臨海学校2015～結成、武蔵坂スイカバスターズ！

■リプレイ

●進め、スイカバスターズ！
　忍長・玉緒（しのぶる衝動・d02774）やリサ・ヴァニタス（アンバランスライブラ・d33782）の灯りが、廃坑内を照らす。
　鉱山の名残はあまりなく、ここが密林洞窟……『アガルタの口』と化した事実を思い知らされる。
　ひとしきり歩いたところで、一旦休憩を取る。構造がさほど複雑ではないのは情報通り。だが暑さの方は、聞くのと体験するのとでは大違いだった。
　アプリコーゼ・トルテ（三下わんこ純情派・d00684）のわんこ耳もへにゃり。
「洞窟ならちょっとは涼しいって思ったっすけど……」
　どっこい、流れる汗の滝。
「もうでよう！　こんな所にいたら蒸発するっす！」
「騒ぐとますます暑くなるわよ。これでも飲んで落ち着いて」
　マッピングを確認していた玉緒が差し出したのは、ミネラルウォーター。まさに恵みの水。
「ありがたいっす！　感謝っす！」
「塩飴もあるわ。みんなもどう？」
「塩分補給は大切だものな」
　濡れタオルをかけた神田・熱志（ガッテンレッド・d01376）は、きゅうりをかじっている。ぱきっ、と割れる音やそしゃく音が、耳にも涼しい。
「はあ……暑いの、苦手。くらくら、する……。はやく、スイカ、食べて、水分補いたいわ……」
　ふらつく西園寺・夜宵（ツァーメーハイマ・d28267）を、ライドキャリバーの『かっこかり』が支えた。感謝しつつ、ミント入りのミストで清涼感を得る。
「涼しいわ……」
「こう暑いと体力の消耗も早いですからねぇ」
　スポーツドリンクに口をつけるリサ。こくんと動く喉がなまめかしい。
「ふふふ、どんなに暑くても私の美しさは少しも変わらな……あー無理！」
　メリーベル・ケルン（プディングメドヒェン・d01925）の虚勢も限界だった。おでこにひんやりシートをぺたり。
「早く終わらせてバカンスといきましょう！　ねえみんな！」
「そうですね！　これも対多の練習と思えば……終わったら遊べると思えば……！」
　半分凍らせたペットボトルと、同様の霧噴きで、暑さと戦う東堂・八千華（チアフルバニー・d17397）。
「でも暑い……！」
「それはつまり……アガルタの口に近づく程気温がアガルタ！（上がった）ということで」
「えっ」
　凍り付く、空気。
　ドヤァ……ペーニャ・パールヴァティー（へっぽこサロード奏者・d22587）の顔から溢れる汗とやりきった感。
「あ、つい（暑い）ダジャレがこぼれてしまいました」
「この状況でダジャレがすらすら出てくるなんて、ある意味すごいわね……」
　感心するメリーベルの横で、玉緒の肩が小刻みに震えているように見えた。

