夢見るぽっちゃり少女

    作者:奏蛍

    ●どこまでも続く……
    「次はこれをにしましょう!」
     にこりと笑った友人に、水華が思わず首を振った。
    「え? 何で食べないの?」
     首をかしげて穏やかに言葉をかけられるが、その瞳は笑っていない。
    「だ、だって……その、太るし……」
     ぽっちゃりな水華は、自分の体型を気にしていた。少しでも気を抜けば、どんどん体重は増して見た目はひどくなって……。
     そんな恐怖が背筋をぞっとさせる。
    「やだー」
     水華の言葉に友人が可笑しそうに笑った。
    「食べたって太らないわよ。実際にわたし、太ってないでしょ?」
     すらっとした友人の見た目はモデルのようだ。主張しすぎない胸のふくらみに、ぺたんとへこんだお腹。お尻もきゅっとしまって、細い足がスカートから伸びている。
    「で、でも……」
    「はい、じゃあ水華はチョコのねー」
     すでに水華の答えなど聞かずに、友人が店員に注文を始めている。友人ときたショッピングモールは、なぜか飲食店だけがずらーっと並んでいた。
     そしてそのお店全てに友人はよっていくのだ。すでにお腹は苦しくなっていいはずなのに、なぜか苦しくならない。
     けれど食べた分は、確実にお肉となって体に増えていく。水華の体だけどんどん太っていくのだ。
    「はい、どうぞ」
     にっこりと悪魔のように笑った友人に逆らえず、水華は渡されたソフトクリームに口を付けていた。
     
    ●ぽっちゃりだっていいじゃない!
    「好きなものを美味しく食べるのが一番よ!」
     そう言ったエルファシア・ラヴィンス(奇襲攻撃と肉が好き・d03746)は、焼肉をこよなく愛し、依頼の後の約肉タイムが至福の一時だったりする。そのせいか豊満というより、だんだんぽっちゃりに偏り始めているのだが……。
     そんなエルファシアが須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)からの情報を話し始める。ダークネスの持つバベルの鎖の力による予知をかいくぐるには、彼女たちエクスブレインの未来予測が必要になる。
     エルファシアの予感が的中して、シャドウの悪夢に苦しめられる水華という少女の存在が明らかになった。幼い頃からぽっちゃりだった水華だが、中学生になって周りの目がひどく気になり始めた。
     小学校高学年の辺りから少し気になっていたが、中学生という違う環境になってそれが増したのだ。しかし痩せようとしても、元がぽっちゃりしているせいかなかなか落ちない。
     そして水華にとっての事件が起きた。密かにいいなーと思っていた男子と友達の会話を聞いてしまったのだ。
    「牧村さんは……んーー、ちょっと、ぽっちゃりしすぎかな……?」
     すごく言いづらそうに気を使って返答を選んでいるのがわかってしまう。そしてその彼の優しさが水華にはひどく辛かった。
     これ以上、体重を増やしちゃダメだ。痩せないと、痩せないと……。
     だんだんと自分で自分を追い詰め始めた水華の弱った心に、シャドウが目を付けたのだ。水華は太り続ける悪夢を見せられて苦しめられている。
     みんなにそんな水華を救い出して欲しい。ということで、まずはソウルアクセスして水華の夢の中に入ってもらことになる。大きな物音さえ立てなければ部屋には簡単に侵入できるので、水華をどう助けるかに集中してもらえたらと思う。
    「方法は三つね」
     大きな胸を揺らしながら、エルファシアが指を三本立てた。
     ひとつは問答無用に一緒にいる友人に攻撃を仕掛ける方法だ。異変を感じたシャドウがすぐに現れてくれるだろう。
     現れたシャドウを撃退すれば水華を助けることができる。けれどこの方法だと、目覚めてから回復するまでに時間がかかってしまう。
     そのため推奨するのは、残り二つの方法だ。ひとつは今いる場所が夢であることを分からせた上で、友人に攻撃を仕掛ける。
     こうして現れたシャドウを撃退すれば、眠る前と変わらない、ぽっちゃりに悩み続ける水華が目覚める。
     そして残る方法は、夢だと分からせた上で、水華を前向きにさせることだ。ぽっちゃりだっていい、体型なんて気にしなくていいと思わせることができたら成功だ。 
     しかし痩せたいと思っている水華なので、痩せる必要はないと完全に否定してしまうとみんなの話を聞かなくなってしまうので注意してもらいたい。痩せることも肯定しつつ、今のままの水華がどれだけ魅力があるかを教えてあげて欲しい。
     好きな相手がものすごく気を使って答えたように、そうさせるだけの魅力が水華にはある。誰に対しても優しく、公平な水華の笑顔を取り戻してもらいたい。
     こうして水華を前向きにさせることができれば、異変を感じたシャドウが現れる。この方法で現れたシャドウを撃退することができれば、少し成長した水華が目覚めてくれるだろう。
     シャドウはシャドウハンターのサイキックとバトルオーラを使ってくる。一緒に現れる配下は五体で、ロケットハンマーを使う。
     配下を全て倒せば、諦めたシャドウは撤退してくれるだろう。またこのまま水華に悪夢を魅せ続けるのが困難だと思った場合も、配下がいるいない関係なく撤退してくれる。
    「どの方法を選ぶかはみんな次第ってところかしら?」
     どうする? と言うように、エルファシアが仲間と視線を合わせていくのだった。


