●新たなる城
「安土城怪人様は、本当に、この城を私に下さると言うのですか……?! お、おお、ペナントも正しく手筒花火!」
愛知県豊川市。
その手にまるで大砲の様に手筒花火を持つ男が、感極まった様子で首を縦に振る。
隣にいた青年がそれに対して、深々と首を縦に振った。
「勿論でございます! それだけでなく、私共も、粉骨砕身、貴方様の世界征服の野望を支援させて頂く気概もございますゆえ!」
「素晴らしい! 安土城怪人様のなんと太っ腹な事か! ……だが……」
ふと、不安そうな表情になる怪人に、ペナント怪人の代表者である光が首を傾げる。
「どうか致しましたか、龍太殿?」
「……いやな、お主たちは安土城怪人様はこの城を私に提供した上で、北征入道様とやらのお力で、我が城を迷宮化させ、難攻不落の名城としてくれると申しておったが……少し気になる噂を聞いてな。……武蔵坂学園と言ったか? 確かその様な場所からやって来る半端者達によって……」
迷宮化する前に、城が陥落している。
それは、噂ではなく、紛うことなき事実でもあった。
「ああ、そういう事ですか。ですが、其れに関しては御心配はいりますまい」
確信に満ちた様子の光の言葉に、龍太が怪訝そうに首を傾げる。
「どういうことだ?」
「今回は、奴等に備えて、我らも手を打たせて頂いております。……ですから、奴らにこの城を陥落出来る筈がありません。……お約束させて頂きますよ、龍太殿」
ペナント怪人の自信に満ちた表情に、龍太は、安心した様に息をつき、自分の為に用意された『手筒花火城』を、満足げに見上げた。
●合戦の予感
「……運命の輪の正位置。……彼と余程深い縁があるみたいだね、リステアさんは」
「其れはお互い様よ。アナタだって、3度目なんでしょ?」
教室の片隅で、卓の上に置かれている、運命の輪の正位置を見ながら、溜息をつく北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)に、リステア・セリファ(デルフィニウム・d11201)が問いかけると、優希斗はまあね、と小さく息をついた。
「それだけ僕達が安土城怪人の戦力増強作戦を阻止している、と言う事でもあるとは思うけどね」
「まあ、そうかも知れないわね。それよりも、続きを聞かせて」
軽く目を細めて問いかけるリステアに、優希斗は軽く苦笑を零す。
が、1つ深呼吸をして頭の中を切り替えると、やや硬さを感じさせる声音で告げた。
「愛知県豊川市にいる龍太と言う名の手筒花火怪人に、安土城怪人勢力が城を提供する。これが迷宮化する前に、なんとかして欲しい。……彼等だけでなく、増援として登場してくるであろう武者アンデッド、義時にも気を払いながら」
優希斗の呟きに、リステアは小さく首を縦に振った。
●戦力分析
「今回の敵戦力は、ペナント怪人が5体と、龍太だ。龍太は、シャウトの他に、ご当地怪人に類似したサイキック、手筒花火を利用したガトリングガンに類似したサイキックを使用してくる。ポジションはスナイパーだ。また、彼と共にいるペナント怪人は全部で5体。此方はご当地怪人に類似したサイキックを使用するのは同じだけど、各々が手に持つ武器を使用して攻撃してくる。ポジションは全員ディフェンダー。これだけでも、十分手強い相手だね」
「で……その上で、義時が来るわけね?」
リステアの問いかけに、優希斗は、小さく首を縦に振る。
「ああ、その通り。多分、皆が手筒花火城攻略作戦を決行してから、10分後には増援として義時が来る。……龍太とペナント怪人たちの能力もかなりのもので、ペナントを回収したうえで、綿密な用意をしておかなければ、義時が来る寸前までに彼らを灼滅するのは不可能だろう。……かなり厳しい戦いだと思うけれど」
優希斗の作戦を要約すると、今回主に取れる作戦は2つとなる。