●秘境の奥に謎のスイカ生物を見た！
　のどを潤した一行は、再び密林洞窟を進む。
　同じような風景がどれだけ続いただろうか……静かだった坑内に、妙な音が混じり出す。
　がさがさ、と、ざくざく、の合いの子のような。
　体の半分ほどを埋め、深奥を掘り進める影こそ……スイカ。スイカ型眷属だった。
　数体が列を為し、ひとしきり作業すると、別の列と交代する。
「見事な……流れ作業ね……」
「がぶ？」
　夜宵のつぶやきに、作業中のスイカが振り返る。赤く光る目。『アガルタの口』化を邪魔するものは許さない！
「ようし、いくっすよ！」
　しゃらんっ、とポーズを取り、アプリコーゼがロッドを振るう。光の奔流に包まれ、魔法少女めいた衣装をまとう……が。
「……暑いっす！」
　べしん。地面に叩きつけられるジャケット。ですよねー。
「佐渡ヶ島だろうと、ダークネスは見逃せない。ガッテンレッド、只今見参！」
「スイカ割りの始まりね。さあ、行きましょう」
　熱志が紅き装甲をまとい、玉緒が胸元の鍵を握りしめた。あふれた殺意が殲術道具となる。
「きしゃーッ！」
　掘削していた眷属も、作業を中断。牙を剥いて襲い掛かる！
　眷属に灼滅者、サーヴァント。もはや３０近い数が、スイカ畑……もとい、『アガルタの口』にて乱れ戦う。
「それじゃぁ、楽しい愉しいスイカ割りの時間ですよぉ、うふふふ」
　リサの突撃は、笑顔とともに。
　左腕と結晶を介して結合した武器が、氷炎の弾をばらまく。動作の１つ１つに漂う色香。スイカ眷属には理解できないのがもったいない。
「なら、こっちも斬新なスイカ割り！」
　八千華が振るう鞭剣が、複雑な軌跡を描き、眷属の表皮を切り刻んでいく。
「一体何がスイカを眷属化させてるのかな……！」
　サイキック飛び交う中、八千華が視線を走らせる。
「がぶがぶッ」
　黙って狩られる眷属ではない。地面を滑るように浮遊移動しつつ、口をがばりと開く。
「くっ」
「いやあ、こっち来ないで！」
　腕に噛みつく個体を熱志が引き剥がせば、メリーベルが槍を振り回して追い払う。
　他方では、ギザギザの口をすぼめ、黒の弾丸を吐き出す。
「うっとうしいわね……」
「もー、汚いっ！」
　夜宵がかわし、八千華が大鎌でガードするも、爆破の花が宙に咲く。
　数は力なり……じわり、灼滅者も体力を削られる。
「大丈夫、皆さんが『気付』かない間に『傷』は治しておきますから」
　ペーニャのダジャレヒーリング。エフェクトは多分『寒い』。
　種爆弾の煙の名残に、穴が開く。かっこかりの機銃だ。
　支援を受けつつ、夜宵がスイカに十字を刻む。
「……割れて砕けて」
「がぶっ」
　散った果肉の残骸を、無造作に払う夜宵。
　その背後。玉緒が疾風となって、畑を駆ける。眷属が振り返った時には、その身は２つに両断されていた。これぞホントのスイカ割り！
　バーナーズ卿の肉球パンチで宙を舞ったスイカを、ペーニャが蹴り抜いた。
「狙いはスイカく（正確）に」
　ブレないわね、と横目で見つつ、メリーベルがバックステップとともに氷柱を撃ち出した。
「がふっ」
　ぐさり、貫通。
　砕けるスイカに、瞬時に溶けた氷が星のように降り注ぐ。
「早く終わらせるからね、がんばってイチジク！」
　暑さに耐え、攻撃に耐え。
　仲間を守ろうと奔走するウイングキャットを、応援する八千華。その鎌と連動して振り下ろされた刃が、すぱりとスイカを切断した。スイカの３枚おろし、出来上がり。
「せっかくのスイカがもったいないっすね」
　残念がりつつ、アプリコーゼの杖が軌跡を描く。周囲のスイカが白く氷結し、そのいくつかが力を失い落下する。
「きしゃーッ！」
　残った眷属たちが、熱志に殺到する。その姿がスイカに囲まれ見えなくなる……否！
　紅き輝きと共に、ガッテンアックスがスイカ包囲網を打ち破った。そして、吹き飛ぶスイカ達の間を高速で駆け回る！
「砕けろ、龍翼飛翔ッ！」
　熱志の背後で、爆散が連鎖した。
　種をばらまきながら逃走する眷属。その背後に、リサが回っていた。
「うふふ、最後の１個、も～らいっ、ですよぉ」
　灼滅者は、スイカの急所すら見抜くというのか。
　リサの一撃が、スイカ割りに終止符を打った。

