悪は朱には染まらない

    作者:魂蛙

    ●朱に交わるとて悪を成す
    「死体は……」
    「海にでも捨てておけ」
     深夜の埠頭にて、デモノイドロードのシラセに導かれた女が復讐を遂げた。彼女達の前に、銀白に鎧われたデモノイドを伴った男が現れたのは、その直後の事であった。
    「お初にお目にかかります。朱雀門高校の使いとして参りました。此度は、貴女方のお力をお借りしたく――」
    「――去れ」
     朱雀門高校の使いを名乗った男が慇懃に一礼して顔を上げると、既に仲間を庇うように前に出たシラセが砲身に変じた左腕を突きつけていた。
    「貴女と敵対する意志はありません。が、私に危害を加えれば、この者がお相手する事になるでしょう。話だけでも聞いては頂けませんか?」
     男は平静を保ったまま、拘束具によって上半身を拘束されたデモノイドを指し示す。シラセは背後の強化一般人、そして海をちらりと見やり、突きつけたままの砲口で男に続けるように促した。
    「朱雀門高校復讐部、とでも言いましょうか。その顧問として貴女を迎えたいのです」
    「私達は誰の手も借りないし、お前達の抗争の駒にもならない。帰って主人にそう伝えろ」
    「駒にするつもりなどありません。我々は情報提供を始めとした貴女の復讐のサポートをし、貴女方には有事の際の力となって頂く。フェアなビジネス、対等な関係です」
     男のそれは、物は言いようを地で行くような言葉だ。だが、同時にシラセを欺こうという意図もない。
    「勿論、必要であればこちらの戦力もお貸しいたしましょう。貴女の復讐を邪魔する輩もいるのでは? ……例えば、武蔵坂の灼滅者とか」
     灼滅者という言葉にシラセが見せた僅かな反応を、男は見逃さなかった。
    「どうやら、既に遭遇した事がおありのようで」
     シラセは答えず、ただ露骨に不信感を露わにする。
    「私達は、私達が悪と見做した全てに復讐する。お前達を悪と見做したその時は、私達は躊躇なく牙を剥くぞ」
    「それについては、先ほど貴女が仰った通りでしょう。我々の抗争が復讐の対象になると言うのであれば、貴女方は食物連鎖のピラミッドの上から順に滅ぼしていかねばならないのではありませんか?」
     傲慢を極める男の言葉に、しかしシラセに明確な反論はなかった。
    「今すぐ答えを出さずとも結構です。ですが、興味を持って頂けたのなら、一度我が校へ来てみてはいかがでしょう」

    ●悪と敵
    「以前に事件を起こしたシラセというデモノイドロードに、朱雀門高校の者が勧誘を目的として接触するみたいなんです」
     黒鐵・徹(オールライト・d19056)はエクスブレインより預かった資料に目を通しつつ、たどたどしく説明を始める。
    「朱雀門の使いは強化一般人ですが、単なるメッセンジャーで戦闘力も低いようです。ただ、護衛として強化型のデモノイドであるクロムナイトを連れています。みなさんには、交渉の妥結阻止とこのクロムナイトの灼滅をお願いします」
     シラセ達は強い目的意識で結ばれた結束力の高い集団であり、活動すればする程規模も拡大する。その上、シラセが接触する人間が復讐を求める者であり、必然的にダークネスに闇堕ちする可能性が高い者だ。朱雀門にとっては魅力的な戦力だろう。

