
●進撃の(練習中の)ナマコ
そこは、青森県。陸奥湾の人気のない砂浜。
ザバァッ!
離岸流に逆らい、海の中から姿を現すのは、巨大なナマコ。
ナマコの頭を持つ、青森マナマコ怪人である。
「さあ、今日も行きましょうか。ナマコの諸君」
その後を、のそりのそりと。大量のナマコが着いて行く。
「このまま季節が巡り、海水温が下がればナマコの漁期になってしまいます。その前に、産卵期の内に、陸に住処を作るのです」
すごい無茶な事を言っている怪人だが、ナマコ達は賛同するようにプルプルとその体を震わせた。
――そして、しばし時間が経ち。
「乾燥して動きが鈍くなって来ましたか。ですが、動ける距離は少しずつ伸びてます。この調子なら、いつか山へ辿り着けるでしょう」
固まったナマコを、怪人は海へ戻していく。
「ナマコの生命力なら、きっと陸でも生きられる。そうして生息域を増やしてこの地を世界一のナマコの産地にして、やがて世界を制するのです!」
●目指すは水陸両用
「という訳で、雛さんのおかげで青森マナマコ怪人が見つかったわ」
「……キモかったですわ」
夏月・柊子(高校生エクスブレイン・dn0090)の説明に、大量のナマコが上陸する光景を思い出して周防・雛(少女グランギニョル・d00356)がため息を1つ。
「まあ、ご当地怪人って見た目結構アレなの多いわよね」
ご当地怪人を予知する事が多いからか、柊子さん慣れてきた。
さておき、何で上陸などと言う、ナマコに自ら天日干しになるような真似を怪人がさせているかと言うと、それが世界征服の計画だからだ。
「陸にナマコを生息させようとしているみたい。取り敢えず、近くの川に」
生き物大移動。
マナマコ怪人の世界征服が実現した世界には、そこらの川原にナマコが転がっているのだろう。
陸奥湾一帯のナマコの生息域を増やして、漁獲量世界一を目指すつもりらしいが、万が一、そんな事になれば生態系は多分おかしくなる。
割と放っておけない計画だ。
実を結ぶとしても、それが相当遠い未来になりそうだとしても。
「と言う事で、マナマコ怪人はまだ砂浜にいるわ」
ナマコの特訓に勤しんでいる最中なら、敵のバベルの鎖に気づかれる事もない。
戦場には大量のナマコがいる事になるが、ナマコの生命力は実際半端ない。踏んだくらいはなんて事ない。
「武器もナマコよ。たくさん連なった、ナマコ」
「……武器まで、キモいですわね」
思わず想像してしまったらしい雛が、ポツリと呟く。
「ウロボロスブレイドに似た性質を持っているわ」
骨格を持たないナマコは、体の硬軟をかなり自在に変化させる事が出来る。
ナマコが防御に利用していると考えられている性質を、ナマコの怪人は武器に転換しているようだ。
「あとはご当地系の技ね。ビームとダイナミック」
ダイナミックの方は、普段は内蔵している触手で捕まえてぶん投げるので、これまたビジュアルが結構アレな感じである。
「色んな意味で放っておけない相手よ。見た目がアレな方だけど、そこに負けないで頑張ってね」
相手がダークネスである以上、対抗出来るのは灼滅者だけだ。
「青森も、暑いみたいだから水分補給は忘れずに。気をつけて行ってきてね」
| 参加者 | |
|---|---|
![]() 椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285) |
![]() 周防・雛(少女グランギニョル・d00356) |
![]() 丹生・蓮二(アンファセンド・d03879) |
![]() 水野・真火(水あるいは炎・d19915) |
![]() 御納方・靱(茅野ノ雨・d23297) |
![]() 仮夢乃・聖也(小さな夢の管理人・d27159) |
![]() 月影・瑠羽奈(蒼炎照らす月明かり・d29011) |
![]() 讃岐院・うどん娘(アルティメットうどん・d32037) |
●ナマコにスパルタ教育
「ほら、ナマコ諸君。もっと頑張って。機敏かつ、力強く! ゆっくりうごめいているだけでは、世界征服はおろか防波堤も越えられませんよ!」
丁寧ながらも厳しい声が響く砂浜に人気はなく、代わりにいるのはゆっくりと這うナマコ、ナマコ、ナマコ。
「大量のナマコさん……なんだかとってもデジャビュですの~」
