希望の光を消さないで

    作者:空白革命


     富山県滑川。ほたるいかを希望の光とするこの土地には、人知れず石像が建っている。
     掘られた文字曰く『希望の光、ほたるシャイン。ここに眠る』。
     だがその像が今、異国の驚異に晒されようとしていた。
    「我はサバンナシャイン! アフリカンの力によって新たなる力を獲得した! ここは今日からアフリカ様の奴隷となるのだ!」
     全身をアフリカ民族衣装めいた装飾だらけにした怪人が、石像にカラフルな絵の具をぶちまける。
     更に民族衣装を無理矢理巻き付け、げらげらと笑っていた。
     その足に老人がすがりつく。
    「やめてくだせえ! そいつは立派にこの土地を……」
    「うるせえ!」
     老人を蹴りつける怪人。
    「日本のド田舎などしみったれだ! アフリカの一部となれることを光栄に思うんだな! ガーッハッハッハッハ!」
     
     

     大爆寺・ニトロ(大学生エクスブレイン・dn0028)は珍しく荒れていた。
     教卓の上にあぐらをかき、眉間に皺を寄せている。
    「ご当地怪人ってのはご当地への愛ゆえに怪人化したやつがほとんどだ。土地の力を最大限に活かして世界征服を狙ってる、そういう奴ら……のはずだ。だっつーのに!」
     現在日本海側の町でアフリカンご当地怪人が暴れている。どうやら一帯の気温がアフリカンパワーによって軒並み上昇し、その影響でアフリカン怪人となった連中がいるということなのだ。
    「アフリカンパンサーの直接関与はないようだが、このままじゃあ日本のカラーが軒並みサイケなペンキに塗りつぶされちまう。今すぐ、奴らを倒さなきゃあならん」
     
     アフリカシャインは最近新たに誕生した若いほたるいか怪人が安易にアフリカン化した結果生まれたアフリカ怪人だ。
     部下としてアフリカイカ眷属というあらゆる意味で間違った眷属を複数連れている。
    「力におぼれて愛を失った奴に、本当の日本(ジャパン)ってやつを思い知らせてやろうぜ!」


    参加者
    巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)
    ライラ・ドットハック(蒼き天狼・d04068)
    吉野・六義(桜火怒涛・d17609)
    赤暮・心愛(赤の剣士・d25898)
    荒吹・千鳥(風見鳥は月に鳴く・d29636)
    エリザベート・ベルンシュタイン(勇気の魔女ヘクセヘルド・d30945)
    不破・九朗(ムーンチャイルド・d31314)
    ヘイズ・レイヴァース(緋緋色金の小さき竜・d33384)

