喰らい尽くせ! いかなご城!!

    作者:陵かなめ

     城内の一室で、兵庫いかなごの釘煮怪人・いかなごんは驚きの声を上げた。
    「それじゃあ、ほんまに安土城怪人さんは、このお城を私にくれるん?」
    「うむ。今日からこの城の主はお前だ」
     安土城怪人が豪快に笑い、頷いて見せる。
     その背後には、この城に配下として配置されるペナント怪人が行儀良く並んでいた。彼らのペナントにはセルリアンブルーに白抜きの波模様が兵庫県らしくデザインされており、中心にいかなごの描写がなされている。
    「凄いっ! めっちゃ凄いわ。さっき見たけど、城に飾っとった旗も波にいかなごのデザインやったし。このお城があったら、もっと地元の人がいかなごの釘煮作ってくれると思うわ」
    「まだまだ、これだけではございません。数日後には、北征入道様のお力で、このお城は迷宮化され難攻不落の名城となるのです」
     兵庫県の波といかなごのペナントとなったペナント怪人がその旨伝えた。
    「えー?! そうなったら、もう無敵やん! 世界征服できちゃうやん」
     いかなごんは感動と興奮で、魚のようにつぶらな瞳を目をキラキラと輝かせるのだった。
     
    ●依頼
    「小牧長久手の戦いで勝利した安土城怪人が、東海地方と近畿地方の制圧に乗り出したみたいだよ」
     千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)は教室に集まった灼滅者達にそう切り出した。
     安土城怪人は、東海地方と近畿地方に城を作り、その地のご当地怪人を城主として傘下に加えているらしいのだ。城という拠点を得たご当地怪人は、今まで以上に活発に世界征服に乗り出してくるに違いない。
    「今回は、兵庫いかなごの釘煮怪人・いかなごんという怪人が城を与えられたみたいだね。そこで、みんなには、いかなごんが城を完全に拠点化する前に、灼滅して欲しいんだ」
     太郎はくまのぬいぐるみをぎゅっと握り、詳しい説明に入った。
    「二階建ての小さなものらしいんだけど、それでもお城はお城。一国一城の主となったご当地怪人・いかなごんは、ちょっぴりパワーアップしているんだよ。それに、配下のペナント怪人が5体従っているみたい」
     話によると、城の屋根の上に『いかなごんの旗』が翻っており、この旗を引きずりおろすと、怪人のパワーアップがなくなるそうだ。
    「いかなごの釘煮か~。甘辛くって美味しいんだよね。ご飯にぴったりだよねー」
     話を聞いていた空色・紺子(高校生魔法使い・dn0105)がうっとりと遠くを見る。
    「あ、城内には、いかなごの釘煮の試食コーナーがあるみたいだよ。試食していかなごの釘煮を煽て上げれば、スムーズに屋上まで行けるかもしれないね」
     もちろん、正面から城に乗り込み戦って勝つ事も不可能ではない。けれど、うまく城の内部を移動して屋上の旗を引きずりおろす事ができれば、より有利に戦えるはずだ。
    「正面から乗り込んだら、すぐに怪人と戦闘になるよ。もし、旗を狙うなら、お城の入り口で試食に来た旨を伝えれば中に入れてくれるんだ。その場合でも、試食コーナーで配下のペナント怪人と戦闘になれば、いかなごんがすぐに飛んできて本格的な戦いになるから注意してね」
     正面からぶつかるか、旗を目指して試食コーナーを潜り抜けるか。それは皆で話し合って決めて欲しいと太郎は言う。
    「お城と配下を貰ったいかなごんは、安土城怪人にとっても感謝しているんだ。いざ戦いが始まったら、安土城怪人のために一生懸命戦うと思うよ」
     安土城怪人の勢力をこれ以上拡大させないためにも、城を攻略していかなごんを灼滅して欲しいと言う事だ。
    「それに、このままお城を放置しちゃうと、お城が迷宮化されて難攻不落になっちゃうよ。だから、その前に解決して欲しいんだ」
     太郎はそう締めくくり、説明を終えた。


    参加者
    東雲・夜好(ホワイトエンジェル・d00152)
    花檻・伊織(蒼瞑・d01455)
    風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)
    神代・煉(紅と黒の境界を揺蕩うモノ・d04756)
    戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)
    近衛・一樹(創世のクリュエル・d10268)
    黎・葉琳(ヒロイックエピローグ・d33291)
    新堂・柚葉(深緑の魔法使い・d33727)

