真夏のスイカパーティーへようこそ♪

    作者:春風わかな

     熊本県内のとある海水浴場。
     遊泳地域から少し離れた浜辺に佇む海の家はまだ誰もいないはず、だった。
    「夏といえば、やはりスイカよね~」
     無人のはずの海の家でしゃりしゃりとスイカを租借する音が響き渡る。
    「よーく冷やしたスイカ、マジ最高っ!」
     幸せそうな顔でスイカを頬張っていたのははちきれんばかりのナイスバディに緑地に黒い縞模様の水着を纏ったお姉さま、もといスイカレディ。髪につけた薄い黄色の花飾りが夏の風にしゃらんと揺れた。
    「スイカさえあれば他のものは何もいらないわよねっ」
     いつのまにやら食べ終えたスイカを丁寧に皿の上におき、スイカレディはふふんと得意気に胸を張る。
     彼女がぐるりと見渡す海の家の中にごろんごろんと無造作に転がるスイカたち。
     そう――かき氷もヤキソバもフランクフルトもこの海の家にはない。
     ただ、ここにあるのはスイカだけ。
    「このスイカを食べたお客さんが、スイカの味に感動して……ま、なんだかんだあって、スイカが世界を支配するのよ!」
     早くお客さん来ないかしら――。
     店の入り口を見つめ、スイカレディはお客さんがやってくるのを楽しみに待つのだった。

    「スイカのご当地怪人『スイカレディ』が、海の家に、現れた」
    「やっぱなー」
     うだるような夏の暑さにも顔色を一つ変えない久椚・來未(高学生エクスブレイン・dn0054)の言葉に東堂・昶(赤黒猟狗・d17770)が相槌をうつ。
    「スイカレディとかいるンじゃねェかと思ったけど、アタリだったな」
     スイカレディが現れたのは熊本県内の海水浴場にある海の家。その店をスイカレディが大量のスイカを持ち込み占拠したというのだ。
     幸い、まだ一般人に被害が出ていないが、このまま放置しておけば遠からず被害が出てしまうだろうという來未は眉をひそめる。
    「スイカレディを、灼滅して」
     海の家は朝の9時に開店するらしく、最初の客として入れば店内に他の客はいない。一般人が巻き込まれることがないよう、何かしら対策をしておけばさらに安心できるだろう。
     戦闘になればスイカレディはご当地ヒーローとロケットハンマー に似たサイキックを使い、ポジションはクラッシャーで襲ってくる。
     見た目はキレイなお姉さまだが、相手はご当地怪人。油断は禁物だ。
    「ねぇねぇ、來未ちゃん」
     ツンツンと來未のマフラーを引っ張るのは星咲・夢羽(小学生シャドウハンター・dn0134)。
     夢羽は期待に満ちた眼差しで來未を見つめて口を開いた。
    「スイカがいっぱいあるってことは、今回はスイカパーティー?」
     夢羽の言葉に來未はこくりと頷く。
    「スイカ、たくさん、あるから。スイカ割りも、できる」
     スイカ割りを楽しむのも良いし、海の家のキッチンを借りてスイカスイーツを作るのもよい。
     料理に興味がないというのであれば、目の前の海で遊ぶこともできる。
    「スイカスイーツってどんなのがあるかなぁ?」
     夢羽の問いに昶は手早くスマホでレシピを調べ出した。
    「アイス、シャーベット、ゼリー、スムージー……ってとこか」
    「わぁ、どれも夏にぴったりのメニューだねぇ!」
     はしゃぐ夢羽の言葉に昶も甘く美味しいスイカスイーツに想いを馳せて顔を綻ばせる。
    「スイカレディ、倒して、スイカパーティー、楽しんできて」
     わーい!と嬉しそうに教室を飛び出してゆく夢羽の背に向かい、來未は小さく手を振り見送るのだった。