    ■リプレイ

    ●希望の光は消えたのか?
    「日本のド田舎などしみったれだ! アフリカの一部となれることを光栄に思うんだな! ガーッハッハッハッハ!」
     石像を塗り汚し、老人を蹴り倒し、高笑いするアフリカシャイン。
    「どおれ、そんなに大切ならこの石像を破壊してやろうか?」
     足下から飛び上がった影業イカを槍状にすると、石像へと振りかぶる。
     その時。
     アフリカシャインの腕に桜色のビームが直撃した。
    「ぐおっ!?」
     槍を取り落とすアフリカシャイン。
     振り返ると、吉野・六義(桜火怒涛・d17609)が肩を怒らせて突撃してくる所だった。
    「その像から離れやがれ!」
     助走から跳躍し、回転をかけて蹴りつける六義。
    「ソメイヨシノ――キック!」
    「なんの、アフリカンダイナミック!」
     桜吹雪を纏って突っ込んだ六義はしかし、空中で受け流したアフリカシャインによって地面に叩き付けられてしまった。
    「フン、灼滅者か。今更貴様一人が来たところでアフリカ化は止まらんわ。アフリカイカたちよ、こいつをアフリカンカラーにしてやれ!」
     上空を飛び回っていたイカたちが先端をとがらせ、一斉に突撃を仕掛けてくる。
    「『Pfeil』『Gerade』『Verheilen』!」
     光のような速さで割り込んだエリザベート・ベルンシュタイン(勇気の魔女ヘクセヘルド・d30945)がシールドを展開。それを更に巨大化させた。
    「勇気の魔女ヘクセヘルド、ここに参上!」
     眼前で力場に阻まれて押し止められるイカたち。
     だが数の暴力は大きなもので、先端だけをねじ込んできたイカたちがカラフルなスミを発射。激しい水圧によってエリザベートは吹き飛ばされてしまった。
     石像にぶつかって転がるエリザベート。起き上がろうとするが、粘度の高いスミに邪魔される。
    「スミが……思うように動けない」
    「大丈夫。待ってて。――清浄なる風よ」
     石像の影から現われた不破・九朗(ムーンチャイルド・d31314)が、エメラルドグリーンの剣を指で撫でた。血の跡のように走った炎が渦を巻いて上がり、風へと変わってエリザベートのスミを吹き飛ばしていく。
     その傍らで、高笑いするアフリカシャインを見やった。
    「なんて雑なアフリカ化なんだろう。アフリカイカだって、完全に偽物じゃないか」
    「……文化侵略とはまさにこのことね。横暴にも程がある」
     同じく姿を現わしたライラ・ドットハック(蒼き天狼・d04068)が、ブーツやグローブに魔力を循環させた。
     再び突撃をしかけてくるアフリカイカを飛んでかわすと、ジャベリンガンを抜いて身をひねる。
     オーラの弾を乱射。飛行するアフリカイカを撃墜すると、流れるように黒弾を連射して続けざまに撃墜させていく。
    「ムッ!? 我がイカが! 貴様ら、徒党を組んでいたな!? おのれこうなれば一人ずつ……」
    「おっと。お前の相手は俺だ、アフリカくずれ」
    「なんだとォ?」
     間に立ち塞がった巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)に、アフリカシャインは顔つきを険しくした。
    「上等だ。まずは貴様から死ぬがいい。ダークネスアフリカンラッシュ!」
     両腕から繰り出される猛烈なラッシュパンチを、冬崖はクロスアームでガード。しかし拳ひとつ一つにオーラの刃が付与されていたために、冬崖の身体はたちまち血まみれになった。だが、鋭い目つきいは衰えない。
    「こっちからも行くぞ」
     冬崖は全身の筋肉をパンプアップさせ、血管を千切れんばかりに浮き立たせる。
     そしてどこからともなく取り出した巨大なハンマーを振りかざし、アフリカシャインへと叩き付けた。
     翳したイカ型のオーラシールドで受け止めるアフリカシャイン。
    「か、かすりもせんぞ……そんなものか……?」
    「無理をするな。負けるぞ」
    「誰が貴様などに……!」
     怒り狂ったアフリカシャインをよそに、赤暮・心愛(赤の剣士・d25898)たちはアフリカイカへの対応を進めていた。
    「富山県をアフリカ化するなんて許せない。絶対に止めるよ!」
     心愛は飛んできたスミをジグザグに回避して走り抜けると、身を翻しつつ抜刀。
    「そんなに暑いのが好きなら、望み通りにしてあげる!」
     鞘を擦る音と同時に炎が巻き上がり、抜き放った時には炎が渦となってイカたちへと襲いかかった。
     炎にまかれた仲間を尻目に、低空飛行してきたイカが心愛へと突撃をはかる。
     心愛は刀を逆手に持つと、腕に帯電。イカの突撃を素早いスイッチングターンでかわすと、腹に拳を叩き込んだ。
     流石に分が悪いと思ったのか、アフリカイカたちはひとつ所にまとまると重螺旋の回転をかけながらスミを連射してきた。
     強く足踏みして前へ出る荒吹・千鳥(風見鳥は月に鳴く・d29636)。蛍火めいた光点が大量に浮かび上がり、スミを次々に打ち弾いていく。
     それでも降りかかったスミをそのままに、両腕を前へ翳した。
    「生まれた土地に誇りも美学もない分際で、恥ずかしくないんか」
     千鳥の両腕からは冷気の渦が巻き起こり、イカたちを巻き込んで瞬間冷却していく。
     速度が落ちたところで飛びかかり、イカの一体をキャッチ。腕に装着させた杭打ち機に霊力を送ると、連動したミニマニ車が次々と回転。高速で打ち出された杭がイカを貫いた。
     隊列を崩され残り僅かとなったイカ。
     そこへヘイズ・レイヴァース(緋緋色金の小さき竜・d33384)の声が響いた。
    「『Summon Raid』!」
     ヘイズは光の壁をくぐり抜け、『伝説の怪人』の姿へと変化。
    「緋緋色金!」
     モバイルを素早く操作すると、周囲から大量の小竜が出現。一匹のイカへと群がっていく。
     更に足下から次々に生え伸びた九条葱を引っこ抜き、連続して投擲していく。
     残り少ないイカは葱に貫かれ次々に墜落。消滅していった。
    「ムム、貴様らいつのまに……! 我がイカを全滅させるとはなんという……」
     冬崖を血まみれにすることに執着していたアフリカシャインははたと我に返って後じさりした。
    「分かったぞ。さては奴を殺したのは貴様らだな」
    「何の話だ」
    「フン、うるさい。今やどうでもよい話だ!」
     アフリカシャインは腕を広げると、周囲から大量のイカ型エネルギー体を出現させた。
    「貴様らはここで死ぬのだからな!」

