ショーユトゥーユー

    作者:邦見健吾

    「わー、これおいしー!」
    「ホントだね。来てよかった」
     評判のカフェレストランでイタリアンを楽しむ2人の女性。そこに、小さな影が忍び寄る。
    「コンニチハデース!」
    「あ、こんにちは」
    「かわいい!」
     2人の背後から現れたのは、金髪にツインテールの小さな女の子。その愛らしさに女性達の顔がほころぶ。
    「日本人なら醤油デース!」
    「キャー!」
     しかし女の子はどこからともなく醤油のボトルを取り出し、容赦なく料理にダバダバとぶっかけたのであった。

    「どんな食べ物にも勝手に醤油をかける女の子の噂を耳にしました」
     穏やかな笑みとともに、聞いた噂を報告するヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)。ついでに女の子は金髪でツインテールらしい。
    「都市伝説は次回、とある街のカフェレストランに現れます。そこで撃破してください」
     冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)によると、都市伝説は見境なく醤油をかけてくるので、食事していればもれなく出現するそうだ。他の客を巻き込まないためには、あらかじめ人払いするか、人の少ない開店直後に入ればいい。
    「女の子は醤油のボトルを手に持ち、醤油を武器にして戦います」
     具体的には、醤油を水鉄砲のように飛ばしたり、醤油をシャワーにして浴びせたり、醤油を剣にしたりと何でもござれ。醤油を飲んで体力を回復することもできる。
    「また、醤油に対して文句を言った人を積極的に攻撃してくる傾向があります。注意しておいてください」
     しかしその性質を利用すれば、戦いを有利に進めることもできるだろう。どうするかは灼滅者次第だ。
    「確かに醤油は日本の食には欠かせない、大事な調味料ではありますが、物事には限度があります。この都市伝説はただ迷惑なだけなので、倒してきてください」
     蕗子はそう淡々と説明を終え、湯呑に手を伸ばした。


    参加者
    花房・このと(パステルシュガー・d01009)
    ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)
    城橋・予記(お茶と神社愛好中学生・d05478)
    笙野・響(青闇薄刃・d05985)
    桐ヶ谷・十重(赤い本・d13274)
    篠宮・一花(妄想力は正義・d16826)
    柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)
    倉留・聖奈(殻ノ化物・d34074)

