臨海学校2015~スイカ畑でスイカ割り

    作者:刀道信三

    ●廃坑の奥
     そこは既に人の立ち入ることのなくなった鉱山の一角のはずだった。
     そこにあるのは本来ただの岩肌だけであっただろう。
     しかし日の光の差さない廃坑に、何故かジャングルのような植物が生い茂っていた。

    ●臨海学校のしおり
    「佐渡ヶ島で異常な熱波が発生して、佐渡金銀山の廃坑が、アガルタの口と化そうとしているみたいだぜ」
     教室に集まった灼滅者達に、阿寺井・空太郎(哲学する中学生エクスブレイン・dn0204)が今回の事件の説明を始める。
    「軍艦島が、佐渡ヶ島に近づいて来ているのが原因かもしれないな。というわけで今年の臨海学校は佐渡ヶ島で行うことになったみたいだぜ」
     最近北陸周辺で発生していた、ご当地怪人のアフリカン化も、軍艦島の接近が原因だったのかもしれない。
    「放って置くと、佐渡ヶ島全体が、第二の軍艦島になっちまう可能性があるかもしれないな。お前達には、佐渡ヶ島の廃坑を探索して、アガルタの口を作り出している敵を撃破してほしい」
     アガルタの口を作り出している敵を撃破しても、24時間は、佐渡ヶ島は40度以上の熱波が続く。
    「廃坑の敵を倒した後、軍艦島の襲来に備えて、佐渡ヶ島の海岸で見張りを兼ねてキャンプをしてくれ」
    「皆さんがアガルタの口の制圧に行っている間に、あたしが海岸にキャンプを設営して、先に見張りをしています」
     予め空太郎から協力を要請されていた朱月・玉緒(中学生ストリートファイター・dn0121)が名乗り出る。
    「佐渡ヶ島のアガルタの口が撃破されて、佐渡ヶ島に多くの武蔵坂学園の灼滅者達が集まっている事を知れば、軍艦島のダークネス達も計画が失敗したと思って撤退していくだろうな」
     その為にも、まずは廃坑にいるアガルタの口を作り出そうとしている敵の撃破が優先される。
    「廃坑の奥でアガルタの口を作り出しているのは、スイカ型の眷属だ」
     密林洞窟と化した廃坑の奥には、このスイカ眷属が掘り広げた空間があり、そこはスイカ眷属を生み出し続けるスイカ畑になっている。
    「スイカ眷属の姿は南瓜お化けの西瓜版みたいな感じだな。目と口のついたスイカがフワフワと浮いてるぜ」
     空太郎の未来予測によると、灼滅者達がスイカ畑に到着した時に、スイカ畑には、24体のスイカ眷属がいる。
    「スイカ眷属は叩けば割れるくらいの体力しかないけど、数が多いし、意外と素早いんで、油断はしない方がいいだろうな」
     戦闘中にスイカ畑から新たなスイカ眷属が生まれることはない。
    「スイカ畑制圧後は、海岸にいる玉緒姉ちゃんと合流して、気温が普通に戻ったら、帰って来てくれ」
     普通の夏の気温に戻るということは、軍艦島が佐渡ヶ島から離れて行ったということになるだろう。
    「海岸を見張っている間は、交代で海水浴とかをしていても構わないぜ」
     気温の上昇が急激なものだったため、海水の温度はそこまで上昇していないので、海水浴をするのに支障のない水温となっている。
    「俺が行ったら暑さで倒れそうだけど、灼滅者のお前達なら大丈夫だろう。でも熱中症対策は忘れない方がいいと思うぜ」
     灼滅者達が熱中症でダメージを受けて死ぬことはないが、熱中症になれば苦しいと思うので、日頃から気を付けていて損はないだろう。


    参加者
    花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)
    猪坂・仁恵(贖罪の羊・d10512)
    西原・榮太郎(霧海の魚・d11375)
    アイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)
    巽・真紀(竜巻ダンサー・d15592)
    イサ・フィンブルヴェト(アイスドールナイト・d27082)
    鳴海・歩実(人好き一匹狼・d28296)
    矢崎・愛梨(中学生人狼・d34160)

