臨海学校2015~熱帯雨林でスイカ割り

    作者:立川司郎

     異常とも言える熱波に包まれた外に比べて、この廃坑の中は幾分か涼しい空気に包まれていた。
     あくまでも『幾分か』ではあるが。
     暗い廃坑の奥底に、のそりのそりと異質なものが這いずり進む。器用に蔦を使い、土を削ってゆくソレはスイカ。
     大きなスイカの形をしたモノが、暗い廃坑をのそりのそりと蠢いていたのである。
     土を削るのが好きなのか?
     それとも、廃坑を人に代わって活性化しようとでも言うのか?
     ただスイカ達はのそりのそりと、無言で廃坑を掘っていく。そうして、彼らが掘り進んだ廃坑は熱帯の植物で埋め尽くされていった。
     ……佐渡島は今、じわじわとアフリカ化しつつあった。
     
     そよそよと扇で風を送りつつ、相良・隼人(大学生エクスブレイン・dn0022)は地図をクロム・アイゼン(高校生殺人鬼・dn0145)に差し出した。
     彼女が汗をかいているのは、今まで鍛錬をしていたからか、それとも暑さのせいか。
     差し出した地図にかかれていたのは、佐渡島であった。
    「臨海学校が佐渡島になった……ってェ話は聞いたよな。そこでだ、熱い所悪いが、ちょいと佐渡島で仕事をして帰って貰う。……実は今、佐渡島は熱波大売り出し中だ」
     今佐渡島が異常な熱波に包まれており、その原因がアガルタの口化している事にあるのだという。
     アガルタの口は、軍艦島攻略戦でも確認された謎の熱帯雨林の事である。
    「もしかすると、ダークネスの拠点になった軍艦島が、佐渡島に近づいてきているのかもしれない。北陸で発生していたご当地怪人のアフリカン化も、これに起因するのかもしれねぇ。……というのが俺達エクスブレインの見解だ」
     佐渡島が第二の軍艦島となる前に、これを阻止するというのが臨海学校の裏に隠された灼滅者達の任務である。
     隼人は、佐渡島の廃坑を探索してそこに潜む敵を撃破してくるようにと言った。
     その後、軍艦島の襲来に備えて海岸でのキャンプを行う。アガルタの口の撃破と灼滅者の集結を知れば、軍艦島のダークネス達も撤退するだろう。
    「ただし、アガルタの口の敵をすべて撃破しても丸一日は40度以上の熱波が続く」
     えー、と嫌そうな顔をしたクロムに、隼人はにんまり笑った。
    「敵さえ片付けたら、どうせキャンプを張らなきゃならねぇんだ。好きなだけ泳いでこい」
     廃坑に潜む敵は、スイカの形をした眷属であるらしい。佐渡島にある金山の廃坑奥が、アガルタの口化して熱帯植物に包まれている。
     灼滅者達が探索する鉱山はいくつか分かれており、隼人はその一つを示した。
    「この鉱山は奥に水があって海と繋がっててな、その廃坑の小さい湖の近くにスイカが群生している。スイカ怪人はそのスイカ畑で生まれているようだ」
     熱帯植物に包まれたスイカ畑に、スイカ怪人が全部で十五体。十分経過するとさらに五体増えるが、隼人が言うにはクロムでも3発程度で倒せるらしい。
    「眷属を片付けたら、スイカのスイカは念の為に潰しておいてくれると有り難い。眷属になって無ければ、食っても構わねぇよ」
     スイカは水中に逃げ込む事はないが、敵を倒したらそのまま水流を伝って海まで出ろと隼人は言った。
     その先が海岸に繋がっており、キャンプを張って軍艦島を監視するのにちょうどいいらしい。
    「廃坑の中の水だから、外よりずっとひんやりして気持ちいいぜ」
     臨海学校の戦いは何故か毎度の事なので、隼人もそれ以上何も言わなかった。
     そして灼滅者達も、文句一つ言わなかった。
    「向こうは40度を超える熱帯だ、熱中症対策は十分にな。海の方も、言う程温度は上がってないらしいし、泳ぐのは好きな所で泳いでいい」
     翌日記憶が下がったのを確認したら、学園に戻って来い。
     隼人はそう言うと、ちょっとうらやましそうにクロム達を見送ったのだった。


