●
「……あれ、何でこんな所に?」
買い物をしに出掛けて、駅の改札を出てからの記憶がない。
日も沈んでしまっているし、見覚えのない洞窟の中にいる。
「しかし夜だっていうのに、妙に暑いな……」
山の中のようだし、もう少し涼しくてもいいのに、まるで真夏の日差しの下にいるような暑さだ。
あまりの現実感のなさに、そんな胡乱な思考しか頭に浮かばない。
とりあえず人のいる所に出なければと、洞窟の外に向かって歩くことにする。
●未来予測
「集まったみたいだな。今回は竜種イフリートの行動を察知したぜ」
教室に集まった灼滅者達が揃っていることを確認してから、阿寺井・空太郎(哲学する中学生エクスブレイン・dn0204)は事件について説明を始める。
「何故か竜種イフリートのいる洞窟に、一般人が迷い込んでしまうみたいだな。どうして一般人が迷い込んでしまうかわからないけど、今なら一般人が竜種イフリートに殺される前に救出することができるぜ」
その洞窟は人里離れた山の中にあり、放って置けば一般人は竜種イフリートに殺されてしまう。
「幸い一般人が竜種イフリートに襲われる前に接触できるんで、竜種イフリートが襲って来る前に救出した方が良いだろうな」
竜種イフリートは破壊衝動に任せて目に留まったものは必ず殺そうとするので、一般人が見付かってしまう前に、洞窟から避難させるべきだろう。
「この竜種イフリートは、おそらく朱雀門高校が戦力増強の為に集めた戦力なんだと思うぜ。未来予測に引っ掛かった今が、灼滅の絶好の機会だ。お前達ならできるって信じてるぜ」
参加者 | |
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小碓・八雲(鏖殺の凶鳥・d01991) |
シェレスティナ・トゥーラス(欠けていく花・d02521) |
森田・依子(深緋・d02777) |
月原・煌介(月梟の夜・d07908) |
ワルゼー・マシュヴァンテ(松芝悪子は夢を見ている・d11167) |
不破・桃花(見習い魔法少女・d17233) |
幸宮・新(二律背反のリビングデッド・d17469) |
アサギ・ビロード(ホロウキャンバス・d32066) |
●
「唐突にこんなところに現れて。朱雀門は何を考えているのかなぁ……そもそもこれホントに朱雀門の手口なのかな」
人里離れた山の中、シェレスティナ・トゥーラス(欠けていく花・d02521)は疑問に首を傾げる。
未来予測されたのは、あくまで竜種イフリートの行動であり、朱雀門高校の関与はあくまで推測に過ぎない。
「竜種は朱雀門と繋がったんだったかな。わけも分からず洞窟に迷い込む……吸血捕食による記憶操作の類かな?」
未来予測によれば、これから接触する一般人は記憶が曖昧になっているらしい。
状況証拠を集めれば、朱雀門高校が関わっているという推測の確度は低いものではないように幸宮・新(二律背反のリビングデッド・d17469)には思えた。
「此処まで人間を連れてくる辺りは朱雀門が糸を引いているんだろうけど……それを調べるよりは、まず人命優先だな」
少なくとも竜種イフリートの手口ではないというのは、小碓・八雲(鏖殺の凶鳥・d01991)の考えでもあるが、まず命の危険に曝されている一般人の救出が先決だ。
「何処の何方がやっていることか、考えるのは、後」
森田・依子(深緋・d02777)は、ここ最近今回と似た事件が頻発していることを報告書に目を通すことで確認して来ていたが、それを頭の隅に意識しつつも歩を早める。
「一般人の方を救い出すため、全力で頑張ります!」
(「なぜ迷い込んだかは分かりませんが……無事帰してあげないとですね」)
表面上の様子こそ対照的ではあるが、不破・桃花(見習い魔法少女・d17233)とアサギ・ビロード(ホロウキャンバス・d32066)も目の前の被害を出すまいと決意を固める。
「まったく……何故このようなところへ一般人が迷い込んだのやら……気にはなるが、まずは灼滅者としてのお仕事をせねばな」
そして一般人の救出と同時に、ダークネスである竜種イフリートの灼滅もまた灼滅者の使命である。
手にした槍で進行方向を指すワルゼー・マシュヴァンテ(松芝悪子は夢を見ている・d11167)は、既に臨戦態勢であった。
