「ひいいい!」
槍で突くたび、血の雨が降る。
「ぎゃあああっ!」
剣で断つたび、命が消える。
小さな街は今、殺戮の舞台と化していた。
逃げ惑い、あるいは倒れる人々の中、1人悠然と歩くのは、鎧の異形。人間の鮮血を化粧としたその姿は、騎士と呼ぶにはあまりに醜い。
クロムナイト……だが、その正体を知る者は、ここには誰一人としていない。
事態を何一つ飲み込めず。そして、無念を抱く暇すらなく。
人々が骸へと変わっていく……。
「朱雀門のロード・クロム、そしてその配下・クロムナイトの事は、皆も聞き及んでいる事と思う。クロムナイトを人里に差し向け、虐殺をおこなおうとしている事も」
今回、新たな一体の動きを予知した、と初雪崎・杏(高校生エクスブレイン・dn0225)は言う。
「槍と剣の使い手ゆえ、仮に『スピア&ソード』……クロムナイト『SS』と呼称しよう」
今回も、クロムナイトが虐殺を行うまでには猶予がある。目標が人里にたどり着く前に、こちらから接触する事は可能だ。
「クロムナイトの戦闘データは、後々の量産型に反映されてしまう。かと言って、戦わずして一般人の被害は食い止められない……どちらにしてもロード・クロムにとっては益がある、という訳だな」
杏は、にじむ口惜しさを隠さない。
「短時間でクロムナイトを撃破するしか、こちらに選択肢はない」
クロムナイト『SS』の剣と槍は、寄生体から構築されたもの。その攻撃の精度は高く、こちらの回避を許さない。
加えてスタミナもそれなりだが、何者にも弱点はあるもの。一撃一撃の攻撃力はやや低めのようだ。
「多少の傷を無視して畳みかけるか、それとも万全を期して攻めるか、あるいは別の作戦を取るか……それは君達次第だ」
攻撃力が低いと言っても、相手はそもそも戦闘タイプ。守りをおろそかにすれば致命傷を受ける事は、十分考えられる。
「クロムナイトは強敵だ。一般人の安全を考慮した場合、短期決着をあきらめるという決断も必要になるかもしれない。個人的にも、無茶はして欲しくないしな」
そう告げる杏の目は、心配の色に満ちていた。
参加者 | |
---|---|
阿々・嗚呼(剣鬼・d00521) |
神薙・弥影(月喰み・d00714) |
内山・弥太郎(覇山への道・d15775) |
フィナレ・ナインライヴス(九生公主・d18889) |
十文字・瑞樹(ブローディアの花言葉のように・d25221) |
エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318) |
三和・透歌(自己世界・d30585) |
シア・アレクサンドラ(薔薇の聖騎士・d34681) |
●邂逅
「朱雀門……一連の事件を追って行けば、いつかあの人と出会うこともあるのかしらね……」
竹林の中、宿命の相手を思うシア・アレクサンドラ(薔薇の聖騎士・d34681)。
しかし、雑念は命取りとなりかねない。今は、クロムナイトの件に対処するまで。
人払いを終えた十文字・瑞樹(ブローディアの花言葉のように・d25221)も、クロムナイトの出現を待つ。
「ここで得た経験を活かし、奴らが複数で行動し、緻密な連携を覚えるような事になったら……」
なんとか阻止しなくては。瑞樹は思う。
何処から来るか……フィナレ・ナインライヴス(九生公主・d18889)が気配を探っていると、突然竹が切断された。
開けた視界の向こう、がしゃりがしゃりと金属音。
現れたのは、1体の騎士。クロムナイト『SS』。
「貴様も剣と槍を使うのか、これは奇遇奇遇」
フィナレが、呼称の由来となった武器を見、目を細める。
かざしたスレイヤーカードから現れたのも、剣と槍。
「ならば、同じ武器の使い手として、年季の差というものを教えてやろう」
「そういうわけで、初めまして、嗚呼です。宜しくお願いします」
阿々・嗚呼(剣鬼・d00521)の一礼を受けて、クロムナイトも剣と槍を構えた。返礼のつもりだろうか。
「しかしまあ、剣と槍とは、中々良い趣味ですね」
曲りなりとも剣士の身。嗚呼が胸躍らせずにはいられない一方で、エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)が顔をしかめる。