    ■リプレイ

    ●そびえ立つ城
     そこは兵庫県の山の中。
     灼滅者達は、見つけた城を眺めた。
     名立たる名城に比べればやや小ぶりな印象を受けるが、それでも立派な城の体を有している。これこそが、兵庫いかなごの釘煮怪人・いかなごんのいかなご城に違いない。
    「今日も暑い」
     花檻・伊織(蒼瞑・d01455)が日差しを遮る様に掌を顔に当てた。
     城の中はクーラーはあるのだろうか?
     試食会では、食欲は出るだろうか?
     山の中、大きく茂った木が影を作り出しているとは言え、やはりこの季節暑く感じられる。
    「いかなごの釘煮……一体どんな料理なのかしら」
     と、黎・葉琳(ヒロイックエピローグ・d33291)。怪人を灼滅するのは勿論の事だけれど、試食も楽しみだ。
     灼滅者達は戦う姿をカードに封印した事などを確認し合い、まずは城の入り口を目指した。
    (「前回の城攻めは自信家なご当地怪人だったので楽に旗を下ろせましたけど……」)
     近衛・一樹(創世のクリュエル・d10268)は目の前に見える城を眺めながら思う。
    (「今回は前回のようにはいかなそうですね……」)
     今回は、正面突破ではなく、いかなごを試食しながら旗を狙うと決めてきたのだ。
     小さいけれど立派な門の前に、ペナント怪人が立っているのが見える。聞いていた通り、セルリアンブルーに白抜きの波模様、その中心にいかなごがデザインされたペナントだ。
    「ちょっと! 『今兵庫のいかなごの釘煮が旨過ぎてヤバイ!』ってネットで見たから東北から来たんだけど! 試食タダ?」
    「此処で変わった煮付を試食出来ると聞いて皆で来てみたんだけど、間違っていないかい?」
     風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)と神代・煉(紅と黒の境界を揺蕩うモノ・d04756)が早速怪人に声をかけた。
    「はい、いらっしゃいませ。ええと、皆さんお連れ様で? 東北のほうからわざわざお越しいただいてありがとうございます」
     怪人は両手をもみ合わせながら皆を見る。
    「団体なんですけど大丈夫ですか? 夏休みの小旅行中なんですよ」
     戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)が言うと、怪人は柔らかい姿勢を崩さず門に手をかけた。
    「ええ、ええ。それは勿論。こんな若い方に興味を持っていただけて大変嬉しく思います。試食も沢山ご用意しておりますので、どうぞごゆっくり。……しかし、ネットでとは驚きです。わたくし共も、宣伝は行っているのですがなかなか上手く行かず……」
    「はあ、なるほど。あ、良かったらどうぞ? 暑い中大変ですね……」
     どうも愚痴っぽい怪人に、蔵乃祐が差し入れのお茶を手渡す。
    「これは、お気遣いありがとうございます。ささ、中へどうぞ」
    「お邪魔しますね。試食、とても楽しみです」
    「いかなごの釘煮ってどんな味かしらって、楽しみにしてきたのよね~!」
     新堂・柚葉(深緑の魔法使い・d33727)と東雲・夜好(ホワイトエンジェル・d00152)が、門をくぐり城内へと進んだ。他の仲間達も、あとに続く。
     紺子含め、サポートの仲間達も次々に城内へと入っていった。