「竜か……不謹慎だけど……神々しい姿には、見惚れるしか無い、な……」
また一方で月原・煌介(月梟の夜・d07908)の関心も不自然なものではない。
灼滅者にとって宿敵であるダークネスではあるが、イフリートは神話的存在の姿をしている。
洞窟に棲む竜ともなれば、古今東西の竜物語に思い馳せてしまうのも仕方のないことだろう。
そうこうしている内に、目的地となる洞窟が灼滅者達の行く先に見えてきていた。
●
一般人は洞窟の入口付近から外に向かって歩いており、発見することに手間は掛からなかった。
「此処は危ない野生動物の巣穴で危険です。急いで外へ避難して下さい」
一般人は混乱しており、突然現れた学生達に違和感を覚えなくはなかったが、灼滅者達の真摯な態度にESPを使うまでもなく、言葉を聞き入れてくれた。
もちろん非現実的な出来事の連続に判断力が低下しているということはあるかもしれないが、一般人男性は依子の言葉に従って足早に洞窟の外へと向かった。
「君達は一体……?」
「正義の味方、みたいなものでしょうか」
洞窟の入口で最後に振り返る一般人を、桃花が笑顔で送り出した。
「暑苦しくてかなわんのだよ貴様は。手早く片付けさせてもらうぞ! 早く帰って、取っておいたアイスを食べるのだ」
先行するというほどではないが、洞窟の奥から向かって来ているだろう竜種イフリートを迎撃するべくワルゼーが走る。
洞窟の奥に進むほど、洞窟の壁は熱で熔けたように赤熱している。
元々はもっと小さい洞窟だったのであろう。
おそらく竜種イフリートの体温によって、この洞窟は掘り広げられていたのだ。
『グォオオオオォォオオオォォォッ!!』
灼滅者達に気が付いた竜種イフリートが咆哮を上げる。
間髪入れずに吐き出された火球がワルゼーの横を通過し、後方から続いていた桃花を狙う。
「この程度の炎では、引きません。私も……熱いのには慣れてる方ですからね」
回避が間に合わないと思われていたところを、依子が庇うように前に出て攻撃を肩代わりした。
「一番槍、いただかせてもらおうかの」
竜種イフリートの足許に潜り込んだワルゼーの槍が竜種イフリートの太い脚を狙おうとするが、突然竜種イフリートを包む熱気が膨らみ、ワルゼーは咄嗟に距離を取る。
「危ない」
全身に炎を纏いながらの突進体勢に入った竜種イフリートの進行方向を、近くにいたワルゼーだけが気付いていなかった。
竜種イフリートの脚に轢かれそうになったワルゼーを、シェレスティナが身を盾にすることで守る。
「久当流……始の太刀、刃星!」
真っ直ぐ突進して来る竜種イフリート目掛けて、八雲は跳ねるように地面を蹴って一気に距離を詰める。
擦れ違い様に五連の斬撃が繰り出されるが、本能的直感で察したのか、竜種イフリートは強引に進行方向を曲げることでそれを回避。
「このままお願いだよー」
「了解」
治療のために巻きつけられた新のダイダロスベルトに、シェレスティナが釣り上げられるように引き寄せられ、竜種イフリートの頭部を越えたところで飛び出したシェレスティナの重力を帯びた飛び蹴りが竜種イフリートの背中を襲う。
そしてシェレスティナの一撃で足が止まったところを、依子のクルセイドスラッシュが竜種イフリートの厚い脚の皮膚を切り裂いた。
「暑さ我慢大会、っぽい……すね」
岩石が溶岩と化している洞窟、その元凶となっている炎を纏った竜種イフリート、人間であれば立ち入るだけで危険なほどの熱気が空間に満ちていた。
照り返す炎で真珠色に輝く刃を手に煌介も依子に続いて竜種イフリートの足許に接近するが、追撃を嫌った竜種イフリートが反対の足で牽制するように煌介の目の前を踏みつけ攻撃の機会を阻む。
「お返しです!」
魔法の杖のように構えられた槍の穂先で狙いを定め続けていた桃花が、竜種イフリートが煌介に気を取られた一瞬の隙を狙って精製した氷弾を一斉に発射する。
「竜種、危険。此処、討伐」
桃花の氷弾に怯んだ竜種イフリートに、アサギはクルセイドソードを振り被りながら距離を詰めるが、竜種イフリートは炎を噴射することで、その巨体を物理法則を越えた勢いで一旦洞窟の奥へと退避させる。
●
『ガルルルルゥゥゥゥゥ!』
距離が開けたところで再び竜種イフリートの口から火球が放たれる。
