驚愕!!アフリカン風の盆

    作者:J九郎

     それは、かつてない異常な熱波に見舞われた夏の日の昼下がり。
     富山市にある小さな神社では、おわら風の盆の練習が行われていた。
     おわら風の盆とは、越中おわら節の哀切感に満ちた旋律にのって踊る、富山を代表する行事である。
     ズンドコズンドコドンドンドン!
     だが、今日はどこか越中おわら節の調べが違っていた。響くのは哀切感の欠片もない勇壮なリズム。というか、鳴らされているのは和太鼓どころか、どこかアフリカっぽい太鼓である。
    「おいおい、困るよ! 勝手に太鼓入れ替えちゃ!」
     法被を着た自治会長らしい男が、太鼓を打ち鳴らす編み笠姿の男に文句を言う。
    「うるさいネ! このギラギラ輝く太陽の下で踊るなら、もっとソウルを燃え上がらせないと駄目なんだヨ!!」
     振り向いた男が編み笠を脱ぎ捨てる。その下から現れたのは、水牛を模したらしいアフリカンな仮面。
    「さあみんな、ソウルの赴くままに踊り狂うといいヨ! というか踊らない悪い子は、このアフリカン水牛仮面がお仕置きしちゃうヨッ!!!」
     太鼓のリズムは、ますます激しくなっていったのだった。
     
    「嗚呼、サイキックアブソーバーの声が聞こえる……。富山市で、アフリカンご当地怪人が事件を起こしているようだと」
     集まった灼滅者達に、神堂・妖(目隠れエクスブレイン・dn0137)は陰気な声でそう告げた。
     現在、富山を含む日本海側では気温がアフリカ並みに上昇しており、その影響か、アフリカンご当地怪人となったご当地怪人たちが、ご当地のアフリカ化を目指しているようなのだという。
    「……この事件にアフリカンパンサーが直接関わってるわけじゃないみたいだけど、このままご当地のアフリカ化が進めば、何か良くない事が起こる気がする。……だからその前に、アフリカ化したご当地怪人を灼滅してほしい」
     それから妖は、出現するアフリカンご当地怪人についての説明を始めた。
    「……今回富山市に現れたのは、アフリカン水牛仮面。……元はおわら風の盆怪人だったらしいんだけど、今はほとんど原型を留めてない」
     アフリカン水牛仮面はご当地ヒーローのサイキックの他、バイオレンスギターに似たサイキックも使ってくるという。
    「……水牛仮面と接触できるのは、神社でおわら風の盆の練習が始まった直後。神社には練習に来ていた地元の人が20人ほどいる」
     水牛仮面は戦いになると、一般人を人質に取ろうとする可能性があるという。
    「……水牛仮面には、目の前で熱い踊りを披露されると、対抗して踊り出す性質があるみたい。うまくすれば、一般人から注意を逸らすのに使えるかも」
     妖はそう付け足した。
    「……日本海側で何が起ころうとしてるのか気になるけど、まずはアフリカン水牛仮面の灼滅に集中して。みんななら、きっと出来る」
     妖の言葉に、灼滅者達は一斉に頷いたのだった。


    参加者
    中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)
    野乃・御伽(アクロファイア・d15646)
    アイリス・アレイオン(光の魔法使い・d18724)
    ペーニャ・パールヴァティー(へっぽこサロード奏者・d22587)
    東・喜一(走れヒーロー・d25055)
    ファム・フィーノ(太陽の爪・d26999)
    蔵座・国臣(病院育ち・d31009)
    田中・良信(宇都宮餃子の伝道師・d32002)

