夏の伊豆温泉にて

    作者:夏雨

    「ボランティアツア~?」
     クーラーのおかげで快適な涼しさを保つ部屋でダラダラする結人のスマホに、学園からのメールが届く。メールのタイトルは、『伊豆温泉ボランティアツアーのお知らせ』となっている。
     夏休みを過ごす生徒たちから有志の参加者を募っているようだ。山中の川沿いにある貸し切りにされた露天風呂を楽しめるらしい。ただし、午前中にその露天風呂まで続く遊歩道の清掃活動を行う予定だ。清掃ボランティアの後は、露天風呂を所有している旅館の食堂で昼食を取り、その後お楽しみの露天風呂が待っている。
     露天風呂のすぐ横を流れる川には、『水垢離』に最適な大きな滝がある。川の水は氷水のように冷たく、泳げるほどの深さはないが川遊びを楽しむこともできる。
     ざっと日帰り旅行の概要に目を通した結人は、参加するかどうか決めかねていた。
    「暑い外で2、3時間奉仕させられんのかぁ……東京よりは涼しそうだけど」

    「露天風呂……しかも混浴だと!?」
     ジョギングから帰って来た未光は学園からのメールに気づき、混浴という文字一点に注目する。『水着着用必須』という注意書きがあったことに、未光は現地に着くまで気づくことはなかった。


    ■リプレイ

    「んー、こんなところにゴミを捨てるなんて、注意書きが見えていないのかなー」
     ミュリリ・ポリックはいくつも落ちているタバコの吸い殻や空き缶を拾い集めていく。
    「マナーがなっていないわよね」
     神夜・明日等はゴミ袋にたまったゴミを覗き込んで言った。
     美作・観月は額の汗をぬぐいながら、
    「暑い日での清掃活動って、やっぱり大変ですね。でも、これも温泉の為です、頑張りましょう」
    「まあ、地獄合宿と比べたら全然楽勝だよなー」
     そう言いながら、宇佐・紅葉は拾い集めてきたゴミを観月の持つゴミ袋に詰め込んだ。
     赤松・美久は一緒に平和に普通に奉仕活動をしている皆を眺めて、
    「こうしていると、普通の学生みたいですね」
     「学生ではあるんすけどね……」とつぶやくギィ・ラフィットは、恋人たちに囲まれて温泉という天国のような時間を楽しむために、ゴミ拾いに精を出す。
    「早く終わらせて、温泉を満喫しやしょう」

    「こうやって汗を流すと、後で温泉が気持ちが良いものになるんでしょうねぇ……」
     ゴミ拾いと並行して草むしりを始めた紅羽・流希は、舗装された道にまではみ出した雑草をどんどんむしっていた。
    「暑ーい、死ぬー……」
     同じく草むしりで汗を流す暮森・結人は、タオルで何度も汗をぬぐい真夏の暑さに耐える。
    「あぢー」
     一緒に草むしりをするイヴ・ハウディーンも、そろって暑さへの不満をもらす。
     文句1つ言わずに真面目に取り組む鑢・真理亜は、イヴたちの様子を見て言った。
    「ご褒美の温泉のためにも頑張りましょう」
    「真面目だねぇ、真理亜ちゃんは。それに比べて結人くんは……」
     結人を引き合いに出す月白・未光の一言で、結人は更に不機嫌そうな表情になる。
    「あぁ?」
    「これから混浴が待っているっていうのに、もっとテンション上げなよ!」
     極上の笑顔を向ける未光に対し、結人はため息をついて言った。
    「もしかしなくてもお前、持ってきてないだろ?」
    「え?」

     午前中に清掃活動を終えた一行は、食事と休憩を取るために旅館へと移動した。それらを済ませた後は、早速水着に着替えて露天風呂に向かう。
     鮮やかな黄色の花の水着に着替えて脱衣所から出てきた廿楽・燈。胸元にいくつも咲く黄色の花が目を引く燈の水着姿を見つめ、エイダ・ラブレスは言った。
    「わぁ……燈さん……水着、かわいいです……」
    「えへへ、ありがとう! アディ先輩の水着もとってもかわいいの。すごく似合ってるよ」
     脱衣所でエイダのスタイルの良さを自身と比較してしまい沈んだ気持ちになりかけていたが、燈はエイダの言葉ですっかり和む。
     2人そろって露天風呂の浴場へと出ると、湯が張られた露天風呂のすぐ横を流れる清流、その奥にある大きな滝が目につき、緑に囲まれた自然豊かな光景が広がっていた。
     早速エイダと燈は温泉につかりに行く。
    「……熱い、かな……。だいじょぶ、でしょうか……」
     エイダは指先で温泉の温度を確かめ、ヒノキの桶ですくったお湯を燈にかけようとする。
    「はい……いきますよー……?」
     丁度いい湯加減とエイダのかけ湯に癒された燈は、「次は燈がするね!」と率先して桶を持つ。

