黄昏に蔓延る蒼い悪

    作者:のらむ


     村民達は恐怖し、唯ひたすらに逃げ走っていた。
     この村に現れた、巨大な蒼き怪物。
     その怪物について村の誰も理解してはいなかったが、逃げなければ全員殺されるであろうという事は、誰もが理解していた。
    「ヒ……ヒィッ!! や、やめ……ギャァァァアア!!」
     怪物に獲物と定められたとある青年の身体は、怪物が放った蒼い砲弾によって粉々に粉砕された。
     治療と破壊。2つの用途に使われる巨大な砲身と化した両腕を持ち、鋼の装甲を纏った蒼き巨躯。
     この怪物の名は、クロムナイト。ロード・クロムの手によって創り上げられた、強力なデモノイドである。
     従順なクロムナイトはロード・クロムの命令に従い、人々を虐殺しその戦闘経験を着実に得ていく。
     そうして人々を効率よく虐殺する術を学んだクロムナイトは、何処かへと消えていく。
     後に残ったのは、原形も留めぬ無惨な死体の山だけだった。


    「回復に特化したクロムナイトが現れる……夜々さん。貴方の予想、どうやら当たったみたいですよ」
    「本当か。さすが私」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)と雲無・夜々(はとにかく大人・d29589)は、大量に資料が貼られたホワイトボードを前に、話を続ける。
    「ロード・クロム。あの下衆野郎の手によって造られたデモノイド、クロムナイトに関する事件は、皆さんの中でも知ってる人が多いと思います。私も結構予知してきました。具体的に言えば3回くらい」
    「それはご苦労な事だな。今回も例の戦闘データ収集の為の実地試験って奴か?」
    「その通りです。クロムナイトはとある村を襲撃して村人たちを大量虐殺し、虐殺の経験を得ます。幸い皆さんはクロムナイトが村に訪れるしばらく前に、山に撃ち捨てられた小さな墓地で戦闘を仕掛ける事が出来ます。ですがそれはそれで、クロムナイトは灼滅者との戦闘経験を得てしまいます」
    「そしてそれを阻止するためには、クロムナイトを素早く灼滅する必要がある、と。相変わらずキツイ縛りだな」
     夜々はやれやれといった感じに首を振り、更に続ける。
    「前回私が戦ったのは、両腕が楯で出来た馬鹿みたいに硬い防御特化のクロムナイトだったが、今回はやっぱり回復特化なのか?」
    「そうですね。今回のクロムナイトは砲身と化した両腕から、サイキックで創り上げた回復砲弾を発射する事が出来ます。正直な所このクロムナイトは単体で活動するよりも、集団で戦闘を行う時に真価を発揮するタイプだと思われます」
    「へー、じゃあ今回は割と楽勝か?」
    「単純に勝つだけならそこまで難しくは無いでしょう。が、短期決戦を望むには少々難が。奴の回復能力はずば抜けて高いですし、他者だけでは無く自身を回復する能力にも長けています。長く戦場に留まり、出来るだけ長く味方の援護をする為の能力なんでしょうね」
    「成る程な。それで、使ってくるサイキックはどんなもんだ? やはりサイキックの砲弾が中心か?」
    「そうですね。攻撃用の砲弾、回復用の砲弾の両方を使用するほか、巨大な針へ変形させた腕で敵の生命力を奪い取るもの、自らの傷を癒し自身のメディック能力を高めるサイキック等も使用するみたいです」
     そこまでの説明を終え、ウィラはファイルをパタンと閉じた。
    「説明は以上です。このクロムナイトに短期決戦を望むには、そこそこのリスクを負う事を承知で、かなり偏った戦術で戦う必要があるでしょう。ですが作戦が上手くいかないまま短期決戦に拘ってしまえば、敗北する危険もあります。敗北してしまえば、村人の大半は虐殺されてしまいます。確実に、クロムナイトをここで灼滅して下さい」
    「まあ何とかなるだろう。クロムナイトが何度現れようと、何度だって叩き潰してやる!」


    参加者
    鴻上・巧(キメラテックハート・d02823)
    成瀬・圭(キングオブロックンロール・d04536)
    槌屋・透流(トールハンマー・d06177)
    雪乃城・菖蒲(紡ぎの唄・d11444)
    ジュリアン・レダ(鮮血の詩人・d28156)
    玉城・曜灯(紅風纏う子花・d29034)
    雲無・夜々(ハートフルハートフル・d29589)
    久保・孝行(トライアライド・d32517)