    ■リプレイ

    ●いざっ、踊れ!
     ズンドコズンドコドンドンドン!
    「さあ、とっとと踊るんだヨ! もっと熱くソウルを解放してッ!!」
     首にかけた太鼓を打ち鳴らしながら、アフリカン水牛仮面が集まっていた人々を叱咤する。
    「も、もう止めてくれ! 我々はおわら風の盆の練習をしなくちゃいけないんだ!」
     自治会長の悲痛な訴えも、アフリカンな太鼓のリズムにかき消され。
    「うーん、みんなノリが悪いネ! 真面目に踊らない奴には、お仕置きが必要かナ?」
     水牛仮面は叩いていた太鼓を振り上げ、自治会長目掛け振り下ろそうとした。
    「チョット待ったー!」
     太鼓の音を裂いてファム・フィーノ(太陽の爪・d26999)の声が響き渡ったのはその時だった。
    「ムム、何者なのネ!?」
     思わず手を止め、声の主を探す水牛仮面。そんな彼が目にしたのは、人波をかき分けブレイクダンスを踊りながら現れたファムの姿だった。そして、ファムの背後では、
    「祭り……それは土地の魂! 地元の人たちの心の故郷! ずっと受け継がれてきた曲に踊りに意味があるんだ!!」
     田中・良信(宇都宮餃子の伝道師・d32002)が、戦隊ヒーロー風の名乗りポーズを決めながら、祭りの意義について熱く語っていた。そんな良信を避けるように一斉に周囲の一般人達が後ずさっていくのは、決して良信の暑苦しさに引いたわけではない。彼が発する殺気に恐怖を抱いたからだ。
    「ちょっと、みんなどこ行くノ!? まだ踊りは始まったばかりだヨ!!」
     あわてて水牛仮面が去っていく一般人達を引き留めようとする。だが、そこへ満を持して現れたのはペーニャ・パールヴァティー(へっぽこサロード奏者・d22587)だった。
    「どうやら私の黒歴史『バラタナティヤム』を披露する時が来た様ですね」
     覚悟を決めた表情で、静かに舞い始めるペーニャ。ちなみに『バラタナティヤム』とは、南インドにて発祥した儀式舞踊で、いわば神様に捧げる為の踊りである。
    「おおー、これは!! なんと格式高く優雅な舞いだヨ!!」
     アフリカン水牛仮面が、ペーニャの踊りに意識を奪われ動きを止める。それを見計らって、動き始めたのは中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)達だ。
    「これから害虫駆除をする、危ないから離れていてくれ」
     良信の放った殺気に怯え、徐々に神社から遠ざかり始めた人々に銀都は『ラブフェロモン』を発動させ、効率よく避難誘導を開始していく。
    「みなさーん、危ないですよー」
     同じようにアイリス・アレイオン(光の魔法使い・d18724)も、『ラブフェロモン』を使って人々の誘導を始めていた。事前に周辺の様子を調査し、安全な避難場所も確認してあるので、誘導にも無駄がない。
    「はっ!? 気付いたら人がいなくなってるヨ!? ちょっと、このキレッキレのダンスを見ずして帰るとは、どういうつもりネ!!」
     ペーニャやファムに対抗してアフリカンな踊りを披露していた水牛仮面が我に返り、避難する人々に踊りながら手をかざす。
    「アフリカの情熱的な熱風、受けるがいいヨ!」
     たちまち水牛仮面の手の先から放たれたアフリカの熱風ビームが、逃げる人々に迫っていった。だがその時、
    「踊りながら戦うとはなんたるハイセンス! しかし、罪もない人達を傷つけさせるわけにはいきません!!」
     熱風ビームの前に立ち塞がったのは、メイド服を華麗に着こなした東・喜一(走れヒーロー・d25055)だった。喜一はWOKシールドからメイドガード(自称)を発動させると、熱風ビームを見事受け止めて見せた。
    「ちょっとー、よそ見、だめ。アタシのダンス、アナタのソウル消し飛ばしちゃうよ!」
     水牛仮面の注意を引きつけるように、ファムが太鼓の音に合わせて、バク転前転ヘッドスピンを決め、その背後では、
    「皆で楽しく体を動かすのが祭りの醍醐味! 太鼓に合わせて跳ねたり手拍子だけでも……ほら楽しくなってきた!」
     良信が片手倒立で体を弓なりに逸らし、餃子のポーズを決めていた。ライドキャリバーの『餃子武者』もその場でスピンして踊りを盛り上げる。
    「むむ!? なかなかのソウルを感じるネ! けど、アフリカン怪人の名にかけて、ボクも負けるわけには行かないヨ!!」
     対抗してリズミカルに踊りながら、水牛仮面は巧みにペーニャに接近し、華麗に舞う彼女の手を取る。
    「お嬢さん、一緒に踊りまShow!!」
     そして、ペーニャの踊りの反動を利用し、彼女を軽々と宙高く放り投げた。咄嗟に空中で体勢を立て直し、なんとか受け身を取って着地したペーニャだが、すぐには立ち上がることが出来ない。
    「ハッハハハ、この程度で踊るのを止めてしまうとは、まだまだ情熱の熱いソウルが足りないネ!!」
     得意げに踊り続ける水牛仮面だったが、
    「あっつ! アフリカ並みの気温ってマジだったんだな……。おまけにもっと暑苦しい牛頭もいるし」
     いつの間にか野乃・御伽(アクロファイア・d15646)が、気怠げに悪態をつきながらクロスグレイブの先端を水牛仮面に向けていた。
    「早いとこ倒して涼まねぇと干上がっちまうぜ」
     そんな台詞と共に放たれた光の砲弾が、水牛仮面に直撃し、彼の全身を凍り付かせていく。
    「おお!? ボクの燃えたぎるソウルが冷えていくヨ!?」
     水牛仮面が戸惑う間に、ペーニャを助け起こしたのは蔵座・国臣(病院育ち・d31009)だった。
    「大丈夫か、ぺーにゃん?」
     国臣は光輪をペーニャの周りにまとわりつかせ、その傷を癒すと同時に盾とする。
    「大丈夫です。バラタナティヤムの力は舞踊神ナタラージャのごとし。あんな似非アフリカンには負けません」
     ペーニャの言葉に、国臣も頷いた。
    「そうだな。バラタナティヤムは創造・維持・破壊・解放を体現する正に宇宙のダンスと聞いている。ならば、行ってこい」
     国臣に背中を押され、ペーニャは再び、舞い始めたのだった。

