わらびモッチア?

    作者:聖山葵

    「はぁ……まだ暑いしそろそろわらび餅食べたいよね。あ、そうだ!」
     全ては一つの思いつきからだった。
    「わらび餅を供えたら願いを叶えてくれる何かが現れる、とかそんな噂を流したら、良いんだ」
     もし、この時側に誰かが居たなら、人を騙すのは良くないとか上手くいきっこないだろとかツッコミをいれたことだろう、ただ。
    「ふふふ、我ながら良いアイデアだ。もしお供え物がなくなっても、それは『わらびモッチアさま』が食べた、と言うことで」
     誰にとっての不幸か、自画自賛しつつ去って行く少年へツッコミを入れるものも止める者も居らず。
    「……食べたいと言うところまでは同意見だったんだけどね」
     居たのは、全てを聞き終え踵を返したユリアーネ・ツァールマン(ゴーストロード・d23999)だけであった。


    「と言う訳で、闇もちぃして一般人がタタリガミになる事件が起ころうとしている」
    「え、タタリガミ?」
     集まった君達の前でそう明かした座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)に鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)が問えば、はるひは真顔で趣向を返した。
    「わらび餅を供えれば願いを叶えてくれる謎の存在という噂を広めようとしたところ、自分自身が闇もちぃしてその姿になってしまうようでね」
     ただ、都市伝説の姿に変貌してしまっても、一時は人の意識を残したまま踏みとどまるのだともはるひは言う。
    「故に、君達には彼が灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救い出して欲しい」
     また、もし完全なダークネスになってしまうようであれば、その前に灼滅をと言うのがはるひからの依頼であった。
    「それで、今回闇もちぃしかけているのは、蕨生・藍(わらび・あい)。中学三年生の男子生徒だな」
     噂を広め、わらび餅を供えれば願いを叶えてくれる謎の存在ことわらびモッチアさまが出現するとした場所の側に隠れていた藍は、誰かがやってくるのを待つ内に都市伝説「わらびモッチアさま」の姿をしたタタリガミと化してしまうのだとか。
    「君達がバベルの鎖に接触せず介入出来るタイミングだと、藍は都市伝説の姿へ既に変じてしまっているのでね」
     現地にわらび餅を持って赴き、わらび餅は差し出さず、襲いかかってくる藍を迎え撃てばいい。
    「この時人の意識に呼びかけることで、ダークネスとしての力を弱体化させることも出来るが、ただ一つ、救い出すまで決してわらび餅を与えてはいけない」
     都市伝説の行動パターン上、わらび餅を渡してしまうと立ち去ってしまうのだよと、はるひは補足説明し。
    「ただし、救った後であれば話は別だし、元に戻ったらわらび餅をあげると説得するのは問題ないのだがね。これらは誘引と救出後のおやつにでもしてくれればいい」
     そう言いつつ、差し出されたのは、人数分にプラスすること一個用意されていたわらび餅入りのパックの一つ。
    「戦闘になれば、藍は七不思議使いのサイキックで応戦してくる」
     また、戦場となるのは、薄暗い夜道となる為、明かりの用意もしていった方が良いだろう。
    「ただし、人よけの用意は不要だ。明かりが必要なほど暗い道を通る人など希なのでね」
     君達が赴く日に至っては皆無と言っていい。都合の良いことではあるが。
    「私からは以上だ。少年、藍のことよろしく頼む」
    「あ、うん」
    「皆もよろしく頼むな」
     まだ残っていたわらび餅を和馬に押しつけると、はるひは和馬を含む君達を送り出したのだった。
     


    参加者
    叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)
    北條・薫(とうもろこし弁当の人・d11808)
    四季・彩華(蒼天の白夜・d17634)
    東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)
    ユリアーネ・ツァールマン(ゴーストロード・d23999)
    四方祇・暁(天狼・d31739)
    天草・日和(深淵明媚を望む・d33461)
    メリー・ブラッハー(綿雪の夢・d34101)

