臨海学校2015~スイカをアレして海で遊ぼうぜ!

    作者:空白革命


    「こちら佐渡島からお送りしています! 見てください雑草くらいしか無かった廃坑が謎の植物でいっぱいになっています!」
     マイクを持ったおっさんがハンディカムで自撮りしながら謎畑を映していた。
     えっなんですか。テレビ撮影? 放送はいつかって?
     いつでもねえよ! そしてどこの局の者でもねえよ!
     おっさんはなあ! こうして自分が看板アナウンサーになった日を妄想するのが唯一の生きがいなんだよ!
    「町の噂によりますと、最近の急激な暑さとこれが関係しているとか。さあ廃坑の奥へ入っていきましょう。……え、こ、これは……!?」
     カメラが激しくぶれ、地面に落ちる。
     おっさんが悲鳴をあげながら逃げていくその後ろを、謎の植物めいた怪物が追いかけているところが一瞬だけ映っていた。
     

    「臨海学校がただの海遊びだったことが今まで一度でもあったかよ」
     スイカ型のアイスを豪快に囓って、大爆寺・ニトロ(大学生エクスブレイン・dn0028)は独りごちた。
     すっくと立ち上がり、振り返る。
    「もう聞いてるかもしれんが、佐渡金銀山の廃坑が『アガルタの口』に変化してるらしい」
     アガルタの口とは、かつて武蔵坂が行なった軍艦島攻略戦の際に発見した地下密林洞窟のことである。当然ただの密林ではなく、謎の植物がモンスター化して襲いかかってくる危険地帯だ。
    「例の軍艦島が佐渡島に近づいた影響と見てる。最近、北陸地方で相次いでご当地怪人がアフリカ化してるのはこの前触れだったのかもな」
     というわけで、佐渡島を第二の軍艦島ダンジョンにしないために現地へ突入。敵を撃破して軽く占拠しようという作戦だ。
    「勿論占拠してる間は自由時間だ。臨海学校だからな!」
     
     さて、今回劇はする敵は『スイカ眷属』だ。
    「一般的なスイカがパクパクしているような形状で、空中に浮かんで体当たりや噛みつき攻撃をしてくるのが特徴だ。一体ずつはかなり雑魚いが、なんせ数が多いからな。こいつらをやっつければ廃校のアガルタ化を阻止できる。その後は海岸に場所を移して海水浴だ」
     現地は気温が40度を超える灼熱サマーインザシー状態である。
     軽く海を楽しんだら、武蔵坂に帰還しよう。
    「ま、折角の臨海学校だ。楽しもうぜ」


    参加者
    由井・京夜(道化の笑顔・d01650)
    米田・空子(ご当地メイド・d02362)
    犬塚・沙雪(黒炎の道化師・d02462)
    佐久間・嶺滋(罪背負う風・d03986)
    ライラ・ドットハック(蒼き天狼・d04068)
    鈴虫・伊万里(黒豹・d12923)
    蓬栄・智優利(淫乱ピンクの申し子・d17615)
    カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)

