臨海学校2015~廃坑のスイカ割りと真夏の島

    作者:御剣鋼

    ●佐渡ヶ島のアガルタの口にて
     40度を超える熱波に覆われた、佐渡ヶ島(さどしま)。
     主要4島と北方領土を除く日本の島の中では、沖縄本島に次ぐ面積を持つという。
     その島を熱波が襲う中、かつての佐渡金銀山の廃坑に、動くスイカのような植物が繁茂すると、瞬く間に緑で埋め尽くしてしまった。
     熱波に覆われた廃坑の奥深く、謎の植物型の怪物達は、廃坑を更に更に深く深く掘り進めていく――。
     
    ●2015年臨海学校
    「臨海学校が控えている中、お集り頂き、誠に恐縮でございます」
     教室に集まった灼滅者達に座るように促した、里中・清政(高校生エクスブレイン・dn0122)は、バインダーから取り出した資料を1人1人に配ると、冷たい皿に盛ったスイカと麦茶を差し出す。
    「皆様をお呼びしたのは、北陸の佐渡ヶ島で異常な熱波が発生し、佐渡金銀山の廃坑が『アガルタの口』と化している事件が起きていることに、関係しております」
     ――アガルタの口。
     それは、先の『軍艦島攻略戦』で、軍艦島の地下に現れた、謎の密林洞窟のことだ。
     灼滅者達の懸念が、別にあることを直ぐに察知した執事エクスブレインは、静かに頷く。
    「この事件を解決するため、急遽、佐渡ヶ島で『臨海学校』を行うことになりました」
    「ああ、やっぱり……!」
     ダークネスにも、夏休みがあっても、いいんじゃない……?
     真夏の陽射しが容赦なく照らす教室にて、遠ーい目を浮かべる学生達。
     ふと、配られた資料に目を留めた灼滅者の1人が、聞きたいことがあると手を挙げた。
    「熱波の原因は動くスイカのような植物みたいだが、何故そんなのがふっと湧くように出たんだ?」
    「解析したものを纏めましたところ、ダークネスの移動拠点と化した『軍艦島』が、佐渡ヶ島に近づいていることが原因だと、わたくし達は推測しております」
     動く要塞と化した軍艦島は、有力なダークネスが多く座しているが……。
     この事件には、軍艦島と共に移動している『アフリカンパンサー』が絡んでいるのは、間違いないだろう。
    「このまま放置しますと、佐渡ヶ島全体が軍艦島のような、移動拠点とされてしまう恐れがございます」
     北陸周辺で発生していたご当地怪人のアフリカン化も、これが原因だろうと執事エクスブレインは付け加える。
     灼滅者達も、先程とは打って変わったような真剣な眼差しで、次の言葉を待った。
    「皆様方には『佐渡ヶ島の廃坑を探索し、アガルタの口を作り出している敵を撃破』、その後『軍艦島の襲来に備えて、佐渡ヶ島の海岸に移動し、キャンプ』を行って頂きます」
     アガルタの口を作り出している敵を撃破しても、24時間の間は佐渡ヶ島は40度以上の熱波が続くという。
    「無事に、佐渡ヶ島のアフリカ化が阻止され、気温が普通の夏の気温に戻りましたら、臨海学校終了の運びになりましょう」
     佐渡ヶ島のアガルタの口が撃破され、更に多くの灼滅者が集まっている事を知れば、軍艦島のダークネス達も計画の失敗を知り、撤退することになるだろう。
    「やる事は多々ございますが、まずはアガルタの口を制圧し、その後、臨海学校を楽しみながら、軍艦島の接近に備えて頂ければと存じます」
     
