熱く燃えて、森を焦がす

    作者:幾夜緋琉

    ●熱く燃えて、森を焦がす
     暑い暑い夏。
     岩手県と青森県の県境辺りにある、とある山。
     この暑さでも、レジャーとしての山登りを楽しみに来る人達もたくさん居る。
    『うーん……暑いけど、すっごく良い景色ねー』
    『ほんとにそうねー。空気も美味しいし♪』
     そんな会話を交わしているのは、登山服に身を包んだ山ガール四人。
     四人は夏休みを利用して、幾つかの山登りを楽しもうと言う事らしい。
     ……しかし、そんな山の中に住まうは……イフリート。
    『グ……ウゥゥォオオ……!!』
     と、地の底から響くような啼き声。
     その呻き声に、山ガール達は。
    『ねぇねぇ、今の啼き声、聞こえた?』
    『うんうん。何だろう……可愛い啼き声だよね♪』
     ……イフリートの啼き声も、彼女達からすれば、可愛い啼き声らしく。
    「こっちかなー? ねぇ、行ってみようよ♪』
     と、その啼き声の元へ、山ガール達は、歩き出してしまうのであった。
     
    「皆さん、お集まり頂けた様ですね? それでは、説明を始めさせて頂きますね」
     と、野々宮・迷宵が、集まった灼滅者達に一礼すると共に、早速今回の依頼について、説明を始める。
    「今回は、岩手と青森の県境にある、とある山に現れたイフリートの灼滅をお願いしたいんです」
    「イフリートは夏の山の中で呻き声を上げながら徘徊していて……どうやらその啼き声を聞いた登山客の方達が、その啼き声に近づいていこう……というのが見えたんです」
    「イフリートと登山客の方達が遭遇すれば、待っているのは間違い無く死。そうならない為に、皆の力を貸して欲しいのです」
    「勿論、皆も知ってるとは思うけど、イフリートは只でさえ手強い敵。それに一般人を護りながら戦わなければならない、となると、厄介さは更に上がると思うけど……でも、きっとみんななら、大丈夫だと思います」
     そして迷宵は、改めてダークネスの詳細についての説明を行う。
    「このイフリートは、やはりその身体に纏った炎から繰り出す攻撃が一番のメインの攻撃手段になるようですね。つまり、常に炎のバッドステータスが叩き込まれる、という事になると思います」
    「更に四足獣の姿形をしているから、森の中と言えどもその四足を活用し、とても素早い動きで皆さんを翻弄してくると思います」
    「それに……先ほども言いました通り、山ガールの女性達が四人います。皆さんがイフリートと遭遇するタイミングとほぼ同時に、彼女達も姿を見せる模様ですので、そちらも注意するようにお願いします」
     そして、最後に迷宵は。
    「何にしても、一般人の彼女達を守る事が、この依頼での一番のポイントになると思う。だからみなさん、気をつけて行ってきてくださいね」
     と、皆に頭を下げて送り出すのであった。


    参加者
    真榮城・結弦(高校生ファイアブラッド・d01731)
    ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)
    水之江・寅綺(薄刃影螂・d02622)
    ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)
    大和・蒼侍(炎を司る蒼き侍・d18704)
    倉丈・姫月(白兎の騎士・d24431)
    宵闇・月夜(なぞる輪郭が狐を描く・d30974)
    蒼上・空(空の上は蒼き夢・d34925)

    ■リプレイ

    ●山の頂きに
     岩手県と青森県の県境に構える、とある山。
     丁度夏休みの期間を使い、レジャーとして、この山登りを楽しみに来る登山客達も多い事だろう。
     ……しかし、そんな山中に現れてしまったのは、イフリート。
    「……うーん。何と言うか、女の子の可愛いって基準が判んないね」
     水之江・寅綺(薄刃影螂・d02622)が苦笑しながら小首をかしげると、真榮城・結弦(高校生ファイアブラッド・d01731)も。
    「そうだね。イフリートの啼き声を可愛いって言う辺り、山を愛するだけあって、気持ちが広いんだろうなぁ」
     と。
     ……そんな二人の言葉に、ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)と、ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)が。
    「……それは、気持ちが広い、と言うんだろうか?」
    「そうですね……深く考えていないだけ、という気がしないでもありませんが。でも、折角登山を楽しまれているのに、イフリートと遭遇とは……お気の毒に、ですね」
     まぁ、確かに……イフリートの咆哮を可愛いというのは、ちょっと違う気がする。
     でも、現に彼女達はその鳴き声に誘われ、その身に危機が迫っている。
    「それにしても、最近一般人が山でイフリートと遭遇する事が多くなっている気がするのぅ? まさか……全体的に山から下りてきているというのは無いじゃろうか……」
     と倉丈・姫月(白兎の騎士・d24431)が憶える不安。
     ……勿論、まだ、想像でしかないけれど、イフリートの事件が増えているような気がしないでもない。
    「そうだよな。こんなところにイフリートが居るなんて……山火事になったらどうするんだか……」
     肩を竦める寅綺に、蒼上・空(空の上は蒼き夢・d34925)と、大和・蒼侍(炎を司る蒼き侍・d18704)が。
    「ままま、そういう子も居るって事を理解した上で対応しなくちゃな! 女の子は俺達が何だこれ、とか思っている物にも可愛いって思ったりするし」
    「……そうだな」
     そして、ヴァンと宵闇・月夜(なぞる輪郭が狐を描く・d30974)が。
    「まあ、犠牲者を出さない為にも頑張りましょうか」
    「そうだな。ネズミ一匹通さない鉄壁の守りを固めて、仲間を支援するとしよう。こういう器用さには結構自信がある方だからな。ま、イフリート相手に通じるかは判らないが、俺のやるべき事をやらせて貰おう」
     そして、ヴォルフが。
    「それじゃ行こうか。出来ればイフリートと彼女達が遭遇する前に逢いたい所だが……どうなるかな」
     と言いつつ、山道に隠された森の小路を使用し、道を切り開き、進むのであった。

