それは、身体が蕩けてしまうのではないかと思うほどに暑い、とある夏の日。
心なしかセミの鳴き声すらも元気がないように思える佐渡島では、今日も気温が40度を超えていた。
「そういえば、さ……」
「ん? 何……」
うだるような暑さの中、外で遊ぶ気力を奪われた子供たちは言葉少なに家への道を急ぐ。
「廃坑がさ、変な植物でいっぱいになってるの、知ってる?」
「いや、知らないけど……」
「そっか。なんか緑の植物に覆われてたって聞いたから。ちょっと気になったんだよね……」
ぽそりぽそりと会話を交わす少年たちもせっかくの夏休みだというのに元気がない。とにかく今は暑いのだ。
「俺、母さんから用事ないのに外出るなって言われてるし……」
「うちも。――早く夏が終わらないかな……」
恨めしそうに天を仰ぎ、子供たちは盛大にため息をついた。
「臨海学校、佐渡島で、やるから」
教室に集まった灼滅者たちをぐるりと見回し、久椚・來未(高校生エクスブレイン・dn0054)はいつもと同じように淡々と説明を始める。
佐渡島では異常な熱波が発生し、佐渡金銀山の廃坑がアガルタの口と化そうとしている事件が起きているのだ。
これは、ダークネスの移動拠点となった軍艦島が佐渡島に近づいてきているからという可能性がある。
このまま放っておけば佐渡島全体が第二の軍艦島になってしまうかもしれない。
そのようなことを防ぐためにも、この事件を急ぎ解決する必要があり、急遽、佐渡島で臨海学校を行うことになったのだという。
今回の目的は佐渡島の廃坑を探索し、アガルタの口を作り出している敵を撃破すること。そして、その後軍艦島の襲来に備えてほしいと來未は言う。
アガルタの口が撃破され、かつ多くの灼滅者が佐渡島に集まっていることを知れば、軍艦島のダークネス達も計画の失敗を悟り撤退していくだろう。
「敵を倒した後、海岸でキャンプ、して」
アガルタの口を作りだしている敵を撃破しても、24時間の間はまだ40度以上の熱波が続くので、海水浴にはもってこいだ。
よって、まずはアガルタの口を制圧し、その後に臨海学校を楽しみつつ、軍艦島の接近に備えてもらいたい、ということらしい。
アガルタの口と化した廃坑は緑の植物に覆われてジャングルのようになっているのですぐに見つけることが出来るだろうと來未は告げた。
そして、この廃坑の最奥にはスイカ畑が広がっているという。ここで成長したスイカからスイカ型の眷属が多数生まれ続けているため、撃破する必要がある。
來未が図示したスイカ眷属は良く見慣れた大きなスイカに目と口がついたもので、ふよふよと空中を漂いながら移動し、ガシガシと噛み付いてくるという。
「スイカ眷属、強くないけど、いっぱい、いる」
その数はざっと見積もって30体ほど。
数は多いが、個々の能力はあまり高くない。スイカ割り気分でバシバシ倒すと楽しいかもしれない。
廃坑の奥にいるスイカ眷属を全滅させることができれば、アガルタの口化を阻止することができる。
「佐渡島、アフリカ化が阻止、できれば、普通の夏に、戻る」
佐渡の気温が普通の夏の気温に戻ったら、それは臨海学校終了ということだ。
さて、その臨海学校についてということで。來未は手元の資料に視線を落とす。
「おすすめは、海水浴。それと、バーベキュー、かな」
透明度の高い澄んだ海で泳いだ後、浜辺で楽しむバーベキューは夏ならではの楽しみ。
「ユメ、がんばってスイカ眷属たおしてくる!」
ぐっと拳を握りしめる星咲・夢羽(小学生シャドウハンター・dn0134)の心はもう佐渡の海でいっぱい。
「それでね、キレイな海で小梅といっしょに遊ぶの!」
ぱしゃぱしゃと浅瀬で水遊びをするのも楽しそうだし、砂浜を散策したらキレイな貝殻が見つかるかもしれない。何よりすごく暑いみたいだから、海で泳ぐのはいつも以上に気持ちいいに違いない――。
