臨海学校2015~アタック・ザ・キラー・スイカ!

    作者:西灰三


     佐渡金山。かつては多くの金が採掘され、富を産んだ鉱山である。だがそれもはるかに昔の話、今ではその名残を観光資源に留めるだけである。
     だがそんな死んだ鉱山の中で、蠢く者達がいる。緑の小柄な身体を持つそれは植物のようだ、伸ばした蔓を腕のように使い岩盤を掘り進んでいる。果たして彼らの目的とは何なのだろうか。
     

    「まあダークネスの仕業なんだけどさ」
     有明・クロエ(高校生エクスブレイン・dn0027)は有り体に言った。
    「佐渡ヶ島が異常に暑くなってるんだ。そして佐渡の廃坑がアガルタの口になっちゃいそうなんだ」
     アガルタの口とは軍艦島の戦いの折に存在した戦場の一つである。あまり詳しいことは分かっていない。
    「でね。そのままにしておくと佐渡ヶ島が第二の軍艦島なっちゃうかもしれないんだ」
     おそらく北陸周辺のご当地怪人のアフリカン化も関連しているのだろう。
    「皆には現地の廃坑に行って、アガルタの口を作っている敵を倒してもらいたいんだ。その後軍艦島の襲来に備えて佐渡ヶ島の海岸でキャンプをして」
     灼滅者達はエクスブレインの言に耳を傾ける。
    「アガルタの口を攻略した後も佐渡ヶ島は40度以上の熱波が続くから、海水浴にはぴったりだよ!」
     ん?
    「あ、言い忘れてた。これ臨海学校だからね」
     ああ、となんか声が漏れた。
    「軍艦島の襲来と言っても、皆がアガルタの口を撃破すれば撤退していくはずだよ。とにかくアガルタの口を攻略してから、楽しめばいいと思うよ!」
     いつもの臨海学校ですね。念のため楽しんでいる間も軍艦島には警戒しておく必要があるけれども。
    「で、アガルタの口を作ってるのなんだけど……まあスイカ」
     しかもこのスイカ、宙を浮き噛み付いてくるらしい。
    「種を吐き出しての射撃攻撃もしてくるよ。坑道の奥にあるスイカ畑から眷属になって動いているんだ。無駄に数が多いから、複数を同時に攻撃できる手段があるといいかもね」
     これらを全滅させれば坑道のアガルタの口への変化は阻止できるらしい。
    「あ、畑には眷属になってないスイカもあるから、必要なら持って行っていいよ。他に食べる人もいないだろうし」
     なお飽きるくらいの量はある模様。
    「あ、スイカって水分補給にいいんだって。気温40度だから水代わりに食べればいいんじゃないかな。海水浴してる間のスイカ割りにでも……あ、これからスイカ割りにいくんだった」
     こほんとクロエは咳払いをする。
    「臨海学校は一泊二日だから、スケジュールを立てるといいかもね。それじゃ臨海学校、行ってらっしゃい!」


    参加者
    巽・空(白き龍・d00219)
    クロノ・ランフォード(白兎・d01888)
    銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)
    フィズィ・デュール(麺道四段・d02661)
    日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)
    吉野・六義(桜火怒涛・d17609)
    透間・明人(蜃気楼・d28674)
    葬火・禍煉(ネガシオン・d33247)

    ■リプレイ


     焼け付く様な日光、辛うじてその日差し自体は樹木の天幕で防げているものの、熱を持った空気まではしのげない。
    「……暑い……」
     クロノ・ランフォード(白兎・d01888)がぼそりと呟いた。
    「……というか、熱い……」
     沈痛な面持ちで彼は歩を進める。彼のイメージでは日本海側は暑さがそうでもないと考えていらしいが、実はそうでもなかったりする。まあ今回の原因はフェーン現象ではなくアガルタの口が原因なんだけれど。
    「とっととスイカかち割って海行こ、海」
     銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)のもみあげから汗が滴っている。
    「今年も臨海学校はダークネス退治……と思ったら眷属ですか。まぁ、数が多いですし少しは気が晴れそうですね」
     蚊の鳴くような声で透間・明人(蜃気楼・d28674)は小さな言葉を生み出した。暑さに対しては特段影響は無いように見えるが、そのまま蒸発して消えていきそうな気配すらある。大丈夫だろうか。
    「……それにしても敵でスイカ割りとは、風情があって良いものですね」
     とりあえず意思はちゃんとあるようである。それにしてもスイカである。
    「なぜ……スイカ、なのかしら……?」
    「今まで好き放題割られてきたスイカの逆襲ってとこですかね?」
     葬火・禍煉(ネガシオン・d33247)とフィズィ・デュール(麺道四段・d02661)が今回の相手に対し疑問を浮かべる。
    「まさに夏という感じ……だからです?」
     日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)の意見はいやいやまさか。そんな緑の王たるアフリカンパンサーがそんな単純なネタ振りを……するかもしれない。
    「おっと坑道が見えてきた、そろそろだな」
     そんな話をしていると吉野・六義(桜火怒涛・d17609)が草木の奥に合った坑道を見つける。持ってきた懐中電灯をオンにして中を照らしだす。
    「あ、そうだ。洞窟に入る前に……」
     巽・空(白き龍・d00219)が荷物の中から冷却シート等の熱中症対策グッズを取り出す。
    「洞窟内は熱がより籠ってるかな~って……皆さんもどうです?」
     灼滅者達は一瞬顔を見合わせると、直ぐに彼女からグッズを受け取り装備し、坑道へと足を踏み入れた。


