●語る男
「さあ、君達のお耳を拝借。これから語るは怖い怖い怪談話。廃駅にたどり着く一列車の物語……」
月を、星を、木々を聞き手に選び、男は廃駅を舞台にとうとうと語る。
「時には月の明るい丑三つ時、時には太陽が頂点へと達した正午の時……時間を選ばずやってくる一列車、人を黄泉へと運ぶ幽霊列車。乗車してはならない、車掌ともめてもならない。もしも乗車してしまったなら、車掌ともめてしまったなら……黄泉の国へと連れて行かれてしまうだろう……」
言葉を区切ると共に、ニヤリと口の端を持ち上げた。
ステッキで地面を叩くとともに……遠くから、電車が近づいてくる音が聞こえてきた。
すさまじい風とともに、電車は止まる。
廃駅となったはずの場所に。
男は電車を……幽霊列車を一瞥し、顔を隠しながら先を続けた。。
「そう……これは今宵より現実のものとなる、俺のための物語……」
●夕暮れ時の教室にて
灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、いつもの表情のまま口を開いた。
「とある廃駅でダークネス……四壁という名前のタタリガミが都市伝説を生み出す……そんな未来を察知しました」
本来、ダークネスにはバベルの鎖による予知能力があるため、接触は困難。しかし、エクスブレインの導きに従えば、その予知をかいくぐり迫ることができるのだ。
「とは言え、ダークネスは強敵。どうか、油断なき戦いをお願いします」
続いて……と、地図を広げ廃駅の場所を指し示した。
「四壁が現れるのはこの廃駅。時間帯は丑三つ時……深夜二時過ぎ、ですね」
廃駅へとやってきた四壁は、うわさ話を語り都市伝説を作り出す。
「接触タイミングは、作り出した直後になります。それ以前では、気づかれて逃げられてしまうでしょう」
故に、戦闘の際は四壁と都市伝説の、計二体の敵を相手取ることになる。
四壁の姿は、白いタキシードを着てステッキを携えている男。力量は、一人でも八人を十分に相手どれるくらいに高い。
妨害能力に秀でており、数多くの都市伝説を呼び出し複数の相手を連続して攻撃させる言霊百鬼夜行、耳にしたものの動きを封じる事実語り、力を高め傷を癒やす噂語り……と言った技を使い分けてくる。
「また、警戒心が強いのか……自身が多少の傷を受けるか都市伝説が不利な状況になるかした場合はすぐに逃走します。灼滅は困難……かもしれません。ですので、今回は都市伝説さえ倒せば成功、という形になります」
肝心の都市伝説の名は、幽霊列車。
廃駅に時折来る、人を黄泉の国へと運ぶという列車の噂を、四壁が都市伝説として作りだしたもの。
力量としては八人ならば倒せる程度。
攻撃能力に秀でており、ヘッドライトで照らし心を惑わす、車輪を乱れ散るように放ち複数人をいくども打ち据える、出発を告げる笛の音を鳴らし複数人の怒りを誘う。そして、避けづらいタイミングでたいあたりをかます……と言った行動を取ってくる。
特にたいあたりの威力が絶大で、四壁の援護を受けている際には非常に危険な一撃となる。
「以上で説明を終了します」
地図などを手渡し、締めくくりへと移行した。
「今回の戦いで四壁を潰すことはできないかもしれません。しかし、行動を妨害していくことで先の未来につながっていく……そう思います。ですのでどうか、全力での戦いを。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」
参加者 | |
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鏡・瑠璃(桜花巫覡・d02951) |
山田・菜々(家出娘・d12340) |
今野・樹里(切り札・d20807) |
夏目・真(ナイトメアロマンス・d23131) |
野々宮・林檎(エンドロール・d30885) |
廻・巡(騙り部・d33314) |
富芳・玄鴉(語り部フォーさん黒カラス・d33319) |
サイレン・エイティーン(嘘月トリックスター・d33414) |
●幽霊列車は創造の中
「廃線とか廃駅が近くにあると結構ありそうな話ではありますね、銀河鉄道の夜とかも考え方によってはホラーですが」
草木も眠る丑三つ時。電灯すらも乏しい廃駅を目指し歩く中、鏡・瑠璃(桜花巫覡・d02951)は言葉を途切れさせて空を仰いだ。
都会で見ることはかなわないだろう、満天の星。あるいは、語りに出した列車は今も星々の間を巡っているのだろうか?