    参加者
    リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)
    ゼアラム・ヴィレンツィーナ(埼玉漢のヒーロー・d06559)
    北澤・瞳(覇謳曖胡・d13296)
    東堂・昶(赤黒猟狗・d17770)
    船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)
    黒絶・望(風花の名を持つ者の宿命・d25986)
    日輪・朱緋(汝は人狼なりや・d27560)
    椿本・呼石(御伽の欠片探し・d33743)

    ■リプレイ


     海の家が開店すると同時に「こんにちは!」と元気の良い少年少女の声が響き渡る。
    「わ、こんなにスイカが沢山! それにどれも凄く立派」
    「はっはっは、スイカはええさねー!」
     海の家の中にごろごろと転がっている大量のスイカを見つめ、驚くような声をあげるリュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)の傍らでゼアラム・ヴィレンツィーナ(埼玉漢のヒーロー・d06559)は豪快に笑い飛ばした。
    「大食い大会やるのにスイカ足りないかと心配したけど、杞憂だったさよー!」
    「大食い大会?」
     きょとんとした顔で首を傾げるスイカレディに慌てて北澤・瞳(覇謳曖胡・d13296)が代表して事情を説明する。
     近くの浜辺でスイカの大食い大会イベントをやろうとしていること。だが、用意したスイカでは足りないかもしれないこと。そのため、急遽スイカを補充したいと思っていること。
    「熊本県はスイカ収穫量1位って聞いて夏の一大イベントにピッタリって思ったの」
    (「スイカ大食い大会ですって!? このイベントに便乗しない手はないわっ」)
     キラリと怪人の目が怪しく光ったのをリュシールは見逃さなかったが、気づかない振りをして申し訳なさそうに頭を下げた。
    「突然のお願いですみません。……これ、少し分けて貰えませんか?」
    「ぅー……あけひー、おいしースイカー、いっぱいたべたいのー」
     うるうると瞳を潤ませ日輪・朱緋(汝は人狼なりや・d27560)も泣き落としで加勢すれば、スイカレディは「しょうがないわね」と頷く。
     嬉しそうに海の家を飛び出す朱緋を先頭に、灼滅者たちは怪人をイベント会場へ案内することを口実に店の外へと連れ出した。
     海の家に残っているのは船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)ただ1人。
     黙々と店内のスイカを食していた亜綾はおもむろに携帯電話を取り出すと、待機場所で待っている仲間たちへスイカレディが向かったことを告げる。そして。
    「スイカ美味しいですぅ」
     再びスイカに向き直った亜綾を呆れた顔で霊犬の烈光さんが見つめていた。

     一方、その頃。
    「スイカレディの誘い出しに成功したそうです」
     亜綾との通話を終えた黒絶・望(風花の名を持つ者の宿命・d25986)が仲間たちに伝えると、「よかったですわ」と椿本・呼石(御伽の欠片探し・d33743)が安堵の声をあげる。
     ライドキャリバーのプリンチェに腰掛けて呼石が語り続けた百物語のおかげで付近に一般人が近づいてくる気配はない。
    「あ、みんなが来るよ!」
     星咲・夢羽(小学生シャドウハンター・dn0134)が指差す方へと視線を向ければ、海の家へ行っていた仲間たちがスイカレディを連れてやってきた。
    「スイカ大食い大会ってここでやるの?」
     眼前に広がる砂浜に首を傾げ、きょろきょろと辺りを見回す怪人に呼石が事実を告げる。
    「ごめんなさい! 大食い大会は嘘ですの」
    「どういうこと……?」
     眉をひそめるスイカレディに呼石はぴしりと指をつきつけた。
    「大食い勝負ではないですけれど、私達と勝負して下さいまし!」
     訝しげな怪人を前に東堂・昶(赤黒猟狗・d17770)は面倒そうに呟く。
    「ちゃちゃッとブチのめして、さッさとスイカパーティ始めようぜー?」
    「騙したのねっ!」
     声を荒げるスイカレディの前に歩み出たリュシールが手に持っていたスイカを美味しそうに一口齧った。
    「スイカが大好きなのは本当よ。お互い戦わなきゃいけなくても……恨みっこなしで行きましょう!」
    「……わかったわ」
     きりりと表情を引き締め、スイカレディはスイカ割りの棒のような武器を手に取る。
    「さぁ、食滅前の運動ですっ!」
     サウンドシャッターを展開する望の声を合図に、今、戦いの火蓋が切って落とされた。