    ●廃坑に棲まうスイカ達
    「皆様に担当をお願いしたいのは、北側にある廃坑でございます」
     佐渡ヶ島の廃坑は無数にあるので、探索を行う灼滅者は、それぞれ別々の廃坑にて探索にあたることになるという。
    「アガルタの口と化した廃坑を探索して、廃坑の奥で佐渡ヶ島の移動拠点化を行おうとしている『スイカ型の植物形眷属』を撃破するのが、この依頼の目的の1つになります」
    「アフリカなのに、何でスイカ型眷属なんだろう?」
    「敵がスイカ型であるのは、スイカがアフリカ原産だからかもしれませんが、臨海学校で本気のスイカ割りというのも、趣があって良いですね!」
     アガルタの口は、佐渡ヶ島の廃坑跡地に点在しており、その最奥には『スイカ畑』が広がっている。そこで成長したスイカから『スイカ型の植物形眷属』が多数生まれているのだと、推測されている。
    「スイカ型の眷属は10体。外見はスイカの果実に目と口をつけており、浮遊しながらガシガシ噛み付いてくるという、イメージでございますね」
     1体1体は強くは無いけれど、数が多いので油断はできない。
     廃坑奥のスイカ型の眷属を全滅させることができれば、廃坑のアガルタの口化を阻止することができるようだ。
    「なお、眷属化する前のスイカは普通に食べられますので、残ったスイカを持ち帰って、臨海学校でスイカ割りを洒落込むことも、可能でございます」
    「つまり、前半もスイカを割って、後半もスイカを割れて二度美味しいっていうこと?」
    「流石は灼滅者様方、ご明察でございます!」
     執事エクスブレインは深々と会釈すると、灼滅者の顔を1人1人見回す。
    「楽しい臨海学校が、このような形になってしまったことには、悔しさもあると存じます」
     けれど、アガルタの口を制圧するに留めず、その場で臨海学校すら楽しんでしまう灼滅者の姿は、軍艦島のダークネス達にも強烈なしっぺ返しをするのと同じことだと、執事エクスブレインは微笑む。
    「40度を超える熱波の中での依頼でございますが、気温上昇が急激でありましたことから、海水の方は余り上昇しておりません。海水浴にはうってつけでございますね」
     そう、執事エクスブレインは微笑み、「いってらっしゃいませ」と深々と会釈して、見送るのだった。


    参加者
    千布里・采(夜藍空・d00110)
    御子柴・天嶺(碧き蝶を求めし者・d00919)
    時渡・竜雅(ドラゴンブレス・d01753)
    シオン・ハークレー(光芒・d01975)
    風真・和弥(風牙・d03497)
    リーファ・エア(夢追い人・d07755)
    雪峰・響(雪風に潜む白兎・d19919)
    霄花・メル(識の螺旋・d27107)