1つは、ペナントを回収して、龍太を弱体化させてから一気に叩いて灼滅し、義時からの追撃を防ぎながら速やかに撤退する。
但し、ペナント怪人達による城の警備は相当なものだ。彼等の目を欺く為にも、周到な計画と準備が必須になるだろう。
もう1つは、義時が来るのを承知の上で、最初から龍太達に戦いを挑むこと。この場合、戦力を100%龍太達に傾けることが出来るが、義時が加勢する以上、非常に危険な状況に追い詰められることは、疑いない作戦でもある。
「分かったわ」
リステアが1つ頷いたのを確認すると、優希斗はそれから、と続ける。
「多分、義時は君達が龍太達と交戦している戦場に姿を現し加勢してくるとは思うけれど……もしペナントを引き摺り下ろされない方が有利と判断すれば、そちらを守りに行く可能性もある。……戦力を分割してでもペナントを回収するつもりなら、其の辺りの配分も考えた方がいいだろう」
優希斗の言葉に、リステアはもう1つ首を縦に振った。
「……此処まで用意周到に僕達が来る可能性を想定していると言うことは、それだけ、自分達の勢力を拡大したいと安土城怪人が思っていると言う事だろう。……このまま迷宮化する城を放置しておけば、皆にとって大きな脅威になる。……難しいのはわかっているけれど、どうかよろしく頼む」
優希斗の言葉にリステアは一つ頷き、静かに教室を後にした。
参加者 | |
---|---|
平・等(眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡・d00650) |
大神・月吼(禍憑に吼える者・d01320) |
橘・清十郎(不鳴蛍・d04169) |
近衛・朱海(煉驤・d04234) |
高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272) |
リステア・セリファ(デルフィニウム・d11201) |
加賀・琴(凶薙・d25034) |
新堂・桃子(鋼鉄の魔法使い・d31218) |
●突入! 手筒花火城!
「城を与えるか……まるで戦国大名みたいな部下の手懐け方ね」
「ボクには色々よく分からないけれど、でも、しっかり灼滅していかなきゃいけないよね」
近衛・朱海(煉驤・d04234) の呟きに、新堂・桃子(鋼鉄の魔法使い・d31218) が、軽く小首を傾げる。
その一方で、さりげなく周囲を警戒している平・等(眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡・d00650) 。
パッと見た感じでは、外に誰かがいる様な気配は無く、恐らく城の何処かにペナントがあり、警戒厳重にしている手筒花火城怪人たちがいるのだろう、と結論付ける。
「いつもの黒翼を外して戦うのがこんなに不安なんて……」
(それでも……行きます)
高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272) が自分の内側に育まれている、いつもの武器を装備しなかったことへの不安に1つ息をつきつつ、深呼吸をする。
もう、彼女たちの目の前に城はあった。
「行くわよ、紫姫」
親友であるリステア・セリファ(デルフィニウム・d11201) の背中からの後押しに、紫姫は1つ頷く。
そうだ、今回は朱海さんだけでなく、リステアもいる。
だから大丈夫、と心に強く言い聞かせた。
「それじゃあ、行くぜ?」
橘・清十郎(不鳴蛍・d04169) によって掛けられた言葉に、他の者達も頷き、堂々と正面から正門を潜って、手筒花火城へと侵入を果たした。
――誰一人欠けることなく、城主である龍太たちを灼滅し、速やかに撤退する。
そう、誓いながら。
●死闘の始まり
