尾張名古屋は味噌煮込みで持つ

     小城なれど見事に組み上げられた城の天守閣にて、あるご当地怪人が城下を眺めている。
    「だし汁だの釜玉だのは年中食われちょるのに、何で味噌煮込みは冬だけなんじゃ……」
     怪人の名前は名古屋味噌煮込み怪人。暑苦しい気迫と暖かな優しさを併せ持つ男だ。
    「全くもって……。殿も暑い時こそ熱い物というお方。同様に嘆いておりました……」
     背後に並ぶペナント怪人達も、味噌煮込み怪人に賛同の言葉を返す。頭部のペナントは、囲炉裏にくべられた土鍋に入った味噌煮込みの絵だ。
    「ワシはやるぞ! 全国の麺所に『味噌煮込み始めました』の文字を飾るんじゃ! 文句のある奴なぞ蹴散らしちゃらぁ!」
    「流石で御座います。この城も数日後には北征入道様のお力で迷宮化し、難攻不落の名城となります。そうすれば貴方様の野望も目前となりましょう」
     それでは早速ワシ等が食うぞと意気込む味噌煮込み怪人。彼が野望を達成する日も近い、かもしれない……。
     
     小牧長久手の戦い以降、かつて自分の活躍した東海や近畿での地盤を固める安土城怪人。今回も城が建った名古屋は、地元中の地元とも言える場所だ。
    「今回は味噌煮込みうどんの怪人か……。何か味噌料理多くない?」
    「まあ、味噌で有名な土地だしねぇ……」
     そろそろお馴染みな名古屋のご当地怪人退治。今回、備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)が須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)に伝えた情報で5人目となる。
    「まあ、視えた以上は灼滅灼滅! ってことで、今回の相手の説明をするね」
     まず旗の情報から。城を与えられた怪人は、城に翻る旗から力を得ているのだが、それを下ろせば弱体化して有利に戦うことができる。
    「今回の旗だけど、怪人が部屋に強固な防護壁を作っていて、その中に入っているんだ」
    「ということはそれを壊せばいいんだね。場所はどこなのかな?」
    「……天守閣、かなぁ……」
     つまり今回は、怪人自身が部屋で護衛しており、更にその防護壁で旗を囲んでいるのだ。陽動も効かないため戦いながら壊していくしかない。なお、天守閣には暴れたりしなければ普通に辿り着ける。
    「そのままでも勝てるから無視してもいいけど、狙った方がやり易いはやり易いよ」
     味噌煮込み怪人は、夏に味噌煮込みを食べてくれる部下を守るためにディフェンダーへと就くのだが、旗を落とされると怒りでクラッシャーにポジションを変え攻撃的になるのだ。
    「部下がスナイパーとメディックだから、部下から落としたい時には使えそうだねぇ」
    「だね。ポジションを変えさせれば大分部下狙いが楽になると思うよ」
     敵の使う技は、味噌煮込み怪人がうどんで縛り上げた相手の体力を吸収、具の月見卵から攻撃と回復に使えるビームを放つ、蒲鉾っぽい刃の付いた斧で防具を壊す、土鍋の蓋っぽい盾で守りを固めるの4つ。ペナント怪人達はBS耐性のパンチ、怒りのビーム、応援による回復の3つだ。
     
    「後は最近出始めた情報だけど、北征入道がこの城を迷宮化させようとしてるらしいんだ」
    「ただでさえ戦力強化で厄介なのに、拠点強化までされるのか。こりゃ何としてもその前に潰さないといけないねぇ……」
     優位に立つ安土城怪人へ吹く更なる追い風の気配を感じつつ、灼滅者達は一路名古屋へと向かうのだった……。


    参加者
    安曇・陵華(暁降ち・d02041)
    エミーリア・ソイニンヴァーラ(おひさま笑顔・d02818)
    備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)
    葛葉・雅(闇夜の祝詞・d14866)
    丹羽・愛里(幸福を祈る紫の花・d15543)
    四季・彩華(蒼天の白夜・d17634)
    リュカ・メルツァー(光の境界・d32148)
    天草・日和(深淵明媚を望む・d33461)