「基礎から応用に移り始めたということかしら、厄介なことだわ」
2種の武器を持つ。それは、個々の武器の練度を、ある程度高め終えたともとれるからだ。
ここで止める……灼滅者達は、『SS』の誘導を始める。
「朱雀門に力を与えるのは痛いですが、一般人の殺戮など、見過ごすわけにはいきません」
身を翻す内山・弥太郎(覇山への道・d15775)。目指すは、近くの林道。皆の足取りに迷いはない。周囲の地形は、既に頭に叩き込まれている。
機械のような、淡々とした挙動で追撃する『SS』。
敵の戦闘データをどこかに送信するような装置はないか……周囲に気を配りつつ、神薙・弥影(月喰み・d00714)が、竹林を縫うように疾走する。
「……! エリノアさん!」
弥影から鋭い声が飛ぶ。
林道への到着を待たずして、『SS』が仕掛けたのだ。
だが、乱立する竹を巧みに利用したエリノアには、届かない。
竹が倒れる音を背にしながら、三和・透歌(自己世界・d30585)が林道に飛び出した。
「経験を積み進化を重ねる……悪くないですね。ワンパターンにならない分、飽きが来なさそうです」
とはいえ、わざと時間をかけるのは、退屈に過ぎる。
「手を抜くつもりはないので、覚悟してくださいね」
透歌のサウンドシャッターが、林道を戦場に仕立てあげた。
●交戦
鬼ごっこはもうお仕舞。
敵へと体を向けたシアが、スレイヤーカードをかざす。真紅の薔薇の花のような闘気が一瞬浮かびあがり、バトルオーラとして結実する。
「喰らい尽くそう……かげろう」
弥影の足元から、立ち上がる漆黒の狼。
「大人しく……とは行かないでしょうけど、早々に倒させてもらうわよ」
影の狼による牽制を加えつつ、弥影が蝋燭に火を灯す。クロムナイトの身に咲く、赤い花。
そして赤の中に、白が飛び込んだ。
白の正体は、弥太郎。人狼の血が、その姿を白く変えている。
「一般人の命を餌に、僕達と戦わせようとするその魂胆、許せません!」
白狼の耳を立て、剣を抜く。『SS』の槍と剣をかいくぐり、肩を切り裂いた。
そもそも、2つの刃を持つのは、弥太郎も同じ。
「サイゾー!」
敵の二の腕が、血しぶきを上げる。もう1つの刃……半身たる柴犬が、『SS』と交錯していた。
傷をかえりみる素振りさえ見せず、突然振り返る『SS』。
そこに、瑞樹がいた。
「我は盾、皆を護る大盾也」
槍のラッシュをかいくぐるようにして、近距離から影の刃を放つ。
攻撃がヒットした時、既に透歌が宙を舞っていた。キックのモーション。
『SS』の選択は、2つの武器をクロスさせる事だった。衝撃を受け止め、踏みとどまる。
透歌の離脱に合わせ、駆け抜けるのは、ライドキャリバーのウェッジ。鋼のボディが、楔のごとく『SS』の腹に打ち込まれる。
「さて、知恵を付ける前に排除させてもらうぞ」
吹き飛ぶ『SS』へ、フィナレが槍を向けた。冷気の矢が白の軌跡を描き、敵の鎧に氷塊を生む。
『SS』は剣持つ拳で氷を叩き割ると、槍を突き出した。狙いは、後方の灼滅者。届く距離ではない。
だが、槍が伸びた。寄生体が、瞬時に形を再構築させたのか。
もはやレーザービーム……しかし、瑞樹の反応は早かった。竹林まで押し切られるも、槍をしのぎきった。
「一撃は重くないと聞いていたが……油断はできないな……」
負けられない、負けたくない。槍を払う瑞樹の目には、対抗心。
更に追撃せんとするクロムナイトの剣が、弾かれた。空いた胴体を、刀が薙ぐ。
「十文字先輩、今のうちに退避を」
日本刀を構えなおしつつ、嗚呼が告げる。守りが今回の仕事。果たさねば。
「まあ、さしずめ体育のテストですかね」
「赤点はゴメンだわ!」
言ったエリノアの槍が、真紅に染まる。
「守りを捨てた戦い方は好みではないけれど、たまには猪武者も悪くないわね」
ずぶり、相手の腹を貫けば、より赤が濃さを増す。血の化粧。
「……!」
それは戦闘本能か、クロムナイトが視線を上げる。
見上げた空に浮かぶは、薔薇の花のごときオーラ。シアの高めた闘気が、『SS』へと降り注ぐ!
