ジュージューピッグ

    作者:邦見健吾

    「ブーブー」
    「ブーブー」
     山中のキャンプ場に現れた、数匹のブタ。普通のブタと違う点がいくらかあるが、もっとも特徴的なのは胴に装着された2丁のライフルだろう。
    「ブ~……」
    「ブブ~……」
     ブタ達は次々と川に飛び込み、ブタ達は気持ちよさそうな鳴き声を上げた。

    「山中のキャンプ場に、はぐれ眷属のバスターピッグが現れます。放っておくと危険ですので皆さんの手で倒してきてください」
     冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)はそれだけ言うと、自分の仕事はもう終わったとばかりに、用意してきた水ようかんに手を伸ばす。
     キャンプ場はすでに蕗子が手配しており、他の人間がやってくることはない。邪魔になるようなものもなく、周囲のことは気にせず戦うことができる。
     バスターピッグはと小さい個体が4体と、それより強力な大きい個体が1体で、計5体。ビームと体当たりで攻撃してくるが、油断しなければあまり苦戦することなく倒せるだろう。
    「せっかくキャンプ場が使えるので、戦いが終わったらバーベキューなどをしてもいいでしょう。ヒビワレさんを荷物持ちに使ってもかまいません」
    「おいコラ、勝手に人を使うな。てか名前を訓読みすんな」
     蕗子の言葉にすかさず反応する天下井・響我(クラックサウンド・dn0142)。しかし蕗子には文句を言っているものの、言えば手伝いはしてくれるはずだ。
    「泳ぐには深さが足りませんが、川で遊ぶのもいいかもしれません。……バスターピッグは一般人にとって大きな脅威です。必ず撃破してください」


    参加者
    田所・一平(赤鬼・d00748)
    エルメンガルト・ガル(草冠の・d01742)
    アルファリア・ラングリス(蒼光の槍・d02715)
    赤秀・空(ヒカリヘ・d09729)
    南雲・響(マシーナリーヴァンパイア・d12932)
    夏村・守(逆さま厳禁・d28075)
    フリル・インレアン(小学生人狼・d32564)
    藤花・アリス(淡花の守護・d33962)

    ■リプレイ

    ●ブタ(ライフル付き)の避暑
    「ブ~……」
    「ブブ~……」
     眷属も夏の暑さには勝てないのか、バスターピッグ達は川に飛び込んでその体を冷やす。灼滅者達がキャンプ場に足を踏み入れると、気持ちよさそうに水を浴びるバスターピッグの様子が目に入った。
    「招かれざる客、というものですね」
     バスターピッグに装備された2丁のライフルを見て、アルファリア・ラングリス(蒼光の槍・d02715)が流暢な日本語で呟く。せっかくのキャンプシーズン、今回は武蔵坂の手配で人がいないが、本来ならばもっと人が賑わっているはず。人々に危害を及ぼす可能性がある以上、早々に退場してもらいたい。
    「ブ~……」
    (「バスターピッグさん達が気持ちよさそうに水浴びをしています。……とても、気持ちよさそうです」)
     川の流れに揺られ、心地良さそうに目を細めるバスターピッグ。フリル・インレアン(小学生人狼・d32564)はそんなバスターピッグを倒すのは心苦しいと感じるが、ここは心を鬼にしなければ。
    「響我先輩、それこっちでお願いしまーす」
    「おう、わかった」
     夏村・守(逆さま厳禁・d28075)の誘導に従い、響我が持ってきた荷物を下ろした。せっかくの機会なのでバスターピッグを撃破した後バーベキューをすることになっており、この荷物は持参した食材などだ。アルファリアや南雲・響(マシーナリーヴァンパイア・d12932)が肉類を、藤花・アリス(淡花の守護・d33962)が紙皿やコップなど食器を用意し、準備万端といったところか。
    「よっしゃバーベキュー! ……の前に豚退治豚退治っと」
     荷物を戦闘に巻き込まれないところに置き、いざバスターピッグ退治へ。
    「夏だ! キャンプだ! バーベキューだー! そしてお肉は~……現地調達! ヒャッハー、新鮮なお肉が5匹もいやがるぜー!」
     肉(?)を前にして、響はハイテンションモードに突入。もはやバーベキューのことしか頭になく、クロスグレイブをブンブン振り回してやる気満々である。
    「さあさあ、さっさと片付けてお楽しみの時間にしちゃいましょ!」
    「ブブー!」
     バスターピッグ達も川から飛び出し臨戦態勢へ。そして田所・一平(赤鬼・d00748)の号令を皮切りに、ブタとの戦いが始まった。