    ■リプレイ

    ●いつもの
    「普通に買えよわらび餅くらいって思うのは、拙者が人間だからでござろうか」
     自分を含む仲間達が用意した明かりを頼りに夜道を歩きつつ四方祇・暁(天狼・d31739)は、ポツリと呟いた。
    「や、オイラも同感だけどね、うん」
     と頷いて見せたのは、鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)。
    「和馬さんお久しぶりですね? 元気にしてましたか?」
    「わ。……あ、うん。ちょっと日に焼けちゃったけどね」
     突然応援の灼滅者らしき少年に肩を抱かれ、頷きつつ応じるのを横目に、しかしと続けた暁が首を捻る。
    「そもそも闇もちぃって何でござるか。他にも居るんでござるか?」
    「そうですね、そもそも闇もちぃと闇堕ちって何が違うのでしょうか?」
     ただ、聞き慣れる言葉に疑問を抱いたのは、北條・薫(とうもろこし弁当の人・d11808)も同様だったらしい。
    「え? あたし?」
     二人分の疑問を抱いた灼滅者の視線が答えを求め、最終的に東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)を向いたのは無理からぬこと。桜花も元モッチアであるのだから、モッチアだった過去が黒歴史だとしても。
    「えーとね? あたしも『餅族なのに怪人じゃない……?!』とか驚いた方だし――」
     いつもであれば勢いよく顔を背けて他人のふりをするのだが、答えを期待する視線に挟まれたのが拙かった。
    「モッチアと言えばご当地怪人だと思ったが、そんなヤツも居るのか」
     とかはるひから説明を受けた時ポツリと零していた天草・日和(深淵明媚を望む・d33461)ではなく何故自分にと桜花が思ったかは定かでない。
    「桜花ちゃん、いつも大変なことになるって聞いたからなぁ……。よし、フォローしてあげよう」
     ただ、見かねた四季・彩華(蒼天の白夜・d17634)が助けに入ろうとし、起こるべくして事件は起こる。
    「と、とにかく餅族には違いないわけだし……あ」
    「大丈夫? モッチアなら僕も助けてるし、説明代わるよ?」
     彩華が声をかけるまでは、単なるフォローだった。
    「ありがと。それじゃ、お願」
     原因は、礼を言って彩華と入れ替わろうとした桜花の足下に転がっていた大きな石。
    「わ、った」
    「だ、大丈、わぁっ」
    「みゃああああっ」
     躓き、バランスを崩した桜花を支えようとするも、桜花の蹴飛ばした石を踏んでしまった彩華はそのままひっくり返り、桜花共倒れ込む。
    「くっ、させるか」
     何故か地面に滑り込んだ日和の上に。
    「ひぎぃ」
     二人分の体重をモロに受けて悲鳴をあげる日和は助けに入ったのだと思いたい。
    「お、お二人とも大丈夫です……か」
     顔見知りでもある仲間のトラブルに慌てて助け起こそうとしたが見たのは薫、桜も乳を両手で捕まえちゃった彩華の図。
    「わーっ!? 何故こんな目に!?」
     状況を理解したが慌てて手を放すも、もう遅い。
    「う、う、う」
    「や、僕、フォローしようとしただけだからね!?」
    「うにゃあああ?!」
     弁解していた約一名の頬に平手が乾いた音を立てた。