    ■リプレイ


     赤焼けに包まれた山奥の墓地。荒れ果てたこの場所で、灼滅者達はクロムナイトの出現を待っていた。
    「ん~、実地試験の為に一般人を大量虐殺ですが……厄介な事をしてくれますね、被害が出る前に早めの対処をしましょう」
    「なんというか、実験に協力させられてるみたいで気に食わなくもあるがな……まあいい、戦闘データも私たちの命も渡しはしない。速攻でぶち抜けば問題ないんだろう?」
     雪乃城・菖蒲(紡ぎの唄・d11444)と槌屋・透流(トールハンマー・d06177)はそう言いながら、いつ襲撃を受けてもいいよう警戒を強める。
    「回復特化のクロムナイトか……群れる前に見つけられたのは幸いだったよな。長引くと厄介だ、短期決戦といかせてもらうか」
    「ロード・クロムがどうとか、性能の実験だとかは関係ありません……殺戮は阻止する、それだけです」
     久保・孝行(トライアライド・d32517)と鴻上・巧(キメラテックハート・d02823)が改めてクロムナイト灼滅に対する覚悟を込めて呟く。
     そしてその時、灼滅者達の視界に蒼き異形の怪物を捉えた。
    「来ましたね……真っ向勝負といきましょう」
     ジュリアン・レダ(鮮血の詩人・d28156)はスレイヤーカードを構え、こちらに突撃してくるクロムナイトを正面から見据える。
    「おうこらー! うらー! 全力でぶっとばーす! 覚悟しろやー!」
     普段この時間帯に寝ているという不機嫌な雲無・夜々(ハートフルハートフル・d29589)は、眠気とストレスを全てぶつける勢いで叫び、ギターをブンブン振り回しながら戦闘に備える。
    「クロムナイトの実地検証……一体何を企んでるのか知らないけど、敵の思惑通りに事が進むのも腹立たしいわ。全力で蹴り倒しましょう」
    「ま、そうだな。相手が回復特化ならこっちは攻撃特化で潰すだけだ。……安直か? まァ人生は出たとこ勝負、やると決めたならとことんやってやらァ」
     玉城・曜灯(紅風纏う子花・d29034)と成瀬・圭(キングオブロックンロール・d04536)はそう言って殲術道具を構え、クロムナイトに向ける。
     灼滅者達の発見したクロムナイトは全速力で駆け、砲身と化した両腕を灼滅者達に向ける。
    「ギギ……ギギ……殺戮対象ヲ発見。戦闘能力試験、開始……」
     そして戦いが始まった。


