40度を超える熱波に見舞われた佐渡ヶ島。
島内に点在する金山の廃坑も例外ではなく、熱波に覆われていた。そして、そんな金山の廃坑に今、異変が起きていた――。
ガリガリガリ……。
誰もいないはずの金山の最奥部で、地面を掘り進むドリルの音が響き渡る。坑道の内部は謎の熱帯植物に覆い尽くされ、さながらジャングルのような様相を呈していた。
ガリガリガリ……。
そして、坑道を掘り進んでいるのは、まさにその植物だった。蔦の先端をドリルのように回転させ、奥へ奥へと穴を広げているのである。
その蔦を操っているもの、それは――、
目と口の彫り込まれた、巨大なスイカだった。
「嗚呼、サイキックアブソーバーの声が聞こえる……。北陸の佐渡ヶ島で異常な熱波が発生し、佐渡金銀山の廃坑が、アガルタの口と化そうとしていると」
集まった灼滅者達に、神堂・妖(目隠れエクスブレイン・dn0137)は陰気な声でそう告げた。
「……ちなみにアガルタの口というのは、かつて軍艦島攻略戦の時に軍艦島の地下に現れた謎の密林洞窟の事」
そしてこの事件を解決するため、急遽、佐渡ヶ島で臨海学校を行う事になったのだという。
「……もしかしたら、ダークネスの移動拠点となった軍艦島が、佐渡ヶ島に近づいてきてるのかも。これを放っておいたら、佐渡ヶ島全体が、第二の軍艦島になってしまうかもしれない。だから、皆には、佐渡ヶ島の廃坑を探索して、アガルタの口を作り出している敵を撃破してきて欲しい」
そしてその後は、軍艦島の襲来に備えて、佐渡ヶ島の海岸でキャンプを行うことになる。
「……アガルタの口を作り出している敵を倒しても、24時間の間は、佐渡ヶ島は40度以上の熱波が続くから、海水浴には丁度いいかも」
佐渡ヶ島のアガルタの口が撃破され、佐渡ヶ島に多くの灼滅者が集まっている事を知れば、軍艦島のダークネス達も計画の失敗を悟り撤退していくはずだと、妖は言う。
「……まずはアガルタの口を制圧して、その後は臨海学校を楽しみつつ、軍艦島の接近に備えてほしい」
そう言って妖は、廃坑に潜む敵についての説明を始めた。
「……一言で言うと、敵はスイカ」
「スイカ!?」
灼滅者達の反応に、妖は真顔で頷く。
「……正確に言えば、スイカ型眷属。……廃坑の最奥はスイカ畑になってて、そこで成長したスイカから、スイカ型眷属が続々と生まれてる」
スイカ型眷属は、ハロウィンのカボチャのスイカ版と思えば分かりやすいだろう。スイカに目と口が刻み込まれたような外観をしている。
「……スイカ型眷属は余り強くないけど、みんなに向かってもらう廃坑には、12体のスイカ型眷属が潜んでるみたいだから、気をつけて。……スイカ型眷属を全て倒すことが出来れば、廃坑のアガルタの口化は阻止できるはず」
ちなみに眷属化する前のスイカは普通のスイカなので、食べても問題ないようだ。
「……楽しい臨海学校になるはずだったのに、ダークネスの陰謀に邪魔されたのは残念。……だけど、アガルタの口化を阻止した後は、出来る限り臨海学校も楽しんできて欲しい。……海水の温度はそこまで上昇してないから、海水浴にはうってつけの水温のはずだし。……臨海学校が楽しいものになるかどうかは、みんなの活躍次第」
そう言って妖は、臨海学校のしおりを配り始めたのだった。
参加者 | |
---|---|
海藤・俊輔(べひもす・d07111) |
漣・静佳(黒水晶・d10904) |
廣羽・杏理(フィリアカルヴァリエ・d16834) |
豊穣・有紗(神凪・d19038) |
大須賀・エマ(ゴールディ・d23477) |
緒川・千香(小学生シャドウハンター・d24513) |
風間・小次郎(超鋼戦忍・d25192) |
鵠・裄宗(雪恋慕・d34135) |
●出発!廃坑探検隊
佐渡島にある、とある金銀山の廃坑。闇に閉ざされていたその廃坑にライトの光が差し込み、内部の様子を照らし出した。