     どれだけスイカが好きであろうと、ご当地怪人にとって灼滅者は敵である。ゆえに、スイカレディの攻撃に迷いはない。
    「スイカダイナミック!」
     リュシールに掴み掛かろうと手を伸ばすスイカレディに昶のライドキャリバーの朧火がアクセル全開で突っ込んでくる。
     相棒が見せたファインプレーに昶は短く口笛を吹いて称えると、すぐさま自分も炎を纏った蹴りを放った。
    「いいなー、かっこいいー。あけひもー、やるー」
     羨ましそうな視線で仲間を見つめていた朱緋は、たたっと助走して勢いをつけると怪人に向かって強烈な飛び蹴りをお見舞いする。流星のように煌めく軌道を描いた蹴りは重力を宿しており、見た目に反して重い一撃だったため、スイカレディは思わずよろめいた。
     冷静に観察していたリュシールがすかさず妖冷弾を撃ち出し、亜綾もまたスイカを食べる手を止め、慌ててバスタービームを発射する。
    「アンコ、私たちもいくわよ!」
     ぐっと握った槍を構え直し、瞳は足元にいる霊犬の庵胡に声をかけた。庵胡は、わかったと返事をしたかのように一声あげると勢いよく砂浜を蹴りスイカレディへと斬りかかる。
     庵胡が咥えた斬魔刀が一閃するや否や、間髪入れずに瞳は螺旋の如き捻りを加えて突き出した槍で怪人を貫いた。
     スイカレディが攻撃をするたびに仲間の傷を回復し続ける呼石と並び、目隠しを外した望がAnthemisを怪人に向かって伸ばす。ザシュっと鋭い刃へと形を変えた純白の影がスイカレディの腕を斬り付けた。
    「俺も負けてられないさねー」
     マント状のバトルオーラをばさりと払い、ゼアラムはすっと拳を構え、敵を見つめて攻撃のチャンスを伺う。スイカレディが見せた一瞬の隙を突いてゼアラムは勢いよく拳を突き出した。雷を纏った拳が怪人の顎を捉えたところを狙って、夢羽が漆黒の弾丸を撃ち込んだ。
     だが。
    「ふっ、これくらいどうってことないわ!」
     灼滅者たちの攻撃を受け続けてもなおも余裕を見せるスイカレディが反撃に出る。
    「熊本のスイカで世界を征服する――私の邪魔はさせないわ!」