     クロムナイトが放った毒々しい砲弾が爆発し、おびただしい量の毒が放たれる。
    「早速仕掛けてきたな……だが安心しろ、この私がすぐに回復してやる!」
     直後、夜々が滅茶苦茶に振り回して弾いたギターから滅茶苦茶な旋律が流れ出し、その旋律は何故か灼滅者達の傷を癒していった。
    「『穢れも、罪と共に』」
     解除コードを唱えスレイヤーカードを解放したジュリアンはクロスグレイブを構え、クロムナイトに接近する。
    「単騎回復特化? やってみるといい。耐えられるのなら」
     そしてジュリアンが振り降ろした十字架がクロムナイトの足元を叩き潰し、その動きを大きく鈍らせる。
    「ギギ……ギギ……」
     クロムナイトは片腕を巨大な針へと変えるとジュリアンに狙いを定めるが、次の瞬間ジュリアンはクロムナイトの視界から消えていた。
    「オレもキミと同じように、多くの生命を散らして此処にいる。けれど、戦場に立たない者は巻き込んではいけない。そう思うよ。だから、ここで止める」
     ジュリアンは強い意思と共に、縛霊手の爪を勢いよく振るう。
     放たれた斬撃は背後からクロムナイトの首を抉り、蒼い寄生体が周囲に飛び散った。
    「続くわ。こいつも他の個体と同じくタフだろうけど、一気に押し切るわ」
     直後、クロムナイトの正面から突撃した曜灯が鋭い跳び蹴りを放ち、クロムナイトの装甲をひしゃげさせた。
    「メディカルシェル、発動……」
     クロムナイトは足元に放った癒しの砲弾によって傷を癒し、与えられたバッドステータスを一気に解除する。
    「そう、貴方はそうやってずっと回復だけしてるといいんですよ~……」
     菖蒲はそう呟くと手裏剣甲を構え、クロムナイトに狙いを定めていく。
    「あなたたの一番の強み、少しでも抑えてみせましょう」
     そして菖蒲が放った無数の手裏剣がクロムナイトの全身に突き刺さり、次々と爆発してはクロムナイトの身体の治癒力を減じていく。
    「メディックが単騎で動くのがどれだけ難しいか、その身をもって理解してくださいね……授業料は、あなた自身ですが……」
     菖蒲は攻撃の手を緩めることなく、片腕を鬼の如く巨大異形化させクロムナイトの懐まで潜り込む。
    「その頑丈そうな砲身、壊してあげます……」
     振り降ろされた鬼の剛腕はクロムナイトの右腕を叩き潰し、鈍い音と共に大きなヒビを入れた。
    「これで終わりだと思うなよ? ――潰す!」
     更に前に出た圭が魔力を充填させた杖をフルスイングすると、頭部を殴り飛ばされたクロムナイトは地面を転がり、魔力による爆発に巻き込まれた。
    「ギギ……奪命針、発動」
     すぐに体勢を立て直したクロムナイトは片腕を巨大な針へと変え、一気に突き出す。
    「私か」
     クロムナイトの動きを見切った透流はキープアウトテープ模様のダイダロスベルトを自身の周囲に展開し、突き出された針を絡め取り刺突の勢いを殺した。
    「……危ない所だ。今度は私が反撃させてもらうぞ」
     そう言って通りは大鎌を構えると、クロムナイトの首目がけて一気に振るう。
     死の力宿りし断罪の刃は、クロムナイトの首を刈り癒し辛い深い傷を負わせた。
    「ギ、ギギ……!」
     クロムナイトは透流に向けて毒の砲弾を撃ち放ち、巨大な爆発を引き起こす。
    「……鬱陶しい奴だな。治される前に、抉ってやる」
     エアシューズの急発進による爆撃を逃れた透流は、そのまま地面を滑走し、一気に跳び上がる。
    「そのまま大人しくしていろ――――ぶち抜く」
     透流が放った鋭い跳び蹴りはクロムナイトの胸に突き刺さり、膨大な衝撃によってクロムナイトの身体は地面に叩きつけられる。
    「隙が出来た……俺も続くぞ!」
     攻撃の機を窺っていたいた孝行は蒼き刃と化した右腕を振り降ろし、クロムナイトの身体を斬りつけた。
    「肉体ノ損傷ガ激化……回復行動実行」
     全身を削り取られたクロムナイトが自己回復を施すと、瞬く間に破損した鎧や肉体が修復されていく。
    「確かに凄い回復能力ですね……ですが、負けはしません」
     巧は『黒白装【グラニ】』に爆炎を纏わせると急加速し、風の如き速さでクロムナイトに突撃する。
    「全て焼き尽くす……ここです」
     突撃の勢いはそのままに、巧は蹴りを放つ。
     武装による威力の増大も行われた強烈な蹴りはクロムナイトの脳天に突き刺さり、放たれた爆炎は全身を包み込み、焦がしていく。
    「まだ終わりではありません……動かない方がいいですよ」
     蹴りの反動で後ろに跳んだ巧は鋼糸を放ち、クロムナイトの左腕を絡め取った。
    「ギ、ガ、ギギ……!」
     クロムナイトは糸を振りほどこうともがくが、そうやって力を入れる度に糸が腕に食い込んでいく。
    「……行っても無駄ですか」
     巧が呟いた直後、バチン! と何かが弾けるような音が戦場に響き、クロムナイトの左腕は綺麗に切断された。
    「グ、オォォォォオオ……!!」
     痛みを感じているかは定かで無いが、クロムナイトは苦しげに呻きをあげ、自己回復を施し左腕を修復していった。
     灼滅者達は着実にクロムナイトの体力を削っていたが、クロムナイトの回復能力も相当に優秀である。
     未だ長期戦となってはいなかったが、闘いはもう少し続く様だ。


