1度目の願いは苛められている所を助ける事だった。
2度目の願いは逃げる苛めっ子達を捕まえる事だった。
そして3度目は――。
「もう二度と、そいつらが僕を苛めないように……」
カランと目の前にナイフを放り投げられた。
そこはとある中学校の屋上。
苛められていた少年は突如現れたお嬢様のような恰好の少女に助けられ、苛めっ子の2人組は少女によって少年の前で正座させられていた。
少女は華奢な外見からは想像もできない程強く、そして底知れぬ『怖さ』を持ち合わせていた。
「そのナイフで彼らの足を刺しなさい。大丈夫、それで死ぬわけじゃない……もちろん、痛みは当然あるでしょうけど」
少女の言葉に正座の2人組が顔を青くし、苛めていた少年に懇願を開始する。
少年は苛めっ子達の懇願に「今まで僕が謝っても止めてくれなかったくせに」と憤りが湧き出し、感情のままにナイフを拾う。
「そう、それで貴方の望みは叶う……ふふ……」
お嬢様姿の少女は、そう静かに笑う。
渡したナイフには透明な致死性の毒が塗ってある。少年は自身を苛めた2人を殺し、すぐに自らの行いに苦しむ事になる……だが、それで良い。
望みを果たしたなら……次に待つのは多大な代償なのだから。
「みんな、急ぎ集まってくれてありがとう」
教室に集まった灼滅者達を見回しながら鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が言う。
「今回みんなにお願いしたいのは、闇堕ちした学園の仲間が起こす事件の阻止よ」
闇堕ちした学園の仲間、名はマリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)。六六六人衆は鬼哭燕斬との戦いで闇堕ちした元灼滅者。
「彼女はとある中学校の屋上にいるわ。そこで苛めっ子2人を、苛められていた子に殺させようとしているの」
それを放置すれば苛めっ子2人は殺されるし、もし助けても放置していたら後でダークネスのマリナが殺害してしまうと言う。
「彼女はまだ完全なダークネスになってないの。ただ、もし今回のチャンスで彼女を逃すようなことがあれば……完全にヴァンパイアになるわ」
そうなったら彼女は朱雀門やASY666へ合流する可能性すらある。
皆が件の学校の屋上に着いた時は、ちょうど少年がナイフを拾うタイミングらしい。一般人を助けるなら即座に動く必要があるだろう。
「彼女の説得には幾つか注意点があるわ。逆効果になってしまう説得内容と、効果的な説得内容があるみたいなの」
もちろん、薄っぺらく聞こえるような内容では逆効果だし、逆にマリナがかつてできなかった事を体現するようなのは効果的だろう。
そして、説得を他人に任せた場合はダークネスにより「何の為に此処に来たのか」と責められると言う。参加するなら、そこも覚悟しておく必要があるだろう。
説得が成功すれば弱体化するが、失敗すれば……かなり、厳しい。
戦闘になった場合、彼女はクラッシャーとして戦うらしい。武器は血を纏わせた日本刀とオリジナルのサイキック。
「日本刀を使うのは……マリナさんを苦しませようとするダークネスがわざと使っているみたいなの……」
それは未だに心を苦しませるある事例と、堕ちるきっかけとなった鬼哭燕斬との戦い、その2つに共通するからだ。
ちなみに見た事の無いサイキックは血液をぶちまけ身を守る技と、逆に相手にぶちまけトラウマを引き起こす技との事だ。
もちろん、それ以外にダンピールや日本刀、影業にシャウトに似たものを使うと言う。
ダークネスたる彼女はトドメも躊躇しない性格だが、今回はそこに1手番は使わないと言う。
「灼滅者の人格は、今もダークネスの中で抵抗を続けているみたいだけど……説得に失敗すると、中のマリナさんによる抵抗が消失しダークネスは早期撤退を実行するわ。抵抗が無くなったダークネスを止めるのは……かなり、困難よ」