    ■リプレイ


    「頭数揃えてダークネスを牽制しろとか全くとんだ臨海学校だぜ」
     隠された森の小路を使用する巽・真紀(竜巻ダンサー・d15592)が先頭になって、アフリカ産の植物が生い茂った坑道を進む。
    「っつーかふと思ったんだけどよ。オレらが陣取ってる所から転進するとか、もう連中も灼滅者をザコ呼ばわり出来なくなってるって事じゃね? なんかやる気出て来るじゃん」
     植物が避ける中を先導しながら、真紀は不敵な笑みを浮かべる。
    「スイカ割りし放題なんてお得感あるじゃねーですか。しっかりと人に迷惑がかかる前に倒した後でしっかり遊ばねーとですよ」
     表情は希薄だが感情が希薄というわけではない猪坂・仁恵(贖罪の羊・d10512)がウキウキした様子で真紀の後に続く。
     涼しいお洋服ですとか言いながらクールスタイルを装備して来ているが、たぶんクールってそういう意味ではない。
    「暑いです……エアコンを作った人に平和賞をあげたいです」
     そういうアイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)はジャージ姿である。
     日差しはなくとも気温が40度はある坑道を歩いていてもジャージである。
     そもそも高級感あふれるフォーマルジャージって訳がわからない。
    「暑い……なぜ寒冷適応はあって逆はないのだろうな……」
     表情には出ないが、暑さの苦手なイサ・フィンブルヴェト(アイスドールナイト・d27082)は少しうんざりとした様子で密林洞窟を進む。
    「今年はやたら暑いなぁなんて思っていましたが、まさかこんな事態になっているとは……」
     日差しがないのに熱波で暑い上に日本では見掛けない植物で覆われた坑道の光景は異様で西原・榮太郎(霧海の魚・d11375)は思わずそう呟いた。
    「しかし何故スイカ。アフリカにスイカってありましたっけ?」
    「本当に何でスイカなのか……まぁ気にするだけ無駄なんだろうけど」
     榮太郎に続いて鳴海・歩実(人好き一匹狼・d28296)も疑問を口にするが、ダークネスの特にご当地怪人のすることに条理を説いても仕方がない。
    「スイカがアフリカ原産なのと何か関係あるのかな」
     矢崎・愛梨(中学生人狼・d34160)が二人の疑問に推測を述べるが、真実は闇の中である。
    「ここがスイカ畑……」
     ガリゴリという岩を掘削するような音に気が付いて花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)は警戒を強める。
     坑道の奥は広い空間になっており、密林ではなくスイカ畑になっていた。
     そのスイカ畑を広げるために、緑色の球状物体が岩壁に張りついている。
     間違いなくここが今回の事件の元凶のひとつであるスイカ畑だ。


    「マテロで殴ればだいたいスイカ割りですよね」
     スイカ眷属が灼滅者達に気付いて反転するより前に、仁恵が手近なスイカ眷属を長いマテリアルロッドでフルスイングする。
     スイカ眷属は赤い果肉や種を撒き散らしながら弾けた。
    「タリーア……とっても綺麗ですから、働いてくれると嬉しいかな? って」
     アイスバーンのダイダロスベルト、タリーアが高速で伸長してスイカ眷属を輪切りにした。
    「お前達の相手は私だ」
     敵陣中央に突っ込むように繰り出されたイサの飛び蹴りでまた1体のスイカ眷属が潰され果汁が飛び散る。
    「スイカを敵として斬るのは初めてですね」
     入口の方へ振り返ったスイカ眷属の後ろに回り込んだ榮太郎の刀がスイカ眷属を斬り刻む。
    「そこ、もらったよ」
     榮太郎の斬撃で動きの鈍ったスイカ眷属をましろのレイザースラストがスパッと両断する。
    「こうして見るとすごい数だなー」
     歩実のダイダロスベルトが射出され、1体のスイカ眷属に深い傷を刻むが、スイカ畑にはまだ20体のスイカ眷属が残っていた。
    『――――!』
     スイカ眷属達の口から音にならない叫びが発される。窪んだ目は赤く光り、フワフワと漂うように浮いていたところから、弾丸のような速度で灼滅者達に襲い掛かる。
    「なんだ、大したことないじゃ……あれえーっ?!」
     歩実の攻撃で弱ったスイカ眷属を深追いして突出していた愛梨にスイカ眷属達が殺到する。
    「ここが頑張りどころですね、うん」
     榮太郎、イサ、歩実が素早く愛梨を囲むようにして壁となる。
     しかし流石に数が多く流れ弾のように1体のスイカ眷属の鋭い歯が愛梨の防具を切り裂いた。
    「やっぱり数が数だけに油断ならねぇな」
     敢えてスイカ眷属達の攻撃を待っていた真紀の癒しの矢が歩実の傷を治す。
     一撃一撃の威力は守りを固めたディフェンダーの3人にとって重くはないのだが、何発も何発も攻撃を肩代わりしていれば無視できないダメージになっていた。