    ●熱い暑い対決っ!
    「みんなー、避難は完了したよー!」
     一般人の避難を終わらせたアイリスが、空飛ぶ箒に乗って帰ってきた。同じく避難誘導を担当していた銀都も、元気に駆け戻ってくる。
    「待たせたな、平和は乱すが正義は守るものっ。中島九十三式・銀都参上! 熱いソウルを語る前に俺が公共マナーってやつを語ってやるよっ!!」
     そして、名乗りと同時に繰り出された跳び蹴りが、水牛仮面に直撃した。
    「うおっ!? 踊りも踊らずに攻撃とな!?」
    「さーて、いっちょ闘牛と行きますかっと。お前がウシ役。俺らが闘牛士。OK?」
     ひるむ水牛仮面に、御伽がニヤリと口角を上げて凄みつつ、拳を叩きつける。それでも水牛仮面は踊りを止めず、舞いながら太鼓で御伽に殴りかかるが、
    「これ以上踊らせてはこの地もアフリカン色に染まってしまう! なんとしても止めさせてもらいます!!」
     そこに喜一が割り込み、太鼓を受け止めた。
    「アフリカの太鼓には呪術的な力があるというが、その太鼓で殴るとは、一体どんな意味が……」
     本来の回復役であるアイリスが戻ってきたことで狙撃役に転じた国臣が、首を捻りながらもリングスラッシャーを撃ち出した。
    「いやあ、単に他に武器がなかっただけだろ? ……しかし、アフリカン化って結局何なんだ?」
     同じく狙撃役の良信は、疑問を口にしながらも影の刃で水牛仮面の纏う牛皮の民族衣装っぽい服を切り裂いていく。水牛仮面も反撃しようとするが、まとわりつくように周囲を走り回るライドキャリバーの『鉄征』に邪魔をされ、中々攻撃に転じられない。
    「捕まえたよ!」
     そこへ、アイリスが腰に巻いていた紅花帯が、鋭い刃となって一直線に伸びていく。
    「うわっ!? 危ないネ!」
     間一髪その攻撃を回避した水牛仮面だったが、
    「バーナーズ卿、支援をお願いします」
     その隙にペーニャは、ウイングキャットのジェラルド・ヴィラ・ティアウィット・ウィリアムズに支援を頼むと、踊りの所作のまま空色のオーラを纏った手刀を繰り出し、水牛仮面の肩を貫いた。バーナーズ卿も、やれやれとばかりに肉球パンチで水牛仮面の気を逸らす。
    「アメリカンでアフリカン、対抗しちゃうよっ! アタシの祖霊、ガンバレー!」
     一方のファムは踊りを止めると、地面に突き刺しておいたトーテムポールにそっと触れた。するとたちまちトーテムポールの目が輝き、黙示録砲が発射される。
    「おお!? びっくりしたヨ! アメリカン滅茶苦茶だネ!!」
    「アフリカン、滅茶苦茶、同じだよー!」
     アフリカとアメリカの、譲れない戦いもまた、ここに始まろうとしていた。

