臨海学校2015~暑すぎる夏、スイカの夏

    作者:草薙戒音

     ありえないほどの熱い空気に満たされた廃坑で、謎の植物が大繁殖していた。
     日の光も届かない暗い廃坑の中を埋め尽くす緑、緑、緑――。
     その廃坑の奥の奥で蠢く、丸く緑っぽい『何か』。
     ガリ、ガリ、ガリ……『何か』が動くたびに、土の削れる音がする。
     かつて金銀を採掘するために人が掘った穴を、今、別の『何か』が掘り進む。
     更に深く、更に奥へと。
     
    「……毎日暑いね」
     ぱたぱたと扇子で自身を扇ぎながら、一之瀬・巽(高校生エクスブレイン・dn0038)が呟いた。
     猛暑日の連続記録を更新したり暑い日が続く関東地方。だがそれよりも大変なことになっている場所があるのだと彼は続ける。
    「北陸の佐渡ヶ島。異常なくらいの熱波が発生してて、40度を超えてる」
     彼の言葉にミリヤ・カルフ(中学生ダンピール・dn0152)が目を丸くした。
     北陸、佐渡で気温が40度を超えればちょっとしたニュースになりそうなものだが、そんな話は聞いたことがない。
    「えっと、それってもしかしてダークネスが関係してます?」
     ダークネスや灼滅者、あるいはそれらが引き起こした怪奇現象等の情報が過剰に伝播しなくなるバベルの鎖――それに思い至ったらしいミリヤの言葉に巽が軽く頷く。
    「『アガルタの口』を覚えているか?」
     それは移動を始めた軍艦島の地下にあった密林洞窟。
    「佐渡ヶ島にある廃坑が『アガルタの口』になろうとしているらしい。それを阻止するために、佐渡ヶ島で臨海学校を行うことになった」
     そう言うと、巽は臨海学校の大まかなスケジュールを説明する。
    「まずは佐渡ヶ島の廃坑を探索してアガルタの口を作り出している敵を倒してもらう。その後は佐渡ヶ島の海岸でキャンプ」
     ダークネスの拠点となった軍艦島が佐渡ヶ島に近づいている可能性があること、放っておけば佐渡ヶ島が第二の軍艦島になりかねないこと。これが北陸周辺のご当地怪人がアフリカン化する事件の原因かもしれないこと。
     諸々の理由で急遽決定したスケジュールだった。
    「アガルタの口が撃破された上に多くの灼滅者が集まっているとなれば、軍艦島のダークネス達も計画が失敗したと看做して撤退するはずだ」
     巽は地図を広げ、佐渡ヶ島に数ある廃坑の1つを指差した。
    「皆に探索してもらう廃坑はここ。アガルタの口になりかけていて、一番奥と思われる場所に『スイカ畑』が広がってる」
     すくすくと成長したスイカはやがて目を開け口を開け……『スイカ型の眷属』となる。
    「廃坑をアガルタの口にしないために、こいつらを全滅させてほしい」
     相手は目と口がついたスイカ。ふよふよと宙を浮き、ガブガブと噛み付いてくる。
    「強くはないけど、数だけは多い。とりあえず戦闘中に新しいのが生まれる、なんてことはないからその場にいるのを全部、倒してくれ」
     そうすれば廃坑がアガルタの口になるのを防ぐことが出来る。
     余談だがスイカ畑には眷属と化す前のスイカも存在しており、適度な大きさに実ったそれはごく普通の美味しいスイカだったりするらしい。
    「スイカの眷属を全滅させたら海岸に移動してキャンプ。軍艦島の接近に備えてもらう」
     説明を終えると、巽は気分を変えるかのように軽く頭を振ってみせた。
    「水を差されるような形になったけれど、臨海学校のほうも出来る限り楽しんでほしい」
     幸い、海水温度はそこまで上昇していない。海水浴を楽しむもよし、スイカ割りを楽しむもよし。
    「夕食を皆で作ったりするのも楽しいかもしれないね」
     夜には花火をしたり怪談話で盛り上がったり、また違った楽しみ方があるだろう。
    「ああそうだ。念のため、暑さには気をつけて」


    参加者
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    居木・久良(ロケットハート・d18214)
    天束・織姫(星空幻想・d20049)
    深草・水鳥(眠り鳥・d20122)
    迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)
    型破・命(金剛不壊の華・d28675)
    七識・蓮花(人間失格・d30311)
    裳経・いちご(五平餅はご飯じゃないのっ・d31542)

