熱血番長

    作者:天木一

     真夏の太陽が焼けつくように大地を照らす。
     そんな暑さから逃げ出すように水着姿となった人々は青い海へと駆け出す。
    「やっぱ夏は海だーー!」
    「やっほーいっ!」
     子供達は一気に飛び込み、水飛沫を撒き散らす。
     海では元気な子供達がはしゃいで遊ぶ。それとは対象的に砂浜では水着の若者達が違う目的で行動していた。
    「ねえ彼女達、暇なら俺らと遊ばない?」
    「こっちも2人だしさ、ちょうどいいじゃん」
     パラソルの下にいた2人組の若い女性に、よく日に焼けた若い2人の男が声を掛けていた。
    「私達他の友達もいるから」
    「いいじゃんいいじゃん、ちょっとだけでいいからさ。向こうでジュース奢るし」
     断る女性達に食い下がり、男達がしつこく声を掛ける。
    「お前ら! 海まで来てナンパとは情けない!」
     大きな声が背後から響く。振り向けばそこには水着に学帽と学ランを羽織った男の姿があった。その足元には何故かゴムタイヤが幾つも置いてある。
    「うるせーんだよ! 邪魔すんな! ぶっ殺すぞ!」
    「つーか、なんつー格好だよ。ダセー」
     男達は学ランの人物に向けて声を荒げる。
    「情けない! 男が海でやることといえば一つ、特訓だ!」
    「うるせー! むさ苦しいんだよ!」
    「俺らはテニスサークルで体鍛えてんだよ!」
     男達が殴り掛かると、学ラン男は両手でそれぞれの顔を平手で叩き、砂浜に転がす。
    「なんだその拳は! 軟弱過ぎる! そのひ弱な体を鍛えてやる!」
     学ラン男は男達の腰に紐を結びつける。その先にはゴムタイヤが繋がっていた。
    「これで砂浜を日が暮れるまで走れ!」
    「ふざけるな! さっさと解け!」
    「こんなダセーことできるかよ!」
     男達が紐を解こうとするが、びくともしない。
    「気合注入!!」
     学ラン男は男達の背中に平手を叩きつけた。
    「うおっ」
    「いでぇっ」
     大きな音と共に2人の背中に手形がついた。
    「喋る暇があったら走れ! 足を止めたらまた気合を入れてやる!」
     痛みから逃げるように慌てて男達が走り出す。
    「走れ走れ走れ! 声出せ! 腹からだ! 気合を入れろ!」
     少しでも足が止まると容赦無く平手で気合を入れていく。
    「海は男を鍛える最高の場所だ! 熱くなれ! 太陽よりもな!」
     清清しい笑顔で学ラン男は青空を見上げる。そして自分も巨大なゴムタイヤを引っ張って走り出し、男達を追うようにトレーニングを始めた。
     
    「やあ、もう夏休みだね。みんなは休みの予定を立てたかな? でも、そんな夏の海にアンブレイカブルが現れるみたいでね」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が教室に集まった灼滅者に説明を始めた。
    「どうも軟弱な男を見つけると、鍛えようとするみたいでね。ナンパしている男性2人が捕まって特訓を受けるんだ」
     一日中特訓に付き合わされる男達は、疲労でそのまま病院に担ぎ込まれるという。
    「体を鍛える事はいいのかもしれないけど、無理やりやらされるのは堪らないよね。だからみんなにはアンブレイカブルを止めて欲しいんだ」
     このままだとアンブレイカブルが海で鍛えている期間、毎日のように特訓の被害者が出てしまう。
    「アンブレイカブルの名は熱海晴雄。熱血番長と呼ばれる20代の外見をした男で、かなり体を鍛えてあるみたいだね。海には特訓する為に来ているよ」
     水着に学ランと学帽という海に似合わぬ格好をしている。一目見れば分かるだろう。
    「人を害しようという気はないみたいで、本人は親切心から特訓させてるみたいなんだ」
     だがそれがアンブレイカブル基準なのが被害をもたらす原因となる。
    「自らの体を鍛えるのが目的だから、みんなが戦いを挑めば喜んで受けてくれるはずだよ」
     砂浜は広いが人も大勢居るので、戦いに一般人を巻き込まないようにしたい。
    「せっかくの夏休みに、無理やり特訓なんてされたくないよね。みんなでこのアンブレイカブルを倒すか追い返すかしてきて欲しい。それと海まで行くんだから、無事に終わったら夏の海を楽しむのも良いかもしれないね」
     日焼けとは縁がなさそうな誠一郎は暑い帰り道の事を思い、うんざりした様子で外を眺めるのだった。


