臨海学校2015~軍艦島と佐渡ヶ島のアガルタ

    作者:彩乃鳩

    ●佐渡ヶ島のアガルタの口
     照りつける太陽が眩しい。
     今年の夏も暑い。
     各所で熱中症が相次いでいる。
     だが、佐渡ヶ島の熱波はその中でも異常であった。
    「あはは!」
    「ほら、こっちだよ!」
    「待ってよー!」
     夏休み中の子供たちが、澄んだ海の中で涼んでいる。このところ40度を超える、うだるような暑さが続いているのだ。海水浴でもしていないとやってられない。
    「そういえば、知っている?」
    「廃坑が変な植物で覆われているって話?」
    「そうそう。この異常気象と関係あるのかな?」
     かつての佐渡金銀山の廃坑に、このところ妙な変化が起こっていたのだ。
     緑で埋め尽くされた廃坑。
     アフリカ植物が繁茂している異様な光景。
     それはアガルタの口――かつて軍艦島に現れた謎の密林洞窟と同種のものだった。
     ざくざくざくっ!
     熱波に覆われた廃坑の奥深く。
     謎の植物型の怪物が、今日も廃坑を深く掘り進む――

    「北陸の佐渡ヶ島で異常な熱波が発生し、佐渡金銀山の廃坑が、アガルタの口と化そうとしている事件が起こっているようです。このため、武蔵坂学園では佐渡ヶ島で臨海学校を行う事が決まりました」
     五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)が、今回の事件を説明する。
    「アガルタの口は、軍艦島の地下に現れた謎の密林洞窟です。これが佐渡ヶ島で発生しているということは、軍艦島が近づいてきているのかもしれません」
     北陸周辺で発生していた、ご当地怪人のアフリカン化の事件も、これが原因の可能性がある。放っておけば、佐渡ヶ島全体が、第二の軍艦島になってしまうかもしれない。
    「皆さんには、佐渡ヶ島の廃坑を探索し、アガルタの口を作り出している敵の撃破を頼みます。その後は、軍艦島の襲来に備えて、佐渡ヶ島の海岸でキャンプを行ってください」
     アガルタの口を作り出している敵を撃破しても、24時間の間は佐渡ヶ島は40度以上の熱波が続くので、海水浴にはもってこいだろう。
    「佐渡ヶ島のアガルタの口が撃破され、多くの灼滅者が集まっている事を知れば、軍艦島のダークネス達も計画の失敗を悟り撤退していくでしょう」
     まずは、アガルタの口を制圧し。
     その後は、真夏の海を楽しみつつ軍艦島の接近に備える。
     それが今回の臨海学校の内容となる。
    「問題の相手ですが、スイカ型の植物形眷属となります」
     アガルタの口は、佐渡ヶ島の廃坑跡地に点在している。
     その最奥には『スイカ畑』が広がっており、そこで成長したスイカから『スイカ型の眷属』が多数生まれ続けているようだ。
    「スイカ型の眷属は、スイカの果実に目と口をつけて、浮遊しながらガシガシ噛み付いてきます。強くは無いですが数が多いです」
     廃坑奥のスイカ型の眷属を全滅させる事ができれば、島のアガルタの口化を阻止する事ができるだろう。
    「楽しい臨海学校が、ダークネスの陰謀に邪魔されてしまったのは悔しいですが。逆に考えると海水浴にはうってつけの状態になっています。アガルタの口の制圧を行った後には、是非臨海学校も楽しんで下さいね」
     姫子の言葉に、今回初めて臨海学校に参加する遠野・司(中学生シャドウハンター・dn0236)は頷いた。
    「臨海学校かあ。暑さ対策に、廃坑の探索、その後で海でどう過ごすか……うん、色々準備しないと」
     アガルタの口の対処も勿論大切だが、臨海学校を楽しむことも忘れずに。
     武蔵坂学園の臨海学校に、皆がさまざまな思いを抱き胸を膨らませていた。