    ●美味しい試食開始
     案内されるまま試食コーナーへ向かうと、そこでもペナント怪人が待ち構えていた。
    「いらっしゃいませ。試食をご希望ですか? では、こちらへ」
     怪人は丁寧に頭を下げ、皆に試食用の茶碗と割り箸を配り始める。
     城内には『もっといかなごの釘煮を作ろう!』だの『美味しい兵庫の味はいかなごの釘煮!!』だのと言う手書きのポスターが展示されていた。他にも、釘煮の作り方やいかなごについての説明など、所狭しとコーナーを作って飾りつけが施されている。
     城と言うよりも資料館と言う感じがしないでもないが、柱や廊下は確かに城の造りだ。
    「温かいご飯と一緒にどうぞ。さあ、いかなごの釘煮はいくつか種類をご用意しています。甘口、生姜多め、醤油多めなど、お好きなものをお試しください」
     ペナント怪人が温かいご飯をよそいながら、いくつかの釘煮を取り出した。
    「これがいかなごか……実は始めて見るし食べたんだけど……」
     煉が興味深そうにそれを覗き込む。
    「釘煮って、名前の通り錆びた釘っぽくなるんですね……。保存が効く料理ですし、先人の知恵ってやつですかね?」
     茶碗を受け取り、蔵乃祐は近くのトレイからいかなごの釘煮をご飯の上に乗せた。
    「各家庭で工夫して味を受け継いでおります。さあさ、皆さんもどうぞ」
     皆も、怪人に勧められるままにいかなごの釘煮を取ってみる。
    「うーん! すっごく良い匂いだよ! 美味しそうだよ~」
     紺子がご飯といかなごのたっぷり入った茶碗を顔近くに近づけた。確かに、甘辛く香ばしい匂いは食欲をそそられる。
    「「「いただきます」」」
     それぞれ思い思いにいかなごの釘煮を取り、試食を始めた。
    「へぇ……、いかなごの釘煮って初めてだけどとっても美味しいのね!」
    「ありがとうございます。そう言って頂けると大変嬉しく思います」
     釘煮を一口食べ、夜好が驚きの声を上げる。ペナント怪人は明るい声でぺこりと礼をした。
     変に知ったかぶりをするより、素直に感動するお客さんに徹するよう心がけた事が良かったのか、怪人の反応もとても良い。
    「甘辛くて歯応えもしっかりある、これは美味しい――!」
     伊織も一口食べてその味に魅了されたようにいかなごの釘煮を絶賛した。
    「むむっ。これはほどよい甘みとしょっぱさ!」
     いかなごの釘煮を食べたクラレットは、次にご飯を一口含んだ。
    「なんということ! ご飯と一緒に食べることでご飯のほかほかに旨みが広がっていくわ!」
    「本当に美味しいです。日本のご当地の名産というのは何処までも奥深いですね」
     柚葉が同意するようにこくりと頷く。持ってきたお茶が、またご飯の美味しさをいっそう引き出しているようにも感じられた。
    「これはとてもおいしいですね……これはしっかりと世間に宣伝するべきですね。どのような宣伝方法を考えていらっしゃるのですか?」
     一樹が聞くと、怪人が胸を張った。
    「はい。わたくし共は毎日いかなごの釘煮を宣伝すべく頑張っております。例えば年中いかなごが捕れるよう海に祈りを捧げたり。例えばいかなごの釘煮を沢山主婦の皆様に作ってもらえるようポスティング用の大量のチラシを用意したり。今は目に見えた成果は得られておりませんが、いずれいかなごの釘煮で世界征……いえ、いかなごの釘煮を広めることができればと思っております」
    「……」
     ちょっと努力の方向性を間違えまくっている感じがしないでもない。
     しかし灼滅者達はその件については触れずに、いかなごの釘煮をたいそう褒めちぎった。
    「……美味しい。ご飯と合う」
     花琳は茶碗を片手に黙々と釘煮やご飯を食べ続けていた。
    「……ちょっと花琳、食べ過ぎよ」
     そう言いながらも、葉琳もいかなごの釘煮を気に入った様子だ。
    「……葉琳も食べる?」
     花琳が箸でいかなごの釘煮を葉琳の口元へ持っていくと、ついついぱくりと食べてしまうのだった。
     こうして、灼滅者達はいかなごの釘煮を味わいながら、虎視眈々と怪人の旗を狙っていた。

    ●ねらうは、その旗
    「そう言えば此処に来る時に城の上に旗らしき物が見えたんだけど、あれは何だい?」
    「そうね。とっても素敵だったわ。良かったら、近くで見てみたいわね」
     煉と葉琳が自然な感じでそう切り出した。
    「あ、はい。ご覧になられましたか? あれこそが我が城のシンボル。兵庫いかなごの旗でございます」
    「屋上にあるんですよね? 見せていただく事は出来ますか?」
     柚葉も一緒になって願い出る。
    「そのお城の旗、写真撮りたいから2階へ上がらせて! この美味しさは世界に広めるべきよ! 拡散してもいいでしょ?」
     ご飯に超合う! と試食をおかわりまでしていたクラレットは、そう言って畳み掛けた。
    「良かったら見学させて貰っても宜しいです?」
     蔵乃祐が皆の意見をまとめるように聞くと、怪人は意外とあっさり頷く。
     これまでさんざんいかなごの釘煮を褒め、試食し続けた事で随分気持ちを許されているようだ。
    「なるほど。それでは、2階へ上がりましょう。2階の試食場所からは、より大きく見えますよ」
    「それは是非見てみたいですね」
     一樹は言い、他の仲間も怪人に案内されるまま2階へ進んだ。