    参加者
    柳生・朱羽(閻魔の使徒・d01370)
    棲天・チセ(ハルニレ・d01450)
    乾・舞斗(硝子箱に彷徨う者・d01483)
    遠間・雪(ルールブレイカー・d02078)
    梅澤・大文字(枷鎖の番長・d02284)
    真白・優樹(あんだんて・d03880)
    ローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114)
    居木・久良(ロケットハート・d18214)

    ■リプレイ

    ●夏の海
     炎天下の中、少しでも早く暑さから逃れようと水着を着た子供達が海に飛び出す。夏の海らしい光景。
    「ねえ彼女達、暇なら俺らと遊ばない?」
     それとは対照的に海辺では男2人が女性にナンパし、また違う夏の海らしい光景があった。
     そしてまた別に、その様子を見ながら周囲を警戒する少年少女の姿があった。
    「はぁ~暑いにゃ~」
     パラソルの下で遠間・雪(ルールブレイカー・d02078)と霊犬のバクゥは、共に座って緊張感無くジュースを飲んでいた。
    「良い天気ですね。戦闘よりもこっちの方が厄介ですね」
     麦わら帽子で日光を遮り、首には濡れたタオルを巻いた乾・舞斗(硝子箱に彷徨う者・d01483)が水筒から水を飲む。
    「なんか嫌いになれない相手なんだよね。特訓とか、嫌いじゃないしね」
    「ンー、ダークネスの中では好感が持てる部類デスネ。典型的やりすぎ、加減下手なパターン。深刻な被害が出ないうちに何とかシマショウ」
     居木・久良(ロケットハート・d18214)はこれから戦うアンブレイカブルの気持ちが少しは分かると言うと、ローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114)も頷きながらも、やるべき事はしっかりとやろうと返す。
    「ふむ……アンブレイカブルは真正面から戦う姿勢が好ましいのだが……。無理やり特訓させるのはよくないな、そこは正しておかねばならない」
     柳生・朱羽(閻魔の使徒・d01370)は強い日差しの中でも表情を変えずにじっと敵を待つ。
    「害意があろうとなかろうと、はた迷惑な存在なのは変わりないよね」
     白の水着を着た真白・優樹(あんだんて・d03880)が、帽子の影から眩しそうに空を見上げた。
    「頼りにしてるんよ、相棒さん」
     その隣では対照的にわくわくとしながら体を動かす棲天・チセ(ハルニレ・d01450)が、舌を出して寝そべっている霊犬のシキテの背中を撫でた。
     その時、離れた場所から大きな声がする。
    「情けない! 海まで来ているのにあのひ弱な体はなんだ! 鍛えてやる!」
     水着に学帽と学ランを羽織った男が不快そうに顔を歪め、ナンパする男達へとタイヤを引きずって歩み出す。
    「来たようですね……この暑い中元気なものです」
     舞斗は呆れたように息を吐き、汗を拭った。
    「熱血は嫌いではないけど、無理やりはよくないにゃ~」
     ゆるい口調で雪が止めに入り、その前でバクゥが警戒態勢を取った。
    「でも熱血展開って拳に分かり合える、とかいうし。殴り合い上等にゃ!」
     拳を鳴らして雪が戦闘態勢に入る。
    「何だ? 女子である君が俺に勝負を挑むというのか?」
     突然の割り込みに、男は怪訝な顔で雪を見下ろす。
    「特訓するのが好きなら丁度いい、お相手願おう」
    「特訓したいならあたし達と戦おうよ。もちろん本気でね。実戦に勝る訓練なんて無いでしょ?」
     不敵な笑みを浮かべて殺気を放ち一般人を遠ざける朱羽と、音を封じる結界を周囲に張った優樹が話かける。
    「君らは先客か。同じく海に鍛えに来た口と見た、夏の海はいいものだからな」
     男は険しい顔を崩して腕で汗を拭い、海を見渡して笑みを浮かべる。
    「ヘイ、根性熱血も良いデスガ一般人とはキャパシティーが違うデショ。体力余ってるナラ、私達が相手シマショウ」
    「鍛えるだけじゃ物足りなくない? 砂浜で決闘とか燃えへん?」
     誘うローゼマリーとチセの視線に、同じく戦う者の闘志を感じ取った男が頷く。
    「確かに、そこらの有象無象を相手にするよりも、君らとならずっと楽しい試合となりそうだ」
     男は手に引いていたタイヤを手放し、腰に結んでいたタイヤの紐も解いた。
    「押忍! 貴様が熱血番長か! おれは吉祥寺駅を統べる業炎番長漢梅澤! 灼滅者として! 漢として! 貴様の命貰い受ける!」
     学ランに鉄下駄という格好で、腕を組み胸を張った梅澤・大文字(枷鎖の番長・d02284)が吠えるように言い放つ。
    「おおう! お前も番長か! なら話は無用、番長同士が出会ったなら戦うは必然! この熱血番長、熱海晴雄が相手だ!」
     番長と聞いて破顔した熱血番長は、腰を落として構える。
    「業炎番長漢梅澤! 参る!」
     大文字は口元を歪ませ咥えた草がピンと上げる。大文字が駆け出すと番長も同時に動き、互いの体がぶつかり合う。

