臨海学校2015~えきぞちっくスイカ割りアクション

    作者:のらむ


     時刻は午後2時過ぎ。場所は新潟県、佐渡ヶ島。
     40度越えという冗談みたいな暑さの中、とあるじじいとその孫が釣竿を構えてとある堤防に突っ立っていた。
    「あつい……何なんじゃこの暑さは。これじゃあ海の魚まで茹であがってしまうわい」
    「顔真っ赤だよじいちゃん、大丈夫? 魚が茹で上がる前にじいちゃんが茹でタコになっちゃうよ」
     心配そうに言った孫はグイッと竿を引っ張り、そこそこデカい魚を釣り上げバケツに入れた。
    「ふ……おじいちゃんはまだ大丈夫じゃ、我が愛しき孫よ。スポドリの備蓄もまだある……今日は朝からここにいるというのにまだ一匹も釣れておらん。釣り歴25年のこのワシが、ボウズのまま家に帰れんわい!」
    「僕はもう10匹釣ったけどね!」
     孫はそう言って竿を引っ張り、11匹目を釣り上げた。
    「…………愛しき孫よ」
    「なに? おじいちゃん」
    「おじいちゃんと釣り竿交換してみんか」
    「やだよ」
     12匹目を釣り上げた孫は、真顔でそう返した。
    「………………愛しき孫よ」
    「なに? おじいちゃん。釣り竿は絶対交換しないよ?」
    「いや、そうでなくての……あまりに暇じゃから、この間近所の高田さんから聞いた面白い話を聞かせてあげようと思ったんじゃ」
    「僕はじいちゃんみたいに暇してないけど、どんな話なの?」
    「…………」
     13匹目を釣り上げた孫を死んだ目で眺め、じじいは咳払い1つして語り始める。
    「この佐渡ヶ島には、かつて多くの鉱石が採れていたという事を知っておるか?」
    「佐渡金銀山って奴だよね? うん、知ってるよ!」
    「うむ。今ではすっかり金も銀も枯渇し、佐渡金銀山も廃坑だらけとなってしまったんじゃが、実はの。最近その廃坑に……出るらしいんじゃよ」
    「あ、また釣れた。あ、えっと? 何が出るの、おじいちゃん?」
    「…………そう、出るんじゃよ。世にも恐ろしき……スイカ型の怪物がの!!」
     じじいが高田さんから聞いた話によると、最近佐渡金銀山の廃坑に、謎のスイカらしき怪物が沢山現れているらしい。
    「スイカが動き回るようになるとは、やはりこれも地球温暖化の影響かのう……ワシの竿に魚が全く引っかからんのもその影響に違いあるまい……」
    「スイカはどうやっても歩かないし、おじいちゃんが釣り下手なのも地球温暖化のせいじゃないよ? ……あ、おじいちゃんの釣り竿が動いた」
    「なんじゃとぉぉ!!」
    「ごめん嘘」
     そうして暑い夏の日は過ぎていく。