「曲者だ! 出会え、出会え!」
「来たか、噂の灼滅者達!」
「我ら、『手筒花火』5人衆と龍太様の前に、のこのことやって来るとは笑止千万! この場で1人残らず討ち取ってくれる!」
「皆、暫し耐えよ! 義時様がいらっしゃるまで、我らが龍太様と手筒花火城をお守りするのだ!」
得物を手に取り、一部の隙も見せぬ様子で構えを取り、光の指示に従いながら、的確な行動を開始するペナント怪人達。
「小細工なしで戦いましょう?」
そう呟き、先手を切って攻勢に移ったのは、リステア。
腕を鬼神化させ、治癒能力の高い帯を装備する華に速攻で攻撃を仕掛ける。
咄嗟にその攻撃へと割り込むのは、斧を持つ紅。
同時に彼は、自らの斧に宿る因子を解放し、龍の力を帯びた戦士と化した。
「華をそう簡単にやらせるわけには行かん! 我らの回復の要をな!」
「そうかも知れませんが、其れでもやらせません!」
後退するリステアに合わせて紫姫が飛び出し、宿り木の突剣を振るい、紅たち、5人を切り刻んだ。
「塩鯖! 頼むぜ!」
紫姫に合わせて戦場へと飛び出した、清十郎が飛び出し、神霊剣で華を護った紅に飛び掛かるが、それには灯が罪を断つ輪を投げつけ、攻撃を自分の方へと引き寄せる。
塩鯖が猫魔法によって軽く紅が負傷させると、お返しとばかりに夜が、光輪を放って塩鯖に一撃を加えようとしたところを無銘が庇い、難を免れた。
「怪人どもめ! ホエヅラかかせてやるぜ!」
等が飛び出し、敵味方入り乱れた戦場の中で地を這う炎を竜巻の様に帯びた膝蹴りを華に放つと、光がその前に立ちはだかり、その腹を強く蹴りつけられながらも、対艦刀を真っ直ぐに振り下ろした。
「やらせぬぞ!」
「こっちも簡単にはやらせられないんだよね」
桃子が呟きながら、等への攻撃を体で受け止めると、左肩がパックリと切り裂かれ、鮮血が飛び散った。
「……っ」
痛みに顔を顰めながら、桃子は拳に雷を集めて真っ直ぐに近くにいた華に接近して叩き付ける。
「これでもくらえっ!」
その一撃に僅かに顔を顰める華だったが、それでもまだまだ余裕はありそうである。
「敵の数は多く、しかも個々の戦力は私達より上ですか。その上、連携も取れている」
考えれば考えるほど、最悪な状況ですね、と桃子の後ろに隠れる様にして様子を伺っていた加賀・琴(凶薙・d25034) が内心で軽く溜息をつき、祭霊光で、桃子の肩の負傷を癒す。
桃子に一撃を受けた華も仲間達の傷を癒そうと自らの腰の帯を展開しようとするが。
「おおっと! 徹底的に邪魔させてもらうぜ!」
大神・月吼(禍憑に吼える者・d01320) が、力強く叫びながら飛び出し、壁やら天井やらに張り付くような形でトリッキーに動き回りながら、華に殴り掛かろうとする。
咄嗟にその拳を躱そうと、帯を前面に展開しようとした瞬間、月吼はすかさず腰からダイダロスベルトを射出し、そのまま手痛い一撃を与えた。
「くっ?!」
「おのれ、灼滅者達め……! 安土城怪人様から頂いたこの城を、貴様達には絶対に攻略させんぞ!」
光たちの後方に駆けつけた男の叫びが辺り一帯に響き渡り、肩に担いだ手筒花火から、花火の様に美しい無限とも取れる弾丸を撃ち出す。
容赦のない弾丸掃射から、朱海が咄嗟に後退していたリステアを庇った。
紫姫は無銘が、等は清十郎が庇っている。
「アイテテテッ! 結構イテェ!」
「最後まで、立っているつもりだけど……結構、厳しいね」
撃ち出された花火にその身を焦がさせながら、桃子が呟く。
「まだ義時も現れていないのに、この位でやらせはしないわ!」
無銘が桃子を癒すのを確認しつつ、朱海もまた、清十郎の傷を集気法で回復させる。
「さぁ、掛かって来い灼滅者達! 我ら、手筒花火5人衆が1人、紅がお前たちの攻撃全て捌いてみせる」
叫びながら、突撃攻撃を仕掛ける、紅。