    参加者
    十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)
    迫水・優志(秋霜烈日・d01249)
    虹真・美夜(紅蝕・d10062)
    高倉・奏(二律背反・d10164)
    レイン・ティエラ(氷雪の華・d10887)
    木嶋・央(此之命為君・d11342)
    静闇・炉亞(刻咲世壊・d13842)
    八重沢・桜(百桜繚乱・d17551)

    ■リプレイ

     暑い。
     日差しがない廃坑の中ですら、空気が蒸し暑い。
     それでも外よりは幾分涼しい廃坑の更に奥に進んでいくと、次第に風がひんやりとしてきた。涼を求めるように奏が土壁に手を触れると、冷たい感覚が伝わってきた。
     周囲は、廃坑に違和感を醸し出す熱帯植物に覆われている。
    「なんか蒸し暑い」
     じめじめとした湿度に体力を奪われ、既に疲れた様子のクロム・アイゼン(高校生殺人鬼・dn0145)がぼやく。
     暑いのも寒いのも平気だと言うが、湿度が高い日本の夏は大分体力的にキツイ。
    「まだですか?」
     さすがに高倉・奏(二律背反・d10164)も、疲れてきたのだろう。
     前方を歩くレイン・ティエラ(氷雪の華・d10887)に聞くと、ふと笑いながら振り返った。
    「そろそろ着く頃だろう」
     ザワザワと、レインの耳にも何かが叢をかき分けるような音が聞こえていたからである。薄暗いトンネルを、レインは音の方へと進んでいく。
     熱帯雨林の茂る廃坑を進んでいくと、その一番奥に見えたのは……スイカ。
     聞いていた通りの、蠢くスイカ畑であった。
    「すごいな……一、二、三……」
     天井から差し込む光を眩しそうにしながら、視線を動かして迫水・優志(秋霜烈日・d01249)がスイカを数え始める。すると、虹真・美夜(紅蝕・d10062)が後ろからぽんと背を押した。
     数える間もなく、こちらに気付いたスイカがのそりと動く。
     動かないスイカも、動き出したスイカもかなりの数だ。思わず感嘆の声を上げて、静闇・炉亞(刻咲世壊・d13842)が笑った。
    「なんでこんなにスイカの眷属がいるの?」
     食べちゃえば問題無いですかね、と笑顔で炉亞は武器を手にする。
     ごろごろ転がったスイカは、見分けが付きにくい。
    「どっちが正面か後ろか、見た目じゃ全然分からないわね」
     溜息まじりに美夜は呟き、ガンナイフを握った。
     速攻で仕掛けたのは、剣で払いながら踏み込んだ十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)と、異形化した腕で掴みかかった八重沢・桜(百桜繚乱・d17551)。
     動いたスイカは目で確認したようだが、飛びかかってきたスイカを狭霧が斬り払うと、上から桜が拳で地面に叩きつける。
     モグラ叩きのようで、桜はなんだか楽しそうな笑顔だ。
    「ダイナミックスイカ割りー!」
    「スイカ割りって言うより、スイカ叩きだな」
     木嶋・央(此之命為君・d11342)の突っ込みも、桜は気にせずガンガン叩いて行く。
     動くスイカ、動かないスイカが混在する。
     二体、三体と同時にスイカは飛びかかると、央とましゅまろが前に立ちふさがった。
     央は縛霊手で防ぐと、すぐさま除霊結界を展開して動きを制する。結界で縛られたスイカが、地面にごろりと転がってピクピクと震えた。
     動かないうちに、ましゅまろが切り裂く。
     とにかく飛びかかってきたスイカを確認しつつ、桜や狭霧が倒し損ねたスイカを優志もセイクリッドクロスで一気に片付けて行く。
    「……躱された!」
    「任せて」
     美夜が優志の声を聞いて、一気に距離を詰めて斬撃をくり出した。呼吸を整えつつ、美夜が傍にあったスイカを蹴り崩す。
     スイカから飛び散った果肉が、血のようにべっとり足についた。
    「これは血じゃないわよ」
     美夜が言うと、優志と目が合った。
     まだ周囲にスイカが残っており、美夜は奏に攻撃のついでに巻き込むようにと頼んだ。こくりと頷いて、奏が回し蹴りで一掃。
     お返しとばかりに、スイカ達が奏に飛びかかって集中攻撃を仕掛けた。奏を守る神父が霊撃でスイカを破壊していくが、とても落としきれない。
    「ギン!」
     レインの一声と同時に、ギンがスイカに喰らい付った。
     次第に減っていくスイカ。
     レインは時計にちらりと視線を落とすと、皆に声を掛けた。
    「スイカが増えるまで、あと三分だ」
    「大丈夫です、それまでには片付けてしまいますから」
     モノリスの全砲門を解放し、炉亞が閃光を放つ。
     スイカ畑に飛び散る赤い果肉、飛び交う武器。
     残ったスイカにクロムがナイフを突き立てると、レインがほっと息をついた。どうやら、時間ぎりぎりで全て片付いたようだ。
    「増える前に終わって良かったな」
     地面に転がったスイカ畑の端っこに、いくつか傷のないスイカが天井の光を受けてツヤツヤと輝いていた。