    「アガルタの口。例の軍艦島攻略戦の際、軍艦島の地下に突如として出現したこの洞窟の事を、皆さん覚えているでしょうか」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)はそう切り出すと、赤いファイルを開き説明を始める。
    「実は今、北陸の佐渡ヶ島に異常な熱波が発生しています。その影響か、佐渡金銀山の多くの廃坑がアガルタの口と化そうとしているのです」
     この事件を受け、今年の臨海学校は佐渡島で開かれる事になったと、急遽決まったらしい。
    「異常な熱波といえば、ご当地怪人のアフリカン化事件も思い起こさせます。もしかするとアフリカンパンサーを乗せた軍艦島が、佐渡ヶ島に接近しているのかもしれません。というか、私はそうだと思います」
     このままでは佐渡ヶ島が、第二の軍艦島となってしまうかもしれない。
    「皆さんには佐渡ヶ島の廃坑を探索し、アガルタの口を作り出している敵を撃破、その後軍艦島の襲来に備え、海岸でキャンプを行って欲しいのです」
     佐渡ヶ島のアガルタの口が撃破され、佐渡島に多くの灼滅者達が集まっている事をしれば、軍艦島の勢力は計画の失敗を悟り撤退していくだろうと、ウィラは説明する。
    「なにはともあれまずはアガルタの口を制圧し、その後臨海学校を楽しみつつキャンプして下さい」
     ウィラの説明によると、アガルタの口と化した廃坑内には、スイカ型の植物が多数存在しているらしい。
    「何故かしりませんが廃坑内にはスイカ畑が広がっていて、そこで成長したスイカが眷属と化している様です……そういえば、スイカはアフリカ原産らしいですね」
     スイカ型眷属はスイカに目と口をつけてフワフワと浮いている様な眷属で、一体では滅茶苦茶弱いが数が多いらしい。
    「恐らく皆さんで普通に戦えば負ける様な相手ではありません。糞暑い所で臨海学校を過ごさなければならなくなった憂さを晴らす勢いで、思いきり格好つけてスイカを叩き割ってきてください」
     スイカ型眷属はふわっと飛んできて噛みついてくる攻撃や、黑い種をマシンガンの様に飛ばしてくる攻撃、身体を超高速回転させて突っ込んでくる攻撃を放ってくるらしい。
    「廃坑内のスイカ共を全て蹴散らせば、廃校のアガルタの口化を阻止出来、24時間後には気温も元通りです……あ、ちなみに眷属化してないスイカは普通に食べれるみたいですから、勝手に持ってっても大丈夫ですよ。すごく甘くて美味しいらしいです」
     そこまでの説明を終え、ウィラはファイルをパタンと閉じた。
    「説明は以上です。佐渡ヶ島は40度を超える熱波に包まれていますが、まあ灼滅者の皆さんなら熱中症になって倒れるような事は無いでしょう。一応水分補給はこまめに」
     他に何かなかったかと、ウィラは首を捻る。
    「あとはそうですね……海水の温度はそこまで上昇していないですから、普通に海水浴も楽しめます。花火やスイカ割りももちろん出来ますし、皆が泳いでいる所を避ければ釣りも出来るかもしれません。まあ、要するに何が言いたいかというと…………お気をつけて。そして、楽しんできてください」


    参加者
    鹿嵐・忍尽(現の闇霞・d01338)
    英・蓮次(凡カラー・d06922)
    鳳・紗夜(大学生シャドウハンター・d08068)
    幸宮・新(二律背反のリビングデッド・d17469)
    システィナ・バーンシュタイン(罪深き追風・d19975)
    高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)
    静守・マロン(シズナ様の永遠従者・d31456)
    ロベリア・エカルラート(御伽噺の囚人・d34124)

