バンブーガール!

    作者:飛角龍馬

    ●竹愛づる少女
     大分県は全国に誇る真竹(マダケ)の産地だ。
     竹工芸も盛んであり、竹のことなら大分県こそ日本一だと言って間違いない。
     少なくとも、竹宮・香具夜はそう思っていた。
     ……だというのに。
     夏空の下、県内の流しそうめん祭り会場で、彼女は怒りに身を震わせていた。
    「信じられない……」
     芝生の屋外会場に特設されていたのは、人呼んで流しそうめんスライダー。
     透明な合成樹脂製のコースを、カラフルなそうめんが滑走していく。巡らされたコースを挟むようにして、老若男女が冷たい麺に舌鼓を打っていた。
     そんな光景を目の前に、香具夜は拳を握りしめる。
     流しそうめんは夏の風物詩だ。それはいい。
     だが一つ、決定的に許せないことがある。
    「なんで竹を使わなかったんです! 流しそうめんと言ったら竹でしょう!?」
    「おいおい、なんだよ大声出して」
     日焼けしたおっさんが怪訝な顔をちらと香具夜に向け……思わず二度見した。
     ぱっと見、深緑色の長い髪が目を引く、黒袴の道着の少女だ。
     腰にはお約束のように竹刀を差していて、その背に負っているのは……た、竹槍?
    「ま、まあなんだ嬢ちゃん、そうめんでも食って落ち着いたら……」
    「要りませんっ! ご当地の竹に仇なす催しなど、この私が成敗します!!」
     竹刀を大上段に構えた香具夜が宣言し、会場全体が沈黙に包まれる。
     ……ぐー、と香具夜のお腹が鳴ったのは、正にその時のことだった。
    「み、みんな死ねえぇぇぇぇ!!」
    「うわあああ逃げろー!!」
     色んな意味で理不尽な怒りを爆発させた香具夜が暴れ回り、会場は大混乱に包まれた。
     
    ●武蔵坂学園、教室
    「夏はやっぱり流しそうめんだよねー」
     蝉の鳴き声が響く教室で、須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)がしみじみと言った。流しそうめん祭りのパンフレットを眺めながら、である。
    「今回みんなに解決して欲しいのは、闇堕ちした女の子が起こす事件なんだ」
     灼滅者達に向き直ると、まりんはそう告げて、黒板に描かれたデフォルメ絵を示した。
     ……道着を着た髪の長い女の子が、竹刀と竹槍を手に怒っているイラストだ。
    「彼女の名前は竹宮・香具夜さん。地元大分県の竹を誇りにしている女の子なんだけど、その愛が行き過ぎて闇堕ちしてしまったみたい」
     なんでも、ご当地が誇る竹の加工品を合成樹脂の製品が脅かしていると思い込み、過剰な敵意を抱いて闇に呑まれたらしい。そんな彼女が、地元のイベントで竹ではない流しそうめん台が使われているのを聞きつけてしまい……事件は起こる。
    「だからみんなには、この流しそうめん祭りの会場で香具夜さんの凶行を止めて欲しいんだ。会場は広いから、やってきた香具夜さんをうまく戦闘に誘えれば被害を抑えられるはずだよ」
     闇堕ち状態にあるとは言え、香具夜にはまだ本人の意識が残されている。彼女の心に語りかけることで弱体化が狙えるし、戦闘でKOすれば救出できる可能性もある。
    「香具夜さん、本当は竹を割ったように真っ直ぐな子みたいなんだ。たぶん一途すぎて闇に呑まれちゃったんだと思う」
     元々、生真面目で堅めの性格だが、人当たりは良く、皆に好かれていたらしい。黒板のデフォルメ絵には小さく「実はパンダ好き」なんてデータが書き込まれている。
    「戦闘に入ると、香具夜さんはご当地ヒーローに似た力と、基本戦闘術、それに竹刀と竹槍を使って攻撃してくるよ。竹刀と竹槍は『日本刀』と『妖の槍』みたいな武器だね。みんなだったら大丈夫だと思うけど、ダメージ重視で積極的に攻めてくるから気をつけて」
     まりんは説明を終えると、皆に流しそうめん祭りのパンフレットを配って、
    「無事に解決できたら、みんなで流しそうめんを楽しんでくるのもいいと思うよ。それじゃ、お願いね!」


