ショッピングセンターのベンチでぼうっとしていたマルティナ・ベルクシュタイン(世界不思議ハンター・d02828)は、男子中学生たちのうわさ話を耳にした。
●ゴリラトイレ。
なあなあ、知ってるか? あの公園の噂。
そうそう、それ! 深夜の公園にゴリラがいるって噂! 怖いもの見たさで今度行ってみねぇ?
え、何? 噂には続きがあるって。
ふむふむ……って、え? そりゃないだろっ。なんでゴリラがトイレのそばのベンチにいて、あまつさえ男なら連れ込まれてしまうなんて……ってえ? ほんとだって。いやいやまさか……なんだか俺もそんな気がしてきたぞ。
けど見てみたいしなぁ……うーむ。
「……これはこれはおもしろ……もとい危険な噂」
男子中学生たちのうわさ話を素早くメモしたマルティナは、表情は変えずに立ち上がった。
エクスブレインへと伝えるため。真実ならば解決策を導かなくてはならないのだから……。
●夕暮れ時の教室にて
「それじゃ葉月、あとをよろしくね」
「はい、マルティナさんありがとうございました! それでは早速、説明を始めさせていただきますね」
倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)はマルティナに頭を下げたあと、灼滅者たちへと向き直った。
「とある公園を舞台に、次のような噂がまことしやかにささやかれています」
――ゴリラトイレ。
まとめるなら深夜、その公園のトイレの側のベンチに雄のゴリラが座っている。ゴリラは近づいてきた者が男だった場合、その者をトイレに連れ込んでしまう……といったもの。
「はい、色々と言いたいことはあるかと思いますが都市伝説です。退治してきて下さい」
続いて……と、葉月は地図を広げた。
「舞台となっているのはこの、山麓にある公園。お手洗いの場所は……ここですね」
赴けば、トイレのそばにあるベンチにゴリラが座っているため、近づいて戦いを挑めば良い。
敵戦力はゴリラのみ。一体で灼滅者八人分ていどの力量を持つ。
兎に角タフという特徴を持ち、優しく抱擁する事による拘束、ビンタのようなヒップアタック連打、押し倒して荒い鼻息を浴びせ攻撃力を削る……といった攻撃を仕掛けてくる。
また、男か男に見える女性を優先して狙う性質があるようだ。
「以上で説明を終了します」
地図などを手渡し、締めくくりへと移行した。
「何がどうなってこのような都市伝説が生まれたのかは分かりません。確実なことは、退治しなければいけないこと……ですのでどうか、全力での討伐を。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」
参加者 | |
---|---|
マルティナ・ベルクシュタイン(世界不思議ハンター・d02828) |
成瀬・ピアノ(敬天愛人・d22793) |
楠木・夏希(冥界の花嫁・d26334) |
ディートリッヒ・オステンゴート(狂焔の戦場信仰・d26431) |
仮夢乃・聖也(小さな夢の管理人・d27159) |
道敷・祀(代替の神体・d31225) |
オルトリンデ・アーヴェント(魔歌・d33648) |
一条・星(ミリオタ魔法使い・d33720) |
●ゴリラは求めた
蝉の鳴き声が夜闇に響き、風を鎮めていく公園。汗ばむような熱を感じながら、灼滅者たちは中央広場に集合した。
今宵の都市伝説、ゴリラトイレの舞台である公園のトイレ及び付近のベンチへ視線を送り、道敷・祀(代替の神体・d31225)は一人思い抱く。
公園という一つの日常風景に溶け込むかのように長椅子に座り、さも当然の如く獲物を待ち構える大型類人猿……実に興味深い。しかし……。
「……武蔵坂学園に通うごく一般的な女の子であるわたくしでは囮の役割を全うできぬ案件のようであります故、心が痛みますが機が熟すまでは静観に徹させて頂きます」
囮を担うディートリッヒ・オステンゴート(狂焔の戦場信仰・d26431)に一礼し、そそくさと物陰に移動した。
頷き返していくディートリッヒを眺めながら、楠木・夏希(冥界の花嫁・d26334)は小首を傾げていく。
「……ゴリラは何をしたいのかな? オスなんでしょ? 実は、オネエゴリラ……?」
「戦国の世、男色は武将の嗜みとされてたみたいだけど、平成の世、ゴリラが男色を嗜むなんてね……運命の悪戯のようなものを感じるなぁ」
一方、一条・星(ミリオタ魔法使い・d33720)は語りながら、ディートリッヒの行く末についてタロット占いを行っていた。