    参加者
    神園・和真(カゲホウシ・d11174)
    霧島・サーニャ(北天のラースタチカ・d14915)
    桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)
    日輪・真昼(汝は人狼なりや・d27568)
    雨堂・亜理沙(白影紅色奇譚・d28216)
    荒谷・耀(神薙ぐ翼の巫女・d31795)
    リュカ・メルツァー(光の境界・d32148)
    袈裟丸・創太(のんびり・d35365)

    ■リプレイ


     アガルタの口。
     かつて軍艦島の地下に突如として出現した謎の密林洞窟。軍艦島攻略戦では、アフリカンパンサー達を大幅にパワーアップさせるとされた場所である。
     だが、今はそんなことよりもーー
    「うー……あつーい……」
    「あ……あづい……」
    「暑いですね……」
    「暑い……とにかくあっちぃ……」
     佐渡ヶ島の廃坑内は、ジャングルのような有様だった。熱帯植物が生い茂る緑色の空間は、下手なサウナより蒸し暑い。
    (「暑いのは嫌いです。早く海に行きたいなー」)
     なんて、日輪・真昼(汝は人狼なりや・d27568)はそわそわしていた。そんな彼女の目の前に、またスイカ型の眷属が現れる。
    「おっと」
    「またですか」
     ぷかぷか浮遊する、スイカの化け物。
     内部を進むたびに、ちょこちょこと遭遇するこの眷属を。伏兵に注意していた雨堂・亜理沙(白影紅色奇譚・d28216)のライトが照らす。
    「スイカに目と口がついた見た目……なんか思い出す……はっ! ジャックオランタン! でもこれはスイカ……ジャックオスイカ!」
     戦闘が始まると袈裟丸・創太(のんびり・d35365)は急にハイテンションになる。嬉々としてティアーズリッパーを相手に見舞う。
    「早いとこ片付けて臨海学校楽しみたいなー」
     リュカ・メルツァー(光の境界・d32148)がスレイヤーカードを解放すると、血のように赤い霧がゆらりと揺れて武器が出現する。灼滅者達は連携して、攻撃を加えた。
    「ガシガシガシ!」
    「廃坑内でスイカ退治……シュールな絵日記に描いたらシュールな絵が描けそう……です」
     スイカ型の眷属が牙を立てようとするのを、桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)が盾となってガードする。神園・和真(カゲホウシ・d11174)のビハインド、カゲホウシも敵の攻撃から仲間を守る。
    「楽しい楽しい臨海学校! スイカ怪人なんかに邪魔はさせないでござるよ」
     霧島・サーニャ(北天のラースタチカ・d14915)の刀が一閃。
     見事に相手を一刀両断する。
     綺麗に真っ二つにされたスイカの怪物は、音もなく消滅した。
    「これで襲われるのは何度目でしょうか。不意討ちに気を付けつつ、足元に十分注意して探索しないといけませんね」
     荒谷・耀(神薙ぐ翼の巫女・d31795)がRB社製の小型LEDランタンで、薄暗い廃坑内に光を当てて観察する。随分、歩いてきたように思うのだが、まだまだ先は長そうだった。