「くっ……どちらにせよ、貴方達は此処で灼かれるだけなのよ!」
その斧に返す様に、刀纏旭光を抜き放ち、そのまま真っ向から刀を振るう朱海。
其れに合わせる様に無銘が飛び出し、先程紅が纏った龍の力を破壊する為に強襲する。
「のせられるな、朱海!」
清十郎が咄嗟に集気法で彼女たちの怒りを鎮め、更に後衛の琴が仲間達を癒す清めの風を使用する。
それは傷ついた仲間達の傷を癒すが、その間に光が猛攻と言わんばかりに大剣を横薙ぎに振り回した。
出鱈目に振り回されたその刃から仲間を守る為、清十郎が紫姫の前に飛び出し、その攻撃を受け止め、更に我に返った無銘が等の身を護る。
「塩鯖、回復を頼むぜ!」
清十郎の叫びに答え、塩鯖が彼の傷を癒した。
「まだまだ大丈夫だが、あんまり長く戦い続けるとじり貧だぜ?!」
「そうはさせませんから……!」
強い意志を籠めて清十郎の影から飛び出した紫姫が海神の牙を構え直し、華に向けて捻じ込む様に槍を突き出す。
突き出されたその槍を、華の目の前に飛び出した紅が斧で辛うじて攻撃を受け止めた。
「くっ……なにぃ?!」
無銘にその体を切り裂かれたが故に、自慢の基礎防御力が落ちているのに気が付き、僅かに目を開く紅。
「紅!」
「やらせはしないぜ!」
紅の危機に気が付き、夜が癒しの光輪を紅に放とうとするが、其れよりも先に等が上空へと飛び出し、そのまま星屑をちりばめた蹴りを夜の放った光輪へと叩き付け、粉砕する。
立て続けに等が星屑を纏った蹴りで、華を蹴りつけようとするが、其れは灯が割って入ってその攻撃の負傷をやわらげた。
更にリステアが妖冷弾を撃ち出し、華を辛うじて凍り付かせるが、まだ、彼女の負傷はさほどではなく、痛手になっている様子が見えない。
「……噂の灼滅者達がこの程度か?! 食らえ、手筒花火爆弾!」
手筒花火の中を素早く切り替え、今度は巨大な一個の花火を筒から撃ち出す。
撃ち出されたその弾丸が桃子を焼くが、自ら周囲の魔力を集めて自らの傷を癒す桃子。
「こっちも食らえ!」
紫姫の攻撃でふらついている紅の前へと月吼が、予想外の角度から襲い掛かり、手に持つ杭を撃ち出し、紅を串刺しにする。
が、まだ辛うじて立っている紅の為に、灯が光り輝く方陣を作り出し、仲間達を癒した。
ここまでで、既に2分が経過している。
――どう考えても、かなり厳しい戦いになる……。その確信が灼滅者達の胸に宿り、同時に……何故か嫌な予感がチラリと彼女たちの胸を過った。
●義時、襲来
――10分後……。
「くぅ……やっぱりかなり厳しいですね……」
体のあちこちに傷を作りながら、軽く息をついて、疲労の色を隠せない紫姫が呟く。
見事なまでの連携を取って負傷を分散させてきた、ペナント怪人達。
そして、後衛から連続で攻撃を仕掛けて来ていた、龍太。
その龍太の攻撃から紫姫を庇いながら、清十郎が少しだけ臍を噛む。
「……しまったな。もうちょい、考えて来るべきだったか……!」
そう……長期戦になるのは分かっていたから腹を据えて戦うことを決めてここに来た。
けれども、問題はそこではない。
彼等の目的だ。
彼等は、時間稼ぎをすれば、加勢が来るのを知っている。
もし、自分達が撤退を前提として戦うのなら、もっと積極的に攻め入る姿勢が必要だったのだ。
敵はさほどバッドステータスを解除する手段が多くないとは言え、その分、ダメージを分散させつつ、癒し手を庇い続けて耐えることに集中すれば、例え、最終的には全滅しようとも、義時が来るまでの時間は十分以上に稼ぐことが出来る。
こちらもこまめな回復は続けていた。だからこそ、戦闘不能者こそいないが……それぞれに疲労と負傷が蓄積しているのも疑いない。
(このままじゃ、じり貧だな……)
戦いに身を委ねながら、等は内心で呟いていた。
