ステルス・スティングレイ

    作者:邦見健吾

    「そーれ!」
    「うわっ」
     夏の日差し降り注ぐ砂浜。水着の女の子達が黄色い声を上げてビーチボールで遊ぶ。海で泳ぐ者はもちろん、ビーチパラソルの陰で休む者、オイルを塗って肌を焼く者まで、海の楽しみ方は人それぞれだ。
     その時、何の前触れなくビーチボールが裂けた。
    「キュイイイイイッ!」
     次の瞬間、何もないはずの空間から、ステルス爆撃機のように黒鉄を纏うエイが姿を現す。そしてエイはその鋭い尾を突き立て、海水浴客を虐殺し始めた。

    「海水浴場に、エイの形をした都市伝説が現れます。このままでは海水浴客が危険ですので、都市伝説を倒してきてください」
     小さくため息をつき、冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)が説明を始める。海で暴れるだけの単純なものではあるのだが、最近同様の都市伝説ばかり予知しているらしい。
    「まずは都市伝説が現れる前に、海にいる一般人を避難させてください。とにかく戦いに巻き込んでしまうと危険なので、少々強引な手を使ってでも退去させたほうが良いでしょう」
     都市伝説は、ステルス爆撃機のような形をした巨大なエイの姿で現れる。
    「尾の毒針で突き刺す攻撃、刃となっている体で切り裂く攻撃、上から爆弾をばら撒く攻撃などを使ってきます。見た目以上に俊敏な相手なので気を付けてください」
     他にも、小型ミサイルを一斉に撃ったり、衝撃波を放ったりしてくる。多彩な攻撃手段を持つ、侮れない敵だ。
    「都市伝説を倒した後は海水浴をしてもかまいませんが、都市伝説は攻撃的で高い戦闘力を持ちます。気を抜いていると危険ですので、まずは都市伝説との戦闘に集中してください」
     そして蕗子は緑茶を一口飲み、説明を締めくくった。


    参加者
    シェレスティナ・トゥーラス(欠けていく花・d02521)
    射干玉・闇夜(高校生人狼・d06208)
    黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)
    草壁・夜雲(中学生サウンドソルジャー・d22308)
    綾辻・刻音(ビートリッパー・d22478)
    森里・祠(和魂・d25571)
    廻・巡(騙り部・d33314)
    貴夏・葉月(八百万との契約者であり食滅者・d34472)

    ■リプレイ

    ●海に現れる幻影
     白い砂浜に青い海。海水浴には絶好のロケーションだが、見えない危険が今ここに迫っている。灼滅者達は海に到着すると、一般人の避難誘導を始めた。
    「これから砂浜の整備をするみたいだよ。ちょっと離れていようね」
     シェレスティナ・トゥーラス(欠けていく花・d02521)はラブフェロモンを使って一般人を誘惑し、ビーチの外へ誘導。なかなか離れようとしない人も、自分が付き添って海から引き離す。
    「不発弾が見つかりました。爆発の危険性があります! 逃げてください!」
     呼びかけと同時に、貴夏・葉月(八百万との契約者であり食滅者・d34472)はパニックテレパスを発動する。ただ葉月が言うだけでは不発弾の信憑性が疑わしいが、パニックテレパスで混乱状態にすることで思考力を奪い、逃げろという指示に従わせる。
    (「それにしてもステルス……って高性能都市伝説?」)
     話に聞く限りではステルス爆撃機のようなエイだという。想像してみると姿が浮かびそうで、しかしぼやけて消える。
    「不発弾が浜辺に埋まっていることが分かりました!! 危ないので避難して下さい!!」
     精一杯声を出し、懸命に避難を呼びかける黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)。
    「落ち着いて避難してください!!」
     喧騒にかき消されそうになるも、負けじと一層声を張り上げる。パニックテレパスの影響を受けて右往左往している人々に届き、彼らが駆け出していく。
    「ここは危ないから、安全なところに逃げるんだよー!」
     草壁・夜雲(中学生サウンドソルジャー・d22308)も誘導に加わり、一般人を退去させる。避難指示はもう少し具体的な方が良いが、少々混乱するだけで済んだようだ。
    (「夏の楽しき一時……それを奪うのは忍びなく思いますが、それも命あっての物種ですね」)
    「皆さーん、海から離れてくださーい」
     遊んでいる人達を無理やり退かせるのは少し心苦しいが、背に腹は代えられないと避難を呼びかける森里・祠(和魂・d25571)。プラチナチケットには特定の何かに成りすます力はないが、自作の腕章によって監視員らしい外見になっていた。都市伝説を倒し、一刻も早く楽しい時間を取り戻したい。
    「浜辺から離れろ」
     射干玉・闇夜(高校生人狼・d06208)は短く、的確に指示を出して退去を促す。
    「ひゃあっ!」
    「……ったく、しょうがねーな」
     逃げようとして転んだ女の子を見つけると、やれやれと言った感じで助け起こす。大丈夫かと尋ね、海岸を離れる女の子を見送った。
    (「あー……タタリガミ抜きで都市伝説の相手すんの、初めてだな、考えてみると」)
     廻・巡(騙り部・d33314)は少し沖合で百物語を使い、ボートで戻ってくる。
    「……」
    「ん、起きてる……?」
    「あー……おう。いや、寝てないぞ……?」
     目をつむっていたところを綾辻・刻音(ビートリッパー・d22478)に声をかけられ、あくび混じりに返事を返す。放っておけばそのまま寝てしまいそうだった。
    「あー……お? 来たぞ。でっかいエイのお出ましだ」
     浜辺に灼滅者以外の影がなくなった頃、海の上で空気が揺らいだ。よく目を凝らしてみると、巨大なエイが景色に紛れ込んでいるのが分かる。
    「キュイイイイイ!」
     そしてエイは擬態を解いて漆黒のボディを晒し、灼滅者達に迫った。