    ●おわら風の盆よ永遠なれ
    「おまえ、元はこの地域のご当地怪人だったんだろ? ったく、アフリカに乗っ取られちまうとは……ご当地愛が足りなかったんじゃねーの?」
     御伽がどうでもよさげに嘆くふりをしながら、クロスグレイブで巧みに格闘戦を繰り広げる。
    「この地がアフリカ化すれば、ご当地怪人もアフリカ化するのは必然なんだヨ!」
     太鼓のリズムに合わせて十字架の攻撃を回避していたアフリカン水牛怪人だったが、格闘中に突如放たれた黙示録砲をかわしきれず、その体がまた少し凍り付いた。
    「ん、今のはいい感じだったな。さすが俺、センス良いぜ」
     けらけら笑う御伽に、水牛仮面が反撃とばかりに踊りの動作に織り交ぜた回し蹴りを放つ。しかし、そこにすかさず喜一が割り込み、
    「踊りは戦いの道具じゃありません! ご当地怪人としての矜持を思い出してください!」
     代わりに蹴りを受け止める。連続して繰り出された蹴りは喜一に少なからずダメージを与えていたが、喜一はその全てを耐え抜いた。
    「なあ、おまえ、本当にそれでいいのか? 勝手に騒いでるだけのお前の踊りにはおわら節のソウルは宿っていない! 元の姿を思い出すんだ!」
     良信は自身も元ご当地怪人だっただけに、複雑な思いがあるのだろう。縛霊手を叩きつけて水牛仮面の踊りを封じつつ、そう訴えかける。
    「うるさいんだヨ! 今のボクに必要なのは、おわら節じゃなくてアフリカンなソウルなんだヨ!」
     水牛仮面も、負けじと太鼓を乱れ打ち、その大音量で良信の鼓膜を破壊しようとする。
    「アタシ、知ってる。BonFestival、日本の、イースター! 祖霊さん迎える大事なお祭り、アタシ、守るよー」
     ファムが、水牛仮面の太鼓を封じるべく、バク転からの跳び蹴りをお見舞いした。
    「そもそも、おわら風の盆って、なんぞ? 『盆』ってつくから、夏の御盆みたいに祖霊をお迎えするのかと思ったよ」
     耳を押さえる良信に聖なる風を飛ばしながら、アイリスが首を傾げる。
    「なんだ知らないのか、おわら風の盆とはそもそも……」
     事前におわら風の盆について調べてきた国臣が解説をしようと口を開いた時。
    「富山に来ながらおわら風の盆を知らないとか、信じられないヨ! そもそもおわらの起源は元禄期にさかのぼり、風の盆の名称の由来については、風鎮祭からともお盆行事からとも言われてるネ!」
     国臣を遮って淀みなくそう解説したのは、他ならぬアフリカン水牛怪人だった。そしてそのことに、水牛怪人自身が一番驚いている様子で。
    「流石は地元のご当地怪人、詳しいな」
     国臣が感心したように呟けば、
    「どうやらあなたもご当地愛は忘れていなかったようですね。安心しました!」
     喜一も、どこか嬉しそうな表情でメイドビームを撃ち出す。
    「私には分かってましたよ。風の盆とアフリカンダンスのコラボレーションとは中々にカオスでしたけど、あなたの踊りにかける情熱だけは本物だったと」
     ペーニャも、畳みかけるように踊りのステップに燃えさかる蹴り技を交えて水牛仮面を追い詰めていく。そして、
    「俺の正義が真紅に燃えるっ! 大道芸を終わらせろと無駄に叫ぶっ! 食らいやがれ、必殺! 踊る迷惑強制排除っ!!」
     銀都が、すっかり動きの止まった水牛仮面に、炎を纏った『逆朱雀』を振り下ろした。その一撃は怪人の被っていた水牛の仮面を真っ二つに叩き割り、隠されていた編み笠姿の素顔が露わになる。
    「たとえ富山がアフリカン化しても、おわら風の盆は……不滅!!!」
     最期の最期におわら風の盆怪人としてのアイデンティティーを取り戻したのか、そう叫びながらアフリカン水牛仮面は爆散していった。

     やがて再開されたおわら風の盆の練習で流れるおわら節を背に、灼滅者達は帰路に着いたのだった。

    作者:J九郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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