思い抱いているうちに、目的地である廃駅が見えてきた。
富芳・玄鴉(語り部フォーさん黒カラス・d33319)は帽子を目深に被り、静かに語り始めていく。
「列車にまつわる怪談話なら、あっしもちょいと覚えがありやすねぇ。アレは確かそう……乗ると存在しない駅に辿りつく、異世界行きの列車にございやしたか……おっと、今はこちらの幽霊列車に集中集中」
今は時ではないと言葉を閉ざし、廃駅の中へと侵入。
タタリガミ・四壁の出現に備え、物陰に身を隠していく。
響くは蝉の鳴き声と、静かな風がそよぐ音。運ばれてくるのは草木の匂い、伺えるのはひび割れた駅の残滓……。
白線もとうの昔に消え失せたのだろうプラットフォームに視線を向けながら、瑠璃は呟いた。
「幽霊列車に詰め込まれているのは……幻想か、自殺者か……怨念か。さてはて。一部は楽曲ですが」
知るものがいるとするならば、それは四壁が創りだそうとしている都市伝説・幽霊列車くらいのものか。
それを契機に会話も失せた灼滅者たちが見つめる先、改札の方角から、白いタキシードを着てステッキを携えている男……四壁がやってきた。
四壁はプラットフォームに向き直った後、空に、草木に向かって恭しく頭を下げていく。
「さあ、君達のお耳を拝借。これから語るは怖い怖い怪談話。廃駅にたどり着く一列車の物語……」
紡がれていく物語は、人を黄泉へと運ぶ幽霊列車のうわさ話。
言葉を切るとともに、四壁はニヤリと口の端を持ち上げる。
ステッキで地面を叩いたなら、電車が近づいてくる音が聞こえてきて……。
「雰囲気は上々……こういうのは嫌いではありません」
時が来たと、瑠璃が仲間とともに飛び出した。
「……おや?」
小首を傾げた四壁の視線を受け止めながら、ギターのピックを指で弾く。
「では、台無しにしましょう」
「いやァ素敵な語りをありがとうございました」
目玉模様をペイントした青年・夏目・真(ナイトメアロマンス・d23131)は前線へと歩み出ながら四壁を指し示していく。
「フフ、途中下車可能ならぜひ乗ってみたいです。特急ですか? …それなら、遠慮しておきますね。死に場所は決めてありますので」
「やあ、素敵なステッキ持つ紳士さん。さっき言ってた車掌って君の事? それともその電車の中にもういるの? 一応語部として、都市伝説については気になってさ!」
ピエロの衣装でおどけた調子。サイレン・エイティーン(嘘月トリックスター・d33414)が尋ねたなら、四壁はプラットフォームに視線を向ける。
「さあ、それは……この幽霊列車に尋ねてください。答えてくれるのなら、ですが」
ちょうど、一列車がプラットフォームに到達。
高らかな笛の音を響かせた。
戦闘開始だと、真が四壁に向けて影の弾丸を放っていく。
瑠璃は腕を肥大化させた。
サイレンもまた帯を放ちながら、言い放つ。
「一つ言っとくよ素敵紳士……どんな物語だって、誰の為でもある権利はある」
「……ほう」
四壁はステッキで影の弾丸を、拳を、帯をいなし、草木を星空を示しながら微笑んだ。
「ならば、それを証明してくださいませ。私にではなく彼らに!」
●ひとりよがりな語り手は
「悪夢は話すと伝染する……聞かせてやろう、タタリガミ」
廻・巡(騙り部・d33314)はかく語る。
「幾度となく目の前で、大切なものを失い続ける悪夢の噺」
語りながら影を大きな球体に変え、四壁に向かって解き放つ。
避ける様子もなく影に包まれていく四壁を、今野・樹里(切り札・d20807)の放つ五枚の符が取り囲んだ。
「影裂き!」
言葉を受け取るまでもないと。ビハインドの影裂きは踏み込み刀を大上段から振り下ろす。
影ごと結界ごと切り裂かん勢いで放たれた斬撃は、硬質な音を響かせた
ステッキに阻まれたのだろうと、ギターを奏で続ける瑠璃は桜の花を散らしながら虚空を切り裂き風刃を放っていく。
切り裂かれた影が破裂した時……大きな怪我を追った様子もない四壁が、そこにはいた。
「ふむ、どうやらだいぶ分が悪いらしいですね。ならば……」
ニヤリと口の端を持ち上げ、四壁は語っていく。
幽霊列車のうわさ話を、幽霊列車自身に向けて!
