海だ熟女だ爆発だ!

    作者:邦見健吾

    「うっひょー、若い子の水着サイコー!」
    「あの子とかよくねー?」
     ナンパ目的なのか、真夏の海水浴場でキョロキョロと視線をさまよわせる若い男達。その背後から、1人の女性の近づいてくる。
    「ねえ、坊やたち。少し休みたいのだけれど、おばさんをそこの岩場まで連れて行ってくれないかしら?」
     声をかけてきたのは、30~40代ほどの熟女。彼らの好みとは合致しないはず……なのだが。
     垂れ下がった目尻に小皺が目に付くが、その表情は柔和で母性を感じさせる。さらに歳の割に大胆なビキニは、少し垂れた豊満な胸と尻を隠しきれていなかった。その言葉に表し難い妖艶さに惹かれ、男達がゴクリと喉を鳴らす。
    「いいっすよ、任せてください!」
     そして男達は、女性に言われるがまま海水浴場の奥へと足を向けたのだった。

    「なんということだ。このままでは平和な海が淫魔の手に落ちてしまう……!」
     深刻な顔でそう語る前田・光明(高校生神薙使い・d03420)からは鬼気迫るオーラが溢れていた。光明によると熟女っぽい淫魔が海水浴場に現れ、若い男を手当たり次第に食い散らかしてしまうらしい。
    「というわけで、淫魔を灼滅してきてください」
     冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)は淡々と説明を続けるが、その声色には呆れとかいろいろ混じっている気がしないでもない。
    「淫魔の名はケイコ。海水浴場で男を誘惑するので、誰かが引っかかったふりをして岩場まで付いていき、そこで待ち伏せして撃破してください」
     岩場周辺は滅多に人は来ないが、戦闘すれば音が響く可能性はある。一応対策しておいてもいいかもしれない。
     また、ケイコは若い男性を好むが、囮は女性でもできなくはない。こちらから近づいていけば食いついてくるだろう。
    「ケイコはサウンドソルジャー及び縛霊手のサイキックを使います。相手に異状を与えことが得意なので気を付けてください」
     また、ケイコは不利を悟ると逃走したり、命乞いをしてくる可能性がある。一見危険は小さそうだが、ケイコによって家庭が崩壊するなど、今までにも少なくない被害が出ている。その場合も逃すことなく灼滅してほしい。
    「熟女に誘惑されるなんて羨ま――いや、一般人を守るためにも淫魔を見逃すことはできないな」
    「……それでは、お願いします」
     興奮を抑えきない光明をよそに、蕗子は淡々と灼滅者達を送り出した。


    参加者
    灰音・メル(終末メルヘン・d00089)
    逆霧・夜兎(深闇・d02876)
    前田・光明(高校生神薙使い・d03420)
    フレナディア・ヘブンズハート(煉獄の舞姫・d03883)
    或田・仲次郎(好物はササニシキ・d06741)
    黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)
    榊・拳虎(未完成の拳・d20228)
    天月・静音(橙翼の盾纏いし妖精の歌姫・d24563)