    「深夜2時、工業港の埠頭でシラセと朱雀門の使いが接触します。その直前にシラセとその仲間の強化一般人による復讐を目的とした殺人がありますが、これに介入する事はできません」
     ただし、殺害されるのは決して善人と呼べる者ではない。少なくともシラセ達が悪と断じられ、殺害されるだけの行いをした者だ。それが、灼滅者にとっての慰めにはならないかもしれないが。
    「こちらの介入のタイミングは、シラセと使いの男が接触した後であればいつでも問題ありません。シラセとその仲間2人は海を背にし、その正面に使いの男とクロムナイトがいる、という位置関係なので、横から両者の間に割って入るか、使いの男の後ろを取るかのどちらかになると思います」
     対話で交渉決裂にもっていくか、単純に使いの男を倒して交渉そのものを潰すか。交渉にどう介入するかで、突入のタイミングや位置取りも変わるだろう。
    「対話で交渉を決裂に持っていくなら、ただ朱雀門の所業を並べ立てても効果は薄いと思います。朱雀門と組んでも使いの男が言うほどのメリットはない、と思わせるのが効果的かもしれません」
     そして、朱雀門と組むデメリットの最たる例が、灼滅者自身だ。
     朱雀門を悪だとシラセに認識させる事ができれば、シラセ達との一時的な共闘すらあり得るが、そこまで上手く話を運ぶのは至難を極めるだろう。
    「問答無用で強襲して使いの男を倒してしまう、という手段もあります」
     灼滅者達の手際と使いの男の対応次第で、状況が大きく混乱する可能性がある。復讐の対象と障害となる者以外には積極的に攻撃しないのがシラセの基本スタンスではあるが、最悪の場合シラセ達とも戦闘になるリスクがある事は覚えておくべきだろう。
    「これは対話を選ぶ場合にも言える事ですが、前回シラセが起こした事件のせいでシラセは僕達に対して敵対に近い感情を持っています。その点についてもよく考えて、作戦を立てなきゃいけないと思います」
     前回の事件の当事者でもある徹は、言葉の端に悔しさを滲ませた。
    「クロムナイトについてですが、量産計画が進み実地試験の段階に入っている事は皆さんもご存知だと思います」
     先行量産型による実地試験というべき段階にある。ここで積んだ戦闘経験をフィードバックし、より強力なクロムナイトを量産する目論見だ。
    「今回使いの男が連れているクロムナイトも、護衛と同時に実地試験を兼ねています。シラセとの交渉が決裂するか、シラセの存在自体が朱雀門に不利益になると判断した場合には、クロムナイトに戦わせるつもりだったんです」
     実地試験という意味においては、相手がシラセでも灼滅者でも同じ事だ。現在起きているクロムナイトの事件と同じ様に、クロムナイトに戦闘経験を積ませずに倒すのが理想となる。明確なタイムリミットがあるわけではないが、可及的速やかに倒さねばならない。
    「クロムナイトは戦闘時クラッシャーのポジションにつき、デモノイドロードのDMWセイバーとDESアシッド、龍砕斧の龍翼飛翔に相当する3種のサイキックを使用します」
     拘束具を必要とする程の凶暴性を持つ接近戦型のクロムナイトだ。超短期決戦を挑む必要があるが、それに固執して敗北してしまっては本末転倒である事に留意して、対策を練るべきだろう。

    「交渉の妨害とクロムナイトの灼滅。2つをこなすのは大変だと思うけど、どうかよろしくお願いします」
     徹は緊張を解くように1つ息をついてから、ぺこりと一礼した。


    参加者
    聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)
    風真・和弥(風牙・d03497)
    備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)
    三和・悠仁(偽愚・d17133)
    龍造・戒理(哭翔龍・d17171)
    黒鐵・徹(オールライト・d19056)
    東郷・勇人(中学生デモノイドヒューマン・d23553)
    四方祇・暁(天狼・d31739)