    参加者
    龍宮・巫女(鬼狩の龍姫・d01423)
    北斎院・既濁(彷徨い人・d04036)
    海川・凛音(小さな鍵・d14050)
    竹間・伽久夜(月満ちるを待つ・d20005)
    干潟・明海(有明エイリアン・d23846)
    四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)
    灰慈・バール(その魂は無限の物語を織り成す・d26901)
    竹野・片奈(七纏抜刀・d29701)

    ■リプレイ

    ●竹を巡る騒動
    「地元愛が強すぎるってのも考えものねぇ」
     スライダーを滑走するそうめんを竹の箸ですくいながら、龍宮・巫女(鬼狩の龍姫・d01423)は誰にともなく呟いた。一般人に紛れて、香具夜が来るのを待つ計画だ。
    「流しそうめんも日本の文化だが……」
     灰慈・バール(その魂は無限の物語を織り成す・d26901)も透明なスライダーに思わず苦笑して、
    「お、竹宮が来たな」
     彼の目が、かなり遠くの道着姿を捉えた。
     バールは殺気を漂わせながら香具夜に向けて歩いていく。
     巫女もまた、手近な机に器と箸を置いて殺界形成。一般人を近付かせないようにしながらバールに続く。
    「流しそうめんの台にも色々なものがあるみたいですね」
     一方、四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)は、広い会場の中ほどで、歩いてきた香具夜に声をかけていた。香具夜は首を横に振り、暗く濁った目を彼方に向け、
    「竹でない流しそうめん台など邪道です」
    「やはり竹だと違うものなんですか?」
     香具夜を足止めするように、海川・凛音(小さな鍵・d14050)がすかさず尋ねた。
    「差し支えなければ、竹の良さを教えて欲しいのですが」
     続ける凛音に、香具夜はいいでしょうと頷いて、
    「そもそも天然素材で強度も柔軟性もあり形状的にも最適なのが竹であって、中でも大分の――」
    (「……あれ、もしかしてこれ延々と続くパターンでしょうか?」)
     そこに上手く割って入ったのが竹間・伽久夜(月満ちるを待つ・d20005)だ。
    「あの、もし、そこの方」
     パンダ柄の浴衣、団扇、髪留めで装った伽久夜の姿に、香具夜は思わず講釈を止めた。伽久夜の手には、火の灯った竹雪洞(たけぼんぼり)まである。
    「小道具に使う竹が足りないのですが。協力していただけませんか?」
     香具夜の負っている竹槍を見ながら聞いてみる。
    「……あの流しそうめん台をこの世から消し去った後であれば」
     何やら不穏な言葉を口にしてスライダーを睨む香具夜。
    「困りました! どなたかお箸を、例えばお素麺も滑らず持ちやすい竹のお箸をお持ちの方はいらっしゃいませんか?」
     と、そこで駆けてきた干潟・明海(有明エイリアン・d23846)が声を挙げた。
     香具夜が無言で帯から竹箸を取り出し、明海が持ってたよ!? と言いたげな顔をする。
    「……まー落ち着け。つっても落ち着かんだろうな」
     成り行きを眺めていた北斎院・既濁(彷徨い人・d04036)が、やれやれと溜息を吐いて、
    「消し去るだかなんだか知らんが、そんなもんで竹の良さが広まるのかよ?」
    「竹の良さを伝えたいというのであれば……その方法は間違っているのでは?」
    「ご当地愛の空回りね。そんな乱暴な方法でどうにかなるものでもないでしょうに」
     既濁の問い、そして凛音の言葉に続き、悠然と歩いてきた巫女が更に追い打ちをかける。
    「私が、間違っていると……?」
     立て続けに否定されて香具夜が竹刀に手をかける。
    「まてーいっ!」
    「私の前に立ちはだかるなら、敵とみなして……わぶ!?」
     竹野・片奈(七纏抜刀・d29701) が叫びながら投げた柔らかいものが香具夜の顔面に直撃した。見ればそれはパンダのぬいぐるみ(大)だ。
    「話し聞く分だと、大分の竹なんて大したことなさそうだね。私のは鹿児島のだけど」
     片奈が竹刀を手に挑発する。
     香具夜は顔を歪めてぬいぐるみを地面に投げようとしたが、暫し硬直。少し離れた芝生にパンダを座らせて戻ってくると、竹刀を抜いて正眼に構えた。
    「邪魔をするのであれば、まとめて打ち倒します!」
    「ああ、ここでなら存分に戦えそうだな」
     早くも斬艦刀を構えたバールが言って、悠花がサウンドシャッターを展開。
    「変身! ワラスボガール!」
     明海が掛け声と共に姿を変える!
     ……瞬間、闇堕ち少女の悲鳴が響き渡った。