    ●出現
    「ご、ごめん、わざとじゃないのはわかってるから……」
    「ええと、大丈夫だから」
     眠そうな目をしたメリー・ブラッハー(綿雪の夢・d34101)は、とらぶるの収束眺め、これなら大丈夫かなと呟く。
    (「……薄暗い夜道をボクみたいな小学生が出歩いてもいいものか少し不安だったけど」)
     小学生の一人歩きを気にするような大人が近くにいたなら、先程の悲鳴で駆けつけてきていただろう。
    「うーん、とらぶる予防策について話し合っておくべきだったのかな、ひょっとして」
     友人を見舞った不幸に複雑な顔をしてユリアーネ・ツァールマン(ゴーストロード・d23999)はポツリと漏らし。
    「まぁ、いずれにしてもだ……そろそろ目的地だぞ?」
     微妙な空気の中、仲間達へ忠告したのは、ヘッドライトを首から下げ、一点を見つめたままの叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)。
    「あ、座本さんからのわらび餅は鳥井さんが持っていてくださいますよね?」
    「そうなのか、なら」
    「いいの? じゃあ……」
    「え? え? あるぇ?」
     薫の声と視線に戸惑う和馬の元に幾つかのわらび餅が差し出されるのを見てユリアーネは、自分の手元へ視線を落とした。
    「……わらび餅は……まぁ、片手空いてるし、袋にでも入れて持ってればよっぽど大丈夫だよね」
     思い起こされるのは、はるひの言葉。
    「今回はあげちゃダメなんだよね。いつもと勝手が違うなぁ……」
     仲間の呟きを聞きながら、とは言ってもとユリアーネは続けた。
    「良く来たもちぃ! わしはわらびモッチアさま。さぁ、わらび餅をお供えするもちぃ!」
    「もう、現れちゃってるからね」
    「あっ」
     示す先で胸を張るのは、神秘的なローブに身を包んだ、きな粉まみれの老人が一人。
    「お供えを貰うなら、備えてくれた人のお願い事を聞かないといけないと思います。蕨生さんは、それが本当にできるのですか?」
     ただ、鷹揚に構えていたわらびモッチアさまの余裕は、薫の発したこの問いで消し飛んだ。
    「え゛っ」
    「できないのにその話を聞いてわらび餅を差し出した人がいたら、あなたは詐欺師になっちゃいますよ」
    「うっ」
     硬直したわらびモッチアさまは、続く指摘に後ずさる。わらびモッチアさまではなく人の名で呼ばれたことさえ気づいていないのかも知れない。
    「わらび餅を食べたい、そういう好物に対する想いが強いのはいいことだと思う。だけど、嘘の情報をばら撒いて、私欲を満たすなんて許されないよ」
    「も、もちぃ……それは」
     わらびモッチアさまは、たじろぎ。
    「やっぱり騙しはよくないよ。それで得た餅だって、そんなに美味しくは感じないと思う」
    「だよね。人を騙して手に入れたわらび餅がそんなにおいしいわけないでしょう」
     良心を突き刺されたところへかけられる声はフォローと真逆のもの。
    「お供えで望みを叶えるとか、本来願いとは自らの力で叶えるものだ。神様が居たとして、それは手助けをしてくれるに過ぎん」
     日和は言外に告げ。
    「も、もちぃ……けど」
    「今のお主に渡す気はない」
     言葉を探すわらびモッチアさまへ暁は直接口に出して一喝する。
    「うぐっ」
     ただの拒絶ではなく、仲間がちゃんと説明づけての一言だったからか、元少年は目に見えて怯み。
    「ねえ? 目の前にわらび餅があるのに食べれないのどんな気持ち? ねえどんな気持ち?」
    「うぐっ、言わせておけばっ! こうなったら力ずくもちぃ!」
     歩幅の違いか、この時ようやく会話に入ってきたメリーに煽られた、わらびモッチアさまは激昂しメモを取り出す。「一凶、披露仕る……」
     実力行使に出ると決めたのだろう。戦いの始まりを感じ取って宗嗣は地を蹴った。

