ギュイイイン。
ゲームセンター内では、2つのレースゲーム用筐体だけが稼働していた。1つを操縦するのは、顔面蒼白になった青年。そしてもう1つに乗り込んでいるのは年端もいかない、上品な身なりの少女だった。
やがて最後のコーナーを抜け、先頭の車がゴールする。少女は冷笑し、先にシートを降りた。
「あなたの負け、ですわ」
「お、お助けを!」
青年は躊躇なく土下座し、額を床に擦り付けて許しを請う。しかし少女は笑みを崩すことなく剣を抜き放ち。
「いけません。罰ゲームは受けなければ」
青年の胸を易々と貫いた。
「松戸市のゲームセンターに密室ができているのを見つけたぜ。みんな、力を貸してくれ」
柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)がそう言って、調査結果の報告とともに仲間を募る。今回発見された密室は、ゲームセンターの入った駅前のビルを中心に形成されており、少女の姿をした六六六人衆によって支配されている。
「六六六人衆の名前はリンカ。ゲームに勝てば解放してやるという条件で勝負を仕掛け、負けた人間を処刑しています」
冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)が説明を始め、詳細に移る。
「ただし、密室の周辺ではMADに加わったハレルヤ配下の六六六人衆が警戒活動を続けています。配下に見つからないように侵入し、リンカを灼滅してください」
ハレルヤの配下は駅周辺を巡回しており、普通に入ろうとすれば見つかってしまう。
「ですが、近くのマンションの屋上から飛び降りることで、ビルの上に出ることができます。そこから侵入してください」
だが飛び降りるところを配下に見つかってはいけない。駅に電車が来たタイミングで跳ぶなど工夫すべきかもしれない。
「密室に侵入すると、リンカはゲームセンターで一般人とゲームをしているはずです。戦闘をしかければ一般人は逃げるので、特別気にかける必要はありません」
リンカはシャウトに加え、殺人鬼とクルセイドソードのサイキックを使う。序列は高くないが機動力と攻撃力に長け、油断すれば返り討ちに遭うことだろう。
「もしハレルヤの配下に発見された場合は、素早くその場を切り抜けて撤退してください。そうしなければ、増援を呼ばれて撤退することすらできなくなるからです」
配下の戦闘力は不明だが、灼滅者が力を合わせれば勝てない相手ではない。しかし増援に囲まれないために早く撃破することが必要だ。
「リンカの灼滅が第一の目標ですが、配下に見つかった場合はそれを諦め、配下を撃破して撤退することを目標としてください」
密室を解決し続ければ、ハレルヤやMADが何らかの動きを見せる可能性もあるだろう。今は地道に敵の動きを潰していく時だ。
「いざという時は、身の安全を優先にして動いてください。それでは、よろしくお願いします」
そして蕗子は淡々と説明を終え、灼滅者達を送り出した。
参加者 | |
---|---|
泉二・虚(月待燈・d00052) |
ジャック・アルバートン(ロードランナー・d00663) |
柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232) |
槌屋・透流(トールハンマー・d06177) |
小鳥遊・亜樹(少年魔女・d11768) |
華槻・奏一郎(抱翼・d12820) |
月姫・舞(炊事場の主・d20689) |
御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264) |
●密室の盲点
「ひゃー。高いねぇ」
灼滅者達はゲームセンター近くのマンションの屋上に上り、高みから周囲を見下ろす。地上を歩く人々がまるで小動物のようにも見え、小鳥遊・亜樹(少年魔女・d11768)がその高さに感想を漏らした。
「密室殺人か。絶対に止めるよ」
ゲームセンターの入ったビルの屋上を見つめ、ぽつりと呟く。密室に潜む六六六人衆をせっかく発見できたのだ、その行いをこれ以上野放しにすることはできない。
(「密室とゲームか。ロードローラーで押し潰した方が早い気もするが、な」)
当然通常のロードローラーでは役に立たないことを理解しつつ、泉二・虚(月待燈・d00052)が心の中でぼやく。ハレルヤの配下によって侵入にも一手間だが、できるだけ手っ取り早く済ませたいところだ。
「引き籠るならば一人ですれば良い物を」
ジャック・アルバートン(ロードランナー・d00663)もビルを見下ろし、険しい顔でゲームセンターに視線を送る。ダークネスのすることは理解できないが、この機を逃さず灼滅せねば。
「行くぞ」
