臨海学校2015~佐渡ヶ島の暑い夏

    作者:ライ麦

     廃坑というのは、どこか洞窟に似ている。剥き出しの岩肌はゴツゴツとして、夏でも空気はヒヤリと冷たくて。それは、ここ佐渡ヶ島の佐渡金銀山の廃坑でも同じ――はずだった。今や其処は、廃坑の中とは思えないほどの熱波に覆われていた。おそらく40度は超えているだろう。その熱波の中、様々な熱帯植物が繁茂し、さながらジャングルと化しつつあった。それでもまだ飽き足らないというのか。廃坑の奥深く、今や掘る人がいなくなった坑道を、或る植物型の怪物がさらに深く掘り進んでいた……。

    「暑い……毎日暑い、ですね」
     桜田・美葉(桜花のエクスブレイン・dn0148)はややげんなりとした様子で教室に入ってきた。頭には麦藁帽子、片手に水のペットボトル、もう片方の手には桜柄の扇子を持って、しきりに扇いでいる。
    「けれど……新潟県の佐渡ヶ島は、今もっと暑くなっているようなんです。北陸にあるんですし、涼しそうなものですが……なんだか今、異常な熱波が発生していて」
     単なる異常気象とかではない、と美葉は続ける。
    「というのも、それと平行して、佐渡金銀山の廃坑がアガルタの口と化そうとしているんです……あ、覚えていらっしゃる方も多いでしょうけれど、一応説明しておくとアガルタの口っていうのは、軍艦島攻略戦で地下に現れた謎の密林洞窟の事で……」
     つまり、早い話が、廃坑がジャングルと化しているということ。
    「もしかしたら、ダークネスの移動拠点となった軍艦島が、佐渡ヶ島に近づいてきているのかもしれません……北陸周辺で発生していた、ご当地怪人のアフリカン化の事件も、これが原因かも」
     放っておくと、佐渡ヶ島全体が、第二の軍艦島になってしまうかもしれない。
    「この事件を解決するため、佐渡ヶ島で臨海学校を行う事になったんです。やっぱり戦い絡みの臨海学校になってしまって申し訳ありませんが……どうか、ご協力をお願い致します」
     そう言うと、美葉は麦藁帽子を押さえて深々と頭を下げた。
    「皆さんにはまず、佐渡ヶ島の廃坑を探索してもらって、アガルタの口を作り出している敵を撃破して欲しいんです」
     佐渡ヶ島の廃坑は無数にあるようなので、探索を行う灼滅者は、それぞれ別々の廃坑を探索することになる。アガルタの口は廃坑跡地に点在しており、その最奥には『スイカ畑』が広がっている。そこで成長したスイカから『スイカ型の眷属』が多数生まれ続けている。こいつが佐渡ヶ島の移動拠点化を行おうとしている敵だ。
    「スイカ型の眷属は、スイカに目と口がついたものを想像してください。それが浮遊しながら、ガシガシ噛み付いてきます」
     美葉は黒板にあまり上手くはないイラストを描きながら説明する。
    「正直、そんなに強い敵ではありませんが……数が多いので、少々面倒かもしれませんね」
     それでも、廃坑奥のスイカ型の眷属を全滅させる事ができれば、廃坑のアガルタの口化を阻止する事ができる。なお、眷属化する前のスイカは、普通に食べられるので、そういったスイカが残っていれば食べるのもOKだ。
    「さて、敵を撃破した後ですが……申し訳ありませんが、皆さんにはもう一つ仕事をお願いしたいんです。敵を倒したら、軍艦島の襲来に備えて、佐渡ヶ島の海岸でキャンプを行ってください。というのも、佐渡ヶ島のアガルタの口が撃破され、さらに多くの灼滅者が集まっている事を知れば、軍艦島のダークネス達も計画の失敗を悟って撤退していくでしょうから」
     尤も、そう気負う必要はない。海水浴などしながら、臨海学校を楽しめばOKだ。アガルタの口を作り出している敵を撃破しても、24時間の間は、佐渡ヶ島は40度以上の熱波が続くので、海水浴にはもってこいだろう。幸い、気温上昇が急激であった事から、海水の温度はそこまで上昇していないし。
     無事に、佐渡ヶ島のアフリカ化が阻止され、気温が普通の夏の気温に戻ったら、臨海学校終了となる。
    「楽しい臨海学校が、ダークネスの陰謀に邪魔されてしまったのは悔しいですが……アガルタの口の制圧を行った後は出来る限り臨海学校も楽しんでくださいね!」
     そう言って激励した後、美葉はふと心配そうな表情になる。
    「……あ、でも、40度を超える熱波の中での依頼になるんですよね……ど、どうしよう熱中症とか……あ、いや灼滅者なら熱中症になる事は無いんだっけ……で、でものど渇いちゃうだろうしやっぱり心配だし……と、とにかく、水分補給と塩分補給は忘れずにね!」
     と、実際に行くわけではない彼女の方がわたわたしつつ、机の上にどかんと大量の飲料水と塩飴を置いていったのだった。


