学園祭2015~夜空に輝く光の雫

    作者:春風わかな

     7月19日、20日の2日間にわたって開催された学園祭。
     たくさんのクラブ企画や水着コンテストなどで多いに盛り上がった時間は過ぎゆくのもまた早く。
     太陽が沈み、今年だけの特別な時間は静かに終わりを告げようとしていた。
     ――だが、学園祭の夜はこれから。
     楽しい時間を過ごした仲間たちと共に集い催す夏の宴。
     祭の余韻に浸りながら今、最後のイベントが幕を開けようとしている。


    ●7月20日、夜のグラウンドにて
     いつもの見慣れたグラウンドは打ち上げを楽しもうと集まった生徒たちで賑わっていた。 
     特別に火の使用許可の出ているこの場所では、キャンプファイヤーが設置され赤々と燃える炎が星空の下で揺らめいている。
     ――ねぇ、花火、しない?
     誰かの誘いから始まった小さな光の華がグラウンドのあちらこちらで宴に彩りを添えていた。
     見慣れた手持ち花火だけでなく、ネズミ花火や家庭用の打ち上げ花火、線香花火など、皆それぞれ好きな花火で楽しんでいるようだ。
     ――わぁぁ、ほらほら、見て!
     楽しそうにはしゃぐ声につられて夜空を見上げれば、大きな音とともにぱぁぁっと空が輝き鮮やかな光がきらきらと舞う。
     わいわいと賑やかな声に包まれ夜のグラウンドは昼間にも負けぬ盛り上がりを見せていた。
     火の取り扱いには十分注意をし、危険な行為をしないこと。
     この約束さえ守ればちょっとはしゃいだりしても大丈夫。

     ――きらきら輝く宴の想い出を皆で一緒に作りませんか?


    ■リプレイ

    ●歓喜の声、響く
     手持ち花火に打ちあげ花火。ネズミ花火、ヘビ玉、煙花火……仕掛け花火に線香花火。
     多種多様な花火に顔を輝かせる【光画部】の面々を前に、まぐろはにっこりと笑顔を浮かべ口を開く。
    「さぁ、思い思いに遊んで弾けましょう!」
     まぐろの声を合図にわぁっと皆、一斉に花火を手に取った。
    「2年連続入賞おめでとうございます♪」
     浴衣姿のいちごと由希奈が同時に花火に火を点ければ勢いよく火花があがる。
    「誰か、火を貰えないかしら?」
     玉緒は近くにいた武流と火を分け合えば、鮮やかな火花が夕闇を染めた。
    「打ち上げ花火なんか面白そうじゃん!」
     レイジが花火に火を点けるとパーンと大きな音とともに夜空にぱっと花が咲く。
    「え、ちょ、こっち来んといてー!?」
     カラフルなネズミ花火から必死に逃げ回る乃麻とあるなは追いかけっこ。
     思い思いに花火を楽しむ部員を見つめ、まぐろは楽しそうにぐるぐると花火を回した。
    「せっかくだし、記念撮影するか」
     武流が挑戦するのはデジカメのバルブ機能を使った花火アートの撮影。
    「椎葉センパイ、お手伝いしますっ♪」
     空がすいすいっと花火を動かすと夜空に『コウガブ』と文字が浮かびあがる。
     黄色と緑の花火を両手に持ったあるなが空に描くのはヒマワリの花。
     まぐろとレイジも協力して素材はばっちり。後は武流の腕次第。
    「武流くん、どう? ちゃんと撮れてた?」
    「おぅ、バッチリだぜ!」
     デジカメを覗き込んだ空とあるなは幻想的な花火アートにわぁっと歓声をあげた。
     ひとしきり手持ち花火で遊び倒した沙雪がふと思い出したように口を開く。
    「ねー、俺あれやりたいんだけど。パラシュート打ち出す奴……落下傘?」
     あったあったと嬉しそうに沙雪はパラシュート花火を設置すると火を点けた。
    「あれ? 何か飛んでる?」
     ふっと顔をあげた空の視線の先にはふわりふわりと漂うものが。
    「おおっ……落下傘!?」
    「あ! 待ってー」
     きゃっきゃと楽しそうにパラシュートを追いかける木乃葉と乃麻に由希奈はくすりと笑みを零す。
     傍らのいちごにちらりと視線を向ければ彼もまたパラシュートの行方を目で追っていた。
    「…………」
     どちらともなくそっと手を繋いだ二人の背後でカシャリとシャッター音が鳴り響く。ぱっと振り返れば、ベストショットに満足そうな面持ちの玉緒と目が合った。
    「まぐろさーん」
     手招きする仲次郎に呼ばれ、まぐろは「何?」と近寄っていく。
    「普通の花火もいいですがー、線香花火がどれだけ持つか勝負してみませんかー?」
     いいわよ、とまぐろは迷うことなく頷いた。
    「なら長く燃えた方が勝ちの勝負しましょう! みんなもどうかしら?」
     まぐろの呼びかけに皆も線香花火へ手を伸ばす。
    「あー!」
     賑やかな歓声とともにまぐろの悔しそうな声がグラウンドに響き渡った。