説得に成功さえすれば、そんな事にはならないのだが……。
「それともう1つ、戦闘時にはどこからか彼女が眷属にした野犬2匹が現れるわ」
犬は解体ナイフに似たサイキックを使ってジャマーポジションで行動するのが1匹と、護符揃えに似たサイキックでメディックポジションで行動するが1匹、クラッシャーの灼滅者4人で戦えば難なく2匹とも倒せる程度の強さだと言う。
ダークネスを弱体化できていればさほど問題無いだろうが、失敗している場合は……かなり辛い戦いになるだろう。
「だから……一応、琢磨先輩も呼んでおいたわ」
珠希が集まる灼滅者の中に混じっていた荒木・琢磨(大学生ご当地ヒーロー・dn0018)を視線で指差し、琢磨もコクリと頷く。
と、珠希はそこで一度言葉をきり、集まった灼滅者達を真剣な表情で再度見回し。
「どう説得するか難しい所だと思うけど、覚悟が必要な事だけは忘れないで」
参加者 | |
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式守・太郎(ブラウニー・d04726) |
七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504) |
緑風・玲那(緋閃葬翼・d17507) |
薛・千草(パワースラッガー・d19308) |
千凪・智香(名もない祈り・d22159) |
黒影・瑠威(二律背反の闇と影・d23216) |
シェスティン・オーストレーム(小さなアスクレピオス・d28645) |
驪龍院・霞燐(黒龍の神子・d31611) |
●
とある中学校の屋上で、正座した2人組の中学生の前に立つ少年がナイフへと手を伸ばす。
それを楽しい催しでも観るように、その場にいた少女が笑みを浮かべ――。
灼滅者達がそこに到着した時は、まさにその瞬間だった。
「(マリナは何度も共に戦った信頼すべき仲間……救出に最善を)」
式守・太郎(ブラウニー・d04726)が飛び出しつつ覚悟を決め、七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504)は風下や死角の目星をつけ走りながら野犬を警戒、シェスティン・オーストレーム(小さなアスクレピオス・d28645)が仲間達をフォローできるよう位置を気にしつつ、千凪・智香(名もない祈り・d22159)がいざという時に狙撃できるよう射線が通る位置へ。
そして、灼滅者達は瞬時に少年達とそこに立つ少女――闇堕ちしたマリナの間へと割って入った。
かつてマリナだったダークネスが、六尺程の鋒が諸刃になる大太刀・穿牙刃を持つ黒影・瑠威(二律背反の闇と影・d23216)の視線を正面から受けつつ僅かに呟く。
「灼滅者……のようね」
ダークネスはそのまま視線を奥の少年に向けようとし、ザッと視線すら通さぬと驪龍院・霞燐(黒龍の神子・d31611)と薛・千草(パワースラッガー・d19308)が割り込み、逆にダークネスに背を向け少年の方を向くは緑風・玲那(緋閃葬翼・d17507)、ここからが……大事な所だった。
●
「な、なんだよ」
突如現れた灼滅者達に苛立ちを含んだ声を上げるのはナイフを手にした少年。
だが、灼滅者達の動きは速やかで宥氣と鎗輔が、悠花と要がそれぞれ正座をさせられていたいじめられっ子を抱えると、即座にその場を離脱。
「お、おいっ!」
慌ててナイフの少年が叫ぶが、その顔の前にカードを指に挟んだ玲那の手がシュッと伸ばされ。
「風よ、癒し手の羽衣を纏い戦友に光の道を示せ!」
一瞬で白を基調とした法衣の姿に変わった玲那に、少年が驚き言葉に詰まる。そして玲那はその機を逃さず。
