臨海学校2015~佐渡ヶ島スイカ割りツアー

    作者:三ノ木咲紀

     連日四十度を超える熱波に襲われている佐渡ヶ島の廃坑奥で、謎の生物がうごめいていた。
     普段は誰もいない廃坑の更に奥。
     スイカのような眷属が、真っ赤な口を小さく開けるとマシンガンのように黒い粒を吐き出した。
     黒い粒が当たった地面は柔らかくなり、岩は割れやすくなる。
     そこへ突進したスイカ眷属が、ガジガジと地面を掘り進んだり体当たりをしたりして掘り進める。
     出た土砂は、口を大きく開けたスイカ眷属が運び出している。
     広げられた坑道は、見る見る間に密林のような植物で覆われていく。
     見事な連携プレーを見せる眷属の数は、いっぱい。
     奥へ。更に奥へ。
     スイカ眷属たちは黙々と、坑道を広げていった。


    「今年の臨海学校は、佐渡ヶ島でスイカ割りや!」
     そう言いながら、くるみは良く冷えたスイカと麦茶を机に置くと、灼滅者達に勧めた。
    「これは切ったスイカやけどな。……北陸の佐渡ヶ島で異常な熱波が発生してな、佐渡金銀山の廃坑が、アガルタの口と化そうとしとんねん」
     アガルタの口とは、三月に行われた軍艦島攻略戦の時、地下に現れた謎の密林洞窟の事だ。
     今は廃坑となっている佐渡ヶ島金銀山が、この謎密林になりつつあるという。
     ダークネスの移動拠点と化した軍艦島の行方は分からなかったが、今は佐渡ヶ島に近づいてきているのかもしれない。
     放っておくと、佐渡ヶ島全体が、第二の軍艦島になってしまう危険性が高い。
    「北陸周辺で発生しとった、ご当地怪人のアフリカン化事件は、これが原因かもしれへんなぁ。皆には、佐渡ヶ島の廃坑を探索して、アガルタの口を作り出している敵を撃破してほしいんやわ」
     戦いの予感に、くるみは眉をひそめたが、すぐに笑顔に戻った。
    「アガルタの口を作っとる敵を灼滅したらな、軍艦島の襲来に備えて、佐渡ヶ島の海岸でキャンプをしたって欲しいんやわ。敵を撃破しても、24時間の間は40度以上の熱波が続くさかい、海水浴にはもってこいや!」
    「どうして、キャンプするんだ?」
     スイカをかじりながら手を挙げる灼滅者に、くるみは頷いた。
    「佐渡ヶ島のアガルタの口が撃破されて、そこに多くの灼滅者が集まっとる事を知れば、軍艦島のダークネス達も計画の失敗を悟って撤退すると思うからや。別にしかめつらしとってもええけど、せっかくやし、楽しめるもんは楽しまんと!」
     廃坑の奥で佐渡ヶ島の移動拠点化をしているのは、スイカ型植物系眷属。
     敵がスイカ型なのは、スイカがアフリカ原産だからだろう。
     佐渡ヶ島の廃坑は無数にあるようなので、探索を行う灼滅者は、それぞれ別々の廃坑を探索することになる。
     坑道奥には、スイカ畑が広がっている。ここで生ったスイカは、一定時間が過ぎるとスイカ眷属となり、穴を掘り進めるために坑道奥へと向かっていく。
     スイカ型眷属は、大きく分けて三種類。
     一種類は、種を吐き出して土を柔らかくする「種マシンガン種」
     ポジションはジャマー。
     一種類は、土を掻き出して掘り進める「シャベル種」
     ポジションはクラッシャー。
     一種類は、土を運搬して整備する「運搬種」
     ポジションはディフェンダー。
     これらが、それぞれ五体ずつ計十五体いる。
    「数は多いけど、そんなに強くはあらへんで。皆は廃坑脇の作業用通路から侵入して、一番奥のスイカ畑まで眷属を倒しながら進んだってや。このスイカ型眷属を全滅させたら、坑道のアガルタの口化を阻止することができるさかい、皆頑張ってや!」
     ちなみに、眷属化する前のスイカは普通のスイカなので、食べることもできる。
    「このスイカ、甘くて美味しいさかい、坑道で眷属スイカ割りした後は浜辺で甘いスイカ割りするんもまた楽しいで! アガルタの口を制圧したら、皆で精一杯、夏を楽しんで来たってや!」
     くるみはにかっと笑うと、親指を立てた。