    ■リプレイ

    ●ショーユダイスキー
     灼滅者達は営業開始直後にカフェレストランに到着し、都市伝説をおびき出すためそれぞれメニューを注文する。
    (「食堂でソースを使おうとしたら容器の中身が醤油だった……なんて事が以前ありましたが、あれって微妙に悔しいですよね」)
     ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)はエッグベネディクトを注文。当然醤油はかけない。
    (「もしかしてアレは都市伝説のせいだったのでしょうか? まったく、食べ物を粗末にするような都市伝説にはお仕置きしなくては、ですね」)
     自分の失敗を都市伝説に責任転嫁するヴァン。なお都市伝説は醤油をぶっかけてくるが、ソースを醤油にすり替えたりはしてこない。
    (「お醤油は日本人の心だと思うけどねぇ……さすがになんでもって訳には」)
     柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)はボロネーゼスパゲッティと紅茶をオーダーし、店員が下がったのを確認して殺界形成を発動する。ボロネーゼなら隠し味として醤油を使うこともできそうだが、さすがに紅茶には無理だろう。
    (「お醤油とわさびと七味があればたいていの食べ物はだいじょうぶっていうくらいに、わたしはお醤油好きだけど、味の好みは人それぞれだよね」)
     生クリームを詰めた菓子パンを頼み、笙野・響(青闇薄刃・d05985)は上品にナイフとフォークでいただく。
    「ま、それが解るくらいなら都市伝説になんてならないかなー?」
    「日本人なら醤油デース!」
     そこに金髪ツインテールの女の子が登場。容赦なく醤油をぶっかけた。
    「あら、ありがと。お礼に半分と言わず全部あげるわ」
    「アリガトウゴザイマース!」
     だが響は動じず、フォークで刺して女の子に差し出す。すると女の子は大きな口を開け、嬉々として頬張った。
    「おいしいデース! 醤油最高デース!」
    (「いやぁ……一花も醤油は好きだし、よく使うけど、何でもかんでもはちょっと……やっぱ合う合わないはあるっていうか。……っていうか、なんでこの手ので外人風なんだろ?」)
     醤油で浸された菓子パンを喜んで食べる様子を見て、思わず閉口する篠宮・一花(妄想力は正義・d16826)。都市伝説の姿は気になるが、どういう噂が元になっているのか詳しく聞いてみたいところである。
    「こんにちは、都市伝説さん……お醤油、好き……なの?」
    「もちろんデース!」
     倉留・聖奈(殻ノ化物・d34074)が尋ねると、女の子は返答とともに聖奈のオムライスに醤油をぶっかける。
    (「醤油は……よき、調味料。でも、塩分の、とりすぎは……身体に、毒……。だけど」)
     せっかく頼んだオムライスを醤油浸しにされるが、聖奈はESPでおいしくして食べ続ける。大丈夫、灼滅者なら塩分摂り過ぎても死なないよ。
    「ねぇ、お醤油にも甘さや濃さの違いがあるって聞くけど、そうなの? 君のオススメは?」
    「醤油は濃口や薄口以外にもいろいろありマスが、全部おいしいデース! 甘口というのはデスね……」
     城橋・予記(お茶と神社愛好中学生・d05478)が聞いてみると、女の子は元気に答えた。
    「……でも実はボク、醤油より塩やケチャップが好きなんだよね」
    「なんデスト!? そんなの許されないデース!」
     だが予記が挑発に、女の子は目を見開いて驚きと怒りを露わにする。
    「醤油がお好きなのですね。ではお近づきの印に此方は如何でしょう?」
    「コレ醤油じゃないデース! バカにしてるデスか!?」
     ヴァンが中身をソースに入れ替えた醤油のボトルを差し出すが、女の子は一目で見抜き、反射的にはたき落す。女の子の怒りの火に油が注がれ、これが戦いの始まりの合図となった。

    ●ショーユオイシー
    「醤油のおいしさ、とくと味わうがいいデース!」
    「さすがにソースと醤油の差くらい気づけるんだねー」
     女の子の手にしたボトルから醤油が吹き出し、水鉄砲のように迸る。一花は醤油を浴びて真っ黒になるが、纏うオーラの力を転じさせて浄化する。感心するような呆れるような口調でぼやくと、ライドキャリバーの黒蹄號が突撃した。
    「人様に強要するのは良くないことだと思います。迷惑行為は直ちに止めてもらいましょう!」
     花房・このと(パステルシュガー・d01009)も醤油は日本料理には欠かせない調味料だというのは認めるが、何事もほどほどが肝心だ。魔力を秘めた杖を向けると、稲光が女の子を貫いた。
    (「桐ヶ谷もどちらかと言えば醤油派ですが……それにしたって限度があると思う次第ですよ」)
     桐ヶ谷・十重(赤い本・d13274)は黄色に変化した交通標識を掲げ、光で照らして仲間に異状への耐性を与える。標識の文字は塩分注意。現代の日本人は塩分の摂り過ぎになりやすいので、気を付けなければならない。
    「いたいとおもう、けど……ごめんね」
     小さな女の子を相手に、聖奈は躊躇いがちに指輪を向ける。申し訳なさそうに目を伏せ、呪縛を込めた魔弾を撃ち出した。
    「結局、あなたはどんなお醤油にこだわりがあるの? 濃口? 薄口? 溜り? 白? ちょっと捻って魚醤とか?」
    「私は全ての醤油を愛しマース!」
     響は背後に忍び寄り、小刀で斬るついでに聞いてみるが、どうやら特に好きな種類はないらしい。その分醤油以外はお断りのようだが。
    「お醤油まみれ? そんなの高血圧の元ではないですか。将来を見越した味付けが出来ないとかどうかと思いますよ」
    「醤油はジャスティスデース!」
     十重は攻撃を引きつけようと、醤油を非難。女の子はその思惑に乗せられ、ボトルから勢いよく飛び出す醤油をカッターにして切りつけた。
    「日本人なら醤油ってのはわからないでもないんだけどね。でも、日本料理じゃないものにまで醤油をかけるのはただの迷惑だよ? 隠し味にとどめるべきじゃない?」
    「うるさいデース」
     至極真っ当な呼びかけをする玲奈だが、女の子は聞く耳を持たない。当然倒すしかなく、自身を包む帯を撃ち出し、敵の動きを学習させる。
    「ふふん、調味料とちょこっと外れるかもだけど、この食べるラー油がすごいんだっ!ほら、醤油ばっかじゃなくて食べてみなよー」
    「醤油以外に興味はアリマセン」
    「あっ!?」
     一花は具入りラー油の瓶を取り出すが、女の子はすかさず醤油鉄砲で瓶を粉砕。
    「目が!? 目がー!?」
     結果目にラー油が飛び散り、一花が悶え苦しんだのであった。……あまり辛くないものを選んだのは正解だったかもしれない。
    「そんなに醤油がお好きでしたら此方もどうぞ」
    「苦しゅうないデース」
     嫌がらせに頭から醤油をダバダバかけるヴァン。だが女の子は綺麗な金髪が汚れるのも気にせず、ご満悦といった表情で醤油を浴びた。