    ■リプレイ


     朱雀門の使いの灼滅者という言葉に、シラセが反応する。
    「どうやら、既に遭遇した事がおありのようで」
    「これで2度目になる」
     答えたシラセは刃に変じさせた右腕を、暗がりに突きつける。その先に、三和・悠仁(偽愚・d17133)と黒鐵・徹(オールライト・d19056)が点けたランプが8人の灼滅者達の姿を照らし出した。
     灼滅者達はシラセと使いの間には割り込まず、両者から等間隔の間合いを保ったまま立ち止まる。
    「このような時、我々はきっと貴女のお役に立てると思いますよ」
    「勘違いをしてもらっては困る。今日は復讐の邪魔をしに来たわけではない」
     状況を利用して話を進めようとする使いを、龍造・戒理(哭翔龍・d17171)が遮った。
     徹がシラセに声を掛ける。
    「シラセ。僕の事、覚えてますか。あの後、掛川と少し言葉を交わしました」
     掛川という名に、シラセが微かに反応を見せる。
    「君の仲間の掛川は欲望の為に人を踏み躙る奴が許せないと言っていました。朱雀門は抗争の戦力確保の為に沢山の人を甘言で攫い、デモノイドにして使い捨てている。……そうでしょう?」
    「否定はしませんが、それを欲望と一括りにするのは暴論というものです」
     徹が振り返り使いに問うと、使いは慇懃な姿勢を崩さぬままに頷いた。その傍らに佇むクロムナイトが視界に入り、徹は語気を強めて言い放つ。
    「どう言い繕おうとも、君達の所業を赦すつもりはない。欲望の為に人を、デモノイドを踏み躙る朱雀門が赦せないからここへ来ました」
    「私達の邪魔さえしなければ、お前達の正義にぶつけ合いに口を挟むつもりはない。悪がある限り、私達は復讐を遂行する。滅ぼすべき悪は、私達が見定める。それだけだ」
     シラセはにべもなく言い捨てる。
     硬直した空気を破ったのは、切れ長の瞳でシラセを見据える聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)だった。
    「言わせてもらうが『復讐するは我にあり』。この言葉の意味、分かるか?」
    「他人の正義を当てにしていない。まして、神任せの因果応報を指をくわえて待つつもりなど、毛頭ない」
     シラセが切り捨てるように鼻を鳴らすと、四方祇・暁(天狼・d31739)が小さく息をつく。
    「赦す赦さないに興味はない、か?」
    「赦す価値などないから、悪なんだ」
     シラセが返した答えは、ただただ冷淡だった。