    「おお、広い。滝もでかい! マイナスイオンめっちゃ出てそう」
     露天風呂と滝の組み合わせにはしゃぎながら、椎葉・武流はメイニーヒルト・グラオグランツと一緒にくつろげる場所を探す。滝を近くで眺められる場所に入ろうと思ったが、すでに埋まっていた。
    「流石にいい場所は取られちゃってるな……」
     少し離れた場所でメイニーヒルトと隣り合わせで湯船につかりながら、武流は残念そうに言った。
    「掃除でめっちゃ汗かいたけど、その分気持ちいいな」
     それでも温泉の気持ち良さは変わらないもので、武流は幸せそうに微笑む。
    「その内また忙しくなりそうだし、もう少しのんびりしていたいよな」
    「ここ最近は忙しかった」
     そう言いながら、メイニーヒルトは肩まで湯につかる武流の膝を見つめた。

    「ははっ、何が混浴だよ。すっかり騙されたわ……」
     女子が全員水着を着ていることに心底がっかりしている未光は、結人が用意周到に持ってきた学園指定の水着を来て大人しく湯船につかっていた。
    「今年の翡翠さんは大胆ですねぇ。よくお似合いです♪」
    「あっ、あまり見ないで下さいー! りんごさんこそ凄いのですよー!」
     黒岩・りんごと狩野・翡翠はお互いの水着を褒め合いながら、露天風呂を横切り川へと向かう。
     クロスワンピースタイプの水着の翡翠に、フロントジッパーが着いた競泳水着のりんご。胸の谷間を大胆に露出している2人を目で追いかけた未光は、「これはこれでいいか♪」と元のテンションを取り戻した。

     ウイングキャットのリンフォースは、専用の浴槽として湯を汲んだ桶の中で気持ちよさそうに目を細め、のんびりしている。
    「いやぁ、皆さん本当によくお似合いっすねぇ」
     そのすぐ横で、ギィは水着姿の恋人たちに囲まれて温泉を楽しむ。
    「あんまりジロジロ見ないでよね!」
     明日等はつんつんした態度を取りながらも、ギィの隣りに座っている。
     ミュリリはギィの隣りでにこにこと微笑みながら、
    「ギィくん、素敵なお誘いありがとう」
    「ふぅ、一仕事終えた後の温泉って、本当に気持ちいいですよね、疲れを取ってくれる気がしますし」
     そう言う観月と「温泉気持ちいいね~」と言葉を交わすミュリリは本当に癒されている様子で、次第にうとうとし始める。
    「朝も早かったから、眠くなってきちゃった……」
     ギィの肩にこてんと頭を預けるミュリリ。目を閉じてもたれかかるミュリリの胸のふくらみがギィの腕に当たるが、ギィは何食わぬ顔でその感触を堪能する。
    「紅葉さんは水着は買われないんですか?」
     観月はスクール水着姿の紅葉に尋ねた。
    「そもそも俺、泳げないからな……わざわざ買ってもしょうがなくね?」
     紅葉の返答に対し観月は、
    「紅葉さん、黒のビキニとか似合いそうだと思うのですけど」
    「ビキニ……」
     ビキニ姿の美久とミュリリの豊満な胸に視線がいき、紅葉は言い知れぬ敗北感を覚える。
    「皆さんお疲れ様っす。愛してる子たちと来れて最高に幸せっすよ」
     ギィは1人1人に愛情を込めてキスをし抱き締めていった。

