ドレッド……ノートもといロックス!

    作者:六堂ぱるな

    ●戦艦じゃないよ
     朝から猛暑日認定の加賀市の路上を、白い牡丹を描いた鮮やかな紫の羽織を腰に巻き、裸の上半身はありえないほど日焼けしたヒトが徘徊していた。頭に白く丸い、餅のような被り物をしている。
    「むむっ、そこなおなご!」
    「えっ?!」
     及び腰になった長い髪の女性に、謎の人物がにじり寄る。
    「貴様にふさわしい髪形を教えてやろう!」
    「遠慮しますッ!」
     通り過ぎようとした女性の腕を掴み、そいつは頭を振った。
    「まあ座れ! 照りつける太陽の下、魂の解放の手始めだ!」
    「ホント困りますっていうかイヤー!」
     哀れ、女性はいきなりドレッドヘアにされてしまいましたとさ。
    「キャー! これからデートなのに!!」
    「そこな若人! こんな日にふさわしい髪形を教えてやろう!!」
     そして髪の長い人ばかり、被害は続々と増えて行きましたとさ。
     そんな風景を桜庭・照男(高校生エクスブレイン・dn0238)が予知っちゃったとさ。
     
    ●モビルスーツでもないよ
    「辻斬りならぬ辻ドレッドヘアなの」
     首を傾げて古室・智以子(花笑う・d01029)が呟いた。照男が鷹揚に頷く。
    「セット中にんなショッキングなビジョンを見ちまったんだが、加賀市は気温がアフリカなみに上昇してるらしいぜ」
    「こいつもアフリカ化したご当地怪人か……」
     ヘアセットの途中で連れてこられた宮之内・ラズヴァン(大学生ストリートファイター・dn0164)が疲れた目で資料を眺める。
    「てことで加賀パウンデッドヤム怪人を灼滅してきてくれ!」
     照男にびしっとキメられたラズヴァンが、資料を二度見して智以子を振り返った。
    「ん? 智以子が予測した怪人って何だった?」
    「加賀スイートポテト怪人なの」
    「ハイ?」
     解説しよう。パウンテッドヤムとは茹でたヤム芋を棒で搗きまくり、茹で汁を加えてこねて作るアフリカの主食の一種である。
     もはやご当地の原形をとどめていない。恐るべしアフリカン進化。
     アフリカンパンサーの直接関与はないようだが、今はドレッドヘアにするだけとはいえ、さすがに放っておけないだろう。

     加賀パウンデッドヤム怪人はご当地怪人のサイキックの他、手にした櫛で咎人の大鎌のサイキックを使って戦う。丁寧な仕事ぶりが仇になるジャマーらしい。
     怪人は朝から加賀市大聖寺地区の町屋のあたりにいる。髪が長いとみれば飛びつき、ドレッドヘアにしてしまうようだ。辺りから一般人を避難させれば、狩り場を変えてしまいかねない。
     ぽんと照男がラズヴァンの肩を叩いた。
    「ここはひとつ、囮になってくれ!」
    「やっぱそうか!?」
    「心配すんなよ、ヘアスタイルは俺がパーフェクトに直してやるぜ!」
     超陽気に照男が請け合う。囮がドレッドヘアにされている間に一般人を遠ざけ、安全確実に灼滅するのが理想的だ。
    「……つまり学園まではドレッドヘアなの」
    「あああっ!」
     智以子のツッコミにラズヴァンが頭を抱えた。
    「敵は1人で灼滅者8人分もの力があるって話だが、きっと灼滅してきてくれると信じてるぜ、エブリバディ!」
    「加賀でスイートポテト買ってくるからマジ直してくれよ?!」
     照男に切々と訴えるラズヴァンであった。


    参加者
    古室・智以子(花笑う・d01029)
    結束・晶(片星のはぐれ狼・d06281)
    央・灰音(超弩級聖人・d14075)
    狩家・利戈(無領無民の王・d15666)
    神西・煌希(戴天の煌・d16768)
    茂多・静穂(千荊万棘・d17863)
    宮武・佐那(極寒のカサート・d20032)
    藤原・漣(とシエロ・d28511)