「こういう場所ってどうにもわくわくしちゃうよね。はりきって探検しよう」
腰下げのランプを付けた廣羽・杏理(フィリアカルヴァリエ・d16834)が、いつものクールさはどこへやら、うきうきとした様子で洞窟を進んでいく。しかしそれでも、観光パンフを見つつマッピングするのも忘れてはいない。
「ここの道、地図と、違っているわ」
漣・静佳(黒水晶・d10904)は対照的に普段通りの落ち着いた様子で、地図作りをフォローしていて。
「なんだかゲームのダンジョン攻略みたいで楽しー。金とか見つかんないかなー」
先頭を歩く海藤・俊輔(べひもす・d07111)は、ライトをあちこちに向けて興味深げに廃坑の様子を観察していた。
「金とかあったら持って帰ってもいいのかなっ?」
俊輔の隣を歩いていた豊穣・有紗(神凪・d19038)が思わず目を輝かせると、霊犬の夜叉丸が『そんなわけないだろう』と言わんばかりに、前脚でぽんっと有紗の背中を叩く。
「おー、だんだん涼しくなってきたな」
大須賀・エマ(ゴールディ・d23477)は、進むにつれてひんやりと温度が下がってきたことに喜んでいる様子だったが、
「……って、段々また暑くなってきてないか?」
敏感に温度の変化に気付き、眉をひそめた。
「これが、『アガルタの口』でしょうか」
緒川・千香(小学生シャドウハンター・d24513)が懐中電灯を向けた先には、熱帯風の色鮮やかな植物が繁茂していて。
「この先はいつスイカの化け物と遭遇するかも分からんな。今の内に、水分を補給しておくか?」
風間・小次郎(超鋼戦忍・d25192)は、熱波対策に用意してきたクーラーボックスを開き、ペットボトルを全員に配っていった。
「佐渡島を第二の軍艦島にするわけにはいきませんからね。気を引き締めていきましょう」
全員が水分補給を終えたのを確認して鵠・裄宗(雪恋慕・d34135)が言えば、皆それに頷き返したのだった。
●白熱!スイカ型眷属割り
アガルタの口と化し、半ば迷宮化した坑道内を進むこと数十分。灼滅者達は遂に、坑道の最奥へと到達した。ちょっとした広間になっているそこにはスイカ畑が広がっており、見事に大きくなったスイカが実っている。
「さーて、お楽しみのスイカ割りだ。思いっきりやっていいんだな」
エマがバット型のマテリアルロッドをぶんぶんと振り回すと、危機を感じ取ったらしいスイカの内の幾つかが、もぞもぞと蠢き始めた。そして、一斉に空中に跳び上がると、大きく口を開き、飛びかかってくる。
「スイカごときの攻撃は通さん……」
対して、前へと飛び出したのは小次郎だった。小次郎はブレードオンハートの鞘で巧みに飛びかかるスイカを受け止め、弾き返していく。
「毎度ダークネスのせいで過酷になる臨海学校。僕らの明日はどっちだって感じがするよね……」
小次郎が守りを固める間に、杏理は跳び回るスイカ型眷属に狙いを定めると、思いっきりマテリアルロッドを振り下ろした。普通のスイカなら真っ二つどころか粉々になるだろう一撃だったが、さすがに眷属化しているだけあって、一撃では砕けない。
「さっさとスイカ割って、スイカ割りしよーっとー」
だがその眷属に、天井を蹴って勢いを増した俊輔の蹴りが炸裂した。既にヒビの入っていたスイカ型眷属は耐えきれず、その場で爆散する。
仲間がやられたのを見て、スイカ型眷属達の攻撃は激しさを増した。あるものはギザギザに刻まれた大きな口で噛み付き、あるものは目の部分に開いた穴から種をマシンガンのごとく飛ばし、あるものは蔦を操って灼滅者を貫こうとする。さすがにこれだけ数が多いと、守りを固める小次郎と夜叉丸だけでは防ぎきれるものではなく、灼滅者側の傷も増えていった。
「果物は、好きだけど。こういうのは、遠慮したいわ」
後方の静佳が発生させた霧が、傷ついた仲間達を癒すと同時に、スイカ型眷属の目をくらませる。