    ●可愛き声
     そして山中を、隠された森の小路を使い、急いで登る灼滅者達。
     暫し歩いていると、途中で聞こえてくるのは……。
    『グ、グゥゥオオオ……!!』
     そんな、どう猛なる獣の鳴声。
     その鳴声を聞いた灼滅者達は、一瞬立ち止り……そして、声の鳴る方を察知し、そちらに急ぐ。
     声の具合からは、救いを求めているのか、腹が空いているのかは判らない。
     けれど……その鳴声が可愛いかどうかと言われると……。
    「確かに可愛いかどうかと言うと、ね……まぁ、何にせよ急ごうか」
     と、結弦の言葉に頷き、そして山中を更に急ぐ。
     そして……かなり山の上、イフリートの声が、かなり近づいてくると。
    『ねーねー、こっちだったよねー?』
    『うん、そうだねー。もうちょっと、かなー?』
     と、女性達のしゃべり声が聞こえてくる。
     でも、その喋り声に呼応するように、イフリートの鳴声も。
    『グ、グアアア……!!』
     と。そんな二つの声が、クロスする。
    「……獣の臭い、そして何か焦げたようなこの臭気……来たようじゃのぅ、イフリートが」
    「ああ……その様だね。彼女達も近くに居る。さぁ……守りに向かおう」
     と姫月、ヴォルフが気合いを入れ、急ぎ、その咆哮の元へ急行。
     すると、灼滅者の前に、山ガール達の姿。
    『あれ? ……あの鳴声、なわけないよねー? こんにちわー♪』
     そんな事を言いながら、こちらの方へと歩いてくる山ガール。
     そんな山ガール達の言葉に、空が。
    「お嬢さん方、ここは危ないぜ? 獣の鳴声、聞こえただろう?」
    「その鳴声は本当の獣じゃ。恐らく近くにいるのじゃ。安全な所まで避難するのじゃ」
     その言葉に、山ガール達は、きょとんとしている。
     ……彼女達からすれば、全く以て想定していない事。山で聞こえる獣の鳴声が、そんな危険な存在なんだ、と露として想定していない事だろう。
    『えー……だってだって、可愛い鳴声だったじゃないですかー』
     と、一人がそんな事を呟いた、その瞬間。
    『グ、ガアアア!!』
     木々を裂き、突撃してくるイフリート。
     突然のイフリートの突撃……咄嗟に構え、カバーリングし、その攻撃の弾道を逸らす。
     そして……カバーした彼女達に。
    「野生動物は、無闇に近づくと危険だよ。気をつけないとね? まぁ、貴女達は僕たちが守るから……落ち着いて。ゆっくりでいいから、音を立てずに、下がるんだ」
     できる限りの笑顔で、山ガール達に微笑む寅綺。そして結弦、空、姫月も。
    「そう、僕たちが引きつけるから、頑張って離れるように動いてね」
    「ああ。この場は俺達に任せて避難するようにな?」
    「うむ。安心するのじゃ。我らが護る故、お主等には一切傷つけさせはせん」
     と、山ガールを安心させるよう、言葉を掛けていく。
     そんな言葉と一緒に、蒼侍が殺界形成、ヴァンが魂鎮めの風で、彼女達を畏れ、落ち着かせる。
     ……落ち着いた彼女達を護るように、イフリートとの間に陣を構えると。
    「さぁ、背中は支えよう。存分に剣を振るわれよ。誓いの焔を、この胸に……」
     と、スレイヤーカードを解放する姫月をきっかけに。
    「行くぜ……『Mistral!』」
     空も、次々とスレイヤーカードを解放し、イフリートと対峙する。
     そして、改めてイフリートの姿形を確認。
    (「……今回も外れか……」)
     ……しかし、蒼侍はすぐに気持ちを切り替え。
    「そんなに暴れたいのなら、俺が相手になってやる……掛かってこい」
     と刀を構え、宣戦布告。
    「うむ、お主はただ出会っただけかもしれぬ。されどその破壊衝動のままに暴れる獣の所業は見過ごせぬ。その魂、せめてそこから解放しよう。散華の炎、介錯するのじゃ!」
     と、先陣切った姫月が、スターゲイザーをイフリートの頭上に降り注いでいく。
     その一撃に続けて、後陣を動くヴォルフとヴァン。
    「さて……護りながら、戦うとしようか」
    「そうですね、援護します」
     と頷き合いながら、ヴォルフの斬影刃、ヴァンの黒死斬で、イフリートの炎を切り刻む。
    『グ、ガァアア!!』
     その攻撃に、イフリートは高い咆哮を上げて、威嚇。
     威嚇に続けて、その炎の腕、足を振り回しての攻撃を続けて仕掛けていく。
     そんなイフリートの猛攻を受け止めるは結弦。
     ……そして結弦が受けて居る間に、月夜が速攻で、ダイダロスベルトをかまくら状に展開し、山ガール達を中に入れ、更に結界糸でぐるぐるまきにする。
    「ごめんね、急ごしらえのテントで悪いけど、少し休憩しておいて」
     と優しく声を掛けて、励ます。
     そして寅綺が居合斬りで斬りかかると、彼の霊犬、壬戌も仲間をサポートするように動く。
     更に結弦がクルセイドスラッシュを叩きつけ、蒼侍がシールドバッシュで怒りを付与。
     ……そして空が。
    「さぁ、この一撃を食らえ! 流星キィィック!!」
     と、妖冷弾の一撃を叩き込む。
     一巡し、二巡目。
     山ガールは、完全なるテントの中で護られている……その場を離れなければ、きっと、大丈夫。
    「ある程度、攻撃に集中出来そうだな……」
     と月夜が仲間達に告げて、皆も頷く。
     そして、イフリートへの集中攻撃、開始。
     イフリート自体も、熾烈な単体攻撃と、バッドステータス攻撃で、灼滅者達を殺そうと動き回る。
     1対8で、ほぼ互角の戦闘能力……やはし、そこはダークネス。
     しかし、回復の無いイフリートに対し、回復手段を持つ灼滅者達。
     時間が掛かれば掛かる程、イフリートはジリ貧になり初め……イフリートの咆哮が。
    『グ、ゥォォォォ……』
     と、何処か悲壮感が漂い始める。
     そんなイフリートの動きに、全く容赦する事無く。
    「……イフリートは、全て斬る!」
     先陣切って、刀を振るう蒼侍。
     その一閃に、イフリートの片腕が切り落とされる。そして……続く空が。
    「さぁ、さっさと崩れ墜ちろっ!」
     と、その身体に閃光百裂拳を叩き込んでいく。
     その一撃に、イフリートはバランスを崩す。
     すぐ、立ち上がろうと蠢くのだが、それを待つ間もなく。
    「我が聖剣の導きぞある! インフェルノバンガード!」
     姫月の火炎を纏った突の一閃が、イフリートを突き立て……炎獣は、断末魔の咆哮を上げて、崩れ墜ちるのであった。