そこにガタンゴトンと音を鳴らし、駅に電車が入ってきた。ジャックが猫に変身した御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)に話しかけると、腕の中で百々が小さく頷く。
ジャックが全速力で助走し、ビルの屋上目掛けて跳躍。電車がホームに到着する直前に音もなく着地し、間髪入れず亜樹と虚も続いた。
(「ハレルヤにMADか……何を考えてるんだろうな」)
続く第二陣は次の電車の到着を待つ。華槻・奏一郎(抱翼・d12820)にはハレルヤやMADの狙いは分からないが、見逃すことができないのは間違いない。
「一先ず目の前にある事を解決しなきゃ、解るもんも解んないままか。……気引き締めないとね」
いまだ見えない思惑を解き明かすには、事件を1つずつ解決していくしかないだろう。今はゲームセンターを解放することに集中だ。
(「密室、な。さっさと全部ぶっ壊したいとこだが……一体、いくつあるんだか」)
猫に姿を変え、師匠と慕う柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)に抱きかかえられながらビルを眺める槌屋・透流(トールハンマー・d06177)。
「その時に備えとけよ、透流」
闘志を秘めた高明の言葉に、透流は視線で返事を返した。猫の瞳に高明の顔を映し、緊張が高まる。
そしてまた列車が駅へと走ってくる。真っ直ぐ助走を付け、タイミングを合わせて再び飛び出す灼滅者達。月姫・舞(炊事場の主・d20689)が最後にビルの屋上を踏み、速やかに密室に侵入した。
●ゲームスタート
密室への侵入に成功し、百々と透流が変身を解く。
「密室というのは推理小説でよく見かけるが……我の求める怪談の物語とは少々異なるか」
出られなくなるという怪談もありそうだが、と百々が呟いた。今潜入しているのは密室殺人鬼の作った密室だが、密室という言葉にまつわる都市伝説なら探せばどこかにあるかもしれない。
灼滅者達がゲームセンターに足を踏み入れると、太鼓型のゲームをプレイしていた少女が灼滅者達の方を振り向く。高価そうなワンピースに身を包むその少女こそ、この密室の主、リンカだ。
「あらあら、警戒も役に立たないものですわね」
「遊びの時間は終わりだぜ、お嬢ちゃん」
右手に黒の長剣を携え、左手で光剣を逆手に握り、高明が冷笑を浮かべるリンカに突進。ゲーム筐体を蹴って背後に回り、不敵な笑みを浮かべて切り裂いた。目の前で超常の戦いが繰り広げられ、ゲームをさせられていた人々が悲鳴を上げて一目散に逃げ始める。
「……貴様を、狩りに来た」
続けて透流が体に巻き付いたダイダロスベルトを広げ、意思持つ帯を矢に変えて撃ち出した。矢が突き刺さり、同時に敵の動きをインプットして次の攻撃に繋げる。
「密室破れたりー。リンカちゃん、キミにも命をかけてもらうよ」
亜樹が後方から飛び出し、手に持つ聖剣を非物質化。霊体と化した刀身がリンカを貫通し、その魂だけを串刺しにした。
「貴女は私を殺してくれる? それとも殺されるのかしら?」
駆けながらカードから殲術道具を解放、舞が巨大な十字架を携える。踏み込みとともに自身ごと回転させ、遠心力を乗せて十字架を叩き付けた。
「ふふっ、ゲームの相手に相応しいとよろしいのですが」
リンカはどこからともなく洋剣を取り出し、白光帯びる剣で高明を瞬時に斬った。だが百々はすかさずダイダロスベルトを伸ばし、包帯のように包み込んで傷を癒す。同時に防御力も引き上げ、戦線を支える。
「やぁ、綺麗な身なりしてやることはえげつないね。そろそろここのゲームも飽きてきたんじゃないか? ……俺達が相手をするよ」
奏一郎は世間話のように軽く言うと、表情を引き締め黒い影を伸ばす。影は薄く鋭い刃となり、ワンピースごと深々と傷を刻む。
「そんなにゲームがしたいならば、デスゲームと行くか。8対1でも、逃げはせんだろうな」
魔導書を開き、ジャックが魔力の光線を照射。閃光がリンカを包む白光を穿ち、その防護を打ち破る。
「ゲームに愛着があるようだが、理由を聞いてもいいだろうか」
「ふっ、ただの暇つぶしですわ」
虚が刀を抜き放ち、遊技機の隙間から一閃、足を斬り裂いた。視線が交差した瞬間問いを投げるが、リンカは涼しい顔で返し、鋭い突きを見舞った。
●密室遊戯
「序列を教えて頂けると嬉しいのですけど」
「お答えする意味がありません。今の序列はすぐに変わる予定ですので」
舞が純黒の帯を舞わせ、斬撃を繰り出しながら尋ねると、リンカは面白くなさそうな顔で答えを拒んだ。密室で殺人を重ね、序列を上げる気なのだろう。
「あなたたちもその糧といたしましょう」
「ぬうっ!」
リンカが両手で剣を握り、重く速い一閃がジャックを斬った。広く分厚い胸板に深々と傷が刻まれるが、纏うオーラで自身を癒して平然と武器を握る。ライドキャリバー・上腕二頭筋に乗ったまま体当たりし、加速を乗せて衝突した。
