臨海学校2015~すいか・ばっしんぐ!

    作者:聖山葵

     光一つない闇の中、それらは、ガリガリと土を削っていた。球状の体躯にぱっくりと開いた口の中にある牙を岩盤に突き立て、少しずつ少しずつ掘り進んで行く。
     人も足を踏み入れぬ廃坑の奥深く、そこはこの球体達の作業場であった。


    「北陸の佐渡ヶ島で異常な熱波が発生していると言う話は聞いているか?」
     問いかけてきた座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)が水着姿だったのは、夏の暑さに耐えかねたのか。
    「佐渡金銀山の廃坑が、アガルタの口と化そうとしているらしくてね」
     それを何とかする為に急遽、佐渡ヶ島で臨海学校を行う事になったと言うところまで話が進めば、はるひの格好が暑さ故の暴走でないことが判明する。
    「アガルタの口は、軍艦島の地下に現れた謎の密林洞窟。となれば、軍艦島攻略戦でダークネスの移動拠点となった軍艦島が、佐渡ヶ島に近づいてきていると言う可能性が考えられる。北陸周辺で発生していた『ご当地怪人のアフリカン化』を鑑みても無関係とは考え辛い」
     もし今回の件に軍艦島の接近が影響しているなら、このまま放っておくと佐渡ヶ島全体が第二の軍艦島になってしまってもおかしくはない。
    「そこで、君達には佐渡ヶ島の廃坑を探索し、アガルタの口を作り出している敵を撃破してもらいたい」
     その後、軍艦島の襲来に備えて佐渡ヶ島の海岸でキャンプを行って欲しいともはるひは言う。
    「キャンプは軍艦島を警戒するという意味でですか?」
    「それもある。だが、佐渡ヶ島のアガルタの口が撃破され、佐渡ヶ島に多くの灼滅者が集まっている事を知れば軍艦島のダークネス達も計画の失敗を悟り撤退していくと思うのだよ」
     倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)の問にまず頷いてから説明したはるひは、ただしと続け水着の胸部分にあるジッパーを少し下げた。
    「アガルタの口を作り出している敵を撃破しても、24時間の間は、佐渡ヶ島は40度以上の熱波が続く――つまり、海水浴にもってこいなのだよ」
     そもそもこれは臨海学校という学校行事を兼ねているのだ、ならば楽しまねば損というもの。
    「難しく考える必要はない。アガルタの口を制圧した後、臨海学校を楽しみつつ、軍艦島の接近に備えて貰えばいいのだから。さて」
     真顔で取り出したビーチボールを抱えると、説明を続けようとはるひは言った。
    「今回君達が探索する廃坑は無数にある。よって君達はそのうちの一つを受け持って貰うことになる」
     何でも、廃坑にはスイカ型の植物形眷属が徘徊しているらしい。
    「スイカはアフリカが原産と聞く、ならば敵がスイカであることに何の不自然さもない」
     ちなみに、この眷属達は廃坑の最奥に存在するスイカ畑から生まれ続けているともはるひは言う。
    「ただ、眷属になる前の段階のスイカは普通に食べられるのでね、望むならスイカ割りなどをすることも可能だろう」
     尚、眷属化したスイカは目と口を持ち浮遊しつつ噛み付いてくるので、眷属になっているかどうかはすぐ解るのだとか。
    「灼滅者ならば熱中症になる事は無いだろうが、暑さが厳しいのは言うまでもない」
     水分補給を忘れないようにと釘を刺すと、はるひは一本の棒と細長い布を取り出し、君達に差し出した。
    「餞別だ、スイカ割りをするなら、使ってくれ。もちろん眷属との戦いではない方で」
     真顔で言い切るはるひの右手教室の窓に飛んできた蝉がぶち当たった。
     


    参加者
    錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)
    小碓・八雲(鏖殺の凶鳥・d01991)
    本山・葵(緑色の香辛料・d02310)
    中神・通(柔の道を歩む者・d09148)
    備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)
    クロト・フィート(星を廻る黒山羊・d30599)
    黒雨・キリエ(宵闇の涙雨・d31428)
    クレンド・シュヴァリエ(ワールドオブシールド・d32295)

