ポケットティッシュは魅惑の罠

    作者:夕狩こあら

     路上でポケットティッシュが配られる光景は誰しも一度は目にした事があるだろうが、手元に行きがちな視線を己に強烈に惹き付ける淫魔が、実は――とある駅前に出没する。
    「手揉みマッサージ、無料体験中です♪」
     彼女より迸る蠱惑的なフェロモンは、寧ろ『ティッシュは願い出て貰うもの』のような雰囲気を醸し出し、行列ができるほど。
     それ故にか彼女は釣れた人々を品定めし、好みの相手を見つけた途端、魅力を最大限に引き出して誘惑する。
     勿論、漲るフェロモンの最大出力に耐えうる者などなく、
    「あら、鼻血が」
     興奮した相手にティッシュを差し出す手際も良い。
    「大丈夫ですか? お身体が優れませんの?」
    「鼻血が……止まらない……」
    「まぁ大変。私の店で良ければ、お休みになって」
     彼女はそう言って優しく手を取ると、本日の獲物を連れて雑踏に紛れた――。
     
    「春虎の兄貴! 大変ッス!」
    「まさか……」
    「そのまさかッス!」
     日下部・ノビル(三下エクスブレイン・dn0220)が己の元へ駆け寄るのを捉えた紅月・春虎(翼侯・d32299)は、その表情を見て僅かにたじろいだ。
    「とある駅前でティッシュを配りながら誘惑をしてくる淫魔を確認したんス」
    「駅前ですか……」
     春虎が唸るのも仕方ない。
     人通りが多い場所で堂々と狩りをしている淫魔と接触するには、それなりの工夫が必要になるだろう。一般人を魔の手から守り、また戦闘に巻き込まぬ為には、やはり誰かが囮となって彼女と接触し、場を移して戦闘するのが得策だ。
    「幸いにして駅前には潜伏場所が色々あるッス。コーヒーショップで接触の様子を伺い見るも良し、或いは兄貴らもティッシュ配りに扮して雑踏に紛れるも良し!」
     戦場についても考える必要がある。淫魔は個人経営のマッサージ店に誘ってくるので、道中で戦うか、店内で戦うかは自由だ。
    「淫魔はサウンドソルジャーに類する攻撃技と、手持ちのポケットティッシュを投げつける……ちょうど兄貴らの手裏剣甲のように使ってくる事が分かってるッス」
     戦闘時のポジションはキャスター。これは何処で戦おうと変わらない。
     気を付ける点はまだある、とノビルは更に身を乗り出した。
    「奴は戦闘中も誘惑の言葉を掛け、兄貴らを【催眠】か【恥ずかしい】状態にさせて来るかもしれないんス」
     そうなっては連携が分断され、よりレベルの高い敵側に戦闘の主導権を握られてしまうので、回復は万全にしておきたい。
    「戦闘は血を……いや、鼻血が流れるのも覚悟ッスよ!」
     ある意味激闘になりそうだと、春虎は覚悟を決めた。
    「人通りの多い駅前を狩場にされちゃ堪らないッス! ここはガツンと灼滅して来て欲しいッス!」
    「行ってきます」
     凛然たる顔貌で教室を去る春虎に、ノビルはビシッと敬礼を捧げた。
    「ご武運を!」


    参加者
    天鈴・ウルスラ(星に願いを・d00165)
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)
    冴凪・勇騎(僕等の中・d05694)
    小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)
    セシル・レイナード(レッキングガール・d24556)
    鴻上・廉也(高校生ダンピール・d29780)
    パンドラ・スノウエッジ(放浪の白雪・d32850)