    ■リプレイ

    ●アフリカンって言っとけばOKみたいな
    「マンガとかでよく見かけるセリフだけど、言わずにはいられないの……どうしてこうなった!!」
     朝からうっかりと30度をこえ、立秋も過ぎたというのに暑さは天井知らず。うだるような加賀市の通りを歩きながらの、古室・智以子(花笑う・d01029)心からの叫びである。
    「ご当地って本当に意味不明な輩が多いけれど、アフリカンな風味が加わると、更に輪をかけて酷いの」
    「スイートポテトの方がまだ、幾分か良かったんじゃないか……」
     奇天烈なアフリカン進化にため息をつく結束・晶(片星のはぐれ狼・d06281)。
     幾分かどころかだいぶマシだったと思われるが、もはや彼は通行人を勝手にドレッドヘアにする迷惑行為に走る加賀パウンデッドヤム怪人。誠に遺憾です。
     晶の隣で、神西・煌希(戴天の煌・d16768)が恐怖におののいた。
    「髪が長ければとにかくドレッドヘアにって、すんげえありがた迷惑だなあ。ある意味これはドレッドノートに間違いねえ……怖いものねえじゃねえか」
    「何がしたいのか良く分からんが、その目論見打ち砕かせて貰おうか!」
     気合い十分の晶、出発前に桜庭・照男(高校生エクスブレイン・dn0238)に髪をセットしてもらってきていた。スレイヤーカードを得た時より伸びた髪は肩甲骨を超えている。晶の言葉には煌が頷いた。
    「奴らの目論見を潰すためにもアフリカン化はしっかり防がねえとなあ」
    「アフリカン化ねえ……なんかきな臭い感じですが、まずは目の前の事に対処しないといけませんね」
     もの思わしげな茂多・静穂(千荊万棘・d17863)が呟いた。ご当地怪人のアフリカン化やアフリカ並みの暑さはここだけではない。何かがどこかで動いているのだろう。
    「怪人がどこにいるかはわかりませんけれど、大聖寺地区を捜索してみるというのは如何でしょう? 町屋の風景が素敵ですから人も多いですし、怪人もいるかもしれませんよ」
     既に情報として渡されていた内容であったが、自分の調査結果のように央・灰音(超弩級聖人・d14075)が仲間に提案した。あ、この人綺麗なのにイタい系かなって空気が一瞬流れる。代表して応じたのは明るい笑顔を浮かべた煌希だった。
    「そ、そうだなあ、行ってみようか」
     そこで智以子がきっちりと気分を切り替えた。
    「それはさておき。ドレッドヘアの似合う人って、格好いいって思うの。自分では絶対にお断りだけど」
     彼女が楽しげに見上げたのは囮に任命されてきた宮之内・ラズヴァン(大学生ストリートファイター・dn0164)だ。どよんとした空気を漂わせる彼の向こうで、狩家・利戈(無領無民の王・d15666)が不敵な笑みを浮かべる。
    「ふむん、ドレッドヘアか……たまにはイメチェンしてみるのも悪くないな。受けて立つ!」
     女性の方がそんな勢いで乗り気になって下さるとは思いませんでした。勢いにつられたのか宮武・佐那(極寒のカサート・d20032)が、相棒のウィングキャットのもふもふを思ってうっかり呟く。
    「王さまはドレッドヘアにしてもらっちゃおうかな……?」
    「私も囮として行きますよ」
     長い黒髪を揺らして灰音も微笑んだ。因みにどこをどう見ても女子にしか見えないが、彼は男子である。
    「オレも囮できたらやっとくっす!」
     ぴーんと手をあげた藤原・漣(とシエロ・d28511)が参加表明して角を曲がると、美しい伝統的な町屋の街並みが見えてきた。