結果は……。
「……うん、戦車の正位置だね。勝利は約束されたも同然なんだよ」
「それは心強い。そして皆さん、労いありがとうございます」
ディートリッヒは恭しく一礼し、決意を持ってトイレの方角へと歩き出す。
おおよそ大型トラック一台を横にした分くらいの距離へと至った時、不意に、視線を感じた。
すかさず炎の名を持つオーラを身に纏い、赤白のボールを放り投げる。
ライドキャリバーのファルケを召喚し、視線を感じた方角へと向かわせた。
振り向けば視線の先……ベンチには一匹のゴリラが腰掛けていて……。
「エロゴリラ発見ー!! チェストー」
物陰から飛び出した星が、号令を飛ばしながら影を放つ。
呼応し、オルトリンデ・アーヴェント(魔歌・d33648)はギターをかき鳴らした。
「公共の場を怪しい行為で使っちゃ駄目デスヨこの野獣!」
「やらざるや」
影を、音を追いかけるように飛び出した祀は、ゴリラの脇腹辺りに御神刀として納められていた刃を振るっていく。
締めくくりに、ディートリッヒが北欧神話の闘神の手袋の名を冠した手甲を振るい――。
「おっと」
――頬にかすめさせるや、飛び退いた。
「申し訳ありませんが、北欧の戦士として男色はNGです。なので速やかに、その首切り落とさせていただきます」
言葉は、ゴリラには通じない。
ゴリラは影を呪縛を無視する形で飛び上がり、ディートリッヒへと飛びかかる……。
●求愛する類人猿
ディートリッヒへと飛びかかろうとしたゴリラを、ファルケがエンジン音を唸らせながら押し戻した。
静かな瞳で見据えながら、足に炎を宿したディートリッヒはファルケを飛び越える。
脳天へと、炎のかかと落としをかましていく。
「続いてください」
「はい」
静かな声音で応えた後、祀は横合いから獣のものへと変えた右腕による爪撃を放った。
炎にあぶられた硬い皮膚に食い込みなお突き破るには至らない様子を眺めながら、仮夢乃・聖也(小さな夢の管理人・d27159)は――。
「……男性でありながら囮が出来なかった分はりきらせてもらうです! 動くななのですー!」
――決意とともに結界を起動し、ゴリラの動きを封じ込めた。
更には影に力を与え、まっすぐにゴリラを指し示していく。
「行っておいで!」
命じれば、影はゴリラへと向かいその巨体を飲み込んだ。
今、このタイミングで治療を必要としている者もいないだろうと、成瀬・ピアノ(敬天愛人・d22793)は影の中心目指して走りだす。
「こんな危険なにおいのする依頼、被害が出る前に倒さなくちゃね」
懐に踏み込むと共に、螺旋刺突を仕掛けていく。
螺旋刺突は胸と思しき場所を捉えて止まり、影もろとも跳ね除けられた。
ゆっくりとディートリッヒへ視線を送り、さらには女装している聖也へも鼻をひくつかせながら意識を向けていく様子を前に、マルティナ・ベルクシュタイン(世界不思議ハンター・d02828)は呟いた。
「ウホッ、いいゴリラ……って感じ……? いやぁ、都市伝説ってなんでもアリだね…。まさかコレが出てくるとは……」
指に手を当て、小首を傾げていく。
「つか、それだけこういうウホッなヤツって需要あるってこと……? ホモが嫌いな女子はいないって話聞いたことあるけど、マルティナにはちょっとわかんないなぁ……」
一呼吸の間を起き、ポンと手を叩いて霊犬の権三郎さんへと視線を送っていく。
「権三郎さんには分かるっぽいし、ここは一つ身をもって体験を……」
驚きすくみ上がる権三郎さん。
「とりあえずこのわけわかめなゴリラは男しか狙わないみたいだけど、マルティナあんまり近寄りたくないから遠くから応援するね……」
主へと向ける、抗議の視線。
気にする様子もなく、マルティナはファルケに光を与えていく。
さなか、夏希はファルケと共にディートリッヒを護るように立ちまわっている執事のビハインド・ノワールに視線を送っていた。
いつもならば、対抗意識を燃やし戦っている夏希。しかし、今宵はノワールも狙われる可能性もある相手。
ノワールは今、ゴリラの行動を冷静にさばいているけれど、いつ、さばききれなくなるかわからない
「……」
今日は優しくしてもいいかな? と思うのは、ノワールが狙われた場合、何かあれば助ける、と決意していたが故だろうか。
「……ノワール、全力で守って。私も援護するから!」
証を立てるため、ノワールに飛びかかろうとしていたゴリラをオーラの塊で撃ち落とす。