    ●VSブタの群れ
    「お前らも食べれたらイイんだけどなー。ダークネス……てか眷属って食べれないんだっけ? まー今回はゴメン!」
     エルメンガルト・ガル(草冠の・d01742)は少し外国語訛りのある口調で軽く謝ると、メイド服に巻き付いたダイダロスベルトをほどく。意思持つ帯は矢となって飛び、奥にいる一回り大きなバスターピッグに突き刺さる。意識の問題なのか、エルメンガルドは自然とメイド服を着こなしていた。
     赤秀・空(ヒカリヘ・d09729)は弓に矢を番え、自身のビハインドを射抜く。矢によって覚醒したビハインドは川辺に転がる石を浮かせ、次々とぶつけた。
    「ブタさん、可愛いですけれど……ごめんなさい、です」
     かわいくても危ないんじゃ仕方ない。アリスはギターを爪弾き、切ない旋律をバスターピッグに聞かせる。ウイングキャットのりぼんも肉球で小さいバスターピッグにパンチし、動きを牽制した。
    「ブー!」
    「ブーブー!」
     対するバスターピッグは体の側面に装備したバスターライフルを一斉射。光線が幾重にも重なり、灼滅者達を襲った。
    「させないわよ!」
     しかし一平が自身の体を盾にし、正面から受け止める。
    「バーベキューといったらモツよね! しかもモツがわざわざ出向いてくれてる場所でバーベキューとか無駄が無いわ!」
     白モツは飲み物と豪語する一平は、豚料理の数々を想像して機嫌の良さそうな笑みを浮かべ、纏うオーラを集めて自身を回復させた。ちなみに白モツとは小腸などのホルモンで、モツ鍋やモツ煮なども美味であるが、一般的には飲み物ではない。
    「バーベキューといえば串刺し肉! でもでも下準備の為にまずはお肉を柔らかくしないとね♪」
     攻撃を受けても響のテンションが下がることはない。巨大な十字架をがむしゃらに振り回し、遠心力を乗せた一撃でバスターピッグを吹っ飛ばす。
    「バーベキューが待ってる!」
     守がクロスグレイブに刻まれた碑文に従い詠唱すると、十字架が展開し、大小の砲門が開放される。連射しながら十字架を薙ぎ払い、光の連射でバスターピッグ達を呑み込んだ。
    「遠くの敵ならこちらでしょうか」
     突きが届かないので、アルファリアは槍を横薙ぎに振るって氷柱を放つ。槍の穂先は半月を描き、帯びた妖気が氷の棘となって突き刺さった。
    「ブブー!」
     さらなるバスターピッグの反撃。ボスとみられる大きな個体は銃口の反対側に付いたバーニアで加速し、自身を弾丸に変えて空にぶつけた。
    「回復します」
     すかさずフリルがダイダロスベルトを伸ばしてフォロー。帯は包帯のように巻き付いて傷を癒す。さらに響我がギターをかき鳴らし、活力をもたらすロックサウンドを響かせた。

    ●さらばブタ
    「いただきまーす!」
    「ブーーーーーッ!?」
     エルメンガルトの足元から影が伸び、メイド服型の影がボスへと迫る。影は目前で形を変え、肉食獣のように食らいついた。こうしてブタが一匹、漆黒の影に呑まれて消えた。
    「ブーブー!」
    「ブブブブー!」
     ボスを倒され、群れのバスターピッグは怒り心頭の様子。額に青筋立ててライフルを撃ちまくるが、灼滅者達は構わず攻撃を続ける。
     空が指先から霊力を送り込み、ビハインドを回復。ビハインドは拳でバスターピッグのライフルを殴りつける。アリスはぬいぐるみを抱き締めながら暖かな光を放って仲間のダメージを取り除いた。
    「じっとしててもらうぜ」
     守が祭壇を展開し、自身を中心に結界を構築してバスターピッグを封じ込める。アルファリアは矢のように真っ直ぐに突進し、螺旋描く槍を突き立てて斬り抉った。また一匹、バスターピッグが崩れ落ちる。
    「肉だぁー! 肉をよこせー!」
     活きの良いブタを見せつけられ、食欲は増すばかりだ。響はバベルブレイカーのジェットを起動して加速、至近距離に近づいてどてっ腹に杭をぶち込んだ。
    「ガツ! ハツ! なんこつ! テッポウ! てっちゃん! こぶくろ! ひも!」
     一平はエアシューズで駆け、熱を帯びた蹴りを連打。ブタの肉がジュウジュウと音を立てて焼け、3匹目のバスターピッグが地面に転がった。ちなみに一平が連呼したのはホルモンの種類である
    「ブー!」
     残るブタは2匹。窮地に追い詰められたバスターピッグは鼻息荒く叫びを上げるが、灼滅者の攻勢は止まらない。
    「……」
     空が霊縛手を振りかぶって踏み込むと、ビハインドは合図もなく反対側から回り込み、息をするような連携で挟撃を食らわせた。
    「終わりに、します、です」
     アリスが天に腕をかざし、光り輝く十字架を召喚。十字架の中で乱反射した光が放たれ、無数の光条がブタの群れに降り注いだ。さらに一匹力尽き、残るは一匹に。
    「もうすぐバーベキューだね」
     ダイダロスベルトを刃に変え、エルメンガルトが接近。鋭い一閃でブタを深々と切り裂く。
    「こんがり焼きます……こんがり?」
     自身の発言に首を傾げつつ、フリルが魔導書を開いた。
    「ブゥーーーー!」
     爆撃の魔法が発動し、また肉が焼ける匂いを漂わせながら最後のバスターピッグが消滅した。