    ●スティングレイ・アサルト
    「キュイイイイ!」
     エイが猛烈なスピードで突進し、すれ違いざま灼滅者を切り裂く。体を傾けて旋回すると、自身に周囲の風景を投影して姿を消した。
    (「最近浜辺で暴れる海凄生物が暴れる事件が多いんですが、何が起こってるんでしょうか?」)
     空凛は連続する都市伝説事件を気にしつつも、神経を集中させて敵の姿を探る。念じると蝋燭の火が青に変わり、海に巣食う小さな妖怪の幻影が現れてエイに群がった。海に関する都市伝説が現れやすい季節なのかもしれないが、そのせいだと思いたい。
    「エイが空を飛ぶなんて!! しかも消える!」
     エクスブレインから話を聞いていたものの、実際に空中を飛ぶエイを目撃して思わず声を上げる夜雲。しかもエイは周囲に溶け込むこともでき、驚きも一層大きい。だが攻撃も忘れず、ダイダロスベルトを翼のように伸ばして絡みつかせた。
    「惑わしの霧は濃く、深く……」
     表情を引き締め、祠が短刀を抜き放つ。真横に薙ぎ払うと夜色の霧が生まれ、前衛に立つ仲間達を包み込んだ。ウイングキャットのみたまは羽を広げてエイを追いかけるが、肉球のパンチは空を切った。
    「神よ我に力を貸し与えたまえ」
     葉月はスレイヤーカードの封印を解除し、色の名を冠した十字架を構える。
    「捉えた!」
     銃口を開いて狙い澄まし、鳴り響く聖歌とともに光の弾丸を発射。光弾はギリギリでエイを捉え、その体を凍結させた。
    「エイは普通のでも危ないけど、このエイは特別危険だね」
     シェレスティナは縛霊手から祭壇を展開し、結界で封じ込めようとするがエイは小さなダメージを負っただけ。ウイングキャット・イリスが発動した魔法もエイを捉えることができなかった。
    「キュイイイイ!」
     エイが再び鳴き声を上げ、姿を現す。尾に付いた鋭い毒針を前に向けて加速し、闇夜に突き立てる。
    「やってくれたな……お返しだッ!」
     闇夜は毒を受けても怯まず、電光迸る拳を握って迫る。エイはまたも姿を消すが、わずかに起こるブレを見極めて踏み込み、アッパーを打ち込んだ。
    (「この都市伝説、ちょっと迷惑すぎる、ね……何なんだろ」)
     刻音も噂の元が気になるが、全部切り刻めば同じことと自身の興味を切り捨てる。空気の揺れを頼りに動きを察知し、死角から手刀で切り裂いた。
    「あー……怪談体験なら金縛りは必須だろう。とりあえず止まってろ」
     巡がめんどくさそうに言い捨てると、足元に伸びる影が形を変える。影は高速で飛行するエイを追跡し、細い腕となってエイを捕まえた。