    「あ! 好弥ちゃん二刀流だ!」
     ススキ花火を両手に持った好弥を見て、織姫はいいなぁと呟く。
    「わたしね~好弥ちゃんみたいに両手で花火持って踊ってみるの夢なんだよね~」
    「面白そうっ、花火ダンスだね~」
     羨ましそうな織姫に夏奈が「はいっ」と花火を差し出した。
     色つき花火を手に持ちゆっくりと動かす夏奈の動きに合わせ、花火がキラキラと夕闇に輝く。
    「夏奈ちゃん、キレイ! ねぇ、これはどうかな?」
     周囲に人がいないことを確認し、器用にくるりくるりと回る織姫を光の輪が包んだ。
    「好弥ちゃんも、やらない?」
     はしゃぐ織姫と夏奈に誘われ好弥もくるんと回ってみた、が。
    (「――見てる方が、楽しい」)
     楽しげな少女たちの笑い声は途切れることなく続く。

    「付いた付いた!」
     嬉しそうにイーニアスの花火へ火を分け、三千歳は両手に花火を持ってぐるりと回した。
    「ニア見て見てー!キレイだよー!」
    「わぁ、すごい、綺麗だね……!」
     イーニアスも三千歳を真似て二本持ちに挑戦。
     急に風向きが変わったせいで花火の煙に二人揃ってむせたのもご愛嬌。
     1等星のように輝く大好きな人の笑顔と、きらきら光る花火。
     2人で作る想い出は、きっと忘れられない最高のもの。

    「すごく、綺麗で……眩しいです。ね」
     おっかなびっくり花火に火を点けたエリカだったが、闇に浮かぶ色鮮やかな火花にうっとりとした視線を向ける。
    「花火、きれいだね」
     花火は見ているだけでも楽しくて。
     やや緊張した面持ちのロアーも自然と口元に笑みが浮かんだ。
     少し大き目な花火に恐々火を点けた見桜も最初の音にはびっくりしたが。
    「これ、大丈夫だよね?」
     すぐに笑顔を浮かべて花火を楽しんでいる。
     楽しげな【魔法喫茶LEV】の面々を見つめるロジオンも満足気に頷き口を開いた。
    「皆さん、火傷しないようくれぐれもお気をつけくださ……あつつっ!?」
     言っている傍から、ロジオンの足にピョンと火花が勢いよく跳ねる。
     慌ててエリカがぽふぽふと叩いて火はすぐに消えた。
    「ロジーさん、火傷には気を付けてください……?」
    「ロジオンさん、大丈夫?」
     心配そうに見つめるロアーにロジオンは手を振って大丈夫と答え。
     締めの線香花火まで、まだまだ花火は尽きない。

     見知った顔を見かけ、ぱたぱたと駆け寄る百花の後ろを花火を抱えたエアンが追いかける。
    「百花ちゃん! エアンくん!」
     嬉しそうな夢羽の手を握り、百花は学園祭のお礼を告げた。
    「ねぇ、いっしょに花火しない?」
     百花の誘いに二つ返事で夢羽はOKし早速エアンに貰った花火に火を点ける。
     夢羽は満面の笑みを浮かべて「あのね」と二人に話しかけた。
    「ユメね、かき氷にハチミツかけるのがオイシイって初めて知ったの!」
    「それはよかった――ぜひ、今度は他の味も試して貰いたいな」
     エアンの言葉に「楽しみ♪」と夢羽はぱっと顔を輝かせ。
     少女たちは約束の指切りを交わす。