    「別に俺は復讐を否定するつもりはないさ。ただ、復讐は当事者の目的であって、誰かの思惑の手段にするべきではないと思うぞ」
     風真・和弥(風牙・d03497)は肩を竦めつつ、シラセと使いを交互に見やる。
    「ただ、朱雀門の思惑に従って動くなら、此方のバベルの鎖の予兆に引っかかる可能性も跳ね上がるだろうな」
    「貴方個人の意思が、果たしてどれだけ武蔵坂に影響を与えるのやら」
     使いの言葉を流して、悠仁がシラセに言葉を投げかける。
    「少なくとも。俺個人としては、そちらの復讐には割と肯定的でな。今後としても、特に邪魔する予定はない。灼滅者も別に、一枚岩じゃないからな」
    「1人が2人になっても――」
    「――だが、朱雀門……武蔵坂学園にとっての敵と手を結ぶなら話は別だ。一組織に倒すべき敵だという共通認識を持たれる事、それ以上に大きいメリットが、朱雀門につくことによって得られるのか?」
     使いを遮った悠仁の言葉を受けて、シラセは改めて使いとクロムナイトに視線を向ける。
    「敵対するのは、武蔵坂に限らない。お主達が放置されてきたのは、人間同士の復讐にしか関わらなかったからだ。果たして朱雀門は、全ての敵対勢力を相手にシラセ達の行動の自由を確保できるのでござるか?」
     使いが口を開くより早く、暁が言葉を継いで畳み掛けた。
    「有事の際の力っていかにも相手を立ててますって感じするよな。けど、でっかい戦いで本隊の消耗を防ぐ為に、前線をシラセみたいなのに押し付けるって事だろ?」
    「止める気は無いが、そいつ等に加担すりゃ、最後は蜥蜴の尻尾切りの様な目に遭うぜ?」
     見透かしたような態度を取る東郷・勇人(中学生デモノイドヒューマン・d23553)に凛凛虎が挑発的な言葉で続く。
     戒理は使いの動揺を見逃さず、揺さぶりをかける。
    「俺達は以前、朱雀門がデモノイドを欲した時闇堕ちを強制させるために無関係の一般人を人質に取られ、何人かがデモノイドロードとして朱雀門に連れて行かれたが。人を同志として行動を共にする上に最初からロードであるお前は、ある意味俺達以上に朱雀門から見て保険が効く存在と見えたのかもな」
     備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)は戒理に同調するように、しかしどこか独り言を呟くように口を開いた。
    「朱雀門と一緒に居ると、訳の解らない茶番に付き合わされた挙句に、利用価値がなくなれば、簡単に切り捨てられるよ。長年、あいつらと事を構えてる僕らとしては、そんな事例、ごまんと聞いてるんだよね」
    「シラセ様がそうであるように、我々もシラセ様の復讐に口を挟むつもりはありません。その上で、これまで以上に復讐を円滑に進められるようサポートさせていただきます。スポンサーとしては、理想的ではありませんか?」
     事実がどうあれ、使いはそう言わざるをえない。苦し紛れのセールストークに過ぎなかった。
    「もういい、分かった。充分だ」
     辟易とした態度を隠しもせず、シラセが声を上げた。
    「お前達に関わるのは面倒だ。そして、朱雀門とやらに面倒を払拭できるだけの力があるようには見えない。力があるなら、わざわざ私達を引き入れずとも問題ないだろう」
     シラセは改めて朱雀門に砲口を、灼滅者達に刃を向け直した。
    「私達に関わるな。邪魔立てするなら排除する。武蔵坂も、朱雀門もだ」
     それがシラセの出した結論だった。
    「なら、ここからが本題だ。悪いけど、お使いのボクチン」
     凛凛虎は言葉と同時に、使いに向かって駆け出していた。身構えたシラセは自分に向かってこないと分かるとそれ以上動かず、凛凛虎は使いが反応するより早くクロスレンジに踏み込んでいた。
     凛凛虎は使いの腹に右拳を――、
    「死んでくれや!」
     ――捻じ込む!
     使いの体が浮き上がり大きく後退る。
     次いで飛び出した徹はシラセの方を気にしつつ跳躍し、デモノイド寄生体と融合したクルセイドソードを大上段から使い目掛けて振り下ろした。
     大きくよろめき片膝を着いた使いは、息を荒げながらシラセを見上げる。
    「我々朱雀門の門戸は、いつでも開かれていますよ……」
    「不用心だな。戸締りくらいしておけ」
     吐血し倒れた使いを、シラセは冷めた目で見下ろしていた。
     使いが絶命した直後、クロムナイトの拘束具が耳障りな高音で軋み始めた。
     猿轡が噛み砕かれる様に零れ落ち、口の端から蒸気混じりの吐息が漏れる。
     全身を戒める鎖が千切れ、体を滑り落ちる。
     両腕を交差させる形で固めた拘束が弾け飛び、両腕がだらりと垂れ下がる。
     やがて、クロムナイトは顔を上げ――、
    「うォアアアアアアアアアッ!」
     その咆哮が天を衝いた。