    ■リプレイ

    ●坑道へ至りて
    「はぁ、『40度オーバーってこんなに暑いのかよ』って言ったけどよ……ここもやっぱ暑いのは変わんねぇな」
     うんざりしつつ頭にマジかと付けて零した時と似た表情で、本山・葵(緑色の香辛料・d02310)は嘆息するなり額を拭った。
    「そうだな、早めに終わらせてしまおう。風まで暑くちゃ此処もサウナみたいなものだ。いやでも体力の消耗が激しい」
     相づちを打ってLEDランタンで前を照らすのは、小碓・八雲(鏖殺の凶鳥・d01991)。光に後退した闇の奥へと目を向けるも闇はまだ沈黙を貫いており。
    「スイカ、楽しみだ……。その前に、やることやらないと」
     ポツリと呟くクロト・フィート(星を廻る黒山羊・d30599)の前を歩く黒雨・キリエ(宵闇の涙雨・d31428)はクロトの方を振り返ると複雑な表情を浮かべ、視線を前に戻した。
    (「クロと楽しく臨海学校、なんてそう簡単にはいかねぇよな……」)
     おっちょこちょいだから転ばないようにと差し出された手を握っているのが嬉しくありつつも、キャンプなどのお楽しみは今進む坑道内の敵を片付けてからなのだ。
    「今度は佐渡島ね。島ごと動かして、何がしたいんだろう?」
     淡々と、備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)が思った疑問を口にする中、錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)は密かに苦笑する。
    (「やっぱり、うちの臨海学校はこうなる運命なんだね」)
     説明は、されていた。
    (「この学校の行事って本当にまともなのが無いよな」)
     だから、今更感はあったが、クレンド・シュヴァリエ(ワールドオブシールド・d32295)もこの時似たようなことを考えていた。
    「スイカ型眷属の掃討頑張ってネー!」
     そう後方から密かに声援を投げた少女の姿に気づいたかはわからない。ただ、前方に出現したソレには間違いなく気づいていた。
    「なんかハロウィンの南瓜に似てるな、名前に瓜が入ってるしパチモンみたいだぜ」
     とは標識を黄色にスタイルチェンジさせた葵の弁。ライトの光に浮かび上がり、暗がりから現れた球体の出現は、取りようによっては肝試し要素さえ備えているようにも思われる。ともあれ、敵が現れたなら、戦闘になると言うところまでは、説明の必要さえない。
    「先ずはコイツらを派手にスイカ割りしないとな」
    「そうですね。微力ではありますが全力で挑ませて頂きましょう」
    「ああ、では……一気に叩き割るぞ!」
     構えをとりつつ倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)へ声をかけた中神・通(柔の道を歩む者・d09148)は緋那の答えに頷きで応じるなり龍砕斧を手に飛び出していた。

