誰も使わなくなった廃倉庫。傷んだジャケットを着た男がつまらなそうに寝転がっていた。
「この力の使い方にもずいぶん慣れたな」
男の周囲には破壊され尽くした自動車や重機などが散乱している。爆弾で吹き飛ばされたような、荒い傷が目立つ。
「つまらないな。どうせなら、もっと派手に暴れてやろうか……派手に」
自分でも馬鹿だと思う。けれど、破壊を想像するだけでにやにや笑みが浮かんだ。
デモノイドロードとは、悪の心で寄生体をねじ伏せたデモノイドの一種である。悪の心が弱まれば寄生体に支配されてしまうため、悪の心を保ち続けんばならない、呪われた存在である。
「まぁ、今回のはそんな心配はないんだけど」
と口日・目(高校生エクスブレイン・dn0077)は呆れて言った。
今回、発見されたのは荻埜という男だ。生粋の破壊者で破壊好き。車や重機を壊して喜んでいたらしいが、今回はより大きいものを壊そうとしている。
「荻埜の狙いはずばりビルよ」
建設途中のビルに狙いをつけ、現場を襲う。そうなれば建築物はもちろん、作業員も犠牲になるだろう。
「荻埜が現場に現れるのは昼過ぎ。明らかに作業員には見えないから、一発で分かると思うわ」
戦闘前に作業員を逃がせば、荻埜は現れない。そのため、作業員を避難させるなら、行動開始は荻埜が現れてからになる。
「荻埜はデモノイドヒューマンのサイキックに加えて、シャウト、爆発を伴う砲撃を使ってくる」
能力は他のダークネスに劣らない。侮れば、それに結果が伴うだろう。 また、不利を悟れば逃走する可能性もある。そういう意味でも注意は必要だ。
「じゃ、頼んだわ。必ずデモノイドロードを止めてね」
荻埜を止めなければ、多くの犠牲が出るだろう。人々の平穏を破壊させるわけにはいかない。
参加者 | |
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篠宮・まひる(泡沫シレーヌ・d02546) |
八葉・文(夜の闇に潜む一撃・d12377) |
ライン・ルーイゲン(ツヴァイシュピール・d16171) |
リアナ・ディミニ(不変のオラトリオ・d18549) |
天使・翼(ロワゾブルー・d20929) |
葉真上・日々音(人狼の狭間に揺れる陽炎・d27687) |
九条・九十九(リブレッタブルクジョン・d30536) |
アルルーナ・テンタクル(小学生七不思議使い・d33299) |
●青き破壊者
真上を過ぎた太陽が熱を振りまいて、建設現場は地獄のような暑さだった。それでも、彼らは休むわけにはいかない。なぜなら、それが彼らの仕事なのだから。
そこに、明らかに作業員には見えない男が現れた。粗暴な外見に、傷んだジャケット。荻埜だ。途上のビルを見上げて、にやりと悪い笑みを浮かべた。
瞬間、物陰に隠れていた灼滅者が飛び出す。悪意による破壊を看過するわけにはいかない。
「そこまでだ。これ以上の破壊はまかりならん」
戦闘態勢となった九条・九十九(リブレッタブルクジョン・d30536)の体の端々から、青い寄生体が顔を見せる。荻埜と同種の力。違うのは、悪意による支配と、人意による克服。例え人造、模造であろうとその魂に曇りはない。
「なんだ、お前ら」
「答える気はないで、三下」
八葉・文(夜の闇に潜む一撃・d12377)はある意味当然の問いを、切って捨てた。名乗りなど不要。どうせここで、奈落に落ちる定めなのだから。冥土の土産を持たせてやるほど、甘くはない。
「祈り捧げろ、オラトリオ」
ポニーテールが、ぬるい風に揺れる。リアナ・ディミニ(不変のオラトリオ・d18549)は右手に槍薙刀、左手に紅剣を構えた。この二本が爪と牙なら、腰の帯布は尾であろうか。獣のごとく、獲物に狙いを定める。
「よ、よーし、気合入れていくで! 私の七不思議其のニ! 切り裂くハーピィ!」
アルルーナ・テンタクル(小学生七不思議使い・d33299)の姿が、白羽の人鳥へと変わった。人造灼滅者である彼女は、戦闘時はダークネスの姿となる。口調がいつもと違うのは、初めて戦う相手への緊張のせいだろう。
「何かを壊すことでしか、彼と外は繋がれないのですね……」
自分は歌が好きだ。彼にとっての破壊は、自分にとっての歌のようなものかもしれない。歌は誰かを喜ばせることができるかもしれないけれど、破壊はそこから一歩も動けないだろう。ライン・ルーイゲン(ツヴァイシュピール・d16171)はそれを哀れに思った。
「シロ、おねがい」
主の命に従い、ナノナノのシロが篠宮・まひる(泡沫シレーヌ・d02546)の後ろに付く。ぼーっとしているようにも見えるが、彼女も灼滅者。後れを取ることはないだろう。
灼滅者の登場に呼応して、荻埜はその本性を現し、巨躯の怪物となる。元は人間であったとはいえ、今となってはそれが真の姿だった。