    ●熱血
     衝撃に番長が仰け反る。だが大文字の体は宙に浮いていた。番長が体勢を立て直して追おうとしたところへ、チセが立ち塞がった。
    「一勝負、手合わせ願うんよ。棲天チセと、シキテ、宜しくお願いします」
     堂々とチセが名乗りを上げて構え、ローラーダッシュで加速すると懐に入る。その体を引き寄せようと伸びる番長の腕を、シキテが咥えた刀で斬りつけ妨害する。チセは低い姿勢から突き上げるように番長の胸を蹴り上げた。
    「ぬおっ!」
     番長の体が浮き足が地面を離れる。
    「誰よりもやさしく」
     久良はカードを開放し月のマークが付いたスニーカーから発するロケット噴射で一気に間合いを詰める。
    「楽しい勝負の始まりだよ!」
     その勢いのまま跳躍して蹴りを浴びせ、炎を纏った足が番長を叩き落した。
    「やるなぁ! なら次はこちらから行く!」
     跳ね起きた番長は久良に向かって突進する。
    「この人数なら、特訓相手に不足ないだろう」
     朱羽が巨大十字架を構えると、先端が開き銃口が現れる。放たれた光が番長を撃ち抜く。同時に霊犬の影丸が駆け抜けて刀で斬りつけた。だが番長は足を止めずに朱羽の腰に腕を回し、後ろに倒れこむようにして持ち上げると地面に投げ飛ばした。更に覆い被さろうと番長が動く。
    「戦い方まで暑苦しいですね」
     忍者装束を纏った舞斗の影が樹の形となって伸びると、枝が番長の足に巻き動きを止めた。
    「バクゥ、頼むにゃ! しっかりと働いてね」
     雪とバクゥが駆け出し、左右から雷を纏った拳と咥えた刀で腕と足に傷跡を残した。
    「なかなかのコンビネーションだ、トレーニングをしっかり積んでいるようだな! ならば1人ずつ潰していこう!」
     番長が身を屈めてタックルの姿勢を取り、一気に駆け出す。
    「簡単には組ませないよ。乱暴者は趣味じゃないの」
     そこへライドキャリバーのスチームダディが割り込んでぶつかり、番長が押し退けたところで優樹が帯を飛ばしてその胸を貫いた。だが帯は筋肉に阻まれて止まり、番長は止まろうとはしない。
    「ヘイ、私が相手デス!」
     横からローゼマリーが跳躍して飛び込み、突進してくる番長の顎にギロチンドロップのように蹴りを見舞った。
    「ぐぅっ、このくらいで俺は止められん!」
     番長は攻撃を食らいながらも腰に腕を回すと、後頭部から地面に叩き落す。ローゼマリーは咄嗟に地面を叩いて受身を取るが、衝撃に息が詰まる。
    「もう一度だ!」
     番長はもう一度ローゼマリーを持ち上げようとする、そこへビハインドのベルトーシカが現れ、腕に拳を放ってロックを弱める。ローゼマリーはその機に腕を差し込んでロックを外して逃れた。
    「次はこっちがぶっ飛ばす番だぜ!」
     マントを靡かせながら突進した大文字が拳を打ち込む。顔面を殴られながら番長はその腕を引き寄せ、体重を掛けて引きずり込むように投げ倒した。
    「残念だが、飛んだのはそっちだったな!」
    「なら次はオレを投げてみろ」
     朱羽が敵の正面に堂々と立ち、刀を上段に構えた。
    「面白い!」
     番長は朱羽に向かって突っ込んでくる。そこへ刃を振り下ろす。刃が背を斬り裂く瞬間、番長は地面を蹴り砂の上を滑るように低く足に手を掛けた。刃は番長の薄皮を裂き砂に埋まる。
     その勢いで番長は後ろへ回って引きずり倒そうと力を込める。だがその前に影丸が番長の体に斬りつけ、僅かに番長の動きが止まる。その隙に朱羽は足首を掴む手に刀を振るう。
    「おっと」
     番長は手を離して間合いを開けた。
    「回復は任せろにゃー、バリバリ」
     雪はハルバートから帯を飛ばし、大文字の胴にさらしのように巻きつき怪我を癒す。
    「やっぱ戦いはこうやないと、もっと火花散る様な熱い戦いを期待するんよ!」
     駆けて飛び込んだチセが拳の連打を打ち込むと、番長は体を丸くして両腕で顔をガードする。チセはガードごと叩き潰さんとばかりに拳の速度を上げる。何発もの拳が体に食い込む。そして振りかぶって決めの一撃を打ち出したところで番長の姿が消えた。
    「それを待っていた」
     番長は屈んで拳を躱し、チセに組み付こうとする。だがそこに割り込んだシキテが邪魔をしてチセはバックステップで距離を取る。
    「動物を叩く趣味はないのだが、戦うつもりなら仕方ない。邪魔するものから倒すとするか!」
     番長はシキテを腕に抱えて投げるように地面に叩きつけた。番長はバウンドする体に手を伸ばそうとする。その番長の背後から現れた影が全身を呑み込む。
    「暑いのに皆さん元気ですね……」
     舞斗は影を操り、幾つもの枝を刃物のように生やして番長を貫く。
    「俺の夏の日差しで鍛え抜かれた体を貫くには鍛錬が足りん!」
     影を突き破って番長が舞斗に手を伸ばす。
    「じゃあ少し熱を冷ましてみる?」
     優樹が巨大十字架から光弾を撃ち、番長の腕を凍結させた。
    「思いっきり行くよ!」
     久良は駆け出すと、構えたハンマーをロケット噴射させて更に加速し、薙ぎ払うように脇腹に叩き込む。
    「ぐふっ」
     一撃を受けてくの字になった番長が吹き飛ぶ。
    「ナイスパス!」
     そこへ待ち構えていたローゼマリーが跳躍し、ドロップキックで番長を更に弾き飛ばした。