    「うにゃーッ!」
     パチパチと火花を散らしながら走るネズミ花火から逃げ回る長毛種のネコが一匹。それは猫変身した恢の姿。
     必死に逃げ回る恢を笑顔で見守りながら、昭乃はビハインドの総司さんと一緒に花火を楽しむ。
     一方、手持ち花火を空中で大きく揺らす勇弥が描く文字は『Phönix』。店の名前がパッと宙に浮かびあがった。
    「今年はこれもね! 恢と加具土はちょい注意ねー」
     さくらえが火を点けると同時に吹き出し花火が夜空を赤や緑に染め上げる。
     勇弥の背後でのんびりしていた加具土も吹き上げる火花をじっと見つめていた。
     鮮やかな吹き出し花火に目を細める靱だったが、「次は」と大量のヘビ花火に火を点ける。
    「ヘビ花火も楽しそうです」
    「そんなにつないで大丈夫かい?」
     瞳を輝かせる昭乃や心配そうな勇弥が見守る中、ずもももも、と勢いよく伸びてゆくその様はプチ八岐大蛇もどきとでも言うべきか。
    「よし、召喚成功!」
     よくわからない存在感を放つオブジェを前に、靱は強引に纏めようとするも。
     怪しげなオブジェを可笑しそうに突く玄さんの傍らで恢はちょこんと首を傾げた。
    「で、コレどうするんですか?」
    「え、そのまま飾っとけばー?」
     笑い声をあげてはしゃぐさくらえの笑顔はあっという間に皆へと広がっていく。
     ――締めの乾杯の珈琲を楽しむ時間には、まだ早い。

    ●笑顔、弾ける
    「わーい、花火キレイなのです!」
     両手に花火を持ってくるくると回しながらはしゃぐブレンダに負けじとアネラも対抗すれば。
     顔を引き攣らせた常盤が「あぶねーぞ!」と慌てて声をかける。
    「とっきーも一緒にやろうよー」
    「俺は……」
     鳴生に渡された花火を見つめる常盤の顔がぱっと赤い光で照らされた。
     何だろう?ときょろきょろと見回す仲間たちを空から見下ろしアメリアはくすりと笑みを零す。
     箒で頭上を飛んでいるアメリアに気付いた和茶が空を見上げて嬉しそうに声をあげた。
    「わぁ、アメちゃん、凄くキレイ!」
    「アメちゃんってば、粋なんだからぁ」
     それじゃ私もとアネラは手に持っていた花火を大きく空中で動かす。
    「アネラ、何書くです?」
     ブレンダたちが見つめる視線の先に次々と夜空に浮かぶ皆の名前。
     そして最後に浮かぶ文字は――『ありがとう』。
    「アネちゃん先輩……」
     瞳を潤ませ、アメリアはぎゅっとアネラを抱きしめる。その様子を見ていたブレンダの目にもうっすらと涙が浮かんでいた。
    「でも、ホラ、これからも絡むし! 遊ぶし! 俺さみしくないし!」
     鳴生の言葉に常盤と和茶がこくこくと頷く。
    「……クラブは離れちまうけどガッコーやめるわけじゃないんだし」
    「そうだよ、また学園で会えるもんね」
    「……そうだね」
     アネラはぐるりと【Lefua】の仲間たちを見回した。
     短い時間だったけれども、一緒に遊んでくれてありがとう。そして――。
    「それと、これからもよろしくね!」

     真琴さんはどれが良いかな?と七波が差し出した花火の中から彼女が選んだのは小さな手持ち花火。
    「こういう小さな花火もかわいいです」
     緑色の浴衣の袖を揺らし、真琴は夜空に花火で文字を描く。
    「前にお友達がやってるのを見て楽しそうだったので」
    「へぇー、僕もやってみようかな」
     真琴を真似て七波が花火で描いたのはハートマーク。真琴もこっそりと小さなハートで応える。
    「来年も一緒にまた来よう」
     七波の囁きに真琴が笑顔で頷いた。

    「……俺にとっては、七緒と響華さんがいてくれるのはとても幸せなのだが」
     そろそろけじめをつけるべきなのだろうな。
     勢いよく吹き出す花火を見つめ、玲仁はぽつりと呟いた。
    「天地、親離れする気なの?」
     だったら、と七緒は笑顔を浮かべて口を開く。
    「いつかお別れするなら、今のうちにいっぱいやりたいことしなきゃね」
     七緒はピンクの手持ち花火をぶんぶんと振り回し描くのはハートマーク。
    「すきー」とにっこり微笑む恋人の頭を玲仁はぐしゃりと撫でた。