    ●希望の光はここにある
     遠くでざわめく波。陽光のしみた石像と、塗料がまき散らかされたコンクリート地帯。
     その中を、アフリカシャインは猛烈な勢いで突進した。
    「アフリカンダイナミッククラッシュ!」
    「ぐうっ!」
     冬崖は激しく吹き飛ばされ、橋の上を転がる。
     上市川と富山湾の境界にして県道一号線にあたるアーチ状の橋だ。片膝をついて起き上がる冬崖だが、胸のタトゥーが見えないくらいに全身が傷にまみれていた。
     彼を庇うように立ち塞がるエリザベートたち。
     箒をぐるぐると振り回すと、柄をアフリカシャインへ突きつけた。
    「怪人とヒーローは敵同士。でもご当地を愛する心は一緒だったはずよ。それすらも捨てたのはなぜ? 滑川は、キミにとってどんなところ?」
     頭を押さえて顔をしかめるアフリカシャイン。
    「やめろ。我はアフリカ怪人だ! 滑川など捨てたのだ。この土地も、アフリカの一部と……」
    「嘆かわしいですよ。ある人は言っていました。ご当地は誇りであり愛であり、尊いものであると」
     九条葱のブレードを突き出すヘイズ。
    「思い出させてみせます。塗りつぶされ、忘れられたご当地(滑川)の誇りを」
    「う、うるさい黙れ!」
     アフリカシャインは影技のイカを刃に変えて連続投擲。
     ヘイズは同時にネギブレードを大量に生み出して投擲。
     それらは弾けてエネルギーの煙となって広がり、双方の煙を突き破る形でライラたちとアフリカシャインが飛び出した。
     橋の頂上で激突。
    「アフリカンキック!」
    「――!」
     鋭く繰り出された蹴りに、ライラは魔力を帯びた蹴りで対応。パワー負けして弾かれるが、流れるように異形化させた拳を打ち込んだ。
     よろめいたアフリカシャインに高速スウェーで接近する心愛。
    「ぐぬっ、しみったれた滑川の何がいい!」
    「アフリカだって殆ど荒野じゃないか! 日本の田舎の何が悪いの!」
     刀を繰り出す心愛。影イカをナイフに変えて対応するアフリカシャイン。
     幾度もの打ち合いの末、心愛の一文字斬りがアフリカシャインの腹を切りつけた。
     民族衣装が切り払われ、はらりと落ちる。
    「しまった、アフリカの――」
    「そこや」
     素早く飛び込んだ千鳥が、羽根のついた草履でもって回し蹴りを繰り出し、苦し紛れに放たれた影イカのナイフは遠くから飛来した矢によって破砕した。
     もう一本の矢をダーツのように持った九朗が、アフリカシャインめがけて矢を連続投擲する。
    「石像まで作られるなんて、いいヒーローだったんだろうね。それを侮辱するのは看過できないよ」
    「くそっ、貴様らに何が……!」
     突き刺さる矢を払いのけ、ばたばたと後退するアフリカシャイン。
    「アイツの光はもっとまぶしかったぜ。くすんだ光のテメエにシャインを名乗らせるわけにはいかねえ!」
     急接近した六義が、木刀を大きく引き絞る。
    「ソメイヨシノダイナミック!」
    「ぐあああ!」
     豪快にスイングした木刀が直撃し、アフリカシャインは吹き飛んだ。
     地面に落下し、ごろごろと転がる。
     体中につけていたアフリカンな装飾は外れ、あたりに散らばっていた。
    「ぐ、ぐぐ……貴様らに何が分かる……光を失った者の、気持ちが……」
    「なんだと?」
     アフリカシャインはゆっくりと起き上がり、ファイティングポーズをとった。
     全身を覆っていたイカの着ぐるみのような怪人装甲がひび割れ、はがれ落ちていく。
    「奴は強かった。眩しかった。それがたった一人の死によって喪われ、悲しみだけを生んだ。守った者たちも、倒した敵たちも……宿命のライバルすらもだ! ご当地など愛したから、愛したから傷ついたのだ! 力さえあればよかった。愛など持ったから、我々は弱くなったのだ!」
    「そんなこと!」
     ヘイズは怒りに腕を振るわせた。
     無策な突撃を警戒した冬崖をよそに、エリザベートは腕を翳してヘイズを制止した。
     怪人装甲の内側から現われたのは、フルフェイスヘルメットにダイバースーツといういでたちだった。黒と紫を基調とした彼の、腰ベルトに刻まれた文字を見てエリザベートは頷いた。
    「最後くらい、ご当地への愛で戦ってみなさい。アフリカシャイン……ううん、ブラックほたるシャイン」