    参加者
    天津・麻羅(神・d00345)
    草那岐・勇介(舞台風・d02601)
    ミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802)
    狩家・利戈(無領無民の王・d15666)
    物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)
    文月・綾乃(蒼い月・d31827)
    ジャンマリー・ルヴェリエ(愛と弾丸のディローザルージュ・d34972)
    神無月・吉良(闇を駆ける古の白銀の獣・d34974)

    ■リプレイ

    ●坑道の昼
     狭い側道を抜けると、スイカがたくさん浮いていた。
     連携しながら坑道を掘り進めるスイカ型眷属に、ミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802)は小さく首を傾げた。
    「ここがアガルタの口化しようとしているらしいですが、何故スイカが?」
    「はてさて、先触れとして変な眷族が沸くもんだな」
     むしろ感心したように、物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)は大きく頷いた。
    「お化け南瓜の西瓜版ってどんなの?」
     ミルフィの隣に出た草那岐・勇介(舞台風・d02601)が、スイカ型眷属を目の当たりにして小さく眉をひそめた。
     大きなスイカに劇画調の目鼻が付き、ぱかっと割れたリアルな口からはスイカの果実と種がありありと見える。
     想像と違うスイカ型眷属に、勇介は思わず凹んだ。
    「……実物はキモかった」
    「……キモいな」
     勇介の声と重なるように、神無月・吉良(闇を駆ける古の白銀の獣・d34974)もまた一言漏らした。
    「動くスイカはクラブで見たことあるけど、こいつらはキモイな……」
    「オ~ゥ、これはキモチワルイデスネ! 知り合いにもスイカは居ますが比じゃないデェス! 即刻永遠にAdieuデェス!」
     スイカ型眷属を見た瞬間飛び出したジャンマリー・ルヴェリエ(愛と弾丸のディローザルージュ・d34972)の感想に、皆頷く。
     灼滅者達の声が聞こえたのか、スイカ型眷属は一斉に振り返った。
     そこへ、人影が躍り出た。
    「ひゃっはー! スイカ狩りじゃー!」
     スイカ型眷属が動き出すよりも早く、狩家・利戈(無領無民の王・d15666)がトラウナックルを放った。
     最前列にいたシャベル種が、景気のいい音を立てて割れて消える。
     利戈の攻撃に敵意ありと感じたスイカ型眷属達は、広く展開すると一斉に襲いかかってきた。
     わらわらと飛びかかってくるスイカ型眷属達を迎え撃つように、氷の嵐が巻き起こった。
    「ほれほれ、スイカども。ちったぁクールダウンしようぜ」
     暦生が放ったフリージングデスに、前衛のスイカ型眷属が凍り付く。
     氷の壁をすり抜けるように飛び出してきた種マシンガン種が、一斉に種を吐き出してきた。
     雨のように降り注ぐ種が、前衛を直撃する。
     五体連続の攻撃は、さすがにダメージが大きい。だが、一撃で倒れるほどではなかった。
    「さて、一体ずつ倒していこうかな!」
     フリージングデスから逃れた運搬種に、文月・綾乃(蒼い月・d31827)のダイダロスベルトがひらめいた。
     白いベルトがシャベル種を包み込み、引き裂こうと迫る。
     そこへ、運搬種が割り込んだ。
     ダイダロスベルトは運搬種を引き裂き、カットスイカとなった運搬種は地面に落ちて消えた。
     運搬種に守られたシャベル種が、全てを食らい尽くすように丸かじりを仕掛けてきた。
     その動きを見逃さなかった。
    「澪央、そっちをお願い!」
     綾乃の声に、ビハインドの澪央が仲間を守るように動く。
     腕に食らいつかれながらも防御を固める澪央に守られた天津・麻羅(神・d00345)がスイカ型眷属にビシっと指を突きつけた。
    「わしの名は天津麻羅、高天原の神(ご当地ヒーロー・自称)なのじゃ! この地の民を誑かす邪神めが、このわしが成敗してやるのじゃっ!」
     麻羅は、きつい目つきでスイカ型眷属を睨んではいるが、どうしても可愛らしくなってしまう。
     そんな麻羅に好機と思ったのか、一匹のシャベル種が突進してきた。
     麻羅が突きつけた指にオーラが宿る。
     ハードボイルドな目で突進するシャベル種に、ビームが放たれた。
    「必殺! 神ビ~ムッ!」
     放たれたビームはシャベル種を貫き、そのままスイカの露となって消えた。
     主に呼応するように、ウイングキャットのメンチがパーカーのフードから飛び出した。
     しっぽのリングが光り、前衛に降り注ぐ。
     種マシンガンでダメージを受けていた前衛の傷が癒え、力を得た吉良が護符揃えを構えた。
     放たれた護符が、飛び出してきたシャベル種を包み、焼き尽くす。
     輻射熱で更に上がった気温に、吉良はペットボトルに手を伸ばした。
    「暑いな……さすがに。冷えピタと水分もって来てて正解だぜ」
    「水分補給、大事デェスね!」
     腰に下げた水運補給用ホルダーから水分を補給しながら、ジャンマリーはクロスグレイブを構えた。
     放たれる氷の砲弾が運搬種を貫き、氷スイカとなって地面に落ちて割れる。
     残った種マシンガン種に、ミルフィはクロスグレイブを構えた。
    「少し早いですが、スイカ割りと参りますわ!」
     アームドクロックワークス:ブレイカーラビットの全砲門から放たれた弾丸が、種マシンガン種を貫く。
     敵味方の状況を判断した勇介は、種マシンガン種に語りかけた。
    「我は語る、不貞を切り刻む六月の花嫁を」
     勇介の語りによって現れた花嫁が、紫陽花のブーケを振るう。
     ブーケから放たれる毒に巻かれた種マシンガン種が、地面に落ちる。
     猛毒の霧を抜けて、土が飛んできた。
     大ダメージにフラフラになりながらも放たれた運搬種の土を受けた綾乃は、土を払うと大きくジャンプした。
    「わしを怒らせたこと、後悔するが良いわ! 食らえ! 神キック!」
     劇画調の顔に向かって放たれたキックが、運搬種を叩き割る。
     最後に残った運搬種に紅蓮斬を放った綾乃は、割れて消えるスイカを見下ろして大きなため息をついた。
    「眷属とはいえ、臨海学校でダークネス倒してこいなんて。本当に色んな意味で凄いよね、この学校」
     綾乃の声に、全員が一斉に頷いた。