     露天風呂でくつろぐ者もいれば、暑い夏だからこそできる川遊びを存分に楽しむ者もいる。
     守安・結衣奈は水着の上にTシャツを着て川の中に入り、秦・明彦と共に水を跳ね上げる。
    「きゃああっ! 冷たっ!」
     明彦に狙われて夢中で逃げようとする結衣奈だが、川の中では思うように速く動けない。笑いながら水を浴びせた明彦に対し、結衣奈は「やったな~」と反撃に出る。結衣奈によって川底から大量に蹴り上げられた水は、土砂降りの雨のように明彦の全身を濡らした。
    「ご、ごめんだよ! 加減間違えちゃったよ……」
     りんごと一緒に川の中を歩いて滝のそばまでやって来た翡翠は、改めて滝の大きさに感動する。
    「わあ、近くで見るとすごいですね」
    「滝もいいですけど、川ならやっぱり……さあ、いきますよっ♪」
     りんごは唐突に翡翠へと川の水を浴びせ、水のかけ合いを始める。いきなり背中に浴びせられる冷水に驚き、「ひゃあぁっ!」と叫ぶ翡翠の声が響き渡る。
    「や、やりましたね……お返しなのです!」
     あまりに驚いてしまった自分自身に恥ずかしさが込み上げながらも、翡翠は笑っているりんごにも水を浴びせかける。
    「きゃああ! 許してください、翡翠さんっ」
     お互いに笑い合いながらも、翡翠に執拗に狙われるりんごは音を上げる。
    「あはは、そういえば二人だけで遊ぶのは初めてですね」
     満面の笑みを浮かべる翡翠は、
    「とっても楽しいです!」
     りんごとこうして過ごす時間を素直に楽しいと思えた。
     水をかけるのをやめた翡翠の隙を突いて、りんごは翡翠に抱きつく。
    「ふぇっ!?」
    「うふふ……わたくしも翡翠さんと来られて楽しいですよ」
     りんごはそう言って露出している翡翠の肌をなで回す。
    「わわ、くすぐったいですよ!」
     翡翠は腹の辺りをなでられて身をよじる。
    「とってもすべすべですね♪」
     翡翠とのスキンシップに夢中になるりんごの体は、滝の方へと傾く。
    「あら……?」
    「あっ、りんごさん、そっちは滝がー!」
     しがみつくりんごを翡翠は支えようとしたが、2人の体は滝の中へと沈み込む。大量に流れる冷水を浴びて絶叫する2人は、抱き合いながら滝の中から脱出した。
    「だ、大丈夫ですか、りんごさん?」
     震えるほど冷たい思いをしながらも、翡翠はりんごを気遣う。
    「はー、びっくりしました……すごく冷たくなってますよ、翡翠さん」
     りんごは翡翠と抱き合ったまま浅瀬に座り込み、ひんやりとした翡翠の肌に触れる。
    「ごめんなさい、翡翠さん。一緒に温泉で暖まりましょうか♪」

     サーフパンツの水着を着た見崎・遊太郎は川へと入り、花宮・括を乗せたゴムボートを引いて歩く。
     括は白いバンドゥビキニの水着の上にパーカーを羽織り、ボートから降りずに、
    「水が綺麗だねぇ。冷たくて気持ちいい」
     足だけを川につけてぱちゃぱちゃと遊ばせる。滝つぼの方へと近づいていくと水深も増すが、遊太郎の膝くらいまでの深さだ。
     犬かきしかできないという括をボートに乗せている遊太郎は、「犬かきって、本当に狼っていうより犬みたいだねぇ」と括をからかう。
    「う、だって狼でしか泳いだことないんだもん……」
     括がすねたように話す間も、遊太郎は括の水着姿に見入ってしまう。胸元に視線を感じつつ、括も遊太郎の水着姿を前に視線が落ち着かない。
    「それにしてもボートの上だと暑くない?」
     遊太郎はボートのそばで膝を折って屈むと、
    「冷たい水で涼んでこその川遊びですよ……忍法水手裏剣ー!」
    「ぷっ!」
     遊太郎は括の顔目がけて不意打ちで水しぶきを浴びせる。
     括はボートの上に乗ったまま反撃しようとするが、怒り出す括を見越してすぐに避難した遊太郎には届かない。
    「……もう! これだから忍者はっ」
     届かない水しぶきを跳ね上げる括を見て、遊太郎はにこにこ笑う。
    「ふふっ、そんなに怒るとひっくり返るよ?」
     すると、括を乗せたボートは遊太郎の言葉通りにバランスを崩してひっくり返る。
    「あはは、だい……大丈夫ー!?」
     さすがに笑いごとではないような気がした遊太郎は、慌てて川の中を進み駆け寄っていく。
     ずぶ濡れになった括はゴムボートを蹴飛ばして起き上がり、遊太郎に向けて怒涛の反撃を繰り出す。
    「わぶっ!」
    「こうなったらもう! やり返すっ」
     全身ずぶ濡れになりながらも、括は笑いながら遊太郎に川の水をかけまくる。遊太郎も「やったなー」と負けずに応戦し、とても楽しそうな2人の水かけの応酬が始まった。