    ●戦闘
    「さぁ、ゆくもちぃ! 怪談、逆襲のわらびもちっ! これは、とある夏の日のおはなべっ」
     語り出した元少年が悲鳴をあげたたらを踏む。
    「もぢ、ふ、不意打ちとは卑怯もちぃ」
     涙目で振り返った先には、片腕の半獣化が解けつつある宗嗣が居り。
    「俺ばかりに気をとられていて良いのか?」
    「え? あ」
     投げられた問いに周囲を見回したわらびモッチアさまは知る、詠唱圧縮された矢が自分目掛けて飛んで来ていたことに。
    「もぢゃぁぁぁっ」
    「好機! ユーリィ、行くでござるよ」
    「あ、うん。ゆくよ……」
     恋人に呼びかけるやいなや、暁は拳に雷を宿しつつ、低い姿勢で前に飛び、転がる元少年へ肉迫するのを援護するかの如く、射出されたユリアーネの帯がわらびモッチアさまを追う。
    「もぢゃばっ、ぎぇぇっ」
     上がる悲鳴、吹っ飛び、帯に貫かれる元少年。
    「う、ぐ……もちぃ」
    「蕨を食す前戯のごとく、灰汁抜きをしてやろう! モッチアの名を悪用されては学園内の元モッチアが可哀想だからな!」
    「えっ」
    「そのカバは口からビームを――」
     灰汁抜きの後ろに意味深とか副音声を付けた日和の宣言へ即座に学園内の元モッチアが声を上げるも、スルーして怪談を語り始め。
    「ぐ、させるかもちぃ! 復讐のわらびもち――」
     跳ね起きた元少年もすぐさま語り出す。
    「あ」
    「「もちっ、もちっ」」
     あとから語り始めたにもかかわらず、怪奇現象の発生で先んじたのは、タタリガミとしての意地か。
    「……ゆ、ユルいっ……全体的にやりづらい……!」
    「「もっちーっ」」
     どこからともなくあらわれた、手足が生えたわらび餅の群れは顔をひきつらせた暁を、まだ怪談を語っていた日和を飲み込んだ。
    「っぷ、なんかに負けやしんぐっ」
     集られてるさなか、口を開いたのは失敗だったのだろう。
    「んん゛ぃ、ん゛んん゛んんんぅんぉー」
    「うわぁ」
    「ああ、天草さんがお子様には見せられない感じに」
     緩く見せつつ割とえげつなかった怪奇現象に被害が出る中。
    「うみゃぁぁぁっ」
     味方を庇って予想通り巻き込まれている誰かが居た。
    「ちょ、服の中に、取って、あ、やっぱり駄目ーっ」
     どっちなんだよと思われるかも知れないが、確認せず声をかけた相手が異性だったら起こりうる状況である。
    「もぢゃあっ」
     もっとも、主がそんな状況に陥りつつもライドキャリバーのサクラサイクロンは真面目に突撃してタタリガミを轢いていた。何故なら、戦闘中だから。
    「う、くっ」
    「うん、ボク達も……行こうか、マシュー」
     両手にオーラを集めたメリーが呼びかけと共にオーラを放出すれば、起きあがろうとするわらびモッチアさま目掛けて伸びるオーラを追いかけ、ビハインドのマシューは元少年に肉迫し。
    「もぢゃーっ」
     オーラに呑まれたタタリガミが悲鳴をあげるが、灼滅者達の攻撃はまだ終わらない。
    「うぐぐ」
    「こっちも行かせて貰うよ」
    「え?」
     ボロボロになってオーラから抜け出した先には雷を拳に宿した彩華と今更のように訪れた怪奇現象が待っていたのだから。
    「もぶっ、ちべばっ」
     アッパーで浮き上がった体躯が、どこからか飛んできたレーザーと言う怪奇現象によって撃墜され。
    「桜花ちゃん、今だ!」
    「うん」
     落下地点には既に怪談最大の犠牲者がスタンバっていた。
    「人を呪わば穴二つっていうか、嘘の噂広めてまでやったばちが当たったのかな」
     何だかんだで灼滅者達の言葉が届いてはいたのか弱体化したところを袋叩きにされて割と悲惨な有様ではあったが、怪奇現象に服の中を大冒険された桜花に遠慮する理由は皆無。
    「桜餅っ」
    「むぐっ」
    「ダイナミッーク!」
    「もちゃびゃああっ」
     持ち上げ、豪快に叩き付け、爆発の中にわらびモッチアさまの悲鳴がかき消える。
    「やった! とらぶるなしで彩華と連携できたっ」
     謎の感動を覚える当人は気づかない。派手なモーションで叩き付けたせいで、後ろからはパン何とかが丸見えだったこととか、持ち上げる時自分の胸にタタリガミの顔が埋められていた事には。
    「え、えーと。じゃ、オイラも」
     言うべきか言うまいか迷った和馬は、片手にわらび餅を抱えたままもう一方の手に持ったサイキックソードの光刃を微妙に焦げてるタタリガミへと撃ち出した。
    「もぢゃべっ」
     闇を斬り裂いたソレは元少年の衣までをも切り裂き。
    「酷い有様だな」
     惨状を見て宗嗣は呟く。
    「くっ、この程度で……戻ってこい! うぐっ、人間に戻って、くるなら……このわらび餅をイヤに成る程くれてや……ひぎぃっ!」
     裂けた衣からは肌色が露出し、元少年の足下には自分から転がっていった日和が踏まれ、悶えつつ説得を続けていた。
    「どうせ食うなら、人から奪うんじゃなくて真っ当に食った方が美味いんじゃないか……?」
    「も、もちっ」
     そんな目に遭うことも無かっただろうにと宗嗣に冷めた目を向けられれば、わらびモッチアさまは怯み。
    「第一……そんな風に人様に迷惑をかけてまで手に入れたわらび餅が美味しいわけないじゃないだろう!」
     迷惑どころか微妙に喜んでるフシがありそうな約一名は無かったことにしつつ彩華も訴えかける。
    「うっ」
    「人様の願いの詰まった餅など、涼感を求めて食べるには向くまいよ。バカな真似はやめて反省することでござるな!」
     タタリガミの威圧感が減退する中、暁はさもあらんと頷き。
    「わらび餅を食べたいなら、買うか作るかしなくては」
    「だよね。ちゃんと自分の努力で手に入れて食べなさい」
     薫の言葉に同意したユリアーネは、ただしと続け仲間達を見た。
    「うん。ちゃんと反省して人に戻ったら」
    「そうでござるな。そしたらこの餅、お主に分けても良いでござる」
    「っ、解ったよ戻るも……っ」
     二人の申し出へ即座に反応しかけたタタリガミは急に動きを止める。
    「うぐっ、力が……なんて恐ろしい説得をしやがるもちぃ!」
    「あ」
    「ふわぁ……ん、何だか……感じが、変わったね」
     メリーが感じた差異はおそらく追いつめられたダークネスが表面に出てきたことによるものだろう。
    「畳みかける好機、かな」
     逆に言えば、同じ様な説得をされると拙いと言うことでもある。
    「もうこんなことをしないで下さい。約束してくださるなら――」
    「さっさと戻ってきたらどうだ……。茶もあることだし、な……」
    「わらび餅が欲しければ後で食べさせてあげる、だから取りあえずは闇から戻ってくるんだ!」
     顔を見合わせた薫達による言葉の攻勢はダークネス側から見ると、悪辣だった。
    「な、止めるもちぃ! そ、そんな甘言に負けないもちぃ!」
    「こ、こら、私の台詞を取るな! いや、そう言うのもアリか」
     動揺する元少年と足下によって生じた混沌の中。
    「じゃあ、そろそろ……終わりで良いよね? お休み」
    「もべぐっ」
     メリーが繰り出した捻りをくわえた突きに貫かれると弱体化した上ボロボロだったわらびモッチアさまはがくりと崩れ落ち、元の姿へと戻り始めたのだった。