    ■リプレイ


     この日臨海学校の為に訪れた多くの灼滅者達が、佐渡ヶ島に上陸した。
     そして同じチームとなった8人の灼滅者達は糞暑い坑道内を突き進み、なんやかんやでスイカ畑まで辿り着いたのだった。
    「おぉ、ほんとにスイカが浮いてるよ……眷属にもダークネスにも、割と食べられそうなのっているよね。ピンクハートちゃんとか絶対コリコリしておいしいと思うんだよ」
    「いや、さすがに眷属を食べる勇気はないかな、アタシは……生臭そうだし。ねえ、本当にあれ食べるの? 普通のスイカならちゃんと拾っておいたんだけど……」
    「むしろあれを食べる為に来たみたいなとこあるからね。大丈夫だよきっと。普通のスイカも食べるし。あれを食べた位じゃ心身に影響は出ないと僕は僕を信じてるから!!」
     幸宮・新(二律背反のリビングデッド・d17469)とロベリア・エカルラート(御伽噺の囚人・d34124)がそんな事を話してる間に、坑道の奥でフワフワ浮いてるスイカ共が灼滅者達に近づいてくる。
    「廃坑内で甘いスイカが育つとは、不思議な話でござるな……まあ、とにもかくにもまずはスイカ退治。成敗にござる」
     鹿嵐・忍尽(現の闇霞・d01338)はスレイヤーカードを解放すると、両手に構えたリングスラッシャーを器用にクルクルと回し始める。
    「忍びらしく攻めるでござるよ、土筆袴」
    「おん!」
     忍尽の呼びかけに霊犬『土筆袴』は応え、忍尽と共に行動の闇に消える。
     すると闇に紛れ死角に回り込んだ土筆袴と忍尽が次々と鋭い斬撃を放ち、まるでひとりでに割れたかの様にスイカたちは両断されていった。
    「ふむ、潔い程弱いでござるな。さあガンガン攻めるでござるよ」
    「忍尽に続くぜーっ! こんな奴らさくーっと倒して海で遊ぼー!!」
     とにかく元気いっぱいの高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)は弓を構えると、大量の弓を番えフワフワと漂うスイカたちに狙いを定める。
    「レッツシューティングゲーム! ……ここだー!!」
     そして麦が放った大量の矢が降り注ぎ、次々とスイカたちを貫いていく。
    「よっし全弾命中! 次は誰が出る?」
    「それじゃあボクが。佐渡ヶ島をダークネスの巣窟にしない為にも頑張らないとね。味見もしてみたいし」
     システィナ・バーンシュタイン(罪深き追風・d19975)はマスケットライフル型のガンナイフを構えると、スイカ共に狙いを定め静かに引き金を引いていく。
     放たれた重く正確な銃撃は、スイカ共を次々と弾けさせる。
    「的としては結構優秀かもね。……っと、後ろから来たか」
     射撃中に背後から迫る気配を感じ取ったシスティナは咄嗟に振り返り、マスケットライフルを薙ぎ払う。
     そして銃身に取り付けられた銃剣から斬撃が放たれ、スイカは見事に真っ二つになったのだった。
    「よし、どんどん行こうか。でも全部は倒しきらない様気をつけなきゃね」
     英・蓮次(凡カラー・d06922)はそう言うとエアシューズを駆動させ、眷属達の群れの中心に突撃する。
     同時にスイカ共が蓮次に向けて種マシンガンを放つが、蓮次はヒラリヒラリと回避し攻撃を仕掛ける。
    「残念、そう簡単に当たってあげないよ」
     そして放たれた強烈な回し蹴りが、スイカ達を次々と壁に叩き飛ばし潰していった。
    「まあ、こんな感じかな。さ、次は誰かな?」
    「それじゃあ僕が、いい感じにスイカを爆散させてやろうかな!」
     新は有刺鉄線まみれの角材を手に、スイカ達に飛び掛かる。
    「まずは一体、ついでにもう一体! 更にそこからおまけでドン!」
     新はスイカを叩き潰し、フルスイングして砕き、魔力を流し込み爆発四散させた。
    「なんか今日は調子がいいから、芸術的なカットが出来そうだ」
     新は呟き片手を突きだすと、そこから放たれた風の刃がスイカ眷属を切り刻み、何故か可愛らしいうさぎりんご形に切り分けられていた。
     そしてこのスイカ討伐には、『TG研』の面々も参加していた。
    「灼滅者、仮面スイカー! 爆誕にして参上ですよ……さぁ悪に染まった悲しいスイカ共……! かかってきなさい……! あといい年こいてって禁句は絶対に言わないように……仮面スイカーとの約束です……」
    「大丈夫ですよ、紅羽部長。まだ一応、未成年なんですから…………はい」
     くり抜いたスイカを被りポーズを決めた流希に、良太がそう応えた。若干目を逸らしつつ。
    「流希兄ちゃんが仮面スイカ―なら、オレはダルマ仮面に乗ってダルマ仮面ラ…………あ。秋山さんゴメンナサイ」
    「いえ、まあこの程度は想定内です……TG研のサポートはやる事が多くて大変ですね」
     危ないボケをかまそうとしていた登を窘めつつ、清美はしっかりとスイカを退治していた。
    「こんなに倒してもまだ沢山いるわね……一気に数を減らしてしまいましょう」
     鳳・紗夜(大学生シャドウハンター・d08068)はそう言うとリングスラッシャーを分裂させ、一気に敵の密集地帯へ投擲する。
     しっかりと狙いを定め紗夜が放った輪は次々とスイカの顔面に突き刺さり、綺麗に両断されていった。
    「こんな所ね……っと。不意打ちは良くないわよ、スイカ眷属さん」
     紗夜は横から強襲を仕掛けてきたスイカに向けて咄嗟に鋼糸を伸ばすと、網の様に絡め取り縛り上げる。
    「捕まえた。……こうしてると、つい遊んでみたくなっちゃうわね」
     紗夜は微笑むと糸で絡めたスイカをブンブンとヨーヨーの様に振り回し、集まっていたスイカ達に投げ当てて叩き潰した。
    「臨海学校は臨海学校で気兼ねなく楽しみたかったんだけど……でも、軍艦島が絡んでるとなるとそうも言ってられないね。早く終わらせて海に行こうね」
     ロベリアは翠と金で装飾された杖、『ル・トレッフル』を構え、その先端に己の魔力を込めていく。
     その直後、ロベリアが放った巨大な雷が、スイカを丸ごと焼き焦がした。
    「集めておいたスイカは避けといて正解だったかな。本当に弱いけど数が多いから厄介だね」
     ロベリアはそう言い、杖をスイカ眷属に向ける。
     すると足元の影が茨の様な形に変形し、スイカ達を次々と襲い切り刻んでいくのだった。
    「ここまで大量のスイカがいたとは……まともに食べられないのがもったいないくらいである。とはいえ変な穴を造らせる訳にはいかないであるからな! シズナ様、一緒に頑張るである!」
     静守・マロン(シズナ様の永遠従者・d31456)は盾を構えると、ビハインドの『シズナ』と共に眷属に突撃する。
    「シズナ様、合わせるであるよ!」
     マロンはスイカの真下に潜り込むと盾を振るい、スイカを高く打ち上げる。
     直後シズナがレイピアによる刺突を繰り出し、スイカを串刺しにして灼滅した。
     更に攻撃を続けようと、シズナは巨大な偽翼を羽ばたかせ、そこから放った霊力の衝撃波で一体のスイカをマロンに向けて弾き飛ばす。
    「今度はシズナ様からのパスであるな……それに応えないわけにはいかないのである!」
     片腕を獣化させたマロンは一気に爪を振るい、飛ばされてきたスイカをズタズタに引き裂いたのだった。
     これで残るスイカは数体といったその時、ズズズと地面から人間サイズのスイカが姿を現した。
    「何であるか、あれは……いわゆるボスという奴であるか? ならば全員で一気に叩き潰すのみであるよ!」
     マロンがそう投げかけ、灼滅者達はデカいスイカに一斉攻撃を仕掛けた。
    「まずはいくであるよ!」
     マロンが霊力の結界でデカスイカの動きを封じ、
    「デカイだけでそう強くはないわね」
     ロベリアが放った杖の打撃がデカスイカを思いきり吹き飛ばす。
    「もっと勢いをつけるよ」
     蓮次が跳び蹴りでスイカを更に吹き飛ばすと、
    「全部切り刻んであげましょう」
     紗夜が洞窟内に仕込んでいた糸を操り、全身を深く斬りつけた。
    「大きな的だ……絶対に外さない」
     更にシスティナが放った一発の弾丸が貫通し、デカスイカは更なる傷を負った。
    「よーし麦、例のあれ、やっちゃおう!」
    「了解! 合わせるよー!」
     新と麦は二手に分かれて駆け出すと、ほぼ同時に飛び出した。
     新は激しい雷を纏わせた蹴りを、麦はご当地の力宿りし重いジャンプキックを放ち、2つの蹴りによってデカスイカはグシャリと挟み潰された。
     次の瞬間、デカスイカの身体が内側から勢いよく破裂し、瞬く間に消滅していくのだった。
    「灼滅完了、でござるな」
     爆発を引きおこした張本人忍尽が、満足げに呟いた。