    ■リプレイ


     夏だ。
     夏休みだ。
    「「スイカ割りなのです!」」
     鈴虫・伊万里(黒豹・d12923)とカリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)は両サイドからチョップを繰り出し、スイカをおもむろにかち割った。
     飛び散るスイカ汁。跳ね上がる縞模様の皮。ここは佐渡島、アガルタの口未満のスイカモンスター畑である。
     ちっちゃいスイカをぺしぺし叩いて遊ぶ霊犬ヴァレンやナノナの白玉ちゃんを脇目にしながら、由井・京夜(道化の笑顔・d01650)は両手で顔を覆った。
    「例年そうだったからわかってたんだ。臨海学校がマトモじゃなくなるって。みんなで海行って遊ぶだけじゃなくなるって」
     ぴょいーんとジャンプしてきたスイカをストレートパンチでぶち破る。
     汁まみれになった眼鏡を一旦外し、京夜はなかばヤケで笑った。
    「ちくしょー割れろやスイカー! 僕らの海遊びがためにー!」
    「いけません! スイカ割りなら、スイカを割る装備を調えなくては!」
     目隠しした米田・空子(ご当地メイド・d02362)がぐいっと振り向いた。
     なにそれ見えてるの?
    「いいですかっ。棒は日本すいか割り協会推奨のサイズを用意するんです。このような」
     なんだよ日本すいか割り協会って思った人は、ワード検索してみよう。
     ほんとにあるから。
    「そして回って、歩いて、叩くんですっ!」
     お前それ見えてるだろっていう動きでスイカまでてってこ歩くと、空子はスイカを真っ二つにかち割った。
    「……遊んでいるな」
    「……今の武蔵坂には弱すぎる相手だったわね」
     どこにだってヤルキ勢はいるもので、ライラ・ドットハック(蒼き天狼・d04068)と犬塚・沙雪(黒炎の道化師・d02462)は背中合わせに立って周囲のスイカたちを見回していた。
     一方のスイカも、ただのスイカだと思われたくないとばかりにギザギザ口を開けて飛びかかっていく。
     ライラと沙雪はそれぞれ十字砲と銃槍を取り出して射撃。砕け散ったスイカの後ろから次々と飛びかかってくるが、互いの位置を入れ替えつつライラは肩ベルトを射出。沙雪は十字架の脇から速射砲を発射。
     流れるように氷を纏った魔力靴で蹴りを放つライラ。十字架の下部を掴んでスイングする沙雪。
     足を狙って噛みつこうとしたスイカが撥ね飛ばされて飛んでいく。
     これならどうだとばかりに三倍ほどデカいスイカがジャンプして襲いかかってくるが。
    「……いい的ね」
    「ああ、大きいだけの」
     沙雪は十字架の長い部分を肩にかつぎ、上部から対空砲を展開。ライラはグローブにエネルギーを溜め、アームガンのように構えた。
     そして、光と風の弾幕を発射。大きなスイカはしめやかに爆発四散した。
    「よし、これで最後だ。きっちり料理するぞ」
    「おっけい!」
     シャツの腕をまくる佐久間・嶺滋(罪背負う風・d03986)。ガッツポーズで胸をよせる蓬栄・智優利(淫乱ピンクの申し子・d17615)。
     ぴょんぴょこ飛び込んできたスイカたちの間を包丁もった嶺滋がジグザグに駆け抜け、棒を持った優利がぽかぽか叩いて駆け抜ける。
     するとスイカたちはその場でびしりとかたまり、一斉に八分割されていった。
     包丁をキラリさせる嶺滋。
    「秘技、サイキック隠し包丁」
    「ナノ」
     スイカのうえで泡吹いて回っていたバト(ナノナノ)が、びしりと決めポーズをとった。最後だけ持って行きたかったらしい。


     ライラがスイカを食らっていた。食らいまくっていた。
     片足を座禅みたいに組んで、片手で右から左へと高速で平らげると、そばのボウルに種をいっぺんに吐き捨てる。そういう曲芸かなってくらい見事に平らげているが、彼女自身は真面目である。
    「……早食いなら負ける気はしない」
    「え、戦闘シーン? 終わりだよ!」
     京夜は水鉄砲のポンプをじゃこっとやって言った。何に言ったのかはわからない。カメラかな。ないけど。
     そして言った瞬間顔に水撃をくらってもんどりうった。
    「こんなこともあろうかと水鉄砲をたっくさん揃えといたんだ。すごいよね、最近の水鉄砲って、特撮の武器みたい!」
     真っ赤なハンドガンや今にもビームを打ちそうなライフルをかついで笑う沙雪。
     実際このレベルの水鉄砲が二千円前後で撃っているので、夏の子供たちは大はしゃぎである。種類も豊富なので、小学生男子なんかはもう目移りし放題だろうよさ。
    「それもいいけどさ、まずは『コレ』やらない?」
     ビーチボールを水圧で浮かせる京夜。
    「しょーがないなー。いいよ、その後でバーベキュー?」
    「準備は任せといて。楽しもう」
    「んっ」
     京夜と沙雪はハイタッチすると、皆を呼びに走った。