それを、作業員に紛れていた天使・翼(ロワゾブルー・d20929)が見つけて言った。
「おいおい、アレなんかヤバくねぇか」
その言葉で他の作業員も異常を察知し、浮足立つ。
「ほーら、避難やでー! 葉真上家家訓、その九十六! 押さない、早足、喋らない! 焦らず急いで避難やでー!」
人払いの力もあって、作業員は次第に数を減らしていく。その横で騒ぐ葉真上・日々音(人狼の狭間に揺れる陽炎・d27687)動けない人間がいないか、くまなく確認する。
避難が完了するまで、少しかかる。誘導に二人は手を裂きすぎたかもしれない。
●業の砲火
避難に人数を当てる以上、デモノイドの相手を残りの六人と二体でしなくてはならない。その間、灼滅者は完全に押されていた。
「邪魔だ、ガキども!!」
怪物の背中に筒状の器官が生え、そこから爆薬の塊が無数に発射される。爆炎と爆風が前衛を焼く。
「Schall、Bitte!」
後衛からラインのナノナノ、シャルがハートを飛ばして主を回復する。戦力で劣っていても、やることは変わらない。仲間を守り、癒すこと。その手にある力は、壊すためだけものではないと、彼女は知っている。
「……ウチは刃。……あんたの闇を切り裂き、穿つ……刃や」
暗殺教団で育てられた文は自身を刃と定義する。かつては道具でしかなかった。だが、学園という居場所を得たことで少しずつ人間へと戻りつつあった。意味を得た刃はむしろ鋭さを増して、闇を切る。黒塗りの薙刀が赤い軌跡を残しながら、敵を切り刻んだ。
「一人遊びですか。寂しいですね」
螺旋の槍を、怪物目掛けてねじ込む。手応えはあった。だが、荻埜はそれを気にした様子はない。体力も灼滅者のそれを大きく上回っているのだろう。リアナは刃を抜き、いったん間合いを取った。
「どう、して。こわすの? みんながんばってつくってるもの、こわしちゃ、だめ」
まひるが指差した場所に逆十字が現れ、デモノイドを切り裂こうとする。しかし、狙いが甘く、回避された。巨体に似合わず、動きも速い。
「どうして、だと? くだらいな。意味なんてない。意味のない破壊こそ、真の破壊だ」
問いを、荻埜は鼻で笑う。異形となった彼に、もはや人の尺度など通じまい。あるいは、元々そうだったのかもしれないが。これが答えとばかりに、剛剣を振り下ろす。命中の寸前、九十九が飛び出した。
「ん、ありがと」
「ナノ!」
「その、なんだ。やらせるわけにはいかないのでな」
主であり友達であるまひるを守ってくれた仲間に、シロはハートを飛ばして回復。ついでに羽をパタパタして応援。九十九はちょっと反応に困った。
「怪物注意、や」
アルルーナの交通標識が黄色に変化し、前衛を癒すとともに護りを与える。標識は、ディフォルメされたデモノイドの絵になっていた。本物は少し怖いが、これはあんまり怖くない。
「とりま死ね」
デモノイドの片腕が、砲口へと変化。再び狙いはまひる。放たれた光線は、しかし届くことはない。
「悪い、ちっと遅くなった」
誘導を終え、合流した翼が光線を受け止めていた。誰かを守るとい使命。背中の傷跡は、痛みよりをそれを自分に与える。
「真打ち登場や! 必殺、日々音ファイアー!」
高所から飛び降りた日々音は、落下の勢いとともに炎の回し蹴りを叩き込んだ。衝撃で足がびりびりするが、やせ我慢で顔には出さない。可愛いは最強、だから大丈夫……たぶん。
「まだいたのか。面倒な」
文字通り、心底面倒そうな溜め息。怪物になっても、人の仕草はそう忘れないらしい。
避難にかかったのは十分弱。ダメージもあるが、反撃はここからだ。
●反撃
役者は揃った。防御役が増えたことで攻撃が分散し、攻撃の機会も増えてきた。ここで九十九が退路を塞ごうと離れようとするが、ダークネス相手にそこまでの余裕はないだろう。
「……本当に面倒だ」
ずいぶん苛立たっているらしく、荻埜の口数は少ない。ロケット弾を放ちながらも、目玉らしき器官がぎょろりと動く。おそらく退路を探しているのだろう。
「アンタがここに来るんは知っとった。アンタは袋のネズミや。まぁ後ろにウチらの帰り道はあるけど……通すと思うか?」 それを見越して、文が言った。切り結びながら、視線が交錯する。ひとつに、情報をつかんでいると。ふたつに、自分達を倒さねば逃げることはできないと。そう思わせるのが目的だ。
それだけなら、荻埜は意に介さなかった。聞いてもいないのに勝手に出してきた情報を鵜呑みにするほど、人間できてはいない。子供のたわごとで済むはずだった。だが、
「あれ、逃げるんか? ビビって損したわ。灼滅者1人も壊せんなんてなぁ!」
とアルルーナ。内心ビクビクしているし、ビビったのは本当なのだが、頑張って顔には出さない。仲間を回復しながら、したり顔で言って見せた。
「慣らしにきて仕留められる気分はどうだ? 荻埜。お前の逃げ道が残されているとは思わん事だ」