    「という訳で、これが生け捕りにしたスイカ眷属にござる。地味に噛みついてきて痛いから早い所食すのが良いでござろう」
    「どういう訳か分からないけどよくあの状況でそんな事出来たね。……みんな、お腹壊さないでよ?」
     忍尽が生け捕りにしたスイカをポンと投げ、ロベリアがやや遠巻きに試食組の様子を見守る。
    「それじゃあボクが押さえておくから、ナイフ入れちゃって。美味しいなら、ボクもちょっと食べてみようかな」
    「よし、皆準備はいいね? ……それじゃ、いただきます」
     システィナが押さえているスイカを新がスパっと解体し、すぐさま希望者に投げ渡す。
    「はいはーい! 一夏の思い出に食べるよー!」
    「俺ももちろん食べるよ」
     眷属の破片を受け取った麦と蓮次、それと新ががぶりと眷属に歯を突き立てた。
    「うげ」
    「げぇっ」
    「ぐほぁ……気持ち悪い」
     生暖かく何か生臭い。果肉もぬめっとしてそれでいて硬く全く噛めない。
     経験した事の無い眷属味に3人は呻きをあげ、破片を投げ捨て地に膝を付いた。
    「何という一夏の思い出……」
    「早く口直しがしたい……」
    「誰だよ眷属食おうとか言い出したサイコ野郎は……でもピンクハートちゃんはいつか食う……」
     そんな3人の様子を見て、他の面々は食わなくて良かったと心から思った。本当に思った。
    「いきなり試さなくてよかったわ…………当然といえば当然よね」
    「やはりスイカは普通が一番という事であるな!」
     紗夜とマロンがいい感じに纏め、一同は普通のスイカを持って海岸へ向かうのだった。