     イヴたちとサワガニ探しに夢中になっていた未光は、滝の方から聞えてきたりんごと翡翠の叫び声に振り返る。
    「あ……そうだ、滝! 結人くん。どっちが長く滝にうたれていられるか勝負しようぜ!」
     「冷たいからやだ」という結人の返事も聞かずに、未光はざぶざぶと滝へ向かう。
    「暮森先輩……さっきから真理亜のことばっか見てないか?」
     そう言うイヴは何か不満そうに結人を見つめる。
    「何かおかしいですか?」
     真理亜は特に気にしていなかったが、不思議そうに結人に尋ねる。
     イヴと同じで小学生離れしたスタイルの持ち主という印象は抱いていたが、結人はいやらしい目で見ていた訳ではないことを主張しようとする。
    「いや、脱衣所に眼鏡置いてきちゃったからよく見えなくて……」
    「そんなに目が悪いのか……て、それってよく見ようとしてるってことじゃないか!」
     イヴは納得しかけたが、不機嫌そうに頬を膨らませた。

    「はい、タオル」
     結衣奈は明彦にタオルを手渡し、川辺の岩の上に2人で腰かける。ずぶ濡れになった体を休めつつ、明彦は結衣奈が部長を努める『探求部』のことについていろいろ尋ねた。
     結衣奈は様々な知識を探し求め、集めることの楽しさを明彦に説く。
    「叡智を探求するのは知る程に世界が輝て見えるから」
    「勿論好奇心もあるけどね!」とウインクし、自身の考えを語る結衣奈。そんな結衣奈が明彦にはとても輝いて見えた。
    「守安さんはやりたいことってある?」
     明彦の質問に対し、結衣奈は一瞬考える。
    「俺は師匠の遺言で入学したから、明確な目標もないし……何を目指したらいいんだろうって、考えてはいるんだけど」
     結衣奈は「そっか……」と明彦の話を聞きながら空を見上げた後、明彦に視線を戻して言った。
    「前なら更なる叡智を、だったけどね。一度闇堕ちして救われた今は叡智という絆の力、その輪を広げられれば、だね」
     笑顔で答える結衣奈の言葉を噛み締めるように明彦はつぶやく。
    「世界の輝きと絆の力……良い言葉だ。嬉しいな、俺は守安さんをもっと好きになった」
     笑顔で見つめ返す明彦に照れながらも、結衣奈も満面の笑みで返す。
    「そう感じたのなら私も嬉しい」

    「ん? どうした、メイニー」
     メイニーヒルトは武流を露天風呂のへりに座るよう促し、湯船から出た膝の上に体を預ける。
    「ん、武流の膝の上……」
    「え?」
     膝の上へとやって来るメイニーヒルトのうなじが目の前に迫り、武流はドキッとする。
    「気持ちいい」
     湯船に足をつけながら満足そうに武流の膝の上に横になるメイニーヒルト。
    (「メイニー……肌、綺麗だな」)
     その肌の温もりにドキドキしながらも、武流は露天風呂からの景色を眺めていた。

     観月に誘われて露天風呂から川へと皆で向かうとき、
    「あのギィさん……」
     美久はギィにこっそり話しかける。
    「最後に2人きりで露天風呂に入りませんか」
     美久の誘いをギィは素直にうれしいと感じ、
    「うれしいお誘いっすねぇ。帰った後も楽しみにしといてください」
     ギィは何か意味深に微笑んだ。

    「ぎゃあああああ無理イイイイイ死ぬうううううっ!」
    「まだ10秒もたってませんけどねぇ……」
     滝行をするためにやって来た流希の隣りで未光も滝にうたれ始めたが、耐え抜こうという意志がまったく見られずすぐに音を上げる。
     温泉に入りながらその様子を見ていた燈は、こらえ切れずにエイダと一緒に笑い出す。
    「……ちょっと……ぼーっと、しますね……」
     そう言うエイダの顔は赤く火照っていて、燈は温泉からあがろうと促す。
    「えへへー、お顔真っ赤だ! 上がったらアイス食べて涼みにいこっか?」
     それぞれが思い思いに旅行を満喫していたが、燈にはこうして過ごす時間が、心にある辛い気持ちを和らげてくれる気がした。

    作者:夏雨 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月22日
    難度:簡単
    参加:19人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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