    ■リプレイ


     とある繁華街に繋がる駅前の大通りは、電車の発着に関らず人の往来が激しい。
     スクランブル交差点の信号が色を切り替える度、歩道に叢を成した人々が黒々と動く様は、高み――駅ビル2階のカフェからは、生き物の様にも見えるだろう。
     パンドラ・スノウエッジ(放浪の白雪・d32850)は、注文したドリンクを窓際のテーブルに置きながら、眼下に広がる草々とした景色に異様な列を見つけて注視した。
    「ポケットティッシュは駅前で良く配られてるけれど……願い出て貰うような雰囲気にするなんてね……ある意味淫魔って凄いわ」
     駅前全体を見渡せる此処からは、行列の先――今回の標的である淫魔ハナヲの挙動がよく見える。
    「ったく、男ってのはほんとデカい胸大好きだよな」
     吐き捨てるように言って卓に並んだのはセシル・レイナード(レッキングガール・d24556)。
     鼻の下を伸ばして列を成す男達を伏し目がちに捉えた彼女は、頬杖をついたままストローを咥え、
    「別にいーけど。……別にいーけど!」
     2回も言った。トレイに勢い良く置かれた飲料が、涼しい氷の音を立てる。
     角度を変えた別の場所――、古めかしい喫茶店の窓際に座る小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)も見張り役の一人。
    「色に弱いは人の性とはいうけど、淫魔の獲物にはさせられへんな」
     持ち上げたカップに言を隠した彼女は、硝子越しに炯眼を注いで行列を見守る。
     居並ぶ人々の中に囮として紛れた仲間を捉え、戒心を巡らせる彼女の耳に聞こえたのは、華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)の可愛らしい声。
    「あ、すいませーん、カフェオレお代わりお願いしまーす」
     この店の味が気に入ったか、追加のオーダーに手を挙げている。
    「それとレアチーズケーキと林檎のタルトとスコーンセットもください」
     その身体の何処に……と思ったのは小町だけではないだろう。やや吃驚して注文を受けた店員が厨房に隠れれば、彼女は小さく、
    「これで見張りが続けられます」
     と窓向こうの雑踏に流し目を注いだ。

     普段通りの行列に、殊更目を惹く美形が、しかも二人も揃っているとは気付いていたハナヲも、彼等の方から声を掛けてくるとは思ってもなかったろう。
    「悪いがそれをくれないか」
     射抜くような鋭眼が野生的な魅力を醸し出す鴻上・廉也(高校生ダンピール・d29780)に胸を擽られた瞬刻、
    「まぁ、大変!」
     傍らの冴凪・勇騎(僕等の中・d05694)は、涼やかな色気を感じさせる藍の瞳を不調に伏せ――整った鼻筋を覆う手は鮮血に染まっている。
    「暑さにやられたか……鼻血が止まらなくて……」
     気怠げに言うものの、実は腕を疵付けて出した偽の血。只この暑さでは、彼の細工より熱中症を疑う方が早く、ハナヲは過る下心もあってか直ぐ様ティッシュを差し出して言った。
    「私のお店で暫くお休みになって」
     蠱惑的に語尾を上げる彼女の声を耳に、両者は陰乍ら目を合わせる。
     淫魔の馨香が迸る前に接触できた事は幸いだった。万一にもその残り香に人々を巻き込む懸念を払拭した彼等は、
    「助かる。俺も付き添おう」
    「此方ですわ」
     残念がる群集を掻き分け、ハナヲに導かれるまま喧騒に消えた――。

    「接触を確認。尾行開始デース」
     街角のオープンテラスから逸早く身を乗り出したのは、怪しい外国人口調を文庫本の頁に隠した天鈴・ウルスラ(星に願いを・d00165)。
     事前に店を割り出していた彼女は道も明るく、囮役に先行する形で路地を滑る。
     途中で携帯端末を取り出したのは、一同の合流点――淫魔が個人経営するマッサージ店に潜伏した鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)に連絡を取る為だ。
    「間取りは大体掴めたよー」
     施錠された中には入れなかったものの、主の不在中に外観を巡った事で、裏口や内部構造を把握した彼女は、死角に潜んで刻を待つ。
    「何故わざわざティッシュ配り……普通に店に連れ込むのじゃいけないのかな?
     淫魔の回りくどさは相変わらずよく判んないにゃー」
     機知に優れた行動ながら、言は年相応に愛らしい。
     彼女を隠した店に淫魔が現れた時には、得られた情報は全て仲間に共有されていた。