    ■リプレイ

    ●お食事中の方失礼します
     名古屋に到着した灼滅者達は、ご当地怪人の城に忍び込むと周囲を警戒しながら天守閣を目指し歩を進める。
    「それにしても、こんな物をポンポン建てる安土城怪人って恐ろしい存在だよね」
     階段の先を見上げながら、備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)は恰好はふざけてるのにねと小さく呟く。確かに、土地と資材を用意し数か月で何十もの城を各地に建築する……。かの一夜城も驚きのハイペースだ。
    「名古屋も何体目からしいけど、他に何人の怪人を援助してるのか分からないし、警戒した方がいいのは間違いないですね」
     四季・彩華(蒼天の白夜・d17634)の言う通り、他の怪人を警戒した灼滅者からの情報で予知された事件も何件かある。城主となった怪人は少しでも多く削りたいところだ。
    「ええ。怪人個人の目的はアレですが、安土城怪人の勢力拡大は止めませんと」
     足音を忍ばせ最上階への階段を登りきると、丹羽・愛里(幸福を祈る紫の花・d15543)は天守閣への襖を一気に開ける。
    「ずるず……。ゲホッ、ゴホッ……! な、何じゃお前達は!」
    「我々は武蔵坂学園の灼滅者だ! 貴公らを討ち取りに来た!」
     天草・日和(深淵明媚を望む・d33461)が腰に手を当て室内の名古屋味噌煮込み怪人達を指差すも、当の相手はどうやら絶賛味噌煮込み中だったらしい。
    「わふぅ~……。この部屋暑いです~……」
    「こ、ここは我慢大会の会場か何かですか……!?」
     襖を開けた途端感じる熱気にエミーリア・ソイニンヴァーラ(おひさま笑顔・d02818)の表情が溶ける。別に部屋を閉め切っているわけではないのだが、元々の気温に加えて土鍋を温めるコンロの熱は、葛葉・雅(闇夜の祝詞・d14866)の言う通り我慢大会の様相を呈していた。正直、中央に置かれた防護壁の違和感よりインパクトがある。
    「食事中に襲撃とは……」
    「へっ! 恨みはねぇけどこの城の迷宮化は……って鼻から出てんぞ!」
    「城主様、こちらをお使いください」
     ちらちら鼻から見える白い物へリュカ・メルツァー(光の境界・d32148)が突っ込むと、味噌煮込み怪人は部下から差し出されたティッシュを受け取り後ろを向いて処理を済まし、改めて灼滅者達へと身構える。
    「至高の時を邪魔したんじゃ……。覚悟しろよガキども!」
    「変な相手だが、油断せず皆で無事に帰るぞ!」
     対抗して安曇・陵華(暁降ち・d02041)がカードを起動させると、仲間達もそれに合わせ武装を纏う。

    ●フラグは貰った
     一番初めに前に出た味噌煮込み怪人は、斧を構えるとウイングキャットのセクメトへ向け振り下ろす。
    「飲食店としてはペットを入れるわけにゃいかんでな」
    「くっ……。セクメト、リングの祝福を!」
     自分も前衛を支援しつつ、雅は自身のサーヴァントにも回復を指示する。他にも動物的なサーヴァントがいるのに狙われるといういうことは、額面通りではなく倒し易そうな壁役を狙う意味もあるのだろう。
    「ネコさんだってやらせはしないのです!」
    「それに、こちらもされるままではありませんよ!」
     エミーリアが癒しの矢を射る横で、愛里が防護壁へと帯を放つが、防護壁は少し欠けるに留まる。聞いていた通り中々の硬さだ。
    「ま、どんな相手でも戦いを楽しませてもらうよ」
    「まずは、邪魔な旗から落とさせてもらうぜ」
     次に彩華が壁だろうとと拳を叩き付けると防護壁にひびが1本入り、そこにリュカが剣を突き入れるとそのひびが広がる。
    「な……、何故ここに旗があると知っている……!」
    「奴らが『何故か知っている』などいつものこと! 攻撃をこちらに引き付けるんだ!」
     旗を守るため、ペナント怪人達がクラッシャーに就く灼滅者へビーム撃つも、日和が前に出てこれをカバーする。
    「貴様らの思惑などに屈しは……。ひぎぃ! ビーム熱いのぉっ!」
     何かあえてモロに受けたように見えなくもないが、自分で回復しているし致命傷ではないようだ。
     そして、その後も灼滅者に狙われ続けた防護壁は、次第にひびだらけになっていく。
    「もう少しで壊れそうなんだけどねぇ……」
     鎗輔と霊犬のわんこすけの攻撃が防護壁を削り取ると、遂にその奥に旗が見えてくる。
    「これで終わりだ……!」
     続けて敵を掻い潜った陵華が巨腕からの正拳突きで旗を表に出すと、ウイングキャットのゴルさんが魔法で旗を吹き飛ばした。
    「お、お前ら……。味噌煮込み食べるのを邪魔したばかりか、安土城怪人殿に貰った旗まで傷付けるとは……。生きて帰れると思うんじゃねぇぞ!」
     旗を落とされ頭部の味噌煮込みを沸騰させて怒る味噌煮込み怪人。防護壁を狙い続けた分敵は無傷だが、ディフェンダーがいないのでかなり削り易くなるだろう。