     坑道の中を歩けば足元には緑の蔦が伸び、奥に行けば行くほどにその密度が濃くなっていく。そして奥から聞こえてくる物音も大きくなっていく。灼滅者達が慎重に進むと程なくして広い部屋に出る。
    「これはまた……」
    「紛うことなきスイカ畑だな」
     右九兵衛とクロノが目の前に広がる状況を見て呟いた。もちろん直ぐにでも戦えるように彼らの腕には武器がある。
    「あ、こっちに気づいたみたいですよ」
    「……たくさんいますね」
    「あんまり嬉しくないバーゲンセールだけどな!」
     沙希が気の塊を手の中に集め、明人がクロスグレイブを構える。六義がその2人を後方において真っ直ぐに走りだす。
    「ま、人間なめんなっつーことで、叩き割ってやりましょーか」
    「さあ……楽しい、スイカ割り……ね。ふふ……」
     フィズィは雷を携えた拳を振り上げて六義の後を追い、禍煉が結界を張り押し寄せるスイカ達の波を堰き止める。
    「さぁ、まとめて『破壊する』よ! かかっておいで!」
     大玉かつ悪玉なスイカの一つを拳で叩き潰して空は言う、彼女の攻撃に触発したのかスイカ達は一斉に暴れだす。無論灼滅者達もそんな青臭い生物達に遅れを取るまいと奮起する。
    「ほれほれ、こっちやないであっちやないでー」
     洪水のごとく押し寄せる緑と黒の悪魔に、銃弾の嵐を浴びせて右九兵衛は敵の気勢を削ぐが、数の暴力という奴であろうかそれから逃れたスイカが防御の薄い灼滅者に襲いかかる。
    「やらせるか!」
     弾幕を抜けてきたスイカの死角からクロノが居合い斬りでスイカを綺麗に切り合わける。まあどんな形で切っても眷属なので消えてしまうのだけれど・
    「まとめて吹き飛んでくださーい!」
     沙希がウロボロスブレイドを振り回して斬りつけるが、少々狙いが甘く効果的なところを切り裂けない。共に扱っている炎と同じ様に扱っているせいで見切られているようだ。スイカのくせに生意気である。
    「ならばこれならどうです」
     つかつかと近づいた明人が武器に炎を纏わせて殴りかかりに行く。無造作な一撃でスイカは燃えながらミンチになり消滅していく。用は済んだと間合いを取ろうとしたしところで、スイカが体当たりをしてくる。
    「……!」
     彼のサーヴァントの盾が間に割り込んだ。スイカは弾かれた、そして地面を跳ね返り明人の顔面に直撃する。……気まずい。
    「………」
     なんとなく禍煉が光線を乱射して周りの敵とともに件のスイカを破壊する。そんな謎の微妙なドラマが後方で行われていることも知らず六義と空が前線で暴れまわる。
    「ソメイヨシノビーム!」
     強烈な桜吹雪のような光線がスイカを打ち砕く。そこだけスイカではなく桜の香りがただ様な気がした。
    「こっちも纏めて吹き飛んで!」
     空が嵐のような蹴りを放てばスイカたちは形を保てずにそのまま赤い霧になって消えていく。この戦いにおいて、最も撃破数を稼いでいるのはこの2人である。
    「ほらそっちも危ないで」
     右九兵衛がスイカ割りの様な口調で六義に近づいていた敵を示せば、彼は振り返りながらフォースブレイクを放つ。
    「あいにく目隠しするほどお人好しじゃないんでな!」
     派手にスイカは砕けた。その様子をみてフィズィももっと派手に戦わねばと手近な敵を捕まえた。
    「どっ……せぇーいっ!!」
     全力で投げた。スイカは勢い良く空を舞う。
    「え」
     明人が気づいた、なんかこっち来てる。盾はちょっと間に合わなさそう、そう考える暇もなく、スイカは彼の顔面で砕けた。
    「……ごめん」
     かくしてつつがなくスイカ退治は終了したのであった、まる。なお残ったスイカはクロノと沙希が幾つか回収していった。