    「さぁ、この上で横になって」
     ハナヲが施術用のベッドに腰掛けた勇騎にそう声を掛けて給湯室へ向かうと、その奥に裏口があると知らされていた廉也は、氷枕を作るという彼女を手伝いに後を追う。
    「折角の厚意だ。ゆっくり休め」
    「あぁ、悪いな」
     去り際に残した彼の科白に頷いた勇騎はというと、音もなく身を起こして店内を探り始め、その詳細は手の端末より外に待機する仲間に伝えられる。
     聴力を研ぎ澄ませたのは、ハナヲと二人きりになった廉也が突入の合図を下す――その音を聞く為だ。
    「いつも駅前でティッシュ配りをしているのか?」
    「私の事が気になって? 嬉しい♪」
     廉也の言葉は巧妙で、
    「いや、あの人気なら、固定ファンなどがいてもおかしくないと思ったのでな」
     他愛ない世間話にも、気があるような科白で相手を釣れば、彼を見つめる視線は愈々熱く、周囲への警戒を薄れさせる。
    「貴方もなってくれる? 勿論、ファンでなく――愛の僕に」
     放たれたフェロモンは凄まじく、心亡き骸さえ従えてしまいそうな程。
     淫靡な嫣然を湛えたハナヲは、甘えるように撓垂れると、彼を抱こうと腕を伸ばす。
     然しその胸に触れたのは、男の体温ではなく――紅き逆十字の痛烈なる斬撃。
    「客は慎重に選ぶべきだったね、淫魔さん」
    「キャアッ!」
     扉の鍵が回る音を聞き逃したハナヲは、裏口より突入すると同時、ギルティクロスを見舞って現れた珠音に突き飛ばされる。
     香り立つ店内が一気に重苦しい戦場へと沈んだのは、続く紅緋がサウンドシャッターを、小町が殺界形成を展開したからだ。
    「華宮・紅緋、これより灼滅を開始します」
    「さぁ、断罪のお時間やでぇ!」
     殲術道具を開放して迫る彼女らに緊張を走らせるも一瞬、
    「正面は塞がせて貰ったでゴザル」
    「淫魔の野郎を逃す筈ねぇだろ?」
     玄関側からウルスラがグラインドファイアを、併せてセシルがレイザースラストを差し入れて押し戻せば、退路を断たれたハナヲは最早逃れられぬ。
    「今日で狩りはお仕舞い……今度は狩られる番よ」
     間断を許さずパンドラが破邪の聖剣を翻せば、その閃光に後退した敵は、
    「……く、ッ! 罠……!」
     前後を挟まれた劣勢に麗顔を歪めた。
     見れば囮役の二人も戦闘態勢を整え、
    「大丈夫か?」
    「……血が煮え滾る処だった」
     勇騎が回復を施せば、誘惑を受けた廉也もイエローサインで耐性を高めて包囲網に加わり、獲物を逃した口惜しさがハナヲを更に苛立たせる。
    「騙して悪いが、お前の目的も考えればお互い様だろう」
    「、お互い様ですって? 私の玩具が生意気を!」
     愛玩物の口答えは許さない。
     怒気を強めたハナヲの、その微動から攻撃を読んだのは小町で、身ごと旋回して迫る彼女に斬弦糸を合わせて初撃を楔打つ。
    「おイタが過ぎるで!」
    「ッあァ!」
     敵が痛撃に足留めた刹那、殲術執刀法にて畳み掛けるはセシル。
    「生憎、加減が下手でね。でもって、てめぇらダークネスにゃ容赦する気もない」
    「ッ!」
    「つまりまあ、なんだ。死ねよ」
     赫々たる灼眼――その左目には薔薇が薫り、華奢な腕より生え出でた茨は心臓を狙って撓る。
    「ッ、お生憎様……!」
     但し之は致命傷には至らず、胸元の服は血塗れて引き裂かれるも、臓腑が抉れた訳ではない。紙一重で深手を逃れたハナヲは妖艶に微笑すると、忽ち反撃に出た。
    「私の店で勝手しないで頂戴――ッ!」
     大気を裂いて迫るポケットティッシュの乱舞に身を差し入れたのはウルスラと紅緋。パンドラが放ったヴァンパイアミストに強化を得た両者は鋭槍の如く、
    「拙者、ポケットティッシュは有難く貰っておくタイプで候」
    「なっ!」
     ウルスラがそれをレイザースラストで精緻に手折れば、紅緋は敵懐に飛び込む軌道を見出して異形の怪腕を振り下ろす。
    「――待ってた!」
    「っ、!」
     然し袈裟懸けに疾駆する筈の鋭爪が止まったのは、ハナヲが紅緋をその豊満なる膨らみに抱きとめたからだろう。
    「育ち盛りの仔猫ちゃん。私のテクでココ……大きくしてアゲルわ♪」
    「え、む、胸なんかどうでもいいじゃないですか!」
    「あら、恥ずかしい?」
    「恥ずかしくなんかないです!」
     反応さえ美味に映るか、獣欲に塗れた手指がわきわきと動いて少女に迫った瞬間、
    「はい、そこまでだよー」
     乙女の貞操を守るべく珠音のディーヴァズメロディが響いた。
    「ァア、ッ……この、音色……!」
     大人か少女か、或いは少年か――幾つもの音色を混ぜた旋律が色欲を裂けば、腕が緩んだ隙を、ビハインドのアリスが霊撃に割って紅緋を連れ戻す。
    「呼ぶは癒し……祓いたまえ清めたまえ」
     迎え入れた勇騎は祝詞と共に清めの風を紡ぎ、心地良い微風に撫でられた頬は紅潮を解いて元の通りとなる。
    「やってくれるわね……!」
     またも獲物を手放す事となったハナヲは、怒気を露に歯切りした。