    ●すいかわり
    「やぁっ」
    「おらぁっ」
     同時に複数の果実が破砕した。高速で敵のただ中に突入した通へ薙ぎ払われた口と目付きのスイカ達は、一個が葵の振り下ろした交通標識によってたたき割られ、一個は緋那に両断され、人の頭程の高さから落ちた事が原因で果汁と果肉をぶちまける。
    「古書キック……ってね」
     鎗輔の足が二人に割られなかった三個目を蹴り砕き。
    「しかし、ああしてみると本当にスイカだね」
     目視で眷属の接近を捉えたクレンドが苦笑を浮かべつつエアシューズを駆って坑道を疾走する。
    「ガアアアッ」
     それに釣られ健在だったスイカ眷属は大きく口を開け、クレンドの後を追い。
    「させねぇよ!」
    「ガッ」
    「クロ」
     構築された結界に突っ込んで、動きが止まれば縛霊手に内包された祭壇を展開したままキリエはクロトを呼ぶ。
    「……ん」
     呼ばれた方は呼ばれた方で、わかっていたのだろう。一体が止まって渋滞を生じさせたスイカ眷属達へ冷たい炎を解き放つ。
    「ギュアァァッ! ガゲッ」
     纏めて凍り付きだし、悲鳴をあげる眷属の一体を霊障波で砕けたスイカシャーベットに変えたのは、ビハインドのプリューヌ。
    「どうやら、本当に数だけのよう、だねっ」
     微笑の表情のまま何処か得意げな雰囲気を漂わせたプリューヌの脇を抜け、摩擦熱で生じた炎ごとクレンドは片足を手負いのスイカに叩き付け、果汁と果肉まみれになったそれを振り抜く。
    「けど、これで少しは減っただろ?」
     葵の足下に転がるのは、先程倒した眷属の一部だったスイカ片。
    「いくらか減ったけど、あっちからも来てるんだよ」
    「え?」
     ここまでは誰一人傷を負うことなく済んでいたが、伝説の歌姫を思わせる歌声に歌詞として警告を乗せた琴弓の言に示す方を見れば、「やぁ」とでも言うかの様に現れ近寄ってくる、スイカ眷属の集団が一つ。
    「わんこすけ」
    「わうっ」
     増援の先頭にいた眷属は次の瞬間、霊犬のわんこすけが撃ち出した六文銭による手荒い歓迎を受け。
    「まとめて散れッ!」
     そこに襲いかかるは八雲の放出した殺気。
    「ガッ」
    「ギュッ」
     新たに現れた者達は尚、宙に浮かぶ力を残していたが、巻き込まれた生き残りの方は耐えきれなかった。殺気という本来なら物理的な力など無かった死神によって命を刈り取られたスイカ眷属達は、残骸と化し。
    「「ガアッ」」
    「くっ」
    「ここは通さないよ、プリューヌ!」
     六文銭の痕を残したまま襲いかかってくる追加眷属を一行は迎え撃つ。
    「ガァ」
    「っらァア!」
     通は大口を開けて噛み付いてくるスイカ眷属の口腔へ逆に手を突っ込むと口の端に指を引っかける形で投げ、壁に叩き付け。
    「ガアアッ」
    「てめぇの相手は、あたしだ!」
    「ガッ、ベッ、ガ、ギュ」
     仲間を助けるべく通に襲いかかろうとした別の個体は、オーラを収束させた葵の拳で何度も壁に打ちつけられ、砕ける。
    「えーと、これで幾つ目だ?」
    「それなりの数は、倒している筈ですが」
     はるひの説明にあったとおり、最奥のスイカ畑から産まれ続けているのだろう。
    「こりゃ、数数えるより倒しつつ先に進むしかなさそうだな」
     葵が振り返れば、口を開いた緋那の前だけでなく、キリエや八雲の側にも両断されたスイカ眷属の骸が転がっていて、葵はカウントを放棄し。
    「だろうな。言ってる側から次の敵だ、片っ端から切り捨てるぞ!」
     相づちを打った、八雲は二本の刃を上段に構え、こちらへ向かってくるスイカ眷属目掛け走り出す。
    「クロ、俺達も行くぞ?」
    「……ん」
     眷属化した慣れの果てとは言え、スイカはスイカ。興味を覚えたのか残骸に目を落としていたクロトに呼びかけ、魚の鱗を集めて出来たような寄生体の翼を揺らしてキリエが歩き出せば、クロトもすぐさま後を追い。
    「邪魔をしないで欲しいんだよ」
     構えたクロスグレイブから琴弓の放った罪を灼く光線がデタラメに前方へ照射され、いくつかのスイカ眷属を撃墜する。
    「ふぅ、そろそろ回復した方が良いかな? 怪我してるならディーヴァズメロディで――」
    「トドメを刺す、ってことかな?」
    「そう、これ以上苦しまない様に……って、何でそうなるんだよ?!」
     ディーヴァズメロディは攻撃サイキックだからである、と言った指摘はさておき、クレンドが仲間に追いかけられつつも、ここまでは順調だった。やたら敵の数は多かったが。
    「ここまでは、と言うかこの坑道自体がここまでと言った方が正しいね」
    「わうっ」
     古書ダイナマイトで近寄ってきたスイカ眷属を吹っ飛ばした鎗輔が見つめる先にあったのは、鬱蒼と茂るスイカの蔓。
    「あとはスイカを採って、後始末するだけ?」
    「いや、簡単に狩らせてはくれないみたいだぜ、クロ」
     クロトの問いに答えたキリエが示す先で、スイカが一つ浮かび上がり。
    「久当流……襲の太刀、喰兜牙!」
     死角に回り込みすれ違い態に浴びせた八雲の斬撃に割れて、落ちる。
    「ここは俺達に任せて、スイカの確保と処分を頼むよ」
     更に蔓を千切って浮かんで来ようとするスイカと仲間の間に割り込みつつ、クレンドが言えば。
    「細切れにすればもう動けやしないだろ? 邪魔はさせん」
    「それじゃ、お言葉に甘えようかわんこすけ」
    「わう」
     八雲は別の眷属へ向かって行く所で、鎗輔は霊犬に視線をやると、一番近くにあった蔓を掴んだ。