いってらっしゃいと手を振る來未に元気よく手を振り返し。夢羽は「いってきまーす♪」と元気よく教室を後にするのだった。
参加者 | |
---|---|
海神・楓夏(ミーミルの泉・d00759) |
三國・健(真のヒーローの道目指す探求者・d04736) |
近衛・一樹(創世のクリュエル・d10268) |
蒼羽・シアン(ハニートラッパー・d23346) |
香坂・翔(青い殺戮兵器・d23830) |
玉城・曜灯(紅風纏う子花・d29034) |
吉武・智秋(秋霖の先に陽光を望む・d32156) |
哭神・百舌鳥(百声の演者・d33397) |
●灼熱の廃坑探検
熱波に包まれた廃坑内を灯りが照らせば、うようよと元気よく生い茂った緑の植物が目に入る。
「探検にスイカ割りって響きだけだと夏らしいんだけどなぁ……」
額を流れる汗をぬぐい、哭神・百舌鳥(百声の演者・d33397)はライトをかざして廃坑の奥を覗き込んだ。百舌鳥の視線の先には先程までと変わらない道が続いている。
「せっかくの臨海学校なのにねー。たまには戦闘のない臨海学校があっても良いとは思うんだけどなー」
地図を書く手を止め、香坂・翔(青い殺戮兵器・d23830)も念のためと『DSKノーズ』を発動させる。気になるような匂いは検知できないが、『スーパーGPS』で地図上に示された現在位置から廃坑の深部へと進んでいることは確認できた。
先頭を歩く玉城・曜灯(紅風纏う子花・d29034)の『隠された森の小路』のおかげで道を覆うスイカの茎を避けて進んでいる。とはいえ、道は決して歩きやすいとは言い難い。灯りは十分に用意されていたので気をつければ危なくはないが、とにかく暑いのが辛かった。
黙々と歩を進める灼滅者たちだが、海神・楓夏(ミーミルの泉・d00759)の足取りは軽い。
「空飛ぶスイカ割りなんて初めての試みです♪」
前向きな楓夏の言葉に星咲・夢羽(小学生シャドウハンター・dn0134)は「ユメも!」とにこにこと頷いた。
(「ジャングル化も、動くのも……困るけど、西瓜は、うれしい、な……」)
壁にチョークで印をつけていた吉武・智秋(秋霖の先に陽光を望む・d32156)もまだ見ぬ敵に想いを馳せる。
「面倒ごとは手早く片付けちゃって早く遊びたいね……」
「そのためにはしっかり倒さないといけませんねっ」
段差で転ばぬようにと手を差し伸べる百舌鳥に、楓夏は礼を述べ笑顔で応えた。
と、そこへ箒に乗って上部から周囲を見ていた蒼羽・シアン(ハニートラッパー・d23346)がウィングキャットのエレルと共に降りてくる。
「ねぇ、この道の先に見るからに怪しい大きな扉があるんだけど!」
行ってみましょ、というシアンの言葉に一同は頷くと急ぎ道を下り始めた。数分もしないうちに灼滅者達の前に大きな扉が立ちはだかる。ぴたりと扉に耳を付ければガサゴソと何かが動く音がした。
「この奥に敵がいるんだな」
身構える三國・健(真のヒーローの道目指す探求者・d04736)にチラリと視線を向け、曜灯は「おそらくね」とクールに言葉を返す。
「開けるわよ、準備はいい?」
くるりと仲間を振り返り最後の確認をする曜灯に、近衛・一樹(創世のクリュエル・d10268)は眼鏡に手をやり静かに頷いた。
「この後には海が待ってますし、さっさとスイカ割……眷属灼滅しましょうか」
「だよな、近衛の兄ちゃん! 播磨の旋風ドラゴンタケル、一致団結の力でアフリカ化阻止!」
ピシリとポーズを決めた健の目の前で扉がゆっくりと開く。
そこに広がっているのは廃坑に似合わないスイカ畑。そして、ふわりふわりと漂う大量のスイカたちだった。
●激闘! スイカ割り!