    ●気合と根性
    「ごほっげほっ」
     ふらつきながらも番長は立ち上がる。
    「立つのか、いいねぇ……それでこそ番長だぜ!」
     そこへ大文字が炎を纏った拳を顔に叩き込む。打ち抜かれた番長が仰け反り頭が地面に付く。だが番長はブリッジの状態から腹筋に力を込めて起き上がり、大文字の体に組み付いた。
    「気合が入っていれば、どんな攻撃にだって耐えられる! そう出来る様に鍛えてある!」
     番長は持ち上げると頭から地面に叩き付けた。頭が砂に埋まる。だが大文字の足が動き鉄下駄で番長の体を蹴り上げた。
    「ぺっ……その通りだ、おれも気合が入ってるんだぜ!」
     砂と血の混じった唾を吐き出し、大文字は起き上がる。
    「確かに、気合の入ったいい一撃だ! 番長を名乗るだけはある!」
     番長は嬉しそうに笑うと着地と共にダッシュしてくる。
    「本当に戦うのが好きなんだな」
     朱羽も釣られたように口元を曲げ、その正面に立ち塞がる。勢いを弱めぬ番長に朱羽が刀を横に振るう。同時に足元を影丸が狙っていた。番長はその刃の間に飛び込んで朱羽に組み付こうとする。だがその体は正面から放たれた赤き逆十字のオーラの撃ち抜かれて後方へ吹き飛んだ。
    「避けると思っていた」
     刀は囮、本命は反対の手で放ったオーラの方だった。
    「くっなんのぉ!」
     カウンターで食らった一撃にも歯を食いしばって番長は踏ん張る。
    「全力のガチ勝負楽しいんよ!」
     そこへ嬉々としてチセが組み付き、持ち上げると跳躍して地面に投げつけた。落ちるところへシキテが駆け抜け刃を振るう。
    「俺を投げるとは!」
     番長は体を捻ってうつ伏せで地面に落ち、刃を腕で受ける。そして獣のようにタックルに入る。
    「そろそろ終わりにしたいものですが、引き際を見る目に期待したいですね……」
     舞斗がその前に影の刃で壁を築く。番長は体中に傷を作りながらも強引に突破する。その前にローゼマリーが現れジャンプして膝を顔に叩き込む。鼻を折り血を流しながら番長はローゼマリーの足に組み付き、押し倒すように地面に叩きつけた。
    「ドウシマシタ? この程度デスカ?」
     ローゼマリーは立ち上がり効いていないぞとアピールする。
    「ならもう一度投げてやる!」
     番長が組み付き持ち上げる。だが逆にローゼマリーが足を巻きつけ上半身を振り、引き倒すように投げ捨てた。
    「ここは畳み掛けた方がいいかにゃ、ならば敵を殴り倒すのみ!」
     雪はハルバートを振リ回し勢いを乗せて振り下ろす。刃が番長の胴体を抉った。
    「せぁあ!」
     大きな声で吠えると番長は跳ね起きる。体中の筋肉を膨張させて傷を塞ぐ。
    「まだまだぁ!」
    「力で潰す!女だからって舐めないでよね」
     全力で走る優樹は勢いを使ってロッドを振り抜く。番長は腕でガードするが、魔力の籠もった一撃は骨を砕いた。
    「今の自分の全てを出し尽くす!」
     久良はスニーカーのロケット噴射で加速し、番長の横を通り過ぎるとターンする。そしてに手にしたハンマーからの噴射で加速を加える。
    「おおおおおお!!」
     久良は雄叫びをあげながら振り向いた番長の体に叩きつける。肋骨を何本も砕かれ番長の体が吹き飛ぶ。だが番長は足を地面につけ砂を削るようにして止まる。
    「根性ぉ! 見せろぉ!」
     自分に言い聞かせるように力を振り絞って番長は立ち続ける。
    「凄い根性デスネ、では決めに行きマショウ」
     ローゼマリーは地面をリズムを取るように蹴り、一気に踏み込むと横向きに矢のように真っ直ぐに蹴りを放つ。足裏が顔を打ち番長は仰け反る。だがそれでもまだ番長は倒れない。
    「どうしたぁ! そんなもんじゃ俺は倒せんぞぉ!」
     足が震えながらもまだ番長は立っている。
    「番長の名は二つと要らぬ! 熱血とやらより熱き炎血(ファイアブラッド)、見せてくれよう!」
     大文字が吠えると負けじと番長も吠え、両者は正面からぶつかる。放たれた拳を番長は受けて投げようとする。だが大文字は全身の力を籠めて振り抜き番長を地面に叩きつける。そして跳ね上がったところへ反対の拳を打ち込み吹き飛ばした。