    ●臨海学校の昼下がり
     狭い坑道を抜けると、そこは青い海だった。
     真っ青な空に、白い砂浜。燦々と降り注ぐのは、アフリカ並の太陽。
     八月下旬、佐渡島で泳ぐには遅いタイミングだが、アフリカの熱波は局地的に季節を真夏に戻していた。
     学園が借り切った浜辺に、一般人はいない。
     今日のために街で購入した水着姿になった吉良は、日焼け止めを塗ろうと荷物を探した。
     だが、無い。どうやら忘れてしまったらしい。
     赤くなるのは嫌だが、まあ大丈夫だろう。
    「少し泳いでくる」
     仲間に言いおいた吉良は、パーカーを脱ぐと砂浜を海へと駆け出した。
     後で悲惨なことになったのは、言うまでもない。
     ビーチボールを膨らませた綾乃は、砂浜で大きく手を振った。
     澪央も隣で、楽しそうに手を振っている。
    「ねえねえ、皆でビーチバレーしない?」
    「いいですわね! やりましょう!」
     大きく手を振る綾乃に、ミルフィはセクシーなビキニ姿で駆けだした。
     そんなミルフィを見送った麻羅は、事前に準備した食材へ駆け寄った。
     臨海学校期間中に必要な食料は、十分確保済みだ。
     麻羅は、懐中電灯付きのメットを脱ぎながらにんまりと笑った。
     麻羅が想定している事態が起きたら、きっと食糧不足に陥る。
     空腹を我慢するか、食べられない料理を食べるかの二択を迫られた時の対策は万全だ。
    「これで無駄に材料を消費されても、わしだけは空腹に悩まされる事はない!」
     胸を張った麻羅は、ビーチバレーの誘いに明るく振り返った。
     スイカ畑から収穫したスイカをクーラーボックスに入れた利戈は、出てきた坑道の方を改めて見た。
     もうあそこからスイカ型眷属が生まれることはないだろうが、蔦をそのままにしておくのもどうかと思う。
    「勇介、キャンプファイヤー用に蔦狩りに行こうぜ!」
    「行きます! 夜が楽しみですね! ……物部先輩も行きませんか?」
     仮眠用のテントを用意していた暦生は、勇介の誘いに立ち上がった。
    「ま、楽しみのために一肌脱ぐとしようか」
     もう一人の仲間を誘おうと暦生は振り返ったが、声を掛けずに洞窟へと向かった。
     ジャンマリーはエレガントにパラソルを開けると、サングラスにトリコロール柄のビキニタイプの水着姿で寝そべっていた。
     オイルを塗った肌に、夏の太陽が降り注ぐ。
     自慢の肌が小麦色に焼けていく。
    「トレヴィアアン!!」
     酔いしれるような感覚に、ジャンマリーは思わず呟いた。