     灼滅者とスイカレディの激闘は続いていた。
     スイカ割りに大食い大会。仲間たちが作ってくれるというスイカスイーツも気になるところ。
    (「早く食滅したいです♪」)
     美味しいであろうスイカにうっとりと想いを馳せながら、望は純白の大鎌――Laminas pro vobisを振るう。目にも止まらぬ速さで死角に回り込んだ望がスイカレディを斬り付けるたびに大鎌を彩る赤いアネモネがふわりと揺れた。
     すかさず瞳が触手のように蠢く影を伸ばし、怪人の身体を絡め取り自由を奪う。
    「そこっ!」
     スイカレディは武器を振り被ると、バシィンという大きな音とともに勢いよく棒を地面に撃ち付ける、と同時に巻き起こった衝撃波が灼滅者たちに襲い掛かった。
    「すぐに回復いたしますわ!」
     呼石は落書きだらけの古書を開くと虹色の雲を呼びだす。
    「お願いしますの!」
     呼石が紡ぐ優しい御伽話に合わせるように虹色の雲が傷ついた仲間たちを静かにそっと包み込むと、みるみるうちに傷が癒えていった。
    「小梅ちゃん、足お願いっ!」
     リュシールの声に反応した小梅が砂で不安定な足元を器用に崩す。ダッと勢いをつけリュシールは大きく跳躍した。そして、スイカ割りの如く上空から構えた槍をスイカレディに向かって振り下ろす。鈍い音が辺りに響き渡るのと同時に怪人がぐらりと身体を傾けた。
    「このまま一気に終わらせるぜェ!」
     死角から放たれた昶の斬撃を合図に灼滅者たちは一斉にスイカレディに猛攻を仕掛ける。
     怪人を高く持ち上げたゼアラムが豪快に地面に叩きつけた。
     双斧卦龍(犬骨ver)で強烈な斧の一撃をお見舞いした朱緋を護るかのように、ふよふよと赤い勾玉が漂っている。
     息つく暇なく繰り出される攻撃に、さすがのスイカレディも息も絶え絶えといった様に見て取れた。
     そろそろか――。
     敵の体力も残りわずかと判断した亜綾は決め技の準備にとりかかる。
    「いきますよぉ、烈光さん」
     烈光さんをむんずと掴むと亜綾は勢いよくスイカレディの顔に向かって投げつけた。
    「きゃー!?」
     思いもよらない攻撃に避けることもできず怪人は悲鳴をあげる。
     だが、顔面直撃した烈光さんに完全意識を奪われていたスイカレディには亜綾の次の行動に備えることが出来ない。亜綾は太陽を背にして重力加速度をつけたバベルブレイカーを怪人の身体に突き立てた。
    「必殺ぅ、烈光さんミサイル、グラヴィティインパクトっ」
     そして、一呼吸置いて引き金を引く。
    「ハートブレイク、エンド、ですぅ」
     ちゅどーん。
     控えめな爆発とともに、スイカレディは爆ぜたのだった。


     スイカスイーツを作ろうと戻ってきた海の家にはまだまだ沢山のスイカが残っている。
    「ね、よかったら夢羽ちゃんたちも一緒に作ってみない?」
     瞳の誘いに夢羽は嬉しそうに顔を輝かせて大きく頷いた。
    「うんっ! 瞳ちゃん、ユメ、何やればいい?」
    「そうねぇ……それじゃぁ、このスイカの中身をスプーンで丸くくり抜いて貰える?」
     夢羽はさっそくスプーンを握り占め、半分に切ったスイカの中身をちまちまとくり抜き始めた。夢羽の作業を見守りながら、瞳はフルーツポンチ用の果物を手際よく切っていく。
    「とりあえず、オレはスイカのシャーベットでも作ッてみッかねェ……」
     スイカの赤い部分をザク切りにした昶は種を取り除く作業にとりかかった。これが正直言って結構面倒くさい。イラつく気持ちを抑え、昶は黙々と種を避けていく。
    「瞳ちゃん、出来たよー!」
     中身をくり抜かれたスイカはフルーツポンチの器に早変わり。後はスイカの他に瞳が用意した果物やナタデココと一緒にサイダーを注げば完成だ。
    「フルーツポンチは食べる直前まで冷やしておきましょうか」
     楽しみだね、とにこにこ笑顔を浮かべる夢羽に呼石が声をかける。
    「星咲様、よろしければ一緒にシャーベットを作りません?」
    「いいね、いいね! 昶くん、シャーベットってどうやって作るの?」
     夢羽の質問に昶は種を取り除いたスイカをミキサーにかけながらさくっと答えた。
    「スイカの実ィ切ッて、種避けて、ミキサーにかけてジュース作ッたら、冷やして固めて完成ッてとこだな」
    「昶くん、ありがとう! 呼石ちゃん、まずはスイカを切るんだって!」
    「わかりましたわ!」
     任せてくださいませ! と包丁をぎゅっと握りしめた呼石を心配そうに瞳が見守る。
     だが、少女たちはそんなお姉さんの心配など露知らず。きゃっきゃとはしゃぎながらミキサーにかけたスイカジュースを呼石が用意した容器へと流し込んだ。