    「ここは行き止まりのようだな」
    「そうですね、神園先輩。私が目印をつけておいた分かれ道まで戻りましょうか」
     最深部を目指し、灼滅者達はかれこれ半日近く歩き回っていた。
    「とりあえず、アガルタの口をこのままにしておけませんね」
     炭鉱内に根を張った植物のツルに、萌愛は足をとられて躓く。仲間が用意した明かりはあるが、やや足元には注意がいきにくい。
     歩きにくい。
     暑苦しい。
     おまけに、多数のスイカ型眷属が徘徊しているの三重苦、なのだが。
    (「中々おいしそう……」)
     亜理沙は接近戦になるたびに、隙を見てちょっとスイカ型眷属を食べてみようかと試みていた。おいしかったら土がついていないモノを持って帰り、食べるスイカに加えるつもりだったりする。
    「なんかざくざくしてたらスイカ割りみたいで楽しくなってきたー」
     創太は創太で、実に良い笑顔。
     スイカ型の眷属をチェーンソー剣を振るって、次々に灼滅していく。リュカがヒールを鳴らして、スターゲイザーが炸裂する。サーニャは侍然として居合を放ち。真昼は仲間を祭霊光で回復させた。
     先の見えぬ連戦。
     こういう時に大切なのは、シンプルな事実だ。
    「ま、のんびり歩いていけばいいんじゃないかな」
     和真が影縛りで、敵を捕縛し。サーヴァントが霊撃でトドメを刺す。
     一歩ずつでも進んでいけば、必ず終点に辿り着く。
    「あ。あそこ……明るい?」
    「ようやく、目指すところに到着か」
     真昼が灯りが漏れる前方を指差し、リュカが頷く。
     灼滅者達は今までで一番広い空間に出る。
    「スイカ……」
    「スイカでござるな」
    「スイカ、ですね」
     大玉から小玉まで、とにかくスイカだらけ。
     見事なまで一面のスイカ畑が広がっていた。ここが最奥部なのは、間違いないようだ。
    「ガシガシガシ!」
     スイカ型の眷属が、何やら畑を中心にたむろしている。
     その数はちょうど十体。
     亜理沙が敵の姿を確認すると、相手もこちらに気付いたように動き出した。
    「さて、殲滅といきましょう」 
     聖碑文の詠唱と共に十字架の全砲門を開放。
     オールレンジパニッシャーが強襲し、罪を灼く光線の乱射で敵群を薙ぎ払う。


    「まるでB級ホラー映画見てるみたいです……」
     亜理沙の強襲で大わらわするスイカを見て、思わず呟いてしまった……という様子の萌愛が螺穿槍で踏み込む。耀も風花の槍を唸らせて、敵を一刺しする。
    「スイカは好きだけど、スイカの化け物はお呼びじゃないかな」
     和真は出来るだけスイカ畑を荒らさないように気をつけて、除霊結界を展開した。ちなみに、真昼は別の意味でスイカに気を使っている。
    「ばーっとやります」
     フリージングデスの魔法で、相手が凍りつく。
     ついでに余波で畑のスイカも、狙い通りに程よく冷えた。
    「アフリカの魔の手から佐渡島を守って楽しい思い出を沢山作るのでござる」