     スイカ畑は美夜やレインがサイキックで燃やそうとしたが、結局燃え広がる様子がなかった為、火を付けて燃やす事にした。
     煙が立ちこめる前に、ここを去った方がいいだろう。
    「海に浮く荷物だけ運んでおこう」
     優志はクーラーボックスを受け取ると、廃坑の水路に飛び込んだ。
     スイカ畑の傍から、そっと美夜が覗き込む。
     おいでおいで、と手招きすると、美夜はようやく浮き輪を手にして足から滑り降りた。
    「冷たい…!」
     ぎゅっと浮き輪に捕まったまま、泳ぎ出す事も出来ない美夜に代わり、優志は仲間に手を振ってから浮き輪を引いていった。
     ちらりと振り返り、優志は美夜の手を握り直す。
     暗さと深さで、美夜はすっかり萎縮していた。
    「光が射してる」
     気を紛らわせるように、優志が光の射す水路を指した。薄暗い水路の中、スポットライトのように光が射している。
     キラキラ光る海面をあちこち見ているうちに、美夜はいつのまにか出口まで辿り着いていた。

     ようやく海岸についたレインは、設置済みのキャンプに気付いて見まわした。
    「確かセイと実季が…」
     とテントの向こうに回り込んだレインに、水が襲った。
     水びたしで、レインが奏に手を差しだす。
    「奏、こっちも水鉄砲だ」
    「……もう、あそこに」
     気付いた時には、既にセイは海に飛び込んでいた。
     実季は帰るなり水浸しのレインに笑いながら、ジュースを差しだした。戻ってきた灼滅者達にも、クーラーボックスで冷やしたジュースを差しだす。
    「炭酸系もジュースもお茶も、色々冷やしてありますよ」
     実季からジュースを受け取り、交替に奏がスイカを差しだした。