堤防の影から覗き込んだ讃岐院・うどん娘(アルティメットうどん・d32037)が、何故か感じる既視感。
「ナマコで世界征服とはまたすごい発想ですよね」
怪人の発想に、仮夢乃・聖也(小さな夢の管理人・d27159)は素直に感心する。
「ナマコさんを愛する故に、その生息地を増やすための行動なのでしょうが……やっていることはただのナマコさんへの無茶振りじゃないですか……!」
月影・瑠羽奈(蒼炎照らす月明かり・d29011)は対照的に、冷静に分析する中にも怒りを滲ませていた。
「今まで、ナマコをこの距離でまじまじと見たことありませんでしたが、良く見ると……かわいい……?」
フードの奥で水野・真火(水あるいは炎・d19915)がポツリと呟く。
「すごく キモイ ですわ」
対照的に、周防・雛(少女グランギニョル・d00356)はいい笑顔で現実を告げた。
「と言うより、この風貌。先端にモザイクがかかってもおかしくないこの絵ヅラ! カメラさま、早く奴にモザイクを!」
あ、ハイ。あとで編集しときます。
「うん、そんなことなかった」
真火も現実に帰って来る。
「いやまあ、きもいけど。何か意地らしいよ」
干からびそうになりながらも陸を目指すナマコにちょっと心を打たれた御納方・靱(茅野ノ雨・d23297)が、爽やかな風を砂浜に送る。
果たして、これでナマコ達は寝るだろうか。元々活発に動くものではないので、すぐに判別は出来ず、隠れて様子を伺う灼滅者達。
「良い風ですね……ほらほら、まだ乾くには早いですよ!」
怪人は丁寧なスパルタを続行し、砂浜をパシンと叩く。
「駄目だね。眠らないか」
またナマコ達が僅かに動くのを見て、靱は内心で肩を落とす。
人間を眠らせるESPも、動物には効果がないか。ナマコ自体、人間の基準で考えれば割と規格外な生き物だし。
「ま、訓練に熱中してる内に仕掛けるか」
水を一口飲んで、丹生・蓮二(アンファセンド・d03879)は音を断つ力を広げる。その傍らには、既に霊犬・つん様が現れていた。
「オイデマセ、我ガ愛シキ眷属達! サァ、アソビマショ!」
黒仮面を着けた雛の隣にも霊犬ボンボンが現れ、フードを外した真火の隣には真白なウイングキャットのミシェルが現れる。
「行きます!」
全員の準備が整ったのを確認し、椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)が防波堤を飛び越える。
「ん?」
「はぁっ」
気配で怪人が振り向いた時には、障壁を纏ったなつみの拳が目の前に迫っていた。
●ナマコは急に戻れない
「ぐぅっ……訓練に集中しすぎましたね。私とした事が灼滅者に気づかないとは」
「ナマコ共よく聞け」
不意を突かれ悔やむ怪人を尻目に、蓮二がナマコへ向けて声を上げる。
「乾燥ナマコの行く末は万遍なく人間様の食料だ。折角乾いたのにお湯で戻されてからの食料だ。それを望むものだけ残れ。あと俺にナマコ当てたらころす」
だが蓮二の言葉に、ナマコ達はその場でぷるぷるすだけだった。まあ、鳴く生物でもないし。さもありなん。
「なるべく海に帰したいし、足元に気をつけてやるしかねえか」
蓮二はナマコを踏まないよう気をつけつつ、砂を蹴って跳び上がる。
煌きと重力を纏った重たい蹴りを怪人の頭に叩き込むと、ぐにゃりとした柔らかい感触が伝わった。
「安心しなさい。私の率いるナマコに、踏まれた程度でどうにかなるような軟弱なナマコはいません」
蹴りの衝撃で歪んだ頭で、怪人は自慢げに告げて来る。
「ナマコさん達を愛するなら、こんなやり方間違っていますわ! 無理矢理に生息圏を広げようとする、貴方の独りよがりの独善に過ぎません!」
そこに、瑠羽奈が語気を強めて言い返す。
「ナマコの声が聞こえないお前達には、判らないでしょう。ここにいる全てのナマコ達は私の計画に賛同し、ナマコが世界の頂点に立つことを望んでいるのです!」
「言っても無駄ですわね。歪んだ愛で生き物を虐めるナマコ怪人さんには、ご退場いただきますわ!」
瑠羽奈が言い放つと同時に、華やかな桜色の殺戮帯が怪人に突き刺さる。
「おのれマナマコ……駆逐してやりますわ! この世から」
怪人の広大な目的と、その賛同ナマコの多さに、雛の拳が怒りに震える。