    ■リプレイ

    ●廃坑探索
    「流石と言うか…… 可也影響大きいな……」
     LEDヘッドライトとランタンで、廃坑内部をくまなく照らした御子柴・天嶺(碧き蝶を求めし者・d00919)は、彼の幹部怪人を思い、小さな溜息を洩らす。
    (「最近の事件の原因が、こんなところにあったとはな」)
     臨海学校が、これでいいのかというのは、思う所はあるけれど……。
     雪峰・響(雪風に潜む白兎・d19919)も、スポーツドリンクで時折喉を潤しながら、周囲を慎重に見回す。
     廃坑内はジャングルと化しており、奥に進めば進むほど視界は狭く、息苦しさと蒸し暑さも増していて。
    「あんまりあっちこっち行ったらあきまへんで」
     カンテラで廃坑内を照らしていた千布里・采(夜藍空・d00110)は、好奇心いっぱいに尻尾を振っていた、己の霊犬を呼び止める。
     全員が灯りと熱中症対策だけでなく、戦闘後の準備も万全にしていたのもあり、サーヴァント含めて楽しそうに探索している者が、殆どだった。
    「水分補給はしっかりと、ですね」
    「あと、塩分もだよね」
     ネックライトを付け、ハンディライトを片手にリーファ・エア(夢追い人・d07755)が飄々とクーラーボックスを担ぎ直すと、シオン・ハークレー(光芒・d01975)も、真面目に頷いてみせる。
     2人の手にも、良く冷えたペットボトルが握られていた。
    「折角の臨海学校故、色々と楽しみたい所存」
     誰よりも大きな鞄を背負っていた霄花・メル(識の螺旋・d27107)も、ストロー付きのペットボトル首に下げ、適度な水分補給を心掛けていて。
    「何はともあれ、派手なスイカ割りになりそうだな!」
     うっそうと茂り始めた緑に、時渡・竜雅(ドラゴンブレス・d01753)も小まめに水分を補給しながら、周囲を見回す。
     仲間と逸れないように注意しながら天嶺は慎重に足を進め、響もフリーハンドの照明で辺りを照らしながら、注意深く歩みを進める。
     折角の機会だと、采が面白そうに廃坑内の構造に注視した時だった。
    「あれだな……」
     風真・和弥(風牙・d03497)が示した先には、プカプカと浮かぶスイカ型眷属達……。
     ガチガチと牙を鳴らして威嚇する眷属達に、8人と2体は直ぐに迎撃態勢を整えた。
    「こっちが食べられちゃわない様に注意しないとなの」
     見た目はファンシーでも、眷属に変わりはない。
     LEDライトを持っていたシオンの手には、然りとマテリアルロッドが握られていて。
    「起動!」
     和弥は持っていたランタンを地面に置くと、即座に武装を解除する。
     メルの霊的因子を強制停止させる結界に合わせて真紅のバンダナを靡かせ、二振りの刀剣を打ち振う。
     鋭い一閃が、後方の敵を纏めて薙ぎ払った。
    「ほな、はじめましょ」
     スイカの化け物が夏の風物詩ならば、此方も……。
     眷属の数が揃っていることを確認した采が小さく笑うと、足元の影が勢いよく伸びる。
     動物の翼や爪、牙を模った影が、踊るように躍動した――。

    ●魅惑のスイカ割り
    「……凍らせたスイカはおいしそうだよな」
     光り輝く布を巧みに操りながら、響は落ち着いた素振りで絶対零度の魔法を解き放つ。
     急激に熱を奪われ、凍り付くスイカ眷属達に、ゴクリと喉を鳴らす音が幾つも響く、そんな中♪
    「悪いな、更に熱くなるぜ!」
     ペットボトルの水を一口含んだ竜雅は、空気を読まず、髪を炎のように逆立たせる!
     絶対不敗の暗示で肉体を活性化させると、身の丈ほどある斬艦刀を旋回させた。
    「確り足止めはさせて頂くよ!」
     仲間のフォローに回った天嶺は、敵が固まっている所に向けて、怪談蝋燭を揺らす。
     青い炎から生み出された幻影が敵後列を襲う中、采はそっと苦笑を洩らした。
    「暑そうなサイキックが多めやねぇ」
    「列攻撃は十分かな、次は攻撃重視でいくね」
     一気に距離を狭めたシオンが静かに敵の懐に触れると、戦況に余裕があることを確認した采も、同時に足元の影を伸ばす。
     魔力が爆ぜ、躍動した影が屠るように爪や牙を振うと、霊犬が素早く斬魔刀で一閃!
    「長居したい場所でもありませんし、ささっと倒してしまいましょうか」
     軽くエアシューズの爪先をトンと地面に着けるや否や、リーファは瞬く間に風になる。
     眼前の敵に流星の力を宿した飛び蹴りを見舞うと、ライドキャリバーも眷属の注意を惹きつけようと、積極的に前に飛び出した。
    「まるで、蒸し風呂状態の様子」
     まだ、それ程時間が経っていないのに、メルの額には薄らと汗が滴っていて。
     それでもワクワクする気持ちを抑えながら戦いに集中、疲労が蓄積した1体の急所を瞬時に見出すと、正確な斬撃で両断してみせた。
    「まとめて燃え尽きろ!」
     回復はメディックの采に託し、竜雅はクラッシャーとして攻撃に専念していて。
     竜のブレスを思わせる炎の奔流で遠くの敵を焼き払うと、和弥が素早く二刀を構えた。
    「スイカ割りは目隠しをして、スイカの位置を分からなくするけど――」
     味方の攻撃で散り散りになった隙を狙い、エンブレムが入ったジャケットを靡かせる。
    「スイカの方が勝手に動くなら、目隠し無しでも良いか」
     ――右手に風牙、左手に一閃。
     スイカ割りをするが如く、和弥が鋭く振り下ろした斬撃が、眷属を二つに両断した。
    「スイカ割りというよりは、スイカ斬りだな」
     列攻撃を交えていた響も、確実に数を減らさんと、サイキックソードの柄に触れる。
     すれ違いざまに牙と刃が交差して一拍、二つに割れたスイカは地に落ちて消滅する。
    「こっちはボーリングみたいですよ?」
     マイペースに、スイカ眷属達の攻撃をかわしていたリーファも、クスッと微笑んで。
     ライドキャリバーの突撃をかわしたスイカ眷属に狙いを定めると、敵の行動阻害を優先に動いていた天嶺も、疲労が蓄積した敵に薙刀を打ち振った。
    「残り2体なの」
     回復が停滞することもなく、シオンは終始攻撃重視のまま、足元の影を伸ばす。
     刃と化した影が眼前の敵を斬り裂き、リーファが捕縛した1体に竜雅が距離を狭めた。
    「燃えていくぜ!」
     噛み付きを紙一重でかわした竜雅は更に肉薄すると、炎を乗せた斬艦刀を振う。
     スイカ割りの要領で重い刃を叩き付けられた眷属は、見事一刀で両断されたのだった。
     