●焦燥
竹林の戦いは、続く。
『SS』の淡々とした攻撃は、ロボットのよう。戦闘マシーン……そこに闘志はほとんど感じられない。嗚呼が、無表情の中にも楽しさをにじませるのとは、正反対。
『SS』の槍剣と、フィナレの蛇剣、弥太郎の妖の槍が打ち合う。舞い散るのは、火花と白き炎。
2人が離脱した瞬間、狙いを研ぎ澄ました影の刃が、『SS』の脇腹に傷を刻む。
「余計な経験を積ませるつもりはないわ」
影の狼を呼び戻した弥影が、敵をにらむ。
聖歌を響かせ透歌のクロスグレイブが火を噴けば、瑞樹の愛刀『十文字』も炎をまとう。
そしてシアが剣を正面に構えた。顕現するのは、裁きの光。様々なサイキックに身を焼かれながらも、クロムナイトは前進する。
やがて5分が過ぎた頃、エリノアの脳裏に、闇堕ちの文字がよぎる。
「これ以上長引かせるわけには……」
しかし、傷つけども、倒れた仲間は1人もいない。戦意も失われていない。
「もう少し信じてみるのも悪くないわね、自分と皆の力を……!」
エリノアの、そして皆の不屈が、実を結んだか。
クロムナイトの体が、破砕音を響かせた。透歌が断ったのは、『SS』の鎧。そして、その身を強化していた加護の2つだ。
そこへ、ウェッジの機銃が狙いを定めていた。破壊の狂想曲が、林道に響く。
そして弥影のロッドが、『SS』の腹部をとらえた。手にしびれが走るほどの、全力打撃。
『SS』の体内を、魔力が駆け巡る。やがて行き場を失い、暴発する!
明らかに、『SS』は弱体化している。皆の的確なガードが回復の手間を省き、命中精度の高い攻撃が確実にダメージを重ねた結果だ。
「いけます! このまま押し切りましょう!」
吠えた弥太郎と、『SS』。2人の槍が交差する。
果たして、相手に届いたのは……弥太郎の方だった。
「……ッ!」
血を吐く『SS』へ、フィナレが斬りかかる。
激しいつばぜり合い。だが、力勝負では敵に分があるようだ。
「くっ、こいつはきついか……なんてな、くふ♪」
フィナレの口の端が持ち上げられた直後。その背後から、九つの尾が伸びた。否、それはダイダロスベルト!
9つの斬撃を受け、よろめく『SS』。
「フン、戦いとは常に相手の一歩、二歩、いや三歩先を考えてやるものなのさ」
しかし、データ収集を目的とした『SS』に、『撤退』の2文字はない。
禍々しく変化した剣に、切り裂かれた嗚呼は……不意に、日本刀を宙に放った。
「!?」
「剣士にとって刀は命。しかし私は同時に灼滅者でもあるのです」
繰り出されたのは、キックだった。ぐぎり、と『SS』の首があらぬ方を向く。
錐もみして宙を舞う敵を見送り、落下してきた日本刀を手に取る嗚呼。
竹をつかみ、体を支える『SS』。ふと顔を上げると、串刺し嬢が眼前にいた。
「慄け咎人、今宵はお前が串刺しよ!」
エリノアのバベルブレイカーが、その胸に穴をうがつ。
「未熟なわたくしでも、今のあなたなら」
空いた穴に、シアが虚空に刻んだ十字が直撃する。ひびが雷のごとく走り、鎧が砕け散る。
そして、瑞樹と『SS』が交差する。愛刀を抜いた瞬間生じた衝撃波が、敵の胸をとらえた。
「仕舞いにしよう」
瑞樹が刀を納めたのと同時、『SS』の胸が血しぶきを上げた。
●撃滅
『SS』の四肢から、噴き出す青白い炎。
がくん、と膝をつくと、炎の中に消えていく。最後に残った剣と槍もまた、運命を共にしたのだった。
「さようなら。良い眠りを」
嗚呼の挨拶に、しかし今度の答えは、ない。
迅速に、とまでは言えないものの、満足な経験を積ませる事は阻止できたようだった。
吐息1つ。力を抜いた透歌が、ウェッジに寄りかかる。少しは退屈を紛らわせることができた、と思いながら。
「彼らには、どれだけ自分の意思があるのかしらね」
弥影の口から、懸念がこぼれる。
「ただの絡繰りなら、どれだけ経験を積んでも本当の意味で連携するのは困難でしょうけど……」
「私達とダークネス、どちらも強くなる……まるでいたちごっこの様だな……」
「朱雀門は何処まで戦力に貪欲なのよっ」
瑞樹が空を見上げ、エリノアが憤りをあらわにする。この様子も、ロード・クロムは把握済なのだろうか。
「いずれにしても、奴の目論見通りにいかせるものか」
砕いてみせるさ、とフィナレと自信をのぞかせる。
「そうです。この戦いも敵の糧になってしまうというのなら……その始末も自分達で付けるまでです」
ぎゅっ、と握った拳に、弥太郎は誓いをこめる。
「このたびは、良い経験になりました、皆様ご機嫌よう」
優雅にスカートを翻し、颯爽と去りゆくシア。
いずれ完成された量産型と相まみえる時……その戦場は、いかなるものとなるだろうか。
作者:七尾マサムネ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年8月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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