     皆で浜辺にキャンプ設営を終えると、狭霧は一浄を手招きした。
     狭霧が何かやりたそうにしているのは、一浄にも分かった。
     どうやら、それは廃坑探索らしい。
    「俺、今年最初の海なんや。廃坑巡りするんやったら、この水路から行きまへんか?」
     一浄は、戦闘後に優志達が泳いできた水路を指さした。
     狭霧としては、お気に入りのランプさえ濡れる事がなければ、水路を泳ぐというのも楽しそうだと思う。
    「じゃ、浮き輪も持っていった方が良さそうっすね!」
     ……先輩が流された時用に…と、付け加えるように言った狭霧の言葉を一浄は聞き逃さない。だが、一浄はちゃんと狭霧を目印にして着いていくから。
     準備運動の後に海に飛び込むと、水路へと泳いでいった。
     所々天井から差し込む光が、奥へと導いてくれるようだった。
    「……ん? なんか光った。廃坑に眠るお宝やろか」
     そう言うと、一浄は海中に身を沈めた。
     海中に差し込む光が、暗い海の中で一浄を導いていく。微かな光に、一浄はゴーグルの奥の目を細めた。
     光に目を奪われて、暗い海の中で何か堅い物に当たった気がするが…。
    「……イ? センパーイ!?」
     狭霧の声が、光の向こうに聞こえた気がした。
     どうやら、浮き輪は役立ちそうである。

     夕食までは自由時間だ。
     ボールを取り出した奏の横で、央がギンとましゅまろの斬魔刀に旗をくくりつけている。2匹は、この四人の勝負における審判である。
     奏はボールを掲げて、央と桜と向き合った。
    「真剣勝負ですよ!」
    「望む所だ」
     央が言い返すと、奏がボールを放り上げた。
     レインをアタッカーにした奏とのコンビネーションは抜群。息の合った二人だけに、言葉はなくともフォローと攻撃を上手くやりこなしている。
     そんな奏の様子を、神父も眺めて居るが…自分もやりたそうだ。
    「まだまだこれからですよ! 央さん!」
    「ああ、任せろ」
     央はボールを高く上げると、続けて両手を組んだ。桜はその央の手を足場にして、飛び上がる。予想外の動きに、レインもあっけにとられていた。
     とっさに奏が受けようと飛び出すが……。
    「…という訳にいきませんからっ!」
     女性は傷物には出来ない。
     だから。
    「ここです!」
     勢いを付けた上空からの一撃が、レインに直撃した。
     砂浜に飛び降り、思わず手を打ち合って喜んだ桜と央。砂浜に沈んだレインの横に、ころんとボールが転がった。
    「作戦勝ち……だ…な」
     央が言いかけて、桜と二人で視線を上げる。
     なんだか、すごい殺気を感じるのは気のせいだろうか。笑顔だが、笑顔じゃない!
    「まだまだこれからですよ?」
     奏はボールを片手で握ると、フルフルと震えた。奏の反撃に恐れをなした桜が央を盾に逃走し、勝負はドロー。
     どうしようかと悩んだレインが判定二匹に視線を向けると、ましゅまろとギンも悩んだ様子。
    「じゃ、判定よろしく」
    「俺でいいの?」
     レインがクロムに頼むと、クロムは驚いて奏を見た。
     うん、このまま続けたらレインと奏が勝つだろう…絶対。
    「んじゃ、前半押してたレイン達が勝ち!」
     クロムの判定に、レインが奏と笑顔で見合った。

     勝負を見守るましゅまろとギンを撫でて、炉亞は行ってきますねと小さく伝えた。
     準備運動OK、安全確認OK。
     日差しの暑いこの空の下、一夜とともに海に飛び込んだ。
    「この辺りなら誰もいませんよ」
     周囲に人がいないのを確認すると、炉亞はサイキックを海で使った。海で使うとどうなるか、ほんの好奇心であったが、結局期待したような効果はなかった。
     一夜は、ふわりと笑って四苦八苦している炉亞に水を掛ける。
    「ダークネスに見つかっちゃうかもしれないよ」
     そう言いはしたが、一夜もちょっと興味があったのだ。結局二人は、海でひとしきり水の掛け合いをしてはしゃぎ回った。
     ずぶ濡れになった炉亞が、仕返しと水を掛けようとすると大波に煽られて足を崩す。波を被って、一夜まで水に沈んだ。
    「炉亞先輩、大丈夫?!」
     水を振るって、一夜が炉亞に慌てて近づく。
     心配そうな顔の一夜に、炉亞は大丈夫と笑顔を浮かべた。幸せそうな炉亞の笑顔が近づき、こつんと一夜に額を合わせる。
    「えへへー」
     一夜も嬉しそうに、炉亞に抱きついた。
     僕も幸せですよ。
     抱き返した炉亞が、呟いた。