    ●ありがとうブタ
    「お待ちかねのバーベキュー♪ ちゃんと牛・鶏・豚肉は一通り取り揃えてるよ! 肉だよ肉!」
     無事バスターピッグを退治し、早速バーベキューを始める灼滅者達。響はクーラーボックスの中身を見せびらかすと、キャンプ場で借りたバーベキューセットに炭を入れ、火を点けた。
    「主食がお肉であるドイツの出番ですね。もちろんソーセージもあります」
     アルファリアは自身の持ってきた牛肉や豚肉、ソーセージを取り出し、トングを使って金網で焼き始める。
    「いろなソーセージがあるね」
    「はい。一口にソーセージといっても、ドイツにはたくさん種類がありますから」
    「へー。待ってろよ、こっちも今釣り上げるから……」
     同じくドイツ出身のエルメンガルトはアルファリアの言葉に感心しつつ、川に向かって釣竿を投げた。が、落ち着かずごそごそ動いているので釣果は期待できなさそうだ。ちなみにまだメイド服。
    「……いたっ。やめて美幸、わかったから」
     仲間がバーベキューするのをぼうっと眺めていた空だったが、ビハインドに背中を叩かれて輪に加わる。キャベツと小麦粉、卵を混ぜて生地を作り、豚バラ肉の薄切りをもらってお好み焼きを作っていく。
    (「……今度は普通の豚さんとして生まれてきて水浴びしていてくださいね」)
     フリルはバスターピッグのために小さな墓を建て、手を合わせて祈る。祈りを済ませると、仲間達のところへ。
    「みなさん、お皿を……。飲み物も……あ、天下井さんもどうぞ、です」
    「サンキュー」
     そろそろ肉が焼けるというところでアリスが紙皿を配る。それぞれのコップに飲み物を注ぎ、食べる準備は万端だ。
    「いただきます!」
     元気な声、控えめな声、灼滅者達の声がずれながら重なり、楽しい食事の時間が始まった。
    「自分でさばいた素材を食べるって実にいいわよね。え? それ近所の肉屋で買ってきたやつだろって?」
    「言ってねーよ思ってたけど!」
    「いいじゃない、気分よ気分!」
     モツを頬張りながら自分でツッコミを入れる一平に、響我がツッコミを重ねた。戦闘中、本当に眷属を食べるつもりじゃないのかと思ったのは秘密である。
    「ヒビ……響我先輩も荷物運びの助っ人からメイン用意まで有難うございました!」
    「これくらいお安い御用……って今なんて言おうとした?」
    「いえ別にー」
     響我に視線を向けられ、顔を逸らす守。間違えて響の名前を呼ぼうとしただけだよ、きっと。
    「野菜も焼けてるよー。玉ねぎにキャベツにしいたけ、あとトウモロコシに……」
    「肉肉肉ー!」
     守は野菜を焼いていたが、やはりというべきか肉の方が人気ですぐになくなってしまう。響は串に刺した豚肉にかぶりつくが、今日だけで何回肉と言っただろうか。
    「俺だって肉好きですよ寧ろ大好きだよメイン肉だろ! 頂きます!」
     しかして守も肉争奪戦に参戦し、何とかソーセージをゲットするのだった。
    「焼き納豆って実際にあるのね……ネット、いえ納豆は広大だわ」
     一方、一平は梅のペーストやらニラやらタマゴやらを混ぜ込んで、鉄板の上で焼いていた。一口食べ、神妙な顔でその味を確かめる。
    (「一般の方には少々申し訳ありませんが、せっかくですし少しゆっくりするのもよいでしょう。我々は常に命懸けの戦いをしているのですから、多少骨を休めても許されるのではないでしょうか……」)
    「だから納豆、納豆だけは……!」
    「何言ってるの、おいしいわよ? 初めて作ったけどなかなかだわ」
     逃げ惑うアルファリアに、焼き納豆を片手に持った一平がニコニコ笑顔でにじり寄り、ここに新たな戦いの幕が開ける。なお、空はお好み焼きを焼くのに没頭するふりをして焼き納豆をスルーした。
    「おいしくて、楽しいです」
    「はい……そう、ですね」
     賑やかなバーベキューに、フリルとアリスも自然と笑顔がこぼれる。アリスは意外と焼き納豆が気に入った様子。
    「天下井は好き嫌いないの?」
    「まあ、基本的にはな。世界一臭い缶詰とかああいうのはゴメンだが」
     釣りを諦めたエルメンガルトはやっとメイド服を脱ぎ、紙皿に肉を取って響我の隣に。ちなみに響我は何でもおいしく食べられる、基本的には。
    「はい、広げるよー」
    「気を付けてくださいね」
     バーベキューとその片付けを終え、守とアルファリアを中心に男女別でテントを張る。どうせならとキャンプして帰るつもりだ。
    「もう夏も終わりだねー」
     エルメンガルトが川の近くに腰を下ろし、目を細めて呟く。少し寂しくなったようなセミの声を聞き、川からの少しひんやりした風を受けながら、晩夏の空気を感じた。

    作者:邦見健吾 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