    ■リプレイ


     廃坑に足を踏み入れた瞬間、むわんとした空気が体に纏わりつく。
     集団の最後方をどこか遠慮がちに歩きながら、深草・水鳥(眠り鳥・d20122)はほんの少しだけ顔を顰めた。
    (「うわ……すごく、蒸し暑い……溶けそう……」)
     そう感じたのは彼女だけではない。
     佐渡に入るなり「40度って、何とかして過ごせるものなの?」と呟いた天束・織姫(星空幻想・d20049)は言うに及ばず、織姫の呟きに対し「40度は平気な気はする」と答えた居木・久良(ロケットハート・d18214)ですら不快そうに汗を拭っている。
     廃坑の奥へ進めば進むほど湿度は上がる。蒸し暑さに閉口し、黙々と最奥を目指す灼滅者たち。どれくらい歩いただろうか、彼らの耳に「ガリガリ……」と何かを削るような音が届き始めた。
     一旦足を止め、灼滅者たちは互いに目配せを送る。
     軽く頷き合い、歩き出す。各々の用意したランプや電灯を四方八方に向け、慎重に奥へと進む。
     やがて前方を照らす灯りが緑の茂みを照らし出した。そこは、葉や蔓が地面一面を覆い尽くさんばかりに生い茂る西瓜畑。
     灯りを少しだけ上にずらしてみれば、壁面にへばりつく沢山の大きな西瓜が……。

     ぐりん。

     灯りに反応してか、中の1つが振り向いた。釣られるように他の西瓜も一斉に灼滅者たちを振り返る。
     釣りあがった目と大きな口。ハロウィンのカボチャではないが妙に凶悪そうな見た目の西瓜が壁に鈴なりというシュールな光景に、咄嗟に視線を逸らしそうになる水鳥。
     招かれざる客に気付いた西瓜たちは、壁面を離れ宙を浮遊し始めた――。


     久良のガトリングガンから西瓜目掛けてバラバラと嵐のように弾丸がばら撒かれる。
    「景気よく西瓜割りといこうぜ」
     ニッと笑った型破・命(金剛不壊の華・d28675)が解き放つのは、自身の魂を削って生み出した冷たい炎。
    「これだけの西瓜割りはもはや苦痛ですね」
     凍りついた西瓜たちに追い討ちをかけるように、七識・蓮花(人間失格・d30311)の死の魔法がその熱量を奪っていく。
     更には織姫の禁呪が西瓜たちの中で爆発を起こし、波状攻撃をまともに受けた西瓜たちがボトボトと地面に落下し消滅した。
     ダメージ過多でふらふらと宙を漂う西瓜を、水鳥の足元から伸びた影が飲み込む。
     次々と襲い来る西瓜。その動きを迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)の展開した祭壇が鈍らせる。彼の霊犬「ミナカタ」が合わせるように六文銭の雨を降らせ、更にはウロボロスブレイドを高速で振り回す文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)が西瓜たちを切り刻んだ。
    「西瓜ども! 叩き割って暑さも吹っ飛ばしてやるぜ!」
    「がんがん叩き切って数を減らしていこうっ」
     巨大な五平餅型のロケットハンマーを豪快に地面に振り下ろし衝撃波を放つ裳経・いちご(五平餅はご飯じゃないのっ・d31542)の姿に、自身もロケットスマッシュを放ちながら久良がうんうんと頷く。
    「やるならいつでも、思い切りだよね!」
    「確かに、こっちが齧られちゃたまんねぇや」
     攻撃を掻い潜り迫る西瓜に命の手刀が振り下ろされる。
    「そら、西瓜は西瓜らしく真っ二つになりなッ!」
     言葉通り、風の刃で真っ二つになり転がる西瓜。
     織姫のダイダロスベルトが宙に浮かぶ西瓜を貫けば、炎を宿した炎次郎の得物が別の西瓜を焼き払う。
     蓮花の放つどす黒い殺気に覆われ、水鳥の生み出す風の刃に切り裂かれ。灼滅者たちの攻撃に、西瓜はどんどん数を減らしていく。
     対して、灼滅者たちの被害はほぼゼロ。一方的な殲滅戦にも、やがて終わりが訪れる。
     ふよふよと降下してきた西瓜の背後に素早い動きで回りこみ、得物を一閃する蓮花。斬り裂かれた西瓜が中空で掻き消える。
    「いくぜ着ぐるみダイナミック!」
    「五平餅ダイナミーック♪」
     直哉といちごが撃ち漏らした最後の西瓜を抱え、豪快に地面に叩きつけた。
     直後に起こる大爆発――爆煙が収まった後に残っていたのは、緑の畑と……そこに転がる大きな西瓜だけだった。