    ●意外な『あり』派の人口
     しかし、灼滅者達が攻め易くなった一方で怪人達も攻撃的になっており、弱体化したとはいえクラッシャーに変わった味噌煮込み怪人は攻撃力を上げている。
    「ワシの怒りを受けろっ!」
     味噌煮込み怪人の頭部にある月見卵からレーザーが迸るが、後ろには通さないとリュカが射線に割って入る。
    「悪ぃがそいつは返品させてもらうぜ!」
     一撃に耐えたリュカは影を操り反撃し、回復役のペナント怪人を斬り刻む。
    「耐えろよ! 『味噌煮込み始めました』の夢は、この戦いの勝利から始まるんじゃ!」
    「僭越ですが……、『始めました』では季節や期間限定の品だと誤認されかねないかと」
     セクメトに追撃させつつ仲間を回復する雅に指摘されると、味噌煮込み怪人は少し考えた風になり……。
    「なら『味噌煮込みあります』じゃ! これなら文句無いじゃろう!」
     どうやら指摘自体は受け入れたらしい。確かに元ネタの料理は夏季限定商品だ。
    「まあ、私は夏だろうと鍋料理を食べるがな。エアコンで冷えるんだよ」
     だから中から温めるんだというと、陵華はペナント怪人へ向けて影を走らせ、ゴルさんが魔法を解き放つ。
    「な、何……。お前は夏でも食べてくれるのかっ……!?」
     怒りの矛先からの思わぬ一言に少し動揺する味噌煮込み怪人。食べてもらいたい気持ちの高さがうかがえる。
    「寧ろ僕は夏に食べてこそだと思ってる。塩分補給を始め栄養豊富、口当たりも良く胃腸を温め活性化してくれる……。それが味噌煮込みだもんね!」
    「……ならばお前は何故そっちにおるんじゃ! ワシらと目指すところは同じじゃろう!」
     わんこすけとともに傷の深いペナント怪人へと攻撃し熱く語る鎗輔に、味噌煮込み怪人も熱く訴えるが、
    「そりゃあ君達はダークネスだしね……」
    「貴公らの無理矢理な手法に同意できるはずがないだろう?」
     炎の蹴りで味噌煮込み怪人を牽制する彩華や、七不思議の力を放ってペナント怪人を狙う日和にバッサリと切り捨てられる。
    「それに、ニッポンの夏はやっぱり冷たい物の方がいいですよ~。じゃないとエミーリアはタレーミアになって溶けて消えちゃいますです!」
    (「私は夏でもいいと思いますけれども……」)
     続けてエミーリアの風の刃や愛里の影が飛ぶと、1体目のペナント怪人が灼滅される。
    「鍋を囲む友がまた1人……。やはり灼滅者ではワシらの考えについてこられんか……!」
     部下の灼滅に苦汁の表情を浮かべながらも、味噌煮込み怪人の瞳には変わらぬ怒りの炎が燃え上がっている……。

    ●あの世でも味噌煮込み
     防護壁と旗を破壊した後は、どちらも押せ押せな状況の続いた戦闘だが、こうなると数が多く戦略通りに事を進めた余裕のある灼滅者達が俄然有利だ。部下のペナント怪人を次々と片付け、残る味噌煮込み怪人も集中攻撃で追い込んでいた。
    「残るはワシ1人だが、まだ終わったわけじゃねぇ!」
    「いい攻撃だが全然足りないぞ! もっと私を満足させてみろ!」
     回復も兼ねて日和にうどんを絡ませる味噌煮込み怪人だが、致命傷とまではいかず、傷もサーヴァント達の回復ですぐに塞がれる。
    「桜の美しさは周知なれど、時に人の若さ美しさを妬む桜もありて……」
    「痛いの痛いの、おみそ煮込み怪人さんおところまで飛んでいけ~」
     こうなると回復にも余裕ができ、雅やエミーリアも攻撃すると更に追い込みは加速する。
    (「援軍、増援の影は無し。杞憂だったようだな」)
     風の刃を放つ陵華を始めに念のためと警戒する者も数名いたが、特にその気配は無い。
    「さぁて、そろそろあの世へ逝く時間だぜ?」
    「ああ、一気に決めてしまおう」
     傷の深い味噌煮込み怪人を見たリュカが敵を袈裟懸けに斬り裂くと、彩華がその傷口から毒を注入する。
    「ぐはっ……。なあ、兄さん。今からでも考え直す気ぃは無いか?」
    「……敵同士でなければ、もっと語り明かせただろうね」
     一縷の望みをかけた味噌煮込み怪人の誘いだが、鎗輔は気弾を放ちこれを断った。
    「安土城怪人の思惑とともに、ここであなたを打ち砕きます!」
     そして、その答えに最期を悟った表情の味噌煮込み怪人を、愛里の氷弾が貫いた。
    「ワシもここまでか……。ふ、あの世で味噌煮込みを食べながら、お前らが安土城怪人殿に負けるのを見物させた貰うとするかぁぁぁっ!」
     最後まで味噌煮込みへの執着と愛を叫びながら、味噌煮込み怪人は爆散していった……。

     こうしてまた1人のご当地怪人を灼滅した灼滅者達は、帰りに鎗輔お勧めの店である者は味噌煮込みを、有る者は涼味を堪能し東京へと帰るのだった。

    作者:チョコミント 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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