    ●その勢い、破竹のごとく
    「同じ九州の香具夜さんはご存知でしょうか? ワラスボ」
    「わ、ワラスボ!?」
     首をかしげる明海の姿は、今やどう見てもアレな地球外生命体だ。
    「遂に大分の侵略を……有明海だけに棲んでいれば良かったものを!」
     あからさまな敵意を向けられて明海はがっくり肩を落とした。
     香具夜は竹刀を下段に構え直し、
    「恐るべき相手ですが……邪魔をするというなら!」
     言い放ち、地面を蹴って疾駆する。
    「前が見えてねぇ、ってのはこのことか」
     既濁が黒いオーラを燃え上がらせ、香具夜の視界を覆わんばかりの殺気を放出。
     凛音も後方で怪談蝋燭を掲げた。
    「……ここできちんと救けてあげませんと」
     蝋燭から放たれた炎の花弁が、既濁の嵐のような殺気と共に香具夜を襲う。
     香具夜はためらわず突入。漆黒に裂かれ、道着に火が点くのも構わずに駆け抜け、その横薙ぎの一閃を片奈がクロスさせたバンブーソードで受け切った。
    「さーて、シバき倒そうかな」
    「二刀流……!」
     不敵な笑みを見せて片奈が両の竹刀を閃かせる。
     舞うように振るう片奈の剣を香具夜が払い、反撃の突きを片奈が二刀で巧みに逸らす。
     竹刀で打ち合いながらも香具夜は明海の制約の弾丸を避け、高々と跳躍。
    「おらぁ!!」
     バールの渾身のハンマーが跳んだ香具夜の足元を薙いでいくが、
    「そこ!」
    「っ……!?」
     宙に身を躍らせた香具夜の脇腹を伽久夜のダイダロスベルトが切り裂き、着地の瞬間、バールの勢いをつけたハンマーが今度こそ香具夜に直撃した。
    「せぇぇいっ!!」
     転がり起きた香具夜に、悠花が六尺ばかりもある『棒』を振り下ろす。
     炎を宿した一撃だ。
     竹刀を横に構えて受け押し返した香具夜に巫女が迫り、右手のバベルブレイカーを振り抜いた。咄嗟に一歩下がって体を逸らした少女の胸元に、杭の切っ先が突き刺さる。
     香具夜は僅かに退がり、反動をつけて居合い一閃。
     胴薙ぎを受けつつも巫女は後ろへ跳び、直撃を避ける。
     更に突貫する香具夜。
     迎え撃ったバールが斬艦刀を手に立ちはだかり、
    「習い事でもしてるのか、攻撃が鋭いな……だが!」
     巨剣をぶん回して香具夜を退けた。
    「やー、すごいな。正に破竹の勢いってやつか」
     感心したように既濁が言って、
    「その力、もっと他に使い道があるんじゃねーか?」
    「竹にしても色んな使い方があるわよねぇ。炭にもなるし」
    「その竹を蔑ろにする者がいるのです!」
     巫女の言葉に激しつつ、竹刀を突きつける香具夜。
    「でも、ああいうイロモノを楽しむ場合は合成樹脂のでいいんじゃないかなぁ」
    「鹿児島の竹の前でそれが言えるのですか!」
     片奈の竹刀ヒーローらしからぬ言動に香具夜が憤るが、凛音は首を横に振って、
    「でも暴れたところで竹の良さは伝わりませんよ。むしろ悪い評判を広めるだけです」
     そこで伽久夜は何やら用意してきたスケッチブックを開いて、
    「多少の例外がありますが……このまま行くとあなたもこのような姿になります」
     香具夜の置かれた状況を軽く説明しながら伽久夜が突きつけたのは、竹怪人の予想図だ。頭部は完全に竹のそれである。
    「う、嘘です……! 人間がそ、そそんな姿になどなるわけがないでしょう!?」
     明らかに動揺しながら香具夜が明海を見る。
     大きく頷くワラスボヘッド。
     ……説得力抜群だった。
    「ま、惑わそうとしたってそうは行きませんっ!」
     首を振ると、香具夜が今度は竹槍を抜いて構えた。
    (「明らかに響いてますよね」)
     気合と共に芝生を蹴る香具夜に凛音が思いつつ、ヴァンパイアミストを展開。
     霧の中、香具夜の振り回す竹槍を悠花が棒で防ぎ、払う。弧を描く軌道からの直線的な刺突を、悠花は棒を縦にして受け流した。
     隙を突いた伽久夜が縛霊撃を放ち、香具夜の動きを縛る。
    「叩き折る!」
     そこに片奈の大上段からの一撃。
     横一文字に構えた竹槍で防ぐも、衝撃は香具夜の体を容赦なく苛む。
     と、香具夜は横合いから迫る既濁の巨大な十字架を視界に捉え、咄嗟に飛び退いた。
    「その手にある竹槍を見ろよ、真っ直ぐでいいもんじゃねぇか」
     風圧に後ずさりながら香具夜が歯噛みする。
    「実直な中にもしなやかさがある、それが竹じゃねーかね」
     続く重い振り下ろしの一撃に地面がえぐられる。紙一重で飛び退く香具夜だが、
    「しまっ……」
     半身に既濁の影が巻き付いていた。
     捕縛された香具夜を、バールの斬艦刀と明海の爪が貫き、えぐる。
    「自分でも分かっているのでしょう? 目を覚ましなさいな」
     宙を飛ぶかのような巫女に蹴り飛ばされ――香具夜は見た。
    「ご自分の『闇』をその目で確かめてください」
     伽久夜が放ち、自身を包もうと口を開けた黒き影を。