    「久椚さーん!」
     希紗はぶんぶんと手を振って少女の名を呼び駆け寄った。
    「宇宙部杯、優勝おめでとう! これからみんなでお祝いさせて!」
     突然の発表に目をぱちぱちとさせている來未の手を引っ張り、希紗とヴィントミューレは宇宙部の仲間の元へと連れて行く。
     希紗たちに気付き、ひらひらと手を振る真理の傍では菜々乃と亜綾がロケット花火の準備を終えて待っていた。
    「わたし、優勝、したの?」
     きょとんとした顔で見つめる來未にヴィントミューレは手元の資料を捲り解説をする。ヴィントミューレの説明を聞きながら來未はこくこくと頷いた。
    「なるほど。でも、ビックリ」
     ぽそぽそと呟く來未を横目にヴィントミューレは久良に合図を送る。
    「これから久椚さんの優勝を祝って花火を打ち上げます」
     久良のアナウンスに來未は驚きを隠せない。
    「それじゃ、カウントダウン、いくよ!」
     久良はロケット型のペンライトで夜空に『3』と数字を描いた。
     続いて『2』、そして『1』!
     カウントダウン終了と同時に菜々乃と亜綾が花火の導火線に着火。
     勢いよくロケット花火が宙へ打ちあがる。
     花火を装着した烈光さんも嬉しそうに皆の足元を駆け回った。
    「改めまして、優勝おめでとうございます、久椚さん」
     菜々乃の祝いの言葉に來未はちょこんと頭を下げる。
    「ありがとう。花火、キレイ」
     口元を僅かに綻ばせ花火を見つめる來未に真理は嬉しそうに声をかけ。
    「來未ちゃんに笑顔で喜んでもらえて嬉しいな」
     慌ててすっと表情を抑える姿も可愛くて。真理は満足そうに微笑んだ。

    「是、これ……したい、です」
     玲が用意した花火を見て鍵人はぱっと顔を輝かせる。
     名前が格好良いという理由で鍵人が選んだのはドラゴン花火。
     だが、火を点けるや否や、噴水のように吹き上がる火花に鍵人も裄宗も思わず後ずさった。
    「ばしゃーって……あの、怖い、です……」
    「とてもあぐれっしぶ……で、これは、近寄れません……」
    「近寄らなくていいんですよ、こうして少し離れたところから見ていましょう……」
     どうぞ、と玲が差し出したススキ花火にも火を点けて。
     爆ぜる美しい火花をうっとりと見つめる。
     最後の線香花火もきっと――。
     まだ見ぬ花火に想いを馳せて、裄宗の口元に笑みが浮かんだ。

     ラシェリールとミストラルが持ってきた花火もすっかり遊び尽くしてしまい。
     残っているのは線香花火だけ。
     そうだ、と百舌鳥は集まった皆の顔を見回し、ゆっくりと口を開く。
    「線香花火するなら、皆で対決しようよ……!」
    「いいな、それは面白い!」
     乗るぞと元気よく参戦したラシェリールを筆頭に皆次々と参加を宣言していった。
    「こう見えてもこういうのは得意なんですよ」
     えへんと胸を張る楓とは対照的にミストラルは小さく肩をすくめて呟く。
    「でも、結局のところ運勝負なのにな」
     と、言いつつもミストラルも勝負にのるらしい。
    「対決ってことは、賞品とか罰ゲームって感じー?」
     首を傾げるメメメに百舌鳥は暫し考え込むとポンと手を叩く。
    「最下位の人は廃屋の草抜き手伝ってもらおうかな……?」
     すなわち最初に火の玉が落ちた人が負け。
     通りがかった夢羽や來未も誘い、いざ尋常に――勝負。
     じっとしゃがみ込んだまま一同はぴくりともせず。
     ただパチパチと火の玉が爆ぜる音だけが響く中。
     禅くんも、黒瑩さんも、小梅も。
     皆、息をするのも忘れてじっと線香花火を見つめていた。
    「……お、あれスゲーな」
     唐突にキィンが空を指さした方向へおっとりと楓夏が視線を向ければ、大きな音と同時に花火があがる。
    「まぁ……綺麗♪」
    「わぁぁ……!」
     歓声をあげる夢羽とともに頭上に輝く光の華を楓夏はうっとりと見あげるが。