こうなる可能性は何処かで予想していた。だから、これ以上、自分達が不利にならない様に、起死回生の策を一人で密かに練り上げていた。
それは……隙を見たペナントの奪取。
「おのれ、安土城怪人様から預かった部下たちをよくも! 食らえ、手筒花火キック!」
龍太が空中に飛び出し、怪鳥音を上げながら、蹴りを放つ。
傷を負いながらも、まだ余力が残っている朱海がその身を以て攻撃を受け、その隙をついて、素早く近くの柱の裏に移動し、物陰に隠れる等。
後は、ペナントを取りに行くことだ。其れさえすれば……。
だが……彼は、失念していた。
今が、攻略を始めてから、10分であること。
そして……優希斗が、ペナントを奪う際には、戦力配分を考えること、忠告していたことを。
それが意味することは、彼の独断は……バベルの鎖で勘付かれるということ。
だから……。
「ぐあっ?!」
一閃と共に、大きくその体を袈裟懸けに切り裂かれ、柱の影から吹き飛ばされる、等。
「……この状況で、御旗を奪わせるわけにはいかぬな、灼滅者」
深い声と共に、その姿をゆっくりと現す義時。
放たれた重い一撃に、庇われていたとはいえ無傷ではなかった等も無事ではすまなかった。
「畜生……油断したぜ……」
「……最悪の状況ですね」
悔しげに意識を失った彼と、その目の前にいる義時の姿に、苦々しげに溜息をつく琴。
「……私達は敵同士。情けは無用って訳ね」
龍太に妖冷弾を撃ち出し、強かな一撃を加えたリステアが、横目で其方を見ていると、義時は、深く首を縦に振り、そのままふわり、と龍太の前に舞い降りる。
「久しい……と言うには、日が浅いか、灼滅者達。……ふむ、朱海とリステア、其れにあの時の黒翼の娘も来ていたか」
「お久しぶりです、義時さん」
戦闘中にも関わらず、乱れた呼吸を整え、槍を構え、1つ礼をする紫姫。
「あの時は名乗れなかったので今回は。……高峰・紫姫。皆の盾であろうとする灼滅者です。今回も矛ですけどね」
「あの時の最強の矛と盾、更にリステアが揃って我が前に立ちはだかる、か。懐かしく、面白くもあるが、今回は少々策の練りが甘かったようだな」
話し続ける義時に、刀纏旭光を抜き、素早く振るう朱海。
「再び合い見える時を楽しみにしてたわ、高倉義時!」
「我も汝と合い見える時が来ることを楽しみにしていたが……今回は、以前よりも呼吸が乱れている」
刀と刀がぶつかり合い、火花を散らせる。朱海が一瞬でその場を引き、その影から、月吼が飛び出し拳を振り抜きながら影を放つと、義時はその影に軽く齧られるが、微動だにする様子を見せない。
「北征入道の名代ってところかしら、ご苦労な事ね。……ところであなた、あの時より遥かに刀の切れ味が増しているのだけど……手加減していたの?」
「此度はあの時と状況も目的も異なる。故に、我が行える最善を行う為の態勢を整えて来ただけに過ぎぬ。汝らもそうであろう?」
「その……どうやって貴方達は、こうやって移動してきているんですか? 北征入道の力ですか?」
紫姫が問いかけつつ、後衛に向けてレイザースラストを放つ。
義時は、代わりに袈裟懸けに刃を放つことで其れに答えた。
「其れを教えることは出来ぬな、紫姫」
呟きながら、袈裟懸けに刃を振り抜く義時の攻撃を、清十郎が受け止める。
「イッテェェェェ……! こんなの、何発も受けられないぜ!」
袈裟懸けに思いっきり切り裂かれ、悲鳴を上げる清十郎に、琴が癒しを施している間に、イカロスウイングを展開し、後衛の龍太に攻撃を仕掛ける、リステア。
義時が前に姿を現したため、龍太への攻撃が困難になっているのを承知しつつ、隙をついて月吼が、天井から奇襲を龍太に掛け、浅く無い一撃を与えた。
ただ……義時が現れたことで、形成が一気に劣勢へと陥っていく。
特に先手必勝の一撃で、等と言う貴重な攻撃役が倒れたことが、更に彼等に追い打ちをかけた。