    ●ショーユスバラシー
    「喉乾いたデース」
     女の子はそう呟くと手に持つボトルに口を付け、豪快に醤油を飲み始める。
    「ぷはーっ、やっぱり醤油はおいしいデース!」
    「それ、回復にならないからね!?」
     風呂上りの牛乳のように1リットルのボトルを一気飲みし、満面の笑みを浮かべる女の子。響は至近距離から斬撃を繰り出しながら、思わずツッコんだ。
    「これ程度問題だと思いますよ! お醤油一気のみとかほんとどうかと思います塩分摂取は正しく! 過ぎたるは及ばざるが如し……!」
     十重もその光景を見せつけられ、驚愕に震える。醤油の塩分を考えると寒気すら覚えた。
    (「焦げた焼おにぎりとか想像するとお腹が鳴っちゃいそうだけど……単品でしかも飲用推しはいただけないや)
     予記は都市伝説の女の子の行動に少し引きつつも、エアシューズを駆って接近。ローラーに炎熱を纏わせて蹴り上げると、焦げた醤油の匂いが漂い、食欲を刺激されて本当にお腹が鳴った。
    「……」
    「醤油は偉大デスネー!」
    「違う、ボクじゃないんだ! 醤油の匂いなんて気にして……あっ」
     予記は恥ずかしがって顔を背けるが、女の子にはバレバレ。否定しようとして、逆に自分で言ってしまった。女の子が醤油のシャワーを振りまき、ナノナノの優嬉はそんな彼の心を癒すべく(?)、小さなハートを飛ばした。
    「ナノ、ナノ!」
     このとのナノナノ、ノノさんはノノさんなりに挑発しながらしゃぼん玉を放つ。だがしゃぼん玉は届いたものの、ナノしか言えないので何と言っているかは通じなかっただろう。
    「お醤油なんて、お料理さしすせそに古語で割り込んでいるくせに……!」
     十重はよく分からない言い分で醤油をけなしながら、短く助走を付けて跳躍。星のように流れ落ち、流星の瞬きとともに飛び蹴りを見舞った。
    「一気飲みして大丈夫ですか? 苦しくありませんか?」
    「口では気遣うふりしてなんてことを……!」
    「醤油おいしいデース!」
     ヴァンは浄化の風を吹かせて仲間をサポートしつつ、女の子が醤油を飲むタイミングを見計らって、多量の鷹の爪をボトルの中へ。一花は笑顔で行われたさりげなく残酷な行為に驚くが、女の子はお構いなしに醤油を飲み干した。
    「うーん……子どもの姿している相手とはやりにくいなぁ。でもまぁ、ご飯を美味しく食べる為には倒すとしましょうか!」
     玲奈は女の子を撃破することに意識を集中させ、黒い刃を霊体へと変える。実体を失った刀身は肉体を傷つけることなく女の子を深々と貫いた。
    「他人に……無理矢理、押し付ける……のは、よくない」
     指輪の呪縛により、女の子の体の一部が石となっていく。聖奈は彼女を傷つけたくはなかったが、相手が噂に従って動く都市伝説である以上、こうする他ない。このとは体に巻き付いた帯をほどき、意思持つ帯を矢に変えて放つ。
    (「金髪ツインテなのにツンデレじゃないのね? お醤油関係ないけど」)
     それぞれが真面目に戦う中、響はふとどうでもいいことを疑問に思うのだった。