    ■リプレイ

    ●熟女包囲網
     灼滅者達は淫魔が現れるという海水浴場に到着し、ケイコを探す。
    (「ナンパなら個人の自由だとは思うんですけど、手当たり次第で被害出てたら見過ごせませんよね。色々危険な気もしますし……」)
     淫魔が人を魅了する力は人間の比ではなく、ナンパもただのナンパでは済まないだろう。黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)としても、見過ごすことはできない。
    (「誘惑技能は見習いたいけど、これ以上は流石に止めないと、ね」)
     天月・静音(橙翼の盾纏いし妖精の歌姫・d24563)も、いちごとともに砂浜を歩いてケイコを捜索する。
    「あちらに行ってみませんか?」
    「えっ、あっ、はい」
     静音がいちごの腕を引き、いちごは戸惑いつつもそれに付いていく。
    (「あれ、気付かれてない?」)
     いちごは男だが、女の子のような容姿をしているうえ、今は女物の水着を着ている。そのせいで、どうやら静音も気付かず同性として接しているようだった。
    (「いやはや、なんとも社会的に極悪なダークネスっすな。人間関係を不安定にするのは簡単っすが、立て直すのは大変なことこの上ないのに。ついては、さっさと片づけてご退場願うっすか」)
     榊・拳虎(未完成の拳・d20228)は青いビキニパンツを着用し、適度に鍛え上げた筋肉をさらけ出して海水浴場を巡回。淫魔以外の女性の視線も浴びた。
    (「ただでさえ天使なのにビキニなんて、とんでもない事だ。彼女は本能に忠実なだけで人は殺していない。俺が灼滅者でなければ、あるいは……いや、よそう」)
     深刻な表情を浮かべ、眼鏡をかけ直しながら葛藤する前田・光明(高校生神薙使い・d03420)。ぐるぐると考えが頭の中を巡るが、結局戦うほかに道はない。灼滅者とダークネス……今は生れついた運命を呪うしかなかった。
     悶々としていると、周囲から浮いた雰囲気を放つ背中を見つけた。後ろ姿だけでも分かる、あの熟成された艶やかさはケイコに違いないだろう。
    「あの……失礼ですが、ご家族と? それとも、お1人で?」
    「ああいえ……こんな歳の女が1人で海なんて、恥ずかしいわよね」
    (「くっ、なんという……!」)
     ケイコが振り返ると、豊満な肢体が光明の視覚を直撃した。金槌で頭を殴られたかのような衝撃が、光明を襲う。
    「いえいえ、そんなことはありませんよ。俺も1人なんです。俺、光明って言います。ここは暑いので、良ければあちらの岩陰で少し休みませんか」
    「あら、それじゃエスコートお願いするわね」
     光明は手に持ってたジュースを渡し、胸や尻をちらちらと見ながらケイコを誘う。言外の合意を得て、2人は海水浴場の奥へと姿を消した。
    「録画録画っと」
     その様子を、灰音・メル(終末メルヘン・d00089)がこっそりビデオカメラで記録。特に意味はなく、興味本位100%である。
    (「……食いついたわね」)
     海でのんびり泳いでいたフレナディア・ヘブンズハート(煉獄の舞姫・d03883)は、淫魔が囮に引っかかったのを確認して砂浜に上がる。
    「あっちでスイカ食べ放題が行われるそうですよー」
     岩場に消えていく光明とケイコを尻目に、出まかせで一般人を誘導して遠ざける或田・仲次郎(好物はササニシキ・d06741)。この炎天下の中、白衣と下駄という奇抜な格好だが、仲次郎の表情は涼しそうである。