    ●海水浴とスイカとキャンプ
    「スイカ、スイカ割りしたい」
     無事一仕事終えて砂浜に戻ってきたからか、スイカを抱えたまま、クロトは主張した。
    「まぁ、スイカは結構な量を確保してるしな」
    「その為に座本先輩が渡してくれたんだもんね、あれ」
     却下する理由は何処にもなく、むしろ琴弓の視線の先にはやるべき理由、細長い布と一本の棒が置かれている。
    「なら、希望者はスイカ割りをして、他の者は思い思いに浜辺で過ごすと言うことでどうかな?」
    「あ、スイカは幾つか残しておいて欲しいんだよ。スイカの白いところもサラダとかに使えるってお婆ちゃん言ってたし」
     クレンドの口からそんな提案が飛び出せば、琴弓が釘を刺し。
    「準備は済ませておいたぞ」
    「おっし! それじゃ、まずはコイツから始めようぜ! ほら」
     通が設置したスイカを示せば、葵が置かれていた棒を拾い上げ、クロトへ差し出す。
    「……ありがとう」
    「目隠しは自分でやれるか?」
    「……うん、大丈夫」
     礼を言ったクロトは目隠しをし、そのまま一番手となり。
    「左だよ、左、あ、ちょっと行きすぎ」
    「……こっち?」
    「……お、中々楽しそうだな」
     声援を受けつつ、スイカ目掛けややおぼつかない足取りで歩き出したところに、キリエが顔を出す。
    「クロ! もうちょい右だぜ、右ー!」
    「さてと、あたしも準備を始めるかね」
     大切な相手が挑戦中だからか、キリエが声を張り上げ一際賑やかになった会場を横目に葵は準備を始め。
    「おおっ」
    「やったな、クロ」
    「へぇ、やるじゃねぇか」
     戻ってきたのは、一際大きな歓声が上がり、砕けたスイカの傍らでキリエにクロトが頭を撫でられている所だった。
    「次はどうする? あたしは準備出来てるぜ?」
    「じゃあ、そのあとに妹を参加させて貰おうかな」
    「プリューヌちゃん、遊ぶヨー!」
     そのまま進み出た葵が周囲を見回すと挙手をしたのは、プリューヌを示したクレンドで、そのビハインドに向かってぶんぶん手を振りながら駆け寄るのは、水着を着た応援の灼滅者。
    「あっ」
     クロトが声を上げたのは、水着姿に思い出したものがあったからか。
    「……キリエとも海に入りたい。水着、持ってきたし……。キリエと海入るの、楽しみにしてたんだ」
    「そっか。クロ、折角だし一緒に泳ごうぜ……って、おい!?」
     キリエの頭に乗っかっていた帽子が、掠われたのはこの直後。
    「確かに使わねぇけど、俺の帽子取るなって……!」
    「さて、もういいよな?」
     そのまま追いかけっこに移行してフェードアウトした二人を見送ると、葵は目隠しをし、バットを握りしめた。
    「よっしゃー、クリティカルヒット出してやるぜ!」
     ブンブンと振り回すバットが風を切り、ビシッとバットの先で一点を示すと第二の挑戦者は歩き出す。
    「このあとはプリューヌちゃんの番だヨー」
     目隠し結んであげるネーと言う弾んだ声を聞きながら、進む先で声援を受け。
    「でぇぇいっ!」
     振り下ろされるバットと決定的瞬間を見終えた鎗輔は、くりぬき終えたスイカを海に浮かべると、わんこすけと霊犬を呼び。
    「わうっ」
    「臨海学校って言うより、なんか、前線を見張る兵士って感じだよね。まぁ、遊ぶんだけど」
     スイカの船に霊犬の半身を乗せると、押しやった海の方へ向き直って呟いた。
    「あ、もう泳ぎ始めてるんだよ」
     そこに現れたのは、スクール水着に身を包み、パーカーを羽織って体型を隠した琴弓。スクール水着をチョイスしたのは、学校行事だからと言う理由らしい。
    「夕飯の食材探しをもう始めてるのか?」
     続いて半分くらいに割れたスイカを抱えた通も顔を見せ。
    「あれ? スイカ割りは?」
    「終わりましたよ」
    「あ、いたいた。なぁ」
     琴弓の問いに、スイカを割ってプリューヌが得意げな雰囲気を醸し出していたところまで補足した緋那の肩を葵が軽く叩く。
    「遊ばねぇか、あっちで」
     示す先は波が退いては打ち寄せる海。そうですねと緋那は頷いた。