    参加者
    東雲・夜好(ホワイトエンジェル・d00152)
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)
    月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)
    神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)
    鏡・エール(カラミティダンス・d10774)
    山田・菜々(家出娘・d12340)
    霞・闇子(小さき裏世界の住人・d33089)

    ■リプレイ

    ●立ち並ぶ飲食店
    「目覚める頃には、新たなキミでありますように……」
     囁きながらそっと月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)が水華に触れた。すると目の前にはショッピングモールが広がっている。
     ずらりと並んだ飲食店に視線を彷徨わせる。
    「見事に美味しそうなものが並んでるっすね」
     何でもあれな勢いで立ち並ぶ飲食店に、山田・菜々(家出娘・d12340)が感心したような声を上げる。
    「あ、いたわよ!」
     アイスクリームの店の前にいる二人を発見した東雲・夜好(ホワイトエンジェル・d00152)が声を出した。白で統一されたロリータ服の裾がふわりと揺れる。
    「サリュ、お嬢さん達。随分と無茶してるようだけど大丈夫?」
     軽く声をかけた千尋に、水華たちが驚いた表情を見せた。
    「ドリンク、足りてます~?」
     手をひらひらと振りながら、悪意のないことをアピールして鏡・エール(カラミティダンス・d10774)も水華たちに近寄る。
    「美味しそうだな。良ければ、私にも分けてくれ」
     少しでも食べる量を減らしてあげようと、神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)が水華を覗き込む。腹ペコ魔人な摩耶だけに、食べ物に興味津々な摩耶だった。
     ものすごく物欲しそうな視線をソフトクリームに注ぐ。
    「ちょっと、何なのよ!」
     水華に何でも食べさそうとする友人が凝視している摩耶の前に立ち塞がる。
    「何事も腹八分目が重要」
     そんな友人を黙らせるように、千尋が静かながらしっかりと言い切った。そして探るような瞳で友人を見る。
    「友達に随分と無茶をさせるねぇ……?」
     千尋の声に不穏な雰囲気を感じ取って、友人が少し身を引く。その間に華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)が水華に近づいていた。
    「牧原水華さんですね。初めまして」
     紅緋がにこりと笑うとおかっぱの髪が頬の前でふわりと揺れる。名前を知られていることに、水華が警戒する様子を見せる。
    「私たちは、この悪夢を閉じにきた者です」
     どこか怯えるような瞳で見てくる水華に、真摯な瞳を向けた紅緋がゆっくりと大事なことを告げる。
    「え?」
     きょとんとした顔をした後、すぐに水華は訝しげな視線を灼滅者たちに向けた。急にはやはり理解できないのか、心なしか友人の方に体が傾く。
    「落ち着いて聞いてね」
     不快感や恐怖感を与えないように、エールが優しく言葉をかける。
    「現実でいくらでも食べられたり、すぐ太ったりなんてことはないよ」
     どんどん肉付きが良くなっていく体を気にしていた水華が、エールの言葉に微かに瞳を見開く。
    「そう、食べ続けていられるなんて夢の中だけの話よ!」
     夜好の後押しに水華が息を飲む。
    「ね、ここは夢」
     疑問を覚え始めた水華にわからせるように、エールがしっかりと頷く。
    「だから水華さんの心一つで裏返りますよ?」
     さらに後押しをするように、紅緋も言葉を重ねる。感触も食感も味もリアルではあるが、悪夢は悪夢。
     紅緋が言うように、水華の心に変化が見られれば悪夢を終わりにできる可能性が生まれる。
    「夢……全部、夢?」
     手元のソフトクリームに友人、飲食店しかない不思議なショッピングモールを見渡しながら水華が呟いた。ふっと夢だと思った瞬間、自分の体が軽くなった気がする。
    「本当に夢なんだ」
     痩せてるとは言えないが、食べ過ぎて太った姿ではなく本来のぽっちゃりとした水華がそこにいた。もう食べなくていい、太らなくていいという事実に水華がほっと息を吐く。
     けれどすぐにその表情は曇ってしまう。現実に戻っても、ぽっちゃり……太っていることに変わりはない。
    「少しふくよかな方が、男は安らぎを感じるぜ?」
     見透かしたようにかけられた聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)の言葉に、水華は恥ずかしいというように頬を赤くした。今にも泣きそうにな表情を見せる水華に、凛凛虎が少し考えるような表情を見せる。
    「ちったぁ肉ついてる方が俺は好きだな」
     最近の女子は細すぎると笑顔を見せた凛凛虎に、今度は別の意味で頬を赤くする水華がいた。見目の良い凛凛虎だけに、水華の反応も理解できる。
    「で、でも、痩せてる方が……」
     それでもやはり、ぽっちゃりしているからいけないんだという思いを拭うことはできない。
    「健康に過ごせればそれでいいと思うんだけどな」
     痩せていたとしても、健康的じゃなければ意味がないと霞・闇子(小さき裏世界の住人・d33089)が口にするのだった。