    「ったく、驚かさないでよ、って――」
     口を尖らせるミストラルは線香花火へと視線を戻してアッと声をあげた。
    「いつの間に――落ちた?」
     落ちたのはミストラルだけではない。百舌鳥と、楓と、夢羽も。
    「誰が、最初……?」
     花火に気をとられていた時ゆえ、最初に落ちたのが誰かわからず、皆、残念そうに首を振る。
    「みんなで、やろうか……」
     苦笑いを浮かべる百舌鳥の顔を、夜空に咲いた大輪の華が優しく照らした。

    ●光、華やぐ
     ――紫炎の膝の上は紅葉だけの特別席。
     打ち上げ花火の始まるまでの時間、おやつをもぐもぐ食べながら、紅葉は学園祭の想い出を一生懸命、紫炎に語る。
    「あ、花火始まるの!」
     見て見て!と紫炎の膝の上ではしゃぐ紅葉が落ちぬように紫炎はぎゅっと彼女を抱きしめた。
    「うーわーあー、すごく綺麗!」
     紫炎は嬉しそうに懐に頬を擦り付ける紅葉をぱたぱたと扇子で仰ぎながら目線をあげる。
    「おー……綺麗だな……」
     浴衣姿の二人は眩しそうに夜空を彩る花火を見上げていた。

    「來未、あたしの休憩所へ来てくれてありがとう」
     お礼、と曜灯の差し出したハーブティは鮮やかな水色。しかし、レモンを垂らすと淡い桃色へと姿を変える。
    「不思議な、お茶」
    「マロウっていうの。面白いでしょう?」
     曜灯の言葉に來未はこくりと頷いて。
     ハーブティに鮮やかな夜の華が映し出された。

     大きな音とともにいくつもの花火がぱっと咲き誇る。
    「すごい……」
     じっと美しい光の花を見つめるアムスの傍らでリディアは「綺麗ね」と呟いた。
    「学園祭の終わりに相応しい華やかな花火ですよ」
     じっと花火を見つめる藍蘭の背後でチリンと涼しげな音色が響く。
    「……花火にはつきものかと思いまして」
     きょとんとした顔で首を傾げるアムスにたおやかな笑みを浮かべ、忍が掲げてみせたのは風鈴。
     夜風が吹くたびにチリン、チリリンと軽やかな音色が響き渡った。
    「そういえば、クラブ企画2位入賞おめでとう」
     祝いの言葉を告げるリディアに藍蘭は「ありがとうございます」と頭を下げる。
    「皆さんの協力もあってのものですよ」
     どうぞと忍が差し出したグラスを受け取って。
     【万華鏡】の4人が「乾杯」とグラスをカチャリと鳴らせばぱらぱらと光の雫が空から降り注いだ。

     花火を眺めながら語るのは学園祭の想い出。
     楽しかったことを我先にと語る奏恵と翡翠に負けまいと夢羽も身を乗り出す。
    「皆、学園祭を楽しめたみたいでよかったわ」
     にこりと微笑む律花が差し出したのはかき氷。
    「――本当に律花は用意がいいな」
     感心する春翔に律花は得意気にウィンクを一つ。
    「貰ってきたの。食べる?」
    「わぁい、律ちゃん、ありがと! 夢羽ちゃん、一緒に食べよー!」
    「うんうん、食べるー♪ あ、翡翠ちゃん、どの味にするの?」
    「私はメロンがいいです♪」
     一方、シロップを選ぶ奏恵はイチゴもレモンも捨てがたい。
    「ねぇ、律ちゃん。全部がけってダメー?」
    「……奏恵。全部かけたら味以前に食べ物として問題のある色になりそうだが」
     冷静な春翔のツッコミに奏恵は「ぐぬぬ」と口を尖らせ。
     全部がけは諦めておねだりをすることに方針転換。
    「あっ、もしかして色、変わっちゃってますか?」
     はっと気づいてべーと舌を出す翡翠の下は鮮やかな緑色。
    「わわ、ユメも?」
     黄色に染まった舌を出す夢羽にくすりと微笑む律花を煌めく光が照らしていた。

    「やっぱり花火は綺麗……」
     うっとりとした様子で空に打ちあがる花火を見つめる澪音の頬にひやりとした感触。
     ぱっと傍らに視線を移せば、そこには悪戯成功とでも言いたげな風樹の笑顔が。
    「はは、悪ぃ悪ぃ。俺の奢りだ」
    「まったく……困った悪戯好きの大人ですね?」
     くすりと笑みを零し、澪音はジュースを受け取る。
    「俺たちの友情に乾杯だ」
     打ちあがる花火の下、二人カチンとジュースをぶつけた。
     ――これからもよろしくとの思いを込めて。