     海岸に到着した灼滅者一行。その中でもやはり麦が率先してクラスの仲間も交えスイカ割りを楽しんでいた。
    「右……あ、行き過ぎ、左、いやもう少し右!!」
    「む……中々難しいな。……ここか!」
     麦の指示でスイカの位置を探っていた日和は勢いよく棒を振り降ろし、綺麗にスイカを叩き割った。
    「いえーいおめでとう! 成功した天草ちゃんには大きいやつあげるよー! 鳳ちゃんには次に大きいやつー!」
    「ありがとう。本当にサウナみたいな暑さだけど、こういうのも偶には楽しいわね」
     麦は日和と紗夜にスイカを一切れずつ手渡し、紗夜が静かに微笑んだ。
    「美味しいスイカも食べたし……次はビーチボールでもするか?」
    「ビーチボールあるの? 準備いい! やろやろー! 鳳ちゃんもフィンセントくんも上寺くんも! 一緒にやろう!」
    「おっと、ところで私の胸はビーチボールではないからな?」
     そしてその隣では、『古ノルド研究会』の3人がスイカ割りをしていた。
    「さてさて、水着にも着替えたし、早速スイカ割りだね! 目隠しは誰が嵌める?」
    「スイカ割り……自慢じゃないですが私、方向感覚には自信があるんです。悪い意味で。目隠し無しでやりませんか? あ、やっぱり駄目です?」
     ロベリアの呼びかけに悠二がそう応え、なんやかんやで結局悠二が目隠し役となった、が。
    「(あ、これ駄目な奴ですね)」
     結果悠二はボロボロの状態でギブアップ。
    「いやー、さっきのは酷かったね。次は透流ちゃん、やってみる?」
    「そうだね……私は悠二さんの様な失態はみせないよ」
     やや自慢げに語り目隠しを付ける透流。
     結果。
    「そこ……!」
     透流は全然関係ない場所を凄い勢いで叩き、砂を思いっきりバサァと撒き散らしまくっていた。
    「いやまぁ、こんな事もあるよ、うん。それよりスイカ食べよう、スイカ……私、スイカに種が無ければみんなが幸せだと思う」
    「まあ砂撒き散らし事件についてはおいといて、やっぱり美味しいね。来年も来れるといいな」
     透流とロベリアはそんな会話を交わし、3人は仲良くスイカを食べるのだった。
    「魅羅とリオンはサポートに来てくれたんだね? ありがと。2人も一緒にスイカ割りしよ?」
    「そうですね、スイカ割り楽しそうです! 魅羅さんやってみますか?」
    「お? ミラがスイカ割る人やるノ? イイよ! 頑張る―!」
     システィナは海岸でリオンと魅羅に合流し、リオンは魅羅に目隠しをつけてあげた。
    「魅羅さん、そっちじゃないですよー。(システィナさんは)右側です! そうですっ! そこですーーっ!!」
    「……え、あれ!? リオンはなに楽しそうにボクの方に指示だし、って、魅羅……! スイカはこっちじゃないよ!」
     リオンの誘導に流された魅羅が思いきり棒を振り降ろし、システィナは奇跡の回避に成功する。
    「わー!! ミラってばシスティナさん狙ってた!? もー! リオンちゃんたまにお茶目さんなんダ!」
    「まあまあ、いいじゃないですか、時間の許す限り遊びましょ♪」
    「もう……しょうがないなぁ……まぁ良いよ。スイカ綺麗に割れたっぽいし皆で食べよ? オイシイらしいよ!」
     こうして3人も楽しい時間を過ごしたのだった。
    「いやぁ、さっきまで散々スイカを叩き潰してたのに、案外飽きないもんだね。あ、惜しいなそこもう少し右。やっぱり嘘左だよ」
    「騙されるでないであるよ。嘘というのが嘘で本当は右である。……と思ったら左だったである。駄目であるな、やはり先程のシズナ様の完璧なスイカ割りには程遠いである」
     新とマロンがスイカを頬張りつつ、忍尽に割と適当な指示を出していく。
    「新殿、マロン殿、もう少し信憑性のある情報をでござるな……くっ、当たらないでござる。かくなる上は……」
     忍尽はスッと棒を手放すと手刀を振るい、本気の一撃でスイカを真っ二つにした。
    「…………ハッ! いかんでござる、拙者はまだまだ修行が足りぬでござるな……ちょっと土筆袴と一緒に海に修行に行ってくるでござる」
     忍尽はそう言って駆け出し、凄い勢いで海に潜って行った。
    「なんか知らないけど大変そうだなあ……あ、そういえば夕飯の準備手伝わなきゃ。紗夜だけに頼る訳にもいかないしね」
     スイカを食べきった新は思い出したように顔を上げると、夕食の準備を進めている紗夜の元まで向かっていった。
    「シズナ様。お嬢様達も生きていたらこうやって過ごしてたであるかな……お嬢様達の分まで吾輩が楽しんで見せるであるよ! ……おーい! 吾輩も手伝うであるよー!」
     マロンはシズナに語りかけるように呟くと、新に続いて夕食の手伝いに走るのだった。