     サーニャは範囲攻撃でバッドステータスを撒く。まずは、パラライズだ。創太は最も傷を負った相手を斬り裂き、サーヴァントのライトキャリバ―が突撃する。
    「ガシ! ガシ! ガシ!」
     スイカ型の眷属が……というかスイカが罅割れる。
     それでも、激しい歯ぎしりをしながら灼滅者達に襲いかかってくる。萌愛の言い草ではないが、確かに見ようによっては滑稽で、見方によっては生理的に恐れを抱く光景である。
    「甘いものは好きだけど……吹き飛べっ」
     仲間が攻撃している場所に、狙いを合わせて。
     撃つ。
     pluvia。
     身の丈程のリュカのクロスグレイブ。
     モノリス表面に血で描いたような魔法陣が多数出現し、それを突き破るように光線が射出され―ー前列の眷属が二体まとめて消滅する。
    「ガッ! カイ!」
     スイカ型の眷属が悲鳴とも、怒号とも判断つかぬ声をあげた。
     亜理沙がその中から弱った個体を素早く見抜いて、黙示録砲を命中させる。砲弾を受けた敵は、粉々に砕け散った。
    「張り切ってスイカ割りといってみようか!」
     灼滅者達は一体ずつ確実に、スイカ型の眷属を片付けていく。和真の縛霊撃による一撃が、文字通りスイカを割るように敵を破壊する。サーニャはレガリアスサイクロンで相手を一蹴した。
    「きゃははは」
     創太の明るい笑い声が響く。
     全身には返り血っぽいモノ(スイカの汁)がかかっていて。ある意味一番スプラッタな姿になっている。相手を蹂躙する姿は、のほほんバイオレンスのフレーズに恥じぬ戦いぶりである。
    「纏めてすっぱりいきましょうか」
     耀のブレイドサイクロンが敵群を斬り刻む。戦女神の羽衣の牙が、加速して威力を増す。
     攻撃を受けたうちの一体が崩れ落ち。
    「真昼さん、そちらに行きましたよ」
    「うん、えいっ」
     真昼のオーラキャノンが、更にもう一体を撃ち落とす。
     灼滅者達は汗を拭う。
     敵は個別には強敵ではないが。ここまでの行路での消耗もあるし、この気温だ。戦いが長引けば、疲労も重なる。自己回復や、味方への治癒も決して欠かせない。
    「ズズズズズ!!」
    「今度は種飛ばしですか。通しません」
     萌愛は普段はおっとりのんびりのお嬢様であるが、戦闘時はそのおっとりも返上している。弾丸のような種の乱射から回復中の仲間を庇い、毅然としてフォースブレイクで謹んで返礼した。
    「ガ……ガ、ガ、ガ……」
     逆襲を受けたスイカ型の眷属が内部から爆する。
     サーニャと和真が、ばら撒いたパラライズによって相手の動きも全体的に鈍っていた。
    「ほら、こっちこっち。鬼さん、こちらってか」
     好対照に。
     リュカはヒールの靴を鳴らして軽やかな身のこなしで、十字架戦闘術を披露して相手を翻弄する。
    「臨海学校にはちょうど良い気候ですけど、このままにしておく訳にもいきませんね」
     ――きっちり解決して、楽しむ所はしっかり楽しみましょう!
     耀の一撃が、最後の一体に直撃し。
     力尽きたスイカの怪物は、地面に落ちて割れる前に消滅した。