    「どんどん割っていくですよ」
     意外と素早いスイカ眷属に攻撃を直撃させるのは難しいが、そもそもよく狙って命中させるだけで倒せるくらいの耐久力しかない。
     スイカ割り感覚で仁恵の異形化した片腕がまた1体のスイカ眷属を叩き割った。
     返り血ならぬ返り汁が飛び散って服の下が水着とはいえベタベタする。
    「ジンギスカンさん、おやつですよ? 食べちゃって下さい」
     アイスバーンの足許から現れる4匹の影絵の子羊達。
     1体のスイカ眷属を追い込むように包囲していき漆黒の影の中に飲み込んだ。
    「私はまだまだ倒れんぞ」
     イサが両手で構えた槍の穂先から特大の氷柱を生成し射出する。
     冷気の氷柱はスイカ眷属に突き刺さり息の根を止めた。
    「数さえ減らしてしまえば何とでもなりますね」
     榮太郎の白光を放つ刀身による斬撃がスイカ眷属を綺麗な切断面で真っ二つにする。
     数が頼りのスイカ眷属は、数さえ減らしてしまえば、減った数だけ火力の脅威度も下がっていく。
    「あと何体くらいかな? まだ10体以上いる?」
     そう言いながらまた1体のスイカ眷属をましろのクロスグレイブがその質量で押し潰していた。
    「む、これは意外と癖になる楽しさがあるかも」
     歩実が半獣化した腕を振り抜くと爪の軌跡に沿ってスパッとスイカ眷属が割れた。
    「さっきはちょっと油断しちゃったけど、一人3個倒せばいいだけだし、楽勝楽勝」
     思い切りよく前に踏み込んで愛梨の拳がスイカ眷属を粉砕する。
     それだけ接近すればスイカ眷属達にとってもまた攻撃し易い位置に愛梨が立っていることになってしまっているのだが。
     スイカ眷属の数は半分の12体、愛梨が狙われそうだということは灼滅者達側にも読み易い状況だったので庇いに入るのはそれほど難しくなかった。
    「うぐ……」
     それでも全部を防ぎ切ることはできず、また1体の体当たりが攻撃後で無防備だった愛梨のボディーに命中する。
     戦闘こそ続行できそうではあったが、元々体力の多い方ではない愛梨にとってスイカ眷属の攻撃は重たい。
    「あと一息だ。イサと西原パイセンは自分でも回復頼む」
     一番多く攻撃を肩代わりしてダメージを受けている歩実に再び癒しの矢を放ちつつ、メディックとして戦況を見ながら仲間達の体力を管理している真紀が指示を飛ばす。
     スイカ眷属の数は順調に減っているのでディフェンダーの3人が倒れなければ回復が間に合わなくなることもないだろう。
     この攻撃がしのがれた時点でスイカ眷属達はジリ貧であり、列攻撃が有効になる6体以下になった瞬間に殲滅されるのは確実だ。
     既に戦闘の大勢は決していた。