    ●山は赤く
    「……ふぅ、灼滅完了かのぅ? 少女達は大丈夫かのぅ?」
     剣をしまう姫月……他の灼滅者達も、スレイヤーカードに再封印。
     ……そして、守りし山ガールの方を振り返る。
     ダイダロスベルトのかまくらの中に居た山ガール達は、大きな怪我も鳴く、無事。
    『ね、ねぇ……な、何だったの、あれは……』
     と、畏れている彼女に、ヴォルフは。
    「あれ、ですか……そうですね。世の中知らないままの方が幸せな事もたくさんあります。これもその一つですよ」
     と笑顔を作り、いいくるめる。そしてヴァン、空も。
    「そうですね。もう怖くはありませんよ。お怪我……も、無い様ですね?」
    「怪我が無いなら何よりさ。さぁて、レディ達。ここは危ないし、下山口まで送るぜ。レディのエスコートは、デキるオトコとしちゃあ当然だしな!」
     びしつ、と指を立ててニコッと微笑む空。
     ……そんな中、蒼侍は、イフリートの亡骸を見ながら。
    「……」
     小さく溜息をつき……さっさと、その場を後にする。
     ……そんな蒼侍の心境を理解し、彼を見送った後、他の灼滅者達は、山ガール達を山の下まで送り届ける。
     そして……彼女達の姿が見えなくなるまで、見送った後。
    「……はぁぁ……こんなにハードなのは、もうコリゴリだ……」
     と、月夜も深い溜息を吐く。
     ……ともあれ、イフリートを倒し、彼女達を守る事も出来た。
     その安堵と達成感に微笑みつつ、灼滅者達も、山を後にするのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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