クロムナイト連携テスト『焔・雷・嵐』

    作者:空白革命


     男は逃げ惑っていた。恐怖による逃走である。
     事件は友人たちと酒を飲んでいた時におきた。知り合いの店で集まっていたが、友人の一人がいつまでたっても現われない。
     しびれを切らして先に飲んでいたところ、ドアががしがしと叩かれた。
     遅刻したくせに随分と乱暴だ。そう言って扉をあけた店長が一瞬で消し炭になった。
     そのままの表現である。
     扉が開いた途端激しい炎があふれ、店長の身体がみるみる燃焼し、炭化して崩れたのである。一旦遅れて、ドアを破壊するほど大柄なバケモノが店内に入ってきた。
     悲鳴をあげ、男と友人は逃げ出した。
     友人は店員用の裏口を蹴り開け、外へ駆け出す。が、その瞬間に明後日の方向から飛んできた矢に射貫かれた。
     矢というより稲妻の塊である。それが意志をもったかのように友人をとりかこみ、四方八方から身体を貫いていくのだ。別のバケモノが弓を構えて狙っているのが見えた。
     まるで魚の群れに食いつぶされるような友人の有様に男はおびえすくみ、窓から転がり出る形で逃走した。
     だがそこに待っていたのは、三体目のバケモノだった。
     鎖をじゃらりと垂らし、身体につけたいくつかのパーツからジェット噴射を開始。
     半狂乱で逃げ出す男に一瞬で追いつき、そして全身をぐるぐると鎖で締め付け、そして切り裂いた。
     この三体のバケモノを、知っているだろうか?
     これらはクロムナイト。
     発展強化型三種。それがいっぺんに現われた状況である。
     

    「なるほど。相手もただ同じことばかり繰り返すわけじゃないってことか」
     大堂寺・勇飛(三千大千世界・d00263)は腕組みをして教室の一角に腰掛けていた。
     クロムナイト稼働実験が進んでいることは知っているだろうか。
     朱雀門のデモノイドロード、ロードクロムの作り出した強化型デモノイド。これを人里に放ち、あえて武蔵坂灼滅者と戦わせることで戦闘データを収集するというものだ。
     これまでこのスタイルを何度か続けてきたクロムナイトだが、今回少しかわった実験がなされている。
    「おっしゃるとおり。今回のテストはクロムナイト連携戦闘テストです」
     兵士としての性能は個体強度だけでは計れない。他の兵士とどれだけ連携できるか。親和性や互換性、安定性はあるか。などなど。
     今回クロムナイトに対して実験的に付与されたのが連携プレーの能力である。
    「その粗暴さから単体で運用されているデモノイドですが、強化改造の中で新たな可能性が発生したようです。今回のクロムナイトは連携能力を付与するために戦闘力が低下していますが、お互いに連携しながら行動するという強みは今までにないものと言えるでしょう」
     まだ実験段階ということでそれほど驚異的ではないが、もし『本気で』運用されれば、とてつもなく恐ろしいことになる。
    「今回も実戦データをできるだけ収集させないように、短期決戦で撃破しましょう。そのためには少々こちらも不利にならざるをえませんが……」
     
     エクスブレインの立てた作戦によるとクロムナイトが三体合流した状態になると短時間での撃破が非常に難しくなるそうだ。
     なので合流するまえに先回りし、三つにわけた少人数チームでクロムナイトを撃破しなければならない。
    「状況によっては難しい任務です。もし負けそうになるのであれば短期決戦を諦めて長期戦に移行してください。一般市民への被害だけは、さけなくてはなりませんから」


    参加者
    大堂寺・勇飛(三千大千世界・d00263)
    石弓・矧(狂刃・d00299)
    九曜・亜門(白夜の夢・d02806)
    山田・菜々(家出娘・d12340)
    鈴虫・伊万里(黒豹・d12923)
    玖律・千架(エトワールの謳・d14098)
    二重・牡丹(セーブルサイズ・d25269)
    天枷・雪(あの懐かしき日々は・d28053)