●海。ＵＭＡじゃなくてＵＭＩ。
　それ以上、スイカ眷属が現れる様子はなかった。
　畑に転がるスイカも、微動だにしない。この周辺の『アガルタの口』化は停止したようだ。
　後はこの熱波が終息してくれるのを祈り、一行は海岸に戻って来る。
　ぎらり、まぶしい太陽との再会。
「さあ、臨海学校本番だな。何をして遊ぶ？　俺も手伝っても構わな……」
「あはっ、せっかくですし楽しまなきゃですよねぇ？」
　熱志の言葉が途切れる。リサが、白ビキニでスタイルの良さを存分にアピールすれば、メリーベルも今年新調したばかりの水色ビキニ。
　２人だけではない。水着姿になった仲間達は……全員女の子であった。
　無論熱志とて、仲間の性別くらい把握している。ただ、改めて気づいたというだけで。
「ごほん。俺は周辺の調査にでも行って来よう」
「ああ、行ってしまわれました……ともあれ、蒸し暑い廃坑にはもう鉱山（降参）ということで、さっそく泳ぎますよー♪」
　こちらも水着姿のペーニャが、海に足を踏み入れて、
「あ、そうです皆さん。私の胸が何カップなのか当ててみて下さいな」
「そうね……」
　考え始めて数秒、玉緒が問いの意図に気づく。ゆえに答えはテキトーに、
「Ｆ、かしら？」
「スイカい！（正解）」
「それが言いたかっただけじゃ……」
「……さ、さてメリーさん、落とし穴を作って誰かおとさないっすか？」
「落とし穴？　……ははーん、そういう事なら私も一緒に穴を掘るわ！」
　顔を見合わせ悪い笑み。アプリコーゼとメリーベルが、せっせと穴掘りにかかる。
「暑いのによくやるわ……さっきのスイカ眷属みたい……」
　２人の努力を眺めつつ、夜宵は、スイカをしゃくしゃく。
　畑から拝借してきたものである。水分を失った体が、満たされていく感じが心地よい。
　やがて完成、見事な穴。
「さーて、どうやっておびきよせるっすかねえ……」
「ふふふ、誰がいいかしらねえ……」
　顔を寄せあうアプリコーゼとメリーベル。だが。
「……と見せかけて！」
「ターゲットはリコ、あなたよ！」
　くしくも、互いが腕を突き出したのは同じタイミングで。
　どん！
　２人の体が落とし穴に飲み込まれる……因果応報！
「いたた……こんな深くほったのはだれっすか！」
「リコでしょ！」
「いやメリーさんが！」
　醜い言い争いを続ける２人に、影が落ちる。
　赤い水着の八千華が、穴をのぞきこんでいた。
「……あ、埋められてる。日に焼けないよう、日陰作っておきます？」
「違うっす！」
「そうよ、落ちただけよ！」
　作戦は失敗だ！
「向こうも楽しそうね」
　事情を知らぬまま、玉緒は海へと潜る。
　すいーっと寄って来る魚と共に、海の底から水面を見上げれば、その景色は未知のもの。
（「……すごいわね」）
　それぞれ、海を堪能する灼滅者達。
　誰かが思った。まるでフツーの臨海学校みたい、と。

●スイカバスター、２回戦。
「『暑さ寒さも彼岸まで』と言いますが、まだまだ今は夏休み。２日目もしっかり堪能して行きましょう」
　明けて、次の日。昨夜はダンスなど披露したペーニャが、マイペースに告げる。
「宿題は……まあ、『喉元過ぎれば熱さを忘れる』というじゃありませんか♪」
　皆の気持ちを、バーナーズ卿の溜め息が代弁してくれた。
「うん、日焼けどめもばっちり！」
　八千華、準備万端！　日差しと熱波はきつくとも、海はその暑さを洗い流してくれる。
「ぁん、冷たくて気持ちいですねぇ」
　思わずリサの口から、なまめかしい声がもれる。
「ねえ、せっかくだし、スイカ割りしてみない？」
「いいっすね！」
　海から上がったメリーベルとアプリコーゼが今度こそ意気投合していると、かっこかりが、ぶおんとやってくる。
　その荷台的なスペースには、夜宵の確保していたスイカ。
「そのスイカ、使うといいわ……お土産の分はちゃんと取ってあるから……」
「それなら、１つやってみましょうか」
　まずは、玉緒が名乗りを上げた。今度のスイカは動かないので、やりやすい……はず。
　賑やかな時間を経て割られたスイカは、皆で美味しくいただきます。
「ふう、暑さも少しは和らいできたか？」
　空を仰ぐ熱志。後片付けも少しは楽にできそうだ。
「そういえば、軍艦島は……」
　スイカを手に、水平線を見つめる八千華。
　しかし、海は静かで、禍々しい気配は、今のところない。
　この分なら、今年の臨海学校も無事終わりそうである……。

作者：七尾マサムネ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2015年8月26日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 2／キャラが大事にされていた 4
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