    ●甘ッ
    「おかえりなさい……藍。お疲れさま。怖かっただろう……? ほら、わらび餅をお食べよ……。遠慮せずに……」
     意識を取り戻した少年へ、労いの言葉と共に微笑みかけたのは、メリーだった。
    「え?」
    「言ったであろう? 人間に戻ってくるならこのわらび餅をイヤに成る程くれてやるとな!」
    「自分自身の闇に呑まれなかったお祝い。遠慮なく食べるといいよ」
     呆ける少年へ日和が告げれば、ユリアーネも微笑みを浮かべて頷く。
    「ユーリィもお疲れさまでござるよ」
     隣に暁がいるところを見ると、微笑みの理由は少年を安心させるだけのものとはではなさそうだったが、皆でわらび餅食べよっかと続けた後だった。
    「そ、その……ユーリィ」
    「えっ」
     顔を赤くしつつ楊枝にさしたわらび餅を自分に向けてくる恋人の姿にユリアーネは硬直し、ワンテンポ遅れて暁の顔色が伝播する。
    「あら……仲が良いことは、良いことですね」
    「ちょ、義姉さん?!」
     薫の一言で我に返るが、勇気を振り絞って敢行した恋人のあーんを拒否する事など出来よう筈もない。少年を助け出してしまえば、任務中という逃げ道も無いのだ。
    「こういうのも悪くない、な……」
     キャンプ用のバーナーで火をおこし、いれた茶の湯気を夜風になびかせつつ宗嗣は、賑やかになる妹分カップルを見ないことにしつつ空を仰いだ。きっと気を利かせたのだろう。
    「蕨生さん、そこまでおっしゃるなら、美味しいお店とかご存知かしら?」
    「え、えーと」
    「あ、わらび餅だったら――」
     わらび餅より甘い空間を挟んで反対側、興味津々といった様子で薫が質問を投げ、これに乗っかる形で会話に入ってきた桜花がいつものように勧誘を始め。
    「あ」
    「え?」
    「うみゃぁぁぁ、またぁ?」
     何故か転んで少年を押し倒す、いつも通りである。
    「……しかし、夏ももう終わりかぁ……」
     とりあえず、一人の少年を助け出し、思い思いにお茶の時間を楽しむ中、未だ上気した顔のユリアーネは唇の箸にきな粉を付けたまま呟いたのだった。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年9月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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