    ●臨海学校の夕べ
     蔦狩りから帰った利戈は、クーラーボックスからスイカを取り出した。
     氷の中でゆっくり冷やされたスイカは、今が食べ頃だ。
    「スイカ冷えたぜー! 食べよう!」
    「せっかくなら、フルーツポンチも作ろうぜ!」
     海から上がった吉良は、スイカを持参のフルーツ缶と合わせてフルーツポンチを作った。
     スイカの皮をくり抜いて器にしたフルーツポンチは、見た目も涼しげで大好評だ。
    「スイカも、カットしてあったら食べやすくていいね!」
    「塩分補給もな!」
     カットスイカに刺さったピックに手を伸ばした綾乃に、吉良は塩を勧めた。
     塩味の効いたスイカを堪能する綾乃の前に、グラスが置かれた。
    「お茶の準備をしてきたので、どうぞ!」
     勇介はスイカやライチの薫りがする麦茶を皆に振る舞った。
     クーラーボックスの氷と薬缶のお湯で、いつでもアイスティーも淹れられる。
    「麦茶か……」
     少し複雑そうな表情で出されたお茶を飲んだ暦生は、予想外の味に目を見開いた。
    「これは?」
    「それは、オルヅォっていう麦茶なんです」
    「アイスコーヒーにしか思えないぞ」
    「ちょっと特殊な麦茶なんですよ」
     気配りの行き届いた勇介のお茶は、フルーツポンチと一緒に遊び疲れた体を優しく癒していった。
     