    ●いいところ
    「今気にするべきは健康的な体かどうかだと思うの!」
     闇子の言葉を肯定した夜好が、目指すのは痩せているかどうかではなく健康的な体だとはっきり告げる。人の好みは千差万別であり、どれが正解なんてことはない。
     そして体重や見た目だけで、健康という話ではないのだ。
    「出てるところは出てるんだしウェストだけ絞ればいい線行けると思うんだけどな?」
     うーんと考えるような仕草を見せる闇子は、小学生ながらにモデル体型の持ち主だったりする。そんな闇子に体を見られて、水華はできるだけ体を小さくしようとする。
     自信が持てないでいる水華の前で、闇子が目の前でその姿を十八歳に変えてみせる。モデル体型そのままに大きくなった闇子に、水華が息を飲む。
     夢であるとわかった状態でも、小学生が突然十八歳になれば驚くものだ。
    「やっぱりメリハリって大事だと思うんだよね」
     痩せるところも大事だが、痩せてはいけないところも一緒に考えるべきだと闇子が伝える。
    「す、すごい……」
    「あなたもこうなれるよ?」
     無茶な方法ではなく、正しいやり方をすることができればと言う闇子に水華が肩を落とした。結果がすぐにでないと無茶をしてしまいたくなってしまう。
     夕飯を抜けば、次の日には少し痩せている。そんな身体に悪いダイエットに傾いてしまいがちなのだ。
    「好きな人のために痩せたい気持ちわかるっすよ」
     落ち込んでしまいそうな水華の気持ちを菜々が肯定した。
    「でも、おいらの恋人は体型に関係なく好きだって言ってくれるんすよ」
     大事なのは体型ではないと菜々は伝える。
    「もちろん、痩せようとする気持ちも大事。でも焦っちゃダメだよ」
     ダイエットとはそもそも時間がかかるものなのだとエールが、焦ってしまう水華の気持ちを落ち着かせようとする。みんなの言ってくれることは理解できるのだが、どうしても素直に受け入れられずにいる。
    「ぽっちゃりが嫌って言いますけど、私みたいに枯れ枝みたいなのよりはいいでしょう?」
     自分の胸に手を当てた紅緋が首を傾げる。そして水華の胸を羨ましいと言う。
    「食べすぎが気になるなら、ゆっくりとしっかり噛んでご飯を食べるといいですよ」
     そうすることでお腹にたまってくれるし、少しの量で満腹になることができる。食べ物は大事なお恵みものであり、大事にしなければいけないものだ。
     そしてそれは暴食してはいけないものだ。
    「足るを知る。それが理想だと思います」
     もし暴食してしまいそうになったら、このことを思い出してもらえたらと紅緋は思う。
    「自分を磨くなら、少しの努力はして損じゃありません」
     何もしないでいるよりも、頑張っている人の方が魅力的に映るものだ。
    「それに食べ物は美味しく頂かないと罰が当たるぞ?」
     食べ物を残さない、友達の誘いを断らないのはなかなか見上げた根性だと摩耶が納得したように頷く。たぶん本人は褒めているつもりなのだが……。
    「食べることが現況ではないからな」
     食べた分だけカロリーを消費すればいいのだ。
    「有酸素運動、例えばダンスはどうだ?」
     ずいっと迫られて、水華が驚くが摩耶の言葉は止まらない。
    「柔らかい印象のまま、引き締まったボディを手に入れることができるぞ」
     どうだというように、見られて水華は息を飲む。黙っていれば美女……そんな摩耶の二つ名は残念美人だったりする。
    「キミはどうしたい? 本心で痩せたいと思う?」
     考え込んでしまった水華に、千尋が視線を合わせて首を傾げた。人生は突き詰めてしまえば、自分は自分で他人は他人だと千尋は思う。
    「本当に必要だと思うなら何でもやれば良いさ」
     本気になれば、きっと痩せられる。でもそれが本当に必要だと思うなら……と千尋は水華に問いかける。
    「無理に周りの目線や体型に合わせる必要はないよ」
     大事なのは水華がありたいと思う姿になれることだ。それをゆっくり目指すのがベストだとエールは諭す。
    「……このままでもいいのかな」
     なくした自信を取り戻そうとする水華がぽそりと呟いた。
    「水華ちゃんの人柄は体型に関係なく好かれるんじゃないっすかね」
     大丈夫というように即答した菜々の声に水華が顔を上げる。
    「実際、少しふくよかな方が、男は好きなのがいるんだぜ?」
     ぽっちゃりでもいいじゃないかと笑った凛凛虎に、水華はほんの少しだけだが微笑み返す。みんなの言葉が、水華の心に変化を与えたのだ。
     そして一気に周りの雰囲気が変わった。
    「さて、お出ましか……」
     敏感に空気を感じ取って、闇子が呟いた。
    「誰だ!」
     不穏なシャドウの声に、水華が体を震わせた。そんな水華の前に一歩出た凛凛虎が真っ直ぐシャドウを見る。
    「悪いが、不死身の暴君がこの先を通さないぜ」
     変化した心を元に戻そうとするシャドウの言葉を凛凛虎が遮った。
    「もう、これ以上、コンプレックスを克服した水華ちゃんに悪夢を見せるのは不可能っすよ」
     さらに菜々が何を言っても無駄だと言いながら地面を蹴った。炎を纏った菜々の蹴りは、一緒に現れた配下をとらえる。
     蹴り飛ばされた配下が地面に転がり、すぐに立ち上がり灼滅者たちに襲いかかった。