「そのナイフ……毒が塗ってあったら怪我だけでは済みませんよ?」
「……え?」
虚を突かれた少年、そこに鞠音が更に言葉を乗せる。
「今までの貴方の全て、痛みも、怖さも、弱さも、後悔も、それらは貴方の物です。だから、彼らを許してあげて下さいませんか?」
「え、な、何を……」
玲那の説得が始まり、その様子をダークネスの警戒をしつつ、しかし少年の方にも注意を払うは智香と千草の2人、智香はいざという時はナイフを狙い撃ちし弾こうと狙いをつけたまま、そして千草はもたもたするようなら怪力無双を使ってでも強引に手伝おうと考えていた。正直、千草にとって今回の少年の件は内心複雑な気持ちにさせる……だが、それで集中力を乱すかと言われれば、否、だ。
「貴方の、その気持ちは分かるよ……でも復讐は貴方や周りに悲しい思いを増やすだけ」
玲那の説得が終わり、少年がうつむく。
「ナイフを放してくれませんか?」
カラン……乾いた音を立ててナイフが床に落ちる。
「あとは俺らが」
泣き出す少年を琢磨が抱え、その護衛に有無が付き、そのまま2人は少年と共にその場から離脱。
まずは第一段階、そう思い玲那が振り返れば、太郎と瑠威、そしてシェスティンがダークネスの相手をしていた。少年がいる間は本格的な戦闘にならぬよう手を出さず、しかしダークネスの遊びのような攻撃に身を持って盾となって……だが、その行動は無駄ではなかった。
ダークネスの前へ出るは霞燐、刺激し過ぎぬよう手を出さなかったのもここまで。
「漆黒龍の加護を、私に」
漆黒の甲冑ドレスを纏う霞燐に続くよう、殲術道具を解放していなかったメンバーが次々にカードを解放する。
「代償を払わず逃がすなんて……どうやら貴方達、私の邪魔をしたいみたいね」
ダークネスがそう言うと共に、屋上にある給水塔の影から音も立てず2匹の野犬型の眷属が現れる。
そして、作戦は第二段階、マリナの説得へ……。
●
マリナの説得に際し邪魔な存在はもちろん眷属の野犬達だった。灼滅者達はダークネスの相手もしつつ、まずは回復をメインとする野犬に集中、そして――。
「今だ!」
ヴェルグが襲いくる野犬の牙を横にしたアンサズで防ぎ、その後ろから掛け声と共に飛び出した知信が戦艦斬りで両断、即座に残ったもう1匹に毬衣がオールレンジパニッシャーを、パーカーの青年がデッドブラスターで攻撃を開始、2匹目へと他の者も一斉に集中砲火を開始したのだった。
仲間達が眷属と戦う中、灼滅者達はマリナへの語り掛けを行なっていた。
ダークネスの刀の斬撃を、宙にトンボ返りし交わした鞠音が告げる。
「その刃を見れば、貴方は思い起こすのでしょう」
「ふぅん……この刀?」
ダークネスが面白そうに鞠音を見る。
「それには、遺志が、息吹がある……なればこそ、それは貴方を束縛してはならない」
鞠音の言葉に、ダークネスの持つ日本刀が重要かと考えていた幾人かが耳を傾ける。
「その通り、コレはマリナを束縛している……でも、絆や何かだと思っているなら違うわよ?」
笑み、ダークネスは嗜虐の笑みを浮かべ言うのだ。
「コレは私の可愛いマリナを苦しめる為に使っているだけ……あの子の心を追い詰める為に、ね」
それはエクスブレインが言っていた通りだ。だが、もしこれがポイントだと思いこの後に説得を続けていたら……だからこそ、鞠音はどちらとも取れる問いかけをし。そして。
「そう、でしょうね……あなたは、敵ですから」
「そうかしら?」
「なぜなら……雪風が、敵だと言っている」
言うと同時、バスターライフルの雪風を撃ち放ち、ダークネスがかわしきれずに肩を焦がす。
「ふぅん、それなら貴方達は、私ごとあの子も灼滅するつもりかしら?」
「それは違う!」
間髪入れずに断言したのは玲那だ。