     2階の試食コーナーからは兵庫いかなごの釘煮怪人の旗が良く見えた。
     覗き戸の部分から身を乗り出せば、もう少しで手が届きそうだ。
     さっそくクラレットや一樹、柚葉が旗へと近づく。
     他の仲間は真意に気付かれぬようよりいっそういかなごの釘煮を褒めちぎった。
    「名前からてっきり釘と一緒に煮込んで鉄分とか色々……とか思ってたけどそうじゃないんだ! 甘いのはお砂糖よね? 隠し味があるの?」
     夜好が感動したように何度も頷き、怪人に質問する。
    「そうですねえ。砂糖はザラメを使うご家庭が多いようです。あ、おかわりはいかがですか? どんどん食べてくださいね」
     怪人は律儀に答え、さらに茶碗が空になった者へはご飯をよそいだ。
    「こっちに乗せると……おやつにはなるかしら……他のオカズを考えると……もう少し甘さを抑えたほうが……もちろん現状で完成してるんだけど……」
     ドイツ式のパンを持参したシャルロッテは、炭酸水を飲みながらあれこれと試行錯誤を繰り返していた。
    「確かに日本の米には最適ね。でも……世界進出となるとどうかしら……」
    「せ、世界進出。ゴクリ」
     世界進出と言う言葉に魅せられた様に、怪人が一人喉を鳴らしてシャルロッテのする様を見ている。
    「いかなごの釘煮……小女子よりもしっかりして、固めの感触だね。甘辛いのがご飯を進ませるし、次の一口が楽しみになる歯応え」
     伊織のいかなご賛美の言葉もますます冴え渡る。
    「なるほどこれは……お代わり!」
    「はいっ。さあ、温かいご飯もどうぞ」
     怪人は言われるまま茶碗にご飯を装い伊織に渡した。
    「オレも貰おうかな。いくらでもご飯が食べられる。本当美味しいな」
     最初は適当に話をあわせて褒めるつもりだったが、煉はいつの間にか本心からいかなごの釘煮が美味しいと感じている事に気付く。
    (「……問題無い、よな?」)
     甘辛いいかなごが、ご飯と共に喉を通り過ぎていった。
     仲間達がペナント怪人を惹き付けている間に、旗を狙う仲間達が覗き戸から身を乗り出す。
    「あっ、お客さん、危ないですよー」
     流石にペナント怪人が気付いて制止するが、当然手を止めない。
    「もっと近く! 近くで撮るから!」
     クラレットがそう言いながら必死に手を伸ばす。
    「いえ、本当に危ないので」
     沢山の灼滅者の相手をするため、城にいる全てのペナント怪人が集まってきていた。四体は、仲間達の引付で離れているけれど、手の空いていた一体がついにクラレットの肩に手をかける。
    「けれど、せっかくですから、もっともっと近くで見たいですね」
     すぐに一樹が怪人に並び、妨害に回った。
    「はあ。そのお気持ちはありがたいのですが、やはり……」
     試食に来た客に強く出ることができないのか、怪人がゆっくりと一樹に向かい合う。
     その横を柚葉がするりと抜けていった。
    「頃合ですね。一気に旗を降ろしましょう」
     言って、箒に跨り旗まで一気に飛ぶ。
    「あっ。何を?!」
     怪人が叫んだ。
     だが、一足早く柚葉が旗に手をかけ、両手でしっかりと引きずりおろした。