    ●お互いにとって邪魔者
    「華宮・紅緋、これより灼滅を開始します」
     自分に向かって突っ込んできた配下の攻撃を避けた紅緋が、せっかをもたらす呪いをシャドウに向かって放った。
    「水華さんは下がってください。あれがこの悪夢を作った張本人ですよ」
     同時に水華に下がるように言い、その身を戦いに投じる。
    「乙女の純情な恋心を弄ぶ輩に容赦はしない、覚悟しろッ!」
     ふわりと軽やかに飛んだ千尋が、螺旋の如き捻りを加えた一撃で配下を穿つ。そして突き刺した槍を軸にふわりと身を翻すと、音もなく着地した。
    「行くよ、メイキョウシスイ」
     そんな千尋の後ろから、愛刀の名前を呼びながら力を解放したエールが攻撃を仕掛ける。射出された帯は容赦なく配下を貫き、その身を破壊する。
    「邪魔なんだよ!」
     配下を一体倒されたことで、シャドウが怒りの声を上げた。同時に放たれた漆黒の弾丸は、深々とエールを貫いていく。
     痛みと衝撃に息を飲みながらも、エールは霊犬の芝丸と瞳を合わせる。
    「わふぅ!」
     渋い声で返事を返した芝丸がさっと駆け寄りエールの傷を癒していく。
    「まったく悪夢だけ見せる役立たずが……」
     怒りの声を発したシャドウに冷たい視線を送った闇子が呟きながら仮面を着けて愛用の剣を握る。そして剣を非物質化させて、配下の霊的防護を直接破壊した。
    「これでどうだ!」
     闇子によって攻撃されふらついた配下に、摩耶が帯を射出させて貫く。崩れ落ちそうになる配下に凛凛虎が拳に雷を宿して迫った。
    「この悪夢、ただ拳で打ち砕いてやるよ」
     言いながら拳を決められた配下の体がボロボロと崩れ落ち消えていく。凛凛虎の瞳は、配下の先にいるシャドウを見つめている。
    「さぁ、水華ちゃんから出てってもらうわよ!」
     ビシっと決めた夜好が魔法弾を放った。それに合わせてナノナノも攻撃を仕掛けていく。
    「どんどん行くっすよ!」
     今度は片腕を異形巨大化させて、菜々が配下に突っ込んだ。その威力に殴り飛ばされた配下を見てシャドウの表情が険しくなる。
     その拳にオーラを宿したシャドウが凛凛虎に向かって繰り出した。身を守るように構えた凛凛虎だが、衝撃はいつまで待っても訪れなかった。
     代わりに攻撃を受けた摩耶の、いつもは自信に溢れた表情が痛みに鈍る。ナノナノが急いで回復する中、芝丸も麻耶に向かって駆けた。