    ●夕飯の為に
    「それっ、隙ありー♪」
     ぱしゃっと葵が両手で掬った海水が緋那へと降り注ぐ。
    「っ、やりましたね」
    「うおっ」
     始まる水の掛け合いは、いかにも海水浴と言った光景だった。
    「ぷはっ、食材が豊かな島だとは聞いてたけど……これは凄いな」
     一方で、かなり離れた海面から顔を出した八雲の腕には、貝を始めとした海の幸が抱えられていて、ただの素潜りでは無かったことを雄弁に語る。
    (「これは大丈夫か……?」)
     海中で貝を見つめて腕を組む通の目的もおそらく八雲と同じ、夕食の食材収拾なのだろう。
    「これで陸に上がるとまた暑んだよな……、海はいいなぁ。とは言え、これ、何とかしないとな」
     ぼやきつつ暫し海面を漂った八雲は海の幸に目を落とすと、陸に向かって泳ぎだし。
    「そろそろいいかな」
     そんな仲間達を見て、一足早く海での採取を切り上げ陸に上がってきたのは、鎗輔。
    「確か、ハマボウフウとオカヒジキは食用だったよねぇ」
     海での収穫を仲間へ渡す為だけではなく、目は野草に向いており。
    「こんなにとれたのか」
    「まあね。それじゃ僕はこれで」
     炊飯の準備に取りかかっていたクレンドへ魚介類を手渡すと、何処可へと去って行く。
    「こんなもんなんだが……どうかな?」
    「ああ、こっちも凄いね」
    「凄い、とっても助かるんだよ」
     更に入れ替わるように現れた通が戦果を見せれば、琴弓が自身の採ってきた貝や海藻の側に置き。
    「おっ、もう始まってんのか、悪ぃ」
     海から戻ってきた葵達が合流し、本格的な夕飯の準備は始まる。
    「ええと、こうか? 魚介類ってどうやって切りゃいいんだよ……」
     開始早々、横たわる魚を前に頭を抱えた灼滅者が出たのは、ご愛敬か。
    「この鮮度なら刺身でもいいかもな。何処かに山葵があ――」
    「あたしをわさびと呼ぶんじゃねぇ!」
     誰かの呟きを遮り、過剰反応をしたのも、また。
    「よし、今の内だな」
     仲間達の目を盗み、アイテムポケットを使い、取り出した材料で密かにフルーツポンチを作りつつ、キリエは興味深そうに仲間が調理するのを見つめるクロトの横顔をチラ見し。
    「ただいま。野草を集めてきたけどまだ間に合うかい?」
     鎗輔が帰ってきたのは、夕飯のシーフードカレーが出来上がる少し前。
    「調理方法によっては何とかなると思いますよ」
     幸い火の始末を終えた訳ではなく、いくらか夕飯のメニューが増えることが確定した瞬間でもあった。
    「ちょっとこっちに来て貰っても、いい?」
     今度こそ夕飯が出来上がったタイミングで、鎗輔が仲間達に問う。
    「ん、何かあんのか?」
    「夜になればキャンプファイヤーだよね。そのために、この櫓をこっそりと作ったんだよ」
     逆に問いかけられ、答えて示す先には、木が組まれており。
    「とにかく燃そう。伐採した奴も燃さないかんのだしねぇ」
     調理用の火を移した小枝を持った鎗輔は櫓の前に歩み寄ると、しゃがみ込んで点火する。
    「……綺麗なんだよ」
     組まれた木の中で産まれた炎がだんだん大きくなり、やがてパチパチと音を立てつつ揺れ始め。
    「じゃあ、夕食にしようか」
    「そうですね」
     促され、櫓の脇に料理が並ぶと、誰かが手を合わせた。
    「いただきます」
    「「いただきます」」
     幾人かが倣う形で唱和し、料理に食べ始める姿を、少し離れた場所にプリューヌ達が作った砂の城を、炎は照らし揺らめく。
    「クロ、楽しかったか? ……良けりゃ、来年もまた一緒に海に行こうぜ」
     匙を動かす手を止めて、キリエは問いかけると、身体の影に隠していたフルーツポンチを取り出し、クロトの食器の隣に置いた。それは各々がが満喫する臨海学校の一幕。
    「ごちそうさまでした」
     やがて夕食が終われば、暫くの自由時間経て眠りにつき。
    「気温はオッケーだな。そろそろ帰る準備しようぜ」
    「ああ」
    「そうだな」
     二日目の海をいくらか楽しんだところで、気温の変化に気づいた通の提案に、何人かの同意が返る。
    「サウナも終わりか、ま、その方が過ごしやすくていいよな」
     後片づけが終わってしまえば、熱波の収まったそこはただの海岸で、灼滅者達が立ち去れば、ただ波の音だけが残された。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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