「マリナさんは……悪戯好きだけど、人に気遣いが出来る人、マリナさんが居なくなったと聞いて私は寂しかった。だって、マリナさんの元気な姿を見る度に少しだけ励まされてきたから……」
玲那に続き「私もです」と言葉を引き継ぐは智香。
「悪戯ばかりのマリナ様が本当はお優しいの、知ってます。でも一番は、あなたがいないと寂しいんです。マリナ様としたいこと、してないこと。いっぱいあるんです」
胸の奥から湧き出る気持ちを言葉に乗せて智香が言う。
「だから、マリナ様……一緒に帰りましょう。また悪戯するあなたに会いたいのです」
「マリナちゃんに戻ってきて欲しいと願っている人はいっぱいいるんだから!」
ダークネスへ飛び込み日本刀型片刃駆動鋸刃の龍爪で斬りかかりながら霞燐が叫ぶ。
「勿論私も、もっとマリナちゃんと遊びたい! だから、しっかり目を覚ましてよっ!」
「くだらない……」
ダークネスが灼滅者達を見下し呟く。
「仲良しこよしのオママゴトの続きがしたいだけ? そんな都合の良い人形、尽くす娼婦役が欲しいだけなら、私の可愛いマリナを使わないでくれないかしら」
まるでマリナの事を解っていないとでも言うようなダークネスの痛烈な言葉に、思わず言葉を飲み込む。そこに割って入るはクラブ等の接点の無い太郎だ。
「俺は依頼以外に接点は無かったけど……それでも解ります。人形なんかじゃダメなんです。俺もマリナに何度も助けられました。ここに来た仲間だって皆同じです」
「それこそ……マリナの必要は無いでしょう? あの子の居ない今だって、貴方達は助け合って戦っているのだから」
ダークネスが口を開く度、マリナの心が離れていくような錯覚に陥る。
そんな中、ゆっくりと、しかしハッキリした口調でとつとつと語り始めるはシェスティン。
「マリナお姉さん、依頼に行く前、私に、診察の予約、していきました」
声こそ小さくとも力強い声音にダークネスがシェスティンを見る。
「強敵を倒しに、行くから、帰ってきたら治療して、って。でも、マリナお姉さん、なかなか来ないから、迎えにきちゃいました、です」
その瞳に映るは強い意志。
「あの後、私の診療所、出来たんですよ。月隠堂からすぐ近く、です。準備、万端なんです……」
「なにを……!」
僅かに動揺するようにダークネスが呟く。
「こんな……こんな、予約キャンセルは、望んでません。だから、帰ってきてください。約束、守ってください……寂しい、です……」
「黙りなさい!」
代りの人形で、と反論できずダークネスがシェスティンへと一足飛びに間合いを詰め、そのまま上段から刀を振り降ろす。
ガッ!
その刃を受け止めたのは千草だ。だが、予想以上のダークネスの膂力に防ぎ切れず肩口まで刃がめり込み、そのまま千草は血を流しながら前のめりに倒れる。
「千草……お姉さん」
「この程度で倒れるなんて……ふふ、覚悟が足りないのではないかしら?」
クスクスと笑うダークネス。
だが。
「我慢して……らっしゃったのですね」
ぐぐぐと肉体の限界を超え立ち上がりながら千草が言う。それは魂の力。
「で、でも……マリナさんがいない寮は寂しくて味気ないから。……それに、私、いやしんぼうですから、一緒に帰るって言ってくれるまで、何度だって……」
千草が立ち上がるのを苦い顔でダークネスが睨み。
「確かにマリナは彼を助けられなかった……それはもう覆らないし変わらない。もしかしたら手が届かなかったかもしれない……」
シュルシュルと髪に巻き付いていた藍色の帯――護鎧剣を展開しながら瑠威が言う。
「でも、だからって諦めて手を伸ばさいないの? もっと甘えていいんだよ? 少なくともここに……手を伸ばして欲しい人がいる。人達がいる」
完全に護鎧剣を展開し、真正面からマリナを瑠威は見る。