    参加者
    伏木・華流(桜花研鑽・d28213)
    海弥・有愛(灰色の影・d28214)
    琴宮・総一(子犬な狼・d28217)
    神宮寺・柚貴(不撓の黒影・d28225)
    御巫・夢羽(明日もいい日でありますように・d28238)
    ハンナ・ケルヴィリム(自由気ままの子猫・d30176)
    エリザベート・ベルンシュタイン(勇気の魔女ヘクセヘルド・d30945)
    依代・七号(後天性神様少女・d32743)

    ■リプレイ

    ●坑道のジャングル
    「私、日本の海も、臨海学校も初めてなの。思い切り楽しむわよ!」
     エリザベート・ベルンシュタイン(勇気の魔女ヘクセヘルド・d30945)が、目を輝かせて言う。神宮寺・柚貴(不撓の黒影・d28225)も頷いた。
    「あぁ、せっかく来れた佐渡ヶ島、さっさとスイカのバケモン共ぶっ飛ばしてみんなで楽しむで!」
    「そうそう、楽しい臨海学校にしたいから、早くスイカお化けを灼滅して遊ぶんだよ~」
     黄色い水玉のビキニに白いパレオ。既に準備万端なハンナ・ケルヴィリム(自由気ままの子猫・d30176)もにこにこと相槌を打つ。スイカお化け。その響きに、琴宮・総一(子犬な狼・d28217)は思わずぶるっと震えた。
    「スイカのおばけ、って考えるとちょっと怖いですね……」
     呟きつつ、ちらとこれから探索する坑道の中を見やる。廃坑というだけあって灯はなく、ぽっかりと暗い口が開いている。それも怖い。
    「その、何とか頑張って、出来るだけ早く終わらせたいですね、怖いので……」
     ぷるぷる震えながら、やっとそれだけ言う。そう、とにかくこの坑道を探索してスイカ型眷属を探し出し、灼滅しないことには始まらない。一行はいざ、廃坑の中に足を踏み入れた。手持ちの灯で照らしてみれば、ゴツゴツとした岩肌にはつる性の植物が這い、地面からは様々な熱帯植物が繁茂している。それだけでも異常だが、何より異常なのはこの暑さである。むわっと熱気が押し寄せ、立っているだけでも全身から汗が吹き出てきた。
    「聞いてはいたが……本当に凄まじい暑さだな」
     伏木・華流(桜花研鑽・d28213)は滲み出た汗を拭く。暑さ対策に水着は着てきたが、それでも暑い。
    「私は涼しいのは得意だが……暑いのは……」
     そう呟く海弥・有愛(灰色の影・d28214)も、既に赤い水着の上に黒く薄いドレスを着た状態だ。そんな薄着であっても汗だらだらで、ドレスが濡れて肌に張り付いている。恋人のそんな姿に、柚貴は思わず顔を赤らめて目を逸らした。金髪で一見軽そうに見える彼だが、実のところ初心なのだ。尤も、彼女に限らず多くの女子が水着を着てきている。彼にとっては少し、目に毒な光景だ。
    「何にせよ、ジャングルを辿って行けば問題なく最深部につくはずだ……ちょっと植物が邪魔だから排除しながら行こう」
     華流が発破をかける。頷き、一行は生い茂る植物をぶちぶちとちぎったり、薙ぎ払ったりしながら進んでいった。
    「は、離れないでくださいね!? 離さないでくださいね!?」
     総一はびくびくと皆にひっついて歩く。
    「ええ、大丈夫ですよ置いてったりしませんから……それにしても……想像以上の暑さ……です……」
     有愛が持ってきてくれた凍らせた飲み物をシェアして飲み、貰った塩飴を舐めながら、それでも御巫・夢羽(明日もいい日でありますように・d28238)はぐったりと進行した。
    「40度って正気じゃないですよ……はやく、はやく倒して出ましょう」
     無表情ながらにげんなりした様子で、依代・七号(後天性神様少女・d32743)も歩く。
    「はぁ、暗いし暑い……夢羽さん、扇いでください」
    「なんでですか」
    「だってちょうど後ろにいますし」
     実際光源を持っている七号の後ろを夢羽は歩いていた。その代わり、足元は夢羽が注意して見ているが。
    「もー、仕方ないですね」
     夢羽は軽くため息を吐きながらぱたぱたと扇ぐ。生ぬるい風が広がった。
    「扇がれてもあつい……もういいんでやめてください」
    「理不尽です!?」
     そんな話をしながら歩いているうちに、ふと目の前が開けた。見れば、そこには大量のスイカがごろごろと実っている。その上をふよふよと目と口のついたスイカがいくつも浮遊していた。気配に気づいたのか、一斉に浮遊するスイカ達がこちらを見る。灼滅者達もカードを解放し、戦闘態勢をとった。
    「勇気の魔女ヘクセヘルド、ここに参上! ……って、うん、ヒーローが必死にやるような戦いじゃないかもしれないけどっ」
     魔女っ子風ヒーローに変身したエリザベートがビシッと武器を突きつけ、口上を述べる。戦いが始まった。