    「未ダ戦闘データノ収集ハ未完了……」
     クロムナイトは片腕から放った巨大な砲弾を、灼滅者達に撃ち放つ。
    「ここは通さない!」
     仲間を庇うべく自ら砲弾に突っ込んだ孝行は毒が含まれた爆発をまともに喰らい、全身に傷を負う。
    「こんな攻撃で倒れてられるか……! 攻撃は任せた! 俺の分までブッ叩いてくれよな!」
     孝行は生命維持用のの薬物を摂取し力を高めると、以前としてクロムナイトの前に立ち塞がる。
    「ギギ、ギギ……」
    「……まずい」
     そして仲間に向けての攻撃を察知した孝行は槍を回転させながら、クロムナイトに突撃する。
    「回復しか脳がないのか? 攻撃はぬるいな、ちっとも効かないぜ」
     槍の強烈な一撃を喰らったクロムナイトは宙に弾き飛ばされ、攻撃を与えた孝行に目を向ける。
    「ギガ、ギギ……奪命針」
     落下の勢いのままクロムナイトが振り下ろした針は孝行の胸を貫き、生命力を奪い取った。
    「ガ、クソ……! まだ……まだだ!!」
     一瞬失いかけた意識を何とか持ちこたえさせ、孝行は強い瞳でクロムナイトを睨み付けた。
    「私も回復してやるからまだ倒れるな。あと少しの辛抱だぞ」
     夜々はマントの様に広がるダイダロスベルトを孝行に放ち、傷を癒しつつ防御能力を高めた。
    「続くぞ……ぶっ壊す」
     攻撃を終えたクロムナイトに透流は接近し、標識を使った殴りつけでクロムナイトの動きを鈍らせる。
    「回復能力が高いとはいえ、かなり追い詰めてきた筈……このまま押し切りましょう」
     更に菖蒲が鋭い風の刃を放つと、クロムナイトの全身が切り刻まれた。
    「ギ、ギ……ポイズンシェル」
     クロムナイトは毒の砲弾を前衛に放つ、曜灯はその砲弾の動きを冷静に見定めていた。
    「そんな事してる暇があるの? その隙に沢山蹴らせてもらうわ」
     砲弾の下を潜り抜けた曜灯は、舞うように跳びクロムナイトに接近する。
     曜灯が放った前蹴りがクロムナイトに膝をつかせ、大きな隙が生まれる。
    「今が好機……全身燃やし尽くしてあげるわ」
     その機を逃さず追撃に出た曜灯は、爆炎を纏わせた脚でクロムナイトに灼熱の蹴りを叩きこんだ。
    「グオォォォオオオオ!!」
     全身を炎に蝕まれたクロムナイトは吼え、ひたすらに己の傷を癒していく。
    「この回復能力、こいつが他の奴と一緒に出てきたらすごく厄介ね……少しでも経験を得させるわけにはいかないわ」
     そう呟いた曜灯は脚に緋色のオーラを纏わせ、エアシューズの加速で急接近する。
    「他人の生命力を奪うのは、あなただけの技じゃないのよ」
     曜灯が放った鋭い脚撃はクロムナイトの脇腹を深く斬り、そこから曜灯は生命力を奪い取った。
    「こんな怪物を生み出した、ロード・クロム……いつか戦場に引きずり出す必要があるね」
     ジュリアンはクロムナイトの身体に巨大な十字架を突出し、鎧の一部を打ち砕いた。
    「グオ、オォォォォ…………」
     くぐもった呻き声を上げるクロムナイトは、灼滅者達の猛攻によって瀕死の状態に追い詰められていた。
    「よし、あと少しだな。回復でも何でも好きなだけするといい」
     夜々はギターを滅茶苦茶に鳴らしながら、仲間たちの傷を癒していく。
    「だが回復をしたいなら、だ。灼滅者一の癒し手であるこの雲無夜々から存分に学ぶといい!」
     そして夜々はデモノイド寄生体でギターを取り込むと、右腕に巨大な蒼き刃を形成した。
    「回復を学ぶためにはまず傷を負わなければならない。という訳で私が直々にお前に傷を与えてやろう!!」
     クロムナイトの前に跳び出した夜々は右腕を振り上げ、巨大な刃を一気に振り降ろす。
     放たれた斬撃は蒼い軌跡を描き、クロムナイトの身体を真っ直ぐ斬り伏せた。
    「おまけにもう一発だ! 吹っ飛べこのやろー!」
     畳み掛けるように夜々が至近距離から放った寄生体の塊が、クロムナイトの胸を打ち身に纏う鎧を大きく腐食させた。
     ボロボロと全身の鎧が剥がれおちながらも、クロムナイトは何とか戦場に立ち続ける。
    「グォアアアアアァァァ!!」
     咆哮と共に放たれた砲弾が灼滅者達に降り注ぐが、未だ灼滅者達を倒すには至らない。
    「狙いも雑になってきています……感情に身を任せるだけでは勝てませんよ」
     一瞬の判断で砲弾を斬り落とした巧はそう呟きながら、剣を鞘に納めた。
    「戦、闘データ、シュウ集間モ、ナク完了……戦闘試、験ヲ継、続……」
     ノイズ交じりの掠れた声が、クロムナイトの声から発せられる。
    「データ収集とやらはまだ終わってなかったみてぇだな……ここまで来て戦闘経験だけ掠め取られてたまるかよ! てめぇのその殻ブチ割って、根こそぎ灼滅してやるぜ!!」
     圭はそう言い放つと片腕を異形化させ、クロムナイトに猛攻をしかける。
    「この土壇場で小細工は不要だ、とにかく全力で叩き潰す!!」
     圭が振るった巨大な拳がクロムナイトの頭を打ち、鋼鉄の兜が粉々に砕け散った。
    「ギギギガガ……奪、命針、ハツ、動」
    「その攻撃はもう見飽きたぜ!」
     クロムナイトが突き出した鋭い針を、圭は闘気を纏わせた蹴りで弾き返す。
    「お前の負けだぜ、クロムナイト……喧嘩に必要なのは技術じゃなくて根性だ。お前の主に伝えとけ……次はもっと骨のある奴を造ってみろってな!」
     圭は魔力を込めた杖を構えてクロムナイトに突撃し、他の灼滅者達もそれに続き一斉に攻撃を叩きこんだ。
     曜灯が放った炎の蹴りが肩を砕き、
     孝行が振るった精確な斬撃が急所を断つ。
     菖蒲が放った影の触手が全身を縛り、
     透流が振るった断罪の刃が胸を裂く。
     ジュリアンが放った死角からの斬撃が脚を断ち切り、
     夜々が放った赤き十字架が精神を蝕む。
     巧が放った糸が全身の動きを封じ、
     圭が真正面から杖を叩き付ける。
    「絶対にここで止めてやる……誰もしなせやしねえ!」
     鋭い衝撃がクロムナイトを殴り飛ばし、クロムナイトは地面に叩きつけられる。
    「ギギ……ガ……ガ、ウゴアアァァァァッッッアアア!!」
     クロムナイトは断末魔の叫びを上げながら、巨大な魔力の爆発によって消滅した。
     カランカランと鎧の破片が音を立てて地面を転がったかと思うと、その破片も程なく霧散していくのだった。