幽霊列車はヘッドライトの輝きを増大させた後、高らかなる笛の音を響かせた。
前衛陣は衝撃を受けた。
逸れそうになる意識を、必死に四壁へと向け直す。
一つだけならば癒せると、治療を行い攻撃を重ねた末……、四壁が不意に、肩をすくめた。
山田・菜々(家出娘・d12340)はすかさず声を上げていく。
「もう、仲間には連絡してあるっす。少ししたら増援が来るっすよよ」
「……ははっ」
笑い、顔を隠すような姿勢を取っていく四壁。
殺気が失せたように感じたから、野々宮・林檎(エンドロール・d30885)は静かに呼びかけた。
「貴方のお話も、わたくしは興味ありますが……早々にご退場をお願いします。わたくし達はそちらの列車とエンドロールまで。向かいたいと思いますのよ」
さなかには菜々に光輪を渡し、耐えるための加護を施した。
四壁は灼滅者たちに、幽霊列車に、明後日の方向に一礼した後、背を向けていく。
「仕方ありません、ここは引くといたしましょう。何、俺のための物語はこの世に満ち溢れているのですから……」
軽い足取りで立ち去っていく四壁を、灼滅者たちは見送った。
後、林檎は改めて幽霊列車へと向き直る。
「さあ、ご案内お願いしますわ!」
「黄泉への旅路、一人で勝手に行ってもらうっすよ」
菜々もまた語りかけ、身構えた。
黄泉の世界に連れて行く幽霊列車。
四壁はなかなかセンスのいいタタリガミだったけれど、それと、目の前の幽霊列車をどうするかは話は別。
人に害を為す存在に成り果てるまでに何とかしなければならない。
そのために、菜々は飛び上がる。
「足はおいらが止めるっす。みんなで攻撃するっすよ」
林檎からもらった加護を抱き、幽霊列車の動きを鈍らせるため……。
「身を焦がすような物語を一つ」
玄鴉が語る中、爆炎の魔力を秘めた弾丸が放たれた。
炎に包まれていく幽霊列車の懐へと、菜々は制止を促す交通標識片手に踏み込んでいく。
「残念っすが、ここが終点っすよ!」
交通標識が車体を揺るがす中、樹里は右へ、左へと縦横無尽に飛び回る。
影裂きの後ろに隠れるなり体を捻り、刀を振るい、虚空を横一文字に切り裂いた。
発生した風刃を追いかけるように跳躍し、回転しながら空中にてもう一段。
位置を調節した上で、天井に向かってキックを放つ。
「捉えた!」
力強く踏みつけた時、影裂きの放つ霊障が車体を大きく震わせた。
直後に真が車体を指し示し、影の弾丸を打ち出していく。
「……順調、ですねェ……っと」
車体を傾かせ駆けた幽霊列車のエンジン音を聞き取って、真は瑠璃の元へと駆け寄った。
レールを無視した突撃をかばっていくさまを前に、林檎は真を優しく照らしていく。
「大丈夫、落ち着いていけば対処できますわ」
「いいぞおいその調子だ面白くなってきたじゃねぇか幽霊列車!」
一方、巡は響き渡った力強い音色に口の端を持ち上げ、己を闇に浸し力を高めた。
蒐集は譲ることとなったけれど、この幽霊列車に興味があることに違いはない。
だから、語る。
「テケテケを知ってるか? そいつが生まれた原因を教えてやろう……これは、テケテケを生み出した電車の噺。都市伝説の中で語られる、噺の起源」
電車に纏わる物語を。
「テケテケを生み出した電車の噺……踏切内で起きた事故。今でもたまにあるという。……ほら、踏切の音が聞こえてきたぞ」
幽霊列車を蝕むため。
揺さぶられ凹んでいく車体。
動きの鈍った殺那を見逃さず、サイレンは踏み込み杖をフルスイング!