スイカたちは灼滅者たちの姿に気付くや否や襲い掛かる。勿論大人しく攻撃を受けるような灼滅者たちではない。
「たくさんの、西瓜全部、割っちゃおう……」
兄から贈られた智秋の交通標識が青色に変化したと思った瞬間、謎の光線が放たれた。
と、同時に健がスイカたちの身体へと刻み込んだ原罪の紋章が敵の精神を掻き乱す。
2人の攻撃で怒りに我を失ったスイカたちは、智秋と健を標的と定めて一斉に牙を剥いた。だが、スイカたちの攻撃は虚しく空を噛むばかり。
あたふたとするスイカたちを横目に、怒りが付与されなかった敵に的を絞った曜灯が勢いよく飛び蹴りを炸裂させた。ふわふわと浮いていた西瓜はべしゃりと地面に叩きつけられ、そのまま動かくなる。
「で、この西瓜、全部踏み割ったらいいのかしら?」
顔にかかった髪を払う曜灯に眼鏡を外した一樹が肩をすくめて答えた。
「好きにしたらええんちゃう? 俺やったらコイツらの頭でスイカ割りしてやるけどな!」
宙を漂っていたスイカの脳天目がけてマテリアルロッドで一撃。
パカーンと思い切りよく割れたスイカをシアンは羨ましそうに見つめる。
「いいなぁ~。折角だし、私も1……んー、5個くらいはスイカ割りたいわね」
しかし、今は仲間たちの傷を癒すことが先。お楽しみはとっておこう。
シアンの手にした解体ナイフから発生した夜霧が前に立つ仲間たちを包み込むのに合わせ、エレルもまた優しい癒しの光で傷を癒した。
スイカたちも数に物を言わせて灼滅者へと襲い掛かる。だが、智秋と健が積極的に付与する『怒り』によって、スイカたちは標的に攻撃することができずにまごまごとしてばかり。その隙に集中攻撃で1体ずつ各個撃破していくという作戦は、無駄なく確実に敵の数を減らしていた。
戦闘が開始してから、秒針が6回目の12の針を通過する。
「なんや、氷漬けで粉砕がお好みか?」
【冷妖槍‐氷茜‐】を構えた一樹はスイカに向かって氷の礫を飛ばした。
冷気へと変換された槍の妖気によって氷漬けにされた敵を、翔が蒼い刃へと変えた右腕で勢いよく切り裂けば、スイカはスパッと真っ二つに割れて飛び散る。
「そこですっ」
ふよふよと宙を漂うスイカに向かって楓夏は白銀の大きな籠手を振り下ろした。【花の手招き】という名の通り、ひらりひらりと白い花弁が空に舞う。気づけばスイカの数は半分以下に減っていた。
「禅くん、しっかり百舌鳥くんのフォローをお願いしますね」
ウィングキャットの禅に声をかければ、禅本人はわかってるとでも言いたげにぱたんと尻尾を揺らす。
「行くよ、禅くん……」
百舌鳥はちらりと禅に視線を向けると、スイカに向かって足元の影を伸ばした。その黒い影は薙刀を持った長い髪の日本人形へと姿を変え、敵に襲い掛かる。百舌鳥の攻撃でスイカが怯んだタイミングに合わせ、禅はすかさず猫パンチ。2人の攻撃でスイカはぐしゃりとあっけなく潰れた。
「禅くん……決まったね……!」
「2人とも格好良かったです♪」
ぐっと親指を立ててドヤ顔をして見せる百舌鳥に、楓夏も嬉しそうな表情を浮かべ褒め称える。
「残りあと10体きったよー、みんな頑張ろうー」
目にも止まらぬ連打で豪快にスイカ叩き割った翔が明るく仲間たちを鼓舞すれば、楽しそうに夢羽も漆黒の弾丸でピシっとスイカを撃ち抜いた。
曜灯が炎を纏った蹴りでスイカを勢いよく踏み抜き、負けじとシアンも【Queen of Blue】のピンヒールでスイカを思い切り踏みつける。ピンヒールについたビジューがシャランと小さく揺れた。
百舌鳥の放った氷の魔法で氷漬けになったスイカを『美少女注意』と書かれた交通標識を抱えた智秋がボカッと殴りつける。楓夏もまた片翼のモチーフが付いた杖でえいっとスイカを打ち砕いた。
気づけばスイカは残り1体。
健は最後に残ったスイカに向かってピシリと指を突きつける。
「龍の怒り受けてみよ! 喰らえ、播磨の凄風、龍撃砲!」
健の放ったビームが丸い身体を打ち抜けば、スイカはぺしゃっという音ともに小さく爆ぜた。
「片付いたわね。さ、キャンプよ、キャンプ」
戻りましょ、とくるりと踵を返す曜灯の背後で、ぐぅぅ、と健のお腹の虫が鳴る。
照れ笑いを浮かべる健を『巣作り』の準備が出来た百舌鳥が笑顔で呼んだ。
一休みをして体調を万全に整えて。――さぁ、楽しい臨海学校の始まりだ!