    ●真昼の闇、照らす光
     地元の竹を愛するがゆえの不安、そして恐怖。
     トラウマとして現れた自身の感情を振り切るように、香具夜は叫び、竹槍を振るう。
     その迷いに鈍った軌跡を見切り、悠花が緋色の気を宿した棒で香具夜を一閃した。
     同時、凛音が後方から弓を引き絞り、癒しの矢を悠花に放つ。
    「竹ってのは曲げようとすりゃ跳ねっ返ろうとする反発力だってある。その癖変幻自在よ、何だってなれるじゃねぇか」
     既濁が巨大な十字架を振り回しながら言う。
     たまらず距離を取った香具夜の前に、サイキックソードを手にした伽久夜が舞い降りた。
    「見えますか香具夜さん……あの竹雪洞が」
     薙いだ剣は香具夜の竹槍に止められるが、
    「まだ昼間ですのでそんなに風情はないかもしれませんが、私はあの灯りが好きです」
     ギリギリと力を拮抗させながら伽久夜は続ける。
    「心を落ち着かせて周りを見れば、本当に必要な所で竹は今も使われていますよ!」
     一瞬、香具夜は見た。
     芝生の上に置かれた竹雪洞――真昼の闇を照らすべく灯された、その光を。
     飛び退いた香具夜にバールのDESアシッドが降り注ぐ。
    「竹を広めたいなら、曲がったやり方をするべきではありません」
     悠花が『棒』で香具夜の胸元をひと突きする。それだけで暴力的な力が香具夜の体を荒れ狂った。
    「……ぐ、ぅッ!」
    「だいぶ疲れてきているようね」
     右手にバベルブレイカー、左手にウロボロスブレイドを構えて巫女が突っ込んできたのはその時だ。竹槍による刺突で迎撃するが、巫女は弧を描くように宙返り、着地した途端に右手を突き出した。
    「あ、っ……!」
     瞬時に後退しようとしたが、杭は突き刺さり、胸元から血が溢れ出る。
     よろけた香具夜は敢えて竹槍を地面に突き刺し、敢えて竹刀を抜刀して構えた。
     両の竹刀を手に、片奈が迫っていたからだ。
     双方の使い手が激しく打ち合う。
    「もう戦えないんじゃない?」
    「まだまだッ……!」
     相手の剣を捌きつつ、片奈は死角からの一撃で香具夜を追い込んでいく。
    「だいたいキャラ被りも甚だしい!」
    「言いがかりでしょう!?」
    「いいから後で一緒にご飯食べよう!」
    「どうしてそう……なッ!?」
     投げつけられたパンダの縫いぐるみ(小)を香具夜は掴み、一閃。
     片奈が紙一重で避けると同時、既濁の影が再び香具夜を縛った。
    「誇りを持つならよ、他人よか自分の意思と向き合いな。それが本当に成すべき事かをよ」
    「竹の美しさは風や雪にも負けずしなやかに、真っ直ぐ伸びるその姿です! 怒りで方々に伸び散らしては台無しですよ!」
     既濁の言葉に呼応して明海が言い、力を溜める。
    「その竹刀も竹で出来ているんだろ?」
     接近するバール、竹刀を構えて迎え撃つ香具夜。
    「竹のように、明るい太陽に向かって行こうじゃねぇか!」
     互いの一閃が交差する。
     竹刀は目標の眼前で空を薙ぎ、バールのロッドは香具夜を強く打っていた。
     一歩二歩と後ずさった香具夜が目にしたのは、
    「あなたのその力、使い道はあるはずです。だから……」
     怪談蝋燭を掲げる凛音だ。
    「戻ってきてください、香具夜さん」
     飾りのない真っ直ぐな言葉。炎の花弁が香具夜を包み、そして。
    「真夏の伸び盛り若竹ビーム!」
     明海の口を開けて放ったビームは、香具夜にとってどこか懐かしく……。
    「もう一度立ち上がりなさい。本物のご当地愛があるなら、ね」
     防ぐように竹刀を構えていた香具夜に、踏み込んだ巫女がささやき、次の瞬間。
     巫女の鬼神変が振り抜かれ、直撃を受けた香具夜が背中から芝生に倒れた。