    「うーみー!」
     水着姿の創太が叫びながら、佐渡ヶ島の海へと飛び込む。
     青い海、白い砂浜。
     水着に着替えて海へごーごー!
     サーニャもうきうき気分で続く。麦藁帽子にホットパンツタイプのビキニが、透き通った海によく映える。
     無事にアガルタの口を攻略したといっても、まだ熱波は続いている。ずっと暑さに悩まされたこともあって、灼滅者達は真夏の海を満喫しつつ島内の変化に対して待機状態だ。
     別名、臨海学校の自由時間とも言う。
    「真昼殿はどうするでござるか? 泳ぐなら拙者も一緒に遊ぶでござる」
    「うん。私は……潜って海の中を覗くのも楽しそう、かなって」
    「なんでもどんとこいでござるよ」
     人見知りしないサーニャは笑って請け負う。
     真昼はフリルのついたワンピース水着で沖へと泳いでいく。透明度の高い水の中へと潜ってみると、そこは別世界だ。
     コブダイが睨みあって縄張り争いをしている。
     小さなミミイカが砂地から飛び出し、泳ぐ姿が可愛らしい。クマノミのような産まれたての幼魚が、一メートル以上ある大魚が、マリンブルーの中を気持ち良さそうに舞う姿は幻想的ですらあった。
    (「……すごい」)
     水中呼吸を持つ真昼は、サーニャが浮上する間もずっと魅入っていた。
    「水が冷たくて心地良いですね」
     浅瀬でのんびりしていたのは萌愛だ。
     陸と違って、海水の温度はそこまで上昇していない。足元に綺麗な貝殻見つけて手に取り、そっと耳に当てて。耳を澄まして音を聴く。戦闘時とは違ってドレスのようなきらびかな水着で、すっかりほわほわとした夢見る乙女に戻っている。
     そのため――
    「きゃあっ!?」
     不意の波に足元を取られて、バッシャーンと海の中へと。
    「……うぅ……誰も見てませんように……」
     まあ、仲間達にはしっかりニコニコと見られているのだが。
    「萌愛さん、大丈夫?」
     笑われながらも、助けてもらったのだが。
    「うん、良い構図だ」
     皆の泳ぐ姿を日陰でスケッチする和真などには、格好のモチーフを提供していたのだが。
     それも良い思い出である。
    「そろそろスイカ割りをしておこうか」
    「そうですね、スイカ畑で幾つか回収しておきましたし」
    「スイカ割りやったことねーけど、割れるといいなっ」
     ひとしきり涼んで熱気を払った後は、スイカ割りをという運びとなる。
     リュカは早くも棒を振り回して、やる気満々だ。人形のように美しい外見と相まって、花飾りをあしらったパレオの水着が良く似合う。
    「それじゃあ、回してくれ」
    「はい、行きますよ」
     目隠しをしたリュカを、一回二回三回と仲間達がくるくる回す。勢いよく充分回り終えると、さる一族の現当主は正眼に構えてスタートした。
    「右、右ー!」
    「いや、実は左でござる」
    「頑張ってー!」
     外野の声はどれが正解だか分からない。
     だが、天性の勘でも働いているのかリュカは真っ直ぐに目標に向かって進み。
    「ここだ!」
     棒がまんまるとしたスイカに、吸い込まれるようにヒットする。
     清々しくなる快音だった。
    「おー!」
    「お、当たったか? 良し!」
     目隠しをとったリュカは、皆とハイタッチ。
    「リュカさん、お見事だね。次は、誰がやる?」
    「まだまだ、スイカはたくさんありますからね」
     スポーティな水着を着た耀が、次のスイカを準備する。
     和真達が前もって用意してものと、廃坑の畑で耀が手頃な大きさの食べられそうなスイカを持ってきてあるので、スイカの数にはたっぷり余裕があった。
    「一刀両断でござる!」
     サーシャは侍のように、棒を振るってスイカを斬る。
    「うん、本物のスイカ割りも楽しいよね」
     創太はざくざくスイカを割っていく。
    「スイカ割りって当てるのも難しいけど、意外と綺麗に割るのも難しいよな」
     和真は目隠しを外して、自分が割ったスイカをまじまじと見やった。
    「海と言えば、スイカ割りは定番ですよね」
     耀も上手くスイカを捉えて叩いてみせた。
     今回は運が良いのか、皆が面白いように次々とスイカを割っていく。ただし、唯一真昼だけは勝手が違うようだった。
    「うー、ぐるぐるー、です」
     ぐるぐると回った段階で、大いに目を回し。
     あっちにふらふら。
     こっちにふらふら。
    「いや、ちょっと、そっちじゃないって!」
    「逆です、逆! そのままだと海の中です!」
     仲間達は一切嘘は言っていないのだが。
     というか、嘘を言う余裕がない。
    「えーと……こっち?」
    「「だから、違うっ!」」
     どこまでも真昼は全く別の方向へ進んで行ってしまう。元から良く迷子になるのも、さもありなん。
    「あっちは、楽しそうだね……ん?」
     そんなスイカ割りの様子を、パラソルの下で見守っていた亜理沙が異変に気付いて立ち上がる。
    「司君、大丈夫ですか?」
    「……いえ、ちょっと夕飯の仕込みをしていたら気分が」
    「この暑さだからね。とりあえず少し休もうか」
     亜理沙は、調子の悪そうな司をパラソルの下に引き込む。クーラーボックスを開けると保冷剤と濡れタオルが用意されていた。
    「はい。これで身体を冷やして、様子を見よう」
    「……すいません。ありがとうございます、亜理沙さん」
     申し訳なさそうな司に、亜理沙は兄のように笑った。
    「いいって」