    「全員無事のまま勝てた、か……身体を張って守った甲斐があったな」
    「護り手が1人だったというのに、良く最後まで耐えきったな! 私がカッチリ回復してやろう!」
     ディフェンダーとして多くの傷を負った孝行が地面に座り込み、夜々が心霊手術を施していた。
    「辛うじて戦闘データの収集は防げたようですね……皆さんお疲れ様でした」
    「無事敵を撃破。情報のデータ収集の阻止も成功。しかも重傷者もいないとなれば、戦果は上々だな」
     菖蒲と透流がそう言って、殲術道具を封印した。
    「もう既に何種類もの個体が出てるのよね? まぁ何体出ようとも、何度でも倒してあげるけど」
    「相手だけでなく、僕達も経験を積んでいきます。ですが敵がチームで現れた時の事も考えないといけませんね」
     曜灯と巧は、今後のクロムナイト達の動向に考えを巡らせていた。
    「……まァ、とりあえず帰ろうぜ? 考えるのは帰ってからでも出来る」
    「はい、お疲れ様でした。いずれ、また。戦場にて」
     圭とジュリアンがそう言って、一同は帰路につく。
     こうして灼滅者達はクロムナイトによる大量虐殺を防ぎ、データの収集を阻止する事にも成功したのだった。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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