    ●魂の解放とか言っとけばOKみたいな
     日焼けを通り越して焦げたような肌色の怪人が現れたのは割とすぐだった。
    「この焼けるような日差しの下、あるべき姿というものを教えてやろう!」
    「頼んでねえっつうか待て、勝手に始めるな!」
     ラズヴァンがいきなりとっ捕まった。体躯はラズヴァンの半分ほどだがこれでもダークネス、通りの端においた丸椅子に連行して座らせると見る間に髪を編み込んでいく。
    「よろしくなあ」
     避難誘導班である煌希が後を囮班に頼むと、爽やかな笑顔でその場を離れていった。
     ドレッド化が進行していくあまりの早さにカツラをかぶった漣が青くなり、利戈がどーんと仁王立ちで挑発にかかった。
    「俺の髪をドレッドヘアにできるものならしてもらおうじゃないか!」
    「よかろう、待っておれ!」
    「希望者からやったらどうなんだよ?!」
    「ここ、太さが違うんじゃないか?」
    「ドレッド……イケメンが似合うあの髪型ですね!!」
     ラズヴァンの抗議にはお構いなしの怪人に、晶も横から指摘して注意を引く。サポートというか観戦にきた紀伊野・壱里が楽しげに観察する中、どう考えてもオカシイ早さでラズヴァンのドレッドが完成。次いで怪人が取りかかったのが利戈の髪だった。
    「あ、細めで頼む!」
    「よかろう!」
     拒否は聞き入れないがリクエストは受け入れるらしい。どえらい細かい編み込みをあっという間に仕上げて行く。思った以上のボリュームになった利戈に確認のための手鏡を渡した怪人は、次いで晶の髪にとりかかった。
    「どうだ、その髪色に相応しい輝きは!」
    「個性的で素晴らしい……新しい自分に生まれ変わったようだよ!」
     怪人をノせるために話を合わせているが、なんだかストレートより寧ろドレッドの方がしっくりくると思った晶である。女性らしくするのが苦手な彼女には、ある意味新鮮な体験だったのかもしれない。
     渡された手鏡を覗き込む晶の後ろで、漣がカツラをむしり取られていた。
    「貴様、魂の解放を前に臆したか?! この際この長さでも編み込んでくれる!」
    「あっ、ちょ、いや……こうなる気はしたっす~!」
     漣が抵抗を断念。無残にも短い髪をドレッドにされた漣を、相棒のシエロが寄りそって慰めてみたりしていた。
    「私の髪もお願いしましょう」
     前にでた灰音も椅子に座らされ、ボリューミーなドレッドに仕上げられていく。
    「どうだ、おなごも魂の解放によかろうが!」
    「私は男ですけれどね」
    「なんと?!」
     ビックリした怪人が思わず手を止めて二度見する。
    「次は誰だ!」
     息まく怪人の前に現れたのは、佐那の相棒である王さまであった。純白のもふもふ毛皮に怪人が襲いかかる!

     もちろんそんな惨劇を、他の仲間が黙って見ていたわけではない。
    「変質者が現れました! 皆さんこちらへ避難してください!」
     静穂がてきぱきと、周囲の一般人の避難誘導をすすめていた。とはいえ囮が次々とドレッドヘアにされる、という緊張感に欠ける画のせいかなかなか避難しない。
    「そこ、撮影している暇はありませんよ! あなたもドレッドになりたいですか!」
    「急いでくれな」
     警官っぽさ演出の静穂と煌希で手分けして誘導し、佐那も人が近づかないよう呼び掛ける中、なかなか動かない一般人は智以子が個別に対応していた。
    「ここは危ないから、しばらく隠れていてほしいの」
     囮と怪人にカメラを向ける一般人の前に割り込んで、ラブフェロモン全開の智以子がその手をとる。小柄で可憐な少女に男性が目を奪われた!
    「お願いなの……」
     目どころか魂まで奪われたようだ。潤んだ瞳で見上げる智以子に男性が頷く。
    「わかったよ。でもキミは……」
    「わたしのことなら心配ないの。さあ行ってほしいの」
     引き裂かれた恋人みたいな顔で促された男性が現場を立ち去っていった。恐るべし、ラブフェロモン+可憐女子。
     ため息をついた煌希が、ダメ押しに殺気を噴き出した。