「反撃いくよ」
リンカの攻撃力と素早さは脅威だが、灼滅者は怯まず挑み続ける。亜樹はロッドを構えて飛び込み、至近距離から打ち込む。先端が触れた瞬間、魔力を注ぎ込んでさらなるダメージを与えた。
「ゲームってのはさ、人の命を賭けるもんじゃないんだよ。自分だけが楽しむ目的なら尚更ね」
奏一郎がゲーム筐体の裏に身を隠すと、影がゲーム機の間をすり抜けてリンカに迫る。実体のない影はリンカの眼前で大きく口を広げ、そのまま食らいついた。
「他の者の下につくことについて、それで満足しているのか」
「利害が一致しただけのことです」
「殺人鬼の矜持は無いのだろうか」
「……いちいちうるさいですわね」
淡々と問いを重ねる虚に、苛立ちを露わに睨み返すリンカ。虚はそれを無視するように手挟む符を投げ、思考を惑わす呪いを与えた。
「この……大人しく死になさい!」
リンカは灼滅者達を排除すべき敵と認識を改め、内に秘めた殺気を放出する。どす黒い殺気は靄のように立ち上り、灼滅者達を呑み込もうとするが、高明が自身の体を盾にして受け止めた。
「狙撃のキモは呼吸だ、焦って乱れてちゃ当たるモンも当たらないぜ」
「了解、師匠」
高明の背中からガトリングガンを構え、その言葉に頷きながら次々と弾丸を撃ち出す透流。無数の弾がリンカを打ち、高明のライドキャリバー・ガゼルも機銃を連射して銃撃を重ねた。
「我もいること、忘れてもらってはこまるな」
百々は再びダイダロスベルトを伸ばし、高明の傷を塞ぐ。高明を守るべく、伸縮自在に伸びる帯は鎧のように体を覆っていく。
「貴女は私の影に何を見るのかしら?」
「くっ……」
遊技機の光に照らされた舞の影が長く伸び、ゲームセンターの床を走る。影は肉食獣のように口を開けて敵を呑み込み、リンカは影を振り払おうとしながら屈辱に顔を歪めた。
●デッドエンド
「調子に乗らないでください……!」
追い詰められたリンカは歯を食いしばり、駆け抜けながら剣を振るう。だが斬撃を浴びた虚は動じることなく刀に鮮血色のオーラを宿し、周囲の筐体ごと切り裂いて生命力を奪った。
「負けたら罰ゲーム、だったな。……ぶち抜いてやるよ」
透流がリンカを睨み、再びガトリングガンの銃口を向ける。砲身の回転とともに大量の弾丸が吐き出され、暴風雨のように襲い掛かった。
「終わらせるよ」
亜樹の握る剣が光を透過し、霊体へと変わる。突撃とともに実体のない刃を突き出し、深々と貫いた。
「貴女の負けです。罰ゲームの覚悟はよろしいですか」
「さて、そろそろゲームは終わりだよ。お前さんの負けだけどね」
刀を構え、肉薄する舞。黒い帯と剣で連続に斬撃を刻み、動きを鈍らせる。奏一郎は飄々と敗北を宣告し、己の腕を異形化。鬼の拳を正面から叩き付け、小柄なリンカが弾き飛ばされた。
「高明」
「おう!」
ジャックが名を呼んだだけで高明はその意図を汲み取り、同時に駆け出した。上腕二頭筋に跨ったジャックは戦車のように真っ直ぐ前進し、激突とともにけたたましく啼くチェーンソー剣を振り下ろした。高明は獣のように疾走して側面から接近、反対側から突進するガゼルがぶつかると同時に、二振りの刃を薙ぎ払った。
「先日手に入れた力、使わせてもらうとしようか」
百々が助けを求めて空から落ちる少女の物語を口にすると、リンカの頭上に少女の幻影が現れ、そのまま吸い込まれるように真っ逆さまに落ちていく。
「きゃああああっ!?」
次の瞬間落下の衝撃に襲われ、リンカは悲鳴を上げながらゲームセンターに散っていった。
「密室関係はこれで3度目だけど、何か手がかりはないのかしら」
舞はゲームセンターの中を物色し、MADに繋がるものを探すが、それらしいものは見当たらない。灼滅者に侵入されることを想定しているのなら、手掛かりを残さないよう気を配っていても無理はないか。
MADやハレルヤの動きについて、もし思い付くことがあれば推理してみてもいいかもいしれない。
「せっかくだしゲーム……は無理かな」
ゲームセンターに来たのだからと亜樹が周囲を見渡すが、戦闘の余波でゲーム機がなぎ倒され、とてもゲームができそうな状況ではなかった。
だが密室を支配する六六六人衆を灼滅し、人々を解放することができた。ゲーム機くらいなら、安い代償と考えてもいいかもしれない。
作者:邦見健吾 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年8月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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