     クロムナイトは両腕を銀白の剣に変え、正面のシラセに向かって飛び出す。シラセは背後の仲間を気にしてか、その場に踏み止まり右腕の刃でクロムナイトの大振りの一撃を受け止めた。
     シラセは力尽くで押し返し、砲撃で追い撃ちをかける。吹っ飛んだクロムナイトを灼滅者達が包囲し、シラセ達との間に壁を作った。
     戒理は僅かに振り返りシラセを見やる。
    「お前に肯定してもらおうとは思わないがこれは俺自身の朱雀門……いや自分自身への復讐でもある。手助けはいらないが、邪魔はするな」
     ビハインドの蓮華は気遣わしげに戒理の顔を覗き込み、冷静を保った戒理の瞳に安堵する。
     シラセは躊躇なく仲間の強化一般人に撤退を促した。
    「僕らの決着は別の場所でつけましょう」
    「お前達が私達の邪魔をする正義の味方をやり続けるつもりなら、いずれそうなるだろうな」
     徹に皮肉めいた言葉を返したシラセに、暁が問い掛ける。
    「なぜ『正義』と『悪』にそこまで拘る?」
    「正義には拘っていない、というよりも興味がない。お前達と私達を区別する言葉として都合がいいから使っているに過ぎない。悪と言う言葉も使わないのであれば、私は気に入らない奴らを片っ端から皆殺しにしてやるつもりだ、と言えばいいか。それはやはり、悪だろう?」
     シラセは暁に答えを求める事無く踵を返す。振り返ることなく去っていくその背中に、徹底した個人的主観主義が垣間見えた。
    「イグニッション!」
     風の団のエンブレムを背負うジャケットを纏った和弥の両手から光が溢れ、刀剣として実体化する。
     右手にクルセイドソードの一閃、左手に日本刀の風牙を握った和弥は、ヴァンパイアミストを展開する。霧に飲まれたクロムナイトの背後に回り込んだ和弥は、旋転から水平に一閃を、逆水平に風牙を立て続けに振り抜いた。
     剣圧にクロムナイトごと薙ぎ払われた霧の向こう、クロムナイトの頭上を勇人が取っていた。勇人は落下の勢いを乗せたヴァリアブルギガントブレイカーの鉄杭を、クロムナイトの肩口に突き立てる。深く食い込んだ鉄杭は霧の残滓を巻き込みながら回転し、クロムナイトの体を食い散らかした。
     勇人を振り払ったクロムナイトの脚に、悠仁の瞬刃閃舞が巻き付く。鞭剣の刃が食い込むのにも構わずクロムナイトが暴れ、引きずられかけた悠仁は舌を打ちながら踏ん張る。
     悠仁が渾身の力で瞬刃閃舞を振り上げ、クロムナイトを上空へ放り投げた。すかさず解いた瞬刃閃舞を横薙ぎに振り払ってクロムナイトを切り裂き、刃を引き戻すと同時に踏み切り、落下するクロムナイトを下から斬り上げた。
     体勢を立て直し着地したクロムナイトが、低く唸る。その膝から、背中から、全身から刃がせり出し、刃の塊と化したクロムナイトが飛び出した。
     両腕を振り回しながら暴走するクロムナイトは和弥を撥ね飛ばして鋭くターンし、戒理と蓮華を纏めて薙ぎ払い、飛び掛かる霊犬のわんこすけを肘の刃で叩き落とし、行く手を阻む鎗輔振り上げる刃で弾き飛ばす。次に狙われた凛凛虎を庇って飛び出した徹を膝の刃で蹴り飛ばし、倉庫の外壁に叩き付けた。
     尚も暴走を続けるクロムナイトの前に、暁が躍り出る。天星弓で剣撃を受けた暁は大きく後ろに跳んで衝撃を殺し、受け身を取って後転から体勢を立て直しつつ弓に癒しの矢を番え、一番ダメージの大きかった徹に向けて放った。
     勢いを削がれたクロムナイトを勇人の斬弦糸が絡め取る。勇人はヴァリアブルギガントブレイカーの噴進装置に火を入れ跳躍し、クロムナイトをぶっこ抜く。放物線を描いて急降下する勇人は着地の直前に鋼糸を手繰り寄せ、背負い投げの要領でクロムナイトを地面に叩き付けた!
     間を置かず戒理が蓮華を伴って飛び出す。前に出た蓮華はふわりと舞い上がりクロムナイトの背後に着地、その足元で霊障波を炸裂させクロムナイトを打ち上げる。直後、矢の様に突っ込んだ戒理の飛び蹴りが、クロムナイトの土手っ腹を深く抉った。
     わんこすけが弾けるように飛び出し、立ち上がったクロムナイトの周囲を大きく旋回しつつ六文銭射撃でその場に釘づけにする。