    「……後悔するぞ」
    「しないわ」
     エリザベートは箒をまっすぐに構え、帽子を深く被りなおした。
    「愛があるもの」
    「――!」
     ブラックほたるシャインは跳躍。
     エリザベートも跳躍。
     二人は橋の上空でぶつかった。
    「ブラックほたるキック!」
    「ブロッケントリット!」
     相殺。ではない。エリザベートは激しく吹き飛ばされ、上市川へと落下した。
     橋の手すりへと着地するブラックほたるシャイン。
    「エリザベート!」
    「彼女は大丈夫、それよりこっちを」
     九朗は眼鏡を指で押し上げると、剣を天空に翳した。
     コートが高速でほつれ、心愛の周りで再構築。魔術コートを纏った心愛は、頷いてブラックほたるシャインへと跳躍。さらなる跳躍で回避した彼を追って手すりを蹴ると、空中でのすれ違い斬りを繰り出した。
     赤い血を吹き散らして転がるブラックほたるシャイン。
    「まだだ、ブラックほたるバインド!」
     地面に手を突くと、素早くのびた影イカが心愛を拘束。
     そんな彼女をフォローすべく、左右から千鳥とヘイズが飛び出した。
    「ほたるいかに敬意を」
    「そしてあなたに冥福を」
     二人は同時に飛び込み、葱色と藍色の炎を重螺旋状に融合させ、ブラックほたるシャインへと蹴り込んだ。
     蹴り飛ばされ、手すりを超えて川へと落下するブラックほたるシャイン。
     恐るべき泳力と跳躍力で陸上へ復帰するとそのまま走って行く。
    「……変わらないことが、いいこともある」
     ライラは魔力靴によって高速で追いつき、ダッシュパンチを繰り出した。
     グローブによるボディブローから、流れるように異形化拳によるラリアットにつなげる。大きくのけぞったブラックほたるシャイン。
    「逃がさん!」
     強引に突撃した冬崖が、ブラックほたるシャインにハンマーアタックを繰り出した。
     咄嗟に突きだした影イカの槍が冬崖の胸を貫通。
     一方。川から復帰していたエリザベートが箒を掲げ、更に九朗も剣を翳した。
     二人の魔方陣が立体的に重なり、巨大な一本の矢が作成される。
     矢は自動的にブラックほたるシャインと冬崖の中心に突き刺さり、小さな矢の群れへと破裂。ブラックほたるシャインにはダメージとなり、逆に冬崖の傷は修復していく。
     ジャンプで飛び込んだ心愛と千鳥が己の草履にエネルギーを集中。
     雷と炎を交わらせ、揃えたキックで突き飛ばした。
     ヒーローの石像へと激突する。
     更に、ヘイズが生み出した葱色の炎が彼を囲み、ライラと冬崖が彼の両腕を押さえつけ、石像へと押しつけた。
     満を持して、助走をつけ、走り込む六義。
     一歩一歩が桜色の足跡となり、軌跡が桜の花弁となって散る。
    「テメエを許せない奴がいる。俺たち以外にもうひとり!」
    「――!?」
     ブラックほたるシャインははっとして石像を振り返った。
    「そうか、奴は最後に……!」
     跳躍する六義。空中で一度だけ宙返りすると、流星の如く突っ込んだ。
    「ソメイヨシノキック!」
     爆発。
     発光。
     光が満ちて、そして爆ぜた。

    ●希望の光は永遠に
     灼滅者たちは怪人を倒した。
     だがそれで終わりでは無い。
     ペイントされた石像や床を掃除することを、彼らは決めていた。
     日差しの暑さに背を伸ばし、額をぬぐう六義。
    「見ていてくれたかほたるシャイン。町も誇りも、そして光も……必ず守り抜いてみせるぜ」
     石像の裏に手を突く、そして、ふと何かに気づいた。
     カラフルペイントで『佐渡ヶ島を守れ』と書かれている。
    「一体……」
     空を見上げ、目を細める。
    「アフリカシャインがアフリカ化したのは……もしかして……」
     戦いはまだ、終わらない。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 3/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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