    ●ついに、いかなごん登場、それから――
     あっと言う間の出来事に、怪人達は動かなかった。
     だがすぐに、慌てたような駆け足の足音が近づいてくる。
    「なななな。なにしとるん?! いかなごの旗が降ろされたやん!!」
     2階の試食会場に現れたのは兵庫いかなごの釘煮怪人・いかなごんだ。手に持つボウルには出来上がったばかりのほかほかのいかなごの釘煮が見えた。どこかで料理していたのだろう、いかなごマークのエプロン姿だ。
    「釘煮はご馳走様、とっても美味しかったわ。だけど貴方達を灼滅しなければならないの」
     夜好が言うと、怪人達はようやく動き始めた。
    「まさか、敵襲か?!」
    「だだ、騙したな!!」
    「あれだけ釘煮を食って、それか?!」
     口々に不満を漏らしながら、戦いの構えを取る。
    「なぜなら貴方達がご当地怪人だからよッ!」
     怪人達の動揺を肯定するように、夜好がギルティクロスを放った。続けてナノナノがしゃぼん玉を飛ばす。
    「試食ついでに気が向いたら手伝って」
     紺子に声をかけた伊織は、怪人をまとめて凍らせた。
    「う、この煮汁……美味しい香りだっただろ」
     最初に攻撃を受けた怪人が倒れる。
    「おっけー! 沢山食べて元気いっぱいだよー」
     紺子は言いながら小光輪を仲間に飛ばした。
     仲間達も一斉に攻撃を繰り出す。
    「私が勝ったらこのお城は仙台城とさせてもらうわよ!」
    「そ、そんなむちゃくちゃな……」
     クラレットは豪快な仙台牛ダイナミックで怪人を撃破した。
    「オレはご当地ヒーローではない、ヒーローではないが……。御前達が勧めてくれたいかなごの素晴らしさ、美味しさは確かに受け取った」
     煉が鋭い大爪で力まかせにペナント怪人を引き裂く。
    「此処で灼滅されようとも、オレがその思いを忘れはしない」
    「ちょ、ちょっと……滅さないでって、わあー」
     また一体、怪人が消えた。
     旗を引きずりおろしたからなのか、怪人達の力はあまり強くなかった。
     蔵乃祐がブルージャスティスの光線で怪人達を貫く。
    (「日本ご当地怪人って、憎めないんですよね……。堕ちてしまったとしても、そのご当地愛は本物の筈です」)
     そう思う。
     自分には故郷のような土地は無いから。思いのこもった場所が出来なかったから。
     自分の人生を捧げられるようなふるさとがあるというのは、狂的ではあるけれど羨ましくも感じると。
    「あーん。もう、何しとるん! しっかりしてや!」
     攻撃を受けながら、いかなごんが手に持ったいかなごの釘煮を爆発させた。
     その爆風で、近くにいた一樹が傷を負う。
    「ペナントのやつらもよう付き合っとるな……」
     髪についたいかなごの破片を払いながら一樹が言った。戦い始まり眼鏡を外し、その口調も変わっている。
    「大丈夫ですか? 回復しますね。癒しの言の葉を、あなたに……」
     柚葉が駆け寄り、癒しの物語を紡いだ。
     傷の癒えた一樹が怪人の身体を槍で抉った。
    「く、ぁ、まだ手書きのチラシノルマ300枚……残って……」
     また一体、ペナント怪人が崩れ落ちる。
    「いかなごの釘煮、とっても美味しかったわ」
     続いて葉琳も槍でペナント怪人を穿ち、消滅させた。
     気付けば、残すはいかなごんのみ。
    「くっ。酷いわ酷いわ。せっかく貰ったこのお城が台無しやん!」
     いかなごんは涙目でそう言い、床を蹴って飛び上がった。
     前衛の仲間目掛けて急降下してくる。
    「自分の力だけで世間に広められんようならご当地怪人やめちまいな!」
     だが、敵よりも早く、両足に朱いオーラを纏った一樹がギルティクロスを炸裂させた。
    「あ、ちょ、ぇ?!」
     いかなごんはバランスを崩し空中でもがく。
    「今よッ」
     夜好の声に、仲間達は一斉に攻撃を叩き込んだ。
    「く、嘘やッ。あかんッ。いかなごはほんまに美味しいんや――!」
     いかなごんは叫び声と共に爆発した。
    「騙し討ちのようで悪いけど、いかなごの釘煮が美味しかったのは本当だよ――」
     消え去ったいかなごんに伊織が言う。
     それからコートを翻し、歩き始めた。
    「お土産に買って、東京に持ち帰ることにしよう」
     確か、神戸土産にあったはずだ。
    「みんなー。お疲れ様♪ いかなごの釘煮美味しかったよね~」
     紺子が労うように皆に声をかけた。
     戦いにおいてはあまり力のある敵ではなかったため、それぞれの傷も浅い。
     それでも、互いに無事を確認し合い、灼滅者達は学園に帰還した。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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