「何度来ても防いでみせます」
依子が火球の射線に向かって前に出ることで、背後の仲間達を守る。
防御のために構えたクルセイドソードで火球を受け止めると、火球が爆ぜて洞窟を明るく照らした。
「久当流……封の太刀、撃鉄!」
依子を追い越し、宙を足場にして、八雲は一直線に竜種イフリートへと肉迫する。
逆手に持った左の一刀で竜種イフリートの鼻先を狙い、首を振ってそれを躱した竜種イフリートの延髄に、一撃目を振った流れのまま回転し、遠心力を乗せた右の斬撃を上段から叩き込む。
「これでもくらえ」
八雲の一撃で頭部を地面に叩きつけられた竜種イフリートの眉間に、ワルゼーの流星のような飛び蹴りが突き刺さる。
「もっとよく狙いなよ、ノロマ」
起き上がりながら駆け出し、火球によるダメージでまだ動けずにいる依子を狙って、竜種イフリートが突進するが、横から伸びた新のダイダロスベルトが引き寄せて助け出した。
「炎対決、っすよ」
シェレスティナが滑り込むように足許を狙ってグラインドファイアを繰り出し、それを避けるために足を止めた竜種イフリートを狙って依子の蝋燭から放たれた炎の花が咲き乱れる。
眼前を覆う炎に怯んだ竜種イフリートに向かって煌介が跳躍、銀粉を撒きながら燃え上がる飛び回し蹴りが、竜種イフリートの顎を蹴り抜いた。
「今がチャンスです!」
仲間達の連続攻撃で竜種イフリートの動きが鈍ったところを逃さず、桃花が竜種イフリートの懐に飛び込み、オーラを纏った拳のラッシュが竜種イフリートの胴体に吸い込まれるように直撃する。
『グルルルゥルルォォォッ!』
竜種イフリートの尻尾がレーヴァテインの炎に包まれ、攻撃の間合いをはかっていたワルゼーに振り下ろされる。
「損傷軽微」
それをアサギが大鎌の刃で受け止める。
竜種イフリートの巨体と膂力から繰り出された一撃に体が軋むが、アサギはそのまま大地を踏み込んでデスサイズによる斬撃で竜種イフリートの尻尾を切断した。
「今度こそ決める……刃星!」
切り飛ばされた尻尾を潜り、竜種イフリートの背後から脚の間を駆け抜ける八雲の剣舞が、竜種イフリートの脚に五芒星の傷を刻み込む。
脚に蓄積したダメージによって巨体を支え切れなくなった竜種イフリートは無防備に転倒した。
「今だ。畳み込むのだ!」
ワルゼーの声に応えるように、灼滅者達は倒れた竜種イフリートに一斉に最大限のサイキックを叩き込む。
いくら巨大な竜種イフリートでも、灼滅者達の集中攻撃には耐えることができずに息絶えるのだった。
●
「……さて、光源が消えて暗い夜の山道を帰ることになるけど、みんな足許に気をつけろよ」
竜種イフリートが灼滅され、真っ暗になりつつある洞窟の中で、八雲は持って来たLEDランタンを取り出し使う。
「わたし達はちょっとこの洞窟を調べてみます」
桃花とシェレスティナが名乗り出て、二人は仲間達と別れて洞窟の奥へと向かう。
「この洞窟の奥とか何かあるのかな?」
シェレスティナは準備して来たペンライトで照らしながら、桃花と手分けして洞窟の探索を続ける。
「竜種のいる場所にくる一般人も何でそこにきたのかわからないって報告が上がってる。人と竜種を合わせる理由は何?」
しかしわかったことといえば、元々はこの洞窟がもっと狭いもので、竜種イフリートによって広げられたことくらいであった。
「ここに来る前のことで、何か憶えていることはありませんか?」
合流した一般人に依子は歩きながら問い掛ける。
煌介が空から探したことで、一般人のことは簡単に見つけることができた。
「信じてもらえるかわからないけど、三ノ宮駅の改札を出てからの記憶がないんだ。まだ昼前だったはずなのに……」
一般人男性もまだ混乱しているようで、それ以上の情報を聞き出すことはできなかった。
その後、灼滅者達は一般人男性を無事に麓の町まで送り届けるのだった。
作者:刀道信三 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年8月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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