     ところ変わって浜辺では。
    「リュシール、僕、先にやってみたいです!」
     スイカ割りの準備が整ったところで、はいっと元気よく手をあげる徹にリュシールは目隠しを結んであげる。
    「もうちょっと右……そう、その調子よ」
     リュシールの声を頼りに徹はよたよたと覚束ない足取りでスイカへと近づいて行った。そして「えいっ」と棒を振り下ろすが、手ごたえを感じられず。続くリュシールへバトンタッチ。
    「反則だと思うけど……こんな技もあるわよ」
     目隠しをしたリュシールは小さな声で歌を口ずさむ。音の反響を利用してスイカの位置を把握する作戦だ。
    「えいっ!」
     ぱっかーん!
    「すごいです!」
     はしゃぐ徹の目の前でスイカは見事真っ二つに割れる。
    「想希~俺らもスイカ割りしよか」
     にこにこと笑顔で悟が差し出した目隠しと棒を受け取り、想希の準備は万全。
    「悟、回しすぎ……」
     ふわふわと揺れる砂浜を、悟が叩く手の音を頼りに想希は必死に歩いた。
    (「……こっち? いや、違う……ここ?」)
     意識を集中させ、想希はここだと思った場所でめいっぱい棒を振り被る。
    「――捕まえたで」
     棒を振り下ろそうとした瞬間、ぎゅっと悟に抱きしめられ。
     慌てて目隠しを外す想希の頬を赤く染まっていた。
    「さて、スイカ割り最終兵器兼食滅者の本領、お見せしますよ?」
     代わって目隠しをした望が棒を手にスイカへと向かって歩きだす。
    (「普段から目隠しをしてますから……こんなのハンデにならないんですけどね♪」)
     慣れた様子で歩く望は迷いなくスイカの方へと近づいて。そして――。
    「そこです♪」
     目隠しをした望が振り下ろした棒は迷いなくスイカの真上に振り下ろされた。鈍い音とともにスイカはキレイにパカっと割れる。おぉ~という歓声に望は可愛らしく手を振って応えた。
    「三人の中で誰が一番レッドに相応しいかを決める為にスイカ割りで勝負じゃん!」
     真朱の提案に朱緋も銀朱も迷うことなく頷く。
     一番手は言い出した本人である真朱。早速目隠しをすると朱緋と銀朱がぐるぐると回し始めた。
    「まあ? 神器の『剣』を担う? 真のレッドに相応しいワタシにかかれば? スイカなん……って、ちょ、待っ…待つじゃん!」
     グルグル回って気分が悪くなった真朱はパタリと倒れ込む。
    「まそおー、だめだめだねー。ひのわしてんのーのれっどのー、れっどのー、あけひがー、おてほんみせたげるー」
     続いて目隠しをした朱緋が棒を構えて歩き出した。だが、なぜか彼女が狙うのはスイカではなく、スイカの水着を着た銀朱。
    「な、何でこっち追いかけてくるんだ!? スイカは逆だぜ、逆!」
     ぱしゃぱしゃと波打ち際を逃げる銀朱の方へとふらふらと吸い寄せられるように朱緋は歩いて行く。「あれ?」と朱緋が気づいた時にはもう手遅れ。
    「ふぇ? ふぇっ。びええええん。まそおー、ぎんしゅー、たすけてー」
     波にさらわれた朱緋の悲鳴が海辺にこだましていた。