「もうぐす、君を……!」
力強い言葉とともに魔力を爆発させ、車体を大きく揺さぶった。
なおも抗わんというのか、幽霊列車はヘッドライトを乱れさせ前衛陣を照らしていく。
あるいは、そう……苦しげな悲鳴を上げる代わりに……。
●伝えていく物語
レールを無視した突撃を。真は再び受け止めた。
真正面からの押し合いへと移行しつつ、静かな声音で語りかけていく。
「黄泉の国へ向かう電車……いいですねェ夢がありますねェ。乗車したらば、どんな景色が見えるのでしょう」
幽霊列車は語らない。
ただただ人々を黄泉路へ載せるため、今は灼滅者に抗うだけ。
「黄泉路は悪夢と似ているのでしょうか」
途中下車できない以上、叶わぬと、真は笑みを浮かべたまま幽霊列車を押し返す。
距離を取り、深呼吸を始めていく。
サイレンのウイングキャット、アルレッキーノが真の治療を始める中、林檎も光輪を投げ渡した。
「だいぶ弱っておりますわ。ですが、最後まで油断なく……攻撃を重ねていきましょう」
「……」
呼応し、瑠璃は演奏の手を止め歩き出した。
舞うような足取りの中、腕を肥大化させ……。
「幻想が現実に追い付く前に、潰えろッ!」
側面を、勢いをつけてぶん殴る。
追撃は、サイレンが握るバベルブレイカーが行った。
著しく動きを乱しながらも、幽霊列車はエンジン音を響かせる。
さすれば虚空に数多の車輪が――。
「……重ねていた呪縛が功をなしたみたいですわ」
――半ばにて霧散し、消滅。
幽霊列車も動きを止めた。
林檎は静かな息を吐いた後、結界を起動し呪縛を更に強固なものへと変えていく。
巡はサイレンに視線を送った後、大鋏を持った上半身のみの人型の影を放った。
「電車に轢かれて真っ二つ……下半身を探し求めてテケテケ彷徨い追いかける。……さぁ逃げろ。身体半分失いたくないのなら」
言葉の通り、幽霊列車の側面が大きく、深く切り裂かれた。
すかさず樹里は影裂きを視線を交わし。
呼吸を合わせて、右へ、左へと交錯しながら飛び回り……。
「そこだぁ!!」
背中わせになるタイミングで、居合一閃。
二人で横一文字の斬撃を放ち、巡の刻んだ傷跡を十字傷へと変貌させた。
それでもなお動かず、消滅する気配もない幽霊列車に、玄鴉は語りかけていく。
「それではちょいとお耳を拝借」
帽子を目深に被り、言葉を乱れさせることはなく。
「これより語りますのはそう、彷徨う亡者の魂を天国へ導く優しい列車の物語」
口の端を持ち上げながら、静かに顔を上げながら。
「怖い話? いいえ、これはそう……救いの話」
招くように、一礼して導いた。
サイレンを。
真剣な眼差しを幽霊列車に送るサイレンを。
「君だって、たった一人の為に語られるだなんて嫌だろ? ……ぼくと来ない?ぼくは、ちゃんと皆に語り継いでみせるから」
言葉が消え、沈黙が訪れた。
気づけばエンジン音も消えていた。
ギターの優しい演奏だけが聞こえる、沈黙。
破るかのように、幽霊列車は光に変わる。
車掌がかぶっている帽子のような形へと変貌し、風に当てられたかのようにくるくると舞い始めた。
優しい音楽に乗りながら、光はサイレンへと向かっていく。
静かに被さったなら、光はサイレンの中へと収束し――。
――それは、魂を黄泉路へ運ぶ列車の物語……。
静寂の訪れた廃駅で、灼滅者たちは治療などの後処理を行っていた。
治療を受けながら、菜々は四壁が去っていった改札の方角へと視線を向けていく。
「タタリガミの四壁っすか。また会うこともあるんすかね」
運命が交差するならば、恐らく。
それがいつになるかはわからない、気にしていても仕方ない。
結論づけられた後、瑠璃はプラットフォームへと向き直った。
「物語の後に残るものは……閑寂でしょうかね、こういう場合」
言葉とともに、弾くはギターによるレクイエム。
静寂を飾る、優しくもわびしい音色。
あるいは、そう……もう電車が来ることのない、この廃駅に贈る……。
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年8月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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