このまま怪人の思い通りになると、砂浜に飛び降りた時にナマコを踏んだあの感触をあちこちで味わう事になってしまうかもしれない。
「……駆逐しちゃうと生態系滅茶苦茶になりますから、怪人さまだけご覚悟」
拳を開くと同時に放たれた操り糸が白銀の軌跡を描いて、桜色の帯を引き抜いた怪人に絡みつく。
「無理して陸に上陸しても、僕らにとっても彼らにとっても、いいことがあるとはあまり思えないし。早々に諦めて貰いましょう……」
真火が弓に矢を番えると、真白い双翼の意匠が青く輝く。
「踏んでごめんね! なるべく早く終わらせて海に還すから!」
矢の力で感覚が研ぎ澄まされた靱は、ナマコを踏まず、足を取られないよう気をつけながら、変異させた腕で鬼の拳を叩き込む。
「うぅ……大量のナマコ、ちょっと気持ち悪いです」
ナマコに悪いとは思いつつ、思わず呟く聖也。
砂浜は大丈夫でも、コンクリートだと一面ヌメヌメになってしまうかもしれない。
「ヌメヌメの世界になってしまうのを阻止すべく打ち倒させていただくですよ! 動くななのですー!」
聖也の掲げた緑の龍のような縛霊手から青白い光が広がる。
「あんまり踏みたくないですの~」
うどん娘も、ナマコを出来れば踏みたくない。
だが、イカロスウイングで遠くにポイってしようとすると、ポイッではなくプチッってなるのはバベルの鎖で判っていた。
ハンマーで吹っ飛ばすのも、似たようなものだ。
「隙だらけだぞ!」
「きゅ、きゅびえ器官っ!?」
迷う隙を逃さずに迫っていた怪人の吐き出すものにうどん娘が気づいた時には、それは既に絡み付いていた。
マナマコはキュビエ器官ない筈だけど、まあ怪人だし。
「こ、こねちゃらめぇぇぇ」
「ナマコダイナミック!」
そんなうどん娘の静止の声を怪人が聞く筈もなく、絡め取られたまま振り回されて、砂浜に叩きつけられる。
大胆な衣装が衝撃でちょっと危ない感じになっていたかもしれないが、そこは舞い上がった砂が仕事をしてくれていた。
「あなたの相手はこちらです!」
ふらふらと立ち上がるうどん娘から自分に狙いを逸らそうと、なつみは煌きと重力を纏った蹴りを怪人に叩き込んだ。
●そろそろナマコ乾いてる
「や……やりますね、灼滅者。だからこそお前達を倒す事が、ナマコが陸でやっていけるのだとナマコ達にも励みとなりましょう」
呼吸を荒く肩を上下させながら、怪人が腕を振り上げる。
連なり棒状になっていたナマコが一瞬で硬さを失い、鞭のように大きくしなって灼滅者達に襲い掛かる。
「させません!」
激突の瞬間にナマコは再び硬くなり、飛び出したなつみを弾き飛ばした。
「努力は認める! でも、いくらなんでもナマコもかわいそうだよ!」
「しつこい連中ですね!」
だが、その陰から靱が飛び出して来るのを見て、怪人は手首をくっと動かした。再び柔軟になったナマコは、右から左へ向きを変えて砂浜を舞う。
靱は飛び交うナマコを掻い潜って、重力と煌きを纏った重たい蹴りを叩き込む。
だが怪人の狙いは、後方の3人だった。
「やろぉ……俺にナマコ当てたらころす……って言っただろうがぁ!」
ナマコに打たれた衝撃よりも、それで服が汚れた事で、蓮二がキレた。
怒る頭の片隅で怪人の状態を見極め、足技から切り替えて巨大な十字架を怪人の頭に荒々しく叩きつける。
そんな主にやれやれと言った様子で、つん様が癒しの視線を送っていた。
「行っておいで!」
聖也の声と同時に、足元から膨れ上がった彼の影は海豚の形を取る。
空を泳ぐような速度で飛んで、よろめく怪人に喰らい付いた。
「カ、カニだとぉ!?」
「カニが天敵なのでしょうか?」
そんなトラウマが見えているらしい怪人を横目に、瑠羽奈は縛霊手の指先から癒しの霊力を庇い続け消耗したなつみへ放つ。
だが、縛霊手を使ったヒールサイキックで一度に癒せるのは1人だけ。
「ミシェルも手伝ってください」
真火が剣に刻まれた言葉を解放し、浄化の風を吹き渡らせる。そこにミシェルも尾のリングから、癒しの力を持つ輝きを放った。
「まさか親戚にワラスボ怪人がいたりするですの~?」
「ワラスボ? そんな種類のナマコは知りませんね」
その問いに気を取られた怪人に、うどん娘は光の刃を飛ばす。