    ●スティングレイ・ボマー
    「キュイイッ!」
     エイが加速し、高度を上げて体の下部に設置されたハッチを展開。爆弾が砂浜目掛けて降り注ぎ、灼滅者達が爆炎に呑み込まれる。
    「派手だなおい楽しくなってきたじゃねぇかその調子だ迷彩マンタ!」
     巡は爆風を浴びて血を流すが、それで目が覚めたのか、急激にテンションを上げて早口で怪談を語り出す。
    「……死んだ女は恨みのあまり化けて出てな、男を殺しやがったんだ!」
     そして怨嗟がまとわりつき、呪いがエイを襲った。
    「まだまだ行きます、行かなければいけません!」
     葉月も体に火傷を負うが、気合の一声で自身を奮い立たせる。ビハインドの紫妃は浜に転がる石を浮かせ、次々にエイにぶつけた。
    (「夏の楽しい海水浴場で、こんな事はさせられないんだよ」)
     砂浜を戦場に変えんとするエイに、夜雲は毅然と立ち向かう。低空を飛行するエイの正面に飛び出し、赤にスタイルチェンジした交通標識を振り下ろすと、回避しようとしたエイのボディを掠め、動きを鈍らせた。
    「喰らえッ!」
     闇夜は地に眠る魑魅魍魎の気を呼び起こし、斧に纏わせて接近。短い叫びとともに豪快に振り抜き、大きな裂傷を刻んだ。
    「キュイイイイイイイイ!」
     エイは上部のミサイルポッドを展開。減速せずに小型のミサイルを無数に発射し、ミサイルは弓なりの軌道を描いて灼滅者達に襲い掛かる。
    「その呪、吹き払わせてもらいましょう」
     いくつもの小さな爆風が広がり、硝煙が立ち込めるが、祠は浄化の風を吹かせて灰色の煙を吹き飛ばす。風が仲間を包み込み、その傷を癒した。
    「お願いっ」
     空凛の声に応え、ポメラニアンに似た姿をした霊犬・絆が癒しの眼差しを送る。空凛は両手を重ねて纏うオーラを収束させ、砲弾に変えて撃ち出した。
    「シェルもがんがんいくよ~」
     縛霊手を振りかぶり、シェレスティナが迫る。腹部目掛けて下から打撃を打ち込み、同時に霊力の網を放った。
    「それじゃ、刻んであげる、ね?」
     ウイングキャットは羽をはばたかせてエイを追い、パンチを見舞う。刻音は風に紛れた駆動音を聞き分け、肉薄してバベルブレイカーをエンジンに突き立てた。

    ●エイの終焉
    「キュイイイ!」
     エイが急激にスピードを上げ、弾丸のように空気を貫いて衝撃波を起こす。だがエイはその速度と擬態で灼滅者を翻弄するも、すでにボロボロ。エンジンからも異音を漏らしている。
    「もう終わりだ!」
     闇夜は速度の落ちたエイの尾を掴むと、強引に振り回して投げ飛ばし、砂浜に叩き付ける。さらに巡が影を伸ばし、影は肉食獣のように食らいついた。
    「もう動かないで。キミが痛いだけよ」
     葉月は腕を鬼のそれに変じさせ、巨大な拳をハンマーのようにして殴打。シェレスティナはオーラを両の拳に集めて連打し、無数の光がエイを打つ。
    「ここで止めるんだよ」
     夜雲はエアシューズで疾走し、烈火を帯びたローラーで蹴り上げた。空凛も蝋燭に赤い炎を揺らめかせ、燃える花弁を舞わせる。刻音は日差しを浴びて濃く映える影を走らせ、薄く鋭い刃に変えて切り刻んだ。
    「これで、終わりです」
     手の中に旋風を生み出し、祠がエイに向けて解き放つ。渦巻く風の刃に切り裂かれ、とうとうエイが地に落ちた。
    「キュイイィ…………」
    「貴方の音、聞こえなくなっちゃった、ね」
     体の半分が砂に埋もれ、完全に沈黙するエイ。刻音がその様子を見下ろして呟く。
    「暴れたいか? 暴れたいよなそういう都市伝説だもんなお前」
     けど悪いがここで暴れさせるわけにはいかねぇんだ。そう続けて巡が一歩ずつ近づいていく。
    「だから俺が語ってやるよ」
     砂浜にしゃがみこみ、消えかけるエイにそっと手を触れた。
    「もっと俺に教えろよ。お前の存在を……お前自身で語って見せろ!」
     そして黒鉄のエイは光の粒となり、その手の中に吸い込まれていった。

    「ふぅ、周りも大丈夫そうですね」
     激しい戦いになったが、広い砂浜のおかげか物的な被害も見られない。空凛は安堵し、胸を撫で下ろした。
    「近頃こういう都市伝説が多いけど、これからは少しは落ち着くのかな?」
     人の戻ってきた海を見渡しながら、夜雲が言った。1人のエクスブレインが続けて似たような事件を予知したが、ひとまず収まってはいるようである。ただの偶然が重なっただけと見るのが妥当かもしれない。
    「ぷはっ、はっ、はぁ、はっ」
     実は泳げない葉月は、それでも泳げるようになりたいからと海で泳ぎの練習を続ける。しかしすぐに溺れるので、見兼ねた夜雲が駆けていく。
    「……風が気持ちいいですね」
     一方、祠はみたまと一緒に海沿いを散歩していた。夏の終わりを予感する潮風に髪を撫でられ、静かに微笑みを浮かべた。

    作者:邦見健吾 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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