     ぼんやりと花火を見つめる見慣れた後ろ姿。
     秋沙はこっそりと沙依香に近づくと後ろからしなだれかかる。
    「私も一緒に見ていいかしら?」
    「なっ……!?」
     秋沙の不意打ちに頬を赤く染めつつも沙依香は小さく頷いて。
     そのままぎゅっと沙依香を抱きしめると彼女の温もりが秋沙にも伝わってきた。
    「今日はありがと」
     そっと耳元で囁く秋沙に沙依香はぶっきらぼうに返す。
    「年に一度だからな」
     煌めく光の浴びながら、秋沙はにこりと微笑んだ。

     夜空を明るく染める花火の下。
     威勢の良い掛け声を響かせる花火と紗月の傍らではみとわが「わぁっ」と歓声をあげる。
     よく冷えた果物を皿に並べ、恵理は通りかかった人物に声をかけた。
    「來未、ユメさん、よろしければご一緒しませんか?」
    「おじゃましまーす!」
     たたっと元気よく駆け寄る夢羽に恵理が果物を差し出せば、嬉しそうに桃をパクリと頬張った。
    「いいなー、恵理ちゃん、わたしにも桃をお一つくださいな」
    「ボクもお一つ、いただきます」
     花火につられて、紗月も桃に手を伸ばす。しゃくり、と齧れば心地よい甘味が喉を潤した。
    「うーん、今の季節ならスイカだろうけど、桃のが香りがよさそう……」
     迷った結果、みとわは二つとも炭酸水にポトンと落す。
     掌に乗せたスイカを小梅に差し出しながら、恵理は傍らの來未に声をかけた。
    「來未はいかがです?」
    「わたし、グレープフルーツ、貰うね」
     夜空に広がる大輪の花へ向かって。少女たちは声を合わせて再び叫ぶ。
    「「た~まやー!」」

     てきぱきと冷えた飲み物を配る健から希沙は紅茶を受け取って。傍らの供助は藤乃に緑茶を手渡した。
    「部長、乾杯の音頭を頼むよ」
     供助の言葉にわかりましたと頷き、藤乃はぐるりと【刺繍倶楽部】の皆の顔を見回して。
    「お疲れ様――成功は皆さんのお陰です」
     にこりと微笑み、藤乃は「乾杯!」と飲物を高くあげる。
    「久椚姉ちゃん、今年も来てくれて有難うな!」
     健の言葉に來未はふっと目を細め。
    「今年も、キレイ、だった」
     刺繍の花に想いを馳せる。
     目の前に並んだ大漁の差し入れはどれから食べるか迷ってしまう。
    「はい、供さん、あーん★」
    「おい、そのままつっこむ気じゃないだろうな……」
     ジロリとチュロスを握った希沙を供助が睨んだ。
     ばれた?と悪戯っぽく笑う希沙に藤乃がおにぎりを差し出せば。
     食べたい!と皆一斉に手を伸ばす。
     花火の音にも負けない賑やかな笑い声。
     楽しい時間は、来年も、きっと――。

    ●想い、交わす
    「かんぱーい」
     打ち上がった花火の下で倭とましろはカチャンとラムネの瓶をぶつけた。
     夜空に咲いては零れ落ちる光の雫を見つめ、ましろはどこか寂しい気持ちを拭えない。
    (「……学校で倭くんや皆に逢える楽しい毎日も、いつか終わりが来るのかなぁ」)
     口には出さないましろの想いを察したのか。
     倭は黙ってましろの肩を抱き寄せた。
    「オ、オレは、ずっとそばに居るから、心配するな」
     欲しかった言葉。
     ましろは安堵の笑みを浮かべてそっと倭に身を委ねた。

     大きな音と共にぱっと開く鮮やかな光の華。
     うっとりと花火を眺める陽菜から錬は視線を逸らすことができなくて。
    「……いつもありがと」
     傍らの視線を感じ、陽菜はちょこんと背伸びして錬の頬にキスを落とす。
    「え!?」
     わたわたと慌てる錬に陽菜はにこりと微笑んだ。
    「来年も、一緒に見ようね」
     陽菜の言葉に錬も笑顔で頷いて。
    「来年も、再来年も、一緒に見ようね」
     そっと目を閉じ、口づけを交わす二人の頭上で満開の華が開いた。