     鎗輔は断裁靴を地に打ち付け、散らした火花で火を点す。炎の走行跡を伸ばしながらダッシュで間合いを詰めた鎗輔は、クロムナイトに背中を向けつつ頭から懐に飛び込み、上体の捻じりを下半身に伝播させ遠心力に変換、クロムナイトの延髄目掛けて炎の軌跡が弧を描く蹴りを叩き込む!
     たたらを踏みながらも堪えたクロムナイトが顔を上げると、眼前に立つ和弥が刀身から紅の光輝を放つ風牙と一閃を構えていた。右腕を振りかざすクロムナイトの後の先を取って踏み込んだ和弥は風牙を逆袈裟に振り上げクロムナイトの右腕の刃を叩き割り、即座に上体を切り返して一閃を逆水平に振り抜き間髪入れずに踏み込み風牙でクロムナイトの胸部装甲を突き貫く。
     そのまま吊り上げるようにクロムナイトの体を持ち上げた和弥は風牙を引き抜き即座に旋転、一閃と風牙の連撃を重ねて叩き込む!
     背後に迫る凛凛虎を振り返り様に放つクロムナイトの膝蹴りに、凛凛虎は雷光を纏った左拳を合わせる。
     激突の瞬間、スパークが迸った。
    「面白い! 命の輝きが見えるぞ!」
     凛凛虎が拳を捻じ込み、クロムナイトの膝の刃がひしゃげて潰れる。凛凛虎はそのまま押し切り、クロムナイトの膝頭を割り砕き吹っ飛ばした。
     クロムナイトは獰猛さをむしろ増して唸りながら、殆ど機能を失った右脚を酷使して立ち上がる。
    「……もう、戦わなくていいんだ」
     呟いた徹がクロスグレイブを地面に突き立て、右手で掴む。
     その指先から現れた繊維状のデモノイド寄生体が、クロスグレイブを覆うように浸食する。剥き出しの筋繊維の如き寄生体はクロスグレイブを包み、徹の右腕と完全に一体化する。
     徹が十字架の腕部を地面に突き立て固定し構えると、十字架の先端が寄生体の繭を引き裂き砲口を露わにする。砲身の寄生体が強く脈動し、超重の砲身を跳ね上げる反動をもって砲口が吼え、眩くも禍々しい光条が天を衝いた。
    「安らかに――」
     徹は左手を添えて反動を抑え込み、砲身を振り下ろすようにクロムナイトへ向ける。
    「――眠れぇえええっ!!」
     白光の柱は夜空を引き裂きながらクロムナイトに迫り、その背後の海面叩き割り、そしてクロムナイトを圧し潰した!
     だが、まだクロムナイトは倒れない。折れた刃を杖替わりに、尚も立ち上がろうと足掻く。何とか体を起こしたクロムナイトの体が、震えた。
     直後、煤汚れた装甲を砕いてクロムナイトの胸を貫いたのは、瞬刃閃舞だった。
     クロムナイトの背中から刃が引き抜かれる。今度こそ力なく倒れ伏したクロムナイトの背後に立つ悠仁は、クロムナイトの遺骸が溶け崩れる様を言葉もなくただ見下ろしていた。


     戦いの後、鎗輔はシラセ達の復讐の被害者を海から引き上げた。その学生服姿の若い男の遺体に、和弥が走馬灯使いを使う。
     仮初の命を与えられた男が目を覚ます。と、自分を取り囲む灼滅者達を見回し、錯乱したように叫び始めた。
    「なんだお前ら! あいつらの仲間か!?」
     和弥の制止も聞かず、男は後退りながら喚く。
    「なんだよ! 大体、あいつが勝手に自分で死んだんだろーが! あいつが雑魚いのがいけねーんじゃねーの? だったら死ななきゃいいだろーが!」
     その自己弁護を聞くだけで、事情を知らぬ灼滅者が男の所業と心根を理解するには充分だった。
     灼滅者達が手を出してこないと分かると、男はその場から逃げ出す。
    「笑えないね、まったく」
     最後まで悪態をつき続けた男を見送り、鎗輔がぼやく。
     数日後、男は安らかな死を迎えるだろう。そして、その最期の時まで己の行いを省みる事もないのだろう。
     灼滅者達は言葉もなく、その胸にやり場のない苦さが募っていた。

    作者:魂蛙 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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