     敵の巣である店内を戦場に選んだ彼等は、戦闘前に場所や間取りを調べたお陰で地形状の不利を得る事はなかったが、それで漸く五分に持ち込んだというところ。個人経営のサロンはせいぜい2、3人を相手する広さしかなく、8人と1体が戦う場所としては些か窮屈。
     退路を断って確実な灼滅を狙った一同は、代わりに立ち回りの不便を強いられ、
    「フフ、やりにくそうね」
     逆に己の土俵で戦うハナヲは、彼等の攻撃を軽妙な体捌きで交わしながら、邀撃を仕掛けていた。
    「皆ここで私の虜になって頂戴」
     それでも彼等が淫魔の手に堕ちないのは、全員が回復の術を持つ守りの手厚さと、強い意志の故だろう。
    「髪に触れるくらい良いでしょ?」
     魅惑の歌声を響かせながら珠音に近付いたハナヲは、漆黒の艶髪に唇を宛てて上目見る。
     迸るフェロモンは眩暈を呼び起こす程強烈だが、
    「私の恥じらう姿を見ていいのは、愛する彼女だけなんだから!」
     即時回復を心に決めていた彼女は、頬をパチンと叩いて自らを叱咤した。そして接吻を受けた黒髪より編み込んだ鋼糸を伸ばせば、確固たる拒絶に溜息しつつハナヲが離れる。
     標的を変えては色に誘い込む奔放な敵に、パンドラも警戒の声を掛け、
    「皆、確りして……淫魔の誘惑よ、目を見開いて、自分の意志で魅力を感じるべきよ」
     魂を分け合うアリスと共に牽制し続けていた。霊障波とグラインドファイア、遠近を織り交ぜた絶妙のコンビネーションに敵も容易には近付けない。
    「せやで、負ける気がせえへん」
     彼女の言に頷きを返した小町は、追い討ちをかける様に斬影刃を重ねる。陣形の効果を得た黒き鋭刃は的確に敵影を捉え、ハナヲの服と肌を深く刻んで攻め立てた。
    「……くっ、可愛い顔して、やるわね……!」
     不敵に微笑むハナヲの余裕を掻き消したのは、廉也のスターゲイザー。
    「肉欲を断てぬなら、せめて機動力は殺がせて貰おう」
    「――!」
     狭隘での戦闘を想定していたその動きは秀逸で、壁を蹴って宙を踊った彼は思わぬ角度から踵を振り落とす。
    「きゃアアァッッッ!」
     超重力に押し潰されたハナヲは、臓腑を絞られる激痛に悲鳴を上げるのが精一杯で、
    「緊縛、鞭打ち、どっちが好みだ?
     ああ、答えなくていいぜ。両方嫌って程味わわせやるからよ!」
     間髪容れず眼前に飛び込んだセシルのダブルには防御すら間に合わなかった。
    「嗚呼嗚呼アアァァッッッ!!」
     紅蓮斬とレイザースラスト、鞭の如く撓った茨は容赦なく躯を刻み、苦悶の声を絞らせる。
     その慧眼で戦況を見極めたか、回復と強化で自陣を支援していた勇騎が攻勢へと転じたのは、敗色を知らしめる端となったろう。
    「カミ降ろし、風伯。疾く奔りて刃を成せ」
     仲間と感情の絆を固くした彼の攻撃は一縷の隙もない。心地良いテノールに放たれた疾風の刃は淫魔の柔肌を鋭く裂き、床を夥しい血で汚した。
    「……ッッ、ッッッ……!」
     耐え難い苦痛と屈辱に声も失ったか、沈黙の裡に放たれる反撃も、強化を尽くした彼等には届かず、
    「そろそろ覚悟してください」
     終幕を予感させる紅緋の科白がハナヲの耳に残酷に響く。
     一片の花弁が翻る如く、無数に乱れ飛ぶポケットティッシュを交わした彼女は、赫々たる拳打で敵躯を突き飛ばして、天駆けるウルスラに預ける。
    「この刃の前には防御などチリ紙同然! キリステゴーメン!」
     光矢の如く疾く死角へと滑り込めば、ガンナイフ【Thinker】の犀利な閃きも捉えられなかったろう。心臓を背側から貫いた斬撃はそのまま深く疾走して項を裂き、
    「…………ッ……ッ、ッ……」
     咽喉を潰されたハナヲは嘆きの声を絞ることも叶わず、血飛沫に塗れて絶命した。