     日が暮れる前に、錠がやってきた。
    「お疲れさん。スイカ狩りは楽しかったか?」
    「楽しかったぜ。よし、戦場跡に行ってみるか」
     クロムが勇んで水路に飛び込んだものだから、錠も後に続いて飛び込んだ。むろん、最初から錠も泳ぎに行こうと言うつもりであった。
     ライトで照らして、暗い水路を泳ぐ。
     足元は真っ暗で、時折天井から差し込む灯りとライトが頼りだった。
    「ダンジョンに迷い込んだ冒険者って所だな」
     いや、逆にモンスターか、俺達は。
     錠が言うと、ひとしきり悩んだ後でクロムは冒険者と答えた。クロムが考える冒険者が戦士とかクレリックであろうとは、錠も思ってない。
    「どっちも悪かねぇな」
     錠は笑うと、見失わないようにクロムの後を追いかけた。

     食事の前に、持ってきたスイカでスイカ割りをした。
     結局スイカ割を散々した九人だったので、スイカ割は戦闘に参加していない五人に任せる事にした。
    「炉亞先輩、お願いするね」
     目隠しを手にして、一夜が炉亞に指示を頼んだ。
     セイや実季は、他の四人に指示を頼む事に一抹の不安を覚えていたようだが、結果は想像に任せる事とする。
     一浄は狭霧の指示で、最後は無事に割る事が出来た。
    「指示任せたぜ」
    「任せろ?!」
     錠の声掛けに答えたクロムの声が、若干上ずっていた。
     蒸し暑い夏の午後に、冷たいスイカが喉を潤わせる。

     日が暮れると、二手に分かれて夕食の準備に取りかかった。
    「それじゃあ、手が空いている人はかまど作りよろしくね」
     バーベキュー用の野菜を切り分けながら、美夜が優志に笑顔を向けた。否応なしに、忙しそうにカレー組の方へと戻る美夜。
     腰に手をやり、優志は後ろを振り返る。
     様子を伺っていたクロムと目が合い、とっさに反らしたが後の祭り。二つのカレー鍋用と、バーベキュー用のかまど作りは、戦闘よりも重労働だったようだ。
    「こっちはカレーっすよね」
     材料をとりわけながら、狭霧は牛と鶏を取った。狭霧とカレーを作る予定の奏は、肉を2種類取った狭霧に首をかしげる。
    「二つですか?」
    「そうっす、鶏と牛と2種類作るっすよ」
     鶏と牛、両方用意したい狭霧。
     夏野菜をたっぷり使いたい奏は、ビーフカレーに野菜をふんだんに使う事にした。野菜と肉を切っていく狭霧や奏、美夜に混じって桜は米を研いでいく。
     バーベキューの準備をしていた央が、桜の用意した米に目をつけた。
    「それが桜おすすめの米か」
    「そうです。新潟の自慢のお米ですよ」
     みんなに美味しく食べてもらう為にと、桜は米を研いでいく。あまり米を洗いすぎず、火加減も気を配る桜。
     カレーが仕上がる頃には、バーベキューの準備を終えたレインが焼き始めた。
    「アヒージョを作りたいんですけど、いいですか?」
    「海辺で食べるアヒージョも美味しそうだな」
     炉亞の頼みを聞いて、レインも手伝いはじめた。
     柔らかい鳥肉のカレーに、こくのある牛肉カレー。バーベキューには魚介類が美味しそうに焼けている。
     狭霧は一浄に、食べていた鳥肉カレーの味について熱心に語っていた。
    「お前等、肉だけじゃなくて野菜も……は、いいか」
     優志が野菜を進めて回ろうとしたが。
     バーベキューの前で、既に央がレインに玉葱を山盛り突っ込んでいた。レインがお返しに、ピーマンを山盛り突っ込む。
     二人でわいわいやっているうちに、桜は奏と二人で、炉亞のアヒージョに舌鼓を打っていた。
    「美味しいですよ本当!」
     奏も満足で、桜は結局カレー二種類もアヒージョも食べてしまった。
     カレーに入った夏野菜が、甘みがあって美味しい。
    「優志も食べたら?」
     美夜が声を掛けると、優志はようやくバーベキューから離れて腰を下ろした。