    ●話してダメなら鉄拳制裁もOKみたいな
     避難誘導を終えた一行が見たのは、もふ毛をみっちりドレッドにされた王さまと怪人の手から逃れ続ける仮夢乃・聖也だった。サポートに来てくれた彼がいつものウイッグでひらひらと駆け回る。
    「止まらんか、おなご!」
    「私は男の子なのです!」
    「おまえもか! この国の男子はどうなっとるんだ!」
    「インパクト的にはアフロの方があるような気がするなあ」
     驚愕する怪人の横で壱里が首をひねり、聖也が声をあげた。
    「危ないのです! やめるのです! 捕まらないのです! みなさーん! 早く攻撃をしかけるですー!」
     とか言ってる間にとっつかまった。見る間にウイッグがドレッドにされる。
    「どうだ、新しい自分を見てみるがよい!」
     得意満面の怪人の前で、聖也が別のウイッグをしゃきんと装着。
    「ふふん! 復活なのです!」
    「おのれ小癪な!」
     ウイッグがいくつあるのか気になるところだったが放ってもおけまい。渡された鏡で出来を確認していた利戈が口を開いた。
    「ふむん、まあまあってところだな。お前、もっと修業した方がいいぜ」
    「なんだと!」
    「ドレッドヘアを広めたいなら、その人に似合うドレッドヘアにできるようになれってな! おら!」
     利戈が手鏡を怪人の顔面に叩きつけた。ぱりーんとかいって砕ける鏡と怪人のプライド。彼が激昂するより早く、智以子がカードの封印を解いた。
    「咲け、烏羽玉」
     若干サイズダウンした趣のある王さまを招き寄せながら佐那が訴える。
    「ど、ドレッドヘアは確かに素敵な髪型だと思いますが、髪って個性だと思うのですよね」
    「当然である」
    「だから無理矢理押し付けるのは大反対。それに女性の髪はもっと大切にしないと嫌われてしまいますよ」
     佐那の言葉にドレッドヘアにされた面々がうんうんと頷いた。怪人は腰に巻いた紫の羽織りを締め直すと、おもむろに一行に向き直った。
    「つまり邪魔をしようというのだな? ならば容赦はせん!」
     ヘアセットに使っていると思しきコームが巨大化する。構えたコームの歯に宿る咎が黒い波動となって、灼滅者へと襲いかかった!
    「お手並み拝見、ってなあ!」
     不敵な笑みを浮かべた煌希が灰音を庇って傷を引き受ける。防具で凌いだ静穂だったが、まとわりつくような咎が武器の力を著しく減殺するのを感じた。
     ニュイに庇われた智以子の拳に雷が宿った。弾ける青白い光を握り込んで正面から打ちこむ。そのサイドに滑りこんだ晶の槍が螺旋の軌跡を描いて刺突を加えた。
    「ぐお!」
     その傷口に追い討ちをかけるように、利戈からも雷をまとったボディブローが襲いかかる。鉤爪の生えた狼の腕を振り上げた静穂が怪人を引き裂き、ついでに長いウイッグをかぶってこれみよがしに髪をなびかせてみせた。
    「ほらどうですこの長い髪? あ、戦闘中じゃドレッドになんてできないかー」
    「お、おのれ、絶対それもドレッドにしてくれる!」
     そんなことより全身くまなくダイダロスベルトを巻き付けて、先端に盾やクロスグレイブを装着して、締め付け感を楽しんでいる静穂に他に言うことはないんですかね。
    「それじゃ、俺の手番と行くぜえ」
     踊るようなステップで懐に飛び込んだ煌希が、鋼も砕くような拳の一撃を叩きこむ。傍らでニュイが静穂の傷と武器の縛めを癒した。

     厄介な攻撃を繰り出す怪人だったが、手練れの灼滅者を前にみるみる追い詰められた。
     危険があれば闇堕ちも辞さぬ覚悟で臨んだ灰音だったが、その心配はなかったようだ。たおやかな身体が防御ごと砕くような拳撃を捩じこむ。
    「食べ物系のご当地怪人でなくなった時点で慈悲などない。テメエのこの先は通行止めだ! ひゃっはー!」
    「うぐっ……失礼な! パウンテッドヤム・ダイナミック!」
     赤く輝く標識を振りかざして叩きつけた利戈の一撃を受け、よろめいた怪人が返す刀ならぬパウンテッドヤム(茹で捏ね済)を利戈に巻きつけた。
    「食べ物があるだと?!」
     高く持ちあがったパウンテッドヤム+利戈が地面に叩きつけられる。
    「大丈夫ですか?」
     すぐさま佐那からダイダロスベルトが奔って、利戈を守るように巻きついた。
    「サンキュー!」
     利戈が応じると同時、王さまから飛んだ魔法が怪人の自由を奪おうと輝く。
    「勝ち目がないのはわかったかね? せいぜいアフリカの神にでも祈りたまえ」
     宙を舞った晶が告げ、風をまいて振り下ろされた足がしたたかに怪人を打つ。星が落ちたにも等しい衝撃は骨を軋ませた。
     全身を絞めつけるダイダロスベルトの快楽に吐息をもらし、静穂がクロスグレイブを振りかぶる。殴打から突き、回転して体重を乗せた打ち下ろしの連撃で、怪人は為す術もなく打ちのめされた。
    「初めて使いますが、十字架武器もいいですね。何しろ私の彼氏、将来は神父さんですし……えへへ」
     うっかり大切な人のことで頭が占められた静穂だったが、油断は禁物。ラズヴァンの拳撃でよろける怪人に向き直る。
    「おっと集中集中。さあどんどん私に攻撃してきてください!」
    「ふざけおって!」
    「そろそろ終わりにするの」
     智以子の声は殺意よりは疲労のほうが色濃く出ていた。桔梗の花が開くように『従順な黒』のオーラが身体を覆う。怪人の身体に彼女の拳が次々に捩じこまれ、たたらを踏んだ怪人の背中に『騎士剣』を抜いた灰音が、非物質化した刃で烈しい斬撃を加える。
     漣の構えたクロスグレイブの銃口が開き、聖歌が流れ始めた。シエロから放たれたしゃぼん玉に弾かれた怪人の体を、銃口から奔った光弾が貫く。
    「もう覚悟はできたよな?」
     にまりと笑った煌希の傍らから白い毛をなびかせてニュイが飛び出す。閃いた斬撃に引き裂かれ、怪人の足が止まった瞬間に煌希の放った影が飲み込んだ。トラウマに襲われた怪人のくぐもった悲鳴がもれ聞こえ、影が素早く煌希のもとへ戻る。
    「くう……む、無念!」
     苦悶の表情を浮かべた怪人が倒れ、ちゅどーんと大爆発が起こった。それが加賀パウンテッドヤム怪人の最期であった。