「まずは、動きを封じましょう」
千香はスイカ畑に魔血糸による結界を張り巡らせ、スイカ型眷属の動きを封じ込めていった。
「スイカは冷やした方がおいしいよねっ」
有紗が黙示録砲でスイカ型眷属を凍り付かせる一方で、
「焼きスイカって、美味しいんでしょうか」
裄宗はレーヴァテインでスイカ型眷属に火を付ける。
幸い一体一体は強くないので、スイカ型眷属はあるものはカチ割られ、あるものは黒こげになり、あるものは氷漬けになって、次第に数を減らしていった。
しかし、数が減ってもスイカ型眷属は一向に動揺する気配はなく、攻撃もますます苛烈なものになっていく。今も、一体のスイカ型眷属が俊輔の頭をかみ砕かんと、口を大きく開いて飛びかかっていき、
「見切ったー」
しかし俊輔は獣の爪を思わせるオーラでスイカ型眷属を捉えると、逆に強烈な蹴りをスイカ型眷属に叩き込んだ。耐えきれずに爆散するスイカ型眷属。
「そろそろ暑さも厳しくなってきましたし、決着を付けに行きましょう」
裄宗がクロスグレイブの全砲門から一斉に光線を撃ち放ち、スイカ型眷属を釘付けにしていけば、
「なら、スイカの動きを止めますね」
千香も護符の結界でスイカ型眷属の足止めを図る。
「掃討戦だねっ! 夜叉丸、サポートよろしくっ!」
有紗の指示に、夜叉丸が心得たとばかりに六文銭を撃ちだした。夜叉丸の攻撃に気を取られたスイカ型眷属は、有紗の放った黙示録砲への対応が遅れ、氷漬けになる。
「そろそろ手が痺れてきたから、少し涼もうかな」
バット型のマテリアルロッドで一体一体スイカ型眷属を叩き割っていたエマは、バットの先から冷たい炎を噴き出し、スイカ型眷属に吹き付けていき、
「では、今度は僕がエクストリームスイカ割りしよう」
杏理が、霜に覆われ動きの鈍ったスイカ型眷属を、バベルブレイカーの巨大な杭で粉々に打ち砕いた。
「全く……物騒なスイカ割りもあったものだ」
小次郎も、鋭い飛び蹴りでスイカ型眷属を真っ二つにする。
「これで、お仕舞い」
最後に残った一体を、これまで回復に専念していた静佳が放ったジャッジメントレイが貫き、戦いは終わりを告げたのだった。
●エンジョイ! それぞれの臨海学校
廃坑内に繁茂していたスイカの蔓を念のために燃やした一行は、スイカの実を出来るだけ回収すると、臨海学校を楽しむべく地上へと戻っていった。だがその中で、静佳だけは廃坑に残ることにした。
「……ひとりでも、いいかしら。いろいろ考えながら、歩きたいの」
そう断って皆と別れた静佳は、気の赴くままにのんびりと廃坑内を巡っていく。ひんやりとした空気が、戦闘で火照った肌に心地よかった。
「さあ海ですよ。しかし、さすがの僕もくっそ暑いって言わざるを得ない」
日除けの帽子を被った杏理が、吹き付ける熱波に閉口した様子を見せる横を、
「暑いから海に入るにはぴったりー」
「待ってってばっ! 日焼け止めのクリーム塗った方がいいよー」
俊輔と有紗、それに夜叉丸が早速海に向かって駆け抜けていった。
「40度を超えると砂浜が恐ろしいので……海に浸かるのが一番ですね」
裄宗は日焼けしないようにラッシュパーカーのフードをしっかり被って、熱々の砂浜から逃れるように海に向かっていき、
「水練も忍者の嗜みだからな……」
いつもの忍者マスクを外した小次郎もそれに続いて海に入っていった。
「おまえら、体力なくなんないようほどほどになー」
一方エマは、「この暑さは死ねる」とこぼしながら、日陰で寝そべり冷たいドリンクを飲んで体力の回復を図る。が、すぐに、
「うわ、でもやっぱ暑すぎ、コレは無理」
日陰にいても容赦なく襲ってくる熱波に早々に音を上げて、海に向かって駆け出した。やはり海に浸かっていた方が、涼しそうだ。
「せっかくですからビーチバレーでもしませんか」
杏理がビーチボールを取り出せば、