     そして夕食。キャンプに集合した灼滅者達は、忍尽が修行で獲ってきた魚介と紗夜の料理が合わさり出来たシーフードカレーを食べていた。
    「みんな、味はどうかしら? 食べ終わったらデザートのスイカゼリーもあるわよ」
    「カレーだイエーイ! もちろん凄く美味しいよ鳳ちゃん! というかこの短時間でそこまで作っちゃうのは凄いね!」
     紗夜と麦が話しつつ、カレーを食べ進めていく。
    「やっぱり海で食べるのは格別だよね」
    「確かに。これぞ臨海学校といった感じがするでござるな」
     システィナと忍尽もまた、結構な勢いでカレーを食べていた。
    「吾輩も手伝ったであるよ! 中々貴重な体験だったである!」
    「やっぱり眷属とは比べ物にならない美味しさだね。あれと比べるのもどうかと思うけど」
     マロンとカレーを絶賛し、一同は賑やかに食事を進めていく。
    「そういえば蓮次君、しばらく姿が見えなかったけど、何処にいってたの?」
    「え? ああ……明日の為に良い泳ぎスポットを探してたんだよ」
    「明日?」
    「うん、明日」
     そして賑やかな食事を終えると、明日に備え一同は就寝する。


     翌日。昨日と同じく灼滅者達は遊びまくっていたが、その輪からしばらく離れた岩場近くの海で、蓮次と夏蓮はシュノーケリングで遊んでいた。
    「佐渡ヶ島の海に入るのは初めて! 色々な魚がいるのね! きっと海のことは蓮次さんが詳しいだろうから、いろんなこと教えて欲しいな」
    「うん、この辺りの魚は本当に種類が多いけど、出来る限り教えてあげるね」
     2人は夢中になって海に潜り、鮮やかな魚たちを見ては蓮次が夏蓮にどんな魚かを楽しげに教えていく。
    「そうそう、海中から水面も見上げてみて、滅茶苦茶綺麗だから!」
    「うん、一緒に見よう!」
     蓮次は夏蓮の手を取ると一緒に水面に潜り、美しい水面の青を眺める。
    「本当に綺麗…………蓮次さん。ずっと前から約束してた一緒に海に行く約束、叶ってよかった!」
    「うん、俺も一緒に海の中を見たいってずっと思ってたから、嬉しいな」
     楽しい時間はあっという間に過ぎていく。


     そして臨海学校も終わりの時間がやってくる。
     佐渡ヶ島を包んでいた以上の熱波も収まり、ついに正常な気温に戻っていった。
     佐渡ヶ島のアガルタの口は完全に制覇され、佐渡島を第二の拠点にするという軍艦島勢力の謀略は未然に防がれた。
     無事に目的を達し、臨海学校を楽しんだ灼滅者達は、こうして学園へ帰還していった。
     夏も終わりが近づいているが、秋が過ぎ冬が過ぎ春が過ぎれば、また夏がやってくる。
     次の夏も楽しく過ごせる様にと、灼滅者達は日々のダークネスとの戦いに向け気を引き締めるのだった。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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