    ●終わりよければ全てOKみたいな
     煌希は相棒を呼び寄せるとトドメとなった連撃に笑顔を浮かべた。
    「よくやったな、ニュイ」
     聞いてませんよって顔でそっぽを向いたニュイだったが、その尻尾が嬉しげに揺れる。
    「アフリカン進化……もはや意味わかんねぇっすね……」
     加賀パウンテッドヤム怪人の最期を見届け、漣は遠い目で呟いた。シエロが同意するようにナノっと鳴き、智以子が厳しく表情を引き締めて頷く。
    「これで、悪の野望は潰えたの……」
     その場に背を向け、道の彼方へ目をやり、切り替えた智以子はぱっと笑顔になった。
    「さ、スイートポテトを買いに行くの。疲れた体には、やっぱり糖分が必要なの♪」
    「加賀ってスイートポテトが有名なん?」
    「さつまいもが加賀野菜のひとつで、名産なんだそうだ」
     首を捻る利戈に、ラズヴァンが聞きかじりの知識を説明する。そもそも怪人がスイートポテト推しだったのなら買って帰るのが供養であろう。
     お土産を買って帰途についた一行は、電車でも恐ろしく異彩を放っていた。
     なにせ半数がドレッドヘアになっているため、一般の皆さま方から注目を浴びまくる。何としてもドレッド仲間に入ってガン見されたい静穂はウイッグを自らドレッドにした。
    「ママー、あのお姉ちゃん髪がヘンー」
    「見ちゃいけません!」
     車内でこそっと交わされる会話も静穂にしてみれば完全にご褒美。
    「変な髪型だって見られてる……でもそれが良い!」
     頬を上気させる静穂を、生あたたかく見守る煌希と佐那である。
     学園に着くや否や、ドレッド被害組は照男によるドレッドヘアのリセットを受けに行った。もちろん送りだした照男も待っていたわけで。
    「適当にほどいて髪を傷めちまったら大変だからな。オレに任せときな!」
     さすがのヘアメイクアーティスト志望、確かな技術と早さで全員のドレッドをほどいていく。意外と似合ったのでほどくかどうか悩んだラズヴァンだったが、元通りになるとさすがに安堵の息がもれた。
    「助かったぜ、照男……あ、これスイートポテトな」
    「そうだ、再セットは君にお任せするよ」
    「引き受けた!」
     ラズヴァンからお土産を貰った照男が、晶のリクエストを一も二もなく了承する。
    「ドレッドも案外悪くないが……手入れが難しいと聞くからなあ」
    「そうだな、慣れねえとちょいと手がかかるぜ。まああんた向きにパーフェクトにセットするから安心してくれよな」
     鏡の中の晶を真剣に見据えて照男がコームを構えた。相手の個性を活かすヘアセットこそ彼の真髄であり、情熱なのだ。

     かくして人を勝手にドレッドヘアにする怪人は打ち倒された。
     そもそものご当地色すら失うほどの、どんな異常が彼を襲ったのかを知る術は今はない。
     だが加賀市の平和は守られたのである!

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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