    「熱波で暑い中、戦闘お疲れ様でした! ……と、言いたいところですが」
     仲間に労いの言葉を掛けたリーファの視線が、畑に転がったままのスイカに止まる。
    「回収しがいがあるスイカが少し残っていますね」
     情報では、眷属になっていないスイカは、美味しく食べれるとのことであーる♪
    「ぼく、食べ物は粗末にしたくないの……」
    「自分達で食べられる分位なら、頂いても良いんじゃないか?」
     残しても誰も食べたりしないだろうし、ツルごと処分すれば問題ないだろう。
     和弥の提案にシオンは嬉々と頷き、皆と手分けして食べ頃なスイカを刈り取っていく。
     一際大きなスイカを手に入れたメルの尻尾は、何処か嬉しそうに揺れていて。
    「必要分は頂きましたし、後は焼き払いましょうか……」
     ……これ以上、眷族にならないように。
     そう、言葉を続けた天嶺に、竜雅が強く頷く。
    「そうだな、もう害はないかもしれないが、不安は残さない方がいい」
     竜雅が一帯を焼き払うように炎を放つと、赤く染まった緑は塵となって消えていく。
     響は采と共に残ったツル等を手早く片付けると、スイカを片手に踵を返したのでした。

    ●臨海学校1日目
     海岸に移動した一行は、日が暮れる前にと思い思いに行動する。
     エクスブレインの情報通り、島を包む熱波は丸1日続きそうな様子だった、けれど……。
    「蒸し風呂状態の廃坑だった故、涼みたい所為」
    「ぼくも、あ、暑いのはちょっと苦手なの……」
     暑さからの解放求めたメルが、早速水着に着替えて海へ駆け出すと、涼しさを求めたシオンも青々とした海に飛び込んでいく。
     生き返るような心地良さにメルがのんびり瞳を細め、シオンも気持ち良さそうに、プカプカ浮かんでいた。