    「わーい、海なんだよー!」
     テンション高くはしゃぐイフリート……を模したビニール製の気ぐるみ、垰田・毬衣。
    「直哉、お疲れさまー!」
     一足先に海岸に到着していたヒマワリの着ぐるみ、ミカエラ・アプリコットが手を降る。
     着慣れた黒猫の着ぐるみ姿で応える直哉の表情が、暑苦しそうなのは気のせいか。
    「アイテムポケットがあるから、ちゃんと西瓜は持って来れたんだよ」
     毬衣がごろんと西瓜を転がす。大きな西瓜に目を輝かせ、早速とばかりにミカエラが西瓜のセットに取り掛かる。
    「さぁさ、西瓜割りだよ、西瓜割り♪」
     別の西瓜を抱え込み、カービングを施し始める直哉。
     ショリショリと微かな音を立て、彼は西瓜から猫の姿を彫り出していく。
    「あ、にゃんこさんだー。にゃーにゃー♪」
    「いやー、直哉さんってこういう時、本当無邪気っすねぇ」
     楽しそうに作業を進める直哉の様子を書き記しながら水着姿の鈴木・レミが呟く。彼女はそのままミカエラへと視線を移し、声をかける。
    「それじゃ割れた時砂まみれになるっすよ?」
    「え……あっ」
     西瓜がほぼ砂に埋まった砂山に気付き、ミカエラは慌てて山を作り直す。
    「何故人は西瓜を割るのか……そこに西瓜があるからだ!」
     カービングを終えた西瓜を砂山にセットし、直哉が黒猫印の旗を立て宣言する。
    「がぅぅ~、目が回るんだよ~」
     西瓜割り一番手の毬衣、ぐるぐると体を回されあっちへふらふら、こっちへふらふら。それでもレミの誘導で西瓜の前へ。
     勢いよく振り下ろされた棒が猫型西瓜を直撃。猫西瓜、大破。
     そのなんともいえない光景に直哉がついと視線を逸らした。そんな彼の前に差し出される、棒と目隠し。
    「そぉ~れぇ~、ぐ~るぐるぐる~♪」
     ミカエラが勢いよく直哉の体を回す。
    「流石、着ぐるみで鍛えた抜群の平衡? かんかく……?」
     ……回しすぎたようです。
    「あっそっちじゃないっす! 反対反対! そうその方向! そのまままっすぐダッシュ!!」
     よたよたと進む直哉をレミが誘導する。
    「……すると海に行くので気を付けるっすよー?」
    「にゃふー!?」
     足が縺れて海へとダイブする直哉。その瞬間、大きな波が直哉を直撃。
    「助けてー!」
    「あ、流された……」
    「サルベージさるべーじ」
     ミカエラの投げ縄が、焦る黒猫に引っかかり――直哉は無事陸へと引き上げられた。

    「瑞々しくて美味しいんだよー」
     美味しい西瓜に舌鼓を打つ毬衣。塩水で洗った西瓜を手に、ミカエラが笑う。
    「塩味のバランスがぜつみょーだねー!」


    (「流石に杞憂に終わるのだろうけどな……」)
     きっちりと仕事用のコートを着込んだ異叢・流人が軍艦島の襲来を警戒する脇で、炎次郎と日輪・かなめはごく普通に西瓜割りを楽しんでいた。
    「西瓜がいっぱいということなので、ちょっとやってみたいことが!」
     西瓜割りもひと段落ついた頃、かなめがそんなことを言い出した。
    「外国でトマトを投げつけ合うってお祭りがありますよね?」
     きらきらと目を輝かせ、続けるかなめ。
    「これを西瓜でやってみたら面白い気がしますなのです! なんだか赤い汁でドロドロになるのもきっとそっくり!」
     むんずと西瓜を掴み、かなめが投球体勢にはいる。
    「というわけで迦具土さーん、ドッジボールしましょーなのです!」
    「ちょっ……!」
    「どうりゃあああ!!」
     拒否する間もなく剛速球で投げ込まれる西瓜。慌てて回避した炎次郎に、かなめがさらなる技を仕掛ける。
    「ラインを越えても空中ならまだセーフというわけでダンクシュートなのです! そぉぉぉぉい!」
     丸々と太った西瓜を、炎次郎目掛けて振り下ろす。
    「顔面はセーフやろ!」
     言うなり、迫りくる西瓜にあえて顔面を晒す炎次郎。

     ――グシャ!!