「大丈夫、マリナには帰る場所がある。子供は迷惑を掛けるものだから……みんなマリナを待っている、だから私の元へ帰っておいで」
「黙りなさい。私の可愛いマリナはもうそんな所には戻らない、帰らないというのが解らないのかしら?」
「解らない。それに、家を出たいならちゃんと私に言ってから……勝手な家出は、絶対に許さない!」
●
仲間のサポートも有り眷属も灼滅され、戦いはダークネスとの1対多の戦況へと移っていた。だが、説得がどこまで効いたのか、少なくとも手に取るような弱体化は見られず、そして1人になったダークネスはまるで本気になったかのように苛烈な攻撃を繰り返してくる。
「いいかげん……っ!」
ダークネスが刃を振るうと同時、血液がアーチ状に尾を引き前衛達を飲み込む。何度目かの攻撃、さすがの灼滅者達も限界が見えて来た者も多く、霞燐と千草がドサリと倒れる。
「はぁ……はぁ……これで2人」
荒く息を吐きつつダークネスが笑みを浮かべ――た、その表情が即座に強張る。
ガシャン、と龍爪を杖のようにし霞燐が立ち上がり始めたからだ。
「悪戯好きで……みんなを、楽しませてくれたり。迷惑をかけたらちゃんと謝ってくれたよね……いつも元気なマリナちゃんに、ここまで深い闇があるなんて、知らなかった……助けれたかもしれないけれど、手が届かなかなかったのは……辛い、よね」
魂が肉体を凌駕し完全に立ち上がった霞燐が再び龍爪を構え断言する。
「絶対に助けるよ。闇に堕ちたままなんて許さないから!」
「チッ……なら、先にこちらを殺してあげましょう!」
舌打ちしたダークネスが倒れたままの千草に駆け寄り、その首を斬り落とそうと振りかぶる。
誰もが息を飲む。
だが――。
ピクリと止まり、周囲を見回し。
「もし……私と、私の可愛いマリナが、この子にトドメを刺したら……あなた達はどうするのかしら?」
「それは、ない、です」
断言するシェスティン。苦々しい顔へと変わるダークネス、そしてシェスティンは続ける。
「もし、トドメ、刺して来た、としても……みんな、覚悟を決めてます。覚悟を、決めていれば、迷わない、です」
「嘘を……おっしゃい。不利になれば、誰かが殺されれば、あなた達は逃げ帰るのでしょう? 私はわかってるの……あなた達は――」
「逃げたりはしません」
「ッ!?」
智香の言葉にダークネスが言葉を飲み込む。
「マリナ様に聞いて欲しいこと、見て欲しいこと。あるんです。だから、何があっても……逃げません」
「………………」
「私は月隠堂にお世話になる事になってます。私は自分のクラブを作りました。他にもいっぱいあります。だから……一緒に帰えりましょう、マリナ様!」
気持ち一閃、その言葉と共に棒立ちだったダークネスに智香の鬼神変と霞燐の騒音刃、シェスティンの断罪転輪斬が命中、グラリとよろめくダークネス。
「あの先輩の件は俺も一生引き摺っていくんだと思います」
ヨロめくダークンスに接敵し語るは太郎、そして。
「ああ、自分を責めるなとは言わねェ」
「でも、失う辛さを知っているなら、同じ事を繰り返してはいけない」
錠が、理利が太郎の後に続くように攻撃を命中させる。
「くっ……」
「俺達はこれからも失敗し、無力感に苛まれる時もあるでしょう。それでも……幻でも、答えてくれた先輩の為、手を伸ばす事だけは諦めたくない。だから、俺はマリナを信じています。また共に、仲間として戦える事を」
「黙りなさい!!!!!」
ダークネスの足元から影の刃が生まれ、瞬後、その刃は太郎へ。
しかし、その影に貫かれたのは太郎でなく、咄嗟に前に出て庇った玲那。
ズルリと影が戻り引き抜かれると共に玲那が倒れる。
「今度こそ……」
倒れた玲那の横を通り過ぎ、再び太郎と狙おうと歩を進めるダークネス。
だが――。
ガッシ。
足首が掴まれた。見下ろせば致命傷を受けたはずの玲那だ。