    「どんなに熱くても、これは外せないよな」
     暑い日差しの下、竜雅は張り切ってキャンプファイヤーの準備に取り掛かっていて。
     嬉々と木材を組み立てていた時だった、申し訳無さそうに天嶺が彼を呼び止めたのは。
    「リーファさんのテントを先に建てませんか? 紅一点ですし……」
    「そ、そうだな……!」
    「わーい、ありがとうございます!」
     粋な計らいにリーファが少し砕けた感じでおどけてみせたのとは反対に、女性に興味はありながらも、免疫ゼロな竜雅がわざとらしく咳払いする、そんな中♪
    「一応、監視はしときましょ」
     風が吹く涼しい場所で、采は一日のんびりしようと、パラソルを立てていて。
     その近くの波打ち際では、彼の霊犬が楽しそうに駆け回っていた。

    「夕飯はカレーライスでいいかな?」
     皆に手伝って貰いながら、テントを設置し終えた天嶺は、直ぐに食事の支度に入る。
     すると、響とシオンが調理の手伝いを買って出てくれた。
    「折角の機会だ、オレも手伝おう」
     一見、響は淡々としていたけれど、誰よりも率先して手伝っている様子……?
     けれど、終始落ち着いた素振りで野菜を洗うと、丁寧に皮をむいてくれた。
    「食べやすいように切ったりすればいいのかな?」
     その隣では、シオンも楽しそうに野菜を一口サイズに切り分けていて。
    「スイカもしっかり冷やしておきましょう」
    「水場ででも冷やしてから、美味しく頂きたいよな」
     一旦、クーラーボックスの側にスイカを集めていたリーファに、良く冷えたスポーツドリンクで喉を潤していた和弥が頷く。
     スイカを冷やせる丁度良い水場がないか、リーファと和弥が周囲を見回した時だった。
     海に潜って魚を追い掛けていた筈のメルが、スイカの側に駆け寄ってきたのは……。
    「我、スイカ割りを希望」
     初めてのスイカ割りに、メルはドキドキを抑えながら、拾ってきた棒を皆に見せる。
    「スイカ割りも良いですけど、普通に食べる用も取っておいて下さいね」
     折角回収してきたのだから、美味しく頂かないと勿体ないっ!
     軽く肩を竦めたリーファの後ろでは、天嶺と響がデザートの準備に取り掛かっていて。
     どうやら、フルーツポンチを作るつもりのようだ。
    「こういう感じで料理をするのも新鮮だな」
     スイカと共に並べられた彩り豊かな果物を前に、響の手元が一瞬止まる。
     けれどそれも一瞬、直ぐに軽快な包丁捌きで、果物を一口サイズに切り揃えた。
    「何れも面白そうやねぇ」
     遊びたい盛りの霊犬が、嬉々とスイカ割りに突撃していく様子に、采は口元を弛めつつ、ゆるりと監視を続けるのだった。

     皆が待ち焦がれた夕ご飯は、カレーライスに海鮮バーベキュー!
     メルが持参した魚介類を網で焼いていくと、香ばしい香りが竜雅の鼻孔をくすぐった。
    「他の果実と炭酸水を混ぜて、フルーツポンチにしたんだけど……どうかな?」
     スイカ続きで申し訳なさそうに天嶺が運んできたのは、食後のデザート。
     スイカを器に見立てた特製のデザートに、大きな歓声が沸いたのは言うまでも無く!
    「良く冷えてそうだな、頂きます!」 
     手を合わせた和弥が早速口に運ぶと、口に広がる新鮮で爽やかな甘味に、響とシオンも満足そうに舌鼓を打つ。
    「スイカのお代わりは沢山ありますよ」
     リーファが綺麗に切り分けたスイカにも次々と手が伸びて、団欒にも華が咲いて。
    「何れも、とても美味」
     波音を聞き、夕暮れに染まりつつある空を眺めながらの食事は格別で……。
     人との距離感が掴めず、始めは緊張していたメルも、学年が違う仲間に色々アドバイスを貰おうと、話しに耳を傾けていた。