    ●柔らかな……
     漆黒の弾丸に撃ち貫かれた千尋の体が後方に飛ばされる。何とか空中で身を翻して、床に手をつき力を込めた。
     ふわりとバク宙で地面に着地すると、素早い動きで指を滑らせる。操られた鋼糸は、寸分の狂いもなく配下の体を斬り裂いた。
     ぎりぎりで形を保とうとする配下の身体に、エールがつららを放つ。アイコンタクトで駆け出していた芝丸が、咥えた刃で配下の足を斬る。
     崩れ落ちそうになる体を、エールが容赦なく貫きとどめをさした。
    「残り配下は二体……遠慮なくいっちゃうわよ♪」
     赤きオーラの逆十字を出現させた夜好が、みんなを鼓舞するように元気な声を出して配下を引き裂く。そこに飛び出していた闇子が超硬度に鍛え上げられた拳を深々と決める。
     その威力に浮き上がった体を、異形巨大化した大きな片腕が待ち構える。
    「痛いというだけじゃすまないですよ?」
     その言葉通り、振り下ろされた紅緋の腕が配下を容赦なく叩き潰した。配下が一体のみになったら、シャドウに喧嘩を吹っかけるつもりでいた凛凛虎だ。
    「悪夢より先の悪夢に、貴様を叩き込んでやらぁ!!」
     シャドウに向かって飛び出した凛凛虎が超弩級の一撃を繰り出す。その身を構えて受け止めるシャドウと凛凛虎の力がぶつかる。
     相殺された力に二人の体が吹き飛ぶが、お互いに身を翻して着地する。表情を険しくしたシャドウが両手にオーラを集中させていく。
     凛凛虎が気づいたときには、放出されたオーラがその身を貫いていた。その間に摩耶は、素早い動きで残った配下の死角に回り込み斬り裂く。
     配下を倒して撤退させるつもりの菜々も、炎の纏った蹴りを決めて地面に着地する。
    「大丈夫っすか?」
     菜々に声をかけられた凛凛虎が問題ないというように頷き返す。そして凛凛虎が再びシャドウに向かって跳躍する。
     オーラを宿した拳でシャドウを殴りつける。その拳を受けながらも、今にも崩れ落ちそうな配下を見たシャドウがふっと姿を消す。
     最後の拳を思い切り叩きつけようとした凛凛虎の腕が空振りする。シャドウと共に配下も消え、辺りの雰囲気が変化する。
    「大丈夫?」
     呆然としている水華に夜好が声をかけると、何度か瞬きして頷いた。
    「いい? ただガリガリに痩せたって魅力なんて出やしないからね」
     頑張ってと言ってくれる闇子に水華は頷いた。
    「キミはキミらしく生きれば良い」
     自分がしたいことをして生きるその姿こそ、美しいものなのだと千尋が水華の瞳を見る。
    「きっとね」
     千尋が柔らかく微笑み、みんなで夢を後にした。
    「これが役に立つといいな」
     ダンスの入門書を水華のそばに置いて、最後に麻耶が部屋から滑り出た。
    「何か甘いもの食べに行こうよ」
     エールがみんなを誘う。もちろん、食べすぎには気をつけて……。

    作者:奏蛍 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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