ちなみにワラスボとは、日本では有明海にのみ生息する目が無い中々アレな外見の魚であって、ナマコではない。
「良く判りませんが、そのワラスボもナマコなら、いずれ私が地上に――」
言いかけた怪人の体に、糸が絡み付く。
「フフ、軟体動物は縛り甲斐があってよいこと」
絡ませた操り糸を怪人に食い込ませながら、雛は仮面の奥で小さな笑みを浮かべた。
「なら、その軟体動物に縛られてみなさい!」
怪人も負けじと、糸が絡んだまま器用にナマコを操る。
「ボン! 体を張って主人を守るのは忠犬への近道よ!」
真っ直ぐに迫ってくるナマコに対して、雛はさっと霊犬を抱きかかえた。
『またこうなったか』と言いたげなジト目になりながらも無抵抗なボンボンに、にゅるりとナマコが絡みつく。
「嗚呼、ボン……ナマコだらけでも失われない気品。流石ヒナの犬……」
「むぅぅ……この女、私以上のスパルタかもしれないですね……。ならば! こちらもナマコの守りの技を披露しましょう」
しれっと霊犬をねぎらう雛に慄きながら、怪人は対抗するように連なるナマコを引き戻し自分の周囲を覆う。
「今のはつん様じゃ……いや、なんでもない」
言いかけた言葉を霊犬の視線で飲み込んで、蓮二が飛びかかる。
非物質の刃が怪人の精神を斬り、斬魔の刃がナマコの隙間から怪人の足を斬り裂く。
怪人のナマコの盾が緩んだ隙間を縫って、真火の放った矢が彗星の様な勢いで怪人に突き刺さった。
さらに、靱が光の刃を振り下ろし、周囲のナマコごと怪人を斬り裂いた。
「くっ……ナマコの盾が……!」
「凍りつきなさい!」
盾を失った怪人に、瑠羽奈が蒼銀の美しい十字架砲を向ける。中央を飾る蒼い三日月よりも蒼く冷たい光の砲弾が、怪人を凍らせる。
「ちぃっ!」
それでも動こうとした怪人だが、うどん娘に急所を斬られて動きが止まった。
「等しく海へとお帰りなさい……ボン・ニュイ」
オベロン、ティタニア。雛の声に応えて、人形の影が怪人の凍った足を斬り砕く。
「さよならなのです!」
その声は、怪人の頭上から。
聖也の手が杖の先端の球を撫で、銀の龍が怪人に突き刺さる。
「ナマコの生命力はこんな……こんなぁぁぁっ!?」
「やったですー!」
怪人の爆散を見届け、聖也は嬉しそうに飛び跳ねた。
●さらばナマコ
「砂浜に叩きつけられてましたけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですの。ワラスボじゃなかっただけマシですの~」
気遣うなつみに、笑顔で頷くうどん娘。とは言え、気遣ったなつみの方も、かなり消耗している。
他のメンバーは、すっかり乾いて硬くなったナマコを拾って回っていた。
「うわぁ……ぶよぶよしてるぅ」
ビーサン姿の蓮二は、ナマコを素手で掴むと投げてしまいたい衝動を我慢して、用意してきた籠に放り込む。
「妙な話に付き合わされちゃってまぁ……かわいそうに……」
「ナマコさん達、踏んでしまって申し訳ございませんでした」
ボンボンが掘り出したナマコを雛が拾って籠に運び、瑠羽奈もナマコに詫びながら籠に入れていく。
「ナマコとかウミウシ飼う人の気持ちが、何となくわかった気がする」
しみじみと言った靱も、のそのそ動くナマコをザルに乗せ、真火は裸足になって足で砂を感じながら、箒を使ってナマコを集める。
10分もしない内に、ナマコ達は波打ち際に集められた。
「とりあえず、海へお帰り」
波に揺られて流されていくナマコを労うように、靱が呟く。
「きっと、海があなた方にとって一番安心できる場所でしょうから」
「本来あるべき所に帰るですよ。またのんびりと過ごしてくださいね」
「元気で暮らせよ」
瑠羽奈も、聖也も、蓮二も、どこか穏やかな気持ちで、ナマコがゆらゆらと流され海に帰るのを見届ける。
こうして、ナマコたちが防波堤と言う名の壁を越えることはなく、夏の海の平和は灼滅者達によって護られたのだった。
| 作者:泰月 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2015年8月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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