     興味津々で七峠・ホナミが指さす。
    「チーズましまし、黒コショウだ。炭酸がすすむぞ」
     二夕月・海月の勧めるままに口いっぱいに頬張れば、とろりとしたチーズの中にぴりりと走る辛みが食欲をそそり、何枚でも食べられそうな逸品だった。
    「オーソドックスなのも外せねえな」
     嘉市が食べているのは、海月が作ったトマトにソーセージといった定番のものを乗せたピザ。トマトの酸味があとを引く、これもまた格別の旨さだ。
     そんな嘉市は照り焼きチキンにマヨネーズを乗せた、若者垂涎のボリューミーなピザを作ったようだ。
    「一つもらっていい?」
    「俺もちょいとそっちのをもらってもいいか?」
    「ふふ、そんな風に可愛くおねだりされちゃ断れないよね」
     ホナミのおねだりに、嘉市と理一は快く応じる。
     ピザのお礼と、ホナミが差し出したのは果物やチョコレートをふんだんに使用したデザートピザ。
    「クラブ企画のパンケーキ用具材の残りを持って来たの」
    「甘くするって発想はなかったから驚きだ。なんだかクセになりそうな予感」
     普段クールな海月も初めて食べるデザートピザに心奪われ、頬が緩むのを抑えられないようだ。
    「甘いの食べるとまたしょっぱいのが食べたくなるものよね」
     ホナミの独り言に理一はしたり顔。パプリカやアスパラ等を彩りよく散りばめたベジタブルピザを差し出した。
     さて、食事が終わったら甘いものを食べたくなるのは定石だろう。
    「ピザもおいしいけど、喫茶で出してたわらび餅。狙ってたのに食べ損ねたなぁ」
    「今度作ったら持ってくるから」
     完売してしまったわらび餅を思い、海月が嘆くのを聞きつけ、嘉市がさっとフォローを入れる。
    「なら来年の楽しみにしておこう。楽しみを後にとっておくのもいいもんだ」
     微かに海月が笑みを見せ、視線を上げる。
     その瞳は既に未来を見据えているようだった。

    作者:呉羽もみじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月4日
    難度:簡単
    参加:28人
    結果:成功!
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