     どうやら、今夜は何も起こりそうにない。
     気がつくと、海の上に満点の星空が広がっていた。
    「夏の大三角って何処だろ?」
     海岸に座り、狭霧が空を見上げる。
     あれやないの? と一浄が指した先に目を細めた。
     まるで降ってきそうな、星空。二人で眺めて居ると、花火の音が聞こえてきた。ぱっと目を輝かせて、狭霧は立ち上がった。
    「一浄センパイ、花火っすよ!」
     背中を押すようにして、狭霧は花火に向かう。

     美夜と二人、昼間通った水路の傍の浜辺まで戻って覗き込むと、奥の方に光が射しているのが見えた。
    「月の光が綺麗」
     美夜の言葉に、優志が頷く。
     夜の海は危険で冷たいが、こうして眺めて居ると誘い込まれそうだった。
     そっと美夜が優志の手を取ったのは、優志が行ってしまいそうだったからだろうか、それとも海に恐怖を覚えたからだろうか。
     優志はふと顔をあげて、笑顔を向けた。
    「花火が始まったみたいだ」
     美夜はこくりと頷き、歩きだした。
     静かに二人が歩くのもいいけれど、こんな賑やかな一夜も悪くないと笑みが零れた。

    「手持ち花火いっぱい持ってきましたっ!」
     桜が手持ち花火を、取り出してきた。
     炉亞の用意したものも手持ち花火であったが、変わったものが多い。中にはネズミ花火も入っていたが、央が手にしたのは銃の形の持ち手がついた花火である。
     この時点で何をするかは察しがついている。
    「花火は人に向けちゃいけませんって習っただろうが!」
    「灼滅者だから」
     などと言い合いながら、央はレインを追いかける。
     ワクワクした様子で、クロムがネズミ花火を取り出した。嫌な予感しかしない錠であったが、止めはしない。むしろやって良し。
    「どんどん行くぜ!」
     笑いながらクロムがネズミ花火を点火すると、レインと央の間にネズミ花火を放った。これにはちょっとした騒動になったのであった。
     これは、タイミングのせいでありワザとではないのだ、多分。
    「……派手な花火もいいけど、やっぱり花火はこれですね」
     騒いでいる彼らの横で、実季は線香花火に火をつけた。
     横に腰掛け、桜も線香花火を手にする。奏や、戻って来た狭霧や美夜達も呼び止めて、線香花火を手渡す桜。
    「誰が一番線香花火を落とさなかったか、勝負ですよ」
     桜の提案に、皆線香花火を手にした。
     線香花火は小さく細く、闇夜に弾け続ける。一つ、また一つと落ちていった花火……結局最後まで残ったのは、優志の花火だった。
     夏の終わりの、戦いの合間の休息が終わりに向かう。
     最後にレインの打ち上げ花火が上がると、みんなの視線が空に向いた。
     星空に浮かぶ、花火に誰もが見取れる。
     その時、レインが上を向いた奏の頭にふわりと花を添えた。それは今日だけの花冠、熱帯の花の冠であった。

    作者:立川司郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 4
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