●海風に吹かれてバーベキュー!
「オレもうお腹すいたー! 肉食べよ! 肉―!」
海岸で待つ【箱庭世界】の仲間たちの姿を見つけ、駆け寄る翔の反応は皆の予想通り。
「働いた分は腹が減ったでしょう。――いい肉を持ってきました」
織久が見せた肉に翔はキラキラと目を輝かせる。翔たちがスイカ眷属討伐を終えるのを待つ間に下準備は完了。後は焼くだけだ。
「やったー! ね、早く焼こうよー」
熱した網に乗せた肉や野菜の焼ける良い匂いが鼻をくすぐれば、もう我慢の限界。
「いただきまーす!」
パクリ、と肉を頬張る翔に幸せそうな笑みが浮かんだ。
「あ、そこ焦げてますよ!」
慌てて焼き上がった肉を皿に取る瑛斗に「おかわりー!」と翔が空っぽの皿を差し出し肉を催促をする。
だが、瑛斗よりも先に颯がひょいひょいっと翔の皿に野菜を載せた。
「兄ちゃん! そんな野菜ばっか載せないでよー!」
「戦った後でお腹空いてるのはわかるけど、バランスよく食べないとね」
不満そうな翔にあーん♪ と瑠璃花が差し出したのはとうもろこし。
「とーもろこしとかも、甘くておいしーですよ♪」
パクリと齧ったとうもろこしは確かに美味しい。
「翔、スイカ割りは楽しかったか?」
透の言葉に翔は嬉しそうに頷く。
スイカもいっぱい割ったし、こうして皆と旅行するのも楽しい。
「うん! オレ的には色々満足!」
100点満点の笑みを浮かべ、翔はパクっと肉を口に入れた。
「ナナーっ!」
愛しい弟の姿を見つけ、シアンは嬉しそうに駆け寄りハイタッチ。
「お互いお疲れ様―っ!」
頑張った2人を待っていたのはご褒美のバーベキュー。
「ナナ、これ焼けてるよっ」
お腹空いたでしょ、と七星の皿へシアンは張り切って肉を載せる。
ただ食べるだけは性に合わないと、七星も空っぽのシアンの皿を手に取った。
「海鮮も美味しそ……姉さん、この海老よさそうだよ」
「わーい、ありがとー♪」
2人で食べるバーベキューにシアンは満面の笑みを浮かべ、舌鼓を打つ。
熱々の網の上ではジュウジュウと音を立てて煙をあげる食材の良い匂いが漂っていた。
「バーベキュー、焼くのは……任せて」
覚束ない手付きで智秋は必至に網の上に載った肉をひっくり返す。
「おーい智秋、そっちの肉も焼けてるぞー」
「え、え……ちょっと……」
幽が串で指し示した肉を慌てて智秋が皿に載せれば、幽は嬉しそうに肉に齧りついた。
「智秋ちゃん、俺がやるから智秋ちゃんも食べなよ」
ヴァントレットの申し出に智秋はにこりと笑顔で礼を述べる。
「お手伝い、ありが、と……じゃぁ、一緒に……焼こう?」
二人並んで食材を焼くが、慣れぬ智秋の担当分は返す前に焼けていき。
「これはもう返していいですよ」
ひょいっと後ろに回った勇希が智秋の手を取って串を返した。
火照る頬を押さえるも、智秋は動揺するような素振りは見せない。
「ほら、いかがですか、お嬢様?」
「お、お嬢様……じゃない、もん」
ニヤニヤと笑う勇希に智秋はむーっと口を尖らせ、焼き上がった串へと右手を伸ばす。
火加減に気を配りながら、一樹は慣れた手つきでくるりと具材をひっくり返した。
美味しいお肉と美味しいお野菜。普段はこんなに食べられないが、野外のバーベキューはまた格別だ。