     歓談の時が過ぎ、そろそろ夕食の支度を始める時が来てしまった。
     ジャンマリーは持参した食材をテーブルに並べると、肉や野菜を丁度良い大きさに切り分け始めた。
     Tシャツにハーフパンツのラフな格好のジャンマリーに、勇介は駆け寄った。
    「ルヴェリエ先輩、料理手伝わせてください!」
    「じゃあ、そこの肉や野菜を串に刺してチョウダイ!」
    「オレは、焼きそばの準備をしようかな」
     吉良は手際よく野菜を刻むと、肉と一緒に炒め始めた。
     肉を串に刺していた勇介は、吉良の手つきに目を見張った。
    「うわぁ、美味しそう! 俺もそういうの、できるようになりたいから、勉強したいな」
     手元が留守になった勇介が落としかけた野菜を受け止めたジャンマリーは、勇介を諭すように手渡した。
    「慌てずゆっくり刺しまショウ! 食材は逃げませんヨ!」
    「はあい」
     少し肩をすくめた勇介は、受け取った野菜を串に刺した。
     楽しげな様子を見ていたミルフィは、スッと立ち上がると拳を握りしめた。
    「夕食は、わたくしも腕を腕を振るいますわ♪」
     ミルフィの声に、一瞬緊張が走る。
     ヘラと菜箸を置いた吉良が、できた焼きそばを保温するとミルフィに手伝いを申し出た。
    「オレも手伝うよ」
     暴走阻止のために。
    「ワタシも手伝うわ」
     暴走阻止のために。
     下ごしらえを終えたジャンマリーもまた、ミルフィのキッチンに向かった。
    「ありがとう~! 新鮮な海の幸を使ったシーフードカレーなど、如何ですかしら♪」
     ミルフィが機嫌良くシーフードカレーを作り始めて小一時間後。
     料理の参考にさせてもらおうとカレー作りを見守っていた綾乃は、できあがった料理を見てミルフィを恐る恐る振り返った。
    「……ミルフィちゃん、一応聞くけど、それは何を作ってるのかな?」
    「シーフードカレーですわ♪」
     吉良とジャンマリーが暴走阻止したにも関わらず、できあがったのはカレーのような、何か別のものだった。
     闇よりドス黒く染まったルーに、クリーチャーの如く変貌した具の魚介類。
     どう調理したのかは分からないが、吉良とジャンマリーは諦め顔で首を振っている。
    「勇介様、綾乃様、ご試食いかがですか?」
    「全力拒否っ!」
    「え、遠慮しておくよ」
     腕をバッテンにして拒否する勇介と、制作過程を見たために断固拒否する綾乃。
     二人の態度に、ミルフィは少し寂しそうに首を傾げた。
    「そうですか? 美味しゅうございますのに……」
     しゅんとしてしまったミルフィに、利戈は一歩進み出た。
    「まず自分で食べてみて、無事だったら試食してもいいぜ」
    「そうですね。出された料理は、残さず食べましょう」
     利戈と暦生の申し出に、ミルフィはぱあっと表情を明るくした。
    「かしこまりました。……うん♪ 良い出来ですわ♪」
     シーフードカレーを美味しそうに食べるミルフィに、利戈と暦生はスプーンを手に取った。
    「ちっ! 致し方ない、味見して進ぜよう」
    「見た目と味は、イコールではない、ということですね」
     皿に盛られたカレーを、二人は同時に口に運んだ。
    「美味しいでしょう♪ ……って、あら?」
     一口で倒れ伏した二人を見て、ミルフィは不思議そうに首を傾げた。
     この事態を予期していた麻羅は、二人を介抱すると水とスイカを差し出した。
    「ミルフィが料理するときはな、水と食料は余分に持ち込むのじゃ」
    「スイカ、うっめぇ」
     口直しに食べたスイカは、今までで一番美味しく感じる。
    「こ、コーヒーを……」
    「物部様、まだ残ってますわよ?」
     にっこり笑うミルフィに、暦生は天を仰いだ。

    ●臨海学校の夜
    「ふははは! 燃えろ燃えろー!」
     天を焦がすようなキャンプファイヤーに、利戈の声が響いた。
     ハイテンションに蔦を投げ込む利戈達を見守りながら、暦生はコーヒーを淹れた。
     決死の思いで完食したカレーのダメージが、まだ抜けきらない。
     皆の騒ぐ声を聞きながら、淹れたての美味しいコーヒーに人心地つく。
     見上げた空は晴れ渡り、満天の星空が見える。
    「……ま、騒ぐにしろ星を眺めるにしろ、天気がいいと楽しいもんだなぁ」
     暦生は楽しそうに、にぎやかなキャンプファイヤーを見守った。

     全力で楽しんだ臨海学校の夜も更け、寝静まった深夜。
     勇介はテントをそっと抜け出すと、静かな浜辺へ向かった。
     誰もいない浜辺で、すれ違ってしまった大事な親戚を想う。
    「早く仲直りしないと」
     人知れず吐き出された焦りと寂しさを、波の音が静かに飲み込んでいった。

    作者:三ノ木咲紀 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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