    ●魅了の脅威
    「ふふ、たくましい体……」
    「ケイコさん、俺……」
     灼滅者達が岩場に到着。男女の声が漏れ聞こえてくる。
    「お姉さん、オレらとも遊んでくれる?」
    「あら、お友達かしら?」
     逆霧・夜兎(深闇・d02876)が岩の陰を覗き込むと、ケイコは砂に敷いたタオルの上で横になり、さらに光明がその上に覆いかぶさっていた。ちなみにそのタオルは光明が持参したもの。仲間達が一斉に光明に視線を向ける。
    「待っていたぞ、みんな」
     だが光明は少し砂の付いた体を起こし、何事もなかったかのように凛々しい表情を作った。
    「つれないのねぇ」
    「あっ、いや、そんなことはですね、あぅっ……」
     しかしケイコに太ももの内側を撫でられ、ビクッと震えて情けない声を漏らす。さらに指で背中をなぞられて腰砕けに。ダメだコイツ早くなんとかしないと。ESPの発動を皮切りに、戦闘が始める。
    「うふふ、それじゃ行きますよー」
     仲次郎は殲術道具を解放すると、体に巻き付いたダイダロスベルトをほどき、矢に変えて撃ち出す。白き矢が宙を貫き、淫魔に突き刺さった。
    「我、迅雷の守護を紡ぎ未来へと導く歌姫――ディーヴァ――なり!」
     静音もカードの封印を解き、殲術道具を纏う。手甲の打撃と同時に霊力の網を放ち、ケイコの四肢を絡め取った。霊犬のクラージュも砂を蹴り、魔を絶つ刃を振るう。
    「おばさん、私とも遊んで?」
     メルは無邪気な子どものように言うと、ウロボロスブレイドを真横に薙ぎ払う。刀身は凶暴な蛇のように食らいつき、巻き付きながら切り刻んだ。
    「ふふっ、あなたよく見たら……」
    「うひゃあっ!?」
     ケイコが瞬時にいちごに接近し、太ももに置いた手をその中央に持って行く。驚いたいちごは咄嗟に飛び退き、ビハインドのアリカは力任せに殴り付けた。
    「アタシも楽しませてもらうわよ!」
     ステップを踏み腰を煽情的にくねらせ、熱い砂浜をアラビアの踊り子のように舞うフレナディア。エアシューズで砂を滑り、炎熱纏うローラーを回し蹴りとともに叩き付けた。
    (「あ、だめだこれ」)
     拳虎はボクシングのフットワークを活かしてケイコに近づく……つもりが、ケイコの成熟した体に見とれて思うように動けていない。
    「触ってみる?」
    「いいんすか!?」
     ケイコに誘われ、手が胸に吸い寄せられていく。だが高ぶり過ぎたゆえか、勢い余って倒れ掛かった。
    「あ、すっ、すいません!」
    「ふふっ、いいのよ」
    「うっ……」
     ふくよかな胸に顔をうずめ、その柔らかさに動転し、敵にも拘らず謝ってしまう拳虎。だがケイコは慈しむように微笑み、汗に濡れた胸筋を優しく撫でた。
    「こんなのもあるわよ?」
     ケイコの右腕が魚の鱗のような物を纏い、手の先から青い光を放つ。光は灼滅者達を呑み込み、動きを鈍らせた。
    「ユキ、回復は任せたからな」
     仲間の異状を察知し、夜兎がナノナノのユキに指示を飛ばす。夜兎が十字架を真上から振り下ろすと、ユキはハートを撃ち出して仲間を癒した。

    ●淫魔の力
    「せっかくいいところだったんだもの。お仕置きしないといけないわね」
     ケイコは艶やかな声を岩場に響かせ、灼滅者を襲う。灼滅者達はケイコの与える状態異状に苦戦しつつも、反撃を積み重ねていく。
    「さあ、こちらからも行かせてもらうわ」
     フレナディアは軽快な足捌きでくるりと回り、羽衣をなびかせる。意思持つ羽衣はひとりでにケイコを捉え、矢となって飛ぶ。矢は敵を掠めるだけだったものの、動きと環境を学習して次の攻撃に備えた。
    「大人しくしててもらおうか」
     夜兎は再び十字架を振りかぶり、遠心力を乗せて叩き付けるが、ケイコはその軌道を見切って回避した。
    「クラージュ、そっちじゃないよ!」
     ケイコに魅了されたクラージュに霊力を送り込み、慌てて回復させる静音。クラージュはなんとか正気に戻り、体が麻痺した仲間に癒しの眼差しを送った。
    「ま、負けませんよ!」
     いちごは誘惑を振り払うように声を張り上げ、ギターをかき鳴らす。活力を与える速い音色が仲間を包み込むが、アリカは依然として不機嫌そうだった。
    「痛いことする子は嫌いよ」
    「うぐっ!」
     ケイコの言葉の槍が、光明の心を串刺しにする。さらにケイコは鱗を纏う腕を突き出し、水流を起こして光明を拘束した
    「あなたと戦わなくてはいけないなんて……!」
     体に走る痛みよりケイコを倒さなければならない宿命に悲痛な表情を浮かべ、光明が影を伸ばす。背後に回った影は鋭い刃となり、素肌をさらす足を切り裂いた。
    (「やばいっすよ、同い年の女子達が赤ん坊に見えそうな魅力……」)
     水着では隠しきれない胸や尻のむちっとした感触や、芳醇な香りを漂わせそうな妖艶さは、若い小娘にそう簡単に真似できるものではない。拳虎はなおも目を奪われ続けるが、精神力を振り絞って電光帯びる拳を振り抜いた。
    「これならどうですかー」
     仲次郎は槍を斜めに振り上げ、込められた怨念を氷柱に変えて撃ち出す。ライドキャリバーの仮・轟天号は艶やかなボディで太陽光を反射し、唸りを上げて突進した。
    「どんどんいくよ」
     メルの構えた槍の切っ先に影が集まり、漆黒の弾丸が生まれる。メルは円を描くように槍を振るい、暗い想念をぶつけて敵を蝕んだ。