     スイカ割りを楽しんだ仲間たちが合流するタイミングに合わせ、完成したスイカスイーツたちも並べられ、浜辺は一気に華やぐ。
    「星咲ー、また味見すッか?」
    「わぁい!」
     昶に貰ったシャーベットは甘くてヒンヤリして暑い夏の海にぴったりの味。
     美味しそうなスイーツに眼を輝かせ、皆は冷えたスイカジュースを掲げて声をあげた。
    「かんぱーい!」
     よく冷えたスイカをがぶりと齧れば甘いジュースが口いっぱいに広がる。
    「ご当地怪人のスイカ……さすが、絶品ですね……♪」
     幸せそうにスイカを食べ続ける望の隣ではゼアラムはもう何個目かわからないスイカに豪快に齧り付く。
    「はっはっは、スイカ最高さよー!」
     ペース配分を意識して最初は抑え目にしていたこと、そして何よりもスイカレディの持っていたスイカがすごく甘くて美味しいこともあって、ゼアラムはまだ余裕を見せていた。
    「スイカフルーツポンチ、貰っていいさねー?」
    「どうぞ! 亜綾さんもいかが?」
     フルーツポンチをよそった器をゼアラムに渡す瞳に亜綾はこくりと頷く。
    「ありがとうございますぅ。喜んでいただきますぅ」
     「おいしくなぁれ」を使ってさらに美味しくなったスイカは飽きることなく食べ続けられる。黙々とスイカを食べ続ける亜綾を横目に、烈光さんは本日何度目かわからない溜息をついた。
    「おーい、生きてるかー?」
     昶の呼びかけにメルキューレは弱々しく手を振って応える。
    「待たせちまッてワリィ。ホラ、シャーベット作ッてきたから融けねェ内に食えッて」
    「……手作りですか?」
     「ワリィか」と吠える相棒をチラリと見つめ。早速メルキューレはシャーベットを口に運んだ。それは、甘くて冷たくて。予想と違わず美味しい味。
    「相変わらずお菓子作りが上手いのだなと」
    「な……ッ!? 誕生日プレゼントのお返しだッ、バーカ」
     照れ隠しに憎まれ口を叩く相棒を微笑ましそうに見つめ、メルキューレは追加でスイカジュースをリクエストする。
    「まさかの注文追加かよ!?」
     そう言いつつも我儘を聞いてくれる大切な相棒の背を見つめるメルキューレの瞳は優しかった。
    「星咲様、どうぞ召し上がってみてくださいまし」
     パラソルの下でプリンチェに腰掛けた呼石が差し出したのは夢羽と一緒に作った星型のシャーベット。ちなみに呼石のシャーベットはお花の形だ。
    「実は初めて作りましたの。でもスイカが美味しいからきっと上手にできてますの!」
    「うん、おいしそう! それじゃ、『せーの』でいっしょに食べようよ!」
     夢羽は呼石と顔を見合わせ、同時にパクリとシャーベットを頬張る。口に入れた瞬間、すっと溶けるシャーベットは思った以上に甘く、2人の顔に笑みが浮かんだ。
    「おいしいっ♪」
    「よかったですわ――あら?」
     ほっと胸を撫で下ろした呼石たちの足元では庵胡と小梅がそわそわしている。「ちょーだい♪」と言いたげに大きな丸い目を見開き鼻を鳴らすおねだり攻撃に勝てる自信はない。
    「瞳ちゃん、アンコちゃんにスイカあげてもいいー?」
     いいわよ、と瞳の許可も貰い、庵胡は美味しそうにスイカに齧りつく。小梅も呼石からスイカを貰ってご機嫌だ。
    「まそおー、ぎんしゅー、すいかー、おいしーねー」
     幸せいっぱいにスイカを頬張る朱緋に真朱と銀朱も笑顔で頷く。
     シャクシャクと美味しそうな音を響かせ、リュシールはがぶっと豪快にスイカに齧りつく。恥ずかしそうに真似をする徹を見てリュシールはにこりと微笑んだ。

     太陽の下、極上のスイカに舌鼓を打つ灼滅者たちの笑顔の花が咲く。
     美味しそうにスイカを食べている様は、きっとスイカレディも喜んでくれたに違いない。
    「ごちそうさまでした!」
     空っぽになったスイカと満足気な灼滅者の笑顔と共に、賑やかな真夏のスイカパーティーは終わりを告げるのだった。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