    ■リプレイ

    ●前略
     前置きなど語っている場合ではない。

    ●タイプ焔アサルトカスタム
     シャッター商店街を走る一台のライドキャリバー、龍星号。
     大堂寺・勇飛(三千大千世界・d00263)はアクセルをひねり、ギアを最大限にまで絞った。左右を警戒しながら、腕を獣化させる。
     途端、全身を炎に包んだクロムナイトがシャッターを破壊して飛び出してきた。
     緊急離脱。キャリバーから転がるように落ちると、クロムナイトの足に爪撃を繰り出す。
     一方でダメージを一人で肩代わりした龍星号はクラッシュ。激しく回転しながら空き店舗の建物に突っ込み、様々な廃材をなぎ倒してタイヤを空回りさせた。
    「挟み撃ちです。いいですね」
    「はい! 最初っから、本気で行きます!」
     アーケード型の天井を切り裂いて落ちてくる石弓・矧(狂刃・d00299)。
     反対側では建物の狭い隙間をすり抜けて鈴虫・伊万里(黒豹・d12923)が飛び出し、クロムナイトを前後から挟む。対するクロムナイトは両肩に機関銃をセットすると、踵からローラーを展開。その場で回転しながら火炎弾を乱射した。
     矧は即座にシールドを展開。三人の周囲に発生したシールドが弾を三割だけ弾いて、残り全てが彼らの身体にめり込んだ。ガソリンでも撒いたかのように激しい炎が燃え立ち、伊万里たちの身体がみるみる炎に包まれた。
    「仕掛けます!」
     伊万里は全身に巻き付けていた黒革のベルトを一斉に解除すると、それをクロムナイトへと投射。腕にぐるぐると巻き付ける。それでも止まらない回転に巻き込まれ、伊万里の身体は宙に浮いた。 振り回されまいと拉げたシャッターやアスベスト壁を走る伊万里。
    「併せてください!」
    「――応!」
     起き上がった勇飛が獣化した腕に更に畏力を乗せて突撃。腕を剣化したクロムナイトがカウンターの回転斬りを仕掛けてくるが、バンパーをベコベコにした龍星号が瓦礫の中から再度発進。片方だけしかつかないライトを最大限に輝かせ、クロムナイトの顔面へと激突した。
     バランスを崩すクロムナイト。
     そこへ勇飛の斬撃が叩き込まれ、剣化した腕を切断。
     スライディングで器用に身体をねじ込んだ矧が伊万里のベルトを掴んでクロムナイトの首へと巻き付ける。
     ボビンの要領で巻き取られた伊万里はしかし、回転を自分に集めて膝蹴りを叩き込んだ。頭部に直撃。こまのように回転しながら自転車屋の店内へと突っ込んでいくクロムナイト。
     矧はぱしぱしと手をはたきながら体勢を直すと、眼鏡を親指の付け根で眼鏡を尚した。不敵に、そしてうっすらと笑う。
    「『やったか』とは言いません。これで終わりではないんでしょう?」
     からん、とさびた車輪が落ち、蛇行して転がっていく。道路の中央で減速し、倒れた。
     静寂。
     約コンマ七秒。
     自転車屋を中心に隣三棟が爆発し、灰と塵となって消し飛んでいく。
     ――その中を、矧は『まっすぐ』に突っ込んでいった。
     鋭く円錐状に変形したシールドを前方に翳し、懐から小太刀を抜刀。
    「一度見た手が、通じますか!」
     小太刀を逆手に突撃し、心臓部を正確に突いた。
     奇妙な悲鳴をあげるクロムナイト。矧の顔面を掴み、無理矢理に握りつぶさんばかりに圧迫すると、強烈な圧力で蹴り飛ばした。
     吹き飛ばされ、むき出しの鉄骨に激突してあり得ない角度にへし折れる。
     そこへ、飛勇と伊万里が更に突撃。
    「せめて祈ろう。汝の魂と未来に幸いあれ……!」
     エネルギーをブースト。
     伊万里とアイコンタクトをとって同時に跳躍すると、炎を纏った蹴りを後頭部に叩き込む。
     同時に、伊万里は雷を纏った拳を顔面に叩き込んだ。
     人間の頭蓋骨が潰れる音など聞いたことも無いが。確実にもっと硬くておぞましいものが潰れた音が、二人の間で響いた。
     次の瞬間、クロムナイトを中心に爆発。
     飛勇と伊万里は吹き飛ばされ、炭だらけの地面を転がった。
     全身血まみれ煤まみれの身体を起こし、伊万里は自分の利き腕を強く握った。
    「……よかった」