     照りつける太陽、吹き抜ける風も熱を孕んで、白砂はちっとも冷めやしない。そんな地上の暑さから逃れるように、競泳水着を身にまとってフィズィが全力で海に飛び込んで行く。力強い水掻きは日本海の荒波もなんのその。
     彼女ほどの勢いではないものの、禍煉が黒い水着で海を満喫している。
    「こんなに……暑い、と。海の冷たさが、とても……心地良い、わ」
     ふと海の上で力を抜いて仰向けに空を見る。日差しの眩しさに目を細めれば、鳥の影が横切って行く。海もこの暑さを受け止めているはずだが、まだまだ冷静さを保っているようである。彼女はひとしきり海を楽しむと、浜に上がってビーチチェアに腰掛ける。
    「うへへ、ええなあ」
     そういう右九兵衛は埋まっていた。しかも隣にスイカが置いてある。これが何を意味するか分かるな?
    「ええの。下から見上げるアングルもなかなかやし」
     なお女性陣の水着を見るために運命力を使用したらしい。そんな彼の目の前に微妙に殺意のこもった棒が振り下ろされるのもきっと覚悟の上だろう。
    「………?」
     どこかぼーっとした様子で目隠しされた明人が首をかしげた。先ほどまで周りの灼滅者達が臨海学校を楽しんでいるのを盾に介護されながら見ていたはずである。
    「こちらですよっ。右ですよ~」
     沙希が目隠しした明人に声をかける。きっと彼女が呼んだのだろう。何せもっともこちらのスイカ割りに力を入れているのが彼女であるからだ。そんな彼女をやっぱり右九兵衛は見上げていた。
    「へへへぇ」
     眼福である。だがそれは隣に眼禍も控えていることを忘れてはいけない。
    「………?」
     明人がやっぱり棒を振り下ろした姿勢で首を傾げた。今度は空を切ったことによる疑問ではないようだ。むしろ何を叩いたのか分からない感じである。なにか柔らかいものと硬いものと脆いものが重なったような物を叩いた感触である。たぶんスイカではない。バベルの鎖すごいですね。


     泳ぐにせよスイカ割りにせよ遊べば腹も空くものである。その空いた隙間を埋めるためにバーベキューをと調理学部に所属するクロノを始め、空と六義が手早く下ごしらえをしていく。
    「よっと」
     六義が手早く具材を串に刺していく。花見の時にもバーベーキューをしたことがあるのかもしれない。沙希が準備している分もあるが、育ち盛りな者たちが多い以上いくらあっても困らないだろう。彼らが具の準備をしている一方、空が火の準備をする。
    「火起こしや調理のコツは、しーっかり! 調べてきたのです!」
     薄い胸を張って空は言う。確かに手際は良い。そんな彼女にクロノが問いかける。
    「巽ちゃん、もうそろそろ交代しよう。はい水」
     炎天下の中でのバーベーキューである。焼く作業に携わる人間も遠火にあぶられているようなものである。空も無論そのことを知っており、彼と交代する。
    「……水着チェックのお時間どす!」
     火から空が離れて一息ついた所で右九兵衛がカメラ片手に現れた。さっきまで埋まってたから撮れなかったらしい。そんな彼の後ろを海から上がってきたフィズィが横切って行く。
    「お腹すいたー」
     即座に肉を取る彼女の姿に、右九兵衛がレンズを向ける。豪快に肉ばかりを取るフィズィに対して空が注意する。
    「……あ、お野菜も食べなきゃダメですよ! ほら透間くんもきちんと食べて!」
     火の前に立っていなくても空は忙しそうである。そんな忙しげな彼女のサポートを禍煉が行う。
     牛肉に魚介類、とうもろこしに人参、ピーマン玉ねぎとオーソドックスなものから炭水化物の焼きそばにスイカの皮まで。果たして最後のはどうなのか。
    「あ、これ意外といけますですよっ。空ちゃんもどうですか?」
     沙希は一体何をしているのだろうか。そして中身はどこへ。
    「シャーベットにしてありますですっ」
     デザートまできちんと美味しくいただきました。


     六義の彫った顔つきのスイカの提灯にろうそくの火が灯る。星明かりだけでは心もとなかった夜の海岸がほのかに明るくなる。明人がそれと見つめ合う。
    「打ち上げ花火持ってきたんだ、目玉はこの落下傘入のやつ」
     クロノはそれに火をつけると中から炎の矢が空高く舞い上がり花を開く。
    「……あ」
     だがそれを見上げていたフィズィが何かに気付く。
    「……風で海の方に?」
     慌ててクロノは海へと飛び込んでいく。夜の海を泳いでも大丈夫なのは灼滅者くらいのものである。そんな賑やかな面々とは裏腹に線香花火は静かに燃えていた。
    「夏も、あと少し……ね。楽しい、思い出が……出来て、良かったわ……」
    「……来年もこうして、楽しい夏をみんなで迎えたいですよね」
     花火の先の赤い玉が大きくなって、落ちる。そこで禍煉の隣にいた空が顔を上げる。
    「あ、最後にみんなで記念写真、撮りませんか?」
    「えっと、銀夜目さん、カメラを持ってましたよね」
     空の言葉を聞いて沙希が右九兵衛に声をかけるが、六義の放ったネズミ花火に追いかけられているところだった。彼が収まるのを待ったり海から上がってきた者を迎えたりと落ち着いてから全員が海を背に集まる。
     タイマーがかかったカメラが全員にフラッシュを向ける。その光に照らされた表情はメモリーに残り続けるだろう。

    作者:西灰三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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