    ●さらば熟女
     肉体的にも精神的にも灼滅者を苦しめたケイコだが、数の差を覆すことができず追い詰められていく。
    「ま、待って! 悪気はなかったの、何でも言うこと聞くから許して!」
    「悪いけど、オレ、オバサンに興味ないんだ」
     ケイコが砂に手をついて命乞いするが、夜兎はばっさりと切り捨てた。
    「これで終わりだ」
     拳にオーラを収束させ高速の連撃で打ち抜くと、ユキもしゃぼん玉を飛ばして追撃。メルは槍を虚空に突き出し、撃ち出された氷柱でケイコを貫いた。
    「もう終わりかしら?」
     フレナディアは舞うように岩を蹴り、グルカナイフを携えて懐に飛び込む。激しいダンスとともに歪に変形した刃を突き立て、次々と斬り抉った。さらに拳虎が肉薄、至近距離から鋼のごとき拳を打ちつける。
    「ディーヴァの歌声、聴いてもらいます」
     呼吸を整えながらギターを構える静音。目の覚めるような旋律とともに伝説に迫る歌声を響かせ、ケイコを襲う。続けていちごもポップソングを見事に歌い上げ、ケイコの精神を揺さぶった。
    「済まない……!」
     光明が悔しそうに唇を噛み、赤黒い血が一筋垂れる。だが迷うことなく縛霊手を突き立て、水着ごと深く傷を刻んだ。
    「これで最後ですねー」
    「あ、ああ……」
     仲次郎がいつもの調子で赤色の交通標識を振りかぶり、正面から叩く。淫魔の生はここで通行止めとなり、ケイコは空気に溶けるように消滅した。

     無事戦いを終えた後、仲次郎の「折角海に来ましたし少し遊びませんかー?」の一言で海を楽しんで帰ることに。
    「うーん、水が気持ちいいー」
     水着に身を包み、海に飛び込むメル。夏もあともう一月。これが今年最後の海になるかもしれないので、今のうちに満喫しておかねば。
    「いきますよっ!」
    「うわっ。そっちがその気なら……」
     いちごと静音は海に入り、子どものように水をかけあう。静音はいちごが男性と気付いたようだが、その前と態度の変化はないようだ。
    「彼女にするなら同年代と思ってたっすが……宗旨替えも考慮するっすかねぇ……?」
     拳虎はビーチパラソルの下で体育座りし、遠い目で海を眺める。時折、水着熟女を目で追ってしまうのは気のせいではないだろう。
    「思い出を有難うな……ケイコさん」
     夏の日差しは眩しく、青空を見上げる光明の顔を誰も直視することはできない。やがて一粒の透明な雫が頬を伝い、熱い砂浜に落ちて瞬く間に乾いた。

    作者:邦見健吾 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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