    ●タイプ雷・サプレッションカスタム
     森林地帯を駆け抜ける九曜・亜門(白夜の夢・d02806)。
    「この身はただ威を狩る者である」
     白面を被り、身体を反転。
     エネルギーの矢が流星のような軌跡を描いて自分を追尾していた。その数なんと八十八本。
    「ハクよ、あわせるぞ」
     亜門は大量の護符を天空に放つと、その一つを霊犬ハクがくわえて跳躍。矢の数十本をまとめて霊力刀で切り払う。途端、残りの矢が拡散。一本につき十本近くのごく細かい矢へと変化し、ハクの身に降り注いだ。
     耐久限界を超えて消失するハク。だがそれが最大の好機であり隙である。亜門は大量の矢とハクが消失したエリアを突っ切るように、護符のいくつかを掴んで空中に符陣を形成。
    「清浄なる風に依りて、諸々の穢れを祓い給え」
     護符がそれぞれ真空の刃になって発射。
     木々の間を走っていたクロムナイトの腕や肩を次々を掠っていく。
     しまいには眼球と思しき部分に直撃。
     短い悲鳴をあげたクロムナイトは巨大な矢を形成すると、亜門めがけて構えた。
     発射。が、そこへ割り込んだ二重・菊が自らの身体で矢を停止させた。立て続けに飛来する矢が湾曲した軌道を描き、幾多の方向から突き刺さっていく。
     とてつもない破壊力だ。だがそれだけに一点集中した時のオーバーキルが隙になる。
     二重・牡丹(セーブルサイズ・d25269)は樹幹の裏から飛び出すと、影業を腕に纏わせ鎌のように変形。クロムナイトの背中に十字斬撃を繰り出した。
     またも短い悲鳴をあげるクロムナイト。
    「誰も、生かして返さんよ」
     流れるように直接鎌化した右腕をクロムナイトの背中にねじ込む。貫通し、固定。
     がっちりと掴む形になった牡丹。対するクロムナイトは切り裂かれた傷口から強酸液を爆発させ、牡丹の腕ごと焼き切った。
    「――ッ!」
    「因果は巡りて応報するものと心得よ」
     切り離された牡丹とクロムナイト。その横にいつの間にか急接近した亜門と菊が同時に剣を繰り出し、クロムナイトの首をハサミのように切り取った。
     宙を舞い、くるくると回ってから、クロムナイトの首は地面に落ちた。
     膝を突き、うつ伏せに倒れる身体。
     亜門は嘆息し、死体を見下ろした。
    「とりあえずは何とかなったか」