     グラウンドの片隅。
     普段以上にカップルで賑わっている気がする――。
     彩澄の呟きに「後夜祭ですしね」と陽太が頷く。
    「みんな将来結婚とかするのかな。――私は陽太さんとならすぐでもいいけどなぁ」
    「……え!? え!?」
     無意識に出た言葉は彩澄の偽りのない気持ち。
     陽太だけでなく彩澄もわたわたと慌てだす。
    「あの、その、今のは……あわわわ」
    「ああ彩澄さん、落ち着いて!」
     真っ赤になった彩澄の手をぎゅっと握り締める陽太の頬も赤く染まっていて。
     互いをじっと見つめる二人の上にキラキラと光りの雫が零れ落ちた。

     打ち上げ花火の終わったグラウンドのあちこちで。
     ポツポツと小さな灯りが灯り始める。

    「どっちが長く消さずにいられるか勝負しようよ」
     線香花火を握り締めた啓太郎の誘いに善之は「いいぜ」と迷うことなく頷いた。
     そよぐ夜風の向きに合わせ、起用に花火を動かす善之の手元。
     啓太郎は無意識のうちに花火を握る手にぐっと力を込める。
    「……あ」
     残念そうな啓太郎の呟きと共に、火玉がポトリと落ちた。傍らのりんが心配そうに主を見つめる。
    「難しいなぁ……」
    「途中で力を入れちまったのが残念だったな」
     でも、楽しかった――。
     破顔する啓太郎に善之も「俺も」と頷いた。

    「ね、線香花火は……一緒にしよ!」
     きゅっとカイナの服の裾を掴み、響子は線香花火を差し出す。
     カイナは返事の代わりに二人分の花火に火を点けた。
    「この後も、来年も……出来たらいいな♪」
    「来年な……覚えてて、俺がいきてたらな」
     今日の礼と共に楽しそうに囁く響子にカイナは素気なく答える。
    「……何でだろうな、てめぇが俺の服を握るのを振り払えなかったのは」
     盛大な溜息とともに、小さな声で呟くカイナの言葉に響子が「え?」と顔をあげ。
    (「これって……」)
     頬を赤く染めて響子はじっとカイナを見つめた。
     
     暗音が持ってきた線香花火に澪と二人で火を点けて。
     動くのを堪えようとじっとしている澪の隣で暗音がそっと囁いた。
    「ぱちぱちしてて可愛らしいっすね。なんか澪ちゃんみたいっす」
    「え?」
     思いがけない言葉に澪は目を丸くして暗音を見つめる。
    「ずっと、見ていたくなるところとか……」
    「わたしも、アンネのこと、ずっと傍で、見てたい……な」
     静かに寄り添う二人の手元でジリリと線香花火が爆ぜた。

     ――線香花火を最後まで落とさずにいれば、良い事がある。
     萌愛と並んで花火を見つめ、叡は静かに口を開く。
    「アナタにとっての良い事って、何なのかしら」
     叡の問いに萌愛はうーんと考え込んだ。思いつく良い事は過去のこと。
    「良い事の先払いってあるんでしょうか……」
    「ある、かもね。……俺にとっての『良い事』は、もう、あったよ」
    「え!?」
     予想外の言葉に萌愛は思わず叡を見上げた。
     その拍子に火玉は落ちてしまったが、萌愛はちっとも気づいてなくて。
     ただ、黙って微笑む叡を、萌愛は頬を赤く染めて見入っていた。

    「悟、線香花火しませんか?」
     想希の誘いに悟は昨年の勝負が頭をよぎる。「ええで!」と満面の笑みを浮かべ、悟は頷いた。
     パチッパチッと火花を散らす花火を見つめ、悟はぽそりと呟きを漏らす。
    「来年は学園祭デートしやへんか」
    「え?」
     思いがけない誘いに想希はパチパチと目を瞬かせた。そして、嬉しそうに目を細めてこくりと頷く。
    「僕も、君とデートしたい」
    「よっし、決まりやな!」
     破顔する悟の腕へ思わず想希が手をかけた時、二人同時に火の玉がぽたりと落ちた。
     ――勝負の行方は来年にお預け。

     楽しい時間はあっという間に過ぎて。
     きらきらと輝く夏夜の想い出を胸に、今、静かに宴の幕が下りる。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月4日
    難度:簡単
    参加:93人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 5
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