    ●ショーユサイコー
    「そんな! 醤油を飲んでも勝てないナンテ!」
    「醤油だけに、そぉい! なんてねっ」
     追い詰められた女の子に、灼滅者達は次々に攻撃を浴びせる。響はロッドを突き出し、同時に魔力を注ぎ込んで更なるダメージを与えた。
    「もうこんなことしたらダメですよ」
     このとは赤に変化した交通標識を正面からぶつけ、女の子の動きを止める。玲奈も真っ直ぐに駆け、螺旋描く槍で貫いた。
    「くっくっく、そう、我こそは蒼刃の魔王! 愚かなる存在よ、畏れかしずくがいい!」
     女の子やヴァンに翻弄された一花だったが、やっと本来の自分(?)を思い出し、手甲による打撃とともに霊力の網を放つ。ヴァンも攻撃に転じ、黒白の帯を矢に変えて撃ち出した。
    「そんなにお醤油が好きなら、正しく使って正しく広めなさいな」
     十重はそうたしなめるように言い、エアシューズで疾走。炎を帯びたローラーを打ちつけた。予記は青いボディのギターをかき鳴らし、軽快なサウンドを響かせる。緩急をつけたサウンドが、女の子を襲った。
    「……」
    「醤油、バンザ……イ……」
     聖奈は自身を包むオーラを両拳に集め、砲弾に変えて撃ち出す。力尽き倒れた女の子は輪郭を失っていくが、見届けることしかできないからと、聖奈はモノクル越しの瞳を逸らすことはなかった。
    「……これ、後片付けとかした方がいいのかなぁ。食い逃げする訳にもいかないし……うん、お店の人にちゃんと謝ろう」
     残されたのは滅茶苦茶になった内装。この後のことを想像して冷や汗をかき、玲奈が肩を落としたのであった。

    「お疲れ様でした。お怪我の具合は如何でしょう?」
     何事もなかったかのように、爽やかに尋ねるヴァン。灼滅者達は無事だったのだが、思えば、一番食べ物を粗末にしていたのは彼だろう。
    「今きれいにしますね」
     このとがESPクリーニングを使い、醤油まみれになった仲間達を清潔な状態へ。ちなみに店の人に謝ったものの、店の奥から戦いを見ていたらしく怒られることはなかった。が、物を食べられる状態ではないので今度は別のお店へ行くことに。
    「醤油みるの……しばらく、無理そう……かも」
     新しく頼んだ料理を前に、聖奈が呟く。それは醤油のインパクトが強過ぎたからか、はたまた別に理由か。
    「さっきのお店、また行ってみようかな」
     先ほどの店と同じメニューがなかったので、響はパンケーキを注文。添えられた生クリームとともに食べるが、少し不完全燃焼な感じである。
    「確かに、醤油はソウルフードだと思うんだよね。ごちそうさま」
     醤油を使った和風のパスタを平らげ、笑顔でそっと手を合わせる予記。やはり日本食にとって醤油は大事なもの。醤油のない食生活なんて、想像したくないものだ。

    作者:邦見健吾 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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