パクっと肉を頬張る百舌鳥の皿に楓夏は程良く焼けた野菜を載せる。
「楓夏ちゃん、お肉とって!」
空っぽのお皿を差し出す夢羽に楓夏は「どうぞ♪」と焼き立てのお肉を載せた。オマケに美味しそうに焼けた玉ねぎも添える。
「お肉だけじゃなく、お野菜もしっかり食べましょうね♪」
「そうだね……しっかり栄養とらなきゃね……」
はぁい、とお返事する夢羽の隣では、トングをぎゅっと握りしめたリーテことアレキサンドライトがじっと網の上の具材を見つめていた。
「も、やけた、かな」
「大丈夫よ。それはそろそろひっくり返していいわ」
頷く曜灯にリーテは嬉しそうに鶏肉をゆっくりとひっくり返す。
「雨衣、こっちも焼けたわよ。どうかしら?」
皿に取り分ける曜灯に礼を告げ、雨衣はぱくりと焼き立てのトウモロコシを頬張った。
「み、皆さんと、一緒だからでしょうか……とっても美味しい、です……」
その声から彼女が喜んでいることが伝わってきて、曜灯は嬉しそうに目を細めるとめりるが持ってきたナスへと箸を伸ばす。
「――美味しい。このナスはめりるのとこで取れたのね」
「そうですよー! 自分で育てたものですよー!」
えへんと得意気に胸を張るめりるの傍らで、もこもこが熱々のウィンナーを必死に齧っていた。
皆で一緒に焼いて、いっぱい食べて。
楽しげな笑い声を背にカランとグラスの氷が潮風に揺れる。
健くん、と名前を呼ばれて振り返れば麦茶を差し出す勇介の姿。
「お疲れ、勇介! ……え、何? 相談?」
肉を焼く手を止め、健は勇介と共に皆の輪から離れた。
「実はさ……」
飛び出したのは思いがけない勇介の告白。
目を丸くする健だったが、同時に知人の言動にも合点が行く。
「というわけで、帰ったら仲直りのフォローお願いっ!」
「僕で出来ることは協力するよ」
顔の前で手を合わせる勇介の背を健はポンと叩いた。
「でも、今はこの臨海学校を愉しまないと勿体無いぞ!」
健の言葉に勇介も笑顔で頷く。
「そうだ! 食後のデザートに西瓜食うか?」
「ありがとっ」
曜灯にもあげよう、と健たちは賑やかな声のする方へと歩きだした。
●本日は、海日和
キラキラと輝く水面に浮かぶ白い波。
初めて見る『海』を前に、思わずメリーは息を飲む。
「……どうですか? 初めて見た海は」
「すごく、キレイ……」
こくりと頷くメリーを見て、一樹は嬉しそうに眼鏡の奥の藍色の瞳を細めた。
「――喜んでもらえて良かったです」
素足に伝わる水の感触を楽しみながら、一樹たちは静かに波打ち際をゆっくりと歩く。
「さぁ、泳ぐぞー」
ザブンという音ともに水しぶきを上げ、翔は元気よく海へ飛び込んだ。
「おぉっ、ガッツリいくね~♪」
浅瀬でのんびりぷかぷか浮いているシアンたちの横を力強い泳ぎで通り過ぎてゆく。
そのすぐ傍で曜灯とぱしゃぱしゃ遊ぶ夢羽に素潜りから浮上してきた健が声をかけた。
「そういえば、夢羽や小梅は上手く泳げるか?」
「ユメ、ちゃんと25メートル泳げるよ! 小梅は……?」
どう? と一緒に浮き輪に掴まっていた小梅に一同は視線を向ける。
困ったような顔で首を傾げる小梅を夢羽は「テストしよう」といきなり海へ!