     ――かくして。
    「さあ始まりました第……何十回ビーチバレー大会。実況は空もぐもぐもぐもぐもぐ」
     カメラ目線(カメラないけど)の空子は、途中で実況を諦めてあんパンを頬張る作業に戻った。
     この世から実況が消えた瞬間である。
     代わりに白玉ちゃんをバトさんと一緒にベンチに座らせ、『実況』『解説』のプレートを立てた。 これを聞きたい人はリモコンの副音声ボタンを押してくださいね☆ ずっとナノナノいってるから。
    「さあ犬塚さん、由井さん、いきますよ! 佐久間さんも!」
    「お、おう……」
     嶺滋はしばし腹筋を張る作業に没頭していたが、はたと我に返った。
     でもってバレーの構えをとる。
     でもってネット越しにこちらを見る智優利と目が合う。
     智優利はバレーの構えっていうか、茂みから飛び出した熊みたいにダブルベアクローの構えをしていた。あと目がギラーンと光っていた。あと胸は豊満であった。
     目が合って始まるラブストーリーがあるのだとしたら、今始まっているのはハンティングゲームである。
     あふれるやる気に若干引く伊万里。
    「二人ともポッ○ーゲームみたいな合わせアイコン作る間柄なんですよね?」
    「ふっきん」
    「くっ……!」
     そして変な鳴き声を発する智優利。
    「いくよレージ、負けたら言うこと聞くんだからね!」
     智優利は視聴者サービスかなってくらいおっぱい揺らしながらジャンプすると、ボールを激しくサーブした。
    「顔面にくらえー!」
    「負けん!」
     素早くボールをひろう嶺滋。
     相手コートにボールが流れ込――む寸前に空中で待ち構えているライラ。目をギラリと光らせると、凄まじい勢いでボールをはたき落とした。
    「わーっ!?」
     顔面にくらってもんどりうつ京夜。
    「……勝負ごとである以上、負けられない」
    「ガチすぎる! 今のボール殺気があったよ! 殺す気で来てるよ!」
     涙目になりながらボールを相手コートを飛ばす京夜。
     対して伊万里はどうやってんのかわかんないくらい俊敏なすり足でボール着地点に移動。全身をつかったトスで的確に空中へ上げた。
     ブロックのためにジャンプする沙雪。
     アタックのためにジャンプするライラ。
     同じくブロックのためにジャンプする嶺滋。
     視線の位置に来た腹筋にそっと手を伸ばす智優利。
     あんパンを食う空子。
    「ってあんパン食べてる!?」
    「今なのです!」
     霊犬ヴァレンのアシストでジャンプしたカリルが、勢力圏にあるボールを力強く叩いた。
     ブロックの隙間を抜けて跳び、地面に突き刺さるボール。ナノナノコンビがずばっと旗をあげた。
    「よくやったのですヴァレンー。よーしよし!」
     ヴァレンをわっしゃわっしゃなで回すカリル。
    「身長では負けてますが、試合には負けませんよっ! ぼくらのチームワークを見せてあげますっ」
     伊万里はふんすと鼻息荒く構え、ライラは人を殺す目でガチな構えをとっている。
     そして智優利は獣の目で両手をわきわきさせていた。あと胸が豊満であった。
    「これからが本当の地獄だ……」
    「みんな逃げるんだ……勝てるわけがない……」
    「あんぱんうまうま……」
     一方の仲間たちを見て、沙雪はあることを悟った。
    「あ、負けるなコレ」
     もちろん負けた。

    「ふおーふっきんふおー!」
     智優利は嶺滋の腹に小刻みのパンチをひたっすら打ち続けていた。
     ちなみにこれは『人間の堅さを知るの刑』っていう遊びで、ある中学校の水泳部で超流行ったゲームである。刑ってついてるけど。ちなみに同列のゲームに『空気のおいしさを知るの刑』っていうのがあります。
    「ふっしぎー、パンチしてるのに手が全然痛くならない! なのにかたーい!」
    「ふぐう……!」
     一方嶺滋は歯を食いしばって腹筋へ小刻みに力を入れていた。これ、簡単に見えるけど結構難しいんだよ。パンチのタイミングに合わせて小規模なパンプアップをするから拳の衝撃を吸収しつつ手応えを返せるっていう……。
    「今は我慢しよーねレージ。後でお散歩さそってあげるから」
    「たの、しみ、に、して、る……!」
     そのかたわら。
    「なんなのあの二人。どういう関係なの?」
    「見て分かるでしょ」
    「あれで分かったらそれはそれでどうなの」
     京夜と沙雪がバーベキューの準備を進めていた。
     下の方でうちわをぱたぱたやってお手伝いするカリル。
     手を止めて振り返った。
    「みんなー、そろそろやけるのですよー」
    「……早食いではないんだな?」
    「ちがうのですよ」
     足音もたてずにヌッと現われたライラに、カリルはお皿に取り分けた肉や野菜を突きだした。
    「じゃんじゃん焼いていくからね。お肉ばっかり食べたらだめだよ」
    「ええもうっ、ちゃんとバランスよく食べてますとも! 牛豚鶏、牛豚鶏! たまにもろこし!」
     ふぉいやーとかいいながら肉をがつがついく伊万里。
     京夜はそのお皿にそっとタマネギやピーマンを添えた。
     そんな中で、空子は自ら広げたビーチパラソルの下でお肉をはぐはぐしていた。
    「あつあつ……んむんむ……なんだかとっても贅沢ですねえ」
    「たしかにー」
    「あ、ああ……」
     同じパラソルの下でにこにこする智優利と、げっそりする嶺滋。
     空子はお肉をごっくんしてから、思い出したように振り返った。
    「そういえば、廃坑には金とか銀とか無いんですか? スイカの種とか」
    「スイカの種はなぜ出てきた」
    「後で見てみる? さすがに掘り尽くしたからこその廃坑だとは思うけど」
     お皿持ってきた沙雪とカリル。
     同じく鉄のクシにさしたお肉を持ってくる伊万里。
    「まあ、夕方になったら帰ればいいみたいですし」
    「もう少しゆっくりしていこうか」
    「……そうだな。それも悪くない」
     ライラは頷いて、水平線の向こうを見やった。
     戦闘の終わった海は随分と静かだ。
     どこか遠くで他の学生たちが遊んでいる声がする。
     まだまだ遊ぶ時間はありそうだ。
     沙雪は笑顔で水鉄砲を取り出し、伊万里たちは頷いた。
     夏はまだおわらない。臨海学校も、まだまだ始まったばかりだ。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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