     あたりに響く鈍い音。
    「あ、アウトになったほうがマシやった……」
     炎次郎、撃沈。
     少し遠目で2人を眺めていた流人が、半ば呆れたように息を吐く。
    「……流石にサイキックでは無いにしろ今の迦具土を放置する訳にもいかないか」
     砂浜に崩れ落ちた炎次郎の脇に片膝をつき、その安否を確認する流人。
    「おもしろいなのです! 普段こんなこと絶対に出来ませんから!」
     そのそばで、かなめは元気にはしゃいでいた。


    「遠出は沖縄以来じゃが……何するンじゃ?」
     日傘代わりの和傘の下、形守・恩が緩く首を傾げる。
     彼にチラリと視線を送り、にっと笑って命が取り出すのは廃坑から持ち帰った西瓜。
    「へえ、西瓜」
     感心するかのような恩の声を聞きながら、命は西瓜を2つに割った。中から現れるのは、鮮やかな赤い果肉。
    「秋海棠に負けねぇ、なんとも綺麗な色じゃねぇか。夏といったらコイツだよなぁ」
     食べやすい大きさに割られた西瓜を受け取り、恩はそれを口に運ぶ。
    「やはり夏は西瓜だのぅ」
     呟く恩の口元は、どこか楽しげに綻んでいた。

     西瓜を食べ終えた2人は、どちらともなく浜辺を歩き出す。
     チリンチリン……歩を進める度、聞こえてくる鈴の音。
     粋な着流し姿の命に柔らかな視線を送る恩の髪には、瑠璃の蝶。
     波の音と、時折聞こえてくる楽しげな声をBGMに、のんびりとゆっくりと――2人の時間が流れていく。


    「それっ!」
    「やりましたねー!」
     黒のビキニ姿のいちごと黄色のビキニ姿の悠花の間で始まる水の掛け合い。
     バシャバシャと勢いよく上がる水飛沫――やがてそれは、水と戯れる2人の姿を眺めていた水鳥をも巻き込んでいく。
    「ほら、水鳥ちゃんも!」
     パシャリ、と水鳥目掛けて飛ぶ水飛沫。慌てて避け、一瞬の隙をついて反撃。
    「あっ」
     水鳥の放った小さな飛沫が、いちごの顔を濡らす。
    「やられたっ」
     笑いながら少し大げさに倒れこむ真似をするいちごに釣られるように、水鳥も小さく笑う。
     一瞬漂う和やかな雰囲気。そんな中、すすす……といちごの背後に回り込む悠花。
    「隙ありっ」
     流れるような動作でいちごの体に抱きつき、その手は当たり前のようにいちごの豊満なバストへ……。
    「にゃー?! やったなっ?!」
    「って、わたしもやっぱり揉まれるの!?」
     胸を揉まれたいちご、これまた当たり前のように悠花の胸を揉み返す。
     一通りじゃれ合った後、2人はほぼ同時に水鳥に視線を向けた。それまで2人のじゃれ合いを眩しげに見つめていた水鳥が、微かに首を傾げる。
    「水鳥ちゃーん♪」
    「ここは水鳥さんにハグしちゃっていいところたぶん!」
    「!!!」
     避けるまもなくいちごと悠花に抱きしめられ、水鳥がピシリ、と固まった。
    「水鳥ちゃん可愛いなぁ♪」
    「あ、いちごちゃんだけずるい。私もー」