    ●スイカ割り大会
    「ス、スイカアアアアアアアア!!」
     有愛が景気よくクロスグレイブ「アウス・ヴァール」の全砲門を開放し、罪を灼く光線を乱射する。
    「よし、行くで有愛ちゃん! さっさと片付けて海や!」
     彼女とタイミングを合わせ、柚貴もマテリアルロッドを手にスイカに殴りかかった。
    「これを終わらせないと、臨海学校にならないからな」
     華流が縛霊手から霊的因子を強制停止させる結界を放つ。ウイングキャットの「サクラ」もあくびしながら猫魔法でスイカの動きを阻害した。
    「覚悟はいい? いくよっ!」
     エリザベートが妖の槍「Brave Eagle」から冷気のつららを撃ち出す。
    「ドンドン涼しくしましょう。冷凍スイカとかおいしいらしいです」
     七号もスイカ達の持つ熱量を急激に奪い、凍りつかせた。
    「そうだね~、暑いし」
     ハンナも頷き、同じく氷をもたらす魔法を周囲にかける。
    「これで少しは涼しく戦えるでしょうか、ね」
     夢羽も一斉にスイカを凍らせながら呟いた。凍ったスイカは視覚的にも涼しい。心なしか温度も若干下がったような気がする。その凍ったスイカを、総一はウロボロスブレイドを振り回して遠くから切り刻んでいった。
    (「スイカですからね、切っちゃえばどうということは……ないと思いたいです」)
     尤も、スイカ型眷属の方もやられてばかりではない。ダメージを受けてふらふらしながらも、一斉に灼滅者達に向かって飛び掛ってきた。華流とサクラがその前に立ちはだかり、攻撃を受け止める。仲間が攻撃しやすいように弾き、
    「さぁ、今だ!」
     華流はシールドを広げながら声を上げる。サクラもリングを光らせ、その支援を受けながら柚貴はスイカに踊りかかった。
    「大人しく……割られて、砕けろォッ!」
     殴りつけると同時に魔力を流し込み、内側から爆破させる。スイカは果汁を撒き散らしながら四方に飛び散った。
    「スイカなんかにやられるわけにはいかないからねっ! Pfeil Regen ――降り注げ光よ!」
     エリザベートが放った魔法の矢がスイカを貫き、地に落下させる。七号も空間から無数の刃を召喚し、先ほど凍らせたスイカを食べやすいサイズに綺麗にカット。……尤も、食べるのはコレじゃなくて眷属化してないやつだが。
     有愛も右手を紅い刀に変え、無駄にスイカの黒い線をなぞるように斬っていく。大分スイカ型眷属も減ってきた。それでもスイカ達は果敢にガシガシと口を動かし、襲い掛かってくる。その攻撃をいなし、夢羽は結界を構築した。
    「残念でした!」
     動きを阻まれたスイカがぽとりと地面に落ちる。総一も近づいてきたスイカを、すかさず手にしたバイオレンスギターで思い切り殴りつけ、叩き割った。
    (「……でもギターがべとべとになるのはやだなぁ……」)
     無事に撃退できたもの、返り果汁を浴びたギターを見て総一はため息をつく。後で綺麗に拭いとこう。
    「よし、捕まえたよ!」
     ハンナも縛霊手の一撃でスイカの動きを阻害する。その一撃で、力なく一体のスイカが地に転がった。残っているスイカ型眷属も残り数体だ。灼滅者達は力を合わせ、それらを確実に屠っていき――やがて、スイカ型眷属は全滅した。後は残っている普通のスイカをお持ち帰りするのみ。
    「これ食べても大丈夫なスイカだよな……」
     目も口もついてないことを確認しながら、華流は有愛が持ってきてくれた台車にスイカを入れていく。
    「甘いのがなってるといいな~」
     ハンナはワクワクした面持でスイカを収穫していった。
    「音である程度分かるみたいですよ」
     夢羽がぽんぽんとスイカを叩きながら言う。よく響くスイカが良いスイカ。重いので、小玉ではあるが音のよく響くスイカを二つ厳選し、小脇に抱えた。
    「いっぱい持って帰りましょう」
     七号もそう言いながらどんどんスイカを台車に乗せていく。気づけば台車はスイカでいっぱい。
    「こんなにたくさん……食べきれるか?」
     有愛は首を傾げるが、ともあれ一行はたくさんのスイカをお土産に、坑道を脱出したのだった。