バベルブレイカーを構え、引き金を引く。瞬間、九十九の体ごと急加速し、最短直線距離で杭が突き刺さった。さらに引き金を引けば、杭が伸長し、青い筋肉を打ち貫く。めりめりと、何かがちぎれる音がした。
「いい加減にしろぉ!!」
地を揺るがすような咆哮。異常を吹き飛ばし、怪物の傷を癒やす。だが、すべて癒しきれるはずもない。
「お前さん廃工場で練習してその程度なん?」
翼の腕が寄生体と同化し、異形の大剣と化す。刃には歯のような無数の凹凸があり、肉切りナイフに似ていた。洋鋸の要領で力ずくに押し切れば、青い血が音を上げて噴き出た。青い噴水だった。
「『どうせなら、もっと派手に暴れてやろうか』……やったっけ?」
からかうように笑う日々音。ちょこまか野良犬みたいに駆けまわって、その勢いで懐に飛び込んだ。さらに拳にオーラをまとって連打を叩き込む。
「倉庫で一人遊びじゃ満足できませんか。まあでも、よかったですね。壊し甲斐のある私達と会えて。……壊せれば、ですけど」
リアナの意に従い、細い帯は一筋の矢となって怪物を貫く。忌々しげな目玉を、不敵な笑みで見返す。まだ、油断はできない。だが、押し返しつつあるのも事実だ。
「っ……くそ、最後まで遊んでやる」
小さな舌打ちが聞こえた。それが本当に舌なら、だが、異口同音に言われ、腹にすえかねているようだ。いずれにせよ、逃げないなら好都合。
「わるいことはしちゃ、め」
紅蓮の大鎌が青い肉体に食い込み、命を吸い取る。大義ではない。ただ目の目で悪いことが行われようとしている。それだけで戦う理由には十分だ。まひるの幼い瞳には、純真な光が宿っている。
「あなたはとても、可哀想な人なんですね。他の手段もあったのに、壊し、ねじ伏せることを選んでしまった」
「……馬鹿が。俺の悪は嗜好そのものじゃない。その嗜好を制限しないことだ」
ラインの挑発を、あるいは憐憫を、荻埜は嘲笑した。そこに決定的な違いはないけれど、そうせずにはいられなかったようだ。
傷付きつつも、次第に灼滅者は荻埜を追い詰めていった。破壊者自身が破壊されるのも、長くはかからない。
●破壊者の業
青い血を全身から流す怪物。その姿は、ホラー映画に出そうなほどおぞましい。だが本当におぞましいのは、その異形すら従える悪意だろう。
「その力……いったいどうやって手に入れたのか。気になるので教えてくれません?」
非物質化した剣が音もなく魂を貫いた。リアナの問いに、答えは返らない。といっても、デモノイドロードも他のダークネスの闇堕ちと変わらない。だから答えなど持ち合わせていないだろうが。
「わりぃな、人を護るのがオレのタスクなんだわ。だからあんたは見逃せねぇ」
翼の体表に染み出た寄生体から、強酸の液体が噴き出す。溶かすのも溶かされるのも、同じ青き異形。皮肉ではあるが、必然でもある。決定的に、違うものがあるのだから。
「わたしにはあなたを戻すことはできませんけれど、止めることは、できます。きっとこんな小娘の言うことは、お嫌いでしょう。なら……」
「分かってるなら、その先は言うな」
大剣が、ラインの意識を切り飛ばす。サーヴァント使いでありながら、仲間をかばい、敵の注意を引くには限界があった。だが、よく耐えた。役割は充分に果たせた。
「必殺、日々音キャノン!」
全身を覆うオーラが両腕、さらに両手へ集中。日々音は炎のごとく揺らめくそれを、押し出すように撃ち放つ。
「物神奇譚、壊物之怨……アンタにピッタリ、や」
文が語る不思議は、意味もなく壊されたものが復讐するという内容。元は何だったのか分からない鉄屑が、どこからともなく荻埜に襲い掛かる。
「これでお終いです」
回復を担っていたアルルーナも、攻撃に転じる。できれば予測命中率は八割は欲しかったが、どれもそれには届かない。せめて命中率の高いものを選び、標識で殴りつける。
「ごめん、ここまで。こんどは、まひるたちがこわす、ばん」
逆十字が再び閃き、青い怪物を引き裂いた。それは肉体ごと精神を断つ。もはやまひるの言葉も届くまい。
「荻埜。その名は忘れん。だから、眠れ」
九十九の片腕が、異形の砲台と化す。ダークネスの力全てを使える荻埜のそれに比べれば、小さな一撃だ。だが、だからこそ意思では負けない。死の光線がデモノイドを貫き、それが最期となった。
息絶えた破壊者はボロボロと崩れ、やがて跡形もなく地面に溶けていく。犠牲者もなく、ビルも守ることができた。地面に刻まれた痕跡も重機であれば消せるだろう。破壊の悪は、ついに何もできぬまま潰えたのだった。
作者:灰紫黄 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年8月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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