    ●タイプ嵐・チャージカスタム
     銃が恐ろしいのは、その弾があまりに早くそして広範囲に届くからである。
     剣が恐ろしいのは、その切断能力があまりに高くそして圧力が強いからである。
     故に銃の速度と威力で剣が迫ってきた場合、できることは少ない。
    「うっ、うわうわうわ――任せたです犬ゥ~!」
     栄養食もとい霊犬が残像が見えるほどの速度で吹き飛ばされていく中、玖律・千架(エトワールの謳・d14098)は涙目になって回避した。
    「星になった!? 栄養食が三分とたたずに星になったですか!? やべえ、コイツまじやべえですよ!」
     うわあーと言いながら影業の音符を乱射しながら逃げる千架。
     一方のクロムナイトは遠くかなたで直角にカーブ、更に直角カーブ、カーブカーブカーブときて斜め上から千架へ突撃してきた。
    「ひい!」
     頭を両手で覆った千架――へ剣を突き刺そうとするクロムナイト――の側面に躍り出た山田・菜々(家出娘・d12340)。
    「とらえたっす!」
     異形化した腕によるワンインチパンチが炸裂。
     クロムナイトは軌道を強制的にズラされ地面に激突。コンクリートの地面を強烈にえぐると、バウンドして宙で回転した。
     菜々は目を光らせ、エネルギージェットによって空中突撃。クロムナイトを遠くへと蹴り飛ばした。
    「っし! おいらが足止めするっすよ! 威力重視でいくっす!」
     腕をぐるぐる回す菜々。
     一方蹴り飛ばされて地面を数度バウンドしたクロムナイトは腕をコンクリート面を爪でひっかきつつブレーキ――をかけている途中に天枷・雪(あの懐かしき日々は・d28053)が反対側から接触。
     ロッドを突きつけると、レバーを握り込んだ。
    「貫け」
     螺旋のエネルギーが発射。クロムナイトの身体を貫き、紙コップが通るほどの穴を開けた。
     雪は素早く再装填。顔面めがけて弾を撃ち込み、クロムナイトの頭部を爆発させた。
     飛び散る破片。吹き上がる緑色の血。
     そして繰り出される超高速の蹴り。
     ジェットブーストした蹴りは雪の頭部を着実に狙ったものだ。
     が、そこへ。
    「そこだー栄養食ぅー!」
     千架が豪快サイドスローで投擲した栄養食もとい白い霊犬がクロムナイトの膝に激突。霊犬がゆがんじゃいけないかたちにゆがんで消失した代わりに、雪はその場から緊急離脱。
     一方のクロムナイトもまた、頭部をめきめきと再生させた。
    「お互い、随分と人間を辞めたものね」
    「回復されきったら長丁場になるっす。畳みかけるっすよ!」
    「ハイサイ!」
     千架は適当に返事すると、指鉄砲からエネルギー弾を乱射。
     ジグザグ軌道で回避するクロムナイトに対し、雪も靴やロッドのエネルギーをブーストして高速起動を開始。
     現場の至る所で青と銀の光線が折れ曲がっては激突し、公差してはねじれていく。
     そこへ加わるべく菜々もダッシュ。加速に加速に更に加速を加えると、ジェットダッシュ中のクロムナイトと同じ速度で併走した。
    「動きを――止めるっす!」
     引っこ抜いてきた道路標識をぶん回し、腹に叩き付ける。
     一瞬だけだが強制ブレーキをかけられたクロムナイト。とどめとばかりに飛びかかった雪――の胸を剣が貫いた。鉄パイプの三倍は太い剣が心臓部を貫通したのだ。人間であれば即死している。
    「雪さん!?」
     顔を引きつらせる千架。
     が、雪は震える手で自らの首に即効注射器を突き刺した。
    「『制御術式一時解除承認――OVERLOAD』」
     人外の声で鳴くと、雪は腕全体を結晶化。クロムナイトの心臓部にねじ込み、貫通させた。
     歯を食いしばって飛びかかる千架。大きな影業の四分体符を握りしめると、思い切ってクロムナイトの腕を切断。ぐったりした雪を解放する。
     ここは引き受けたとばかりに腕を再び異形化させる菜々。
    「これで、終わりっす!」
     巨大な腕で殴りつける。直撃をくらったクロムナイトは地面を幾度も跳ね、そしてコンクリート壁を突き破って海へと落下した。
     一拍おいて、爆発。
     吹き上がる水柱を見上げ、菜々は小さく息をついたのだった。

    ●驚異の種
     約十分後、被害現場となる筈だった小さなバーの前に仲間たちは集まっていた。
     殆どのメンバーがボロボロだったが、幸い命を落とした者は居ない。
    「……」
     クロムナイトの応用が始まっている。
     ただ頭が悪いだけのケダモノだったデモノイドが連携行動をとろうとしている。
     他にもダークネスのボディーガードとして運用された例も報告されているらしく、クロムナイトをめぐる騒動は予想外の発展を見せていた。
     眠るように座った雪を支え、菜々は呟いた。
    「このままだと、ただやっつけるだけの事件じゃ済まなくなりそうっすね」
    「そいつは重畳……」
     皮肉か強気か、それとも虚勢か。飛勇は瞑目して言う。
     後ろでは矧が静かに寝かされている。
     千架は傷だらけの彼らを手当するので手一杯だ。
    「なんだか、今後も長く後を引きそうな案件です」
    「遠くない未来に実運用に持ち込むだろうからな」
    「大変なことになりそうたい」
     腕組みする亜門。腕を包帯だらけにした牡丹は疲れ切った顔でうつむいた。
    「今回は『わざわざ』クロムナイトを離して起動していました。これが同じ地点からの起動だった場合……はたして短期決戦なんてことができたかどうか」
     伊万里は自分の身体を抱くようにして唸った。薄めを開ける矧。
    「バランスのとれた敵戦力。これほど恐ろしいものは、ありませんよ」

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