    ●海で鍛錬
     海に突っ込んだ番町はぷかりと浮かぶ。
    「俺の負けか、まだまだトレーニングが足りないようだな」
     早速トレーニングとばかりに海を泳いで去っていく。
    「いい勝負だった、機会があればまた闘おう」
    「少しは満足できたかな? チーは大満足!! お疲れ様」
     朱羽とチセはその後姿を見送る。
    「次に会う時には今より必ず強くなってみせる!」
     そう言葉を残して番長は遠く消えていった。戦いが終わると人々の喧騒が戻り始める。
    「とりあえず干からびる前に何とかなりましたね……」
     装束を解いた舞斗は水筒を傾けるが、もう水は残っていなかった。
    「いやぁ、ものすごく熱い人だったにゃ~」
     暑さが増したと雪がバクゥを撫でながら海を眺めた。
    「また迷惑な真似をしたら追い返さないといけないね」
     優樹は帽子を被り直し、大きく息を吐いた。
    「次に備えて私達も鍛えマショウ」
     ローゼマリーがそう言って海に泳ぎに行く。
    「良い勝負だった。相手が強くなるなら、俺ももっと強くならないとな」
     久良もその後に続くと、他の仲間達も楽しそうに海に入っていく。
    「お前の熱い魂……受け取ったぜ……」
     1人残った大文字は、番長が置いていったタイヤを手にすると歩き出す。
    「お前ら! 海まで来てナンパとは情けない!」
     そしてナンパ男達に活を入れるのだった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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