    ●その志は高く
    「お帰り、竹宮」
     体を起こした香具夜を迎えたのはそんなバールの言葉だった。
     必要最低限の範囲で、灼滅者達は香具夜に学園のことを説明していく。
     唐突な話に、香具夜は暫し考えて込んでいたが、
    「ご当地の、日本の竹を守れるのであれば……」
     心を決めるや否や、ぐー、とお腹が鳴ってしまい、思わず顔を赤らめた。
    「まあ無事終わったし、素麺でも食おうや」
     既濁が流しそうめんスライダーを見てさらっと言った。
     人々が賑わいを見せるその場所に、戦闘の被害が及んだ様子はない。 
    「腹が減っては戦は出来ぬ、だ。飯食べようか」
     バールも頷き、それぞれが器と箸を手にして、透明なコースを囲む。
    「はい、香具夜ちゃん」
    「あ……ありがとうございます」
     巫女に器と箸を渡されて、香具夜が戸惑いながらも受け取った。
    「涼を楽しむ物ですがやはり味も楽しみたいですね」
     麺つゆを用意していた伽久夜は、薄くなった器にその都度、注いでいく。
     お好みで生姜、葱などの薬味も入れてもいい。
    「香具夜さんもどうですか?」
    「では、ちょっと薬味を」
     香具夜も麺つゆの入った器に葱をもらって、流れるそうめんに身構えた。
    「合成樹脂に勝る方法、考えるとワクワクしませんか? 真竹製スライダーとか!」
     香具夜と並ぶように立って明海が語る。
    「いいですね、それ」
     香具夜も微笑んで、首肯した。
    「その時はそうめんを飛ばすしか……って早っ!?」
     言いながら麺に狙いをつけた片奈が滑走する麺に思わず声を挙げる。
     何とか獲得した麺を麺つゆに浸しながら、ぽつりと。
    「……大分の竹もやるじゃん」
    「え?」
     目をぱちくりさせた香具夜を尻目に、片奈は冷たいそうめんをすすった。
     既濁はそうめんを味わいながら、何とか丸く収まったかと香具夜の様子をちらと見て、流れてくる白い麺にまた箸に引っ掛けた。
     悠花は流れるそうめんの中から、できるだけ色付きのものを選んですくい、器に浸す。口に運ぶと冷たく、のどごしの良い味わいが戦いで火照った体を静めてくれた。
    「後で竹の工芸品とか一緒に作りませんか? 竹の良さも教えて欲しいです」
     凛音の提案に、香具夜は微笑と頷きを返した。
     ――私にはできることがある。それを教えてもらったんだ。
     皆に囲まれながら香具夜は思う。この力の使い道は確かにあるんだと。
     救けられた彼女の志は、今や竹のように真っ直ぐだった。

    作者:飛角龍馬 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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