    「スイカとカレー……難しそうですけど、頑張ってみます」
     耀が美味しくできるように小鍋で色々と試している。
     日も暮れてきたところで、皆は夕食のカレーの準備にとりかかっていた。具材や道具は和真が用意してある。
    「ふふ、腕が鳴りますね。神園先輩」
    「ああ。俺は万が一のこともあるから、普通のカレーも作っておく」
     同じクラブの耀と和真は、一緒に色々と調理していた。
     なかなかの息の合いっぷりで進む。
    「野菜を切るならお任せを。すぱすぱっと斬ってご覧にいれるでござる!」
     サーニャは言葉通りカレー作りを手伝うが……斬った野菜は見事に太さがバラバラだ。
    「うーん。これは、また」
    「……えっと、不揃いなのも味があっていいかと?」
    「いや、それにしても限度が」
    「と、ところで、カレーにはチョコを入れると美味しくなるそうでござるな。隠し味に入れておくでござる」
     ふふふ、これできっと美味しくなるはず!
     と、誤魔化すようにサーニャはチョコを投入する。
    「カレーにリンゴを入れるって聞くし、いけそうかな……」
     亜理沙作の二種類のカレーも、湯気を立てて食卓に並んだ。
    「おお、ジャックオスイカの器だ」
    「頑張ってみたでござるよ」
     創太はサーニャがスイカで作った器に感心する。
     次々と皆の自信作が出来上がった。
    「普通のカレーと……えっ、スイカカレー!?」
    「あぅ……す、スイカ……? カレー……?」
    「ちょーっと勇気がいるけど、食べてみたい気もする……! これも経験かな。折角だし、いただきます!」
     リュカは勢い良くスプーン握り。真昼や皆も、おそるおそると言った具合に口に運ぶ。
     そしてー―
    「ん?」
    「あれ?」
     結構……いける。
    「ほんのりとした甘さが、スパイシーな辛さを引き立てている」
     亜理沙が冷静に味を評価する。
    「耀さんのは、スイカの皮を使っていますね。良い歯ごたえです」
    「サーニャのも、なかなか」
     皆のスプーンが進む、進む。
    「はい、萌愛さんもどうぞ」
    「遠野さんは大丈夫そうです……?」
     先に食べた者の感想を聞いていた萌愛も、司が薦めたカレーを口にすると意外な味に舌鼓を打つ 。
    「スイカカレー……思ったより美味しいですね。スイカの食感が新鮮です!」
     スイカカレーを亜理沙は、他の者の分も何度も皿によそった。
     普通のカレーもすっかりなくなる。
    「んうううスイカのしゃくしゃく感と甘みがカレーのドロドロ感と辛さにミスマッチ……」
     創太だけは、謎のダイイングメッセージを残して敗北していたが。他は皆がご馳走に満足する。
    「デザートもあるぞ。スイカを切った」
    「良く、冷えてます」
     ひんやり冷えたスイカを抱えて真昼はご満悦。
     更に、萌愛は電池式ミキサーでスイカをスムージーにして配った。 
    「甘いのが好みの方は蜂蜜をどうぞ~」
    「うん、旨い」
     スイカを食べて、スムージを片手に楽しい夜が更ける。
     ……眠れぬまま、亜理沙は周囲の警戒を兼ねて散歩に出かけた。
    「良い夜ですね」
     満天の星空の下、少しずつ気候も落ち着いていく。
     翌日も、よく笑いよく食べよく遊んだ。
    「神園先輩……もしかして泳げない?」
    「別に、泳げないってわけじゃないけど、ほら……海って色々と怪しいものが多そうじゃないか?」
    「波に揺られてクラゲ気分でどんぶらこー! するでござるよ」
    「え、うわッ! やめろ、俺は海には入らなッ!」
     浮き輪でぷかぷか浮いてゆっくりしたり。ビーチバレーで白熱したり。騒がしい時間は走るように過ぎて。気温の低下をしかと確認すると、物品やゴミを片付けて撤収する。
    「楽しかったな、来年もまた来たいな」
    「いろいろあったけれど終わり良ければすべて良しですね」
     涼しい風は、夏の終わりを想わせる。
     佐渡ヶ島からの帰りの乗り物の中、灼滅者達はしばし夢の中に浸った。

    作者:彩乃鳩 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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