    ●俺達の臨海学校はこれからだ!
    「よーし、戦い終わったしビーチバレーや!」
     柚貴は海に着くと、アイテムポケットや手持ちのバッグなどを駆使して持ってきたビーチバレーの道具を広げる。
    「ビーチバレーをするのね、私初めて!」
     エリザベートがウキウキとそれらの道具を覗き込む。ホントは暑いから海に入りたい……という気持ちを押し殺し、夢羽も
    「よ、よーし、頑張りましょう! ……自信はないですけれど」
     と軽く拳を握ってみせた。
     皆がビーチバレーの準備をしている間、華流はスイカを網に入れて杭でつなぎ、海に流しておく。こうしておけば、遊び終わる頃には冷えているはずだ。
    「終わったら食べるから、しっかり見張っておくんだぞ」
     そうサクラに命じると、やる気があるのかないのか。サクラは生あくびで答えた。華流はため息をつく。
     そのうちにビーチバレーの準備も整った。ペアはその場のくじ引きで決める。結果、一番手は華流&有愛ペア対柚貴&エリザベートペアとなった。
    「一番年下だからって甘く見ないでよね。ヒーローは体育だって得意なんだから!」
     エリザベートは胸を張って言う。
    「そか、エリザベートちゃん頼もしな! おっしゃ、んじゃ行くでー!」
     と言いつつ、女性相手に勝負事で本気を出すことは基本しない柚貴である。打ち上げるサーブも緩い球。
    「もらった! 吹き飛べ!」
     すかさず有愛が渾身のスパイクを打ち出す。
    「負けないわよ! ……ってスイカ!?」
     活き活きとブロックで返そうとしたエリザベートが目を丸くする。飛んできたボールはなぜかスイカだった。いつの間に入れ替わったのか。通りで渾身のスパイクにしては飛距離短いと思った。
    「気にするな、世の中こういうこともある!」
    「いやないでしょ!?」
     ともあれ、スイカでは飛ばないので普通のボールに代えて仕切り直し。体育が得意というだけあって、エリザベートは的確にボールを打ち、有愛も経験がないにも関わらず、野生の如き運動神経を発揮してボールを追う。少々危ない一撃を受けても、
    「危ないっ!」
     と声をかけて上手く立ち回り、
    「任せろ!」
     と華流も確実に拾って回す。一方で、柚貴は有愛の水着姿に見とれてぼーっとしていた。そもそも、二人で揃って海に来るのも初めてだし、水着姿も学園祭やその他少しでしか見たことがない。再び見れた喜びを噛みしめるやら、揺れる大きな胸に赤くなるやら。
    (「有愛ちゃんの水着……学園祭ぶりやけど……すげぇ綺麗やで……って!?」)
     んなこと思っているうちに、華流の放ったスパイクが綺麗に顔面に決まり、鼻血を吹き出しながら吹き飛ぶ。
    「じ、神宮寺……そういうのいつも通りだな」
     華流が少々呆れた様子で言う。結果は、華流&有愛チームの勝利。
    「負けちゃった……でも、とっても楽しかったわ! ……ところで柚貴センパイ大丈夫?」
    「あ、ああ、おおきに……」