     すりすり、むぎゅー。

     水鳥が2人から開放されるまで、もうしばらく時間が掛かりそうである。


     西瓜眷属を倒しても、気温はまだまだ高いまま。
     織姫はミリヤを誘い、海へと入った。沖に流されないことだけ注意しつつ、浮き輪に捕まりぷかぷかと波に揺られる。
     幸い海水温は平年並み――40度を超える暑さに晒された体には十分冷たく心地よく感じられる。
     ほう、と軽く息をついて、やはり浮き輪に捕まりのんびりと泳いでいるミリヤに声をかける。
    「皆さん楽しそうですね」
     浜辺で遊ぶ人影や、泳いでいても聞こえてくる楽しげな声。皆それぞれに臨海学校を満喫しているようである。
    「カルフさん、そろそろ1度戻りましょうか。水分補給もしておかないと」
     頷くミリヤと共に、織姫は砂浜へと戻る。
     佐渡の気温が平年並みに戻るには、まだ少し時間が掛かる。日焼け対策に熱中症対策――暑さで体調を崩さぬよう、十分に気をつけねば。
    「気温、早く下がるといいわね」
     飲み物を口にした後、織姫がポツリと呟いた。

     望遠鏡を手にした蓮花が、キャンプ地へと戻ってくる。
    「おかえり。何か見つかった?」
     久良の問いに、蓮花は首を左右に振ってみせた。
    「何も。軍艦島は確認できませんでしたし……もしかしたら様子が伺えるかとも思ったんですが」
     そう言うと蓮花は双眼鏡や望遠鏡を置き、久良の手伝いを始めた。
     テント張りの作業を蓮花に引継ぎ、久良はバーベキューの下拵えを開始する。
     クーラーボックスに入った肉類を確認し、野菜を程よいサイズに切り揃える。調味料を合わせてさまざまな種類のソースを調合し、飲み物はよく冷して……。
     織姫も合流して、バーベキューの準備はテンポよく進んでいく。
    (「バーベキューって色々準備があるのね」)
     織姫、初めてのバーベキューに興味津々。

     日が傾き、各々遊びに興じていた仲間たちが帰ってきた。
    「銛で魚を獲るなんて初めてやったけど、結構たくさん獲れたわ。これは海の恵みに感謝せんとあかんな」
     満足そうに笑う炎次郎が持ってきたのは、素潜りの銛突きで取ってきたという魚だった。水鳥も食べられる貝を幾つか拾ってきたらしく、食材が乗ったテーブルの脇に貝を置くとそのまますすす、といちごの影に隠れる。
    「皆でバーベキューをしますが一緒にどうですか?」
     蓮花の誘いに嬉しそうに頷くミリヤ。
    「わーい、皆でバーベキューだ!」
     食材が網の上に並べられる。ややあって漂い始める、美味しそうな音と匂い。
    「いっぱい遊んでお腹空いたからな。やる気満々だぜ♪」
    「やっぱ肉だよな、肉! 奪い合いなら負けねぇぞ?」
    「肉ばかりでなく野菜も食べてくださいよ。あと、急がなくても食べ物は逃げませんよ」
     直哉と命の争いに微かに苦笑を浮かべつつ、焼けた食材を取り分ける蓮花。
    「いっぱい食べて食べて♪」
     いちごもまた、焼けた食材を水鳥やミリヤのお皿に入れていた。礼を言って受け取る2人。水鳥は相変わらずいちごに隠れるようにして、夜の海を眺めながらのんびりと食材を口に運ぶ。
     一方、ミリヤは炎次郎に声をかけられていた。
    「こっちに来て一緒に食べへん? え? ナンパやないよ。せやけど、俺は軽そうに見えやスイカ。なんてな」
     しばしの間。こてん、と不思議そうに首を傾げるミリヤの視線が炎次郎の心に突き刺さる。
    「なんですかこれ。美味しい」
     初バーベキューに目を輝かせる織姫が口にしていたのは、スパイスを塗した鹿肉を焼いたもの。
    「折角だから準備しておいたんだ」
     久良が答えた。他にも牛赤身肉のマリネ、というのも用意してあるらしい。
    「みんなが喜んでくれたら、俺は嬉しいよ!」
     楽しそうに食材を取り分けながら、久良が続ける。
    「マシュマロを焼いてみたいんですけど」
     織姫の提案に、いいですねと頷く蓮花。彼もやはり、食べるよりも給仕しているほうが好みらしい。

     わいわい、がやがや。賑やかな夕食は、まだまだ続く。
     すっかり暗くなった空では、沢山の星が灼滅者たちを見守るように瞬いていた。

    作者:草薙戒音 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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