「必ず……連れて帰る! 皆の、為に!」
「ッ!」
「マリナさん……鬼哭燕斬は、灼滅されました。今居る皆も学園で待つ皆も、貴女の帰還を待ってる。だからお願い、私達の声を聞いて!」
凌駕し再び立ち塞がる玲那。
「あの子が堕ちるキッカケになった六六六人衆……でも、本当に灼滅されたのかしら?」
「いいえ、本当です。これが……証拠です」
舞が鞘に入ったままの日本刀を突きつけ言う。それは鞘も唾も、確かにあの六六六人衆のものだ。ダークネスの苦し紛れの嘘が簡単に破られる。
「くぅぅッ! どきなさい!」
下唇を噛みしめ、玲那を振り払おうとするダークネス。だが、玲那も今この時がチャンスだと解る。だから。
「ヨルズよ、力を貸して!」
左腕に纏うは雷精の縛霊手、その手でダークネスの右手――日本刀を持った手を掴む。
「己の闇に負けるんじゃ、ない!」
「この――」
その時、ダークネスの目前へと迫るは鞠音の影。
「コレは過去です」
振りかぶるは雪風。
「今を生きる過去を、思い出と、絆と言います。絆は、前へ征く貴方を支えます」
ダークネスが強引に刀で雪風を受けとめる。
「しかし、過去は貴方の足を掴む。絆を捨て、自らを傷つける過去を絆と呼ぶのなら」
渾身の力を込める鞠音。
「捨ててしまいなさい」
――バキンッ!
ダークネスの持つ日本刀がへし折れ、刃先の半刃がクルクルと宙に舞い大地へ突き刺さる。
「マリナは……私のもの……あの子は、私の中で眠れば良いの……」
手で顔を押さえヨロヨロと後ずさるダークネス。
「マリナさん、諦めないで! 諦めずに手を伸ばして!」
「いつまでも……引き籠ってないで……さっさと……帰るぞ」
静音と零桜奈からかけられる言葉に、ダークネスは嫌々と首を振り。
「あの子は苦しみから……解放される、それで……それでいいのに!」
とん、とヨロめくダークネスの背に何かが当たる。振り向けばそこにいるのは黒鉄のガントレット・殲煌影を構えた瑠威。
「うん、日本刀は絆なんかじゃなかった……それはそうだよね。だって――」
振りかぶり一気にダークネスを殴りつけ、同時、魔力が爆発する!
「本当の絆は……ここに、ある!」
●
マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)が目覚め、最初に視たのは玲那と霞燐の顔だった。そしてすぐに。
「まったく……あなたは」
瑠威に抱きしめられた。
帰って来た実感に感謝しつつ、改めて周囲を見回す。シェスティンや千草、クラブの皆ばかりでない、過去の依頼で一緒だった太郎たち、さらには初めて見る人達まで……。
「私も、ある意味で、過去に囚われているのかもしれません。けれど……」
「ええ、マリナ1人が全てを抱え闇に堕ちていい筈がない」
鞠音と太郎がそう呟き、黒絵と十十十が帰って来てくれてよかったと喜ぶ。
スッとマリナの服の袖が掴まれ。
「依頼は今回が初めて、だったから、本当は、とても緊張したし不安だったのです。でも、大好きなマリナ様のために、頑張りたいと……ですから」
智香が安堵するように微笑む。
「奇跡は……起こせたのです」
それが奇跡だったのか必然だったのかはわからない。
ただ少なくとも、絶対に連れて帰るまで逃げたりしない、その覚悟が……彼女を作ったのは確かだろう。
望みの代償は、覚悟でのみ支払われる……の、かもしれない。
作者:相原あきと |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年8月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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