    「友人がスイカの種を口から吹き出し、鉄板を貫通させる文化を作成しようと張り切っている……是非とも1つ持ち帰って協力したいものだ……」
     スイカ眷属を残らず灼滅した後でイサがスイカ畑にあるスイカを手に取る。
     イサのクラスメイトの間で持ち上がった話題らしいが、日本の新しい文化にするには常人にとってハードルが高過ぎるように思われる。
    「……このスイカって食っても問題ねーんですかね?」
     仁恵もスイカ畑に実っているスイカを1個手に取ってみるが、まだスイカ眷属になっていないスイカは普通のスイカのようだ。
     スイカ畑はどうにかするにしても、食べる分は持って帰っても問題ないだろう。
     スイカ眷属が生まれないようにスイカ畑を処置した後で、灼滅者達はましろのアリアドネの糸を辿って廃坑の外へと向かった。
    「皆さん、お疲れ様です」
     灼滅者達が海岸に到着すると、キャンプの設営を終えた朱月・玉緒(中学生ストリートファイター・dn0121)が灼滅者達を出迎える。
    「見張りはわたしがやってますから、みなさんは遊んできていいですよ」
     相変わらずジャージ姿のアイスバーンはビーチパラソルの下に陣取ってアイスクリームを食べながら携帯ゲームを始める。
    「自分も見張ってますんで楽しんで来て下さい」
     榮太郎も荷物番をしながら海岸線を見張る作業に入る。
     海水浴で自分以外のほとんどが女子というのも、それはそれで肩身が狭いものである。
    「見張りをしてくれる人がいるなら全力で遊びますからね!」
     そう宣言すると仁恵は服を脱ぎ捨てて水着姿になると海に突撃して行った。
     しばらく黒猫柄の浮き輪で波に揺られたりを満喫した後で、仁恵は大きな水鉄砲を持ってビーチパラソルまで戻って来る。
    「見張ってても暑いじゃねーですか。水鉄砲で冷やしてあげますよ」
    「ちょっと携帯ゲームが濡れちゃうんで待ってください?!」
     容赦なく水鉄砲を撃ってくる仁恵にアイスバーンが悲鳴を上げる。
     猪坂仁恵、20歳です。
    「猪坂パイセン、今年も水着コン入賞してたんだって? 毎度スゲーじゃん」
     こちらも海岸に着いたので羽織っていたミリタリージャケットを脱いで水着姿になった真紀が仁恵に声を掛ける。
    「ありがとうですよ。お礼にめっちゃ水をくらうがいいですよ」
     真紀にも水鉄砲を撃ち始める20歳。
     猪坂仁恵、真紀が言っているとおり、これでも毎年水着コンテスト入賞者である。
    「それいいな。猪坂パイセン、その水鉄砲もう1個ねえの? オレにも貸してくれよ」
     水をかけられる真紀の方も楽しそうであった。
    「お帰り、ましろ。怪我はしてないか?」
    「ん、こっちはばっちりだいじょうぶだよ。倭くんもお疲れ様ね」
     ましろはキャンプに着くと設営の手伝いに来ていた倭のところに向かった。
    「……この熱気があと1日は続くのか……きついな。暑さ避けに、海に入ろうか?」
    「せっかく海に来たんだから遊びたいよね。行こうか」
     そう言ってましろは倭に差し出された手を握り、二人は海水浴を楽しむのだった。
    「水着? あ、忘れてた。まあなんとかなるでしょ」
    「ここは少ないとはいえ男子の目もあるんですから、買いに行きましょう。佐渡ヶ島でも水着は売ってますよ」
     見張りをしてくれている人もいるので、水着を持って来忘れた愛梨を玉緒が店に案内する。
    「け、けっして水着が恥ずかしいとか、泳げないとかではないぞ? ……ないぞ?」
     誰に言うでもなく呟きながら、イサは遊ぶ仲間達を波打ち際から眺めつつスイカを両手で持って食べた。
     歩実は海岸に着いてからニホンオオカミに戻り、あまり深いところに行かないようにしながら遊ぶ。
     やがて日が沈み、波の音だけが聞こえる静かな一時が訪れる。
     海岸線に軍艦島が接近して来る様子はなく、無事に灼滅者達の臨海学校は終わりを迎えるのだった。

    作者:刀道信三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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