「だいじょうぶ、きっと泳げると思うの!」
「こ、小梅!?」
「大変、沈んでいくわ。泳げないんじゃない?」
幸いすぐに健が助けてくれたが、その後、小梅は二度と泳ごうとしなかった……。
一樹とメリルが作った砂のお城を、打ち寄せる波が静かに海へと連れて行く。
「くっ……好きにせいや」
本気勝負に負けて口惜しそうな悟に想希は嬉々としながら砂をかけた。
砂風呂のように顔だけ出した悟の身体の上に盛り上げられた砂は、昨年の海で想希が体験した時と同じように象られる。
リベンジを果たし満足気な笑みを浮かべた想希は、カメラを手に悟の耳元へ口を寄せ。
「ふふ、かっこいいですよ」
――俺の最強のナースさん。
シャッターを切る音ともにちゅっと悟の頬にキスが一粒落ちた。
浅瀬で遊んだ後は、みんなで一緒に砂浜で貝殻探し。
砂の中から見つけたキレイな貝殻を手にした智秋の顔がぱっと綻ぶ。
「わぁ、智秋ちゃんの貝、キレイ!」
いいなぁと羨ましそうに見つめる夢羽に智秋は嬉しそうに口を開いた。
「お兄ちゃんへ、お土産に、するの……」
大切そうに貝殻をしまう智秋がふっと顔をあげる。
ポーンと彼女の頭上をビーチボールが飛び超えていった。
「あ……ビーチ、ボール」
ボールの先を視線で追えば、そこにいたのはビーチバレーを楽しむ少女たち。
「わたくしにお任せくださいませ」
素早くボールの下へと回り込んだ瑠羽奈がポンとボールを打ち返す。
「わ、っと……砂に沈んで、やりにくい、ですね」
「オッケー、うん、こっちだよー♪」
慣れぬ砂に苦戦しつつおっかなびっくりエリカが繋いだパスを受け、空煌が相手チームへと再びボールを返せば。
頭上を越えるボールを追いかけ、智香は楽しそうに砂浜を駆けた。パシっという軽快な音ともにボールは綺麗な弧を描く。
「シェスさん、見ててくれました? 今、ちゃんとボール返せました」
「ええ、とっても、上手でしたよ、智香ちゃん」
ゆるりと微笑むシェスティンに智香も満面の笑みを浮かべて頷いた。
初めての海。初めてのビーチバレー。
きゃっきゃと浜辺に響く楽しげな声と楽しそうな笑顔が『初めて』の想い出を彩る。
「みんな、楽しそうですね♪」
賑やかな声のあがっている方へと視線を向け、微笑む楓夏に百舌鳥も頷いた。
波打ち際を歩く素足に感じる水も心地よい。
「禅くんはねこかき得意なのかな……?」
百舌鳥は肩に乗った禅の顎を優しく撫でる。
ゴロゴロと甘える禅に泳ぐ素振りは見られない。
「あんまり得意では無いみたいです……♪」
そっか、と頷く百舌鳥の傍らで楓夏は突然足を止めた。
「ふふ、砂遊び、しますか……?」
「いいね……砂のお城、作ろうー……!」
楓夏の提案に、百舌鳥は持っていたバケツに砂をぎゅっと詰める。
「素敵ですね。大きなお城を作りましょう♪」
砂遊びなんて久しぶり。お城の隣には本格的なトンネルを掘ろう。
子供のようにはしゃぐ2人を夏の日差しが優しく見守っていた。
異常に暑かった気温が下がり始めた頃、思う存分遊んで満足そうな笑みを浮かべた一行は帰り支度を始める。
あっという間に過ぎた二日間。
キラキラと輝く夏の想い出をいっぱい詰め込んで。
佐渡島の臨海学校は終わりを告げたのだった――。
作者:春風わかな |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年8月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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