     お次はくじの結果、七号&ハンナペア対総一&夢羽ペア。
    「ふむ。異論はありません。頑張ります」
     七号はキリリと面を上げる。運動は苦手なこともあり、総一は見ているつもりだったが、折角だからやりましょうと誘われれば、素直に応じた。夢羽も、身長的にライバル関係にある七号が相手となれば気合いも入る。いざ試合開始。
    「いっくよ~!」
     ハンナが風を読み、上手くトスを上げる。よく箒で飛んでいるから、風の流れはある程度分かるのだ。七号も、まるで予言者の瞳を使うかのように瞳に全神経を集中させてボールの軌道を予測、さらにマジックミサイルに見立ててスマッシュ!
    「ふふん、ポテンシャル魔法使いの特権です。これはサイキック(っぽい)ビーチバレー。甘いことを言ってる人から死んでいきますよ」
     七号がほくそ笑む。しかしポテンシャル魔法使いは七号だけじゃない。夢羽も予言者の瞳を使うかの如き集中力で軌道を読み、鬼神変を思わせる迫力でブロック!
    「ふふっ、思い通りには行きませんから!」
     夢羽も不敵に笑う。そんな夢羽チームに、ハンナはスパイクと見せかけたドロップで応戦!
    「わ、ああ!」
     わたわたと慌てながら総一はボールを取りに行き……砂に足をとられて転ぶ。それでも辛くもボールを回すことができた。終始わたわたしつつも、総一の顔には笑顔が浮かぶ。戦いの末、勝利を収めたのは七号&ハンナチーム。
    「私の勝ちですね……身長も」
     見下ろすように言う七号に、
    「むむむ……次は負けませんよ! むしろ追い越しますよ!」
     と夢羽は背伸びして返した。どっちにしても、どんぐりの背比べ状態ではあるのだが。
     ビーチバレー終了後は、皆で冷やしておいたスイカを食べる。有愛など、食の限界に挑戦する勢いでいくつも食べていた。しかし、いくらたくさんあるからといってもスイカを晩御飯にするわけにはいかない。というわけで。
    「夕食は折角だし海の幸たっぷりのシーフードカレーが食べたいんだよ」
    「よっしゃ、シーフードカレーやな? ハンナちゃん任しとき!」
     ハンナのリクエストに答え、柚貴は腕まくりする。
    「あ、僕もお手伝いします!」
     総一も手を挙げる。料理得意な男子二人を中心に、皆で作ったシーフードカレーは……
    「美味しい! 皆でカレーとか、いかにも臨海学校って感じよね!」
     ぱぁっとエリザベートが笑顔になる味。
    「うん。おかわり」
     有愛が早くも5杯目に突入する味。スイカもあんなにたくさん食べていたのに、有愛の胃袋は宇宙か。そんな恋人も愛しくて、柚貴は目を細めた。
     そして、翌日。
    「いやー、まだまだ暑いね~。折角海に来たんだし、少し泳いだりもしたいな~」
     ハンナがちゃぷちゃぷと海に入っていく。二日目になってもまだ気温が下がるまでには間がある。夢羽も暑かったので、少し海に入ることにした。総一は水着がないこともあり、麦藁帽子を被ってゆったりと浜辺で遊ぶ仲間達を眺める。まだまだ暑いので、皆にドリンクを配ったり、残っているスイカを切ることも忘れない。なお、スイカは切ったそばから有愛の胃に収まっていた。
     そうこうしているうちに、うだるような暑さは次第に引いていく。
    「む……涼しくなってきたな。そろそろ任務完了か」
     華流が空を見上げて言う。
    「ですねー。帰りましょう。せっかくですからスイカ以外にも、何か拾っていきましょうか」
     七号は帰りがてら、綺麗な貝殻を拾って集めていく。集めた貝殻は、今回佐渡ヶ島に導いてくれたエクスブレインへの土産にするつもりだ。
    「まだ食べれるぞ……」
     帰路の途中、寝ながら有愛が呟く。スイカもいっぱい、思い出もいっぱいの臨海学校は、こうして幕を下ろしたのだった。

    作者:ライ麦 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