何とか、龍太を倒した時には……朱海を除く、無銘、桃子、清十郎らディフェンダーが……地に伏せていた。
●困難な撤退戦。そして……。
「……なるほど。流石だな、灼滅者達。我が目的、悉く阻止する為に、全力を尽くす、か。……其の力には敬意を表そう」
「どうするの、義時。あなたの目的だった龍太達の援軍は果たせなかった。……もう、あなたの目的は果たせず、戦う意味は無いわ。……退いて貰えないかしら?」
傷だらけで、痛む体を引きずる様にしながらも、強気な姿勢を崩さぬ朱海に、義時は称賛を惜しまない様子を見せつつも……小さく溜息をつく様な仕草を取った。
「其れは出来ぬな。目的を果たせなかった以上、奴らの弔いとはいかぬが、汝らを放置するわけにはいかぬ。この場で、1人でも多くの者を倒し、汝らの戦力を削ぐ事も、我が目的として十分叶う」
「……あの時も、似た様な事を言っていたわね」
義時の呟きに、リステアは以前の戦いを思い出していた。
(そうね。義時は……)
目的と、目的に少しでも近づける為の手段を果たすことこそ、己が任であると認識している。
全員がボロボロのこの状況で追撃などされれば、犠牲者が出るのは想像に難くない。
下手をすれば、全滅の危険さえ存在していた。
(となると、後は……)
「……くっ……」
傷だらけになりながらも、倒れている者に止めを刺されぬよう構える紫姫。朱海も呼吸を整え、最期まで仲間達を護り通す覚悟を決めている。
「負けて逃げ帰るのは、趣味じゃないの。私は私の意志で戦場を支配する。誰の為でもない、私自身の為に」
「……リステア?!」
淡々と、だが確認する様に呟くリステアに、紫姫が思わず息を呑む。
その覚悟を止めようと思ったその時……。
――圧倒的なまでの“闇”の奔流が、周囲を包んだ。
「まあ、そうですよね。でも帰りを待ってくれている人がいる様ですし、それ以前に親友の前で闇堕ちするのは頂けませんよ、リステア様」
呟きながら髪を真紅に、瞳を金色に染めた姿と化した1人の少女。
「……!」
「そうか……此方に来るか、『娘』」
――即ち其れは、加賀・琴と言う名の娘。
それとも……依(より)を名乗る羅刹であろうか。
「攻撃3倍の法則にはまるで足りませんから、義時様を灼滅することは叶わないでしょう。ですが、皆様が逃げるまでの時間を稼ぐには十分です」
「……御免なさい、琴さん」
紫姫がすまなさを感じさせる様に、何かを振り切るように小さく呟き清十郎と、桃子を抱え上げた。
「……ち……こうなっちまうとはな……! 必ず迎えに行くからな!」
その腕を鬼化させ、凄まじい速さで義時に殴り掛かる琴に声を投げかけ、月吼が等を拾い上げて後退する。
他の灼滅者達もそれぞれの想いをこめて、自ら闇堕ちを選んだ少女に足止めを任せ、名残惜しげに、悔しげにその場を立ち去る。
――恐らく、義時は撤退し、『彼女』もまた、生きて目的を果たすことが出来るだろう。
手筒花火城攻略戦は、成功した。手筒花火城を迷宮化することを避けると言う1点においては。
――けれども、その成功の為に払われた代償は……あまりにも大きいものだった。
作者:長野聖夜 |
重傷:平・等(眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡・d00650) 死亡:なし 闇堕ち:加賀・琴(土蜘蛛の玉依姫・d25034) |
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種類:
公開:2015年8月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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