    ●真夜中の海と空
     闇に染まった浜辺に、ぽぅとキャンプファイヤーの火が灯る。
     同時に、浜辺にパチパチと色鮮やかな火花が幾つも爆ぜ、次々と歓声が響いた。
    「次は派手なのいきましょう」
    「おう、どうせこの温度じゃ寝苦しいだけだし、夜通し遊ぶ勢いだ!」
     リーファのリクエストに、竜雅は派手めな打ち上げ花火を浜辺いっぱいに並べていく。
     次々点火されて行くと、風情ある音が宙を裂いて、眩い華が幾つも夜空に輝いた。
    「手持ち花火もまだまだ沢山あるからな」
    「我も折角故、花火を持参した次第」
     小さな花火でも、種類に違いがあればある程、楽しさは広がっていくもの。
     響が色々な種類の手持ち花火を持って来ると、打ち上げ花火に見惚れていたメルも思い出したように、持って来たねずみ花火やパラシュート花火を、広げてみせて。
    「次は、線香花火にしようかな」
     ススキ花火で宙にくるくると文字を書いて遊んでいたシオンは、線香花火を手に取る。
     まるで、小さな打ち上げ花火のように手元で弾ける火花を、皆で食い入るように見つめた時だった。
    「思い出に、記念写真を」
     メルの提案に否を唱える者はなく、少年少女達は嬉々と携帯端末を取り出す。
     臨海学校1日目は、夜の空と海と花火を背景に、和気藹々とした笑顔で締め括った。

    「夜の海はえぇねぇ」
    「綺麗だな……」
     双眼鏡を片手に采が夜明色の瞳を細めると、都会とは違う夜空に感嘆を覚えていた天嶺も静かに頷く。
    「でも、夜なのに暑すぎ……」
     梅干を1つ頬張った天嶺は、額の汗を拭う。
     情報通り、1日目は大して気温が下がらず、深夜は警戒に専念する者が多かった。
    「こちらも特に異常はなさそうですね」
     反対側を双眼鏡で観察していたリーファも、軍艦島らしきものは見えないと告げる。
    「でも、ちょっと楽しいよね」
     大事な作戦の一環だと分かっていても、皆でワイワイと行う警備は、ちょっとした夜更かしの気分に近くて。
    「(ほんまにどないなるんやろか)」
     ……この結果を受けて、敵はどう動くのだろう。
     物思いに更けたのも一瞬、采は闇夜に溶けた地平線に視線を戻す。
     夜の海は黙したまま変わらず。けれど、島全体を包んでいた蒸し暑さは、少しづつ和らいでいるようにも、感じられた。

    ●臨海学校2日目
     明け方になるにつれ、移り変わりゆく空を楽しんでいた和弥は、1人日の出を待つ。
     水平線から太陽が少しづつ姿を見せると、同時に海と島も光で照らされて――。
    「……見よ! 東方は……なんてな」
     島の太陽が、臨海学校の2日目を告げた瞬間だった。

    「少し羽を伸ばしたらどうだ?」
    「えらいすみません、泳がれへんもんで」
     見張りの交代を買って出た竜雅に、采はやんわり言葉を紡ぎ、再び双眼鏡を掲げて。
    「ちゃんと水分だけではなく、塩分も取らないと駄目だよ」
    「塩飴ならもってきたから、よかったらどうぞだよ」
     水分だけで暑さを凌いでいた和弥と響には、天嶺が水と一緒に梅干を握らせる。
     シオンもクーラーボックスから冷たい飲み物を取り出すと、そっと塩飴を添えた。

     唸るような熱波も徐々に納まり、本来の島の夏が少年少女達を迎えようとしていて。
     8人と2体の臨海学校は、気温が下がり始めた昼頃まで、楽しく続いたのだった。

    作者:御剣鋼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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