    「あー、せいせいしたぜ」
     久々に後腐れなくやれたと、灼滅を見届けたセシルは短く吐息して金髪を掻きあげる。闇に家族や仲間を奪われた彼女としては、ダークネスを見逃す事は到底許せず、また豊満な姿態を駆逐すれば、多少の苛立ちも解消できただろう。
    「深手は見当たらないが……皆、大丈夫か?」
     頬に滲む返り血を拭いながらセシルが目を配れば、
    「えっと」
    「後半は酷い有様やったな」
     パンドラは人形の如き佳顔を戸惑いに染め、小町は気まずそうにツインテールを揺らす。
    「最期はほぼ裸だったから……」
    「戦闘中やし、言えへんかったけど」
     元々の格好も露出度が高めだったが、斬撃を繰り返すうちにあられもない姿になったのは皆が知る事実。
    「あれも作戦と思うと屈したくないよねー」
     よく耐えた、と力強く頷く珠音の傍らでは、
    「……まあ、男はたいてい下心があるところが悩ましい点だがな」
     これまで多くの者が彼女の毒牙に掛かっただろうと廉也が同情を寄せる。
     唯、真面目でオカン気質な勇騎は観点が異なり、
    「女で、しかも他人の体を整える仕事に就いてる奴が露出で身体冷やしてどうする」
    「……」
     色欲の反応が薄い彼が回復の要に据わった事を、一同は心から感謝した。
     戦闘痕を始末する間に制勝の感を得た紅緋はというと、
    (「……淫魔を羨んでも仕方ないけど、あんなスタイルになれるかな?」)
     育乳マッサージを勧められた先の戦闘を思い出し、自身の胸元をじっと見る。淫魔が狩った獲物を此処でどう味わっていたかも判然としない少女の成長は、まだまだ未知数だ。
    「さて、これにて撤収デース」
     施錠を終えた玄関扉に、買ってきた看板を立て掛けたのはウルスラ。
     満足気に眼鏡を持ち上げる彼女の前には、『本日廃業』の文字――灼滅者を最期の客に迎えた店は、もう二度と扉を開くことはない。
    「さらばでゴザル」
     閑寂を餞に戦場を去った一同は、その活躍を誰に知られる事もなく、颯爽と雑踏に消えたという――。
     

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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