さなかには星が、ノワールにセーラー服のスカーフによる加護を与えた。
「できるだけ守りを固めて、被害を減らそうね」
そのためにはゴリラの戦闘能力そのものを削ることも肝要か。
オルトリンデはゴリラの懐に踏み込んで、急所に向けて刃に変えた影を放ち……。
「急所……うん、まあ」
……前傾姿勢になりながら全力回避していくゴリラを眺め、複雑な表情を浮かべていく。
さなかにも灼滅者たちの攻撃は続き、ゴリラを攻め立てていく……。
●全力拒否
己を押し倒さんとしてきたゴリラを斬魔刀で跳ね除けた権三郎さんを、マルティナは静かに諭していく。
「ほら権三郎さん、そこはとくぅんっ……! とか反応して、その全てを受けてあげないと……。お約束大事大事……」
絶対に嫌だと暴れる権三郎さん。
それでもなお飛びかからんとするゴリラ。
ある種の攻防が繰り広げられている前線を眺め、オルトリンデは小首を傾げていく。
「……うーむ、これがジャパニーズボーイズラブって感じデス? なんかこう、もっとキラキラしたイケメンが薔薇吹雪をバックに甘く囁き合う光景を想像していたのに……」
実際、ボーイズラブと呼ぶのならばオルトリンデの想像を指す……のかもしれない。
いずれにせよ、自分は狙われない。
今まで生きてきてこんなに女で良かったと思ったの初めてなくらい……。
「……ま、それはどうでもいいデス」
考えていても答えは出ないだろうと、オルトリンデは思考を打ち切り交通標識を制止を促すものへと切り替えた。
「アナタの運命、ココで通行止めデスヨ!」
決意とともに踏み込んで、ゴリラの脳天に向かって振り下ろす。
踏ん張りきれなかったのか、ゴリラはバウンドした。
目を回しながらも鼻をひくつかせ、的確に聖也の方角へ走りだし。
「はあああーっ!」
聖也は結界を放ちながら、脱兎のごとく逃げ出した。
襲わせるわけにも行かないと、ピアノは進路上に踏み込み炎の回し蹴り!
「まだだよ」
一回転しながら槍を抜き、よろめくゴリラから少しだけ距離を取る。
腰を落とし、勢いをつけた螺旋刺突!
硬い皮膚を突き破り、右肩を貫くことに成功した!
「よし、だいぶ弱ってる。この調子で畳みかけていこう!」
「今なら大丈夫そうだね、いくよー!」
星が追撃の影を放ったなら、ゴリラは一匹闇の中。
すかさず、夏希は中心を貫くかのようにオーラを放つ。
「続いて、ノワール!」
呼応し、ノワールは得物を振り下ろした。
鈍い音が響く中、祀は祭具である縛霊手を振るっていく。
胸と思しき場所を強打し、編みこんでいた霊力にて拘束し……。
「おっと……この役目はわたくしよりも相応しい、もっと鬱憤を晴らしたいであろう人物がおりましたね。さあ、その手で幕を」
一歩下がり、ディートリッヒを促した。
ディートリッヒは一礼した後、ゴリラを閉ざしている闇へと向き直る。
「お約束通り……」
黄金の柄と鞘を持つ片刃の剣を横に構え、一閃。
「首を切り落とさせて頂きました」
灼滅者たちが見守る中、影はどんどんしぼんでいく。
元の形に戻る頃にはもう、ゴリラもまた消滅していた。
戦場周辺の整備を行った灼滅者たちは、中央広場へと移動した。
星と月が見守る中での治療が行われていく中、聖也は疲れた様子で肩を落とす。
「大分気持ち悪かったですね……あのゴリラ……」
「まぁ、権三郎さん、失ったものは大きいけど、それも経験なの……」
一方、マルティナが権三郎さんに向けた語りかければ、誰のせいだ、そもそも失ってねぇよという抗議の視線が返って来た。
もっとも、マルティナの表情に変化はない。
そんなやりとりが行われていく中、ピアノは星空を仰いでいく。
「これで、男の子の平穏は守られた。第二第三のゴリラが出てくる可能性もあるかもしれないけど」
もしも出てきたとしたのなら……その時もまた、打ち倒せばよいのだろう。もっとも、その時は犠牲者を出すことになるかもしれないけれど……。
……何はともあれさておいて、公園の平和は守られた。
勝利を収めた灼滅者たちをねぎらうように、木々はざわめき蝉は鳴く。優しい風が吹いていく……。
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年7月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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