「私、初心者ですけど、大丈夫でしょうか?」
不安げに千香が参加を表明し、エマや裄宗、俊輔と有紗もそれに加わった。
俊輔がボールを渡す振りをして有紗に水を掛け、逆に有紗と夜叉丸から倍返しを喰らったり。
千香が回ってきたボールにあたふたして溺れそうになったり。
白熱したビーチボール大会は日が暮れるまで続いたのだった。
日が暮れた頃には、廃坑に残っていた静佳や遠泳に挑戦していた小次郎も戻ってきて、ビーチバレー組に合流していた。
日が沈んだからなのかアガルタの口が消えて熱波が収まってきたからなのか、昼に比べれば格段に過ごしやすくなってきている。
「実は花火を用意してみたのですけれど……如何でしょうか」
いそいそと裄宗が花火を取り出してそう誘えば、皆も待ってましたとばかりに手に手に花火を持って、火を付けた。
手持ちの花火が色とりどりの鮮やかな火花を瞬かせ、打ち上げ花火が夜空に大輪の花を咲かせる。
こうして臨海学校の一日は、騒がしくも楽しく過ぎていったのだった。
●激戦!海上スイカ割り
臨海学校2日目。
前日よりは大分気温は下がったものの、まだまだ暑さは止む気配がない。
「軍艦島が見えるかと思っていたのだが、影も形もないな……」
海を監視していた小次郎がそう呟けば、
「僕たちの存在に気付いて、近づいて来なかったのかも知れないね」
双眼鏡を覗いていた杏理が自らの推測を口にした。
「せっかくだからスイカ割りしようぜ。スイカを海に浮かべれば夏らしさ満点!」
エマが、前日に廃坑から回収してきたスイカを海に投げ込んでいく。
「さて……海の中に置いたスイカは、どうなるのでしょうか」
「塩味もついてちょーどいーかもー?」
裄宗と俊輔も手伝って、たちまちの内にスイカ割りの準備が整っていった。
「じゃあ、やってみますね。……えいっ!」
目隠しをした千香が棒を振り下ろすが、海の上を漂うスイカを捉えることはなかなか難しい。
「水上スイカ割りってなかなか無茶な気がするぞ」
運動が苦手な杏理は賑やかし係に徹することを決めたようだ。
「おーし、頑張れーっ」
イルカの浮き輪に乗ってプカプカ浮かびながらエマが歓声を送り、
「よーし、ボクも参戦だーっ」
有紗も海に飛び込んでスイカ割りに加わる。
「有紗ー、もっと右ー」
俊輔の誘導に従って振り下ろした棒は遂にスイカを捉えるが、今度は海に沈み込んでしまってうまく割ることが出来ない。
「昨日あれだけスイカを割ったのに、よく飽きないな……」
泳ぎながらスイカ割りを見学していた小次郎はやや呆れ気味で。
「みんな、楽しそう、ね……」
静佳は木陰で本を広げながら、時折海の方で騒ぐ仲間達を見やって、表情を和らげる。楽しそうな様子を、眺めるだけで十分だというように。
やがて、エマのバットの一撃がようやくスイカを仕留め。海水の塩味が染みたスイカを、皆で美味しく頂いたのだった。
「……これがおっきくなったら眷属になるのか」
食べかけのスイカをしみじみと見つめる有紗を、『そんなわけないだろう』と言わんばかりに前脚で叩く夜叉丸。
いつしか日も大分傾き、40度を超えていた気温も平年並の温度に戻っていて。
「うずめ様は、私達のこと、わからなかったのかしら。それとも……」
静佳が水平線の彼方を見つめて呟く。
「ものすごい暑さだったが……まあ夏らしい臨海学校だったな」
小次郎もなんだかんだで臨海学校を満喫していたようで。
熱波が去ったことを確認した灼滅者達は、こうして佐渡島を後にしたのだった。
作者:J九郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年8月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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